「週感ジョジョンプ」第250号！

　こんばんわ。
　小学校の頃、クラスでも私は問題児だったと思うのですが、同じ程度の「問題児」は当時、クラスに沢山いたのでそんなに目立ちませんでした。そんな問題児の一人がSさん。彼女、実は学校で全く話さない。何があっても一言も話さない。音楽の時間も全く歌わない。クラスの悪ガキどもがイタズラを仕掛けても声一つ上げない。それでもSさんは穏やかに過ごしていました………。

　何故こんな話を書いたかというと、今週のビデオで観るならこの一本がマーク・ハーマン監督『リトル・ヴォイス』（1998年イギリス）だからなのです。
　前々から観ようと思っていたけど、まぁそれでも二次候補ぐらいかな、というのがこの『リトル・ヴォイス』なのですが、なかなかどうして侮れない映画でした。まぁストーリーは以下の通り。すみません、元のにちょっと手を加えただけですけど。

　大好きだった父の死後、心を閉ざし誰とも話をしなくなったLV（エルヴィ）（ジェイン・ホロックス）。人付き合いが苦手でハトを愛する青年ビリー（ユアン・マクレガー）にだけはシンパシーを感じ、心を通わせ始めていた。父が遺したスタンダード・ナンバーのレコードを聞いてばかりいるLVは、いつしかその歌手の歌声そのままに歌うことができるという才能を身に付けていた!　母マリーが家に連れ込んだ自称“名プロモーター”レイ・セイはひょんなことから耳にしたLVの歌声に驚愕し、LVを舞台に立たせるべく奔走する。強引にことを進めるレイに、はじめは嫌がっていたLVも負け「一度だけなら」という約束でついに舞台に立つ。大観衆、そして大喝采。たちまち町中を魅了したLV。レイやマリーは、次はロンドン、そしてラスベガスへと期待に胸を膨らませる。だが、LVの本当の心のうちに気づいてはいなかった……。

　おいおい、引きこもりな映画じゃあないですか、と言われそうですが、事実そのとおり。何となく閉鎖した感じを打破するにあまりあるのがロケ地である北イギリスのスカボローの風景、そして母親役のブレンダ・ブレシン。この個性とパワフルさは『シックス・センス』に全く欠けているものの一つですな。
　たった一度だけ歌ったLVがもう一度舞台に立つのか………？というのが後半部分のクライマックスであるわけですが、ここでも人々の反応がなければ全く成立しない緊迫感。次第に大人の本音が明らかになっていくのはややお約束な感じもしますが、まとめ方は見事。
　しかし、小さくまとまりすぎているのもまた事実。ユアン・マクレガーとLVの仲をもっと時間をかけて細かく描写してくれれば………。別にユアン・マクレガーじゃなくたっていいじゃんこの役、と思えてきます。
　私の最も好きな映画、レオス・カラックス監督『汚れた血』の中でドニ・ラヴァン演じる主人公が「おしゃべり」という渾名をつけられていました。その名の示すところによりかの有名な疾走のシーンが生まれたのですが、言葉でない何かを示す迫力の構図がほとんどないのが残念です。それを可能にするには映画が一番適切なメディアだと思っているんですけどね。

　さて、冒頭のSさんはとうとう全く話さずに転校してしまいました。
　私にとっては、ただ一回を除いて。
　口を利かなくなった原因が「大好きな友達が引っ越したからそのショックで」という噂が流れていましたが、今から考えるともっと深い精神的な傷だったのでしょう（レイプされたとか）。
　好奇心旺盛かつ問題児の私は、意を決してSさんの家に電話をかけてみました。Sさんが家では普通に話している、という「伝説」を確かめたかったからです。
　Sさんの声は、思ったより明るい声でした。奇妙な思いに満たされた私は、無言のまま電話を切ってしまい、二度とかける事はありませんでした。
　今でも思うのは、私はこういう事をしなければ生きていけなかったのかな？という事です。
　………まぁ、ここにつらつら書く事にも、そんなにかわりはありませんが。
　250回まで読んで下さった皆様、ありがとうございました。

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