「週感ジョジョンプ」第278号！

　こんばんわ。
　今日はある冬の日のお話。

　私の実家は名古屋にあります。現在は東京に住んでいるので、よく大学も東京の大学なのか？と聞かれますが、東京には就職してから来ました。大学は愛知県の郊外で、その山奥近辺は大学がいろいろとある事で知っている人も多いかも。
　当時は地下鉄東山線の藤ヶ丘を経由して大学まで、自転車で通っていました。往復でどのくらい時間がかかったかな？　忘れてしまいましたがとにかく冬が寒いのなんのって。それだけはよく覚えています。
　大学には入学以来、友達も一人もいなく、サークルも入ってませんでした。人に関わる事もなく、あまりに平穏な日々を過ごしていました。大学のマズいところは人とあんまし話さなくても勉強できてしまう所でしょうか。もちろん、ディベートの場が活発な学部もあるのですが、私のいた所はそんな事もありませんでした。何を隠そう私は一週間、誰とも話さなかった事があります（家族ともあんまし話をしないので）。一時期のバイトをしていない頃がひどく、一回や二回ではなくってしょっちゅうでした。そのうちに「話し方」というものを忘れつつありました。
　さて、そんな私の娯楽といえば大学の図書室のビデオで映画を観る事と、その日見たものの何らかの感想みたいなものをパソコンでまとめる事と、帰りがけに漫画喫茶に寄る事でした。
　私が通っていた漫画喫茶は藤ヶ丘にたぶん今でもあると思うMというお店で、日本で最初に漫画喫茶を始めたという歴史のあるお店なのです。
　この漫画喫茶のマスターがちょっと面白い人で、来るたびに問答無用で写真を撮って次に来た時に現像してくれたり、不粋な事をいきなり言ってきて場を和ませたりしていました。
　当時の私は………今もそうと言えばそうなんですが………「あー大学卒業して、就職して、あとは死ぬだけだなー。思えば平坦な一生だった」という事を毎日思いながら過ごしていました。
　恐ろしく口数の少ない私に話し掛けてきた時には、正直いって何が起こったのか？と思ったものです。
　映画『七人の侍』に農民役で出てきそうなそのマスターに何故か「チョンマゲ君」と呼ばれ（当時はもっと髪が長くって、横の刈り方ももっときわどかったのです）、身の上話なんかを帰りがけにぼつぼつしていました。
　三年生の冬のある日。陽は数時間前に落ち、『カムイ外伝』とか『うしおととら』とか数時間読み返した後の帰りがけ、マスターに呼び止められ、いつもの様にカウンター前で世間話をしていました。この時間になってから来る客は長期滞在客で、マスターはちょっとヒマなのです。
　「チョンマゲ君はこれからどうするんだい？　将来とか？」「はー、そうですね、東京に出て勤め人になると思うんですが。ネット関係がいいかなぁと思っているんですけどね、どーせ出版社の営業なんかをやっていると思いますよ」（←バッチリ当たってんじゃねぇか）。マスターは私の顔を見てちょっと思案顔になり、こう言いました。

「チョンマゲ君、もしそうなったらキミに話しかける人っていうのは今よりもっと少なくなると思うよ。その中で悪い事を言う人ってのはますます少なくなる。ただし、覚えていて欲しいんだけど、その悪い事を言う人はホント大切にしたほうがいいよ。その髪だって、切った方がいいなんていちいち言う人、いるだろ？　主義主張は別として、その人の事は気にかけた方がいい」

　今から考えると一般論なのですが、これがその後就職してから、思い知らされる事となりました。そして、今もときどき思い出します。何事につけても忘れっぽい私ですが、こういう事はなかなか忘れないものです。
　いきなり平穏な日々に「入ってくる」人。最近ではそんな人に会う事も少なくなってきましたが、これからも大切にしたいと思っています。偽善者だからこういう事もストレートに書けるのだ。覚えておけ！

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