驚くべき
ムスリムのシャマニズム,
この様な世界が、まだ生きているとは思わなかった!
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一月の最後の日曜日は、
年3回の文化祭の初日、ムスリムデーだ。
そこで若者たちは、自分たちの文化のルーツを演じる。
今回のテーマは、「病気などの祓い」
そこで演じられた世界を見て、唖然とした!
この様な世界がまだ生きているとは、思わなかった。
マノボだったらまだ理解できるが、
ムスリムにもシャーマンがいたとは! |
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ミンダナオのイスラムの世界に
このようなシャマニズムが
とけ込んでいるとは思わなかった。
写真の流れを見ながら、
背後に宿る壮大な宇宙観の片鱗を
ご説明しよう。
日本で8年かけて執筆した拙著
『沖縄の宇宙像』(洋泉社)を
読んでいただければ
これが、シベリアから欧州、
中国からアジアに広がる
シャマニズムに則ったものだとわかるだろう |
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イスラムの教えに則っているのではないだろう、
なぜなら、ここで若者たちが演じたのは、
病気を治すための御祓いであり、
シャマニズムの世界観に則ったものだから。
下の連続する写真を見て、
象徴が何を意味しているか、理解できたとしたら
あなたはシャマニズムの宇宙像コスモロジーを把握している! |
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儀式に必要なものを備える
上に掲げられた赤い布は
舟を表しているのだろう
ドゥヤンと呼ばれる
ゆりかごでもあるが
ゆりかごは、
神の世界に昇る舟でもある
赤子は神の世界と
最もつながっている存在
置かれた6本の旗は、
第七の天界に昇るまでの
六段階の世界を意味している |
天界は、神の世界である
塔や大木(神木)の
最先端から昇るが
神の世界の入り口には
星がある
沖縄ではネノハンマティダ
といって女神だが
そこには供物、
そして鈴の着いた
楽器をならしていく
イスラムの塔の先の
月と星は、
何を意味しているのか
新約のイエスの誕生と
マリアの星は・・・ |
シャマニズムでは、
女性と男性は
役割を別にしている
神の世界の入り口に
女性はおり
地位が低いわけではない
祈る儀式は男性だが、
女性は山の神のように
世界を司っている
宇宙は陰と陽で
出来ているからだ。 |
コーランを読んだ時にも、
カーバ神殿の石を巡る祈りの方法を知った時にも、
そして何よりも、イスラムの
寺院の塔の頂の月と星を見た時にも
イスラムにも、シャマニズムの香が残っているのではないか
(キリスト教の中にも聖書の中にも
シャマニズムの宇宙観は至る所に
散らばっているが)と思っていたが、
この儀式は、まさにシャマニズムそのものであり、
ミンダナオのイスラム、
アジアのイスラムに特徴的なものなのだろうか?
それとも、イスラム教徒に全体的なものなのだろうか。
宗教家は、シャマニズムというと、
キリスト教や仏教、イスラム以前の原始宗教、
精霊崇拝として邪視したり、排斥したりすることが多いのだが、
拙著『沖縄の宇宙像」』でも述べたごとく、
そこには、キリスト教の根元をなす宗教観、
特に罪と生け贄の原型の構造がある。
つまり、罪のあがないとして、羊(旧約)や豚(沖縄)やニワトリ(マノボ族)、
最高の生け贄として人を屠った時代。
(日本の人柱、ヨーロッパのメイポール、沖縄の送り、
アンデスからフィリピンに至るまで、旧約にも出てくる慣習)
さらに、屠った人の肉を食べた習慣。
これは、キリストの教えそのものにつながる。
イエスは、罪の許しの最後の唯一の方法は、
わたし(人の姿をとった神)の肉を食べ血を飲むこと、
その象徴的な行為としての最後の晩餐を行うことを教えた。
パンと葡萄酒に代わっているが、神道では餅と御神酒。
アイヌも、カムイとして熊を迎え送る時に、
実際の肉を食べ血を飲む儀式を行う。
沖縄でも死者を送るために食べた。
その様子はカトリックのミサ、
プロテスタントでも行われる正餐式そっくりである。
つまり、全世界にかなり共通していたと見られる、
シャマニズムの宇宙観の後に、さらにその上に、その影響のもとに
宗教が、愛、平等、そこから生まれる自由の概念を
実現する教えとして現れたという、歴史を顧みれば、
すべての宗教が、シャマニズムという根から枝葉を出してきたのであり、
当然ながらその表現に影響が見られてもおかしくないのだ。
ただ、宗教を研究する時に、近代から過去にさかのぼる、
という形で分析することにより、宗教以前の世界を否定した結果、
その大きな影響が見えなくなったのではないだろうか。
あたかも、意識の下に眠っている無意識の世界を否定して、
理性のみで心を分析するように・・・
しかし、かつてユングが行ったように、
無意識の世界を深く知り尽くした上で、
その上に宿る意識をとらえ、
総合的に分析する時に真実の心が見えてくるように、宗教に置いても、
深層としてのシャマニズムという観点から、
(宗教の無意識の部分にあり、絶えず意識に影響を与え続けている)
シャマニズムという視点から、
改めて宗教を分析する事は、特に現代のように、
宗教的といわれる国々が、
あたかもその教えに反したような戦闘を行うような時代には
有意義で必要なことであるかもしれない。 |
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ダトゥを中心に村人が
輪になり、病気の子どもが
天界へ向かう舟、
揺りかごの左右に
寝かされる中心に
供物が置かれている
山盛りのご飯などの上に
卵が乗せられているが
ゆで卵は、誕生と同時に
宇宙の象徴でもある |
この世界は、
この世を表している
神の世界への出発点であり
儀式はこの世から始まる |
シャーマン
(ダトゥと呼ばれる首領)は、
お皿の香料に火をつけて、
その煙を供物に
かかるようにして
供物を清めている
線香や香炉、
ローソクと同じで、
火は天界への儀式に
欠かせない |
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同じ火と煙で、病気の子どもを浄めている |
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シャーマンが、
6段階に竹で組まれた
塔の前で、
その一つ一つの段階に
火と煙をかけて浄めている
この儀式は、シャーマンが
天に昇る儀式でもある |
右が椰子の葉で包んだ
供物が下げられている
木の枝で元には、
プラスティックの
大きなゴミバケツが
置かれていて、
半分ほど水が入っていたが
撮影の邪魔になると思って
私が移動させてしまった |
ゴミバケツの水は重要で、
木は天の世界への道、
水は地下の先祖の魂の
世界への道を
象徴していたのだ!
仏壇の前に、ローソクと
水を奥のと同じ意味。
勝手に外したのは
私の過ちだったが遅かった。 |
病気の子どもを浄めた後に、
いよいよシャーマンは、天界への道行きを歩き始める。
竹で組んだ、塔のようなものには、
6つの段階のスペースが儲けられており、
その一つ一つに飯などの供物が置かれている。
シャーマンは、そこにも清めの火を持っていく。
この塔は、6本の赤いテープで、本体の家とつながれている。
この塔の右側に、木が置かれており、
木の枝にも米の飯を椰子の葉で
包んだ供物が下げられている。
この木の手前に、
プラスティックの大きなゴミバケツが置かれていて、
半分ほど水が入っていた。
理由がわからず、撮影の邪魔になると思い、
私が一人で勝手に移動してしまったが、
儀式が始まってはっと気が付いた。
水は重要な象徴なのである。
木は、神木と同様に、天頂に魂が向かうための道筋である。
昔は、天頂の北極星に向かって巨大な目に見えない神木、
または柱がありそこを中心にして天界は支えられ、
星も巡っていると思われていた。
また、下にも、この世と同様の世界が裏側にあり、
そこに向かう入り口が、洞窟や海や井戸であり、
水は先祖の魂の世界に人々を導く
スピリット精霊であると考えられていた。
火は天界に昇ろうとする火之神だが、
水は下の世界に流れようとする、
その性質から精霊、アイヌではワッカウシカムイ、水の神とされて
沖縄では海がその世界への
入り口だと考えられていた。
ニライカナイ、宮古島ではニッラ。
アイヌではポクナモシリ、つまり黄泉の国である。
旧約聖書でも、死者の国が無くなって、
海から死者が復活してくる場面が
詩篇などで描かれている。
太陽は海の中に沈み、
あの世へ出ていくと考えられていたから、あの世への道は、
太陽の沈む西から、海つまり水を通って行くと思われている。
井戸や滝、山上の湖(恐山等)が
祈祷の場になっていたりするのもその名残。
それゆえに、ミンダナオの若者たちの演じている儀式でも、
例えそれがゴミバケツであったとしても
重要な意味を持っていたのである。
さらに、世界は、地の下の世界から天界まで、
6段階で表されており、
第七段目が到達点である。
6本のテープは、家であるこの世と、
天の各々の聖霊と段階を結んでいる象徴。
方位とも関係しており、
南、西、北、東、天頂、天界(月)の6段階を得て、
最高神(かつては太陽神)に到達した。
その全体に祈願する事が、宇宙全体の
聖霊(天使)と神に祈願するために必要であり、
6段の塔は、その一つ一つを経て、
シャーマンが最高神まで登り詰めていく道行きを表している。
塔の横に置かれている水と木は、その道そのもの。 |
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6段階の世界を経て
天界に登り詰めてきたシャーマンは、
最高神から特別な力を授かってこの世に戻ってくる
彼はもはや、この世の存在ではなく、
神と一体となった人間の姿なのだ
その象徴として、特別に作られた被り物をかむるのである
こうした被り物は、神聖な儀式の時に、
天界との関係を結んだ人という意味で、
過去、皇帝や王などに被せられた |
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被りものを頭に乗せたシャーマンは、
右手に木の板を持っているが、
ここには沢山の鈴がつけられている
シャーマンの聖なる道具として、
音の出る鈴も重要なものである |
天界から降りてきて、
聖なる力を持った
シャーマンは、
病魔を祓う |
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シャーマンの後を、
病気の子の母親がついていく |
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最後に病気の子を伴いながら、
天界への供え物がある塔へと導く |
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その周囲を巡り、
天の神の力によって病気をいやすと同時に
左手に刀を持って、地界と天界、
家と塔の間に結ばれている6つのテープを切断する |
テープの切断によって、
天界と地界の繋がりが
断ち切られて、
再び人々は地界に
戻っていく |

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地上に戻りいやされた
病人に最後の浄めを行う |
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地界に戻ってから、最後の祓いを行い、
人々の周りを喜びに満ちて踊りつつ巡る |
病人の健全な魂が、
再び子どもの肉体に戻る |

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最後に火と煙で全体を
浄めつつ導かれて退出する |
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こうして、天界の力が地界にもたらされ、
病魔は追い払われ
地上に平和と幸せが息づきはじまる |