write 2000/05/22
ジャンプ第25号予想
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「週感ジョジョンプ」第222号!


 こんばんわ。

No.投稿者概要
PAGE1投稿者:klinikさん狙撃名!
PAGE2投稿者:A・ドライさんこの概念!
PAGE3投稿者:螺愚那さんジョリーンを助けろ!
PAGE4投稿者:A’たーぼ"コステロ"さん徐倫 vs エルメェス!
PAGE5投稿者:GBFプレコさん遠くで呼んでる声がする!
PAGE6投稿者:よーやんお前は次に………!
PAGE7投稿者:骨で支えるさん人型スタンドは………!
PAGE8投稿者:"レクイエム"QTQさん女の戦い!
PAGE9投稿者:わくわくさんQ.E.D.!!

PM 11:00 新宿歌舞伎町。

 相手のキューは緩やかに手球を離れ、9番ボールは虚空に消え去った。

 コロナエキストラを流し込み、先ほどまでの魂がもぎ取られるような瞬間をもう一度頭の中で繰返す。誰しもナインボールで相手が突く時はミスを祈り、入った瞬間には希望が削がれるのを感じるはずだ。それがゲームボールの時は特に堪える。
 今日は全敗だった。キュー出し、スクラッチ、ポジション、厚み、ブレイク、何をどこから取ってもいい所がなかった。人生最悪の一日として今日という日が深く刻まれそうだった。
 相手は二人ともブランクが長いということだったが、それを感じさせない突きだった。調子に乗って誘うのはもう二度とすまいと心に固く誓った。会計を済ませ下に降りると、雨が降る直前のどんよりとした空気が街に満ちていた。真夜中の見えもしない雲にそっと目をやた。今にも雨が降り出しそうだった。

PM 11:20 山手線。

 JR新宿駅、金曜夜、あまりに混んだ改札を抜けてまた満員電車に詰め込まれる気はさらさらなかった。先頭車両に足を向け、喧騒の中で目を閉じて電車を待った。それは自分の前でドアが開くまでそれは頑なに続けられた。このまま現実に戻らなければ最悪の一日が速やかに通り過ぎるものだとでもいうように。

 先頭車両のドア前は一面ゲロの海だった。

 直視せざるを得ないそれをまたぎ、角に体を預けて陣取る。それからようやく後続の乗客の嫌悪あふれる表情をちらりと見る。下を見ずにその河を渡るのは困難だった。これが水道橋のホームだったら何人かは隙間に片足を突っ込んでいたかもしれない。
 目の前にカップルが立っている。男性の方は社章から察するに大手鉄鋼メーカーの営業社員らしかった。女性の方は事務のようだが、男より頭二つ分背が低い、ショートカットの女性だった。男が女をマッシュルームと呼んでいた。女はこんなに髪を切ったのは中学生以来だと話していた。
 また目を閉じて電車の揺れに体を任せたが、二人の会話が耳に入ってくる。男が今日、女の家に初めて泊まりに行くところらしい。男が床で寝る事を強く主張していた。実際の所は繰り返された会話なのかもしれなかったが。
 最悪の日のページがゆっくりと捲られようとしていた。

PM 11:50 西武池袋線。

 酔っ払った大学生男女の大きな猥談を遠くに聞きながら、今日の昼間に次郎さんからかかってきた電話の事を思い出していた。目を閉じて。

「おまえか………明日は誕生日だな? 知っていたか? その事を」
「………」
「まぁいい、お前が口をきくとはこちらだって思ってはいない。この前の母の日はどうした? 花も何も届かなかったぞ。母さんは何も言わなかったが………」
「………」
「こっちでは雨が降っている………。私は雨が大好きだ。その事はお前に話したな? これは大事な事なんだ」
「………」
「お前が生まれたあの日の事だ………雨があの日も降っていた」
「………」
「若かった私は会社を早退し、バスで病院に向かった。停留所に向かった時、バスは走り出していたが、それを止めて乗った。降りた停留所から病院まではかなり距離があったが、雨の中を走って向かった」
「………」
「希望があったからだ。今日言いたかったのはそれだけだ。私は雨が好きだ。この事を覚えておいて欲しい」
「………」

 何と言えばよかったのか、いつもの様に思い返していた中、時は過ぎ去っていった。

AM 12:00 西武池袋線。

 今日という日が過ぎ去った。
 また一つ、私の心に深い溝のようなものがカチリという音ともに刻まれた。その瞬間は息を詰め、静かに祈り、明日からまた続く戦いの日々の事を思った。

AM 12:30 自宅。

 ネクタイを外しつつ冷蔵庫を開け、バドワイザーを一本だけ取り出す。パソコンの電源を暗闇の中で探り当て、OSが立ち上がるのを待つ。明るいウィンドウズの起動音が流れ、すぐさまネットにアクセスする。プルタブを開けながらパスワードを片手で打ち、メールにざっと目を通す。
 すると、軽快な音とともにICQのメッセージが次々に届いた。

「おめでとう」
「おめでとう」

 ネクタイを部屋の片隅に放り投げ、冷蔵庫からビールをもう一本持ってくる。
 少し考えて、また冷蔵庫に向かい、六本パックの残り全てを持ってきてテーブルの上に置いた。

次の日。

 けだるい表情だったに違いなかったが、最低限の礼儀を守りつつ、クリーニング代をキャッシュレジの前に置き、登録用カードを差し出した。クリーニング店の女性はワイシャツの数を数え、登録用カードをリーダーに通した。
 すると、TZ80を改造したとおぼしきキャッシュレジのグリーンのモニターに文字が浮かびあがった。

「オタンジョウビ オメデトウゴザイマース!」

 一瞬、時が止まった。まだ高校生らしい女性店員がはにかみながら「お………おめでとうございます」とぎこちなく言い、頭を下げた。それきりでまた日常に戻り、店員は金額を数え直した。
 私は傘を手に取り、外へ出た。
 大地を祝福すべく、雨が降っていた。


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