write 2002/07/13
特別企画号
「週感ジョジョンプ」第279.7号 特別企画
『MPD-PSYCHO/FAKE Movie Remix Edition』
上映イベント「決戦・天の川」レポート/FAKE
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★『ほしのこえ』オリジナル版上映
休憩を挟んで「ほしのこえ」オリジナル版上映。実は初見。
ついでに観ておくか、という気分だったし、この映画についてはいろいろと語り尽くされている感じもしますが、素直に驚きました。これ、大画面で観たほうが絶対にいいですね。その機会がなかなかないっていうのが問題ですが。
と思ったら、8月に短編映画館トリウッドにて上映される模様。
東京は下北沢から歩いて五分、という所にあるトリウッド。
夏休みの思い出として是非。
もう説明の必要もないでしょうが、「ほしのこえ」は新海誠がMacintoshの「G4 Mac 400MHz/メモリ1GB/HD300GBくらい」という環境で作った映画です。世のボンクラ専門学校生や駄目オタ、うだつの上がらない中年サラリーマンオタに、はかない夢を見せてくれた作品としてその名が残る作品のようです。
開田ご夫妻が悪ふざけみたいな美少女スポ根抜きの『トップをねらえ!』だ、と書いていましたけど、確かにお話はそんな感じなんですよね。あ、私もこれで引きこもりが増殖する可能性はあると思いますが、個人的には大いに結構だと思います。
虫プロのようなアニメスタジオ → SF大会オープニングからはじまったガイナックス → 新海誠・個人、という流れが今後どうなっていくのか?という思考実験をさせる意味において、(作品の埒外で評価するのもなんですが)本物のSF作品という事ができるでしょう。
それに加えて、作品を作る上での「切り取り方」というものについてあらためて考えました。この作品、左翼の人達が問題にしそうなんですけど、徴兵制の意識がどうだとかいった作品思想に加えて「間」の演出とか、あの生物は一体なんなのとか、いろいろと詰め込める要素はいっぱいあるし、説明不足な面はあるでしょう。しかし作品を一つ限られた時間内で作るという事は、その中から迷いつつも取捨選択するんだなという当たり前の事を教わった感じです。
人物造形が稚拙だとかはそんなに気になりませんでしたね………というか、あれでキャラクターまで完璧だったら神、いや疑惑ものでしょう。ちょっと速い棒読みの声も自主映画っぽくてツボですね個人的には。そういう欠落が、次のパラダイムを産み出すのですよ。完全だったら、世の注目を集めることもなかったでしょう。
(余談ですが、長峰美加子の声をあてた方が来ていましたね。浴衣で)
★トークショー第二部決戦・新海誠/菊崎亮/大塚英志/佐藤友哉 前編
上映が終了し、新海誠と大塚英志が取材で拘束されて遅れた後にトークイベント第二回戦に突入。
特別ゲストとして(上にも書いてありますが)講談社メフィスト賞受賞作『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』『水没ピアノ』の作者、佐藤友哉が登場。北海道からやってきた1980年産まれ。若い! 東浩紀が近況で絶賛していた作家さんですね。後で知ったのですが、佐藤友哉は『新現実』にも書いているので、それ繋がりでの出演かも。
まずはイベント企画者(タイトル発案者?)の柴田さんという方から前振り。
多くのトークショーと同じく、ぎこちなく開始。
(前にも書いたと思うのですが、トークショーって「普段、メディアに出ていない人」が話す、というイベントが多いので、話が上手く行かなくて当然です。たまにNHKのトップランナーにそういう人が出てきたりしますが、TV番組はすごい時間をかけて収録するので、当然スムーズに見えます。イベントに出かける人は、まず話がポンポン進まないと思って見に行かないと辛いかも)
例によって、箇条書きでどんどん書いていきましょう。
- 新海誠が挨拶。「ほしのこえ」をほとんど一人で作った事、DVDが25,000枚出荷されたことなどを話す。それを引き継いで、菊崎亮(『MPD-PSYCHO/FAKE』編集)が「皆さん、『ほしのこえ』を観ていただいてありがとうございます」と言って笑いをとるシーンもあり。
- 大塚が第一部トークショーの内容を引き継ぎ、「作り手の敷居が下がる」という事を指摘。佐藤友哉が例に出される。新海誠がセルアニメの事をほとんど知らずに作品を作ったように、佐藤も新本格とかはあまり読んでいないとの事。大塚が「京極夏彦とかしか読んでいないよね?」と言うとすかさず佐藤友哉「あと、森博嗣」と答える。やっぱ押さえる所は押さえているのね(という私は『フリッカー式』とか押さえていなくて反省)。
- その後も大塚による「実行」という事について話が続く。このへんは大塚著『物語の体操』(帯の推薦文が高橋源一郎で、思わず買ってしまいました)なんかを読むと冒頭にくどくど書いてあることと基本的には同じです。
- 要約すれば「新海誠も佐藤友哉もあんなんだったら自分でもできる、という声が多かったと思う。ただしそれを自ら乗り越える勇気が出てこない。ホントに低くなった作品のハードルを後から乗り越えてくれないと新海や佐藤の作品は意味もない」といような事。作者を前にしてそう言うのもすごいなと思いますけど、それぞれがどう「新しい」のか、かみ砕いて説明しないと伝わらなかったのでは? もちろん上映というイベントなので感覚的には解りますが、言葉にするとだいぶ違います。その為のトークイベントでしょう。
- あ、あと10分話していたら「物語消費論」に結びつけて凄いことになっていたかもしれない。
- その後はあまり進まなかったからなのか、質問タイムへ(あ、このイベント途中までだいたい大塚がしゃべっています)。以下に質問と回答の概略をメモしておきますが、不思議とオタク特有の細かい・メチャクチャひねくれた質問が皆無でした。大塚門下生による「仕込み」(演出というのかな)があったのでは、と考えてしまう自分の心は歪んでいるのでしょうか。
- Q.「ホンモノとニセモノって区別はどこでつけるんですか?」。大塚はこれに対し、「ホンモノとニセモノという区別は他者の評価で、意味がない」と回答。いきなりこんな直球の質問がどうして出てきたのかという事について話し合った方が100倍面白かったのに。少なくとも私は質問した人に聞いてみたかったなぁ(じゃあ聞けよ)。
- Q.「『MPD-PSYCHO/FAKE』のFAKEってどういう意味ですか?」。大塚、「FAKEはFAKE。何が本当かは誰にも解らない。『多重人格探偵サイコ』の原作だって、自分が書いていないかもしれないし」と回答した所で、菊崎亮が「だって、書いていませんものね」と言って場内、笑い。
- 『多重人格探偵サイコ』の原作は、大塚と白倉由美とあと誰か忘れちゃったけど(失礼!)もう一人の三人で書いている、というのはこれまで何度か語られてきた。そこに「大塚英志」という名前を書くことは「責任」だからとの事。
- Q.(すみません、全体的にそうなのですがこの質問と回答はかなりうろ覚え)「我々にとってフィクションのはずのガンダムはリアルであり、それ以外に現実のリアルな戦争がある。佐藤友哉さんの作品を読んで、それでいいんだ!と言われた気がするんですが、どうでしょうか」。佐藤またすかさず「いや、そんなつもりはないです」と率直に回答。さっきの大塚の話から行くと解釈にお任せ云々とでも答えておけばよかったのに、よっぽど嫌だったのでしょう。
- 大塚はそのとらえ方でいいんだけど、実際に戦争があったという事実からは逃れられないし、そこを外さなければいいのではないか、とコメント。大塚は9.11のテロ以降、いろいろ面白いことを語っているので興味のある方はそのへんの文献もさらってみて下さい。
- Q.「小説を書いているんですが、どうしても一作品終らせられません。どうしたらいいでしょう」。私とMiLKMANさんの間で「質疑応答仕込み疑惑」が吹き出た質問! 佐藤友哉、また率直に「妥協しましょう。好きなことばかり書いていてもしょうがないし」とコメント。
- Q.「『多重人格探偵サイコ』のモデルにはいろいろとあるといわれていますが、読み手の解釈でいいんですか」。また重複したような質問ですが、大塚、根気よく回答。「解釈する意志と自由によって自分というものが存在する、単独の自分というものがある、だからそれでいいんです」。
- 同じような質疑応答が続いたり大塚がしゃべってばかりなのはまずいという事で、自然に雑談へ………(後編に続く)。
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