昔話・民話の原稿

宮木梓 聞き取り及び訳




感想等をお寄せいただければ幸いです。
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honyo
「フアンとフィエ」

り:ホニョ P. レネット

 









 
 むかしむかし、ある山の奥の奥に、兄と妹とおじいさんが住んでいました。兄の名前はフアン、妹の名前はフィエといいました。二人は父親が違いましたが、仲のいい兄妹でした。
 三人は、とてもとても貧しい暮らしをしていました。フアンとフィエは、毎日山へ、さつま芋やキャッサバ芋、里芋、バナナなどを探しに行かねばなりませんでした。どんなに小さなお芋でも、家に食べるものが何もないよりはましでした。二人は大きな麻袋を持って山に入り、お芋やバナナを見つけるとその中に入れ、袋がいっぱいになると家に帰りました。二人が袋いっぱいのお芋やバナナを持って帰ると、家で待っていたおじいさんはとても喜びました。そして、お芋やバナナを茹でて、朝ご飯を作ってくれました。朝ご飯がすむと、フアンとフィエは、また麻袋を持って、昼食や夕食のために食べ物を探しに行かねばなりませんでした。
 フアンとフィエは、いつも同じ山に食べ物を探しに行っていました。しかし、ある時から、その山ではバナナやお芋があまり採れなくなりました。兄妹の家族で、その山のバナナやお芋を採り尽くしてしまったのです。二人は、食べ物をたくさん家に持って帰ることができなくなってしまいました。
 ある日、フアンは頬杖をついて、どこで食べ物を見つけたらいいか考えていました。そして、ハヤトウリや豆、さつま芋の葉や蔓、山菜などを探しに行こうと思いました。兄妹は山で野菜や豆を採り、お芋やバナナの代わりに毎日の食事にしました。しかし、山の野菜や豆も、しばらくすると採り尽くしてしまいました。家族は、また食べるものがなくなりました。
 フアンは、これから何を食べればいいのだろうと考えました。そして、グアバやマラン、グヤバノ、椰子の実などの木になっている果物を採って飢えを凌ごうと思いました。
「他にもまだ食べられるものがあるかしら…。果物もなくなってしまったら、これから何を食べていけばいいのかしら…」
 次の日の朝まだ暗いうちに、フアンは寝床から飛び起きました。一緒に寝ていたフィエとおじいさんは、ぐっすりと寝ています。フアンは、水を飲み、身支度をととのえると、急いで友達の家を訪ねました。友達が、山にほうきの材料になる草を採りに行くのについて行くためです。
 その日の午後遅く、たくさんのほうき草を背負ってフアンは家に戻りました。ほうきを作って売れば、食べ物を買うことができます。
「フィエ、おじいさん、ほうき草を採ってきたよ!」
 フアンは、妹とおじいさんを探しました。そして、目を腫らして泣いている妹を見つけました。
「フィエ、どうしてそんなに泣いているの!?」
「おじいさんが亡くなってしまったの…」
 フアンは驚いて高床の家に駆けあがり、おじいさんの姿を探しました。おじいさんは寝床に横たわり、冷たくなっていました。
 それから七日後に、おじいさんのお葬式と埋葬がありました。お葬式には、叔父さんが現れ、二人を引き取って養ってくれることになりました。フアンとフィエは、おじいさんを恋しく想うこともありましたが、叔父さんの小屋で幸せに暮らしました。
 兄妹が叔父さんの小屋に引き取られてから、四年の月日が流れました。ある日、叔父さんが突然小屋からいなくなってしまいました。近所の人とささいな誤解からけんかになり、身の危険を感じて、小屋を残して逃げ出したのです。フィエも、実母のママ・メリーが引き取りに来て、一緒に逃げることになりました。フアンだけが、叔父さんの小屋に残されることになりました。
 フアンが一人残されてから七か月が過ぎた頃、叔父さんとフィエとママ・メリーがフアンのところに帰ってきました。フアンは、また家族がそろったのでとてもうれしく思いました。
 家族が再会したうれしい一日が暮れて、夜になりました。フアンたちは、家族みんなで寝床につきました。フアンは、安心してぐっすりと眠りました。次の日の早朝は肌寒く、暖かい布団が気持ちよかったので、フアンはなかなか目を覚ましませんでした。
 いつもより少し寝坊してフアンが目を覚ますと、一緒に寝ていたはずの叔父さんと、フィエとママ・メリーはいなくなっていました。フアンが眠っている間に、家を出て行ってしまったのです。フアンは、大きな声でフィエの名を何度も何度も呼びましたが、返事は戻ってきませんでした。近所の家々も、フアンのいる小屋からは離れているので、誰からの返事もありませんでした。フアンは泣きながら、いつまでもフィエと叔父さんと母親を呼び続けました。しかし、彼らは戻ってきませんでした。フアンは、また一人ぼっちになりました。
 一人小屋に残されてからもフアンは、毎日毎日食べ物を探しに小屋を出ました。果物や山菜、お芋など、毒でないものなら何でも食べて、お腹を満たしました。
 ある晴れた朝、フアンはいつもの様に食べ物を探しに山へ行き、ゴムの樹の種を見つけました。フアンは、ゴムの樹の種を集め、売ってお金に変えようと思いました。フアンは、袋いっぱいにゴムの樹の種を集め、市場に売りに行きました。それは、500ペソになったために、フアンはお米と鶏を買って、うれしい気持ちで家に帰りました。
 次の日、フアンは朝早く起きて、前の日にゴムの樹の種を見つけたゴム林に行きました。また、ゴムの樹の種を見つけられるかと思ったからです。ゴムの樹の種を探していたフアンは、お昼になりお腹が空いたので、何か食べられるものはないかとそこらを見渡しました。そして、林のはずれに大きなマンゴーの樹を見つけました。フアンは、その樹に登って実を採ろうと思いましたが、そこまでに大きな岩があってマンゴーの樹までたどりつけません。その大岩の手前には、これまた大きな大きなサントールの樹がありました。フアンは、マンゴーではなくサントールを昼食と夕食にしようと思いました。サントールの、香りのいい甘酸っぱい実をたくさん食べた後、フアンは実を袋いっぱいに詰め、市場へ売りに行きました。それは、330ペソになりました。
 このように食べ物を探し、市場へ売りに行き、フアンは一人でも何とか生きていけそうに思いました。また、フアンは山で見つけた果物や野菜や花の種を、叔父さんの残してくれた小屋の周りに植えていきました。フアンは、人生にどんなに辛い試練があっても、それに負けずに生きていこうと思いました。

 
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ホニョ P. レネット
Junio P. Renet
(1997年6月7日生)
21歳 ビサヤ族
マノンゴル高校5年生(6年制)

 
 こんにちは。僕は、6月に生まれたので「ホニョ(現地語で6月)」と名付けられました。ビサヤ族で、ローマンカトリックを信仰しています。出身は、プレジデント・ロハスのラ・エスペランサです。
 僕は父親を知りません。母は結婚せずに僕を産みました。父親の違う、姉が一人います。姉は結婚しましたが、すぐに離婚してしまい、母親の元に戻ってきました。姉には、現在9歳になる息子が一人います。姉は野菜売りをして、生計を立てています。母親は仕事がなく家にいるので、僕たちの生活はとても苦しかったです。
 僕は、小学5年生、14歳の時にMCLの奨学生になりました。2008年に、母と姉が僕を一人残して家を出てしまい、僕は学校を止めてゴムの樹の樹液を集める仕事をして生活することになりました。9歳の時です。その時、僕を雇ってくれていた人が、僕をかわいそうに思ってその人の家の敷地に住まわせてくれました。それから、13歳までその人のゴム農園で働きました。ゴム農園の雇い主は、キダパワンのインディケイシーという大学で先生をしていました。そこで、MCLの代表のエイプリルさんが学んでいて、雇い主がMCLの奨学金のことを知り、僕に勉強をしたいか聞いてくれました。
 僕は、雇い主の元を離れてMCLに移ることを怖く感じましたが、その時に一緒にいた、いとこのジムジムもMCLの奨学生になることが決まり、ジムジムが一緒ならと、MCLの奨学生になりました。ジムジムも、父親が家を出てしまい経済的に困っていて、奨学金を必要としていたのです。ジムジムは、高校1年生でした。
 奨学生になることが決まった僕らを、雇い主がアラカンのラナオコランまで送ってくれて、そこでMCLから迎えに来た日産ナヴァラに乗せられました。キダパワンのMCLに着いたときにはもう夜で、その夜は停電していたので真っ暗でした。真っ暗な中、エイプリルさんに家庭環境や夢などをインタビューされたのを、よく覚えています。
 そして、MCLの奨学生になった僕は、マノンゴルで小学校を卒業し、高校はマキララ地区のマロンゴンの男子寮に移りました。ジムジムも、マロンゴンの寮にいたからです。しかし、高校1年生を終了したときにマロンゴンの寮が閉まり、MCLに戻ってきました。
 ジムジムは高校を止めてしまいましたが、僕は勉強を続けることにしました。一緒に小学校を卒業した、エクセルやラブリー・アツ、ジュリエットも止めて結婚してしまいましたが、僕は、この4月にジュニアハイスクールを終了し、シニアハイスクールに進級しました。高校を卒業するまで、後2年です。
 僕の夢は、プロの運転手になることです。特に、トラックなどの大型車を運転することに憧れています。だから、大学は自動車科に進学したいです。そして、大学を卒業できたら運転を仕事にして、家族を助けたいです。
 僕は、2012年にギナティランの近くのイルマビスという村で母と姉に会って以来、家族と連絡が取れません。親戚がイルマビスにいて、おそらく今でも、母たちはイルマビスで暮らしているのでしょうが、母は携帯電話を持っておらず、MCLに連絡はありません。保護者がイルマビスにいることがはっきりしないので、僕もそこに帰省することができず、夏休みもクリスマスもMCLで過ごしています。
 大学を卒業し、仕事に就いてお給料をもらえたら、まず、家族を探しに行きたいです。
 2012年に母親に会った時は、お米が買えずにキャッサバ芋やサツマイモばかりを食べていました。将来いい仕事に就いて、家族にお米を買ってあげたいです。それに、少しでもいいので、MCLにも寄付をして、僕と同じような境遇の子どもたちが学校に行くのを助けたいです。
 高校の勉強は楽しくて、とくに道徳が好きです。数学は、少し苦手です。僕はMCLに入ってから、奨学生として色々な経験をさせてもらえました。特に楽しかったのは読み語りで、これまでに行ったことのないような遠くの村に行ったり、夏休みに海に行ったこと、MCLで建設支援した保育所の建物のペンキ塗り、それから、調理用の薪を軽トラで買いに行ったり、MCLの家庭菜園で働くことです。
 家族と会えなくて寂しいですが、今は学校を止めずに卒業することを目標にがんばっています。
 好きな色はピンクと青で、好きな食べ物は野菜です。特に、小松菜とニンジンが好きで、好きなおかずは、野菜のココナツ煮や八宝菜です。趣味は音楽を聴くことで、いつもラジオをイヤフォンで聴きながら寝ています。
 男の子たちとバスケットボールをすることや、畑で野菜の世話をすることも好きです。MCLでの寮生活が寂しいと家に戻る奨学生もいますが、僕は帰るところがないので、MCLで勉強を続けさせてもらって、とても感謝しています。
 日本で僕らを支えて下さっている支援者の皆さまに、神さまの祝福があるようお祈りしています。
(2018年6月17日)
jelyawe 

「祖父の戦争体験」

語り:ジェリー B. アウェ(1998年3月18日生) マノボ族
トゥマンディン村カヨパトン集落









 
 これは、僕が15歳、小学5年生だった頃に、父がしてくれた僕の祖父の戦争の経験です。晩ご飯を食べた後、「お父さん、何かお話をして」とせがむと、父が祖父から聴いた戦争の頃の話をしてくれました。
 僕の祖父は、僕が小学3年生の時に、お腹が大きく膨らむ病気で亡くなりました。病院には連れていくことができなかったので、家で亡くなりました。祖父、父、僕の苗字は「Awe」で、カヨパトン出身の家族です。祖父は、MCLの奨学生のミチックの母親といとこ同士で、ミチックのミドルネームは「Awe」です。
 また、僕の母親の苗字は「Bantac」で、同じくカヨパトン出身です。母親は、奨学生のジムジムやメルボーイの父親といとこ同士で、苗字を「Mailan」といいます。アラカン出身の奨学生の中には、同じ苗字を持つ奨学生が他にもいるのですが、おそらく遠い親戚だと思います。


「祖父の戦争体験」 

 祖父が若かったころ、日本の兵士たちがミンダナオ島のアラカン地区にもやってきました。彼らは、大きな銃を持っていました。
 それからしばらくして、飛行機がアラカンの山々の上を舞いました。それは、実はアメリカ軍の飛行機でした。それらの飛行機は、飛びながらたくさんの紙切れを落としました。紙切れには、「戦闘が始まる」と書いてあったのですが、英語で書かれていたために、ほとんどの先住民の人々は、何が書いてあるか理解できませんでした。
 しかし、先住民の中にも、英語の分かる人がいました。その人によると、アメリカ軍の落としたチラシには、「アメリカ軍が日本軍に爆撃を開始するので、先住民の人は、Tシャツとズボンという洋風の恰好を止めるように。そして、マノボ族の民族衣装を見につけなさい。また、家の外に、マノボ族の人々が使う、野生の竹で編んだ、ラバン(籠)とネゴ(ざる)を出しておきなさい。日本軍と見分けをつけて、爆撃に巻き込まれないようにするためです」
 その後、アラカンの山々の上にも、アメリカ軍の飛行機がたくさん飛んできて、日本軍への爆撃を開始しました。チラシに書いてある、英語の意味が分からなかった人は、家の外に竹籠やざるを出すこともなく、Tシャツとズボンを身につけ続けました。そのため、たくさんの人が、爆撃に巻き込まれて亡くなりました。
 陸稲の収穫の季節がやって来ました。人々は、お米を収穫したいと思いましたが、爆撃を恐れて、収穫をあきらめ、家を捨て、森の中に避難しました。爆撃があるのを知らずに、逃げずにお米を収穫した人の中には、爆弾に当たって亡くなった人もいたそうです。
 僕の祖父も、森の中で避難生活をしました。お米を収穫できないので、人々の食糧は不足しました。備蓄されていた食糧を食べてしまうと、人々の主食は山に育つ芋類や、野生の野菜になりました。また、森で鹿や猪、鳥、カエル、野ねずみ、蛇、猿、ミロ(山猫)、トカゲ、沢蟹など、食べられるものは何でも捕まえて食べました。
 アメリカ軍の爆撃は、日中に行われ、夕方になる前に爆撃機は基地に戻っていきました。人々は、火を焚いて煙を見つけられるのを避けるために、夜のうちに次の日の分の食事を料理しておき、日中は炊事をしませんでした。日中は、森で食料を集め、夕方3時ごろに寝泊まりしている掘っ立て小屋に戻りました。
 避難したマノボの人々は、爆撃を避け、森の中を移動しながら生活しました。僕の母方の祖母は、もし日本軍に出会ったら、首を落とされてしまうかもしれない、と怖れていましたが、家に戻って、家がどうなっているか見たいと思いました。しかし、祖母の家は、米軍の爆撃で焼けてしまったそうです。
 祖父は、たくさんの日本軍の兵士がアラカンを通過するのを見ました。彼らがカヨパトンを通ったこともあるそうです。日本軍を見て祖父が印象的に思ったのは、物の運び方だそうです。塹壕を作る際に石を運ぶとき、列になって順番に次の人にリレーして渡していくのでした。出来上がった塹壕は、サトウキビの葉で隠されました。しかし、日本兵はそこにも長く滞在せずに逃げていきました。
 また、「オキナワ」という人たちは、先住民とも仲良くしていました。彼らは、家族が無くなると、お墓に埋めるのではなく、死んだ人の体を食べるのだそうです。祖父の時代の人々は、「オキナワ」を日本人とは別の民族としてとらえていたようです。「沖縄」は日本の南にある島だと、僕自身(ジェリー)も知りませんでした。
 日本軍は、アメリカ軍のように飛行機がなく劣勢で、森の中を歩いて退却しました。逃げる途中、日本兵は、マノボの人々が刈り残した陸稲を見つけると、勝手に収穫し、そのまま食べてしまいました。日本軍は、食糧の補給が途絶え、とてもお腹が空いていたのです。収穫したお米を干す時間もなかったので、収穫したそばから、食べてしまったのだそうです。日本兵も、逃げる途中で出会う現地の人々を怖れているように見えました。彼らは、マノボの人を怒ったり殺したりすることはなく、退避する自分の軍から取り残されることを怖れていました。マノボの人々も、日米の戦争に参加することを怖れ、日本兵と闘うことはなく、戦闘を避けて森の中を移動しながら逃げるのみでした。
 また、森を逃げる日本人兵の中には、「カロット」と呼ばれるウベに似た芋を食べて亡くなった人もいました。「カロット」は森に自生する野生の芋ですが、毒を抜かずに食べると食中毒を起こして死んでしまいます。マノボの人たちが「カロット」を食べるときは、皮を剥ぎ、実を薄くそぎ切りし、2日間流れる水にさらします。それを天日に干して乾かし、木の臼に入れて杵で突いて細かく砕きます。それを熱した鍋に入れて、水は入れずに、鍋のへりにくっつけるようにして加熱するのです。そうして、ようやく食べることができます。味付けには、塩か砂糖があれば加えます。おかずは、あれば何でもいいです。「カロット」を食べなければならないようなときには、本当に食べるものがないときなので、おかずはありません。「カロット」の味は…、以前、小学校で配給された豆乳を飲んだ時に、似た味がすると思いました。僕たちは、今でもお米もトウモロコシもないときに、「カロット」を食べることがあります。毒を抜くのが大変なので、本当に食べ物のないときにしか食べませんが、おいしいし、とりあえずお腹がいっぱいになります。日本兵は、マノボの人たちが「カロット」を採っているのを見て、自分たちも食べようと思ったのでしょうが、毒があることを知らずにそのまま食べて、亡くなってしまったのです。
 日本軍は退却する途中で、アメリカ軍に奪われないように、崖の中腹などに金などの宝物を隠していったそうです。そして、宝物を守るために、人柱のように、兵士を一緒に埋めたそうです。日本軍の将校が兵士たちに、「誰がこの宝物を守るのか」と尋ね、「私が守ります」と志願した兵士が、味方の日本兵に撃たれて殺され、宝物の側に埋められたのです。もし、宝物を盗みにくる人があったら、呪いで病気にして、殺してしまうためです。この呪いは、人柱を埋めてから、何十年たっても効いています。呪いにかかって病気になった人は、運よく治る人もいますが、亡くなる人もいます。僕が高校1年生(日本の中学1年生)の時にも、トゥマンディンの人が宝探しの呪いを受けて、病気になり、亡くなりました。彼はトレジャーハンターで、日本軍の残した宝物を探してあちこちを掘っていましたが、宝物を探し当てることなく、呪いにかかってしまったのです。お医者さんに連れていかれましたが、治療の甲斐なく亡くなりました。日本兵の残した宝物を探すトレジャーハンターは、時々グループでやって来ます。彼らは車を持っていて、仕事として宝探しをしているようです。
 戦争が終わると、日本兵たちはアラカンからいなくなりました。日本へ帰ったのでしょう。日本人と結婚していた先住民の妻と子どもたちは、ミンダナオに残されました。アラカンにも、日本人と現地の女性の子どもの子孫がたくさんいます。MCLの奨学生のマリサや、ベビ・タカも日系人です。戦争が終わった直後は、ミンダナオにもたくさんの被害が出たので反日感情が強く、彼らは日系人であることを怖れて、名前や日本語も隠し、先住民として生活していました。でも、戦後長い時間が経ち、フィリピンと日本の関係も良くなって来たので、日本を懐かしんだり、憧れる人も多いようです。
 父の話を聴いて、僕は日本兵がかわいそうだと思いました。家族を残してフィリピンに闘いに来て、日本に戻ることなく亡くなったからです。そして、アラカンの先住民の人々も、戦争に巻き込まれてかわいそうだと思いました。アラカンには、今でも新人民軍と「カフゴ」と呼ばれる国側の軍隊との戦闘が起こることがあります。僕たちも、もし、アラカンのどこかで戦闘が起こったら、村から避難するための準備をします。僕は、まだ戦闘からの避難生活の経験はありませんが、この先も経験したくないです。アラカンの人々は、自分たちの土地が平和になることを強く願っています。
jawe
ジェリー B. アウェ 
20歳 マノボ族 
マノンゴル高校4年生(6年制)
 
 
 僕は、ジェリー。
 アラカンの山あいの村、トゥマンディンのカヨパトンという集落が、僕の故郷です。「パノバット・トバット」というマノボ族の宗教で、創造主である「マナマ」を信じ、「パヌバラン」というお祈りのための家で、祈ります。
 2017年の前期期末テストまでトゥマンディン高校で勉強し、秋休みの終わった後期からMCLに移りました。2017年11月からMCLの奨学生として、キダパワンのマノンゴル高校で学ぶことになりました。
 僕の父は46歳、母は49歳で元気ですが、家族はとても貧しいです。僕は本当は11人兄弟でしたが、4人の兄と弟、妹が一人ずつの合計の6人が亡くなり、今は5人しか残っていません。僕は末っ子になってしまいました。兄弟の亡くなった原因は病気です。お金がないので、病気になっても薬を買ったり病院に連れていけずに、死んでしまいました。15歳まで生きたのに死んでしまった兄や、キノコの毒で亡くなった兄もいます。
 僕たちが病気になったときは、「カラマンガモ」を飲みます。これは、山に特別な木を採りに行き、それを炭にしたものです。でも、お金があればお店で熱さましや痛み止めの薬を買うこともあるし、病院に行けることもあります。
 僕たちの村は今年の3月に電気がきました。お米はお金があるときしか買えないので、いつもはサツマイモや里芋、キャッサバ芋、トウモロコシを食べています。時々、お昼ご飯は食べられません。家にお米がたくさんあれば高校休まなくていいけど、お米が無いとお弁当を持って行けないので、学校に行かずに家の仕事を手伝います。カヨパトンから高校まで歩いて、大体1時間半くらいかけて通っていました。
 今、兄弟で勉強を続けているのは僕だけです。僕には姉は1人と兄が3人いますがみんな小学校の途中で止めてしまいました。両親も兄弟も、仲がいいです。兄の2人は、もう結婚しました。
 両親は、バナナやトウモロコシ、ゴムをつくって収入を得ています。時々、僕もトウモロコシを製粉所に持って行く手伝いをしていました。カヨパトンからだと、セントニーニョの製粉所が一番近いです。僕の家には、馬もいないしバイクも無いので、バイクタクシーにお金を払ってトウモロコシを運びます。MCLでは3食お米を食べていて、トウモロコシは出ないんですね。僕の家では、トウモロコシを炊いて食べることも多いです。家族は、僕が勉強を続けることを喜んでくれています。でも、僕が家を出る日、母は泣いていました。
 僕は、大学を卒業することが夢です。将来は海軍に入りたかったけど、MCLの奨学金は、銃を持つ仕事に就くためには出ないそうなので、船乗りになりたいです。海を見たことがないけど、憧れているんです。
 好きな科目はMAPE(音楽・美術・保健体育)です。トゥマンディンの高校に行っていたときは、宿題で模造紙や色紙、ファイルを買わなくてはならない時、お金がないと提出することができませんでした。でも、トゥマンディンの高校に通っている生徒はお金がない子が多いので、先生も分かってくれます。MCLの奨学生は、月に200ペソのお小遣いがもらえて、それで宿題に必要なものを買うことができるんですね。うれしいです。
 趣味は、バスケットボールやバレーボール、チェスをすることです。好きな色は、白。好きな食べ物は、特にないけれど、お腹いっぱい食べたいです。MCLの奨学生たちと一緒に励まし合って、お互いに夢を叶えたいです。
 ご支援に、とても感謝しています。
 
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「ランソネスの始まり」
 
語り:マイカ E. アルマディン(12歳) マノボ族
出身:マタラム キブヤ ピロック1










 むかしむかし、ある村に、若い夫婦が小さな竹の家に暮らしていました。この夫婦は仲がとても悪く、毎日けんかばかりしていました。
 ある日も、夫が妻に腹を立てて、おどかしてやろうと、妻を棒で打とうとしました。妻は、怖くなって家を逃げ出しました。
 妻は、行く当てもなく、しくしく泣きながら道を歩いて行きました。そのうちに、知らない村を通りかかりました。道端に、たくさんの小さな薄褐色の実をつけた大きな木が立っていました。
 妻は、泣いて道を歩いてきて、とてものどが渇いていましたので、その実を採って食べたいと思いました。そして、通りかかった村の人に、その実を食べてもよいか尋ねました。
「だめだよ、この木の実を食べては!この実には、毒があるんだ。食べたらきっと死んでしまうよ」
 妻は、それを聞いて、ますますその実を食べたいと願いました。夫とけんかをする毎日に疲れ果てて、いっそのこと死んでしまいたいと思ったのです。
 妻は、木から一つ、その実を採りました。薄褐色の皮をむくと、良い香りがして、白くて少し透き通った実が現れました。妻は、目をつぶって、思い切ってその実の小さな一房を口に入れました。甘酸っぱいその実は、妻の喉を潤しました。一房、また一房と口に入れ、一つの実を食べ終わりましたが、まだ苦しくなりません。妻は、一つ、また一つと、夢中で実を食べました。
 たくさんの実を食べて、お腹のいっぱいになった妻は、木陰に腰を下ろしました。木の幹にもたれていると、妻はうとうととしてきました。このまま死んでしまえばよい、と思いました。
 しばらくして、村の人が通りかかりました。
「木陰で眠っている、このとてもきれいな女の人は誰だろう」
 毒だと思われていた木の実を食べた妻は、とても美しい姿に変わっていました。妻は、村人の気配を感じて目を覚ましました。
「私、あんなにたくさん毒のある実を食べたのに死ねなかったの…」
 村の人々は、この木の実が毒ではないことに気が付きました。そして、村の女性は、自分も妻のように美しくなりたいと思い、争うように実を食べました。しかし、一番最初にこの実を食べた者だけが美しくなることができたのでした。村の人々は、この実を食べても姿が美しく変わることはありませんでしたが、この実はいい香りがしておいしいと思いました。
 妻は、村の人に鏡を見るようにと言われ、自分の美しい顔を見て驚きました。
「これは本当に私なの?私、死ぬつもりだったのに…」
 その後、妻は生きる気力を取り戻し、自分を棒で打とうとした夫と別れました。そして、自分を大切にしてくれる男性と出会い、再婚して、幸せに暮らしました。
 妻が最初に食べた木の実はランソネスと呼ばれ、その木は村の人々に大切にされました。季節が来ると、たくさんの実を幹にたわわに実らせ、村の人々は籠いっぱいに収穫して、おいしくいただきました。

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「バナナの始まりの物語」

語り:Mayca E. Almadin(2006年1月24日生)12歳 マノボ族
マノンゴル小学校6年生(6年制)

これは、私が小学2年生か3年生の時に、学校で教えてもらったお話です。

むかしむかし、この世界に、まだバナナはありませんでした。
 ある村に、若い恋人同士がおりました。二人はとても愛し合っていましたが、娘がまだ十四になったばかりでしたので、娘は父親に交際を反対されてしまいました。娘の父親は、娘が恋人の青年と会うことを禁じました。それでも二人は、娘の父親に隠れて会い続け、交際を続けていました。
 しかし、ある日、父親は娘が内緒で恋人に会っているところを見つけてしまいました。父親は激しく怒り、腰に差していた鉈を抜いて、娘の恋人に切りかかりました。突然の出来事で、青年は娘の父親の攻撃を防ぐことができず、左の手首の先から手を切り落とされてしまったのです。
 娘は、父親から恋人を守ることができず、泣き叫びました。そして、青年がこれ以上傷つくことなく逃げられるようにと、抜け道を指し示しました。
「私のことはいいので、どうか逃げて、生き延びてください!」
 青年は、娘と別れたくない、と思いましたが、このままでは娘の父親に殺されてしまいます。生き延びてください、という娘のことばを受けて、青年は血の流れる左手首を押さえ、娘に指された道を走り出しました。
 青年が父親から逃れて村から出たその日以降、青年の消息は誰にも分からなくなりました。
 娘は、その場に残された、切り落とされた恋人の左手を拾いました。そして、自分の家の裏庭に、丁寧に埋葬しました。娘の涙が、一粒、二粒と、恋人の手を埋めた土の上に染み込んでいきました。
 それから数日後、娘の父親は、裏庭に奇妙な植物が芽を出したのを見つけました。そして、失意に沈む娘を呼び、その場所に何を植えたのか尋ねました。
「ここは、私が確かにあの人の左手を植えた場所…!これは、あの人の思いのこもった植物に違いないわ」
 その不思議な緑の植物は、すくすくと空に向かって葉をのばし、心臓のような赤い花をつけました。そして、花の後には、まるで青年の手のような実がたくさん実ったのです。
その実は、熟すと黄色くなり、甘い、よい匂いを放ちました。娘は、恋人の思い出を胸に、その果物を口に入れました。涙がつうっと頬をすべりおちました。
 娘は、その果物を、青年と同じ「サギン」という名前で呼びました。サギンは、日照りでお米やトウモロコシが取れないときでも、青年の手のような実を実らせ、娘を空腹から救いました。雨の日には、葉っぱが傘の代わりになりました。娘は、サギンを見るたびに、いつも青年を想いました。何年たっても、何十年たっても、恋人のことを、決して忘れることはありませんでした。

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 Mayca E. Almadin
(2006年1月24日生)12歳 マノボ族
マノンゴル小学校6年生(6
年制)

 ハーイ!私はマイカ。ニックネームはカイカイです。
 マタラムのキビヤのプロック1の出身です。マノボ族で、信仰はキリスト教のアライアンスです。
 私は、本当のお父さんとお母さんを知りません。私の本当のお母さんは、マニラに出稼ぎに行き、ハウスメイドをしていました。そこで船乗りの男性と出会い、結婚して妊娠しました。そして、本当のお母さんだけがミンダナオのマグペットに里帰りし、私を産みました。そしてすぐに、私を叔父さん(お母さんのお兄さん)に預け、一人でマニラに戻ってしまいました。それから、本当のお母さんもお父さんも、私に会いに戻ってきませんでした。私は写真でしか、本当の両親の顔を知りません。
 私は、1歳頃まで牧師をしている叔父さんに育てられました。でも、叔父さんは独身で私の世話が大変だったので、その後、叔父さんの妹のところに預けられました。それが、私の今の「うそのお母さん」です。私が「お母さん」に預けられた頃、「お母さん」はまだ新婚で子どもがいませんでした。私は長女として育てられ、現在は8歳で小学3年生の弟と、1歳の妹がいます。
 私の「うそのお父さん」は、田んぼで働いています。うちの田んぼは小さくて、それだけでは食べていけないので、よその人の田んぼで働いて日給をもらわないと生活できません。「お母さん」は、まだ末の妹が小さいので、家で子守りをしています。家族の生活は貧しいけれど、一日3食お米を食べられています。
 私がMCLの奨学生になったのは、2014年の小学3年生の時です。私の本当のお母さんや、うそのお母さんと姉妹のアンテ・アイリーンが、ともさんの娘さんの子守りをしていました。奨学生のクリスティとチャチャのお母さんのことです。その後、MCLの台所で働いていたアンテが、私に、MCLの奨学生になりたいか尋ねて、MCLに連れていってくれました。そこで、ともさんやエイプリルさんに会いました。私は、今の両親の元で、本当の娘のように育ててもらっていましたが、家の仕事がたくさんあってちょっと疲れてしまっていたので、MCLに移りたいと思いました。MCLに移る前なので、まだ7つか8つの頃でしたが、洗濯や水運び、庭掃除、家庭菜園の草引き、鍋を磨いたり食後のお皿洗い、ランブータンやパパイヤの収穫、刈り取ったお米を精米機まで運ぶことが、私の仕事でした。でも、小学2年生までは、家から学校に通わせてもらっていました。
 私が、今の両親の本当の娘ではないと知ったのは、小学2年生のMCLに移る前のことです。最初に私を引き取ってくれた牧師の叔父さんが、私の生まれた経緯を教えてくれました。マニラにいる本当のお母さんは、私に手紙やお金を送ってくれたこともあったみたいですが、いとこがお金を取って、手紙は証拠を隠滅するために燃やしてしまったと聴きました。叔父さんはいとこに、手紙だけでも渡してあげたらよかったのに、と叱ったそうです。いとこの一人で15歳のジニーは、私の本当のお母さんとフェイスブックで連絡を取って、マニラで、私の本当のお父さんとの間に3人の子どもがいると教えてくれましたが、嘘かもしれません。私は、自分の本当のお母さんが、私を叔父さんに残してマニラに戻り、会いに帰ってきてくれなかったことを怒っているので、本当の両親に会えなくて寂しいとは思いません。私の家族は、うそのお父さんとお母さん、そして弟と妹です。
 私は、小学3年生から6年生まではMCLの寮にいましたが、小学校を卒業したら実家に戻り、そこから高校に通うつもりです。今のお母さんや、弟妹が恋しいからです。将来の夢は、小さい頃は学校の先生になりたかったけど、今はテレビやラジオのレポーターに憧れています。モデルもいいなぁ、と思うけど、美人でセクシーでないとなれないかな。
 学校の勉強は、フィリピノ語と英語が好きで、算数は苦手です。好きな色はピンクで、趣味は歌を歌うことです。好きなおかずは、目玉焼きとフライドチキンです。私の人生で大切なものは、家族と神さまの愛、そして学校を卒業することです。私を学校に行かせてくださって、どうもありがとうございます。学校を卒業できるようにがんばります。日本にいる支援者の方に会えなくて寂しく思うこともありますが、支援を続けて下さっていることに感謝しています。

 「家族」 

語り:ロスタン A. サビノ(17歳) マノボ族
プレジデント・ロハス グリーンヒルズ村 プロック8

 

  
これは、僕が13歳の頃、お父さんが晩ごはんの後に家族みんなにしてくれたお話。

 むかしむかし、ある山村に一つの家族が住んでいました。両親と、六人の息子たちの八人家族でした。父親は、自分の土地にバナナを植えたり、よその人の水田でお米作りの手伝いをしていました。母親は、子守りや洗濯をして、お金を稼いでいました。六人の子どもたちは、皆、小学生でした。長男のレイマークは、十五歳でやっと小学六年生でした。末子は七歳で、一年生でした。両親は、子どもたちを学校に行かせるために、一生懸命働いていました。
 しかし、レイマークは成長するにしたがって、学校に行かずに悪い友達と遊ぶようになりました。小学校で年下の子どもたちと学ぶのが嫌になり、勉強にも興味を失いました。レイマークは授業に出ずに遊ぶうちに、高校三年生で十六歳のカテリンという少女と恋仲になりました。レイマークは、お金が欲しくなり、学校を止めて、山に働きに行くことにしました。
 カテリンは、高校で勉強を続けていました。カテリンは、レイマークが山に働きに行ってしばらく戻らない間に、別の男とも恋仲になりました。その頃、次男は、小学五年生でしたが、小学校でカテリンの姿を見かけました。カテリンのもう一人の相手は、次男と同じ学校に通っていたからです。
 しばらくして、カテリンの妊娠が分かりました。レイマークは、山で、カテリンが妊娠したという知らせを聴きました。レイマークは、カテリンの子の父親が自分であると思い、山から家に戻りました。
 カテリンの父親は、娘が妊娠したので、とても怒ってレイマークの家にやって来て、レイマークの両親に言いました。
「娘が、お前たちの息子のために妊娠してしまった。五千ペソと、馬を二頭、水牛を二頭、豚を二頭、山羊を二頭支払うか、娘とレイマークを結婚させろ」
 レイマークの家には、とてもそんなお金はありませんでしたので、両親は二人の結婚を認めました。その頃、レイマークは、カテリンのお腹の子どもが自分の子どもではないと悟りましたが、カテリンを愛していたのでやはり結婚しようと思いました。
 レイマークの父親は、二人の結婚のために土地を売り、借金をしました。カテリンの家族は、結婚のためのお金を出しませんでした。しかし、レイマークはカテリンとの結婚を後悔しませんでした。
 二人の結婚から三日後、母親が病気で倒れました。病院に連れていくと、肝臓の病気でした。しかし、病院に支払うお金がありません。父親は、頭を抱えました。父親は、また土地を売ってしまいました。父親の土地は、とても小さくなりました。
 父親は、その土地にバナナを植えて売ったり、他の農場で働いて、息子たちを養いました。幸いにも、母親の病気は、少しずつ良くなりました。ただ、借金だけが増えました。結婚したレイマークを除く5人の息子たちは、頑張って勉強を続けました。自分たちがいい仕事について、両親を助けたかったからです。父親も、子どもたちが勉強を続けることを望みました。しかし、時々末っ子は、学校に行きたくないと泣きました。お米が買えず、お弁当を持って行けないからです。次男は、末っ子のために、小さな杵にバナナと、砂糖を少し入れて、杵でついてお団子のようにしたものを、お弁当の代わりに持たせてやりました。
 ある日、十四歳になっていた三男がバイクでお使いに行く途中に転んでしまい、病院に運ばれました。幸い、ひどいけがではありませんでしたが、借金をしなければ、病院に支払うお金がありませんでした。父親は、人生をとても厳しく感じました。
 両親の元で勉強を続けるのが難しいので、次男は叔父の元に住み、働きながら学校に行くことになりました。叔父の家では、少なくともお腹いっぱい食べることができました。次男は初めて叔父の家に移った時に、モモ(赤ん坊のお化け)がいるような気がして実家に帰りたかったのですが、家族のことを考えて、叔父の家で頑張ろうと思いました。
 父親は、息子たちを食べさせ、学校に行かせるために、必死で働き続けました。母親は、肝臓の手術を受け、父親がバナナを植えるのを手伝ったり、洗濯婦をして少しのお金を稼げるくらいに回復しました。
 しかし、父親は少しづつ、疲れていきました。お酒を飲む量が増えました。ある日の夜、父親は酔っぱらって、家にいたレイマークとけんかになりました。父親は、けんかを止めに入った母親を殴って、家を出て行ってしまいました。母親は泣きました。
 それから数日間、父親は帰ってきませんでした。両親は、別れることを考えたようでした。息子たちは、自分たちはどうなってしまうのだろう、と思いました。
 しかし、数日後に父親が家に戻り、母親と仲直りをしました。息子たちは、安心しました。父親は、借金を返すために軍隊に入ることを決めていました。母親も息子たちも、父親を止めました。父親が死んでしまうのが怖かったからです。父親は家族に、必ず戻る、すぐに戻るから心配するな、と言って、行ってしまいました。母親と息子たちは、毎晩父親の無事をお祈りしました。
 それから数年間、次男は叔父の家で、一生懸命勉強しました。高校に進学しても、叔父の援助や父親から送られてくるお金を頼りに、勉強をあきらめませんでした。そして、次男が高校を卒業する日、父親が帰ってきました。
「お父さん!」
 家族みんなで、お父さんに抱き付いて、泣きました。
「お前、勉強頑張ったんだな」
 父親は、次男の肩を抱き寄せました。
「父さん、これからは僕も働いて、家族を助けるよ。だから、家にいて下さい。今まで、本当にありがとう」
 それから、次男はよく働き、両親や弟たちを助けました。長男とカテリンも、貧しいながらも幸せな家庭を築きました。弟たちも高校を卒業し、働くようになって、家族の借金はなくなりました。家族はその後、幸せに暮らしました。

 これは、昔話というより、最近の家族の話みたいですね。
 そうですね。これは、少し実話が入っています。お父さんの願いが込められたお話だと思います。 
 ロスタンさんも、高校の卒業式でご両親と入場できるといいですね。

 


Rostan A. Sabino
17歳 マノボ族 マノンゴル高校3年生(6年制)


 僕はロスタン。プレジデント・ロハスのグリーンヒルズのプロック・オッチョの出身です。2016年の8月に、同じ村の奨学生5人でMCLに移ってきました。
 僕たちの村はとても貧しくて、食べていくことも難しいから、奨学生で支援があっても学校を止める子が多かったんです。MCLに住むと3食食べられるし、学校も近いから、僕は両親がいるけれど、MCLから通学することにしました。
 プロック・オッチョにいたときは、朝6時に家を出て、学校に着くのは8時くらいでした。でも、大雨で水があふれたり、道が泥だらけになると、歩くのに時間がかかって遅刻してしまうことも多かったです。

 僕のお父さんは、農業をしています。ココナッツの実やゴムの樹液、バナナや建築用の木を育てて売っています。それから、自家用にトウモロコシ、三度豆、空芯菜、里芋、オクラ、ハヤトウリ、ジャックフルーツを育てています。
 お母さんは主婦です。僕は5人兄弟の上から2番目で、まだ7歳の弟がいるので、お母さんは子守りや洗濯、水汲みで忙しいです。
 兄弟は5人とも、みんな男の子。長男もMCLの奨学生だったけど、昨年結婚して勉強を止めてしまいました。もう、子どもがいます。僕の家は3食食べられるけど、朝ごはんはバナナとコーヒー、昼と夜はご飯と野菜で、ときどき魚や肉を食べます。家で鶏を飼っているけど、お祝いごとの度にに食べてたら数が少なくなっちゃった。

 僕は、大学を卒業してエンジニアになりたいです。でも、困ったことに、数学がものすごく苦手なんです…。勉強は好きなんだけど、英語も苦手です。MCLに来る前は、食べ物がなかったり、大雨などでよく学校を休んでいたから、高校3年生になっても英語があまり分からないし、引き算も繰り下がりがあるとたくさん間違えてしまいます。でも、MCLに来てからは毎日学校に行けるから、勉強がんばりたいな。タガログ語はまあまあなんです。もし、数学の点数が足りなくて、大学で工学部に行けなかったら、タガログ語の先生を目指します。
 MCLには友達がたくさんいて、賑やかで楽しいけれど、やっぱり家族が恋しいです。僕は、お母さんと特に仲がいいんだ。クリスマスのお休みに家に帰れるから、本当に楽しみ!家に帰ったら、弟たちとたくさん遊んであげて、お母さんの水汲みや洗濯を手伝いたいです。いっぱい冗談を言って、おもしろいダンスをして、みんなを笑わせたいです。お兄ちゃんが学校を止めて、僕だけが高校に行っているから、しっかり勉強しようと思います。



「フアンとカプリ(原題:貧しい男)」 

語り:ハニー A. フィール(15歳) マグペット マタス

 

 これは、この前の秋休みの時に、五つ年上のお兄ちゃんがしてくれたお話。

 むかしむかし、ある山に、一つの家族が住んでいました。父親のフアンは三十五歳、母親のマリアは三十二歳、娘のシェイアは十三歳、息子のレンズは二歳でした。家族は貧しく、竹でできた小さな家に住んでいました。
 ある日、フアンの家には、食べ物もお金もありませんでした。フアンは、近所に住むお金持ちの友達のペドロの家に行くことにしました。先週、月曜日から日曜日までの七日間、ペドロの畑で草引きをした給料を、まだもらっていなかったからです。給料は、一日百ペソでした。フアンは土地も仕事もなく、お金持ちの家の畑で、日雇い労働者として草刈りや除草をし、家族を養っていました。
 ペドロは、フアンより年下の三十三歳でしたが、広い畑を持ち、立派な家に住んでいました。フアンとペドロは仲のいい友達でした。ペドロは、フアンに先週のお給料の七百ペソを払ってくれました。
 フアンは七百ペソを持って、市場に行き、お米とティラピアを三匹買いました。残ったお金で、娘のシェイアの学用品を買いました。そして、妻のマリアと子どもたちの待つ家に帰りました。
 家に着くと、マリアがティラピアの内臓をきれいにし、油で揚げてくれました。買ったお米で、ご飯も炊きました。マリアがシェイアに言いました。
「シェイ、井戸で水を汲んできてちょうだい」
「はい、お母さん」
 シェイアが水汲みから戻ると、家族そろって晩ご飯を食べました。お腹がいっぱいになり、暗くなったので、床にゴザを敷いて、四人寄り添って眠りました。
 次の日、フアンはいい仕事を探しに遠くまで出かけることにしました。近くには、給料の安い仕事しかないので、山を五つ越えた先まで行ってみるつもりでした。
 マリアが言いました。
「ダーリン、二十五ペソで食パンを一斤買っておいたの。今日は遠くまで歩いて行くんだから、お弁当に持って行って」
「ありがとう、ハニー!アイ ラブ ユー!」
 フアンは、歩き始めました。三つ目の山でお昼になりました。フアンは道端の木陰の石の上に腰を下ろし、食パンを半分だけ食べました。そして、すぐに歩き始めました。
 四つ目の山で、足が重く上がらなくなり、休憩することにしました。太陽が橙色に輝き、遠くの山々の稜線に落ちていきます。
「ああ、疲れたな」
 フアンは、よっこらせと膝を押さえて立ち上がり、五つ目の山を目指しました。急がなくては、夜になってしまいます。
 フアンが五つ目の山に入ってしばらくすると、暗くなり、進むのが難しくなりました。フアンは、横になれるような石を探して座り込み、残りのパンを食べました。そして、そのまま眠ってしまいました。もう、歩く気力はありませんでした。
 山に、朝が訪れました。フアンは、石の上で目を覚ましました。体にかける布もなく、石の上にそのまま寝たので、体がすっかり冷たくなっていました。体の節々が痛みました。
 と、遠くから車の走る音が聴こえてきます。
「なぜ、こんな山の中に車が走っているんだろう」
 フアンが周りをきょろきょろすると、大きな大きなジプニーが走っていくのが見えました。人が乗るには大きすぎるジプニーを見て、フアンは驚きましたが、ジプニーの後を追うことにしました。
「いったい誰が車を運転しているのだろう」
 森の中の小山の前で、大きなジプニーが停まりました。ドアが開いて、ジプニーから降りてきたのはカプリの青年でした。カプリというのは、人間よりも大きく、「ヒガンテ(人を食べる大きい鬼)」よりも小さい、人の姿をした生物です。カプリも人間を食べますが、人間と同じような服装をしています。ただ、肌の色が黒く、髪の毛は頭の上でちりちりと丸まっていました。
 ジプニーから降りてきたカプリは、小山の前に立つと言いました。
「アブリ ポルタ カバリエーラ!」
 すると、小山の入り口が開き、カプリはその中へと消えていきました。
「サラド ポルタ カバリエーラ!」
 もう一度、カプリの声がして、小山の入り口が閉じられました。フアンは、小山から離れた大きな樹の陰に隠れてカプリを見ていましたが、おそるおそると小山に近づきました。
 小山に耳を寄せてみると、中からカプリの声がします。
「食べ物よ、出てこい!」
 どうやら、カプリは魔法で食べ物を出し、食べているようです。
「飲み物よ、出てこい!」
 カプリは水やコーラ、お酒を出して飲んでいるようでした。この後カプリは賭け仲間のところに遊びに行く予定があったので、景気付けたかったのです。
「お金の詰まった小袋よ、たくさん出てこい!」
 そう声が聴こえたかと思うと、入口が開き、重そうな小袋を一つだけ持ったカプリの姿が見えました。フアンは急いで小山から離れました。
「残りのお金の詰まった袋は、戸棚へ隠れよ!」
カプリは、小山から出ると言いました。
「サラド ポルタ カバリエーラ!」
 すると、小山の入り口は閉じられ、見えなくなりました。そして、カプリは大きなジプニーに乗り込み、車は走り出しました。山の中には木々がたくさん生えていて、道はありません。しかし、ジプニーが走ると、木々がジプニーを除けて、道を作るのでした。
 ジプニーが去った後、フアンは考えました。
「カプリの持っていた袋の中身は何だろう。俺も、小山の中に入れないだろうか」
 フアンは、カプリの呪文を思い出そうとしました。
「えーっと、アブリ ポルタ カラベーラ!」
 入り口は開きません。
「違ったな…。アブリ ポルタ カバリエーラ!」
 小山の入り口が開きました。
「おお、やったぞ!」
 フアンは、入り口から洞穴の中に入りました。
 洞穴の中は広く、部屋になっており、食卓がありました。フアンは椅子に腰かけました。
「食べ物よ、出てこい!」
 ご飯と、鶏や豚、魚などの様々な種類のおかずが現れました。フアンは昨日からパンしか食べていませんでしたので、夢中で食べました。
「飲み物よ、出てこい!」
 フアンはお酒は飲みませんので、水だけを飲みました。
 お腹がいっぱいになったフアンは、考えました。
「カプリの持って行った袋の中身は、お金に違いない…。お金の詰まった小袋よ、たくさん出てこい!」
 フアンが唱えると、お金の詰まった小袋がたくさん現れました。フアンは、その内の一つだけを持って、外に出ました。それ以上は欲しくなかったし、袋を一つだけ持って出たカプリに倣おうと思いました。
「サラド ポルタ カバリエーラ!」
 フアンは、小山の入り口を閉めました。
 そして、歩いて山を五つ越えて、家族の待つ家に帰りました。家では、マリアとシェイアとレンズがフアンの帰りを今か今かと待っていました。フアンが家に着くと、家族はフアンを恋しがって飛びついてきました。フアンは、カプリの不思議な小山のことを話して聴かせました。
 次の日、フアンは、持って帰ったたくさんのお金で何を買おうか考えました。フアンは、ペドロがペドロ自身の家とは別に、大きな家を売りに出していることを思い出し、その家を買うことにしました。
 フアンとペドロは仲が良かったので、お互いを、お互いだけに通じる名前で呼び合っていました。その呼び名は、「パリ」と言いました。
 フアンはペドロの家を訪ねました。
「パリ!あの家を売ってくれ!お金が手に入ったんだ!」
 ペドロは驚いて言いました。
「パリ!どうやってお金を手に入れたんだ!」
 フアンは、ペドロに、五つの山を越えた先にあるカプリの不思議な小山のことを話しました。ペドロは大きな家をフアンに売ってくれ、フアンの家族は新しい家に引っ越しました。
 フアンは、残ったお金で雄の馬を一頭買いました。また、カプリの不思議な小山に戻るときに、五つの山を越えて歩くのは大変なので、馬で行こうと思ったのです。 
 さて、ある日ペドロはフアンに言いました。
「パリ!俺もカプリの不思議な小山に行ってもいいだろうか」
「おお、いいよ」
 ペドロはお金持ちでしたが、もっとお金持ちになりたかったのです。そして、自分の馬で、カプリの小山を目指しました。山を三つ越えたところで、乗っていた馬が疲れ果てて動かなくなり、そのまま死んでしまいました。ペドロは馬がかわいそうに思いましたが、死体を三つ目の山に残して歩いて小山を目指しました。ようやく五つ目の山に入ったところで、疲れて歩けなくなり、休憩しました。
「まずい、暗くなって来た」
 ペドロは早足で先を急ぎ、ようやくフアンの話した小山らしきものの前にたどり着きました。
「きっとこの小山が、フアンの話したカプリの不思議な小山に違いない」
 しかし、ペドロはフアンに、小山の入り口を開ける呪文を聞き忘れたので、小山に入ることができず、そこで眠ってしまいました。
「カプリが現れたら、呪文を盗み聞きすればいいさ」
 次の日、ジプニーの音がして、ペドロは目を覚ましました。ペドロは急いで木陰に身を潜めました。大きな大きなジプニーが小山の前に停まり、中からカプリが降りてきました。ペドロは、色の黒いチリチリの髪をした大きなカプリの姿に震え上がりました。
 カプリは、
「アブリ ポルタ カバリエーラ!」
と唱えて小山の中に入り、
「サラド ポルタ カバリエーラ!」
と唱えて入り口を閉じました。そして、洞穴の中で、食べ物を出して食べ、飲み物を出して飲み、お金の詰まった小袋を出しました。小袋を一つ取ると、入り口から出てきました。
「おや…、何だか人間のいい匂いがするな…。ああ、食べたいもんだ」
 そう言って、鼻をひくひくと動かしました。ペドロは小山の入口の近くでカプリの様子をうかがっていたので、カプリは匂いに気付いたのでした。そして、カプリはペドロの姿を見つけました。
 ペドロは肝をつぶして逃げ出しました。森の中を必死になって走りましたが、足がもつれて木の根につまづいて転び、そのまま坂道を転がり落ちていきました。
 ペドロが転がって落ちていった先には、カプリの便所の肥溜めがありました。ペドロは、そのまま肥溜めに転がり落ちてしまいました。カプリの体はとても大きいので、肥溜めも、とても大きく深いのです。ペドロは、肥溜めの底に沈んでいきました。カプリは、ペドロを探して食べるのをあきらめました。ペドロは、そのまま上がってきませんでした。
 カプリは、ペドロが肥溜めに沈んでしまったので、賭け仲間の家に遊びに行くことにしました。そうして、カードを使ったゲームなどを楽しみましたが賭け事に負けてしまったので、持ってきたお金を払いました。
 さて、ペドロの家では、父親が戻ってこないので妻のローズと一人息子のインバクが心配していました。インバクは、十七歳になっていました。
「お父さん、戻ってこないわね」
「お母さん、きっとお父さんはよその女の人のところに行ったんだよ」
「まあ、インバクったら。そんなはずないわ。お父さんはきっと戻ってくるわよ」
「そうだね。いつになったら戻るか分からないけど、気長に待っていようか」
 それから数か月が過ぎました。相変わらず、ペドロは戻ってきませんでした。妻と息子は、ペドロを待ち続けました。
 フアンは、きっとペドロはカプリに食べられてしまったのだ、と思いました。
「しかし、あの小山が俺のものになったらいいんだがなぁ」
 フアンは、五つの山を越えて、カプリの小山にもう一度行ってみることにしました。
 次の日の朝早く、フアンは旅立つ準備をしました。
「行ってくるよ、ハニー!」
「ダーリン!あなた、お弁当を忘れているわよ!」
「ハニー、今度はあっちで食べるから、お弁当のご飯は少しでいいんだよ。でも、ありがとう」
「気をつけて行ってきてね、ダーリン」
「アイ ラブ ユー、ハニー!」
 フアンは、馬でカプリの不思議な小山に向けて、旅立ちました。しかし、三つ目の山を越えたところで、馬が疲れ果てて死んでしまいました。フアンは、馬の死体を残して、歩いて五つ目の山を目指しました。途中で、お弁当を食べました。お弁当を取り出すときに、フアンは背負い袋の中に、猟銃が入っているのを見つけました。
「重いと思ったら、銃が入っていたよ。きっとマリアが心配して入れてくれたんだな」
 それから、フアンは足を止めずに歩き続けましたが、五つ目の山に入る頃には、とっぷりと日が暮れてしまいました。そして、ついにカプリの小山の前にたどり着きました。
「アブリ ポルタ カバリエーラ!」
 フアンは唱えて、小山に入ろうとしました。しかし、小山の中にはすでにカプリが入っていたのです!
「おや…、何だか人間のいい匂いがするな…。ああ、食べたいもんだ」
 カプリの声がしました。フアンは、冷や汗をかき始めました。
「そこにいるのは、人間だね」
「いや、違う!お前と同じカプリだよ」
「お前もカプリなら、どうしてそんなに声が小さいんだい」
「私が女のカプリだからだよ」
「もし女のカプリなら、ここへ入っておいで」
「絶対だめよ!きっと、私とけんかをするつもりでしょう!?」
「やっぱりお前は人間なんだな」
「違うわ!本当にカプリだって言っているでしょう!信じてくれないの!?あなたが外に出てくるといいんだわ!」
「なぜワシが出て行かんといけないのだ。嫌だね」
「もし出てこないなら、おならをするわよ!」
「すればいいさ!そうしたら、おならの大きさで本物のカプリか分かるさ」
 フアンは、入り口の外でおならをしました。大きな大きな音が、森の中に響き渡りました。実は、フアンは天に向けて、猟銃を放ったのでした。
「実に立派なおならだ。お前は本物のカプリだな」
「騙されたな。俺は本当は人間だよ。外に出てこいよ、カプリ。勝負しよう!」
「嫌だよ、なんで勝負なんか!」
「いいだろ!俺が勝ったら、この不思議な小山は俺のもんだ。俺が負けたら、ここから立ち去るよ」
「カプリが人間に負けるはずないよ。いいだろう、受けて立とう」
「よし、きた!出てこい、勝負だ!どっちのおならの音が大きいかで勝負するんだぜ」
「もしワシのおならがお前よりも小さく、ワシがここから去ることになっても、お金の詰まった袋を一つ持たせておくれよ」
「いいだろう。勝負を受けてくれてありがとな。これで、お前を撃たなくて済む」
 カプリが、洞穴の外に出てきました。そして、おならを一発放ちました。それは、とても大きいおならでした。木々が、おならに吹き飛ばされて折れました。カプリは、大きな声で笑いました。
「これは、ワシの勝ちだな」
 フアンは、言いました。
「なんの。俺は大きいおならをするために、ズボンとパンツを脱ぐよ。ちょっと、そっちを向いていておくれ」
 フアンはそう言って、カプリの視線を逸らせた隙に、こっそり猟銃を取り出し、木々に向かって銃を放ちました。カプリのおならよりもたくさんの木々が倒れました。
「ああ、ワシの負けだ!お前に小山を譲って出て行くよ。でも、約束通り、お金の小袋を一つ持って行くよ」
 カプリはそう言って、大きなジプニーの扉を開けました。フアンは言いました。
「そのジプニーも、俺のもんだよ。お前はお金の小袋を一つだけ持って立ち去る、というのが約束だろ」
 カプリはがっくりとうなだれて、森の中をとぼとぼと歩いて去っていきました。
 カプリの姿が見えなくなると、フアンは、小山の中に入りました。食べ物と飲み物を出して、お腹を満たしました。昨晩は一睡もしていなかったので、それから夕方までぐっすりと眠りました。
 目が覚めるとフアンは、お金の小袋を全部持って外に出ました。小山の外に出ると、日が暮れかけていました。フアンはジプニーにお金の袋を積みました。袋が重くても、ジプニーで家まで運ぶことができる、とフアンは喜びました。
 フアンは、運転席の扉を開けて、ジプニーに乗り込みました。
「あれ、この車、ハンドルがないぞ!」
 カプリのジプニーは、魔法のジプニーなのでした。
「走れ!」
 フアンが命令すると、ジプニーが走りはじめました。木々が道をあけました。
「右に曲がれ!」
 ジプニーは、右に進路を変えました。
「こいつはいいや!口で命令するだけで、思ったように走るらしい」
 フアンは、ワクワクして車を走らせ、家へ急ぎました。ジプニーは、あっという間にフアンの家に到着しました。
「ダーリン!」
 マリアが家から飛び出してきました。
「ハニー!ただいま!」
「ダーリン!ジプニーで帰って来たの!それに、このたくさんの袋は何!中身はなんなの?」
「中身はお金さ!聞いておくれよ。あの不思議な小山が俺のもんになったぞ!」
「なんですって!カプリはどうしたの?」
「俺たち勝負をして、カプリは逃げていったのさ!」
「まあ、カプリと勝負だなんて!あなた、負けなかったの?」
「負けなかったさ!おならで勝負をしたんだよ。俺はおならの代わりに、猟銃をぶっ放したのさ。背負い袋に銃を入れておいてくれて助かったよ。助けてくれてありがとう」
「そんな…。疲れたでしょう、ダーリン。早く家に入って。子どもたちは待ちくたびれて寝ちゃったのよ。私たちも、今夜は寝ましょう」
 次の日、フアンと家族は早起きして、一緒に朝食を食べました。フアンは、カプリとの勝負の様子を家族に話して聴かせました。マリアが言いました。
「ハニーが無事に帰ってきてくれて本当によかったわ。ところで、明日はシェイアの十四歳の誕生日よ」
「小山から持って帰ったお金で、ご馳走を準備してあげられるぞ!子豚の丸焼きだ!親戚や近所の人も招いて、盛大に祝おう!」
 フアンはそう言うと、親戚や近所に、明日の誕生日パーティーのことを知らせにまわりに行きました。人々は、たくさんのご馳走が並ぶ誕生日会に招待されることに、お礼を言いました。
 夜が明けて、今日がシェイアの誕生日です。
「お母さん!私、十四歳になったわ!もう、子どもじゃないわ!」
「きれいな娘に成長して、お母さんうれしいわ」
 マリアは、晴れ着を着た娘を抱きしめました。
 お昼が近づき、たくさんの人々が家に集まってきました。シェイアは感激しました。
「こんなにたくさんの人が私の誕生日を祝ってくれるなんて、生まれて初めて!本当にうれしいわ!」
 お昼になり、皆でご馳走をいただきました。子豚の丸焼き、バナナケチャップとホットドッグにチーズのかかったスパゲティ、鶏のから揚げ、鶏肉や豚肉の煮込み、牛肉のシチュー、ミルクフィッシュの炭焼き、八宝菜、しょう油焼きそば、ビーフン、白いご飯、レーズンの入った黄色く色づけされたもち米の炊き込みご飯、デザートには、果物やナタデココ、タピオカやゼリーをココナツミルクやコンデンスミルクで和えたものや、紫芋やトウモロコシのアイスクリーム、カラフルな甘い甘いケーキがありました。ケーキには、もちろん「シェイア、十四歳おめでとう」と描いてあり、ケーキのまわりは、シェイアの写真やたくさんの風船、マシュマロなどで飾られました。
 皆がご馳走を食べ終わると、フアンは大きなジプニーで人々をそれぞれの家まで送りました。
「フアン、この車、ハンドルなしで走るけど、どこで手に入れたんだい?」
「実は、これは、違う国の乗り物なのさ」
 フアンは、ジプニーをカプリの乗り物だと言わずに、うそをついてごまかしました。
 皆を家まで送り届けて、フアンが家に戻ってきました。マリアが言いました。
「ダーリン、今日は本当に楽しかったわ。シェイアに初めて誕生日会をしてあげられて、とてもうれしかった」
「俺もだよ。今日は本当に楽しかったし、娘を祝ってやれてうれしかった」
「残ったお金は、どうしたらいいかしら。どんな買い物が家族を幸せにするのかしらね」
「家畜をたくさん飼おう。そうしたら、生まれた子豚や鶏を売って、生活していける」
 フアンとマリアは、豚、ヤギ、水牛、鶏、馬、牛、アヒルなど、様々な家畜を飼い、彼らの子どもが生まれて少し大きくなると、市場に売りに行きました。シェイアもレンズも、そのお金で大学に行くことができました。家族の誰かが病気になっても、病院に行ったり薬を買うことができました。こうして、家族は末永く幸せに暮らしました。


 この話は、二十歳のお兄ちゃんが、高校の友達から聞いた話なんだって。ディゴスの叔母さんの家で昼食後にテレビを見ているときに、お兄ちゃんが話し始めるもんだから、ちっともテレビの番組に集中できなかったわ。私は、ペドロが肥溜めに落ちちゃうところでたくさん笑っちゃった!
 


「マリオとヒガンテ」 
語り:ハニー A. フィール(15歳) ビサヤ族  マグペット マタス出身



 これは、この前の秋休みの時に、五つ年上のお兄ちゃんがしてくれたお話。

 むかしむかし、あるところに、マリオという貧しい男が、妻とともに小さな竹の家に住んでいました。マリオは、二十七歳でした。
 また、マリオが住んでいるのとは違う集落には、「ハリ(村の王様)」がいました。その集落のハリは、六十歳くらいでした。
 ハリの住んでいる村から見える大きな山には、「ヒガンテ(人を食べる大男)」が住んでいました。このヒガンテは、コヤ・ジュノくらいの歳(十九歳)でした。
 ある日、ハリは、自分の村から見える大きな山には、いったい何があるのだろうと思いました。芋か果物のなる木か宝物でも見つからないかと思い、その山に行ってみることにしました。 
 次の日ハリは、山に向かいました。遠い道のりを、歩いて行きました。山に着くと、森の奥にヒガンテが見えました。ハリは、一目散に逃げ出しました。ヒガンテは、ハリに気が付きませんでした。
 ハリは、自分の大きな立派な家に戻ると、考えました。
「あの山にヒガンテがいなくなれば、あそこもワシの山になるんじゃが」
 そして、マリオの住んでいる村を訪ねてお触れを出しました。
「大きな山に住むヒガンテを倒した者には、ほうびを出す」
 すると、マリオの村から五人の力自慢の若者が、ハリのもとにやって来ました。
「私こそが、ヒガンテを山から追い出して見せます」
 五人の若者は、次々にハリに言いました。
 マリオもハリのもとを訪ねました。
「もし、彼ら五人みなが戻ってこなければ、私がヒガンテを追い出しに行きましょう」
 次の日、五人の強そうな男たちは、ヒガンテの山に向けて出発しました。五人はヒガンテを口で説得するつもりでしたので、武器は持たずに行きました。五人が山に着くと、ヒガンテが現れました。
「ヒガンテ!この山から出て行け!」
 ヒガンテは、大きく低い声で答えました。
「お前らよそ者こそが出て行け!」
「俺らは、お前をこの山から追い出しに来た。出て行け!」
「何だと?食べられたいのか?!」
「食えるものなら食ってみろ!もともと村に戻るつもりでここに来ていないさ!」
「お前ら五人、そこへ並べ!一人ずつ、食ってやる!」
 五人は、ヒガンテの前に並びました。ヒガンテは、左端の男を右手の親指と人差し指でつまみ上げて、大きな顔の前に持ちあげて言いました。
「食われたいか?それとも遠くに投げ捨てられたいか?」
「止めろ!食われるのも、投げ捨てられるのも嫌だ!」
「いいや、食ってやる!俺の好物は人間なんだ!一人残らず食ってやる!」
「食うがいい!その代わり、俺ら五人をみな食ったら、この山から出て行くんだ!」
「分かった」
 五人の男は、ヒガンテを信じて食べられることにしました。自分たちが戻らない場合、ハリが男たちの妻や家族にお金や服、家具などを渡すと約束していたからです。
 ヒガンテは、五人の男を一人ずつつまみあげて、飲み込んでいきました。しかし、五人の男たち全てを平らげても、山から出て行きませんでした。
 ハリは、五人の男たちが戻らず、ヒガンテも山から出て行かないので、マリオを呼びました。
「マリオ!次はお前が山に行く番だ」
「ハリ、私は一人で山に行きます。同行する男たちはいりません」
 マリオは妻に別れを告げ、山に向かって歩きだしました。背負い袋には、食パンを一斤入れました。道中歩きながら、パンを食べました。
 マリオがパンを食べ終わる頃、道端にマリオの足くらいの大きさのカメがいるのを見つけました。パンを食べてしまい、背負い袋は空っぽだったので、マリオはカメを拾って袋に入れました。そうして、また歩いて行きました。
「ああ、ヒガンテの山は遠いな。疲れてきたよ」
 そう言いながら、歩き続けました。しばらく行くと、道端に黒くて強い五メートルほどの、野菜を支柱に結わえるときに使う紐が、ヘビがとぐろを巻くように落ちているのを見つけました。
「いい紐だな。これも袋に入れておこう」
 そうしてまた歩いていると、今度は大きな銃が落ちていました。マリオは、銃を拾って袋の中に入れました。
「袋がすっかり重くなってしまった。パンを食べ終わった時には空っぽだった中身がいっぱいだよ」
 そうして、カメと紐と大きな銃で重くなった袋を背負い、山へ向かいました。
 マリオがヒガンテの山に着いた頃には、すっかり夜になっていました。ヒガンテは、自分の大きな大きな家で眠っていました。マリオも、バナナの葉を何枚か手で切って地面に敷き、その上に横になりました。パンを全て食べてしまったので、晩ご飯なしで眠るしかありませんでした。
 次の日朝早く、露に濡れて、マリオは目を覚ましました。
「ヒガンテと話をつける前に何か食べなきゃ、腹ペコでやりきれないよ」
 そう言って、バナナを探しました。熟したバナナがなっているのを見つけて、お腹いっぱい食べました。
「ハイ、サラマット…。お腹がいっぱいだ」
 そして、ヒガンテの家を訪ねました。ヒガンテも目を覚まして、朝食を済ませたところでした。
 マリオは、大きな家の扉の外から、大声でヒガンテを呼びました。
「おーい、ヒガンテー!出てこーい!言うことがあるぞー!」
 ヒガンテが家から出て来て言いました。
「何だ、お前?何しに来た」
 マリオは、怒ったような大声で続けました。
「言うことがあるんだよ!この山から出て行け、ヒガンテ!」
「なぜワシが出て行かなければならんのだ!ここは、ワシの山だ!」
 マリオは、考えました。
「どうやら、ヒガンテはこの山から出て行く気はないようだ。どうしよう」
 そして、マリオはヒガンテに言いました。
「では決闘だ、ヒガンテ!どちらの頭にいるシラミが大きく固いか、勝負しよう!」
 ヒガンテは、勝負にのりました。
「いいだろう!シラミの強さで勝負だ!」
 そう言うと、大きな頭から髪の毛をかき分けて、シラミを一匹つまみました。ヒガンテのシラミは、マリオのこぶし二つ分くらいの大きさがありました。
「なんの!俺もシラミを取るから、ちょっとあっちを向いていておくれ」
 マリオは、ヒガンテがよそを見ている隙に、袋の中から道端で背負ったカメを取り出しました。
「これが俺の頭についたシラミだ!」
「あれ!人間の頭のシラミは人間のように小さいと思ったら、立派なシラミが付くんだな」
「さあ、どっちのシラミが固いか潰してみよう」
 マリオは、ヒガンテのシラミを足で踏みつぶしました。シラミが潰れて、お腹からヒガンテの血が出ました。ヒガンテも、右手の親指と人差し指で、カメをつぶそうとしました。
「なんて固いシラミなんだ!潰れないぞ!」
「この勝負、お前の負けだ、ヒガンテ!さあ、山を去れ!」
「嫌だ!ワシは出て行かないぞ!お前が去れよ!ここはワシの土地だ!」
「勝負の約束を破るのか!?いいだろう、もう一度勝負してやる。今度はお互いの髪の毛の強さを比べるんだ。お前が負けたら、今度こそ出て行けよ!」
「よし、髪の毛の強さで勝負だ」
 ヒガンテは、自分の頭から黒くて太い毛を一本抜いて、地面に置きました。
「どうだ!」
「なんの、俺も負けないよ!でも、俺が髪の毛を抜くところは見ないでおくれよ」
 マリオは、袋から拾った黒い紐を取り出し、地面に置きました。
「よし、引っ張って、強さ勝負だ」
 マリオはヒガンテの髪の毛を地面から取ると、両端を握って強く引っ張りました。力いっぱい引っ張ると、ヒガンテの髪の毛は切れました。
「次はワシだ!」
 ヒガンテは、マリオの置いた黒い紐を両手で引っ張り、切ろうとしました。
「なんて固い髪の毛なんだ!切れないぞ!」
「お前の負けだ!さあ、去れ!」
「待ってくれ!お願いだ、もう一度だけ勝負してくれ!これが最後だ!これに負けたら山から出て行くよ」
「分かった。何で勝負する?」
「おならの大きさで勝負だ!」
「よし、おならだな!もしお前が負けたら、絶対に出て行けよ!」
「ああ、約束だ。もし負けたら、山を去るよ」
 マリオは言いました。
「ヒガンテ、お前が先攻だ!」
 ヒガンテがお尻を突きだし、大きなおならを放ちました。家の前の大きな樹が、一本吹っ飛びました。ヒガンテは笑いました
「次はお前だ、人間。人間のおならなんて、小さいもんさ。ワシのおならのように、樹は倒せないだろう。お前が負けるに決まっている」
 マリオは、袋から大きな銃を取り出して構え、ヒガンテの右ひざに狙いを定めました。
「実は、俺は先刻おならをして、この中に入れておいたのさ。今からそのおならを出すよ」
 マリオはそう言うと、ヒガンテのひざに向けて、銃を放ちました。ヒガンテが右ひざを折り、倒れました。
「うわぁ!助けてくれ!なんて強いおならなんだ!ひざが砕けてしまった!」
 マリオは笑いました。
「俺の勝ちだ!さあ、出て行け!」
 ヒガンテは、しょぼしょぼと泣きながら山を下りていきました。
 マリオは、ヒガンテの大きな家の中に入りました。そこには、食べ物がたくさんあったので、満腹になるまで食べ、眠りました。
 次の日、マリオは自分の村に向けて歩き出しました。村に着くと、人々がマリオを出迎えました。村のみんなは、マリオが無事に帰って来たので、とても喜びました。
 妻が家から飛び出してきました。
「マリオー!無事なの!?心配したのよ!」
 マリオは、駆け寄ってきた妻を抱きとめました。そして、再会を喜んだ後、ハリの家に報告に行きました。
「おめでとう、マリオ。よく、ヒガンテを山から追い出してくれた。ほうびを取らせよう」
 ハリはそう言って、お金の詰まって袋をたくさんくれました。ハリは、大きな山からヒガンテが去って自分のものになったので、上機嫌でした。
 マリオと妻は、そのお金でまず家を買いました。そして、タンスや鍋、服を買い、家畜を買いました。豚やヤギ、鶏を飼って彼らの子どもを売るつもりでした。そうして、マリオと妻は、末永く幸せに暮らしました。

 私は、この前の秋休みの時、十月二十七日から十一月五日まで、ディゴスにあるパパの妹の家で過ごしたの。晩ご飯を食べ終わった後、テレビを観る気分じゃなくて、
「お兄ちゃん、お話してよ」
って頼んだんだ。その時、叔母さんの家には、パパとお兄ちゃん、弟、叔父さんと叔母さん、それから叔父さんと叔母さんの子どもが二人いて、みんなでお話を聴いたのよ。お兄ちゃんはパパからこのお話を聴いたから、パパは話を知っているんだけど、みんなで笑ったわ。私のパパは、冗談を言うのが好きなの。今度は、クリスマスにパパと会えるといいな。


 Honey A. Fiel
15歳 ビサヤ族 マノンゴル高校1年生(6年制)



 ハーイ!私の名前は、ハニー。でも、みんなからは「モクモク」とか「モキ」って呼ばれてる。
 一応、出身はマグペットのセントロのマタスってことになってる。MCLに来る前は、パパとそこに住んでたから。でも、私、幼稚園に通う前の保育所の頃からMCLに住んでいるし、パパもママもいろんなところに移動したり、私もパパのところに帰ったり、ママのところに帰ったりで、どこが本当の故郷なのか分からない。
 私のパパはセブアノ族、ママはビサヤ族で、私たちはカトリックを信仰しているの。パパの出身はマグペットで、ママはマニラ。私は、今、マノンゴル高校の1年生で、MCLから通学してる。
 私がMCLに来たのは2009年だから、6歳の時ね。私が4歳くらいの時に、パパとママが分かれて、ママが家を出たの。その時うちには、姉が2人と、兄が1人、私、妹、弟のみんなで6人がいて、パパは本当に大変だったの。パパの仕事は農場労働者で、うちは貧しかったから。それで、DSWD(福祉局)がパパにMCLを紹介してくれたの。
 まず、長女と次女、私がMCLから保育所や小学校に通うことになったわ。でも、長女は小学1年生の時にMCLを出て、パパのところに帰ってしまった。寂しかったんだと思う。今では結婚して子どもが3人いて、ギナティランに住んでる。私より3つ年上の次女も、小学5年生の時に、疲れたって言って奨学生を止めてMCLを出てしまったの。勉強も止めて、結婚して、子どもが1人生まれたわ。今はマグペットにいて、時々会うよ。
 私より5つ年上で20歳の長男、エルマーもMCLの奨学生。でも、エルマーが奨学生になったのは2011年。エルマーは、今はママの家に住んで高校に通ってる。エルマーは高校3年生。私は、兄弟の中で一番エルマーと仲がいいの。
 私の、両親が同じ兄弟は6人で、私は上から4番目。同じママから生まれた7番目の妹は、パパが違って、今10歳。ママは、8番目の妹と、9番目の弟のパパと、私たちのパパと、7番目の妹のパパは違う人。ママは、8番目の妹と、9番目の弟のパパの男性と再婚して、今の私は9人兄弟。7、8、9番目の弟妹は、ママと暮らしていて、6番目の弟はパパとサンタマリアに住んでる。パパは、再婚してない。で、5番目の妹は長女のお姉ちゃんのところにいて、4番目は私でMCLでしょ。家族がいろんなところにいるのよね。
 ママはマグペットにいるから会いやすいんだけど、パパは最近サンタマリアに移ってなかなか会えなくなったから恋しいな。クリスマスにディゴスで会えるかもしれないんんだけど。ディゴスには、パパの末の妹がいるの。私にとっては叔母さんね。秋休みは、エルマーと一緒に叔母さんの家で過ごしたの。
 叔母さんは、私にディゴスの高校に通わない?って言ってくれてるけど、私はMCLが好きだから、マノンゴル高校を卒業するつもり。MCLに来たばかりのころは、寂しくてよく泣いていたわ。特に、パパがMCLに私たち姉妹に会いに来て、帰ってしまう時が辛かった。今は平気だけどね。
 私の夢は、医者か小学校の先生。私が6年生のときは、すごく成績が良くて、いつもオーナーに入っていたの。第1試験が9番、第2試験が13番、第3試験が15番、第4試験が13番で、学校でみんなの前で表彰されたわ。両親の代わりに、ハウスペアレントさんが胸にリボンをつけてくれたの。
 でも、高校の勉強は難しいわね。MCLの奨学生で高校1年生は、私とハスミンとバレンティンがセクションAなんだけど、毎日チャレンジだよ。担任の先生は、まだ26歳の独身の女の人で、とってもいい人。
 小学生の時は、同じMCLの奨学生のマリビックやマイリンと仲が良かったけど、今クラスで仲のいい子たちは、MCLの奨学生でない、地元のペレスとかティコの子たち。奨学生の私たちとは違う生活があって、刺激を受けるよ。他にも仲のいい子がいたけど転校しちゃったから、少し寂しいな。
 それから、高校は金曜の午後は授業じゃなくて、屋外ホールでゲームやスポーツをすることになっていて、それが楽しい。出席自由だから、時々寮に帰ってきて寝ちゃうけどね。
 得意な科目は英語で、苦手なのは数学。好きな色はたくさんあるよ。ピンク、緑、黄色、黒!趣味は、踊ることかなぁ。ビサヤの踊りも、社交ダンスも得意よ。チャチャのステップ、教えてあげようか!
 それから、読み聞かせも得意!なんたって6歳からMCLにいるからね、鍛えられてるの!あの、魔法使いがいちごを盗む話、いつもみんなが集中して聴いてくれるんだよね!
 MCLにいて一番楽しいのも、ストーリィテリングに行くときかなぁ。みんなで車の荷台に乗って、わいわい騒ぎながら遠くに行くのって、本当に楽しいんだよね!私たち奨学生って、貧しい家の子ばかりだから、こういう機会がないと車で遠くに行けるチャンスなんてないでしょ?いつでも、とってもワクワクしちゃう。
 私の両親は分かれて家族はバラバラになっちゃったけど、私はハッピーファミリーを作りたいな。まずは、高校を卒業して、医学部に挑戦できるようにがんばるよ!


 「マミンと小さい妹弟 

語り:ジセル I. アルバイラ(15歳) ビサヤ/マノボ族
プレジデント・ロハス グリーンヒルズ村 プロック8

 

 これは、私が十歳くらいの頃に、おじいちゃんがしてくれたお話。私の祖父母は、現在七十歳をこえていますが、今でも元気に働いています。

 むかしむかし、森の中に、一つの家族が住んでいました。母親と、長女と次女と、末の男の子の四人家族でした。父親は、末っ子で五歳になるエリックが生まれてすぐに、病気で死んでしまいました。長女のマミンは十五歳、次女のシティミーは八歳でした。家族は、森の中にサツマイモやキャッサバ芋、バナナを植え、それを売って生活していました。
 ある日、母親が病気になり、寝込んでしまいました。母親は、マミンに言いました。
「マミン、サツマイモを収穫して町に売りに行き、お米と薬を買ってきておくれ」
「はい、母さん。シティミーは、私を手伝って。エリックは、母さんについていてあげてね」
 マミンと妹は、一緒にサツマイモを収穫し、町に売りに行きました。家族の家は山の奥にあったので、歩いて町に着いた時には、太陽が傾き、家々は橙色に染まっていました。姉妹は急いでお店に行き、サツマイモを売って百五十ペソを受け取りました。そして、そのお金で、お米と薬、それからランプに使う灯油を買いました。
「姉ちゃん、懐中電灯も一つ買おうよ」
「そうね。今から町を出ると、帰り道が暗くなってしまうものね」
 二人は買い物を済ませると、早足で山に帰りました。日が落ちて暗くなった道を、懐中電灯で照らしながらようやく家にたどり着くと、マミンは急いでご飯を炊きました。
「母さん、食べて。薬を飲まなくちゃ」
 マミンは、母親にご飯を食べさせ、薬を飲ませました。母親は熱が高く、ご飯を少ししか食べられませんでした。
「母さん、苦しいの?」
「お願い、マミン。マナナンバル(マッサージや呪いで病気を治す人)を呼んで来てちょうだい。熱で体が熱いの」
「母さん、すぐに呼びに行くから待っててね。シティミーはお母さんの側にいてあげて。エリック、大丈夫だからいい子で寝ているのよ」
 マミンは、母親に水を飲ませるとすぐに外に出ました。辺りは、すっかり夜の闇に包まれています。月のない夜でした。マミンは、懐中電灯をつけて森の中を歩きだしました。
 闇の中で木々がざわざわと音をたて、フクロウのホーホーという声が響きます。マミンは、こんなに夜遅くに森を歩くのは初めてでした。体中に鳥肌がたちましたが、朝を待っていれば、母親が死んでしまうかもしれません。マミンは怖いのを我慢して、マナナンバルの家へ急ぎました。
 ふと、マミンは行く手に小さな灯りが揺れているのを見つけました。
「何かしら…」
 近寄ってみると、大きな樹の根本がぼんやりと光っています。根本には大きな洞があり、光はそこから漏れていました。中を覗いてみると、眩しく、まるで誰かが住んでいるようでした。
「マナナンバルの家はまだ遠いわ。ここに住んでいる人に、薬をもらえないか聞いてみよう」
 マミンはおそるおそる洞の中に入りました。洞の中には、しっかりとした紐がぶら下がっていました。マミンは、その紐をつたって、洞の底に降りていきました。 
 そこは、ヒガンテ(人を食べる大きな鬼)の家でした。家の中には、母ヒガンテと、赤ん坊が住んでいました。母ヒガンテが、マミンが紐をつたって降りてきたのを見て言いました。
「誰だい、うちに勝手に入ってきたのは!出て行っておくれ」
 マミンは、大きく息を飲み込みました。
「ヒガンテの住み家だったなんて!逃げなくちゃ食われてしまう!」
 しかし、見つかってしまったのだから、仕方ありません。マミンは、逃げずに必死に頼みました。
「勝手に家に入ってしまってごめんなさい!でも、母さんが病気なの。父さんはずっと昔に死んじゃったし、小さい妹弟がきっと家で泣いているわ。お願いだから、助けてください!」
 母ヒガンテは、答えました。
「だめだよ。私には、小さな赤ん坊がいるんだ。坊を置いて、お前の家に行けないからね」
「その間、私が赤ちゃんのお守りをします。お願いだから、母さんを助けてください!」
「仕方ないね。では、私がお前の家に行っている間、お前が坊を見ていておくれ。その吊り床に寝ているからね」
「私の家は、森の奥の大きな樹の側にある、竹でできた小さな家です。そこに母さんと妹弟が待っています」
「じゃあ、行ってくるよ。坊をよろしく頼むね」
 母ヒガンテは、樹の洞の底の家の、窓も戸も全て閉じて、紐を昇っていきました。
「なぜ、ヒガンテは出口を全て閉めたのかしら。まるで、逃げられないように閉じ込められたみたい…」
 マミンは不安に思いましたが、母親の病気が良くなることを願って、ヒガンテの赤ん坊の世話をすることにしました。
 吊り床に近づくと、赤ん坊が気持ちよさそうに眠っていました。
「なんて大きい赤ちゃんなのかしら。生まれたばかりだというのに、私の背丈の倍はありそうだわ」
 マミンは、吊り床に手を伸ばし、そっと揺らしてみました。すると、赤ん坊が目を覚まし、マミンを見て激しく泣きだしました。そして、手足を激しくばたばたとさせました。
「あ、だめよ!そんなに暴れたら吊り床から落ちちゃう!」
 マミンは赤ん坊を抱こうとしましたが、大きすぎました。それに、力もマミンより強いのです。
「お願いだから、暴れないで!」
 マミンは、赤ん坊にひっぱたかれたり蹴られたりしながら、あやそうとしましたが、赤ん坊は静まりません。ついには、吊り床の紐が赤ん坊の首に絡まり、動かなくなってしまいました。
「どうしよう、この子、死んじゃったんだわ!逃げなくちゃ!母ヒガンテが戻ってきたら、今度こそ食べられてしまう!」
 マミンは、血相を変えて出口に続く戸を開けようとしました。やっとのことで戸の鍵を壊し、出口につながる紐を探しました。
 その頃、マミンの家から戻ってきた母ヒガンテが、住み家の樹の洞にたどり着き、上から紐をつたって降りてきました。母ヒガンテは、部屋の入り口にいたマミンを見つけて言いました。
「坊は元気かい?」
「よく眠っているわ。私、母さんが心配だから帰るわね」
 そう言うと、マミンは母ヒガンテが降りてきた紐を握り、出口に向かって昇り始めました。家の中では母ヒガンテが、吊り床の紐に絡まって動かなくなっている坊を見つけました。
「小娘め、坊を殺したな!食ってやる!」
 母ヒガンテはマミンを追いかけて、紐を昇り始めました。マミンは、必死に紐を昇っていましたが、ヒガンテに追いつかれてしまいました。母ヒガンテが、手を伸ばしてマミンのズボンを掴みました。
「ああ!食べられてしまう!」
 しかし、マミンのズボンは古く紐が緩かったので、ズボンだけがお尻から抜けて、母ヒガンテの手に残りました。マミンは下着姿で、紐を昇り続けました。
「待てぇ、小娘!」
 ヒガンテが、ズボンを捨てて追ってきます。マミンは、手の痛さも感じず、紐を昇り続けました。
「出口だわ!」
マミンは、たすき掛けにしていた小さな鞄から、小さなナイフを取り出しました。そして、自分の足の位置からすぐ下の紐を、ナイフで切り落としました。母ヒガンテは、洞の底に落ちていきました。マミンは樹の洞から外に這い出ると、母ヒガンテが上がってこられないよう、周りにあった木の枝や石を洞に投げ込みました。バナナの木を探し、腰に葉を巻きました。そして、家に向かって駆けだしました。
 道は暗く、懐中電灯の灯りは小さく、何度も木の根や石につまずいては転びました。喉が渇いて、カラカラでした。
 やっと家が見えてきました。しかし、家に灯油ランプの灯りが見えません。
「なぜかしら…。母さん!」
 マミンは不安な気持ちを抑えて、竹の家のはしごを駆けあがりました。家の中は真っ暗で人気がなく、しん、としています。
「母さん!シティミー!エリック!誰もいないの!?」
 のどがかすれて、叫んでも大きな声が出ません。それでも、マミンは家族の名前を呼びながら、家の中を探し続けました。マミンの家は古く、たくさんの穴が開いていました。そのうちの一つから、泣き声がかすかに聴こえました。
「エリック!?どこにいるの!?」
 マミンは、穴に顔を近づけました。穴の外に、エリックとシティミーが体を寄せ合って隠れていました。
「シティミー!母さんはどこ!?」
「母ちゃん、ヒガンテに食べられたぁ」
 妹が泣きながら答えました。
「なんてひどい!」
 マミンは、目の前が真っ暗になるような気がしましたが、泣いている妹弟を見て、深く深呼吸をしました。
「シティミー、エリック、逃げるのよ!きっとここにヒガンテが戻ってくるわ!さあ、立って」
 三人は、家の側の大きな樹の根本に身を潜めました。光が漏れてはいけないので、懐中電灯はつけませんでした。真っ暗闇の中、マミンは妹弟を抱きしめました。
「エリック、泣いてはだめよ。ヒガンテに泣き声が聴こえてしまう」
 マミンがエリックをあやしていると、エリックは眠ってしまいました。
 しばらくすると、ヒガンテの母親が、悠々とタバコをふかしながらマミンたちの家までやって来ました。
「小娘、どこだぁ!どこに隠れたぁ!姉弟まとめて食ってやる!」
 そう言いながら、マミンたちの竹の家に火をつけ、燃やしてしまいました。そして、燃えている家の周りを、三人を探してのしのしと歩きまわりました。
 しかし、森に朝がやって来ました。朝日が強く輝きました。
「朝になってしまった!戻らなくては!」
 ヒガンテの母親は、三人を探すことをあきらめ、住み家の樹の洞に戻っていきました。
 マミンは弟妹に言いました。
「移動しましょう!もうここには戻ってこれないわ!助けてくれる家を探すのよ」
 マミンは、エリックをおんぶしました。エリックは、泣き疲れてぐったりしていました。
「エリックの体が熱いわ!この子も熱があるみたい。急がなきゃ!」
 マミンはエリックを背負い、シティミーの手を引くと、山を下りて里の方へ向かうことにしました。山から里に出る前に、一軒の小さな竹の家を見つけました。家の周りには、サトウキビやトウモロコシ、キャッサバや野菜、薬草などが植えられ、よく手入れされています。
「あの家に行ってみましょう!」
 マミンとシティミーは、家の前に立ち、声をかけました。
「アイヨー、ごめんくださぁい!弟が病気なんです。どうか助けてください!」
 戸が開いて、年老いた夫婦が顔を覗かせました。
「あれ、どこの子たちだい?ひどい恰好じゃないか。とりあえず、中に入りなさい」
「弟がひどい熱なんです。母さんがヒガンテに食べられてしまったの。薬を分けてください」
 おばあさんは、竹の床にゴザを敷いて、エリックをそっと寝かせました。そして、部屋の隅から、色あせた山吹色に藍色の小花が散った柄のマロン(筒状の大きな布)を取ってきて、マミンに渡しました。
「これを腰に巻いていなさい」
 マミンは、腰からバナナの葉を取り、マロンを巻きました。
「ありがとう、おばあさん」
 おじいさんは家の外に出て、鉈でサトウキビを二本、根本近くから切り出しました。鉈ですとんすとんとサトウキビの皮を削ぎ、部屋に上がって、分厚いしわしわの手で、マミンとシティミーに手渡してくれました。
「ほれ、お嬢ちゃんたち。ご飯が炊けるまで、サトウキビでもしがんでいなさい」
 姉妹は、高床式の家の戸から下に降りるためのはしごに並んで腰かけ、山にいる野ねずみのように、がじがじとサトウキビを齧って甘い汁を吸っては、外にカスを吐き出しました。二人とも、のどがとても乾いていました。サトウキビの甘い汁は、姉妹ののどを滑り落ちて潤していきました。マミンは急いでご飯を食べ終わると、エリックのためにマナナンバルを呼びに行くことにしました。
「シティミーは、ここで待っていて」
「いやだ、姉ちゃん!私も行く!」
「ミー、一緒に行くなら、早くご飯を食べちゃうのよ」
 シティミーが泣くので、マミンは妹を連れてマナナンバルを呼びに行くことにしました。
「おじいさん、おばあさん、弟をよろしくお願いします」
 姉妹が老夫婦の家を出ると、すでに太陽が高いところにありました。
「急ぎましょう!」
 マミンはシティミーの手を引いて、先を促しました。しかし、太陽が頭の上から照り付けてきます。姉妹は、早足で歩き続けました。
「姉ちゃん。ミー、もう歩けないよ」
 しかし、マナナンバルの家に着く前にシティミーが道に座り込んでしまいました。
「足が痛いよう」
 妹は、べそをかき始めました。母ヒガンテから逃げるときに、草履を履いてこれなかったので、姉妹は裸足でした。
「お願いだから立って、シティミー!帰ってくるのが夜になってしまう」
「いや。もう歩けない!」
「マナナンバルを呼ぶのが遅くなって、エリックが死んじゃってもいいの!?」
「いやぁ!」
 足が痛いのはマミンも同じでした。マミンは、急に涙がこみ上げてきました。母ヒガンテから逃げるのに必死で、母親が食べられたと知った時にも出なかった涙が、今にもあふれ出しそうで、息が吸えません。マミンはきつく目をつぶり、自分に言い聞かせました。
「まだ泣いてはだめよ、マミン!泣いていても、エリックの熱は下がらないわ。とにかく、マナナンバルの家まで行かなくちゃ」
 マミンは、ふうっと息を吐きました。そして、しゃがんでシティミーをぎゅうと力いっぱい抱きしめました。それから目を開け、妹の目をじっと見つめて言いました。
「もう歩けないって言うのなら、ここに置いて行くわよ!姉ちゃん、マナナンバルの家まで走って行ってくるから、シティミーはここに座って待っていなさい」
「いやだ、いやだ!姉ちゃんと一緒に行く!」
 マミンは、泣くシティミーを立たせて、自分の上着の裾で妹の涙と鼻水を拭き、竹筒の水を飲ませました。
「ほら、そんなに泣いたらのどが乾いちゃう。さあ、歩こう?あと少しだから、がんばろうね」
 マミンは、シティミーの手を引き、マナナンバルの家を目指しました。
 とうとう、二人はマナナンバルの家に着きました。しかし、扉が閉まっています。マナナンバルは出かけてしまい、留守のようでした。マミンはひどく落胆しました。
「どうすればいいのかしら…」
 シティミーがまた泣き始めました。マミンは気を取りなおし、私がしっかりしなくちゃと、自分に言い聞かせるように言いました。
「ミー、泣いていても仕方ないわ。エリックのところへ帰りましょう」
 真上にあったと思った太陽が、気が付けばずいぶん低いところに降りています。姉妹はもうくたくたでしたが、懸命に歩きました。
 太陽がどんどん降りて来て、山々の向こうに赤い夕焼けがきれいでした。姉妹は小川を渡り、少し休憩をしました。小川の水を飲み、土埃で汚れた顔を洗い、足を冷たい流れに浸しました。
 マミンは、痛む足をさすって立ち上がりました。
「さあ、シティミーも立って。急がないと、暗くなってしまう。」
「姉ちゃぁん、ミー、もう歩けないよう」
 マミンは、笑う膝を両手のひらでぐっと押さえつけて、ゆっくりとしゃがみながら言いました。
「ほら、背中に乗りな、ミー。姉ちゃんがおんぶしてあげるから」
 マミンは、シティミーを背負い、歩き始めました。妹は、マミンの背ですうっと眠ってしまいました。太陽が、山に隠れて見えなくなりました。橙の光が淡くなり、草や木々は薄い藍に浸されました。そして、水に溶かした墨が流れてくるように、夜がやって来ました。マミンは、小石につまづいて、立ち止まりました。シティミーを背負いなおし、懐中電灯を灯し、再び歩き始めました。
 里を抜け、森に入りました。山に続く森の中に、老夫婦の家があります。マミンは、額の汗をぬぐいました。ふと視線を木々の先に向けると、白い影が見えます。目を凝らしてみると、それは「バリーテ(白い服を着た女の人)」のようでした。バリーテは、木々の間をふわふわと彷徨っていました。
「誰かしら…。服も、肌の色も真っ白で、とてもきれいな若い女の人だわ」
 シティミーもマミンの背中の上で目を覚まし、目をこすりながら言いました。
「姉ちゃん、あれ誰だろう。とても白い女の人だね」
 マミンは、バリーテに尋ねました。
「お姉さん、道に迷ってしまったのですか?私、道を知っているのでよければ一緒に森を抜けましょうか」
 白い女性は黙ったまま木々の間をふらふらと歩いているだけで、返事がありません。
 シティミーも聞きました。
「お姉さん、どこから来たの?さっきまで、いなかったよね。もう真っ暗で怖いから、私たちと一緒に行こうよ」
 バリーテが木々の間から二人のところへ近づいてきました。
「いい子たちね。こんなに遅くなって、どうして森を歩いているの?それに、裸足じゃないの。何か困っていることがあるんじゃない?」
 マミンは、答えようとしました。いろんな思いが頭をぐるぐるとめぐって、鼻の奥がツンとしました。
「…私の、私の弟がひどい熱なの!マナナンバルを呼びに来たけど、留守だったの!」
 一気にそれだけ吐き出しました。それ以上しゃべると、泣きだしてしまいそうでした。
「まあ…。私、きっとあなたたちを助けてあげられるわ」
 そう言ってバリーテは、真っ白な服の下から、マミンのこぶしより一回り大きいほどの金の塊を取り出しました。
「これを、あなたたちにあげる」
「わあ、キラキラしてきれいね」
 マミンは、金の塊を受け取りました。
「それから、これは薬よ。これを弟の体に貼り付ければ、きっと良くなるわ」
 バリーテがくれたのは、何かの木の葉っぱの束でした。
「どうもありがとう!お姉さん、とってもいい人ね」
「さあ、急いで弟のところに帰ってあげて」
 マミンとシティミーは、白い女性にお礼とさようならを言おうとしました。けれど、女の人の姿は消えてしまいました。
「姉ちゃん!」
 シティミーは、マミンの首にしがみつきました。マミンも、心臓がドキドキしました。妹は、マミンの背から降りました。
「とりあえず、急ぎましょう!」
 マミンと妹は、手をつないで、早足で森を歩きました。姉妹は、おしゃべりせずに集中して黙々と歩きました。二人とも、先ほどの不思議な女性のことを考えていました。
 老夫婦の家まで来ると、おじいさんが家の外に出て姉妹を待っていました。
「マナナンバルはどこじゃ!エリックの熱がひどいんじゃよ!」
 姉妹はおじいさんに駆け寄り、金と葉っぱの束を見せました。
「マナナンバルは留守だったの!でも、森で真っ白い服を着たとてもきれいな女の人に、これをもらったの」
 おじいさんは、たまげて小さく叫びました。
「はー!これは金じゃないか!こんな高価なもの、どうして…!」
 おばあさんが、戸から顔を出しました。
「何をしているんだい!早く薬を持ってきておくれよ!エリックが死んでしまう」
 おじいさんと姉妹は、慌ててはしごを上り、エリックの寝床に近づきました。そして、熱で喘いでいるエリックの服を脱がせ、体に葉っぱを貼り付けていきました。
 
 それから数日後、エリックの熱は下がり、すっかり良くなりました。マミンは、老夫婦にお礼を言いました。
「おじいさん、おばあさん、本当にありがとう。この金の塊を売って、お金にしてください」
「いいのかね?」
「いいんです。このまま持っていても、仕方ないもの」
「分かったよ。それから、よければ私たちの家にずっといてくれないかね。私たちは、子どもがいなくて寂しいんだよ」
「本当ですか!うれしい!私たちも、両親がいなくて寂しいんです」
 おじいさんは、服の下に金の塊を隠し、町まで売りに行きました。おばあさんが、おじいさんに付き添って行きました。老夫婦は、町で一番大きな家に住むハリ(王様)を訪ねました。
「アイヨー!ハリ、この金の塊を買ってくださいませんか」
 ハリは、目を丸くして叫びました。
「これは、何と大きな金塊だ!どこで手に入れた!」
 おじいさんは言いました。
「それは、答えられません。買ってくださいますか?」
「いくらだね?」
「この大きな家と交換しませんか?」
「いいだろう。お金の詰まった袋を十袋、余計に付けてやる」
 ハリは、大喜びで金の塊を受け取り、引越しの準備をして、家を移っていきました。また、老夫婦も大喜びで、山の家に三人を迎えに行きました。
「これで、子どもたちに服を買ってやれるし、学校にも行かせられる。市場も近くなって、長い距離を歩かなくてすむ」
 マミンとシティミーとエリックは、山から町に出て、大きな家を見て歓声を上げました。
「ここが私たちの新しいうちなの!」
「姉ちゃん、大きいね!こんな家に入るの、初めて!」
「私たち、学校にも行けるのね!」
 ハリの家は、とても大きいので、三人はそれぞれ一つづつ部屋ももらいました。しかし、夜はマミンの部屋に集まって、一緒に眠りました。三人は、新しいお洋服も買ってもらえることになりました。
「母さんが死んじゃって、家も焼けちゃったけど、私たち生きていけそう」
 マミンは、自分や妹弟を生かし、新しい人生を与えてくださった目に見えない何かに感謝しました。
 家を移って数日後の夜のこと、マミンは眠る前に、窓を閉めていました。ふと外を見ると、庭のマンゴーの木の影に、先日森で出会った白い服を着た女性が立っています。
「あ、あなた!森で私たちを助けてくれたでしょう!?」
 マミンは、家から裸足で外に飛び出し、白い女性の手を取りました。
「ずっとお礼が言いたかったの!本当にありがとう!あなたのおかげで弟の熱は下がったし、今ではこんな立派な家に住まわせてもらっているの」
 白い女性は言いました。
「私もお礼が言いたかったのよ。森では親切にしてくれて、どうもありがとう。暮らしが良くなったみたいで、安心したわ。これからのこと、不安になって心配しないでね」
 シティミーも、マミンと白い女性の声を聴いて目を覚まし、家から飛び出してきました。
「白いお姉さん!この前はどうもありがとう!エリック、元気になったのよ!」
「あら、あなたも起きてきたの?弟さんが良くなって、ほっとしたわ。さあ、お布団に戻って、もう寝なさい。私も行くわ」
 そう言うと、白い女性は消えてしまいました。姉妹は、顔を見合わせました。
「白い女の人、消えちゃったね」
「ミー、部屋に戻ろう」
 姉妹は、雑巾で足の裏を拭って、布団に戻りました。シティミーは、すぐに寝息を立て始めましたが、マミンはなかなか寝付くことができず、何度も寝返りを繰り返しました。
「いったい、あの女の人は誰だったのかしら…?」

 次の日の朝、老夫婦は三人を大きなお店に連れていきました。学校に行くために、制服や、服を買うためでした。三人の服は、穴だらけでボロボロだったのです。三人は、新しい服を買ってもらって、とても幸せでした。
 お店から家に戻ると、マミンが言いました。
「おばあさん、私がご飯をつくるから、おじいさんと休んでいてね。今日はどうもありがとう」
「水汲みは、ミーがするね」
 シティミーは、井戸へ水を汲みに行きました。エリックも、シティミーの後について、一緒に行きました。
 晩ご飯を食べているときに、おじいさんが言いました。
「明日は早起きをして、山に戻ろう。トウモロコシが収穫の時期だからね」
「はい、おじいさん」
 次の日、マミンはまだ暗いうちに目を覚まし、ご飯を炊きました。お弁当を持って行くので、たくさん炊きました。山のトウモロコシ畑では、たくさんのトウモロコシが実を付けて、収穫されるのを待っていました。老夫婦が、山に住む人々に収穫の手伝いを頼んだので、仕事はどんどんはかどり、たくさんのトウモロコシが収穫できました。
「この季節の収穫は豊作だったねぇ」
「よかったねぇ」
 おじいさんとおばあさんは、うれしそうでした。三人の子どもたちも、うれしい気持ちになりました。
 午後、トウモロコシの収穫が全て終わると、老夫婦はお給料を渡すために、山の人々を町の新しい家に招待しました。山の人々は口々に言いました。
「最近まで私たちと同じような仕事をしていたのに、今では立派な家に住んでいるんだね」
「以前は貧しかったが、新学期から子どもたちを学校にやれるんだね」
 マミンはそれを聞いていいことを思いつき、老夫婦に相談しました。
「私たちだけお金持ちになっても仕方がないよ。仕事をがんばってくれた山の人たちに、たくさんお給料をあげよう。そうすれば、みなも新しい家に住めるし、服も買える」
「お前が持って帰った金の塊で、受け取ったお金だよ。マミンのしたいようにするのが一番いいさ」
「それに、私たちも山の人たちが豊かになると、うれしいよ」
 マミンは、収穫を手伝ってくれた人々のために、夕方の食事の支度をしました。大鍋にたっぷりご飯を炊き、おじいさんは鶏を絞め、おばあさんは料理の腕を振るいました。鶏は、青いパパイヤの実と唐辛子の葉っぱのスープになりました。
「さあ、たんと食べていっておくれね」
 山の人々は、大喜びでたくさんご飯を食べました。一日働いてとてもお腹が空いていましたし、いつもはサツマイモやキャッサバ芋ばかり食べているからです。
 ご飯を食べ終わると、マミンはみんなを呼びました。
「さあ、お給料を渡すから、列になってね」
「なんて、いい子どもだろう」
「本当に」
「こんなによくしてくれるお金持ち、今までいなかったよ」
 マミンは言いました。
「私も少し前までとても貧しい生活をしていたから、お金がなくて苦しいのがよく分かるの。みんなで生活を良くしていきましょうよ」
その時、外でエリックと遊んでいたシティミーが家に入ってきて、マミンに抱き付いて言いました。
「姉ちゃん、明々後日はエリックの誕生日だよ」
「本当だわ!ねえ、みんな、明後日の朝、この家に戻ってきてよ。エリックの誕生日を祝うご馳走をつくるのを、手伝ってほしいの」
「ああ、いいよ。明後日だね」
「では、ワシらはそろそろおいとまするよ。家が遠いから、ゆっくりすると家に着くのが夜遅くになってしまうからね」
 山のみんなが帰ってしまい、老夫婦や子どもたちも疲れていたので早めに眠ることにしました。布団に入っても、マミンはあれこれと考えました。
「エリックの誕生日に、何をしてあげれば喜んでもらえるかしら…?そうだ、たくさん食べ物を買おう!それから、贈り物よ。大きなクマのぬいぐるみはどうかしら。きっと気に入ってもらえるわ」
 次の日、マミンはおじいさんとおばあさんと、エリックの誕生日の準備のための買い物に行きました。ご馳走のための肉や野菜、調味料などと、プレゼントのクマのぬいぐるみを買いました。マミンは、家に戻ると、こっそりぬいぐるみを隠しました。エリックを驚かせたかったからです。
 その次の日が、エリックの誕生日でした。山からたくさんの人が、マミンたちの家に準備のためにやって来ました。エリックがきょとんとして言いました。
「姉ちゃん、今日はどうしてたくさんのお客さんなの?」
「今日はあなたの誕生日じゃないの、エリック!」
「そうだ、今日は僕の誕生日だ!僕、六歳になるんだ!」
 エリックはうれしそうに言いました。
 おじいさんとおばあさんと、マミンは、たくさんの料理を作りました。豚肉とジャックフルーツを煮込んで、酸っぱいスープにしました。ハヤトウリやニンジン、若いトウモロコシなどを炒めて煮て、八宝菜を作りました。空芯菜を摘んできて、油でさっと炒めてお醤油を回しかけました。鶏は、から揚げにしました。それから、大きなフライパンで大量のビーフンを炒めました。ココナツの木の中身を刻んで、生春巻きの具にしました。ミルクフィッシュを炭火で焼いて、お醤油にはトマトと玉ねぎと生姜を刻んでいれました。山の人々は、ココナツの実を割って中身を削り、ココナツミルクをしぼりました。それを、サゴやグラマンと和えて、お菓子にしました。キャッサバ芋をすりおろして砂糖を混ぜてバナナの葉で包んで茹でたり、臼にバナナを入れて杵でつき、お団子を作りました。台所は、たくさんの人で大騒ぎでした。たくさんの人の笑い声が響きました。
 たくさんの料理を作ったので、準備が終わる頃には、太陽が頭の真上にありました。マミンは、エリックを呼んで晴れ着に着替えさせ、椅子に座らせました。老夫婦や、山の人々、シティミーも揃って、みんなで誕生日の歌を歌いました。エリックの目から、涙がぽろぽろとこぼれ落ちました。
「僕、誕生日を祝ってもらったの、初めてだよ」
「ここに、母ちゃんもいればよかったのにね」
 シティミーが言いました。マミンの目からも、涙がこぼれました。
「…私、私が母さんの代わりになるからね」
 そして、マミンはエリックに贈りものを渡しました。
「わあ、大きい包みだね。開けてみていい?姉ちゃん」
 エリックは、包みをほどきました。
「うわあ!大きなクマのぬいぐるみだ!ありがとう、姉ちゃん!僕、とってもうれしいよ」
 そして、みんなでお腹いっぱいご馳走を食べました。みんな、とても幸せでした。
 
 六月が近づいていました。学校の履修登録の季節です。おじいさんとおばあさんと子どもたちは、小学校と幼稚園に行って、手続きをしました。マミンは、山で学校に行っていなかったので、まだ小学校を終了していないのでした。マミンは、言いました。
「ああ、学校に行けるんだわ!私、読み書きができるようになるかしら」

 新学期が始まり、マミンは小さな級友たちに混じって、一生懸命勉強しました。先生は、マミンに、どうして今になって学校に入ったのか尋ねました。マミンは、先生とクラスの友達に、父親が死んでからのマミンたちの人生を語りました。
「たくさん辛いことがあったけど、今はこうして学校に行けるようになったの」

 その後、時にはおじいさんが病気になって病院へ運んだりすることもありましたが、幸い良くなりました。おばあさんも、いつも優しく子どもたちを見守りました。子どもたちは、老夫婦の元で安心して暮らしました。学校を卒業して、読み書きができるようになり、仕事が見つかりました。家族は、末永く幸せに暮らしました。

 このお話は、夕食のご飯を炊いている間におじいちゃんがしてくれたの。その日は、ご飯を炊き始めるのが遅くて、暗くなっちゃったのよね。でも、お腹が空いていても、ご飯が炊けるのを待ちながら、みんなでお話を聴いたの、いい思い出だな。

 

 Jicel I. Albaira
15歳 ビサヤ/マノボ族 マノンゴル高校3年生(6年制)

 
 
 私の名前はジセル。でも、みんなにはセンセンと呼ばれています。故郷は、プレジデント・ロハスのグリーンヒルズのプロック8で、プロテスタントを信仰しています。
 私は、6人兄弟の上から3番目に生まれました。父はディゴスの出身でビサヤ族、母はプロック8の出身でマノボ族です。でも、母は2009年に家を出てから戻ってきません。私が7歳の頃のことです。母が出て行く2年ほど前から、私たちのいとこだという18歳ほどの青年がうちで一緒に暮らしていました。しかし、その青年が家を離れてすぐに、母も家を出ました。私たちには、「アンティパスに私たちの服を買いに行ってくるね。すぐに戻ってくるね」と言いました。でも、母は買い物から戻ってきませんでした。母の両親や、父も一緒に探しましたが、見つかりませんでした。
 それからしばらくして、村のうわさで、母は、先に出て行った青年と一緒に暮らしていると聞きました。その後、母は亡くなってしまったのだ、といううわさも聞きました。本当かは分かりませんが、母とはそれっきりです。今小学1年生の一番下の妹は、まだ生まれたばかりでした。祖父母も血圧が上がって体調を崩してしまい、その頃は本当に大変でした。
 私は、2016年の8月からMCLで暮らしているので、今、プロック8の実家には、祖父母(母の両親)と、父、3人の妹が住んでいます。兄と姉はそれぞれ結婚して家を出ました。本当は、今17歳の姉と、19歳の兄がMCLの奨学生だったんです。姉が子どもの頃、血便が出る病気になって、MCLの医療支援を受けました。そして、兄と姉が奨学生になったんです。2人は実家から高校に行っていたけど、2013年頃に止めてしまいました。母親がおらず、勉強を続けるのが難しい、と2人は言いました。
 姉は昨年17歳で結婚しました。相手は携帯のメール友達で、最初父は反対したけれど、姉がどうしてもその人と結婚したいというので、許しました。父は、小さな土地にバナナを植えて、それを売って収入を得ています。祖父母も、もう70歳を越えていますが、ゴム農園で樹液を集める仕事や、他の人の畑で草刈りなどをして、家計を助けています。でも、生活は苦しいです。時々、お昼ご飯を食べることができません。お米も買えないときがあるので、その時はキャッサバ芋やサツマイモ、バナナを食べています。
 実家から学校に行っていたときは、お米がないとお弁当が持って行けないので辛かったです。でも、お弁当を持っていけなくても、お昼ご飯抜きで勉強していました。学校を休みたくなかったからす。今はMCLにいるので、3食お腹いっぱい食べることができます。
 私がMCLの奨学生になったのは、2014年のことです。訪問者の方が、プロック8を訪ねたときに、私の支援を申し出てくれたのです。最初は実家から通学していましたが、高校が遠いし、経済的にも大変なので、MCLに移りました。兄と姉が家を出て、私が一番上の子どもだったから、家のお手伝いをする人がいなくなって心配だったけど、父は、学校を卒業することが大切だから、MCLの寮に入ることを許してくれました。でも、3人の妹たちは、私が寮に入ることを寂しがりました。
 私の夢は看護師になることです。姉が病気で入院しているとき、私が付き添っていました。その時、看護師さんたちを見て、憧れたんです。病気で辛い思いをしている患者さんたちを助けてあげたいです。それに、お給料で家族の生活を楽にしてあげたいし、妹たちも勉強を続けてほしいです。兄と姉は学校を止めてしまったけど、私はがんばりたいです。
 高校で好きな科目は科学で、苦手なのは英語です。踊ることが好きです。好きな色は黒です。MCLで一番楽しいことは、友達と一緒におしゃべりしたり、遊ぶことです。でも、時々、家がとても恋しいです。私は父や祖父母、妹たちと仲がいいので、家族みんなが元気にしているか心配になります。もうすぐクリスマスのお休みで帰省できるから、久しぶりに家族と会えるのがとても楽しみです。
 MCLの献立で一番好きなのは、鶏肉のしょう油煮です。私は、MCLの料理当番で料理を覚えました。家に帰ったら、みんなに作ってあげたいです。来年の4月には、私のすぐ下の妹も小学校を卒業して、高校生になります。家族のためにも、まず私が高校を卒業して、大学で学んで、看護師になる夢を叶えたいと思います。夢を叶えるチャンスをくれた支援者の方に、たくさんありがとうを言いたいです。

                              (2017年12月10日)

 「グアバ畑の兄弟」
語り:ジョバート L. マイラン (17歳) トゥマンディン村カヨパトン集落

 
 
これは、11月からMCLの寮に入ったジェリーが、晩ご飯の後に、僕たち男の子に語ってくれたお話。ジェリーはトゥマンディン高校の友達から、この話を聴いたんだって。

 むかしむかし、あるところに、とても貧しい一つの家族がありました。両親は共に六十歳を過ぎており、病気がちでいつも臥せっていました。年老いた夫婦には、男の子が二人いました。兄は十五歳、弟は十三歳でした。父親が元気な頃はバナナを植えたりもしていましたが、今家族に残っているのは小さな「バヤバサン(グアバの木が生えている畑)」だけでした。
 十二月のある日、父親が兄弟に言いました。
「息子たち、畑に行ってグアバの実を採ってきておくれ。夕食に食べるものが何もないんだよ」
 兄弟たちは、面倒だな、と思いました。お昼を過ぎても遊んだり昼寝をして、グアバ畑に行きませんでした。結局兄弟は、午後遅くにようやくグアバを採りに行き、夜になって大きな麻袋一つ分のグアバの実を持って家に帰りました。
「父さん、母さん、ただいま。グアバの実を採ってきたよ」
 しかし、父親は病気と飢えで、兄弟の戻る前に息を引き取ってしまっていました。母親は泣きました。
「どうしてお前たちは遊んでばかりで、すぐにグアバの実を採りにいってくれなかったんだね」
 兄弟も泣きました。
「ごめんなさい、母さん」

 それから数日は、兄弟が取ってきたグアバを食べて過ごしました。母親は相変わらず具合が悪く、いつも横になっていました。家族は、グアバの実をすべて食べてしまいました。母親は、寝床から弱々しく言いました。
「お前たち、すまないが、グアバ畑に戻って、大袋いっぱいに実を採ってきておくれ。うちにはお米もお金もないし、助けてくれる親戚も近くにいないからね」
 兄弟たちは、今度も言いつけを守りませんでした。すぐに畑に行かずに遊び続けて、家にグアバの実を持って帰る頃には、すっかり夜になっていました。
「母さん、ただいま」
 返事がありません。兄弟の帰りを待っているうちに、母親も病気と飢えで死んでしまったのでした。
「ああ、これからどうしよう」
 兄弟たちは泣きました。とりあえず、母親を埋葬しなければなりません。兄は母親の両手を、胸の上で組ませました。
「おや、この、母さんの指輪、金じゃないか」
 兄が、母親の左腕の薬指を見て言いました。
「これを売れば、お金になる」
 兄弟は、母親の薬指から指輪を抜こうとしましたが、しっかりとはまっていて抜くことができません。兄は台所から包丁を持ってきて、母親の薬指を切り落としてしまいました。そして、左手の薬指のなくなった母親を、お墓に埋めました。
 兄弟は、大きなお店に、母親の指輪を売りに行きました。指輪は高く売れ、兄弟はお金持ちになりました。兄弟は、そのお金で大きな家を建てました。両親と暮らしていた家は、雨漏りがひどかったのです。兄弟は、グアバ畑に実を採りに行かなくてもよくなりました。家を建ててもまだまだお金があって、お米を買うことができたからです。
 月日はあっという間に流れました。八月のある日、夕方から激しい雨が降り続いていました。夜になっても雨は降り止まずに停電し、辺りは真っ暗になりました。兄弟は、ロウソクに火を灯しました。
 と、家の扉をこつこつと叩く音がします。
「アイヨー。水を一杯いただけませんか」
 扉の外から、雨音に紛れて、年老いた女のしわがれた声がします。
「少し待ってください、おばあさん。今、汲んできますから」
 弟が、台所からコップに水を汲んで持ってきて、扉を開けました。
 扉の外には、ぐっしょりと濡れた痩せた老女が、頭から布を被って立っていました。暗闇のなか、ロウソクのチラチラと揺れる光に、老女の影が大きく浮かび上がりました。
「おばあさん、お水です。そんなに濡れてしまって大丈夫ですか」
 老女はお礼を言って、左手を差し出し、コップを受け取ろうとしました。
 兄が言いました。
「あれ、おばあさん、薬指がないじゃないですか!誰に切られたんですか?」
 突然、老女が被っていた布を取り、兄の顔を指さして叫びました。
「お前だ!」
 
 母親が鬼になり、兄弟の元に戻ってきたのです。兄弟は、許しを請い、必死に逃げようとしましたが、老女に捕まり、首を折られて食べられてしまいました。おしまい。

 
この話を土曜日の夜の読み聞かせの練習でジェリーさんがしたとき、「お前だ!」とおばあさんが叫ぶ場面で、みんなの悲鳴がサードハウスに響き渡りましたね。
 僕も、昔話を覚えてみんなを楽しませたいと思ったので、一生懸命ジェリーの話を聴いて覚えたんだよ。兄弟は、指輪を取るためでも、お母さんの指を切ったらいけなかったよね。怖いけど、僕、この話を気に入っているんだ。


 Jobert L. Mailan
 17歳 マノボ族 マノンゴル小学校6年生

 
 ハーイ!オレは、ジョバート。みんなには、「インバク」っていうニックネームで呼ばれてる。17歳で、キダパワンのマノンゴル小学校6年生。昨年の6月から、MCLに住んで学校に通っている。民族はマノボ族で、信仰もマノボの神さま、「マナマ」を信じてる。出身は、トゥマンディン村のカヨパトン。小学校4年生までは、トゥマンディンの小学校に通ってた。
 でも、小さい頃は学校が遠くて行ってなかったから、14歳でやっと小学校3年生を終了できた。2つ年下のジムジムの方が、ちゃんと学校に行っていて、もう高校1年生。ジムジムは2014年にMCLの奨学生になってキダパワンに移ったけど、2015年はオレの2つ年上の兄ちゃんのジュノも学校を止めてダバオで働いてたから、ジムジムはとても寂しくて、オレもMCLの奨学生になって、一緒にMCLに住んで通学したいって頼んだ。で、オレも2016年の6月、小学5年生からMCLの奨学生になったってワケ。この3月に父ちゃんも死んじゃったから、末っ子で8つのメルボーイもMCLに引き取られて、男兄弟4人でMCLに住んでる。
 MCLに移った頃はつらかったよ。学校でも、先生が何言ってるか分からないし、いつも教室で寝てるか、抜け出してMCLに帰ってきてた。トゥマンディンの学校には友達もたくさんいたし、好きな女の子もいたし、楽しかったんだ。MCLでも、ご飯を食べずに、「山に帰る」って、よく泣いてたよな。今考えると、ちょっと恥ずかしいぜ。でも、もう大丈夫さ。学校も、MCLの生活も楽しんでる。ちょっと、大人になったのさ。
 前はよく女の子たちにちょっかいを出してたけど、今はしないぜ。今は、勉強の方が大事だって思ってる。来年の3月に小学校を卒業したら、このままMCLからジュノやジムジムと同じマノンゴル高校に通って、「K-12」を終了したいんだ。高校を卒業できる頃には23歳になってしまうけど、挑戦したい。それで、できれば大学に行って、技術士になりたい。
 ジュノの上には、兄ちゃんが一人、姉ちゃんが2人いるけど、みんな学校を止めちゃったんだ。今は兄ちゃんが山でバナナやトウモロコシ、ゴムを育てているけど、僕はカヨパトンに戻らずに、エンジニアになりたいよ。オレたち家族は仲が良かったんだけど、オレが小学1年生の時、母ちゃんが死んだ。小学1年生って言っても、もう11歳か12歳くらいだったと思う。家族や親せきたちと、山にコーヒーの実を採りに行ったんだ。売って、お金にしようと思ってね。でも、母ちゃんが、コーヒーの木から落ちて、それがもとで病気になって、あっけなく死んでしまった。お金がないから、病院にも連れていけなかったんだ。オレも学校を休んで一緒に山に行ったから、母ちゃんが木から落ちたとき、側にいたんだよ。
 父ちゃんは、この3月に死んだ。オレはMCLにいたから、死んだとき会えなかったんだ。ずっと咳をしていて、体も弱くなっていたのに、山で働いていたんだ。結核だったらしい。ジュノも結核だけど、MCLの奨学生は医療支援があるから、薬をもらえる。オレやジム、メルボーイに結核は移らなかった。
 今、父ちゃんのいた家は、お化けが出るってみんな怖がって、誰も住んでいない。兄ちゃん、2人の姉ちゃんは結婚して、みんなカヨパトンに住んでいるけど、それぞれ別の家を建てているよ。秋休みは、2番目のジョベリン姉ちゃんの家で、オレ、ジム、メルボーイは過ごしたんだ。ジュノだけ、父ちゃんも母ちゃんもいない村に帰りたくないって、MCLに残った。
 オレは、カヨパトンもMCLも好きさ。秋休みは、山でバナナ畑を手伝ったよ。ジムジムは薪を集めたり、バスケットボールをして遊んでた。二学期からMCLに移ったジェリーもオレたちの友達さ。先週から二学期が始まって学校に戻ったけど、久しぶりに友達と会えて楽しいよ。ただ、クラスメイトがまだ子どもなんだよな。一緒につるむのは、やっぱり同じ年頃の男がいいぜ。
 好きな科目は、国語、数学。英語も苦手だけど、がんばってるぜ。5年生の頃はABCも全部覚えてなかったけど、今は難しくてもちゃんと授業を聞いてるし、宿題も提出してる。嫌いな科目は、先生によるな。先生が嫌いなら、その科目も嫌いになる。今年の担任は、27歳のきれいな女性で、いい人なんだ。もう結婚してるよ。去年の担任より、今年の担任の方が好きだな。
 好きな色は、特にないけど緑色。バスケをしたり、ギターを弾くのが好きだよ。ジュノやジムジムはギターは得意だけど、オレはまだ始めたばっかり。でも、楽しいんだ。練習して、いろんな歌を歌えるようになりたいよ。オレの父ちゃんやじいちゃんも、マノボのギター、コッロンや踊りが得意だったんだ。クリスマスにみんなが踊っていたのを思い出すよ。メルボーイだってまだ小さいけど、コッロンを弾ける。
 好きなおかずは、なんでも食べるけど、MCLだったら牛肉と鶏肉が好きだな。カヨパトンにいるときは、豚肉も好きだ。MCLはムスリムがいるから、豚は禁止なんだ。干物の魚は塩辛すぎるから、好きじゃない。MCLでの料理当番や皿洗いも楽しくやってるよ。オレの炊いたご飯はうまいぜ。途中で遊びに行かず、ずっと鍋についてるからな。父ちゃん母ちゃんや村を恋しく思うこともあるけど、大丈夫さ。MCLでハッピーにやってるよ。

 
「フアンと大きい水の妖精」 
語り:ジムジム L. マイラン(15歳) トゥマンディン村カヨパトン集落
 

 
これは、僕が七歳くらいの時に、じいちゃんがしてくれたお話。僕は両親の家で暮らしていましたが、ときどき祖父母が恋しくなると遊びに行って、祖父母の家で寝ていました。その時にしてもらったお話です。

 むかしむかし、あるところに、一つの家族が住んでいました。夫のフアンは二十歳、妻のベンサイ・ルマバッグ・ラボットは二十二歳、一人息子のペドロは生まれてまだ六か月でした。
 フアンとベンサイは、二年前に結婚しました。フアンは怠け者で働くのが嫌いでしたが、いい顔の男でしたので、ベンサイはフアンと結婚したかったのでした。ベンサイは、美人ではありませんでした。ベンサイはフアンのことを、「ハーン」と呼びました。フアンが働かないので、家族はとても貧しい生活をしていました。
 ある日、ベンサイはフアンに頼みました。
「ハーン!家に食べるものが何もないから、山に行って探してきておくれ」
 しかし、フアンはゴザの上にごろごろと転がっていて、立ち上がる気配も見せません。食べるものはないし、赤ん坊は泣くし、掃除も洗濯も炊事もフアンが手伝わないので、遂にベンサイは、我慢ができなくなりました。あまりに腹が立って、我を忘れました。
 ベンサイは、木の太い棒を台所から持ってきて、フアンをぶち始めました。フアンの両腕と両足の骨を折って、やっとベンサイは静まりました。
「もう、お前なんか御免だよ。さっさと出て行きな」
 ベンサイにそう言われて、フアンは道を転がって進んでいきました。
「俺は、もうだめだ。高い崖の上から、身投げして死んでしまおう」

 フアンは山の中の崖に到着し、思い切って崖の上から身を投げました。崖の下には、大きな川が流れていました。フアンの体が水面に落ちる前に、何か大きいものが水の中から現れ、フアンを受け止めました。
 フアンを救ったのは、水の中に住む、大きな体の妖精でした。浅黒い肌をして、太っていて、腰にバナナの葉を巻いていました。髪の毛は黒く、針金のように固く、背中に垂れていました。大きな耳をしていまいた。歳は、フアンの父親と同じか、少し若いくらいに見えました。
「なぜ、身投げなんてするんだ」
 妖精が尋ねました。
「俺は、怠け者で仕事が嫌いなんだよ。俺が食べ物を探しに行かないから、嫁が怒って俺をぶったんだ。骨が折れて、俺の体は使いものにならないよ。いっそ、死んでしまおうと思ったのに、どうして助けたりなんかしたんだ」
 妖精は、フアンをかわいそうに思い、水の中にある家にかくまってやりました。
 食事の時間になると、妖精は、家の奥から大きな鍋を持ってきました。空っぽの鍋のふたを閉め、
「鍋よ、ご飯でいっぱいになれ」
と命令しました。フアンが鍋のふたを開けると、中には炊き立てのご飯がたくさん入っていました。フアンは驚いて、妖精をじっと見つめました。二人はお腹いっぱい食べました。
 夜、フアンが眠っていると、妖精が近づいてきました。そして、フアンの腕や足に手を置き、
「フアンの腕、足、良くなれ」
と唱えました。
 翌朝、フアンが目覚めると、骨折は治っていました。フアンは、妖精が治してくれたのだ、と思いました。
 フアンが妖精の家に来て一週間ほど経った頃、妖精は言いました。
「フアン、そろそろ家に帰れ。お前の嫁は、食べ物を探してきてくれる夫がいなくて、困っているだろう」
 そして、家の奥から、小さい鍋を持ってきて、フアンに渡しました。
「この鍋も、ワシの大きい鍋と同じように、ご飯やおかずを出せる。嫁にたんと食わせておやり」
 そう言って、鍋を持ったフアンの体を右手で掴み、腕をうんと伸ばして、崖の上までフアンを届けてくれました。フアンは、大喜びで家への道のりを急ぎました。
 フアンは家に着く前に、いとこの青年の家に寄りました。いとこは二十五歳で、結婚していましたが、子どもはありませんでした。夫婦は働き者でしたが、貧しい暮らしをしていました。家も、小さな竹の家でした。
 フアンは、いとこに妖精にもらった鍋を自慢しました。
 いとこは言いました。
「いい鍋をもらったな、フアン。ところで、今夜はうちでタンドゥアイ(サトウキビのお酒)を飲んでいかないか」
 フアンは、お酒が大好きでしたので、ほいほいといとこの誘いを受けました。そして、酔っぱらって眠ってしまいました。その隙に、いとこは、フアンの鍋と自分の鍋をすり替えました。
 目を覚ますとフアンは、鍋がすり替わったことにも気づかずに、うきうきと家への道を急ぎました。
 家に着くと、ベンサイは、まだ怒りが静まらない様子でした。
「そう怒らんでおくれ、ベンサイ。ちょっとそこに座って見ていておくれよ」
 ベンサイを床に座らせると、フアンはその前に鍋を置き、
「鍋よ、ご飯でいっぱいになれ」
と命じました。そして、ベンサイにふたを取らせましたが、中身は空っぽのままです。
「バカなことをしている暇があったら、食べ物を探してきてほしいもんだね!出て行きな!」
 ベンサイは、木の棒を掴み、フアンをぶちました。フアンは、また両腕両足を折られてしまいました。フアンは、転がりながら山に行き、崖から身を投げました。今度こそ、死んでしまうつもりでした。
 しかし、崖の下の川から、大きな体の妖精が顔を出し、フアンが落ちてきたのを見て、受け止めました。
「また、身投げかい?」
「お前のくれた鍋は、ご飯を出さなかったよ!嘘つきめ!」
 妖精は、フアンがいとこに鍋をすり替えられたことを悟りましたが、黙っていました。そして、また一週間が過ぎました。
「フアン、そろそろ帰った方がいいよ。お前の嫁がかわいそうだからね」
 そう言って、家の中から大きな麻袋を持ってきて、唱えました。
「お金でいっぱいになれ!」
 たちまち、袋の中はお金でいっぱいになりました。
「この袋をやるから、お帰り」
 フアンは、喜んで妻のいる家に戻ることにしました。
「今度はベンサイも俺を歓迎するに違いない」
 しかし、フアンは家に着く前に、いとこの家に寄ることにしました。そして、お金を出す大袋を自慢しました。フアンはまたしてもいとことタンドゥアイを飲み、寝ている隙に袋を取り替えられてしまいました。
 それに気が付かないフアンは、家に着くとベンサイに言いました。ベンサイは、お昼ご飯にバナナを煮て、ぼそぼそと食べていました。
「ベンサイ、急いでむしろを持ってきて床に敷くんだ。この袋は、お金を出すんだよ」
 ベンサイは、ご飯の後、赤ん坊に乳をふくませていましたが、吊り床に赤ん坊を寝かせ、竹の床にむしろを広げました。
「お金でいっぱいになれ!」
 フアンは唱えましたが、袋は空っぽのままです。ベンサイは、腹が立って、フアンを木の棒でぶちました。またまた骨を折られたフアンは、転がって山に行き、崖から飛び降りました。妖精に文句を言ってやるつもりでした。
「お前、また身投げに戻ってきたのかね」
 妖精があきれて言いました。
「何を!この大嘘つきが!お前のくれた袋は、ただの袋じゃないか!」
 妖精はフアンに、いとこが鍋や袋をすり替えたことを話し、家の奥から紐を持ってきました。黒くて太い、まるで蛇のような紐です。長さは、フアンが両腕を広げた長さの二倍くらいありました。
「これを使って、いとこから鍋と袋を取り戻すといい」
 妖精はそう言い、右手でフアンを掴んで腕を伸ばし、崖の上に届けました。
 フアンはいとこの家に行って、いとことその妻を問い詰めました。
「言いがかりはよせよ、フアン。俺らはお前の鍋や袋なんて、取っちゃいないよ」
 フアンは、黒く太い紐に命じました。
「二人を縛ってしまえ!」
 黒い紐は、まるで生きているようにいとこと妻のところへ飛んでいき、まとめてぎゅうと縛り上げてしまいました。その隙にフアンは台所へ行き、本物の鍋と袋を見つけました。そして、いとこと妻を縛っていた紐に、戻ってくるように命じ、飛んで戻ってきた紐をベルトのように腰に巻きつけました。いとこと妻は、自分たちは地道に働くしかないようだ、と思いました。
 フアンは、鍋と袋を持って、ベンサイの待つ家に急ぎました。
「ベンサーイ!今度こそ、本物の魔法の鍋と袋を待って帰って来たよぉ!」
 ベンサイはまだ怒っている様子でした。けれども、とてもお腹が空いていたので、フアンが鍋を準備するのを床に座って眺めていました。
 ベンサイの前に鍋を置き、フアンが言いました。
「鍋よ、ご飯でいっぱいになれ」
 ベンサイが鍋のふたを取ると、そこにはご飯があふれるほど炊きあがっていました。ご飯をバナナの葉に盛り付けると、フアンは、鍋のふたを閉めて言いました。
「鍋よ、魚のおかずを出せ」
 ベンサイがふたを取ると、鍋の中にはティラビアを揚げたものがたくさん入っていました。フアンもベンサイも喜んで、ご飯とティラピアをたくさん食べました。
 お腹がいっぱいになると、フアンは床にむしろを広げました。そして、麻の大袋を持ってきて言いました。
「お金でいっぱいになれ!」
 たちまち、むしろの上は、お金でいっぱいになりました。
 フアンは、そのお金を持って、キダパワンの町の市場に行き、家を新築するための材料を買いそろえました。そして、大工を雇って、しっかりした新しい家を建てました。
 ベンサイは、言いました。
「ハーン、どうもありがとう。もう、私、二度とあなたをぶったりしないわ。本当にごめんなさい」
 こうして、フアンとベンサイ・ルマバッグ・ラボットと息子は、食べ物やお金に困ることなく、末永く幸せに暮らしました。

 ジムジム、これは、ジェリーさんのしてくれた話によく似ていますね。おじいさんが話してくれたとき、どのように感じましたか。
 ベンサイがフアンをぶつ場面で、かわいそうに思って泣いてしまいました。フアンは、働くことなくお金持ちになりますが、僕は働き者でいたいです。フアンをかわいそうに思って助けてくれる妖精がいたとしても、フアンのように怠け者だと格好悪いです。僕は、妻をちゃんと助けられる夫になりたいです。



 Jem-Jem L. Mailan
 15歳 マノボ族 マノンゴル高校1年生(6年制)

 
 僕は、ジムジム。アラカンのトゥマンディン村にある、カヨパトンという小さな集落の出身です。信仰は、パヌバットといって、マノボ族の神さま、「マナマ」を信じています。ときどき教会にお祈りに行きます。教会は、川の側の、ジェイローズの住んでいるところ。
小さい時はよくお祈りに行っていたけれど、最近は実家に帰っても料理など家の手伝いで忙しく疲れてしまって、あまり行きません。
 僕は、7人兄弟の6番目に生まれました。下に、8歳の弟のメルボーイがいます。2人の兄の、17歳のジョバートと19歳のジュノもMCLの奨学生で、4人でMCLに住んでいます。僕たちには、両親がいないからです。
  母さんは、僕が小学2年生のとき、父さんは小学校を卒業する直前に、それぞれ病気で亡くなりました。母さんがまだ生きていた頃、ジュノがまずMCLの奨学生になりました。ジュノは15歳、僕が11歳の頃だったと思います。僕は、兄弟の中でもジュノと一番仲が良くて、いつも一緒でした。最近は、僕がいつもジュノの後を追いかけていくのに疲れて、あまり一緒にいません。僕も大人になったのかな。
 僕が、小学4年生に上がる時、ジュノが、僕もMCLの奨学生になって、一緒にMCLから通学しないかと言い、奨学生に応募してくれました。ジュノは、もしMCLから通学すれば、3食お腹いっぱい食べられるし、学校も近いし、読み語りで遠くに行ったり、他の奨学生たちと遊ぶのも楽しいから、と言いました。でも、MCLに来たばかりの時は寂しくて泣いてばかりいました。カヨパトンでは泣いたりしなかったのに。もし、母さんが生きていたら、僕は家を離れてMCLの奨学生になることはなかったと思います。
 でも、MCLの生活で楽しいこともありました。支援物資の中から古着や靴をもらったときは、本当にうれしかったです。
 僕がMCLに来て4か月ほどたった頃の9月、ジュノに恋人ができてMCLの寮から出て、マロンゴンの高校に転校することになりました。僕は、ジュノにMCLにいてほしかったから悲しくて、ジュノをマロンゴンに送りに行った時には、車の荷台で泣きました。ジュノは、ジュノがMCLにいなくても、僕はMCLに残って、学校を卒業しなくちゃいけない、僕は、マロンゴンでがんばるから、と言いました。
 僕は、ジュノが規則を破ってMCLの寮から出ることになって、悲しかったし腹も立ったけど、でも、ジュノのことが大好きでした。でも、寂しくて、ベッドでよく泣きました。2015年の6月に、せっかくジュノがキダパワンの寮から高校に通えることになったのに、1か月もしないうちに学校が合わなくて不登校になり、高校を休学してしまいました。僕は、ジュノがキダパワンの寮を出てカヨパトンに戻る時、一緒に送りについて行きました。
 僕も、ジュノと一緒に家に戻るつもりでした。でも、父さんは、実家の暮らしは、満足に食べるものもなく、学校も遠くて厳しいから、MCLで頑張りなさい、と言いました。僕は、寂しくてしょうがなかったけど、一人でジュノのいないMCLに戻りました。2016年の6月から、アズサに頼んで、すぐ上の兄のジョバートをMCLの奨学生にしてもらい、一緒にMCLに住むことができるようになりました。でも、僕とジョバートは、いつもけんかばかりしていました。その頃には、ジュノもMCLに戻ってきて、僕も小学6年生になり、泣かずにMCLで過ごせるようになりました。この6月に、マノンゴル高校に進学し、勉強を頑張っています。
 夢は、小学校の先生になることです。子どもが好きです。それに、自分と同じような山の子たちにも、読み書きを教えてあげたいと思うからです。だから、僕はジュノみたいに女の子と付き合ったりせずに、勉強に集中したいです。今まで、好きになったのは、一人だけ。今はその娘と会えないけど、今でもずっと好きです。
 小学生の頃は、いつも村に帰りたかったけど、父さんも死んでしまって帰る家がなくなってしまったから、今はそんなに帰るのがうれしくありません。姉さんの家は、気を使うし。僕は、両親と仲が良かったので、今も寂しい気持ちになります。好きなことは、バスケットボールと、ギターを弾くこと。高校の英語も数学も難しいけど、しっかり勉強して、学校の先生になる夢を叶えたいです。


嘘つきのフアン 
語り:ジェリー B. アウェ(19歳) トゥマンディン村カヨパトン集落


 
これは、僕が12歳くらいの頃、お母さんが寝る前に家族みんなにしてくれたお話。お母さんは、お母さんのお父さんからこの話を聴いたそうです。

 むかしむかし、あるところに、フアンという名前の二十六歳の男がいました。フアンは貧しく、地主の家の牛舎に住み込んで、牛飼いをしていました。まだ、結婚はしていませんでした。フアンは毎日、牛舎を掃除し、たくさんの牛に草を集めて食べさせ、水を飲ませました。そして、牛が大きくなると売りに出しました。
 ある日、フアンは台所から包丁を持ってきて、牛たちの尻尾を切り落とし始めました。牛舎の全ての牛の尻尾を切り落とすと、フアンは、牛舎の門を開けました。牛は、尻尾を切られて痛いので、悲鳴を上げながら外に向かって走っていきました。フアンも、切り落とした牛の尻尾を持って外に出て、牛舎の門の前に尻尾を埋めました。それから、大声で叫びました。
「大変だー!地主さま、助けてくれー!大変だー!」
 地主が驚いて、牛舎にやって来ました。
「何事だ、フアン!?」
「地主さまの牛たちが、地面の下に潜ってしまったんだよぉ!」
 地主は、牛舎の前に埋められた牛の尻尾を見つけ、叫びました。
「護衛たち、鍬を持ってこい!急げ!」
 地主の家の護衛の男たちが、鍬を持って駆けつけました。
「土に埋まった牛たちを掘り出して、助けろ!」
 護衛たちは、土に埋まっている牛の尻尾を引っ張りました。尻尾だけがちぎれて、護衛たちの手に残りました。
「だめだ、牛の体は土に埋まったままだ!」
 と、道の向こうの方から、尻尾のない牛たちが、牛舎に向かって帰ってきます。
「あれ、あっちから牛が帰ってくるぞ!」
「フアンに騙された!」
 フアンは、護衛の男たちに取り押さえられ、地主の家の方に引っ立てられました。
 地主は、言いました。
「二頭の牛を屠殺して、料理せよ。明日、フアンを海に捨てる祝いじゃ!」
 その夜は、フアンを海に捨てる宴になりました。地主の妻と、一人娘、護衛の男たち、フアンは牛をたらふく食べました。
 次の日、フアンは大きな麻袋の中に入れられました。そして、二人の護衛たちが、麻袋に入ったフアンを担いで、海までの道を歩いて行きました。道の途中で護衛たちは、袋の口を縛る長い紐を忘れたことに気が付きました。麻袋の口は、短い紐で閉じられていましたが、しっかりと縛るための紐を忘れたのでした。
「しまった、紐を忘れた!」
「取りに戻ろう!」
「大人しくしているんだぞ、フアン」
 護衛たちは、道の脇にフアンの入った麻袋を置いて、もと来た道を急いで戻っていきました。
 フアンは、麻袋の中に詰められて、じっとしていました。そこに、馬の駆ける足音が聴こえます。
「おーい!そこを通るのは誰だー!」
 フアンは、大声で尋ねました。馬の足音が止まりました。
「俺はペドロだよ」
 道を馬で通りかかったのは、フアンの知り合いの十九歳のペドロでした。
「おお、ペドロ、お前か!」
「その声は、フアンさん?こんなところで麻袋になんか入って、一体何をしているんですか?」
「知らないのか?地主がお触れを出したんだ。麻袋に入って一日横になっていた者に、ほうびを出すって」
 ペドロは、それを聞いて喜びました。
「フアンさん、代わっておくれよ!俺が麻袋の中に入ってほうびをもらう」
 ペドロは、フアンを麻袋から出る手助けをし、自分が袋の中に入りました。そして、フアンが袋の口を縛りました。ペドロを麻袋に閉じ込めると、フアンはペドロの乗ってきた馬に乗って、逃げていきました。
 しばらくすると、二人の護衛が長い紐を持って、地主の家から戻ってきました。二人は、道の脇に置かれたままの麻袋の口を、長い紐でしっかりと縛り、抱えて海まで持って行き、投げ捨てました。護衛は、袋の中身が入れ替わったことに気が付きませんでした。ペドロも、自分が海に投げ込まれることなど、思いもよりませんでした。ペドロは、麻袋に入ったまま、海で溺れて死んでしまいました。護衛の男たちは、麻袋が沈んだのを見届けて地主の家に戻りました。
「地主さま、フアンは海で死にました」
「ご苦労だった。ありがとう」
 地主は、フアンが海で死んだと信じました。
 その頃、フアンは馬で道を駆けていました。暗くなるまで走り続けると、山に着きました。そこで馬を下りて休みました。その後、木の枝やバナナや椰子の葉で小さな小屋を作り、そこで暮らしました。
 数年の時が流れました。
 ある日、地主の家に、馬に乗ったフアンがひょっこり現れました。地主と護衛たちは、それはそれは驚きました。
「フアン、生きていたのか!」
「海に投げ込まれたのに、どうやって生き延びたんだ!」
 彼らは、口々に尋ねました。フアンは答えました。
「地主さま。麻袋に入った私は、海に投げ捨てられた後、深い海の底の底まで沈んでいきました。そこで、誰かが麻袋の口の紐を解き、私を助けてくれたのです。海の底の底には村があり、たくさんの人々が暮らしていました。私もそこで、数年暮らしたのです」
「なんと!」
「海の底で、地主さまのご両親に会いました。ご両親は、地主さまに会いたがっています」
「まさか!両親が死んで、もう何年も経つぞ!」
「実は生きていて、海の底の底で暮らしているのです」
 地主は、フアンのことばを聞いて、とても喜びました。地主は、五十歳を越えていましたが、亡くなった両親が恋しかったのです。
「護衛たち、牛舎の牛を二頭料理せよ。ワシは明日、海の底の底へ両親に会いに行く。祝いの宴じゃ」
 地主は、妻と一人娘にしばらくのお別れをしました。
「お前たちは、家で私の帰りを待っていておくれ。戻るのは、きっと遅くなると思う。ワシはずっと両親が恋しかったんじゃよ」
 次の日、地主は自ら麻袋の中に入り、護衛に袋の口を閉じさせ、言いました。
「フアンよ。ワシの留守の間、お前が妻と娘を守っておくれ。それから、護衛の男たちの世話も頼む」
 そして、二人の護衛の男たちが、地主を担いで海に向けて歩き出しました。地主は、フアンとそっくり同じように海に投げ込まれれば、両親に会うことができると信じたのです。
護衛は、地主の入った麻袋を海に投げ入れ、家に戻りました。護衛は、地主が海の底の底で、両親に会っていると信じました。しかし、地主は麻袋に入ったまま、海で溺れて死にました。
 それから、何日たっても、何か月たっても、地主は戻ってきませんでした。フアンは、地主の家に住み続け、妻と一人娘の世話をしました。
 数年が過ぎました。一人娘は美しく成長し、二十歳になりました。一人娘は、フアンを慕うようになりました。フアンも、娘を好いていました。フアンは娘に言いました。
「地主さまは、おそらく帰っては来ないでしょう。きっと、ご両親と離れたくないのです」
 フアンだけが、地主が海で溺れ死んだことを知っていました。それを、誰にも漏らしませんでした。娘とフアンは結婚し、フアンが地主になりました。護衛の男たちも、フアンに従うようになりました。フアンは、もう貧乏な牛飼いではありませんでした。お金持ちの地主でした。フアンと娘、地主の妻と護衛たちは、末永く幸せに暮らしました。

 ジェリーさん、これは、めでたしめでたしなのですか?フアンはペドロと地主を殺してしまいましたよ。
 フアンが嘘をつくことでお金持ちになっていくんですけど、僕はペドロと地主が可哀想だと思ったし、フアンに腹が立ちました。ひどい嘘つきですよね。
 嘘つきが懲らしめられないのが、私の知っている日本の昔話と違うと感じました。
 嘘つきは、懲らしめられてほしいですけどねぇ。



 「サルとカメ
語り:ジェリー B. アウェ(19歳) トゥマンディン村カヨパトン集落


 
これは、僕が小さい頃、じいちゃんがしてくれたお話。

 むかしむかし、あるところに、サルとカメが仲良く一軒の家に暮らしていました。サルは大きな犬くらい、カメは小さな洗濯桶くらいの身長でした。
 ある日、サルとカメは、それぞれ自分の山に、バナナを植えることにしました。
 カメは、家の下手にある自分の山に行きました。そして、鉈で草をはらい、土に火を入れ、「サァ(バナナの苗)」を採ってきて、自分の山に植えました。カメは、一生懸命働きました。
 一方サルは、家の上手にある自分の山に行きました。サルは、山に生えた草を掃うこともせず、火を入れることもせず、「サァ(バナナの苗)」を採ってきて、「バオン」という木に紐で結び付けていきました。「バオン」は、MCLの保育所の中に置く、椅子を作る時に使われる木です。バナナの苗を土に植えずに「バオン」に結びつけるだけでは、根付かずに枯れてしまいます。サルは、「バナナの育て方講習会」に面倒くさがって出なかったので、バナナの育て方を知らないのでした。
 月が満ちては欠け、満ちては欠け、数か月が過ぎました。日が照り、雨が降り、風が吹きました。サルはカメに言いました。
「そろそろ、植えたバナナが実って熟している頃だの」
「そうだな。バナナを採りに、山に行ってみよう」
 
 サルとカメは連れだって、まず、上手のサルの山に行きました。サルの山のバナナは、「バオン」に結びつけたでしたので、一本残らず枯れていました。サルは、がっかりしました。
「次は、お前の山に行ってみよう」
 サルとカメは、下手のカメの山に行きました。カメの山には、たくさんのバナナの木が成長し、実を付けていました。カメは、首を伸ばして、うれしそうに熟したバナナを見上げました。
「サル、僕はバナナの木に上れないから、実を採れない。君が上って、僕にバナナを落としておくれ」
「お安い御用よ」
 サルは、するするとバナナの木に上っていきました。しかし、カメの元に落ちてくるのは、バナナの皮だけです。サルは、バナナを全て食べてしまって、皮だけしかカメに落としませんでした。
 カメは、心の中で、とても怒りました。信じていたサルに裏切られて悲しかったし、屈辱でした。しかし、それを表には出さずに、じぃっと黙っていました。
 サルがバナナを食べ終わったあと、サルとカメは、森に遊びに行きました。森の中の大きな樹に、サツマイモの蔓がからまっていました。カメは、蔓にぶら下がり、はずみをつけて大きく揺らしました。とても楽しく、歓声を上げました。
「次は俺の番だ。早く代わっておくれよ」
 サルがせがみ、カメは蔓の先をサルに渡しました。実は、カメがあんまり勢いよく蔓を揺らしたので、蔓はほとんど切れそうになっていました。カメはそれに気がついていましたが、サルに教えませんでした。
 サルは、喜んで蔓にぶら下がり、大きく揺らしました。すると、ぶつりと蔓が切れて、サルの身は空中に投げ出されました。そして、石に頭を強く打ち付けられ、頭が割れて、死んでしまいました。
 カメは、サルの死体に近づき、「イラブ(鋭い小刀)」を取り出しました。そして、サルの皮をはいで、「カベ(大きい麻袋)」に入れました。それから、「コォハン」を取り出しました。「コォハン」というのは、「ママンやアポグ(噛みタバコ)」を入れる金属や石でできた、小さいお弁当箱のような入れ物です。カメは、頭の割れたサルから脳みそを取り出し、「コォハン」に入れて蓋を締めました。それから、サルの皮と、サルの脳みそを入れた「コゥハン」を「カベ」に入れ、甲羅に結わえ付け、山に向かってのそのそと歩いて行きました。
 山に向かう道の途中で、五匹のサルたちが、草を掃っているのに出会いました。このサルたちも、バナナを植えるようです。五匹のサルたちは、真面目に「バナナの育て方講習会」に出たので、バナナの植え方を知っているようでした。
 カメは、サルたちに呼びかけました。
「サルさんたちじゃないですか。バナナを植えるんですか、精が出ますねぇ。噛みタバコで、ちょっと一服しませんか」
 サルたちは喜んで草刈りを中断して、道の脇の大きな樹の木陰に輪になって座りました。帽子を取り、手拭いで汗を拭きました。カメは、「アポグ」「マニカ」「ママン」を混ぜて、噛みタバコを作りました。ここの人々が、噛みタバコを楽しむときには、「アポグ」「マニカ」「ママン」の三つを混ぜて作ります。「アポグ」は、山の草を掃って火を入れた後に土に落ちている、焼け死んだカタツムリの殻から作ります。炒って白く粉になったカタツムリの殻に水を少し落として泥のようになるまで練ります。「マニカ」というのは、山に生えている蔓性の植物の名前です。「マニカ」の葉の上に、「アポグ」と「ママン」を乗せて、小さなすり鉢に入れ、すりこ木ですります。「ママン」というのは、ヤシの木によく似ていますが、ヤシの木ほど、大きく背が高くなりません。この、「ママン」の実を、「イラブ(鋭い小刀)」で薄く削って、「アポグ」と「ママン」に混ぜます。「マニカ」の葉は緑色ですが、赤い汁を出します。そのため、噛みタバコは赤い色になります。
 さて、カメは「ママ(噛みタバコ)」を作る時、アポグにこっそりと死んだサルの皮や、脳みそを混ぜました。もちろん、五匹のサルたちは、そんなことは夢にも思いません。
 カメはサルたちに言いました。
「さあ、噛みタバコができたよ。口に入れてあげるから、ここに並んでおくれ。目をつぶって、口を大きく開けるんだよ」
 サルたちは、カメに言われた通りにしました。カメは、サルたちの口に、噛みタバコをたくさん入れました。カメは、サルたちが目をつぶっている隙に、逃げ出しました。
 サルたちは、たっぷりと口に入れられたタバコを楽しみに噛みました。

「なんだ、このタバコ!仲間の味がするぞ!」
 サルたちはそう言って、タバコを地面にペッペッと吐き捨てました。そして、カメを追いかけました。そして、樹の洞に隠れているカメを見つけました。
「この野郎!仲間のサルを噛みタバコにして俺らに噛ませるなんて、許さないぞ!」
 そう言って、洞に手を突っ込んで、カメを引きずり出そうとしましたが、洞の奥まで手が入りません。サルの一匹が斧を持ってきて、樹を切り倒しました。そして、カメはサルたちに捕まりました。
 サルたちは、カメに火をつけようとしました。カメは、甲羅の中に、首も、両手両足もすっかり隠して丸まりました。
「火を付けったって、僕は死なないよ。甲羅の中に、隠れているからね」
サルたちは、憤って聞きました。
「それじゃあ、どうしたらお前は死ぬんだよ!」
「水に落とせばいいのさ。そうしたら、溺れて死ぬよ」

 サルたちは、カメを抱えて、森の中の滝つぼに行きました。そして、その中にカメを投げ込みました。滝つぼは深く、カメの姿は水の奥に沈んで見えなくなりました。サルたちは喜びました。
 しかし、しばらくすると、カメが泳いで浮かび上がってきました。サルたちは、悔しそうに叫びました。
「嘘つきのカメめ!騙したな!」
 カメは、大きく口を開けて笑いました。
「水の中が、僕の住みかだ。騙される方が間抜けなのさ」
 そう言って、水の中に潜ってしまいました。サルたちは、滝つぼに小石を投げ込みましたが、ぽちゃんぽちゃんと水音が響くだけでした。
 サルたちは、森に住む全ての動物たちを招集し、緊急会議を開きました。猪、野ねずみ、鹿、鳥たち、鷹、蛇、野生の鶏など、森中の動物が、水辺に集まりました。サルたちは、事情を説明しました。
「そこで、皆に頼みがある。皆で、滝つぼの水を飲み干して、あの憎たらしいカメを探すのを手伝ってほしい」
 動物たちは、滝つぼの周りをずらりと囲み、水を飲み始めました。しかし、飲んでも飲んでも、飲んでも飲んでも、水はなくなりません。動物たちのお腹は、水でパンパンに膨れ上がりました。そうして、パンパンになったお腹が破裂して、サルたちも、動物たちも皆残らず死んでしまいました。
 カメは、水の中から成り行きを見守っていました。そして、サルたちが水の飲みすぎで死んだのを見て、浮き上がって、復讐を果たしたのを喜びました。
 そして、家に帰って、「ボロ(中型の鉈)」を持ちだし、自分の山に戻りました。鉈でバナナの木を切り倒し、熟したバナナを採りました。カメは、ついにバナナを食べることができました。ようやく、バナナをお腹いっぱい食べることができて、とても幸せでした。
 カメと暮らしていたサルは、カメと仲が良かったはずです。カメはサルを信頼していました。でも、サルの心の中は違いました。このようなサルの性格を、「まるで親友の恋人を取るような」と言います。恋人を取られた親友が怒っていないように見えても、サルのように復讐されるかもしれないので、よく気をつけることです。

 ジェリーさんは、このお話の中で、どの場面が一番好きでしたか。
 僕は、サルがバナナの木に上って、皮しかカメに落とさない場面がおかしくて好きでした。物語の最後で、カメの復讐が叶ってよかったな、と、小さい頃は思いましたよ。



 ピーランドックの鹿狩り 
語り:ジェリー B. アウェ(19歳) トゥマンディン村カヨパトン集落


  
これは、僕が小さい頃、お母さんがしてくれたお話。

 むかしむかし、あるところに、ピーランドックという名前の二十歳くらいの青年が、両親と姉と弟と暮らしていました。
 ある日、ピーランドックは、遊び仲間のいとこの青年と共に、集落を代表して、鹿狩りに行くことになりました。皆の食料にするためです。
 ピーランドックや、その家族、集落の者たちで、祈りの小屋でお祈りをしました。
「ノー ポミノグ コス マナマ シ コナミー イニ オド バボイヨ コイト ンガップ…」
 ピーランドックといとこの二人は、お米、塩、ベッチン(化学調味料)、ラマス(香味野菜)、鍋、「ボロ」という中型の鉈などを「カベ」という大きな麻袋に入れて、狩りに備えました。「アポイ」と呼ばれる、マッチのようなものは持って行かず、火打石を「カベ」に入れました。今は、マッチやライターで火をつける方が簡単なのであまり使いませんが、竹で摩擦を起こして、火をつける方法もありました。
 次の日の朝早く、二人は長袖の服を着て、長靴を履き、帽子をかぶって、麻袋を背負い、「カンピラン(大刀)」と「イラブ(小刀)」を腰に差して、山に向かって歩き出しました。長靴を履くのは、「ウワイ」という草のとげが刺さらないようにするためです。長袖を着るのは、森にたくさんの「アリマト」というヒルがいるからでした。ヒルは、土から上がって服に入ってきます。くすぐったいですが、血を吸いにくっつかれると取りにくいです。タバコの火を近づけると、取りやすいです。二人は森に入り歩き続けて、太陽の光に夕方の気配を感じはじめる午後四時頃に、小川の近くの狩場に到着しました。
 二人は、とりあえず休憩することにしました。小枝を集め、火を燃やし、小川の水を鍋に入れて火にかけました。竹を切って、コップを作りました。お湯が沸くと、コーヒーの粉と砂糖をたっぷり竹のコップにいれて、お湯を注ぎ、小指程の太さの木の枝でかき混ぜました。二人は、木陰の岩の上に腰を下ろし、半時程、コーヒーを楽しみました。自分たちで育てたコーヒーの樹から、実を収穫して、乾かして、炒って、挽いたコーヒーでした。山の中は雲が出て薄暗く、肌寒いほどでした。熱く、いい香りのするコーヒーは、二人の身体を温めました。
 コーヒーを飲み終えると、二人は「パヤグ」と呼ばれる小屋を作りました。しっかりした木の枝を組んだり、「バホン」という椅子なども作る木の皮、「バグトク」という竹の一種を使いました。「バグトク」という竹は、穀物の収穫に使う籠を編むときにも使います。パヤグには、小さな炊事場もつけました。竹を長く切って、中を棒でついて節を抜き、水入れを作りました。小川から水を汲んで竹筒に入れ、パヤグに上げておきました。地面に直接、小屋を建てて眠ると、猪や蛇が怖いので、樹の中ほどの太い枝と枝の間にパヤグを作りました。人々は、「マンミライ」という黒い毒のある蛇を恐れました。しかし、蛇の中でも、「ボコサン」という蛇はご馳走でした。
 樹の上にパヤグが組みあがると、二人は晩ごはんにしました。お鍋でご飯を炊きました。小さい滝の近くにたくさん生えている「オポサーオ」という里芋の一種を採ってきて、塩とベッチンとラマスを入れて煮込んでおかずにしました。二人はまだ、鹿を倒していないので、今夜は野菜だけのおかずでした。それでも、「オポサーオ」はおいしいので、二人は満足しました。
 お腹がいっぱいになり、暗くなっても、二人は眠ってはいけません。なぜなら、鹿狩りは夜に行われるのです。明りには、「ボリティク」を使いました。木の升の中に、木が燃えてしまわないように土を入れ、その上に、松やにのような、「ドガ」というよく燃える赤い樹液の固まったものを置き、火をつけました。
 ピーランドックといとこは、パヤグを降りて、パヤグを組み立てた大きな樹の周りに「バーティック」という罠を張りました。鹿の胸元の位置の高さに紐を張り、そこに鹿が引っかかると、鋭くとがった竹でできた小槍が飛び出てくる仕組みです。
 罠を仕掛け終わると、二人は樹の上のパヤグに戻りました。暗闇の中を、蛍の光が舞っていました。ピーランドックは、手を伸ばして、蛍をそぅっと一匹捕まえ、「グラポン」というガラスの瓶に入れました。そして、瓶の口をお尻の穴に近づけ、おならを一発して、急いで瓶の蓋を締めました。蛍は、ピーランドックのおならと瓶の中に閉じ込められて、とても臭いので、とても怒りました。ピーランドックは、蓋を締めて二秒後に蓋を開け、言いました。
「さあ、飛んでお行き。そして、お前の友達がどこにいるのか教えておくれ」
 蛍は、ふわりと舞い上がり、小さな灯が闇の中を遠ざかっていきました。
 それから、一分後…
「キョン!キョン!」
という、鹿たちの警戒する甲高い声が闇の中に響きました。何頭もいるようでした。
「来たぞ!ピーランドック!」
 いとこが声をひそめて言いました。二人は、「カンピラン(大刀)」の様子を確かめました。「カンピラン」は、動物や人を殺す刀で、一メートル半程の長さがあります。今でも、「カフゴ」と呼ばれる最も位の低い兵士が使っています。「カフゴ」は軍服を身につけていますが、軍隊にいる兵士ではなく、お金持ちの私兵です。アラカンでは、バランガイ・サラヤンのサトウキビ畑の護衛に、「カフゴ」が見られます。お給料は、月五千から八千ペソくらいだそうです。「カンピラン」で、草を刈ったり、木を切ったりはできません。藪を掃ったり、木を切るには、「ボロ」という七十センチくらいの鉈や、「ラガラオ」という一メートルくらいの刃で、刃先がとがった鉈を使いました。「カンピラン」はアラカンやサントニーニョの市場でも買えます。作っている人たちがいるのです。でも、人々は護身のために持っているだけで、「カンピラン」で人を殺しにいくことは、滅多にありません。
 パヤグにいる二人に、罠から発せられた竹の小槍に刺さった鹿の悲鳴が聴こえました。
「当たったぞ!急げ!」
 ピーランドックといとこは、パヤグのはしごを滑るように下りました。二人は、カンピランをすっと抜き、構えました。そして、罠を確かめていきました。罠にかかったのは、五頭の大きな鹿でした。紐を引っ掛けても、小槍の当たらなかった鹿は、走って逃げ去りました。小槍の刺さった鹿は、刺さった傷が致命傷ならそれだけで死んでいました。死んでいなくても、ぐったりとして、膝を折っていました。
 ピーランドックといとこは、カンピランでまだ息のある鹿にとどめをさすと、カンピランをしまって「イラブ(小刀)」に持ちかえました。「イラブ」はお米の収穫でも使える小刀ですが、鎌とはまた違うものです。ここの人たちは、噛みタバコに「ママン」と「マニカ」と「アポグ」を使いますが、「イラブ」は「ママン」を薄く切るときにも使います。「ママン」は小さいココナツの木の葉です。「アポグ」は、カタツムリの殻を炒って、粉にしたものです。
 二人は、鋭い「イラブ」で鹿の腹を割き、内臓を取り出しました。狩りの前に、「イラブ」をよく研いでおきましたし、慣れていますので、首尾よく作業は進みました。
そして、パヤグを組み立てた樹の周りに、鹿の内蔵を撒きました。鹿の肉を取り返されたり、襲われないためです。
 ピーランドックといとこは、鹿の長老の声を聴きました。強い声です。近くまで来ているようです。鹿の長老は、普通の牡鹿よりも小さい年老いた鹿で、長い舌を持っていて、魔術を使えます。二人は、鹿の長老がパヤグに来るのを恐れました。
 しかし、パヤグの周りに撒いた鹿の内蔵が臭うので、鹿の長老も怖れて、それ以上近づいては来ませんでした。
 「キョーン!」
と一声、長く鋭く高く鳴き、長老の足音が遠ざかっていきました。
 二人は、五頭の鹿の重い死体を、パヤグに上げました。そして、パヤグからはしごを外し、他の動物が上がってこられないようにして、朝を待ちました。うとうととしても、警戒は解きませんでした。
 夜明けです。朝日が輝き、夜が去りました。明るくなりました。
 二人は、火をおこし、鹿の毛を焼きました。そして、「イラブ(小刀)」で鹿の頭や足、体を切り分けて、「カベ(麻袋)」に入れていきました。肉の解体がひと段落すると、ご飯を炊き、朝ご飯にしました。おかずは、鹿の肉でした。アシン(塩)・ベッチン(化学調味料)・ラマス(生姜やニンニク、トマトやネギなど)で煮込みを作りました。狩りが成功したので、いい気持ちでした。二人はたくさん食べ、食後にコーヒーを飲みました。
 朝食が終わると、二人はパヤグを下りました。五頭の鹿の肉で重くなったカベを背負って、村に向けて歩き始めました。
 村では、皆が二人を待っていました。ピーランドックが家に着くと、両親と姉と弟が出迎えてくれました。ピーランドックといとこは、鹿の肉を村の親せきたちや、村の人に分けました。お金などは受け取りません。昔は、狩りの収穫を、支払いなしで皆で分け合っていたのです。皆で、神さまに豊作の感謝の祈りを捧げました。
「サラマット サ マナマ トイッド パミナンド コス カッド パヌバト ドィ キッコウ ノ オッド バボイヨ トンガップ…」
 ピーランドックの家では、母親や姉が、鹿の肉のしょう油煮や鹿汁をこしらえてくれました。家族で分け合ってお腹いっぱい食べました。皆、とても幸せでした。

 ジェリーさん、今でも村ではピーランドックのように鹿を狩りに行くことがありますか。
 これは、昔の猟の方法です。今は、犬と銃を使うことがあります。また、罠も針金を使い、地面に埋めて、動物の脚を捕らえるものもあります。僕の叔父さんが、この罠の作り方を知っています。 
 蛍をおならと瓶に閉じ込めて、鹿の居場所を尋ねるというのは、本当なのですか。
 本当に、こうしていたそうですよ。でも、母の話を聴きながら、僕は笑ってしまいました。ピーランドックが五頭も鹿を捕まえて、よかったなぁ、と小さい頃に感じたのを覚えています。


 フアンと仙人(原題:A Family)」 
語り:ジェリー B. アウェ(19歳) トゥマンディン村カヨパトン集落


 
これは、僕の小さい頃、お父さんが晩ごはんの後に、家族みんなにしてくれたお話

 むかしむかし、あるところに、一つの家族がありました。夫のフアンは33歳、妻は28歳、娘は12歳、息子は8歳でした。
 フアンはとても怠け者でした。仕事もせずに、食べては寝て、食べては寝て、暮らしていました。フアンが働かないので、家族はいつも食べ物に困っていました。家に食べ物がなくても、フアンは平気な顔をして、ごろごろしていました。
 ある日、家にいよいよ食べるものがなくなり、子どもたちはお腹が空いたと泣きだしました。ついに、妻の堪忍袋の緒が切れました。木の棒を持ってきて、フアンをぶち始めました。フアンはうずくまって腕で顔を隠し、身を守るのみでした。子どもたちは、両親がけんかを始めたので、ますます大きく泣きました。
 フアンを何度ぶっても、妻の気は静まりません。ついに、フアンの両腕と両足の骨を折ってしまいました。フアンは立って歩けなくなりました。絶望して、身投げしてしまおうと、家を這って出ました。妻も、子どもたちも、フアンを止めませんでした。
 フアンは、ぶたれてあざだらけの哀れな姿で、這って、山の中の洞窟までたどり着きました。そして、洞窟の奥の崖から、身を投げました。フアンの身は、深くて暗い、崖の下に真っ逆さまに落ちていきました。
 崖は、深く深く、落ちても落ちても、なかなか下に着きません。フアンは目を固くつぶり、歯をくいしばって、崖の底に打たれるのを待ちました。
 と、フアンは何か大きいものに受け止められました。崖の底には、大きな体をした老人がいて、落ちてきたフアンを受け止めたのでした。
 老人はフアンに尋ねました。
「何かお困りか。一体どうして身投げなんぞしたのかね」
「生活がとても苦しく、家に食べるものがないのです。子どもは泣くし、妻は怒って私をぶちます。おかげでこんなにひどいけがを負わされました」
 フアンは、自分が怠け者だということを隠して、身投げの事情を説明しました。
「そりゃあ難儀だが、身投げするほどのもんかね」
 老人はそう言いましたが、フアンを不憫に思いました。
「どれ、ワシが助けてやろうかね」
 そう言って、大きくしわしわで節くれている手を骨折したフアンの腕や足に当て、けがを治してくれました。そして、洞窟の隅から、鍋を一つ持ってきました。
「よく見ておいで」
 老人は、
「ご飯、出てこい」
と言って、鍋のふたを叩きました。そして、老人が鍋のふたを開けると、そこには炊き立てのご飯が、鍋いっぱいに入っていました。
 「この鍋をお主にやるから、家にお戻り」
 老人はそう言って、フアンを右の手の平に乗せました。腕がすうっと崖の上まで伸びていき、出口までフアンを届けました。フアンは、洞窟から出ると、老人のしたとおり、
「ご飯、出てこい」
と言って、鍋のふたを叩きました。そして、フアンがふたを開けると、そこには炊き立てのご飯がいっぱいありました。フアンは、大喜びしました。
「これで、家族に腹いっぱい食べさせてやれる」
 フアンは、鍋を抱えて、家までの道を急ぎました。
 帰り道の途中で、首長の立派な家の前を通りかかりました。フアンは、ご飯の出る鍋を、首長に自慢したくなりました。首長の目の前で、空っぽの鍋から炊き立てのご飯を出して見せました。
 首長は、言いました。
「いい鍋を持っているな、フアン。ところで、今日はうちで酒でも飲んでいかんか」
 フアンはお金がなかったので、今までお酒を飲んだことがありませんでした。怠け者で、ココナツの木さえも植えませんでしたので、ココナツから取れるトゥバというお酒さえ、飲んだことがありませんでした。フアンは、首長に誘われて、喜んでお酒を飲んでいくことにしました。
 首長は、フアンにサトウキビから作った強いお酒や、トゥバをたくさん飲ませてくれました。フアンは浮かれて飲みすぎ、酔いつぶれて眠ってしまいました。
 首長は、フアンが眠っている隙に、鍋をすり替えました。
 目を覚ますとフアンは言いました。
「首長、そろそろ帰らなくてはなりません。私の鍋はどこですか」
 鍋がすり替わっていることに気付かないフアンは、妻や子どもたちの喜ぶ姿を思い描きながら、残りの道を急ぎました。
 家までもう少し、というところで、妻が道まで出迎えていました。妻は、木の棒を握りしめて、言いました。
「どうして帰って来たんだね。家に戻るというなら、またぶつよ」
 フアンは、必死に言いました。
「母ちゃん!お願いだから、ぶたないでおくれ。不思議な鍋を持って帰って来たんだよぉ」
「このバカ者が!鍋があっても、米がなけりゃ、食えないじゃないか」
 フアンは妻に、空っぽの鍋からご飯が現れることを説明しました。妻は、その話を聴いて、目を輝かせて喜びました。フアンは妻に、言いました。
「ご飯を盛り付ける、バナナの葉をたくさん取ってくるんだ」
 妻と子どもたちは、お皿にするバナナの葉をたくさん用意して、小さな竹の家の床の上に並べました。家族四人、家の中に集まって、真ん中に鍋を置きました。
 フアンは、
「ご飯、出てこい」
と言って、ふたを叩きました。そして、ふたを開けましたが、鍋の中は空っぽです。
 フアンはもう一度、
「ご飯、出てこい」
と言って、ふたを叩きました。ふたを開けましたが、やっぱり鍋の中は空っぽです。
 「この大嘘つきが!」
 妻はかんかんに怒って、フアンを木の棒でぶちました。フアンは、また両腕と両足を折られてしまいました。今度こそ、本当に死んでしまおうと、また洞窟まで這っていき、崖から身を投げました。
 深い深い崖の底に落ちていったフアンは、また、大きな体の老人に受け止められました。
「おや、またお主か。どうして戻ってきたのかね」
 フアンは、老人が、鍋からご飯が出ると嘘をついたとののしりました。
「家でご飯を出そうとしたが、鍋は空っぽのままさ。妻は怒り狂って俺をぶち、両腕両足を折られたよ」
 老人は、嘘つきとののしられても、黙っていました。
「心配いらんよ、フアン。どれ」
と言って、洞窟の奥から、一頭の白い雄のヤギを連れてきました。角が高く、ひげがありました。
「このヤギはただのヤギではないよ。見ておいで」
 老人は、
「お金をひり出せ」
と言い、ヤギのお尻を叩きました。
 すると、ヤギは糞の代わりに硬貨をひり出しはじめました。洞窟は、硬貨でいっぱいになりました。
「もう十分だ。止めておくれ」
 老人はそう言って、またヤギのお尻を叩きました。ヤギは、硬貨をひり出すのを止めました。老人は、フアンとヤギを右の手の平に乗せ、崖上まで腕をすうっと伸ばして、出口までフアンを送りました。フアンは、洞窟から出ると、老人のしたとおり、
「お金をひり出せ」
と言って、ヤギのお尻を叩きました。すると、お尻から硬貨がしゃらしゃらと落ちてきました。フアンは大喜びで、ヤギを引いて家への道を急ぎました。
 さて、帰り道の途中で、フアンは首長の家の前を通りかかりました。フアンは、首長に、硬貨をひるヤギを自慢したくなりました。そうして、首長に、ヤギがお金をひりだすところを見せました。
「これはなんとも不思議なヤギじゃな。うらやましいもんじゃ。ところでフアン、今夜も酒を飲んでいかんか」
 首長は、フアンに、サトウキビやココナツからできたお酒をたくさん振る舞ってくれました。フアンはしたたかに酔っ払い、ぐっすりと眠ってしまいました。首長は、下僕に家の家畜小屋から似たような白い雄のヤギを連れてくるように命じました。そして、そのヤギのお尻の穴に、一ペソ硬貨を入れました。
 フアンは目を覚ますと、ヤギの姿を探しました。
「そろそろ失礼させていただいて、家に帰ります」
 フアンは首長にそういうと、ヤギがすり替わっているのに気が付かずに、家への道のりを急ぎました。
 道の途中に、木の棒を掴んで立ちはだかっている妻の姿が目に入りました。
「おおーい!」
 フアンは嬉しそうに、妻に手を振りました。
「よくも、おめおめと帰って来られたもんだね」
 妻は、棒を振り上げました。
「待っておくれよぉ!落ち着いて、落ち着いて。ほら、ヤギを連れてきたよ」
 フアンは妻に、連れ帰ったヤギが硬貨をひり出すことを説明しました。妻は、それを聞いて大いに喜びました。お腹を空かせて、やせ細った子どもたちも喜びました。
「さあ、むしろを取っておいで」
 フアンは妻と子どもたちに言いました。家族四人は、小さい竹の家に揃ってむしろを床に広げました。壁に穴が開いていたので、硬貨が転がり落ちないように、擦り切れてぼろきれのような服を丸めて突っ込みました。むしろの上にヤギを立たせ、フアンは言いました。
「お金をひり出せ」
 そして、ヤギのお尻を叩きました。すると、ヤギのお尻の穴から、一ペソ硬貨が出てきました。妻の顔が輝きました。
 しかし、その次にヤギのお尻の穴から落ちてきたのは、黒くころころとした、ヤギの糞でした。いくら待っても、ヤギのお尻の穴からは、ヤギの糞しか落ちてきませんでした。
「止めろ、止めろ」
 フアンはヤギのお尻を叩きましたが、ヤギは糞をひり出し続けました。フアンの小さな竹の家は、ヤギの糞でいっぱいになりました。
 妻は、それはそれは怒って、フアンをぶちました。フアンは、また両腕と両足を折られ、洞窟まで這っていきました。そして、洞窟の中の崖から、身を落としました。大きな体の老人に、文句を言ってやろうと思ったのです。
 崖の下では、老人が落ちてきたフアンの体を受け止めてくれました。
「この大嘘つきのおいぼれが!ヤギは一ペソしかひり出さずに、うちは糞だらけさ!おかげで俺はまた骨を折られて、このざまだよ」
 老人は、目を細めてフアンを見つめました。
「おやおや、帰り道の途中で何かあったようだね…。お主、途中で首長に会って、酒を飲まなかったかい」
 老人は、フアンが酔っぱらっている隙に、首長が鍋やヤギをすり替えたことを教えました。
「さて、どうしようかね」
 老人は、洞窟の奥から、大人の水牛ほどの長さの組み紐を持ってきました。
「これで、首長をこらしめておやり」
 そういうと、紐を握ったフアンを右の手の平に乗せ、崖上まで腕をすうっと伸ばして、フアンを洞窟に出口に下ろしました。
 フアンは、紐を持って、首長の家に急ぎました。フアンが首長の家まで来ると、首長はにやりとほくそ笑みました。
「今度は何を自慢するのかね、フアン」
 フアンは、組み紐を握って言いました。
「この嘘つきの首長が!俺の鍋とヤギを返してもらおうか!」
「何を言うか、フアン!騙されたお前がまぬけなのだ。返してほしければ、力ずくで取り返してみよ。ワシの護衛たちが相手じゃ」
 フアンは、組み紐に命じました。
「首長の首に巻きつけ」
 すると、紐は海を泳ぐヘビのように飛んでいき、首長の首に巻きつきました。
「鍋とヤギを返さねば、首が締まるぞ」
 フアンは、首長を脅しました。
「お前ら、何をしておる!フアンを倒せ!」
 首長は、護衛たちに命じました。しかし、組み紐がぎりぎりと首長の首を絞めていきます。首長は苦しみ、口から舌が出てきました。ついに、首長は降参して、下僕にフアンの鍋とヤギを持ってこさせました。
 フアンは、首長の首から戻ってきた組み紐を腰に巻き、鍋を抱え、ヤギを引いて、家への道を急ぎました。鍋とヤギを取り戻し、意気揚々としていました。
 道の途中に、鬼のような顔をした妻が、木の棒を掴み、足を踏ん張って立っていました。
「どの面さげて帰って来たんだい、バカ亭主!お前に帰る家はないよ!」
「本物の鍋とヤギを取り戻したんだ!家に入れておくれよぉ、母ちゃん!」
 妻は、フアンが本物の鍋とヤギを取り戻したと聞いて、喜びました。
「急いで、食事の準備をするわ。私もお腹がペコペコなの」
 そして、子どもたちと、バナナの葉をたくさん取ってきました。小さな竹の家の中に、家族四人が集まり、真ん中に鍋を置きました。
「ご飯、出てこい」
 フアンはそう言って、鍋のふたを叩きました。ふたを開けると、鍋の中は、炊き立てのご飯でいっぱいでした。妻は、ご飯をたっぷりとバナナの葉の上に盛り付けました。子どもたちは、ごくんと生唾を飲み込みました。
「おかず、出てこい」
 次に、フアンは鍋からおかずを出しました。牛肉、豚肉、鶏肉、魚など、あらゆる種類のご馳走が現れました。家族は夢中で食べました。すごい早さで、ご飯とおかずを口にほうばっては、飲み込んでいきました。
 お腹がいっぱいになると、家族は、神さまと、鍋を授けてくれた老人に感謝のお祈りをしました。
 その後、バナナの葉と鍋を部屋の隅に寄せ、竹の床の真ん中にむしろを敷きました。フアンはむしろの上にヤギを立たせて、
「お金をひり出せ」
といい、ヤギのお尻を叩きました。子どもたちは、かたずを飲んで見守りました。妻は胸の前で手を組みました。
 ヤギのお尻の穴から、硬貨がこぼれ落ちました。たちまちむしろの上は、お金でいっぱいになりました。
 たくさんのお金を得たフアンは、新しく、しっかりとした家を建てなおしました。首長の家にいた護衛たちが、フアンの家に移ってきました。フアンを騙した首長は落ちぶれ、今では、フアンが立派な首長でした。フアンは、乗り物をたくさん手に入れました。日本製の、イスズやホンダです。飛行機やヘリコプターまでありました。フアンの家族は、不思議な老人の力に守られていました。家族と老人は良い友達になり、病気になるとと洞窟を訪れ、治してもらいました。フアンと妻の間に、結婚したころのような愛が戻りました。二人の仲は、砂糖ように、甘く甘くなりました。子どもたちは、両親たちの仲が良くなり、うれしそうに笑いました。その後、家族四人は心配事もなく、幸せに暮らしました。
 フアンがどんなに怠け者だったとしても、その境遇をかわいそうに思う老人がいて、救いの手を差し伸べてくれたのです。絶望して、身を投げてはいけません。

 フアンは結局働かずにお金持ちになったんですね。ジェリーさんは、お話を聴いてどう思いましたか。ジェリーさんはよく働くから、将来、奥さんにぶたれることはないでしょうね。
 僕は働くのが好きですが、フアンがうらやましく、僕にも、そんな鍋やヤギがいたらなぁ、と思いました。でも今は奨学生になったので、コツコツ勉強して、いい仕事に就ければな、と思います。


 イナヤンとウォウ 
語り:ジュノ L. マイラン(19歳)トゥマンディン村カヨパトン集落

 

 
 
これは、僕が六歳くらいの時、晩ごはんの後、寝る前に、おばあちゃんが話してくれたお話。

 むかしむかし、あるところに、一つの家族が住んでいました。母親は、オリという名前で六十歳でした。姉のイナヤンは十五歳、弟のウォウは十三歳でした。父親は、ウォウが乳飲み子の頃に、病で亡くなりました。
 三人は、竹とニッパ椰子でできた高床式の小さな家で暮らしていました。母親は年老いて病気がちで、いつも臥せっていました。父親もおらず、三人はいつも食べ物に困っていました。イナヤンが、山にキャッサバ芋を探しに行っては掘ってきて、母親と弟に食べさせていました。
 ある日、イナヤンが、親戚のおじさんの家を訪ねることになりました。イナヤンがその家を訪ねるのは初めてでしたので、母親が道筋を教えました。
 イナヤンは、弟のウォウに言いました。
「ウォウ。お前はお家に残って、母さんについていてあげてね」
 次の日、日の出とともに目を覚ましたイナヤンは、出かける支度をしました。そして、ウォウに言いました。
「ウォウ、お昼はこのお米を炊いてね。少ししか残っていないから、水をたくさん入れて、お粥にしてね。いい、ウォウ?お米が少ししかないから、お粥にするのよ」
「わかった、ねえちゃん。ぼく、おかゆ、つくる」
「じゃあ、姉ちゃんは行ってくるわね。ウォウ、お留守番をよろしくね」
 そう言って、イナヤンは出かけていきました。歩き始めて一時間くらいで、おじさんの家につきました。おじさんとおばさんの夫婦は、六十歳を過ぎても子どもがなく、イナヤンの訪問をとても喜んでくれました。ご飯をたくさん炊いて、鶏を絞め、青いパパイヤと唐辛子の葉っぱとを一緒に煮て、汁を作ってくれました。イナヤンにとっては滅多に食べられないご馳走でしたので、夢中で食べました。お腹がいっぱいになるまで、たくさんたくさん食べました。
 さて、家に残ったウォウは、姉の言いつけ通り、お鍋に少しのお米とお水をたくさん入れて、火にかけました。お鍋に、熱々のお粥ができました。
 母親は熱を出して、ゴザに横になっていました。ウォウは、母親に言いました。
「かあちゃん、みずあびをしたほうがいいよ。ふくをぬいで」
 母親は、ウォウの言う通り、上着を脱ぎました。すると、ウォウは何を思ったのか、お鍋から、ココナツの殻でできたおたまで、出来立ての熱いお粥をすくっては、水浴びをさせるように母親にかけました。母親は、動かなくなりました。
「かあちゃん、ねちゃったのかい?」
 ウォウはそう言って、お粥をかぶった母親の上に、布団をかけてやりました。そして、お鍋に少しだけ残っていたお粥を食べました。
 夕方になり、イナヤンが家に帰ってきました。ウォウは、家の外に出て、夕涼みをしながら姉を待っていました。
「ねえちゃん!おかえり」
「ただいま、ウォウ。お昼にお粥を作った?」
「うん、ぼく、おかゆ、つくったよ」
「母さんはどこ?」
「家で寝ているよ」
 イナヤンは五段ばしごを昇り、家の中に入りました。そして、寝ている母親を探しました。布団をめくると、母親はたくさんのご飯粒にまみれて、冷たく固くなっていました。
「母さん!」
 イナヤンは激しく泣きだしました。
「ねえちゃん、どうしたの!」
 ウォウが驚いて、はしごを駆け上がってきました。
「ウォウ!あんた、お粥を作った後、母さんにかけたの!」
「だって、ねえちゃん、おかゆつくったあと、どうするっていわなかった」
「何てバカなの、ウォウ!」
 イナヤンは、竹ぼうきをつかむとウォウの足をぶちました。何度も何度もぶちました。ウォウは、母親が死んだことを知って、おいおい泣きだしました。泣きながら、イナヤンに足をぶたれました。
 次の日の朝、イナヤンはウォウに言いました。
「ウォウ、今度はあんたがおじさんの家に行くのよ。そして、母さんのお葬式を手伝ってほしいって頼むの」
「はい、ねえちゃん」
「今からおじさんの家までの道を教えるから、よく聞くのよ。うちを出ると、広いきれいな道があるわね。広い道をしばらく行くと、左に脇道があるの。その道は狭くて草が生えているけど、その先におじさんの家があるの。その道に曲がらずに、広い道を行ってはだめよ。広い道の先には、鬼が住んでいるからね。ウォウ、決して広い道をまっすぐ行ってはだめよ。鬼に食べられてしまうからね」
「わかった、ねえちゃん。じゃあ、ぼく、いってくるよ」
 ウォウは、家を出て、広い道を歩いて行きました。しばらく歩くと、左に脇道が現れました。ウォウは立ち止まって考えました。
「くさのはえたほそいみちより、ひろいきれいなみちをいこう」
 ウォウは、広い道をまっすぐ進みました。しばらく歩くと、道の先に、大きな家が見えました。ウォウは、その家がおじさんの家だと思いました。
 大きな家に近づくと、ウォウは大きな声で言いました。
「おじさぁん、おじさぁん。かあちゃんをおはかにうめるのを、てつだってください」
 大きな家の中には、鬼が住んでいました。父親と母親と、赤ん坊の三人家族でした。
 ウォウの声を聞いて、父親と母親の鬼が外に出てきました。鬼の夫婦は、おかずが現れたので、うれしそうに舌なめずりをしました。
 鬼の夫婦は、とても大きく醜い姿をしていました。髪はぼうぼうとしていて、目は二つありましたが、大きく割けた口には大きな歯が一本生えているだけでした。
 ウォウは、思わず後ずさりしました。
「ぼくを、たべないでぇ。かあちゃんをうめるのを、てつだってください」
 鬼の夫婦は、ウォウをかわいそうに思い、母親の埋葬を手伝ってやることにしました。
「お前の母ちゃんを埋めてやるから、お前はその間、この家で赤ん坊の守りをしていておくれ」
 そう言って、鬼の夫婦は、イナヤンの待つ家に向かいました。
 イナヤンは、おじさん夫婦ではなく、鬼の夫婦が現れたので肝をつぶしました。鬼はとても大きく醜い姿をしていたのです。
「娘、怖がらなくていい。ワシらは、母親を埋めるのを手伝いに来た」
「ウォウは?私の弟はどこ」
「ワシらの家で、赤ん坊の守りをしている」
 そういうと、鬼の夫婦は、イナヤンの家の裏側に穴を掘り、母親を埋めました。鬼の爪は固くとがっていて、手も分厚く大きいので、あっという間に母親の姿は土に埋もれて見えなくなりました。イナヤンは、母親の小さな土まんじゅうの上に、はらはらと涙をこぼしました。
「母さん、心配しないで。これからも私がウォウの面倒をみるからね」

 鬼が去った後、ウォウは大きな家の中に入りました。鬼の赤ん坊は、床に敷かれたむしろの上に寝転がっていました。赤ん坊といっても、鬼の子どもですから、ウォウよりもずっと大きいのです。丸々と太った男の子で、大きな口に、歯はやはり一本しか生えておらず、醜い姿をしていました。
 ウォウは、鬼の赤ん坊の側に寄りました。すると、赤ん坊はウォウの腕をつねっては、指を口に入れるしぐさをします。赤ん坊も鬼ですので、ウォウの肉をつまんで食らいたいのでした。
「おお?おまえ、おれとけんかするのか?けんか、よくない。ねてな」
 ウォウは、赤ん坊が大きすぎて抱けないので、つり床にのせて揺らしてやろうと思いました。紐を探してきて、赤ん坊の体に巻きつけました。そして、紐の端を天井に引っ掛けて、ひっぱりました。赤ん坊の首が、少し持ちあがりました。そのまま首が締まって、赤ん坊は動かなくなりました。
 ウォウは、赤ん坊が静かになったのですっかり退屈して、家の外に出ました。そして、そのままイナヤンの待つ家に向けて、歩き始めました。
 帰り道、広い道の途中で、鬼の夫婦に出会いました。
「お前、ワシらがまだ帰ってきていないのに、坊を放ってきたのか」
「あんまりおそいから、ぼく、さきにかえってきちゃったよ」
「坊はどうしてる」
「つりどこで、ねている」
 そうして、鬼の夫婦とウォウは分かれ、それぞれの帰路につきました。
 ウォウが家に戻ると、イナヤンが怒って言いました。
「ウォウ、何てバカなの!あんた、おじさんでなくて鬼を呼んできたわね。きっと戻ってきて、私たちを食べようとするわ」
 イナヤンは、まだ、ウォウが鬼の赤ん坊を殺してしまったことを、知りませんでした。ウォウは、下からそうっと姉の顔を窺いました。姉がとても怒っているので怖がって、肩を小さく丸めて、黙っていました。
「ウォウ!鬼が戻ってくる前に、この家から逃げるのよ!」

 その頃、鬼の夫婦は、自分たちの大きな家に着きました。そして、家の中で、紐に吊られて赤ん坊が動かなくなっているのを見つけました。鬼は、真赤に燃える火のように怒り出し、雷のような大きな声で叫びました。
「ウォウー、坊を殺したなぁ!首をちょん切って、食ってやるぅううう!」
 イナヤンとウォウのところまで、鬼の叫び声が届きました。イナヤンは、恐ろしさのあまり、震えあがりました。ウォウは、どうしてか、けらけらと笑いました。
「ウォウ、急いで!」
 姉弟の家の奥には、深い竹林がありました。二人は、そこへ逃げ込み、大きな竹の根本にしゃがみ込んで隠れました。
「ウォウ、鬼があんたの名前を呼んでも、絶対に絶対に返事をしちゃだめよ」
「うん、ぼく、へんじ、しない」
 鬼の夫婦が、姉弟の家に到着しました。鬼の声が轟きました。
「ウォウ、どぉこぉだぁああああ」
 イナヤンは、竹の根本にうずくまったまま、必死にウォウに言い聞かせました。
「ウォウ、返事をしてはだめ。ウォウ、返事をしてはだめ」
 鬼は、ウォウを探し回りました。怒りのあまり、母親のお墓を掘り起こし、母親の死体を食らいました。
「ウォウ、どぉこぉだぁ。ウォウ、どぉこぉだぁ」
 イナヤンは祈りました。
「ウォウ、お願い。お願いだから、返事をしないで。鬼に見つかってしまう」
 イナヤンは細い手で、ウォウの口をふさぎました。
「ウォウ、返事をしろぉ。どこに隠れたぁ」
 イナヤンの願いも虚しく、とうとう、ウォウは返事をしてしまいました。
「ぼくたちは、たけばやしのおおきなたけのねもとに、かくれているぞぉ」
 たちまち、鬼の夫婦が姉弟が潜んでいる竹の根本までやって来ました。イナヤンは、恐ろしくて恐ろしくて、心臓の音が頭にどくどくと響きました。鬼は、竹の根本に腕を突っ込んで、二人を引っ張り出そうとしました。しかし、鬼の腕はとても太く、竹の中に腕が入りません。鬼は、斧で竹を倒し始めました。 
 イナヤンは、ウォウを固く抱きしめ、目をぎゅうっとつぶりました。そして、震えながら小さく丸まっていました。
「助けて!助けて!」
 イナヤンは泣き叫びました。ウォウは、イナヤンの腕の中で、くつくつと笑っていました。
 あと少しで竹が倒れそうなとき、上空を大きな鷹が横切りました。大鷹は、イナヤンの叫び声を聴いて、二人の側に下りてきました。
「何事だ」
「助けて!鬼に食われてしまう!助けて!」
「よし、俺の背中に乗りな」
 大鷹は、イナヤンとウォウを背中に乗せて、大きく羽ばたき、舞い上がりました。鬼の夫婦は、大鷹と姉弟を追って、地上を走りました。鬼は、空を見上げて、岩を砕き、木々をなぎ倒しながら走りました。いくつも川をまたぎ、トウモロコシ畑を踏みつぶしました。大鷹は、鬼が追ってくるのを見て、ますます空高く昇っていきました。鬼は、ついにイナヤンとウォウを追うのをあきらめました。イナヤンはほっと胸をなでおろしました。ウォウは、空を飛べるのがうれしくて、にこにこと笑っていました。
 大鷹は、空を飛び続けました。ウォウは、お腹が空いてきました。ウォウは、「バルン」という親指と小指を広げたくらいの長さの小刀を取り出しました。そして、大鷹の左羽を少しずつ切り取り、食べ始めました。イナヤンは、大鷹の尾の方に座っていたので、ウォウが鷹の羽を食べ始めたことに気が付きませんでした。大鷹も、なんだか左肩が痛いなぁ、と思っただけでした。
 ついに、ウォウは、大鷹の左羽を全てたいらげてしまいました。左羽を失った大鷹の体は、大きく傾きました。血が流れ落ち、大鷹は意識を失いました。イナヤンは、ウォウが大鷹の左羽を食べてしまったことに気付き、なじりました。
「ウォウ!バカにもほどがあるわ!あんたはしてもいいことと、してはいけないことが、分からないの!」
 大鷹の体は、海に向かって真っすぐ落ちていきました。そして、海に沈んで、魚のエサになりました。二人は、海に投げ出されましたが、運よく、川から流れついた水草が絡んで小舟のようになっているものにしがみつき、その上に上がりました。
「ウォウ、おならをしてはだめよ。水草がほどけて、海に落ちてしまうから」
「うん、ねえちゃん。ぼく、おなら、しない」
 しかし、大鷹の左羽を食べて満腹のウォウは、おならをし始めました。ウォウのおならはとても大きく、しばらく止まりませんでした。水草の小舟は、壊れてしまいました。
「ウォウのバカ!私たち、水に落ちちゃうわ」
 二人は、再び海に落ちましたが、岸が近くに見えました。イナヤンとウォウは、浜辺に泳ぎ着きました。砂浜に上がって歩いていると、一軒の大きな家がありました。
「ねえちゃん、いってみよう」
 ウォウがイナヤンを見上げ、手を引きました。イナヤンは、首を振って立ち止まりました。
「鬼の家かもしれない。怖いわ」
「ここまできちゃったんだ。こわがらないで、いってみようよ。ぼく、つかれたよ」
 イナヤンは、遠く海を見つめ、空を見上げ、それからウォウを見つめました。そして、小さくふうっと息を吐き、微笑みました。
「そうね。もう何が起こっても、気にしないわ」
 ウォウに手を引かれて、イナヤンは大きな家に近づきました。イナヤンは、ウォウの小さな手を、ぎゅうと握りしめました。ウォウはにこりとしました。
 大きな家には、年老いた夫婦が住んでいました。子どもはありませんでした。
 夫婦は、姉弟を見て尋ねました。
「見ない顔だけど、どこから来たんだね」
 イナヤウは答えました。
「私たち、道に迷ってしまったの。父さんも母さんも死んでしまって、帰るところがないんです」
「それなら、ここに住まないかい。私たちは、子どもがなくて寂しいんだよ」
 イナヤウとウォウは、手をつないだまま、顔を見合わせました。姉弟は、老夫婦の申し出を受けることにしました。ウォウは、幸せそうに笑いました。イナヤウも、幸せそうに笑いました。
 二人が老夫婦の家で暮らすようになって数日後、イナヤウは気が付きました。ウォウがよく働き、イナヤウと老夫婦を助けてくれるのです。もう、以前のようなことはしませんでした。ウォウは、変わりました。老夫婦も、イナヤウも、ウォウも幸せでした。その後、四人で、末永く幸せに暮らしました。どんなに困った子でも、変わる時が来るのです。

 ジュノさん、ウォウがお母さんにお粥をかけてしまって、私は驚いてしまいました。ジュノさんはお話を聴いたとき、どう思いましたか。
 僕はまだ小さかったので、げらげら笑っていました。
 ウォウがおならで小舟を壊してしまう場面は、とてもおかしいですね。ジュノさんのおばあさんは、冗談を言うのが好きな人だったのですか。
 いいえ、祖母は真面目にこの話をしていたんですよ。僕らだけが、大笑いしていました。家の一部屋に僕と、二番目の姉ちゃんと、祖父母が横になり、奥の部屋に、一番上の兄ちゃんと姉ちゃんが寝ていて、上の部屋に両親とまだ小さかった弟が寝ていました。みんなで祖母のお話を聴きながら、母さんは先に寝てしまったように思います。僕にも弟がいるから、イナヤンに胸がきゅっとなります。




カメの兄弟と人のいい鹿
語り:アンジェロ E. インカル (16歳/マノボ族) 
マグペット アマベル サリンシン集落

 

 
これは、僕が九歳くらいの時に、じいちゃんから聴いたお話。

 むかしむかし、あるところに小さな家がありました。家には、鹿が一頭とカメが一匹、仲良く暮らしていました。
 ある日、カメが鹿に言いました。
「あそこのココナツ畑の一番大きなココナツの木まで、かけっこをしよう」
 鹿は、驚きました。
「カメさんや、正気かい!?君の足は短くて、歩くのがとても遅いじゃないか。僕が勝つに決まっているよ」
 しかし、カメには鹿を負かす計画があったのでした。そして、鹿はカメの企みを知らなかったのです。実はカメには、弟が一匹いました。そして、二匹は事前に計画を立て、弟のカメが、すでにココナツ畑で待っていたのです。鹿は、カメに弟がいることを知らなかったのでした。
 カメは鹿に言いました。
「もし、君の足が僕よりずっと早ければ、置いて行ってくれていいさ。でも、かけっこの勝負をしたいんだよ」
「そんなに言うならいいよ」
 鹿とカメの兄は、家の前に並びました。
「ようい、ドン!」
 鹿は、駆けだしました。一駆けで、カメの何倍も進むことができました。あっという間に鹿の姿は見えなくなりました。
 鹿は、ココナツ畑の一番大きな木に到着しました。
「あれ、カメさん!僕より先にココナツ畑まで駆けたのかい!?」
 鹿は、カメに弟がいることを知らず、ココナツ畑にいるカメを、一緒に住んでいるカメだと思いこみました。
「鹿さん、案外足が遅いんだね」
 鹿は、かけっこに自信があったので、悔しく思いました。
「カメさん、もう一度勝負をしておくれ。次は、大きな川を渡る競争だよ」
 鹿は、川には石がたくさんあり、飛んで渡れると思ったのです。
 兄になりすましたカメの弟は言いました。
「いいよ。では、家に帰ろう」
 鹿と、カメの弟は連れ立って、ココナツ畑から家まで歩いて戻りました。
 家では、カメの弟が鹿に見つからないように隠れていました。家に着くと、鹿は言いました。
「ああ、暑くてのどが渇いたよ。水を飲もう。あれ、カメさん、家に入らないのかい?」
「ちょっとね。先に家に入って水を飲んでいておくれよ」
 カメの弟は、鹿が家に入った隙に、家の裏にいた兄とこっそり落ちあいました。
 弟は兄に言いました。
「兄さん。次は、川を渡る競争だよ」
「川を渡るなら、策を弄さなくても泳げる僕らの勝ちだろう」
 
 次の日、鹿とカメの弟は、競争のために家の前に並びました。
鹿がカメに言いました。
「川を渡った向こう岸がゴールだよ」
「分かった」
 そうして鹿とカメは、川に向かって走りだしました。その後を、カメの兄がこっそり追いかけました。
 まず、鹿が川岸に到着しました。しかし、川の中に、飛んで渡れそうな石がありません。鹿はどうにかして川を渡れないかと、辺りをきょろきょろと見渡しました。
 その間に、カメの弟が川岸に到着し、水に入り、泳ぎ始めました。カメの兄も、続いて水に入りました。
「これは、僕たちの勝ちだな」
 しかし、鹿が二匹のカメを水の中に見つけました。
「おや、あそこにいい石が二つある!」
 鹿は、カメを石と見間違えたのでした。そして、前脚をカメの弟、後ろ脚を兄の甲羅にのせました。
「しまった!鹿のやつ、俺らの上に乗りやがった!」
 仕方がないので、カメの兄弟は、そのまま向こう岸まで泳ぎました。兄弟は、鹿を乗せたまま、向こう岸にたどり着きました。岸が近づき、鹿は河岸に飛び乗りました。鹿が辺りを見ると、カメもちょうど河岸に泳ぎ着いたようでした。カメの兄は、水から上がらずに、川の中に隠れていました。
 鹿はカメに言いました。
「いい勝負だったね!同着だよ。もう勝負はよして、ここで遊んでいこう」
 カメの弟は、鹿に言いました。
「いいね。かくれんぼをしようか」
 カメは、鹿に勝つことができずに、とても悔しかったので、鹿にいじわるをしてやろうと思いました。
「鹿さんが、まず鬼だよ」
 そして、鹿が目を隠して、カメが隠れるのを待っている隙に、水の中に潜んでいる兄のところに行きました。
「兄さん、このまま泳いで向こう岸に戻ってしまおう。鹿は、川を渡れずにべそをかくに違いない」

「カメさーん!カメさーん!隠れたかい?」
 カメの返事がないので、鹿は目を開けました。そうして、カメを探し始めました。
 その頃カメは、川を渡り終え、家までの道のりを歩き始めたところでした。太陽が、真上から照り付けていました。焼けるように暑い日でした。
「兄さん、今日はとても暑いね。のどが渇いたよ」
「早く家に帰って、コーラを飲もう」
 二人は、道のりを急ぎましたが、カメですので、急いでも中々家に着きません。それに、カメたちは広い川を往復して疲れていました。
「兄さん、僕はもうだめだ」
 カメの弟はそういうと、暑さのために死んでしまいました。カメの兄は、弟を家の裏に埋めてやりました。カメの兄は後悔して、涙を流しました。
「鹿にいじわるをしたから、こんなことになってしまった。一匹で家にいるのは、なんて寂しいんだろう。鹿を迎えに行こう」

 鹿が向こう岸に取り残されてから、五日が経っていました。鹿は必死にカメを探しましたが見つかりません。向こう岸に渡ることもできず、途方に暮れているうちに、鹿はどんどん弱っていきました。すっかり痩せて、立つことができずに、川岸に座り込んで目をつぶっていました。
 鹿は、ふと水音を聴き、目を開け、遠くを見ました。カメが泳いでこちらに向かってくるのが見えました。
「カメさーん!」
 鹿は、力を振り絞って呼びかけました。
 カメが岸に到着し、鹿に駆け寄りました。
「鹿さん、済まなかった!」
 カメは、泣きながら鹿に謝りました。鹿は、カメを許しました。そして、カメは鹿を背にのせて川を渡り、カメと鹿は家に戻りました。家に着くと、鹿はご飯をたくさん食べて、ゆっくり休み、元気を取り戻しました。
 それから、カメは鹿にとても優しくなりました。鹿とカメは、末永く幸せに暮らしました。

 じいちゃんがこの話をしてくれたのは、じいちゃんの誕生日の夜でした。じいちゃんは、ママのパパです。僕は、両親と兄弟と、じいちゃんのお祝いに、祖父母の家を訪ねました。じいちゃんは、ウワイという植物のとげが刺さったために片目が潰れていたけれど、優しくて滅多に怒らないので、僕は大好きでした。糖尿病で死んじゃったけど、今でも時々恋しく思います。                       
(2017年12月7日)




 Anjelo E. Ingkal
(2001年6月6日生)16歳 マノボ族 マノンゴル高校2年生(6年制)


 僕の名前はアンジェロ。マグペットのアマベル村、サリンシンの出身です。10人兄弟の7番目に生まれました。信仰は、プロテスタントです。
 僕は、2年前からMCLに住んでいます。MCLからも、この10月の終わり頃まで教会に行っていたけど、スタッフのローズの息子の子守りをしている、僕のいとこのお姉ちゃんとけんかをしてしまい、気まずいので、行かなくなりました。でも、次の日曜日に一緒に教会に行って、仲直りしてみようと思います。
  僕のお父さんは53歳で、バナナやゴムを植えて生計を立てています。2015年頃から胃の調子が悪くて、働くのがつらそうです。お母さんは50歳で、トウモロコシや里芋を家族で食べるために植えています。僕の家は、朝食と昼食にキャッサバ芋やサツマイモなどを食べ、夕食だけお米を炊きます。
 今年、すぐ上の兄のアルセニョが結婚して家に戻るまでは、両親と僕の弟妹の5人しか家にいなかったので、お米を1キロ炊けば十分でした。お米はその時の値段によるけど、1キロだいたい35ペソから45ペソくらいです。お父さんの現金収入は少ないので、家族の生活は苦しいです。来年の4月に、僕のすぐ下の弟が小学校を卒業するけど、高校に行くお金が準備できるか分かりません。その弟の下には妹が2人いて、今小学3年生と幼稚園です。
 本来は、兄のアルセニョがMCLの奨学生で、僕は実家から小学校を卒業しましたが、アルセニョが高校を止めてしまったので、僕が代わりにMCLに入ることになりました。2016年の5月のことです。
 MCLに来たばかりの頃は、本当に寂しくて、よく一人でプロックで泣いていました。今は友達もたくさんできて、大丈夫です。それに、今は家が荒れているから帰りたくありません。高校を止めたアルセニョは、今19歳になるのですが、今年、16歳の子連れの女の子と結婚したんです。そして、僕の両親の家に一緒に住むようになりましたが、仕事もせずに家にいて、お米を探して食べてしまいます。奥さんともけんかばかりしています。でも、アルセニョや僕の両親の方から奥さんに分かれてください、というと、奥さんの家族の方に賠償金を払わなければならず、そのお金がないので、奥さんの方から家を出る、と言うのを待っています。今、僕の家に平和はありません。
 この間の秋休みに実家に戻った時も、アルセニョに銃を突き付けられました。少し、おかしいんです。クリスマスも本当は家に帰りたくないんだけど…。でも、家に帰ったら、バナナの収穫や肥料をやるアルバイトをして、お小遣いを稼げます。肥料をやるのが一番厳しい仕事です。重い肥料袋を背負って撒いていかなくてはならないから。両親からの支援も期待できないので、正直高校を続けるのがしんどいと思うこともありますが、アルセニョのように学校を止めても、もっと厳しい暮らしが待っているだけです。だから、なんとか高校は卒業したいです。
 将来は、大型車の運転手か、エンジニアになって、そのお給料で弟や妹も高校で学ばせてあげて、両親の暮らしを助けるのが夢です。僕はまだ、高校2年生だから先は長いですが、がんばりたいです。
 得意な科目は数学と音楽で、苦手なのは保健と美術と科学。ギターを弾くのが好きです。好きな色はたくさんあって、黄色、青、黄緑、白、赤が好き。黒はあまり好きではありません。 MCLで一番楽しいことは、友達とバスケットボールをすることです。MCLの奨学生では、同じ学年のジョマリと仲がいいです。小さい頃から、生活していて大変なことばかりですが、せっかく奨学生になれたので、夢をあきらめずに勉強を続けたいです。
 時々お金がなくて、兄やいとこともけんかばかりで、どうしようもなくて、涙が出てしまう夜もありますが、他の奨学生たちもそれぞれがんばっているので、僕もがんばりたいと思います。
(2017年12月7日) 


 さあてだれにもわからない

 人生には、勉強で学んだことよりも、子ども時代にしてもらったお話の体験や、自分で読んだ本の世界、そしてとりわけ、子どもの頃に友達たちと、外で缶蹴りや石蹴り、鬼ごっこやかくれんぼをして遊んだときの友情体験が、人生の困難に出会ったときに物事の解決の力になったなあと感じるときがある。
 昔話が現代でも生きている社会を持ったフィリピンのミンダナオから、一つの不思議な民話を通して日本の子供たちの置かれた状況を考えてみたいと思います。
 というわけでまずは、友人のボボンが語った昔話を聞いてください。



    
不思議な場所の物語
   さあてだれにもわからない


 これぞ、さびしくも静かな場所の、つねならざる物語で、ほとんど知られていないふしぎな土地のいいつたえ。
 とある日のこと、母を亡くした子がいた。
 子は貧しく、いつもまわりの子どもたちから、なかまはずれにされては、いじめられていた。
 子はある日、父さんにたずねた。
「父さん、なぜぼくには母さんがいないの。」
「母さんはみずあびが大好きでね、森にそれはそれは美しい泉があると聞いて、ある日一人で水を浴びに行ったのだが、それっきり帰ってこないのだよ。」
「ぼく、母さんをさがしに行ってみる。」
「だめだだめだ、とんでもない、そんなことをしたらおまえも帰ってこないかもしれない。そうしたら、父さんはさびしくて死んでしまうよ。」
「でも、父さん、ぼくどうしても母さんに会いたいよ。そうだ、父さんもいっしょに行こう。」
 息子があまり熱心に言うので、父さんはしぶしぶ承知して、息子といっしょに家をでた。
 川にそってずんずん森のおくへとわけ入っていくと、深い谷のおくに、とつぜん見たこともない高い高い山が見えた。ふしぎなことに、山を見るなり子どもは顔をかがやかせて歩きだした。
「おいおいおまえ、そんなにむちゅうで歩くとは いったいどうしたというんだい。」
 父親がふしぎにおもってたずねると、子どもは、「あの山のふもとに、幹も枝も金でできている大きな大きな木が見えるよ。」という。
「父さんには何も見えないが。」と言うと、ほらほらあっちの方だよ、ほんとだよ、と言って、ずんずん歩きだした。
 はて不思議なこともあるものだと、父親も半信半疑で、息子についていくと、とつぜん今まで見たこともない場所に出た。
 あたりいちめんいろとりどりの花が咲き、たくさんの蝶が飛びまわり、小鳥たちがさえずって、この世のものとも思えない美しい庭のようだった。
 すっかりうれしくなって、ふたりとも後先のことも考えずに、あちらを見たりこちらをながめたりしながら歩いていると、いつのまにか日が暮れはじめた。
 「これはいけない。」と、思って父親が、「さがしても母さんはいないようだし、さあもう帰ろう。」と、いったのだが、はて、どちらからきて、どちらへ行ったらよいものやら、すっかり帰り道を思いだすことができない。
 ほとほと困りはてて、倒木にすわっていると、子どもの耳にふしぎな声が聞こえてきた。
「父さんほら声が聞こえてくるよ、女の人の声だよ。」
「父さんにはそんなものは聞こえないぞ。」
 はて、自分には聞こえないのに、息子には聞こえるというのもおかしなものだ、とさしもの父も怖くなって、いったいどこから声が聞こえてくるのかね、とたずねると、「ほらほらあの木だよ、ぜんぶ金でできた大きな木からだよ。」という。
「父さんにはそんな木は見えないが。」というと、「変だなあ、あそこに立っているじゃない。」
 子どもは立ち上がり、しぶる父さんの手をとって歩きだした。
 すると驚いたことに、ほんとうに父の目にも大きな木が見えてきた。幹も枝も金色にかがやいてその美しいこと。
 あまりのことに、びっくりしてながめていると、とつぜん背すじがこおるような風が吹いてきて、ぞっと髪の毛がさかだった。
 二人が怖くなってふるえていると、木のなかからすきとおるような白い衣をまとった女がでてきた。
「父さん、あれ、だれ?」
 すると女はやさしく微笑んで子どもに手をさしのべていった。
「わたしは母さんだよ。さあ、こちらにおいで。」
 そういうと、ふしぎなことに、天からふりそそぐ光にすいこまれるようにして、父と子は、大木の梢にすいこまれて消えてしまった。
 これぞ、寂しくも静かな場所の常ならざる物語で、ほとんど知られていないふしぎな土地の言いつたえ。
 何者であろうとも、彼の地に入ったものでもどったものはいず、帰ったものはいないということ、ということは、どうやら天にのぼったものと思われているが、さあてだれにもわからない。



 























「フアンと足の速い馬」
語り:ジュノ L. マイラン(19歳)トゥマンディン村カヨパトン集落
 僕と一番上のお姉ちゃんは、小さい頃、じいちゃんとばあちゃんの家で育てられました。
じいちゃんとばあちゃんの間に、僕と姉ちゃんが寝ます。じいちゃんのお話が終わると、次はばあちゃんのお話が始まります。


 
 むかしむかし、あるところに、フアンとペドロという兄弟がいました。フアンは50歳くらい、ペドロは45歳くらいで、共に独身でした。2人はそれぞれ、好きなところに家を建て、別々に暮らしていました。
 ある日、弟のペドロが馬に乗って、フアンの家にやって来ました。ペドロはフアンに、自分の馬がどんなに素晴らしいか自慢しました。
「兄さん、この馬はとても早く駆けるんだよ。それに、どんなに遠くまで走ってもつかれないんだ」
 フアンは、言いました。
「ペドロがそんなに自慢するなら、その馬が本当に早く駆けて、どこまで走っても疲れないか、明日試してみよう」
 次の日、フアンは朝早く、ペドロの馬に乗って走りはじめました。しかし、馬があんまり早く駆けるので、フアンは顔に風を受けて、目をつぶり、振り落とされないように馬にしがみつきました。馬は、山を4つ越えるまで、止まりませんでした。
 馬が止まって、フアンはようやく目を開けて、周りを見渡しましたが、どこまで走って来たか見当もつきません。困り果てていたところに、一軒の家を見つけました。フアンはお腹がペコペコでした。家の人に、残りの冷ご飯を分けてもらおうと思い、声をかけました。
「アイヨー」
 家からは、おばあさんと猫が一匹出てきました。
「どうしたんだい」
「馬が止まらず走り続けて、道に迷ってしまったんです」
「そりゃ難儀だね。ご飯の支度をするから、休んでいなさい」
 フアンはお礼を言って、家の外に馬をつなぎました。
 おばあさんは、お米を一粒と水をお釜に入れ、火にかけました。ご飯が炊きあがり、お釜の蓋を取ると、お釜はご飯でいっぱいでした。おばあさんは、いい妖精だったのです。おばあさんは、おかずに鶏を絞めて、アドボを作ってくれました。猫はねこまんまを食べ、馬は草を食み、幸せそうでした。
 次の朝、フアンが旅立つ前に、おばあさんは手拭いとギターをフアンに手渡しました。
「手拭いはいいけれど、ワシはギターを弾けないよ。それに、帰る方向を教えておくれよ」
「いいから持っておいき。困った時に、助けてくれるからね」
 そして、フアンは馬に乗りました。すると、馬はまた、とても早く駆けました。フアンは、目をつぶって馬にしがみついていました。
 馬が止まりました。フアンが目を開けると、そこは刑務所の中でした。フアンも、馬で暴走していたので、そのまま捕まって刑務所に入ることになりました。馬は、刑吏に取られました。刑務所の中は、捕まった人々でいっぱいでした。ご飯がもらえず、みんなお腹が空いて、痩せて弱って横になっていました。
 フアンは、手拭いを取り出し、願い事をとなえました。
「ご飯とおかず、出てこい」
 すると、手拭いから、ご飯とたくさんのおかず、豚や鶏や魚やビーフンが出てきました。囚人たちは、お腹いっぱい食べて、幸せでした。
 しかし、刑務所の所長がそれを見て、兵隊と共にフアンのところにやって来ました。
「その手拭いをよこさないと、首をちょんぎるぞ」
 フアンは恐ろしくて、黙って手拭いを所長に渡しました。でも、その手拭いは、フアンの願い事しか叶えませんでした。
 数日がたち、囚人たちはまたお腹が空いて弱っていました。フアンは、ギターを持ち、弦を鳴らしてみました。すると、刑吏の体が操り人形のように勝手に動き出しました。フアンは、弦をかき鳴らし続けました。すると、所長や兵士、刑吏がギターの音に操られて、踊りはじめました。お互いにぶつかって転げても、また勝手に立ち上がり、踊りを止めることができませんでした。疲れても、お腹が空いても、眠くなっても、踊ることを止められませんでした。所長は、フアンを刑務所の外に出すことに決めました。
「ワシだけでなく、他の囚人も外へ出しておくれ。それから、手拭いと馬を返してくれたら、ギターを鳴らすのを止めるよ」
 そうして、フアンは刑務所の外へ出て、馬と一緒に妖精のおばあさんのところに戻りました。フアンは、人助けをできた喜びを語り、おばあさんに手拭いとギターを返そうとしました。
「それは、お前のだよ。持ってお帰り」
 おばあさんは、今度は家までの道のりを教えてくれました。
 フアンの家では、ペドロが待ち続けていました。
「兄さんはどうしちまったんだろう。もう1週間も帰ってこない」
 そこへ、フアンが馬と一緒に帰ってきました。二人は再会を喜びました。フアンは、自分の旅のことを、ペドロに話しました。フアンは手拭いで、ご馳走を出しました。ペドロはギターを弾くことができたので、唄い始めました。二人はお腹いっぱい食べ、眠りました。
 次の日、ペドロは自分の家に帰っていきました。二人はときどき会い、手拭いでご飯を出し、ギターで唄いながら、末永く幸せに過ごしました。

 これが、僕のばあちゃんのお話。聴いたのは小さい頃だけど、まだ覚えているんだ。
 

 「鬼と兄弟」
語り:ジュノ L. マイラン(19歳) トゥマンディン村カヨパトン集落
  これは、僕がまだ小さな頃、おじいちゃんと一緒に寝ているときに聴いたお話。



 むかしむかし、森の中の家に、母親と2人の子どもが住んでいました。お兄ちゃんは8歳くらい、弟は2歳くらいでした。父親は、弟が生まれてすぐに、流行り病で死んでしまいました。母親は、畑仕事を知らなかったために、家には食べ物がありませんでした。川で蟹を採って凌いでいましたが、蟹も採り尽してしまいました。
 彼らの家の近くの森の中に、人も食べるという鬼が住んでいました。母親は、息子たちが飢え死にしそうなので、鬼に食べ物を分けてもらおうと思い、鬼の家を訪ねて、「サツマイモや里芋、キャッサバ芋を分けてください」と言いました。でも、母親には支払うお金がありませんでした。鬼は、母親の左腕を斧で切り落とし、代わりに芋類を分けてくれました。
 母親が家に着くと、兄弟は母親の左腕がなくなっていることに気が付きました。
「お母さん、お母さんの左腕はどこに行ったの?」
「食べ物の代わりに、鬼にやったんだよ」
家族は、お腹が空いていたので、芋を夢中で食べました。
 数日後、家族は芋を食べ尽してしまいました。母親は、また鬼のところに行き、今度は右腕と引き換えに芋類をもらいました。母親は両腕がなくなったので、鬼が芋を担いで家まで運んできました。家族は夢中で芋を食べました。
 数日後、家には芋がなくなりました。母親は、また鬼のところに行き、左足と引き換えに芋類をもらいました。家についても、母親は笑うばかりで何も食べなくなりました。兄弟は、母親ももうすぐ鬼になってしまうのではないかと、怖くなりました。それでも、お腹が空いているので、兄弟は泣きながら芋を食べました。
 数日後、兄弟はすっかり芋を食べてしまいました。母親は、鬼のところまで片足で這っていきました。兄弟は、母親がいよいよ鬼になってしまうと、家から逃げ出すことを決めました。荷物のなかに、逃げる助けになるよう櫛を入れました。
 家を出てからしばらく行くと、水車がありました。兄は、水車に、母親が自分たちの行先を訪ねても、本当のことを教えないよう頼み、先を急ぎました。
 母親は、鬼に、右足と引き換えに芋類を分けてもらいました。母親は、芋を背中にくくりつけて家に戻りました。ずっと笑い続けていました。家に着くと、誰もいません。母親は家中を探しましたが、どこにもいません。母親は、怒り出しました。起こっているうちに、母親の姿は鬼に変わりました。失った両腕両足も生えてきました。母親は犬のように、兄弟のにおいをかぎました。見つけて、食べるつもりでした。
 母親が兄弟のにおいを追っていくと、水車がありました。母親は兄弟の行先を訪ねましたが、水車は間違った行先を教え、母親は間違った方向に兄弟を追いました。けれど、見つかりません。母親は怒り狂い、水車を踏みつぶしました。
 兄弟が先を急いでいると、小川がありました。兄は、持ってきた櫛を川に流し、自分たちは上流に逃げました。
 母親は、兄弟を追いかけて小川に着きました。においをかぐと、下流に行ったようです。母親は下流に向かいましたが、櫛があるだけでした。母親は「嘘つきめ!」と叫んで櫛を折り、食べてしまいました。
 兄弟が逃げる途中、大きなハチの巣がありました。兄は、「どうか、刺さないで下さい。母親が鬼になって僕たちを食べようと追ってくるんです。助けてください」と頼み、ハチは「分かった、逃げろ」と言いました。母親がハチの巣まで来ると、ハチたちは一斉に母親を刺し、母親に針がたくさん刺さりました。けれど、母親はハチを全て平らげ、兄弟を追いました。
 兄弟が逃げる途中、大きなヘビに会いました。兄は、「どうか食べないで下さい。母親が鬼になってしまったんです。助けてください」と頼み、ヘビは「分かった、逃げろ」と言いました。母親がヘビのところまで来ると、決闘になりました。彼らは長い時間闘っていましたが、ついには鬼になった母親がヘビを食べてしまいました。
 兄弟が先を急いでいると、大きな大きな川に出ました。渡ることができません。2人は泣きだしました。すると、川の中からワニが現れました。兄は、「どうか食べないで、僕たちを向こう岸に渡して下さい」と頼みました。ワニは、背中に兄弟を乗せて、向こう岸に渡してくれました。母親も川につき、歩いて渡ろうとしました。母親は、ハチとヘビを食べて、ますます大きくなっていたのです。ワニは母親を水に引きずり込もうとしましたが、逆に食べられてしまいました。母親は、ますます大きくなりました。
 兄弟は、一生懸命逃げますが、ついには追いかけてくる母親が見えるくらい間近に迫ってきました。2人は泣きながら、川の向こう岸にあった洞窟に入って隠れようとしました。
そこは、大きな蟹の家でした。蟹は、兄弟になぜ泣いているのかを尋ね、家にかくまってくれました。
 母親は洞窟の前まで来て、兄弟を探してにおいをかぎ、笑い出しました。そして、洞窟の中に、右腕を突っ込んで兄弟を探しました。母親は大きくなりすぎて、腕しか入らなかったのです。もう少しで指が兄弟に触れそうになり、兄弟は怖くて泣きました。その時、大きな蟹が、母親の右腕をハサミで切り落としました。母親は、笑いながら左腕を突っ込んで兄弟を探しました。蟹は、母親の左腕を切り落としました。母親は、笑いながら右足で兄弟を探そうと洞窟に突っ込みましたが、蟹が右足も切り落としました。母親は、笑いながら左足を突っ込みましたが、蟹が左足も切り落としました。
 母親は両手両足がなくなったので、頭を洞窟に入れて、直接兄弟を食べようと考えました。そして、洞窟の中に首を突っ込みました。蟹は、ハサミで母親の首をちょん切り、母親は死んでしまいました。兄弟は、ホッとしました。
 その後、蟹は人間に姿を変え、乗り物で天に昇っていきました。天の国の王子が、人を助けるために降りてきた仮の姿だったのです。王子は天の国に戻り、姫と結婚しました。兄弟は、王子と姫の養子になり、末永く幸せに過ごしました。

 おじいちゃんは、もう死んじゃったけど、僕らにお話を遺してくれました。
 このお話は、「母親は子どもたちのために犠牲を払う」「でも、鬼になってしまったらどうしようもない」「鬼に食べ物を分けてもらいにいかなくてもいいように、自分たちで作物を育てなくてはならない」ということを教えてくれます。

「3兄弟とやまんば」

語り:ジェリー B. アウェ(19歳)トゥマンディン村カヨパトン集落
 
 僕は小さい頃、じいちゃんと二人で寝ていました。じいちゃんは横になると、僕を寝かしつけるためにお話をしてくれました。



 むかしむかし、あるところに、フアンとペドロとピリピという3兄弟が一つの家に住んでいました。長男のフアンは26歳、次男のペドロは23歳、三男のピリピは19歳でした。
 ある日、家に食べ物が無くなったので、3兄弟は相談して、山に食料を取りに行くことにしました。まず、ピリピが山に行くことになりました。 
 ピリピは、家の裏に竹を植えました。
「兄さんたち、もし、この竹が枯れたら僕の身に何かが起こったと思って、どちらか一人が僕の後を追ってください」
 そして、ピリピは馬に乗って山へ向かいました。
 山に着く途中で、日が暮れてきました。暗くなり、進むのが難しくなりました。ピリピが辺りを見渡すと、一軒の家があり、明りが灯っていました。家に近づき中をうかがうと、そこには顔見知りの老女が一人いました。
「おや、ピリピでないかい。どこへ行くのかね」
「山に食べ物と取りに行く途中で日が暮れてしまったんです」
「それなら、今夜はここにお泊り」
 老女はご飯を炊き、地鶏を絞めて、青パパイヤと唐辛子の葉っぱと一緒に煮た汁を作ってくれました。ピリピは喜んでお腹いっぱい食べました。
 老女が布団をひき、蚊帳を張ってくれました。老女のひいてくれた布団はとても上等でふかふかだったので、お腹がいっぱいになったピリピはぐっすり寝込んでしまいました。
 深夜、老女がそうっとピリピの部屋に入ってきました。そして、たくさんの蚊に姿を変えました。老女はやまんばで、最初からピリピを食べるつもりだったのです。蚊帳には、穴が開いていました。蚊に姿を変えたやまんばは、蚊帳の中に入り、ピリピの血をすっかり吸ってしまいました。血を吸い終わったやまんばは、たくさんの蚊から老女に姿を戻しました。そして、ナタでピリピの体をぶつ切りにして、血の抜けた肉と、皮を食べました。骨は固くて食べられないので、まとめて麻袋に入れて、棚の中に隠しました。馬は、蹴られるのが怖かったので、食べられませんでした。
 兄弟の家では、フアンとペドロがピリピの帰りを待っていました。しかし、ピリピが家の裏に植えた竹が枯れたので、兄弟はピリピの身に何か起こったことを悟り、次は次男のペドロが山に向かうことになりました。ペドロも山に向かう前に竹を植えました。
「兄さん、もし僕の植えた竹が枯れたら、僕の身に何か起こったと思って追いかけてください」
 しかし、ペドロも山に向かう途中にやまんばの家に泊まり、ピリピと同じように食べられてしまいました。
 ペドロの竹が枯れているのを見つけたフアンは、自分が山に向かうことに決めました。フアンは、タバコを吸うのが好きでした。フアンはタバコの葉を小さい臼でついて、細かくしました。そして、バナナの葉とマッチも一緒に包みました。 
 次の日の朝早く、フアンは馬に乗って山に向かいました。しかし、山に着く途中で、日が暮れてしまいました。そこでも、家から老女が出て来て、今夜は泊まって行くように言い、ご飯と鶏を用意してくれました。フアンは、バナナの葉にタバコを置いてクルクルと巻き、先っぽに火をつけました。タバコを吸いながらゆっくりゆっくりご飯を食べ、お腹いっぱいになるまで食べないようにしました。老女は、フアンがすっかりお腹いっぱいになったと思い込み、上等な布団をひき、蚊帳を張ってくれました。フアンは横になって眠ったふりをしました。夜中、老女がそうっと部屋に入ってきて、たくさんの蚊に姿を変えました。フアンは、蚊の羽音がうるさかったので、タバコを吸い始めました。蚊は、穴から蚊帳の中に入ってきました。しかし、蚊はタバコの煙でみんな死んでしまい、蚊の姿が消えた後には、やまんばが倒れていました。
 朝になって、フアンは棚の麻袋の中に、ピリピとペドロの骨を見つけました。フアンは、彼らの骨をたたいて、
「ピリピ、起きろ。ペドロ、起きろ」
と、声をかけました。
 すると、ピリピとペドロの身体が元に戻り、二人は生きかえりました。やまんばが死んでしまったからです。
 そうして、3兄弟はみんなで馬に乗って山に行きました。たくさんの食べ物を山で採り、お腹いっぱい食べ、その後も幸せに暮らしました。

 じいちゃんやばあちゃんが、夜の9時頃にやまんばの話をすると、怖かった。僕の村は、今も電気がなくて7時くらいには横になるから、真っ暗なんだ。でも、怖くてもお話を聴くのが好きだったよ

「フアンとサル」
 
語り:ジェリー B. アウェ(19歳)トゥマンディン村カヨパトン集落

これは、僕が小さい頃、一緒に寝ていたばあちゃんから聴いたお話です。


 むかしむかし、あるところに年老いた両親と、息子が一人住んでいました。息子の名前は、フアンといいました。両親は結婚してから長い間、子どもに恵まれませんでした。二人は一生懸命、神さまにお祈りをして、60歳を過ぎて、ようやく授かったのがフアンでした。
 フアンが19歳になったころ、両親は、年老いて亡くなりました。フアンは、一人ぼっちになりました。
 フアンは、ため息のようにつぶやきました。
「この家は寂しい。移動しよう。それから、働かなくちゃならない。山へ草を刈りに行こう。」
 フアンには、山に、両親が遺してくれた場所がありました。両親の家は捨てて、そこに移動し、お米を植えるつもりでした。
 次の日の朝早く、フアンは、種もみやお米、鉈や包丁、鍋や塩、マロンという腰に巻く布などを持って、家を出ました。歩いて山にたどり着いた頃には、夜になっていました。フアンは、木の枝や皮、バナナや椰子の木の葉を使って、掘っ立て小屋を建て、マロンをかぶってそこで眠りました。 
 その次の日の朝、フアンは目を覚ますと、まずご飯を炊きました。お昼や午後も食べられるように、たくさん炊きました。それから、小屋の周りに罠を仕掛けて、野ねずみをたくさん採りました。罠は、トウモロコシをエサにして、紐を使い、野ねずみが首を入れると閉まる仕組みです。そして、鍋に野ねずみと塩と、カンミといういい香りのする木の葉をいれて、煮込みを作りました。これも、お昼も午後も食べられるように多めに作りました。 
 季節は乾季の一月でした。フアンは、山の藪を払った後、土に火を入れました。そして、雨を待ちました。山では、野ねずみの他にオオトカゲやバッタ、甲虫などがいました。それらを捕まえて、おかずにしました。
 山は、三月になりました。季節はめぐり、雨季へと移ろうとしていました。
 ある日、大粒の雨が降り、しっかりと土が濡れました。フアンは太い木の棒を持ち、大体、親指と人差し指を広げたくらいの間隔で、人差し指の長さくらいの深さの穴を、トントントンとあけていきました。そこに、六粒ずつ、種もみを落としていきました。六粒ずつ落とすのは、いくつかが虫に食べられても、芽が出るようにです。
 落とした後、穴が少し崩れて、種もみが隠れるので、トウモロコシのように、土をかぶせることはしませんでした。小鳥たちが、フアンを見ていました。けれど、小鳥たちは、種もみを食べに下りてはきませんでした。
 四月、五月は、美しい季節でした。雨がたくさん降って、花々が色とりどりに咲きました。フアンの蒔いた種もみも、ぴょこぴょこと芽を出し、雨を受けて、すくすくと大きくなりました。
 毎朝、フアンは起きると、その日に食べるご飯を炊き、おかずを作って、朝ご飯を食べました。そして、稲を見に行き、草を引きました。そして、お昼頃に小屋に戻り、朝ご飯の残りを食べて、お昼寝をしました。
 午後涼しくなってからは、水浴びをしたり、野ねずみの罠を仕掛けたりしました。洗濯もありましたが、服ではなく、腰に巻く布や、木の葉を身につけていましたので、すぐに終わりました。夕涼みをしました。ゆっくりと暮れていく空を見ながら、鳥や虫の声を聴きました。心地いい風を感じ、フアンは目を細めました。日が落ちると、お月さまを眺めて歌いました。
 六月、フアンの稲は、一メートル程の高さに成長し、かわいい小さな花がたくさんつきました。フアンは、収穫に使う竹の籠を編みました。
 七月、フアンの稲の頭は少しずつ重くなりました。来月には収穫できるだろう、とフアンは思いました。
 その日も、フアンは朝ご飯を食べて、山へ、稲の様子を見に行きました。
 仕事を終えて、お昼過ぎに小屋に戻り、ご飯の残っている鍋のふたを開けてみると、残っているはずのご飯がありません。鍋の中は空っぽです。フアンは、仕事の後でとてもお腹が空いていましたから、もう一度ご飯を炊いて、お昼ご飯にしました。
 その次の日も、お昼頃にフアンが仕事から戻って、ご飯を食べようと鍋のふたを開けると、やはり空っぽです。フアンはお腹がとても空いていましたから、すぐに食べられると思っていたご飯が食べられなくて、がっかりしました。そして、新しくご飯を炊きました。
 その次の日も、同じでした。仕事から戻ったフアンがご飯を食べようと思っても、鍋の中は空っぽです。
 フアンは考えました。誰が俺のいない隙に、ご飯を食べてしまうのだろう。
 そして、山に「タンバ」を取りに出かけました。「タンバ」というのは、ある木から取れるべたべたした鳥もちのようなものです。そうして、鳥もちで、フアンと同じくらいの大きさの人形を作りました。手に水をつけながらこねると、くっつかないのです。そうしてできた人形を、鍋の奥に置きました。人形は、闘う構えを取っていました。
 次の日の朝、フアンはいつものようにご飯を半分鍋に残して、山へ稲を見に出かけました。小屋に誰もいなくなると、大きなサルが入り口から入ってきました。サルが、いつものようにご飯を食べようと鍋に近づくと、一人の男が闘う構えを見せて立っています。
「お前、俺と闘う気か。」
 サルは、人形に言いました。
「でも、まずは腹ごしらえだ。俺は、腹ペコなんだ。」
そう言って、鍋のご飯を全部食べてしまいました。
 お腹がいっぱいになったサルは、人形に殴りかかりました。まずは右手です。右手は、人形にくっつきました。サルは、男が空手を知っていて、防御したと思いました。
「お前、なかなかやるな。」
そう言って、左手で殴りかかりました。左手も、人形にくっつきました。
「この蹴りを受けてみろ。」
 サルは、右足で人形に蹴りかかりました。右足も、人形にくっつきました。
「まだまだだ。」
 サルは、左足で人形に蹴りかかりました。左足も、人形にくっつきました。
「くそぅ。」
 サルは、両手両足が人形にくっついてしまいましたので、人形に噛みつきました。口も人形にくっつきました。サルは、口がきけなくなりました。
 そこへ、フアンが、仕事を終えて帰ってきました。お腹がペコペコでした。小屋に入ると、人形にくっついているサルがいました。鍋の中は、空っぽでした。
「毎日こいつが、俺のご飯をたいらげていたのか。」
 フアンは腹を立て、サルを殺してしまおうと思い、鉈を振り上げました。
 サルは、「助けてください。」と、言いたかったのですが、口が鳥もちにくっついていて、話すことができません。そこで、しっぽを上下にふりふり、「殺さないで下さい。殺さないで下さい。」と、伝えようとしました。
 フアンは、サルのしっぽが「殺さないで下さい。」と、言うのを見てかわいそうに思い、殺すのを止めることにしました。そして、水をつけて、人形から右手と左手、右足と左足、そして口を自由にしてやりました。
 サルは言いました。
「助けてくれてありがとう。お前は一人で山で働いているんだろう。仕事を手伝ってやるよ。」
 それから、サルは、フアンの小屋に住みつきました。
 八月、フアンの稲は、頭を垂れて黄金色に色づき、収穫の時期を迎えました。野ねずみたちもうれしそうに、収穫前のお米を少しだけ失敬しました。
 ある晴れた日、フアンとサルは、竹で編んだ籠を背負って、稲刈りに行きました。フアンたちは、収穫に鎌を使いません。「ティンナッパ」という、イワシのトマト煮の缶詰の缶を半分に割り、組んで、収穫のための刃物を作りました。缶詰の缶は、両親の家から持ってきていました。この、缶でできた刃物で穂先を刈っていくのは、慣れないと手を切ることもあり難しいのですが、サルは器用に穂先を刈っては、背負った籠に入れていきました。フアンも、稲を二房左手でつかんでは、右手の缶で穂先を刈り、リズムよく収穫していきました。籠がいっぱいになると、むしろに広げて足で踏み、脱穀しました。
 稲刈りが終わりました。フアンとサルは、収穫のお祝いをすることにしました。臼に新しく収穫したお米を入れて杵でつき、もみがらを落としました。新しく収穫したお米を初めて炊きました。「ディヌラド」という赤いお米です。すこし粘りがあって、いい香りのするご飯が炊きあがりました。おかずは、野ねずみの煮込みでした。フアンとサルは、平和な満たされた気持ちでした。
 稲刈りが終わった後の山には、もう一度火を入れて、藁を燃やしました。そして、次のお米作りに備えました。
 サルは、収穫が終わっても、フアンの小屋に住み続けました。ずっとずっと、フアンと一緒でした。フアンは、両親が亡くなってから寂しく暮らしていましたが、もう寂しくありませんでした。フアンとサルは、末永く楽しく暮らしました。

 おばあちゃんたちが小さい頃、マノボの人たちは、移動しながら焼畑をしていたんだ。人が少なかったから、隣の人の住んでいるところまで、とても遠かったんだって。今は、人が増えたから、フアンのように移動してお米は作らなくなったよ。でも、山で育てたお米って、おいしいんだ。僕も、ジュノも、ティンナッパの缶でお米を収穫するのが得意だよ。カンミの葉っぱ、見たことないんだよね。今度、実家に戻ったら、カンミの葉っぱを持ってきてあげるね。


自己紹介:Jerry B. Awe
19歳マノボ族 マノンゴル高校3年生(6年制)



 僕は、ジェリー。アラカンの山あいの村、トゥマンディンのカヨパトンという集落が、僕の故郷です。「パノバット・トバット」というマノボ族の宗教で、創造主である「マナマ」を信じ、「パヌバラン」というお祈りのための家で、祈ります。
 2017年の前期期末テストまでトゥマンディン高校で勉強し、秋休みの終わった後期からMCLに移りました。今、高校3年生です。
 この8月に、同じカヨパトン出身のジュノが帰省したときに、自分もMCLの奨学生になれないか、話してみたんです。ジュノは、6年前に奨学生になり、高校からMCLの寮に入って通学しています。
 僕はジュノや弟のジョバート、ジムジムと幼なじみで、よく遊んでいました。ジュノのお父さんと、僕のお母さんがいとこどうしなので、僕たちは親戚です。他にもMCLの奨学生のランランやアリシャ、ミチックが親戚になります。この11月からMCLの奨学生として、キダパワンのマノンゴル高校で学ぶことになりました。
 僕の父は45歳、母は48歳で元気ですが、家族はとても貧しいです。僕は本当は11人兄弟でしたが、4人の兄と弟、妹の6人が亡くなり、今は5人しか残っていません。僕は今は末っ子になってしまいました。亡くなった原因は病気です。お金がないので、病気になっても薬を買ったり病院に連れていけずに、死んでしまいました。15歳まで生きたのに死んでしまった兄や、キノコの毒で亡くなった兄もいます。
 僕たちが病気になったときは、「カラマンガモ」を飲みます。これは、山に特別な木を採りに行き、それを炭にしたものです。以前はジュノのお父さんが「マナナンバル(マッサージやまじないなどで病気を治す人)」でしたが、病気で亡くなってしまったので、カヨパトンにマナナンバルはいなくなってしまいました。でも、お金があればお店で熱さましや痛み止めの薬を買うこともあるし、病院に行けることもあります。
 僕たちの村は電気がまだ通っていませんが、ソーラーの電気を使っています。夜は7時に寝るので、夕方6時頃には夕食を食べなければなりません。でも、家にお米がなかったら、親戚や近所にお米を借りるために探しに行かなくてはならないので、夕食が遅れます。暗くなってしまったら、棒の先に火を灯して、明かりにします。でも、お米はお金があるときしか買えないので、いつもはサツマイモや里芋、キャッサバ芋、トウモロコシを食べています。時々、お昼ご飯は食べられません。家にお米がたくさんあれば高校休まなくていいけど、お米が無いとお弁当を持って行けないので、学校に行かずに家の仕事を手伝います。
 カヨパトンから高校まで歩いて、大体1時間半くらいかけて通っていました。今、兄弟で勉強を続けているのは僕だけです。僕には姉は1人と兄が3人いますがみんな小学校の途中で止めてしまいました。
 両親も兄弟も、仲がいいです。兄の2人は、もう結婚しました。両親は、バナナやトウモロコシ、ゴムをつくって収入を得ています。時々、僕もトウモロコシを製粉所に持って行く手伝いをしていました。カヨパトンからだと、セントニーニョの製粉所が一番近いです。僕の家には、馬もいないしバイクも無いので、バイクタクシーにお金を払ってトウモロコシを運びます。MCLでは3食お米を食べていて、トウモロコシは出ないんですね。僕の家では、トウモロコシを炊いて食べることも多いので、きっと恋しくなるだろうな。家族は、僕が勉強を続けることを喜んでくれています。でも、僕が家を出る日、母は泣いていました。
 僕は、大学を卒業することが夢です。将来は海軍に入りたかったけど、MCLの奨学金は、銃を持つ仕事に就くためには出ないそうなので、船乗りになりたいです。海を見たことがないけど、憧れているんです。
 好きな科目はMAPE(音楽・美術・保健体育)です。トゥマンディンの高校に行っていたときは、宿題で模造紙や色紙、ファイルを買わなくてはならない時、お金がないと提出することができませんでした。でも、トゥマンディンの高校に通っている生徒はお金がない子が多いので、先生も分かってくれます。MCLの奨学生は、月に200ペソのお小遣いがもらえて、それで宿題に必要なものを買うことができるんですね。うれしいです。
 趣味は、バスケットボールやバレーボール、チェスをすることです。好きな色は、白。好きな食べ物は、特にないけれど、お腹いっぱい食べたいです。
 僕は、新しい高校でジュノと同じクラスになりました。一緒に励まし合って、お互いに夢を叶えたいです。ご支援に、とても感謝しています。



「フアンの冒険(原題:A Family)」
語り:ジュノ L. マイラン(19歳)トゥマンディン村カヨパトン集落

 これは、僕がおじいちゃんから聴いたお話。おじいちゃんは、おじいちゃんのお父さんからこの話を聴いたそうです。


 むかしむかし、あるところに、お父さんとお母さんと、息子が一人住んでいました。息子は16歳で、名をフアンといいました。お父さんはトマス、お母さんはタボックタリナウという名前でした。両親はお金持ちで、一人息子をとても愛し、望むものはなんでも与えました。むかしむかしの話ですので、学校はまだありませんでした。
 フアンの家は、闘鶏用の鶏をたくさん飼っていました。祭りの日、フアンはお母さんに頼んで鶏を十羽もらい、闘鶏に出かけました。闘鶏場で、お金を賭けましたが、負けてしまいました。フアンは、自分の持ってきた鶏も、闘わせることにしました。しかし、フアンは鶏の足にナイフの付ける方法をよく知らず、刃を逆さにつけてしまいましたので、十羽とも負けて、取られてしまいました。午後にフアンが家に戻ると、お母さんが聞きました。
「フアン、闘鶏は勝ったかい?」
「みんな負けたよ。賭けにも負けて、お金も無くなったよ」
お母さんは、フアンをとても愛していたので怒りませんでした。
 次の祭りの日にも、フアンは鶏十羽と賭けに使うお金をもらい、闘鶏に出かけました。しかし、そこでもすっかり負けてしまいました。家に戻ると、お母さんが聞きました。
「フアン、勝ったかい?」
「負けたよ。鶏もお金も無くなったよ」
お母さんは、何も言いませんでした。
 何日かして、また祭りがありました。フアンは、鶏十羽とお金をもらって闘鶏に出かけましたが、今度もすっかり負けてしまいました。家に戻るとお母さんが聞きました。
「勝ったかい?」
「負けちゃったよ」
フアンの家の鶏は少なくなってしまいました。両親は、もうお金持ちではありませんでした。
 何日かして、また祭りがありました。フアンは、鶏十羽とお金をもらって闘鶏に出かけましたが、やはり、負けてしまいました。家には、もう鶏が一羽しか残っていませんでした。両親は、貧乏になりました。フアンが家に戻ると、お母さんが聞きました。
「勝ったかい?」
「負けちゃったよ」
それでも、お母さんはフアンを愛していたので、責めませんでした。
 けれど、お母さんはいいました。
「フアン、お前はもうこの家にはいられないよ。家を出て、好きなところに行って生きていきなさい」
 フアンが家を出る日、家族みんなで泣きました。両親はフアンを家から出したくなかったし、フアンも家に残りたかったからです。でも、家は貧乏になってしまったので、フアンは出て行くしかありませんでした。両親は残った一羽の鶏と、闘鶏用のナイフを餞別にくれました。お母さんは言いました。
「山に着いたら、そこで眠りなさい。そこで生きていきなさい」
 そして、フアンは家を出て歩き出しました。鶏をかかえて、山をいくつ越えたでしょうか。フアンは、お腹が空いてふらふらしてきました。辺りを見渡すと、山のふもとに、大きな大きな家があります。家の側には、サツマイモやキャッサバ芋が植えてありました。近づいて行くと、サツマイモとキャッサバの話し声が聴こえます。
「今晩のおかずが着たから、ワシらあとで引っこ抜かれるな」
「おかずと一緒に煮られて、食べられるな」
フアンは驚いて、後ずさりしました。けれど、お腹が空いていたし、住むところもないので、できればその大きな大きな家に住めないかと思い、家の中を覗いてみました。
 そこには、大きな大きな鬼が住んでいました。鬼は一つ目で、腰には里芋の葉を巻いていました。鬼は、匂いをかいで、フアンを食べようと、斧を持って追いかけてきました。フアンは逃げながら、鬼も鶏を一羽飼っているのに気が付きました。鬼の鶏は、大きい大きい鶏でした。
 フアンは、鬼に言いました。
「まだ、食べないでおくれ。こうしよう。俺の鶏と、お前の鶏と闘って、もし、俺の鶏が負けたら俺を食べてもいいよ。でも、俺の鶏が勝ったら、俺をお前の養子にしてこの家に住まわせてほしい」
 鬼は、闘鶏の勝負を受け入れました。
 この闘いでは、フアンの鶏が勝ちました。フアンの鶏は、脚に付けられたナイフで鬼の大きな大きな鶏を蹴りあげ、首を落としました。
 フアンは大きな大きな鬼の養子になり、大きな大きな家に一緒に住むことになりました。フアンは鬼が怖かったのですが、他に住むところも無かったので、仕方ありませんでした。しかし、鬼は約束通り、フアンを自分の子どものようにかわいがってくれました。フアンのために、お米やキャッサバ、芋の木を探して料理してくれました。
 数年が経ち、フアンも22歳の青年になりました。ある日、鬼が言いました。
「おかずを探しに、ちょっと遠くまで行ってくる」
鬼は、人間を食べるために探しに行くのでした。フアンは、鬼が人間を食べるのを知っていましたが、鬼に「食べているところは見てはいけない」と、言われていました。鬼の家を出ると、住むところがないので、鬼が人を食べるのを受け入れざるを得ませんでした。それに、フアンはもう鬼のことが怖くありませんでした。
 鬼は、家を出る前にフアンを家の奥に連れていきました。そこには、小岩のように大きな泥の塊が二つありました。一つは思わず目をつぶってしまうくらい眩しく光り輝いていて、直接見ることができません。もう一つは透明で、触るとそこにあるのですが、目で見ることはできませんでした。
「これは、ワシの力の源だから、決して触ってはいけないよ」
鬼はそうフアンに言い聞かせて、人間を探しに行きました。
 フアンは家に一人残されました。つい、鬼の力の源の二つの泥の塊に近づきました。そして、右手の人差し指を、光り輝く泥の中に入れてみました。すると、右腕が、その泥のように、光り輝き始めました。フアンは驚いて、右腕を布でごしごしこすってみたり、水で洗ってみましたが、光は取れません。腕に布団をかけてみても、光がもれてきます。フアンは左手の人差し指を、見えないもう一つの泥の中に入れてみました。今度は、左腕が、その泥のように透明になり、見えなくなってしまいました。
 フアンは鬼に怒られるのを恐れて、病気のふりをすることにしました。床に横になり、体の上にゴザをかぶり、その上に布団をかけました。しかし、フアンの右腕は強く光り輝き、布団から光がもれていました。
 鬼は、人間を探して遠いところにいましたが、フアンが二つの泥に触れたことに気付きました。そして、怒って急いで家に帰ってきました。家から遠く離れたところからでも、フアンの右腕が光っているのが見えます。
「フアン、約束を破ったな」
フアンは、心臓がドキドキして、何も答えられません。
「心配するな」
と鬼は言って、フアンの両腕を元に戻してくれました。
「フアン、お前はワシに過ちを犯したから、もうこの家にはいられないよ。家を出て、どこへでも行きなさい」
 鬼は、本当はフアンを食べてしまいたかったのですが、最後まで約束を守りました。フアンは、鬼の家を離れたくありませんでした。鬼も寂しがり、二人でたくさん泣きました。
 鬼は上着を一枚、ズボンを一本、小銃を一丁、光り輝く泥の塊の上に置きました。すると、服や銃も同じように光り輝き始めました。鬼は、上着、ズボン、小銃をもう一つずつ用意し、今度は目で見えない泥の上に置きました。すると、それらもその泥の塊のように透明になりました。そして、鬼は服の使い方をフアンに教えました。光り輝く服を着るとフアンも光り輝き、透明な服を着るとフアンの姿も見えなくなるというのです。鬼は、餞別に鬼の力を移した上着を二枚、ズボンを二本、小銃を二丁くれました。
「小銃は、旅の途中で身を守るために使うこともあるだろう」
 そして、二人は出発までおいおい泣いて過ごしました。
 次の朝、フアンは服と小銃を抱えて旅立ちました。フアンは新しい服を二着鬼にもらいましたが、着ている服は穴だらけでボロボロでした。歩き続けて、山をいくつも越えました。フアンはすっかり疲れてしまいました。お腹もとても空いていました。
 フアンが辺りを見渡すと、遠くの山のふもとに一つの国が見えました。フアンは、その国に行ってみることにしました。近づいてみると、たくさんの人々が楽しそうにしています。その国の王様は、たくさんの兵士に守られていました。フアンは、その国に入る前に、鬼にもらった服と小銃を土の中に埋めて隠しました。フアンは穴だらけの服を着て、汚れて、物乞いのようにしか見えませんでした。フアンは、この国で仕事を探そうと思いました。
 フアンは、王様のところに行きました。
「王様、私に何か仕事はありませんか」
王様は、フアンの恰好を見て笑いました。
「乞食にやる仕事はないよ」
 王様には、三人の美しい娘たちがいました。長女はドンニャ・カタリーニャという名前で21歳、次女のドンニャ・マリアは19歳、三女のドンニャ・イニスは17歳でした。
 フアンは、長女のドンニャ・カタリーニャのところに行きました。フアンは、男前に成長していましたが、ぼろきれをまとい、長旅のためにひどく汚れていました。
「お姫様、私に何か仕事はありませんか」
カタリーニャは、フアンにつばを吐きかけました。
「乞食にやる仕事はないよ」
 次にフアンは、次女のドンニャ・マリアのところに行きました。
「お姫様、私に何か仕事を下さい」
マリアも、フアンにつばを吐きかけました。
「乞食にやる仕事はないよ」
 フアンは、仕事を見つけられないので、困ってしまいました。最後に、三女のドンニャ・イニスのところに行きました。
「何でもするので、仕事を下さい」
イニスも、フアンにつばを吐きかけました。
「豚小屋の仕事ならあるよ。給料はなしだし、食事も豚のエサを一緒に食べて、住むところは豚小屋の下の穴倉だよ」

 フアンがドンニャ・イニスの豚小屋で働き始めてから、2年の月日が流れました。フアンは24歳になっていました。
 ある日、北の国の王様から、フアンの住んでいる国の王様に封書が届きました。北の国の王様の飼っている大蛇のために、ドンニャ・カタリーニャを差し出せ、というのです。北の国は強大で、フアンの国の王様は従うしかありませんでした。王様はお金持ちでしたが、軍隊は弱かったのです。王様のお妃も、姫君たちが幼いころに、隣国の大蛇の生贄になったのでした。
 王様は、カタリーニャの別れの宴を準備しました。牛を屠殺し、ご馳走をたくさん作りました。王様も、姫君たちも、人々も泣きました。
 次の日の正午、北の国から迎えの兵士がやって来て、カタリーニャを連れて歩いて行きました。国を出る前、カタリーニャはフアンに、
「お前は私を助けてくれないね」
と美しい顔でののしり、つばを吐きかけました。フアンはうつむき黙ったままでした。
 カタリーニャが去った後、フアンは王様に、
「豚のエサに里芋を採りに行きたいので、外に出して下さい」
と頼みました。
 王様は、
「さっさと行ってこい」
と、床を磨くココナツのたわしをフアンに投げつけました。
 フアンは、急いで駆け出しました。そして、国を出たところで、この国に来た二年前に隠した光り輝く服と小銃を掘り出し、身につけました。フアンは光り輝く姿になり、また、姫を追いかけて駆けだしました。
 北の国では、広場に置かれた長椅子にカタリーニャが座らせられていました。背後には、大蛇が姫を食べようと舌なめずりをしていました。北の国の王様や兵士たち、たくさんの人々が見物に集まっていました。
 そこに、光る服を着たフアンが走り込んできました。そして、カタリーニャに近づきました。大蛇も、王様も、兵士も人々も、フアンの服のせいで目が眩んでフアンを見ることができませんでした。フアンは光り輝く小銃で、まず大蛇を撃ちました。大蛇が倒れると、王様、兵士、人々を撃ちました。皆、倒れました。フアンはカタリーニャを連れて、北の国を逃げ出しました。
 自分たちの国に戻る途中、カタリーニャはフアンに名前を尋ねました。フアンの服は眩しく、カタリーニャも自分を助けたのがフアンだとは気づきませんでした。フアンは、私に名前はありません、と答えるだけでした。国が近づくと、フアンは言いました。
「お姫様はこのまままっすぐ帰って下さい」
 そして、フアンは走り出しました。急いで、光り輝く服を脱ぎ、元の穴に隠して、ボロボロの服に着替えました。近くで里芋を掘って、急いで豚小屋に帰りました。王国では、大蛇に食べられたとばかり思っていたドンニャ・カタリーニャが戻って来たので、大騒ぎでした。王様は大喜びで姫君を出迎え、再会を喜びました。姫君は、光り輝く服を身に着けた若者が助けてくれた話を皆に聞かせました。フアンは、豚小屋の下の穴倉で、上の騒ぎを聴いているだけでした。誰も、フアンが姫君を助けたなどとは思いもしませんでした。カタリーニャは、もし自分を助けてくれた若者を見つけたら、その男性と結婚したいと言いました。
 それから数か月が過ぎました。また、王様の元に封書が届きました。今度は東の国からでした。東の国の王様の飼っている大鷹のために、ドンニャ・マリアを差し出せ、というのです。東の国も強大で、王様は泣く泣くマリアを差し出すことにしました。牛が屠殺され、別れの宴が準備されました。王様も、マリアも姉妹も泣きました。フアンは穴倉で話を聴きながら、今度もマリアを助けようと思いました。次の日、隣国から迎えの兵士が到着し、正午にマリアは連れていかれました。フアンは王様に、豚のエサを煮るための薪を取りに行きたいので外に出たいと、申し出ました。そして、走って王国の外に隠してある光る服を取りだし、それに着替えました。光り輝く小銃を持ち、歩いて隣国に向かうマリアと兵士を走って追いました。
 東の国に着くと、マリアは大鷹の前の長椅子に座らされました。泣きながら食べられるのを待っていると、遠くから光り輝く人が走ってくるのが見えました。太陽の光のようでした。光り輝く人は、光り輝く小銃でまず大鷹を撃ち、それから東の国の王様と兵士たちを撃ち、マリアを助けてくれました。マリアは、カタリーニャの話は本当だったのだと思いました。
 マリアは、光り輝く人と東の国を後にし、王国への帰路につきました。マリアは、光り輝く人に近づいて顔を確かめようと思いましたが、眩しくて見ることはできませんでした。マリアは、尋ねました。
「あなたは誰ですか」
その人は、答えませんでした。ただ、
「私に名前はありません。ただ、森に住んでいるだけです」
と言うだけでした。 
 二人が王国に近づくと、マリアはこのまま王国まで一緒に帰るよう求めましたが、フアンは、送るのはここまでです、と言いました。そして、急いで服の隠し場所まで走り、ボロボロの服に着替え、薪を拾って豚小屋に帰りました。マリアは一人でゆっくりと王国にたどり着きました。王国では、マリアが帰って来たので、皆、大喜びでした。ドンニャ・カタリーニャは、
「私の話は本当だったでしょう」
と言いました。
「私たちを助けてくれた方はがいったい誰なのかしら。服が眩しくて、顔がよく見えなかったわ。でも、もしその方を見つけられたら、私もその方と結婚するわ」
とマリアは言いました。
 王様は、牛を屠殺して、マリアが帰ってきたことを祝う宴を催しました。皆、姫君が無事に戻ってとても幸せでした。フアンは宴には呼ばれずに、穴倉で上の騒ぎを聴くだけでした。ご馳走は食べられずに、いつもの様に豚のエサを食べました。マリアは、フアンに言いました。
「あんたにはがっかりだわ。私が危険な目に会っても、助けようともしてくれなかったわね」
そして、つばを吐きかけました。フアンは、うつむいて黙ったままでした。ただ、心の中で「姫を助けたのが誰なのか、もうすぐ知ることになるだろう」と思いました。
 
 それから、数年が流れました。フアンは26歳になっていました。王様の元に、今度は西の国から封書が届きました。西の国の王様の飼っているワニのために、ドンニャ・イニスを差し出せというのです。フアンの王様は泣きながら、イニスのための別れの宴を開きました。そして、イニスは東の国に連れていかれましたが、やはりフアンが「豚のエサの里芋を採りにに行く」と言って外に出て、光り輝く服を着て、光り輝く小銃で、ワニと西の国の王様、兵士たちを倒し、イニスを助け出しました。
 イニスは自分の国に帰り、王様に、
「私も、自分を助けてくれた光る若者と結婚したいわ」
と言いました。
 王様は、全ての兵士を広場に集めました。光り輝く服を着ていた若者を見つけるためです。王様は、兵士の中にその若者がいると考えていました。しかし、姫君たちは、光る服を着た若者は山に住んでいると言ったのだから、兵士たちの中にはいないのではないかと思っていました。
 王様は兵士たちに尋ねました。
「この中に、ドンニャ・カタリーニャを助けたものはおるか」
一人の兵士が手を挙げました。
「それは、私です」
「もし、本当なら、倒した大蛇の骨をここに持ってきなさい」
嘘つきの兵士は、大蛇の骨を持ってきました。王様は、兵士を信じました。カタリーニャは、その兵士は助けてくれた若者と似ていない、と思いました。
 次に王様は言いました。
「この中に、ドンニャ・マリアを助けたものはおるか」
また、一人の兵士が手を挙げました。
「それでは、倒した大鷹の骨を持ってきなさい」
もう一人の嘘つきの兵士は、大鷹の骨を持ってきました。王様は、その兵士のことも信じました。マリアは、きっとこの兵士ではない、と思いました。
 それから、王様は聞きました。
「この中に、ドンニャ・イニスを助けたものはおるか」
三人目の嘘つきの兵士が手を挙げました。
「倒した大鷹の骨を持ってきなさい」
その兵士も、大鷹の骨を持ってきて、皆その兵士のことを信じました。
 王様は、三人の嘘つきの兵士に言いました。
「よく、私たちの娘を助けてくれた。お前たちを姫たちの婿に迎える。今後、食べ物や衣服など、すべての心配はいらない」
 けれど、姫君たちは、もし本物の光り輝く服を着た若者が現れたら、その若者と結婚したい、と思っていました。
 次の日の正午が結婚式の始まりでした。王様や姫君たち、兵士や人々は、祈りの館に向かいました。フアンは招待されませんでした。けれど、自分が姫君たちを助けたことを知ってほしいと思い、心が痛みました。豚小屋の穴倉の中で、自分は何をするべきかを考えました。
 フアンは外に走り出しました。今度は許可を取りませんでした。そして、国の外で、光り輝く服に着替えました。そして、結婚式が始まろうとしている祈りの館へ急ぎました。結婚式に集まっていた人々は、フアンの服の光を太陽の光だと思いました。
 カタリーニャとマリアとイニスは、光る服を身に着けた若者が現れ、大喜びをしました。花嫁衣装を着て、それぞれ夫となる予定の兵士たちと腕を組んでいたのですが、それをほどき、その若者に抱き付きました。王様は、兵士たちが嘘をついていたことに驚き、兵士たちは姫君たちと結婚できなくなると、腹を立てました。兵士たちは、光る若者を殺そうと、銃を撃ちました。フアンも、光理輝く小銃で兵士たちを撃ち返しました。結婚式は、中止になりました。
 フアンの服は眩しく、誰もその若者がフアンだということに気づきませんでした。また、フアンも黙っていました。王様は、フアンに服を着替えるようにいいましたが、フアンは断りました。その夜は、祈りの館で眠ることになりました。フアンの服は眩しく輝いていましたが、着替えずに眠りました。
 それからの数日間、王様や姫君たち、フアンは祈りの館で過ごしました。
 ところで、鬼の力を移したフアンの光り輝く服には、フアンの願いを叶える力がありました。フアンは、三人の姫君が、彼女たちを助けたのが誰なのかを暗示する夢を見るように、と願いました。
 その夜、カタリーニャとマリアとイニスは同じ夢を見ました。乞食のフアンが、光り輝く服を身につけ、彼女たちを動物から救う夢です。姫君たちは目を覚ました後、夢のことを考えましたが、フアンが彼女たちを救ったとは信じられませんでした。フアンは、豚小屋の下の穴倉の中にいるとばかり思っていました。
 次の日の夜も、カタリーニャとマリアとイニスは同じ夢を見ました。姫君たちは夜中に目を覚ますと、夢について語り合いました。そして、三人が同じ夢を見ていたことを知って驚きました。朝になって、姫君たちは王様に夢の話をしました。けれども、王様は夢の話を信じませんでした。姫君たちは、光り輝く服を着た若者に尋ねました。
「あなたはフアンなのですか」
若者は、
「違います」
と答えました。
 その次の夜も、カタリーニャとマリアとイニスは同じ夢を見ました。朝になると、また同じ夢を見たと王様に話しました。王様は、豚小屋にフアンがいるか確かめるよう命じました。豚小屋に、フアンはいませんでした。王様は、もしかしたらフアンが本当に娘たちを助けたのかもしれない、と思いました。
 王様は、三人の娘と共に、光る服を着た若者のところへ行きました。若者の前に王様が立ち、姫君たちは若者を取り囲みました。
「あなたは、フアンなのですか。違うのですか」
「どうか、答えてください」
若者は、何も答えませんでした。けれど、カタリーニャとマリアとイニスは、この若者が確かにフアンであると悟りました。そして、過去に自分たちがフアンにした仕打ちを思い出し、涙を流しました。光り輝く服を着たフアンも、涙を流しました。
 フアンは言いました。
「あなたたちが私を見下し侮辱していても、私は助けたかったのです」
「ごめんなさい」
「本当に、ごめんなさい」
姫君たちは、フアンに謝りました。
 王様も、フアンの前で膝をつき、手を組み、
「すまなかった」
と頭を下げました。王様も、三人の姫君たちも、フアンも泣きました。
 それから、カタリーニャとマリアとイニスは、フアンに求婚しました。フアンは、姫君たちの申し出を受けました。
「私は、あなたたち三人を妻にしますが、一番愛しているのはドンニャ・イニスです。なぜなら、イニスだけが私に仕事を与えてくれたからです」
 皆、幸せのために泣きました。姫君たちは、フアンと結婚できることになり、とても幸せでした。フアンは、これまでの辛い思いが報われたと思いました。
 次の日の正午に、結婚式を挙げることになりました。皆は、祈りの館に向かいました。フアンはこっそりと鬼からもらった、目に見えない服を掘り出し、持って行きました。王様は、フアンのために立派な婚礼の衣装を用意しました。花婿になったフアンは、とても立派でした。
 さて、婚礼の会場に、フアンを殺そうと狙う、20人の兵士たちがいました。彼らは、三人の姫君たちと結婚するフアンを激しく妬んでいたのです。フアンは、自分を殺そうとする者たちが会場にいることを悟り、婚礼衣装を脱いで、鬼にもらった目に見えない衣装に着替えました。
 すると、フアンの姿は目に見えなくなりました。姫君たちは、花婿の姿がなくなったので、必死に探し回りました。
「フアン、フアン、どこに行ったのですか」
「出て来てください」
 姫君たちは、泣きだしました。フアンは、鬼の力を持った、目に見えない服に願いました。
「花嫁たちに、フアンの姿は見えないけれど、ここに確かにいると伝えておくれ。心配するな、と」
 20人の兵士たちは、フアンの姿が見えなくなったので、代わりにカタリーニャとマリアとイニスを殺してしまおうと思いました。王様は、武器を持っていなかったので、娘たちを守ることができません。兵士たちは、姫君たちを撃とうとしました。そこで、フアンが鬼にもらった目に見えない小銃で、兵士たちを撃ち返しました。20人の兵士たちは、皆、倒れました。
 フアンは、目に見えない服を脱ぎ、婚礼衣装に着替えました。王様と三人の姫君は、フアンの姿が再び現れたのでとても喜び、感謝しました。
「助けてくださって、どうもありがとう」
 王様も、姫君たちも、とても幸せでした。たくさんの涙を流して泣きました。また、過去に自分たちがフアンにしたことを悔いて、泣きました。
 フアンは、
「過去のことは過去のことですから、私は気にしていません」
と言いました。
 結婚式が再開されました。心配することは何もなくなり、皆、とても幸せでした。
 フアンは、歳を取ってもカタリーニャとマリアとイニスを愛し続けました。王様と、フアンと三人の姫君は、末永く幸せに暮らしました。困難は、あきらめるための理由にならないのです。


 ジュノさん、最後の場面で、フアンはずいぶんかっこいいんですね。
 そうですね、まるで僕のようですね。
 そういうことに、しておきましょうかね。
 僕たちの村には電気がないので、夕方六時半頃に床に就くんですよ。おじいちゃんがお話を終える頃には、九時くらいになっていたでしょうか。僕がこの話を聴いたのは一度きりですが、よく覚えています。







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