「遺伝圏の深層現象学」
ソンディテストを解釈する前の予備知識
読むだけで面白い衝動病理学・臨床心理学の基礎知識
記号で学ぶ運命分析・精神分析の基礎知識要約
S:愛と死 ---- 性衝動遺伝圏
P:善と悪 ---- 感動発作遺伝圏
Sch:所有と存在 ---- 自我衝動遺伝圏
C:鬱と躁 ---- 接触衝動遺伝圏
C:鬱と躁 ---- 接触衝動遺伝圏
富樫 橋
C
躁と欝
アナルdとオラルm
接触衝動の遺伝圏人と人とが互いに結びつこうとする情愛欲求,その結びつきを破壊しようとする攻撃欲求,この愛と死の遺伝子の働きだけで,果して人間は生活し,仕事と友をもち,恋愛,結婚し,子孫をつくり,個人の運命を形成してゆけるであろうか.それは無理というものである.性衝動がいくら高まっていても,それだけでは対象と1対1で向き合い,関わりを持つことはできない.その目標対象にしがみつこうとする衝動,身体の奥深いところから対象を獲得しようとする衝動の遺伝子が同時に働かないと,人間関係態度が定まらず,関係が実現しないのである.だから接触の対象は愛の対象だけではない.食物や栄養物質,金銭財産,あるいは精神的な価値も接触の対象になるのである.そして,新しい対象を求めようとするのか,古い対象に執着するのか,そういう,外界の価値対象と関係する態度を決めるのが接触衝動なのである.次の5つのプロフィル(男性)の場合,
S P Sch C h s e hy k p d m --------------------------------------- +! + + − ドン・ファン(不実) +! + − + 母親に執着(誠実) +! + + + 八方美人的 +! + − − 失恋対象に固着 +! + 0 +! 酒や煙草,中毒の傾向この人の性衝動は攻撃的な個人愛であり,性的欲求が高進している.そして彼が,つねに新しい対象を探求する衝動傾向d+を遺伝負因として祖先から受けついでいれば,彼は自分を変える傾向と,依存対象と離別する傾向が強い素質だということがわかる.これは,愛の対象関係では,次々と相手を取り替える傾向,モーツアルトのオペラで知られる浮気者ドン・ジョバンニのような人である.反対に,この人がd−m+であれば,古い対象に執着し,常に自分の存在を認めて貰いたいという傾向が強く,このテスト所見を示す人は,たとえ成人であっても,未だに母親に甘えていたいという気持ちが精神の深部に存在するのである.しかし,この人は,他の誰よりも誠実な人間関係を作れる人であり,決して人を裏切らない.さらにd+m+ならば,新しい相手を探し求め(d+),一方では古い対象にしがみつく(m+),欲張りな八方美人である.
それを逆にしたd−m−ならば,失った対象を忘れられずにいつまでも固着して,誰にも会うことができない接触阻害の状態,非現実的接触の人である.
そして,彼らのうちの何割かは,かつて自分を無条件に受け容れた母の胸にしがみついた乳房の代わりに,酒や煙草を吸って口唇中毒者(d0m+!)になるのである.このように接触衝動は,外界との関わりや人間関係の傾向を決める衝動である.そして,d獲得アナル遺伝子は欝病的運命を,m口唇依存遺伝子は躁病的運命を,遠い祖先からわれわれの身体の中に伝えている.本来接触衝動Cの活動は,dの衝動から初まるに違いない.その人にとって価値ある対象,つまり母親を含む対人的な価値対象や,栄養摂取を含む対物的な価値対象の獲得が先ず初めに行われて始めて,その次の精神状態,すなわちその対象に固執し他を見向きもしないか,その対象に執着依存するか,あるいは離別するかという多様な接触態度が作動する.それゆえdの基本性格は「永遠の探求者および永遠の固執者」である.従ってこの遺伝圏に属する人々の運命危険性は,彼にとっての根源対象(ウルオプイェクト)が獲得できなかったこと,獲得しようとする欲求が未だに充足していないことが原因となって起きるのである.一般に彼らはそれを充足することができず,金銭物質快楽などを永遠に探求する者になるのである.
メイン範疇 Cd遺伝圏
画家・画商,美術骨董関係,金融銀行関係,各種浄化関係で成功する範疇
潜在的価値獲得者,「永遠の探求者」および「永遠の粘着者」の国このCdアナルの国に属する人々に共通する特徴は,次ぎのようである.彼らは現実において既に失ってしまった対象をつねに探し求め,或いは見失うことを恐れている.この根源対象に対する執着欲求は非常に強烈である.しかしそれが充足されることはなく,欲求が静止することがないのである.その状態には自己卑小感,自己罪障感があり,失った対象の価値が増大し,同一視の能力が極端に大となる.彼らは自我の中に祭壇を作り,失った理想像を死に至るまで気に病む.自己自身に向けられた攻撃性と,情愛欲求も,あまりに強過ぎるために充足されることはない.もし,彼らがこの対象追求の潜在的欲求を社会化するならば,我々は「永遠の競争者」ないしは「一切の快楽を絶った人道主義者」の像を見るに違いない.
さて,Cdアナルの国でも,d+とd−の2つの種族がある.まずd+の種族の行動パターンから観察することにしよう. サブ範疇 d+遺伝圏
「永遠の探求者」あるいは欝の人々
d+の種族は永遠に価値対象を探求し追求する.この獲得欲求は新しい食物や栄養物を探し求めることが出発点である.それを腸で吸収し内臓に蓄積貯蔵するのはd−の役割である.子孫を増やすために愛の対象を探求するのはd+の欲求である.だが対象を探求するためには,一カ所に留まらず移動しなければならない.だからd+範疇の人々は環境が変化するのも,自分自身が変化するのも好きで好奇心が旺盛である.現代社会で新製品の開発が次々と行なわれ,どんどん売れてゆくのは,このd+変化欲求のおかげである.変化は競争の母である.競馬や競輪,F1レースなど,すべての競争が好きなd+の種族は現代競争社会のリーダーである.
d+範疇の種族はまた,切手やコインを競って集める.記念切手の発売日は朝早く郵便局に並ぶ.だからこの人々は収集的職業に向く.例えば古物・書画骨董店,質屋など.銀行や信用金庫などの金融業,税務署や保険の勧誘,こういう経済的職業も新しい価値対象を永遠に探し求めるアナル遺伝子d+のエネルギーが強くなければとても勤まらないし,出世も難しい.だがその力が強すぎても困るのである.
この範疇に属する人の衝動危険性は,決して充足することのない探求の欲求によって惹起される.このことを更に詳細に分析すれば,永遠の探求は,理想形成の機能が過度であることの結果であり,失った対象への病的に強まった,自我の投入(k+)の結果であることが明らかになるに違いない.このような人は,決して発見できないようなモデルに基づいて探求するために,もはや探求を中止することができなくなっている.普通なら,ほぼ理想に近い対象を発見してそれで我慢するのだが,彼らは全く特別な投入像と結びついているために,この世の中にそれと寸分違わぬものがある筈はなく,さらに無益な努力を重ね,休むことなく探求し続ける.この探求される像は,しばしば瞬間投入(アドホック投入:k+)の結果である.従って衝動心理学的には,この範疇に属する人の衝動危険性は先ず第1に探求欲求ではなく,強い所有理想機能(k)である.
「比較的健康な」人の場合の永遠探求は,止むことのない競争という形をとる.彼らはかつての原始対象(父親,母親,兄弟,先生)との競争に固定されてしまったため,転移によって「成功者」として後で現われる人間と生涯絶えず競争し続けてゆくのである.彼らは最初の競争において原始対象を見失っており,この失われた対象が自我のなかで偶像(イマーゴ)として形成されているので常に競争を続ける.彼らは「別な領域での成功によって征服しようと試みる理想像」に導かれ,さらに競争が進むのである.彼らはこの戦いでその才能を浪費し,また無益に精神的物質的財産を浪費するが,自らを重篤な抑欝状態にさせ,自己を責めさいなみ,死に至るまでその戦いを断念しようとはしない.優れた作品を残して発狂した画家ゴッホは,永遠の芸術探求者の典型例である.したがって抑欝という症状は,自らの精神の「永遠の探求に対する反応」であるに過ぎない.
彼らの性衝動は,自らに向けられた攻撃性(s−,s−!)が優勢な自己苦悩者であり,自殺者になることもある.フロイトはこの自己攻撃性は超自我の厳格性によると仮定した.彼らはしばしば幼児的性衝動S00を示す.彼らはまた感動生活においても,感動解放P00を示し,しばしばパニックP−−,投影的不安P0−,悲嘆P0±などの不安定状態を与える.自我像は,幼若な自我Sch+−,Sch±−で,自閉への素質を示し,軽躁病の後の時期にはSch−−,−!−,−−!を示す.職業選択は「収集者」の職業すなわち倉庫業や金融・証券業,切手やコイン商のほか,美術品のオークション関係,競売人や評論家などは競争欲求の社会化の例である.
d+の範疇に属する人の結婚対象は,限度を超えた獲得欲求d+と所有理想k+を抑制し,結婚生活を通して衝動教育をする可能性のある人,道徳的な抑制力hy−で強化された制止自我k−p+の人が望ましいと思われる.
d+範疇の人の,悪い運命可能性は,性的な劣等感を伴う偏執病的誇大妄想ないしは,永遠の競争者,しばしば性的未発達を伴う劣等感,目標倒錯的な潜在的同性愛の賭博者(競馬,トランプなどのギャンブラー),偏執性の窃盗狂である.若年層の盗癖者はs0とd0またはs+!d+!を示す.このd+!人間は最悪の場合,入水自殺やガス自殺の死亡形式を選択する.しかし,この危険性を最も社会的に昇華する領域は,国家的経済にかかわる世界であり,国家財政,金融など,経済的なヒューマニストの領域である.
サブ範疇 d−
放棄者,固執者,不変者および肛門愛者の人々この範疇に属する人々は「執着性格」をもっている.彼らは一度手にいれた対象を絶対に離さない.d−は食物や愛の対象を獲得するが,d−はそれを身体の内部や隠し場所に蓄積する欲求なのである.熊が冬眠するために栄養物を身体に蓄えたり,蟻や蜜蜂が食物を蓄積するのは,すべてdアナル獲得遺伝子のd−蓄積留置欲求の働きである.この欲求をmの口唇愛にたいして肛門愛(アナルリーベ)欲求という.身体に取り込んだ栄養物を腸で吸収するため肛門を閉じて決して出さない,それに快楽を感じるのである.だからd−の人は便秘症である.
d−のように切手を集めるが決して手放さない.舌も出さない.倹約家で金庫番をまかせたら絶対安全で一銭も減らない.使えなくなったものでもとって置くから部屋の中はガラクタで一杯である.それが昂じれば腐ったものでも他人にやらない.しまいには快楽を断つことに喜びを感じ,禁欲者となるのである.d−範疇に属する種族の人は決して自分を変化することができない.ずっと前にすでに離れてしまった対象や,失った対象に執着し固着し,こだわる.貪欲でケチである.その代わり誠実なことはこの上ない.頑固だが,貞節で保守的で頼りになる.最高の金庫番である.
彼らはとくに,自分のそばから離れていった対象や,既に失ってしまった対象に執着するのである.彼らは熱烈な愛のパートナーのようなもので,より高い段階では,精神的な高級な対象を愛し,永久不変の,対象に対する誠実さを示し続けるのである.彼らはこのような対象のためには,つねに他の価値対象を断念することを覚悟している.彼らは人間の中での偉大な放棄者である.しかしこのような人に遭遇することは非常に希れである.
d−種族の人々の職業は,ほぼd+の人々と変わらない.しかし禁欲的で不快なことや汚れにも耐えられる肛門性格であることから,とくにペンキ塗装,廃棄物処理,汚水処理などの衛生関係,洗濯業,各種清掃業の方向を職業とすることができる.清浄化機能の社会化された職業は多く,浄水装置や浄水器,リサイクル関係回収業,漢字制定や国語浄化の研究機関,画家や画商,インテリア関係も,環境清浄化の職業である.dアナル遺伝子のd−機能は,自分は汚れても,e+浄化機能の安全弁として,一切のものを清潔,清浄にしようとするのである.
d−種族の人の結婚は,古い対象例えば両親や亡くなった夫や妻にたいする強い結びつきが邪魔をするから,かなり難しいが,道徳的なブレーキhy−の利いた現実的な自我k−p+の人が望ましいと思われる.
d−の人は状況によっては,病的に高まった肛門愛が考えられる.とくにs−!とd−!の組合せの場合は,アナルマゾヒズム,同性愛の可能性がある.病的な運命は,色情的肛門愛者,類癲癇性格の人,偏執性抑欝病者,嗜癖者などである.
死亡形式の選択は,慢性的な胃腸病の果ての自家中毒死,厭世的なガス自殺かまたは自己浄化的自殺である.
メイン範疇 Cm遺伝圏
語学,証券取引関係,販売,飲食業,吹奏楽器演奏家,映画で成功する範疇
躁病の国Cmオラルの国は,躁病の範疇である.この国の人々の衝動危険性は,対象にしがみつこうとする潜在的な欲求によって規定されている.彼らは対象を確実に所有しているという感じがもてないのである.それどころか,実際に対象を確実に所有しているにもかかわらず,それを失うのではないかという不安がつねにつきまとうのである.それで対象にしがみつこうとする欲求は,かつての母親に対して抱いたのと同じように,絶え間なく,しかも量的に非常に大きい.この欲求に関する限り,彼らは永遠の乳幼児であり,永遠の口唇加虐者(オラルサデイスト)である.
この衝動危険性から脱出するための非常口としての衝動安全弁は,口唇愛的性格をもつために,彼らは冗舌,多弁,唱歌,飲酒,摂食および喫煙などへの素質をもつのである.したがって次のような職業が選ばれることが多い.料理人,給仕,旅館の主人,喫茶店の主人,バーテン,ぶどう酒や日本酒の試味者,吹奏楽器を鳴らす音楽家,より高次の段階では,歌手,語学教師,いろいろな学芸の講師,国会議員のような演説をする職業などである.叙情詩人やシンガーソングライターからは,しがみつこうとする感傷的な欲求が生じる.躁病,軽躁病,軽躁的興奮性神経衰弱などにたいする素質(疾患準備性)は大きい.
このCm口唇愛オラルの国には,m+甘え種族とm−孤独種族が住んでいる.先ずm+「甘えの構造」の代表者から見てゆこう.
サブ範疇 m+
永遠の依存者,甘え人間,承認神経症および飲酒者の人々m+範疇に属する種族は,快楽主義者であり,甘え人間である.m+のオラル依存欲求は,本来まだ眼も見えないのに,生まれたばかりの動物が口と唇と舌で,母親の乳房にしっかりとしがみつく根源的な欲求である.これはすべての哺乳動物が遠い祖先から受け継いできたm依存遺伝子の機能であり,生命を維持する最初のそして最後まで続く大切な欲求である.いつまでも母の胸の中に安住し生きていることを認めてもらいたいそして,その持続によって,快楽をむさぼりたいというm+愛着欲求,m+承認欲求である.この欲求をd肛門愛欲求にたいして,口唇愛(オラルリーペ)欲求という.あるがままの自分を受け容れて欲しいと思う甘えっ子のm+種族は,愛するものを口と唇と舌でつかみたい,他の人と共にいつも楽しい状態で過ごしたいと思う朗らかな人である.彼らはおしゃべり,食事,飲酒,喫煙,キスが大好きなのである.詩人リルケも「抱擁によって永遠を約束することができる」と歌った口唇愛の快楽主義者であった.
生命に執着し,いつまでも生きて快楽を追求し,病気や死から身を守りたいm+依存欲求の種族は,言葉が好きで情操が豊かである.いつも機嫌が良く口笛を吹き,多弁で,自分がm+の種族であることを隠さない.
m+快楽主義の種族の職業は,すでに記したように,まず飲食業がある.日本料理,中華料理,西洋料理をはじめ,あらゆる料理店の経営者,コック,調理師は,m+の種族でないと成功しない.酒や調味料の製造販売,接客販売の店,広告代理業も話術のビジネスである.芸術分野ではフルートやクラリネット,トランペットなど吹奏楽器の演奏家,歌手や声楽家,落語漫談家,アナウンサーである.m+族は外国語も得意だから語学教師やその経営者,政治家のように演説する職業はm+の危険性を最も有効に社会化する領域である.
しかし,この朗らかなm+の種族も,欲求が極度に高まって,m+!,m+!!となれば,すでに嗜癖者の運命へ足を踏み入れている.ジャズやロックのミュージシャンが,よく麻薬に走るのはm+!の種族だからである.彼らな対象を確実に所有しているという実感がもてない.対象に確かにしがみついているのだが,それを失うのではないかという不安がつきまとって離れない.その依存欲求は,幼児のころ母親に抱いていたのと同じ位に強く,つねに絶え間なく,いつまでも,乳房にしがみつき,乳を吸いたいのである.この永遠の乳幼児,永遠の口唇加虐者者は,だから乳房の代わりに酒の瓶をしゃぶり,煙草や麻薬を吸い続け,遂には中毒者の運命を歩むのであ.これを,失われた母親との二者一体にたいする「永久の義肢(パーマネント・プロテーズ)」という.
このm+承認欲求の種族の人々の特徴は,第1に,きわめて容易に不安状態になるという傾向である.それは「所有対象を失うのではないか」という不安からである.第2は,誰かによって「受容されたい」という願望を充足させることができないのである.それゆえ,関与障害の傾向をもつ.
疾患選択形式は,常習性飲酒者(m+!),麻薬中毒者や麻薬犯罪者,若い女性における性的無節操,口唇的レスビアン,躁病的,自我拡大的型精神病質である.希に自殺の危険を伴う癲癇型の精神病質,混合精神病,嗜癖を伴う犯罪者等である.またCm+範疇には,正常な若年者や成人が属している(リンネ式表15を参照).
死亡形式は,服毒自殺,薬物中毒死である.運命を変える結婚対象は,倫理的な抑制力をもったe+タイプの人で,自我にk−p+が比較的多く現われる,芯の強い人がよいと思われる.
サブ範疇 m−
永遠の孤独者,軽躁病者および意志不定人の人々m−の範疇に属する人々は,自由と孤独を求める人であり,あきらめのよい人である.母親の胸から離れたい,自分の生命を支え,支持してくれる対象から離別し,愛するものとの抱擁から解放されたいのである.詩人リルケも,「抱擁」を賛美する一方で,「庭を通ってただ一人で行きたい」という詩を書いている.日本には山田山頭火がいた.自分をとりまく家族や友人,仕事仲間や会社の同僚との絆をひきちぎって自由になりたい,さらに進むと隠遁者として山奥深くわけ入り,下界に下りてこないのである.日露戦争があったことも知らない学者が居たが,対人接触を絶って象牙の塔にこもる人なのである.
この範疇に属する人々の性格は,基本的には,執着欲求を充足させることができないことに由来する.彼らは本当は,孤独の陰欝さや,世界から分離される苦悩に耐えられないために,自らを進んで孤独へと駆り立て,支持対象から離反するのである.この構造は無意識内部のものであるため,なかなか洞察し難いのである.反抗期の正常な子供,前思春期の少年,60〜70歳の正常な大人および退行期の大人がこの範疇に多い.
一部の青年期のm−範疇の人々は,無の世界にあこがれ,空の空なる宇宙に浸りたいという,放浪詩人や修行者の「自由への逃走」の欲求に従う.これは仙人や聖者を目指すm−範疇の人の,最も精神的に高度な願望である.生まれた時からの仙人はない.彼らの若い時は,いつも気持ちが変動して意志不定であり,周囲や他人との接触に現実感をもてなかったm−非現実接触者であった.無口,沈黙,断食,登山滝行が仙界に住むm−の種族の好むところであり,たまに口を開くことがあっても,それは口唇的な快楽を軽蔑するためである.だから,m−の人の恋愛は不可能である.多少権力的だが,ぐんぐん引っ張ってくれるk±p+の人が結婚対象に欲しい.
m−種族の人の危険性は,m+と同じような各種の職業につくことによって社会化し,無害なものにすることができる.そして仕事を通じてm+の人と結ばれることができれば,隠遁者の運命を変化させることができる可能性がある.病的な運命可能性は,先ず「学校嫌い」の子供,不登校から登校拒否へ進む子供,不安神経症患者,吃音者,教育困難な,注意散漫な,性急な,落ち着きのない若者,心気症患者,軽躁病ないしは躁病的な大人,変装狂,放浪者,窃盗狂,犯罪者,詐欺者,激情殺人者,嗜癖者,躁病的な破瓜病,癲癇および同性愛などを見出すのである.このように人が周囲から分離され孤独になるという衝動危険性から,身を守ろうとする非常口は様々である.しかし,この多様な病的現象の背景には,誰かにしがみつくことが不可能になっていることがつねに横たわっている.
死亡形式は,非現実的な,山のあなたの空遠き世界にさまよう意志不定的な放浪自殺や中毒死である.