天空の山

03.06表大雪山系山行


山域名:北海道・表大雪山系
(層雲峡Y.H.〜ロープウェー・リフト〜黒岳〜間宮岳分岐〜旭岳〜
〜間宮岳分岐〜北海岳〜黒岳〜ロープウェー・リフト〜層雲峡Y.H.)
実施日:03.06.15
お天気:
同行者:なし


『ダイセツザン』。
その名前の響きに引かれ、一回登ってみたい、と願っていた山。
その願いそのままに、天気もよく、体調もそこそこ良く、
とても気持ちのいい山歩きだった。
まさに『カムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)』を実感した一日だった。



『大雪山』の読み方は、『たいせつざん』というふうに濁らない読みが一般的ですが、
当サイトでは、国土地理院の地形図の表記・国立公園名等に従って『だいせつざん』で統一します。



5合目ロープウェー終点まで
05:27起床。
前日のうちにある程度用意をしておいたので、ちゃっちゃと準備をして、
同泊だったイスラエルからの旅人さん(男性)と一緒にロープウェー乗り場へと出発する。
この外人さん、前夜に『申し訳ないが明日は山に行くため早く起きる』と伝えようとしたところ、
私も一緒に山に行きたい、といってきたもので、この人の理解することが出来るのは基本的に英語のみ。
よって、北鎮岳分岐の下で別れるまで、tanaのチグハグ英語による、
成立しているんだか成立していないんだか、よく分からない会話が展開されることになった。
Y.H.(ユースホステル)から歩くこと10分ほどで、黒岳ロープウェーの乗り場に到着。
が、中に入ってみると、改札の前に長蛇の列。結局、私たちは、06:00の始発には乗れず、
それでも関東の夕方ラッシュ時間帯並みの混雑の2番便(06:10)で黒岳5合目へ向かった。
下から見ていると、黒岳山頂方向は、雲がかかっていて、天気が良さそうには見えなかったが、
ロープウェーで雲を突き抜けると、そこは一面の快晴。
7分で、5合目駅に到着。そのまま黒岳リフトに移動。

黒岳石室到着まで
前後のゴンドラで写真を撮りあったりしながら、06:35、リフト終点に到着。
リフトの駅舎の脇にある、登山事務所の入山者名簿に記入し、若干の休憩を摂って、06:55出発。
同行の外人さんの装備はまったく山のそれではなく、
初っ端から出てきた残雪の残る斜面では、とても前を歩けそうな感じではないので、
tanaが前を歩いて、ルートファインドを兼ねて、キックステップで跡を付けながら登った。
結構本格的に雪が残っていて、また所々それが融けてグチャグチャしていて、歩きにくいこと、この上ない。
樹林の中の残雪の上を踏みしめながら、07:25、9合目を通過し、07:42黒岳山頂に到着。
もう少し偽ピークか何かで焦らされるのかなぁと思っていたが、最後は結構あっけなく山頂についてしまった。
黒岳山頂から旭岳方面
↑黒岳から旭岳方面を望む

↓黒岳から旭岳方面を望むパノラマ写真。左端の石積が山頂。右端の小山が双耳峰のもう片方。
黒岳山頂から旭岳方面へのパノラマ写真
やはり快晴。途中で、中高年の3人組パーティを追い越していたのだが、
山頂には女性の2人組のパーティが先にいらして、すぐに出発していかれた。
私たちは、山頂標で写真を撮った後、双耳峰となっているもう一方の峰に行き、
強風にあおられながらも景色を楽しんでから、07:59、黒岳石室にむけて出発。
雪もほとんどなく平坦な下り道を下っていき、やや急激に下ったかなと思うと、
山頂から15分ほどで黒岳石室に到着。

北鎮岳分岐到着まで
黒岳石室の小屋の中には、先に黒岳山頂から出発されていた女性お二人が中にいて、
今日明日と、ここをベースにトレーニングをされるというお話を聞きながら、石室の中を見学する。
夏の最盛期には管理人が常駐するらしいが、今日はまだいなく、中は、やや寂れた感じだった。
黒岳石室全景
↑黒岳石室全景。写真右手が黒岳方面。

07:59、黒岳石室から、北鎮岳方面に向けて出発。
夕方には、お鉢平を一周して、またこの石室へ戻ってくるわけであるから、周囲の地形をよく見回しながら歩いていく。
淡々とした、登りメインの道を、片言の英語と時折日本語を交えたチャンポン会話をしながら歩いていく。
登山ルートは流路沿いに開かれたものらしく、足元がベチャベチャして歩きにくいところが多かった。
途中で、左側のお鉢があまりにきれいで、写真を撮るために立ち止まりながら、08:45、お鉢平展望台を通過。
『毒ガス注意』の警告が生々しい。
数年前にも、警告を無視してお鉢の中に入り込み、中毒で死亡した例があったようだし、
登山路を歩いていても、時折、硫黄の臭いを強く感じることがあったから、
噴気の活動状況などの事前情報に注意するようにした方が良いだろう。
歩いているときは暑いくらいなのだが、風が猛烈に強くて、少し立ち止まると途端に寒くなる。
美しい風景なのだが、風があまりに強いので、早々に歩き出し、
お鉢平展望台を右に折れて、いよいよ、北鎮岳分岐直下にたどり着く。
少し手前から、前方の斜面に大きな雪渓があるのは見えていて、おそらく近づいてみれば、
雪渓の左右の端のどちらかにコースの踏み跡が見えるのだろうと、高をくくっていたのであるが、
実際に雪渓の真下に来ても、踏み跡がまったく分からない。
北鎮岳分岐直下の雪渓
↑北鎮岳分岐直下の雪渓。写真中央を横断した。

まっすぐ直登しているように見えるし、左のほうの尾根筋に迂回しているように見える。
地図を見ると、この直情が北鎮岳分岐であるのは間違いないようなのだが、イマイチ確信がもてない。
同行の外人さんに意見を求めてみても、『ダイジョーブ』ということしか言わないし、
仕方ないので、腹を決めて、雪渓を直登することにする。
後ろからついて登ってくる同行の外人さんが、登山靴ではなく普通のスニーカーなので、
今回の山行のために買った軽アイゼンは使用せず、自分の登山靴でキックステップをし、
出来るだけ足場を固めながら、登っていく。
雪渓を3分の2ほど登ったところで、黒岳石室で会った、女性二人のパーティが追いついて来、
大声で聞いてみると、恐らく直登で問題ないだろう、との事。
そのご意見に意を強くしながら、30分かけて、雪渓を登りきり、09:33、北鎮岳分岐に到着。
北鎮岳分岐と北鎮岳
↑北鎮岳分岐。奥の高みが北鎮岳。この右下に雪渓があった。


北鎮岳往復後、分岐出発まで
雪渓を登っている間中、つま先を斜面に蹴りつけていたので、ひざがふらつく感じがする。
ただ、北鎮岳山頂まであと15分ほどなので、本格的な休憩は摂らず、すぐに出発。
きつい登りながらも、頂上が見えているので、気分的には余裕に登れる。
09:52、北鎮岳山頂に到着。地平線上にやや雲が出始めてはいるが、それでも、この上ないくらいいいお天気。
しかも、お鉢の中は、所々雪が残っていて、雪の白と、地面の黒とのコントラストがとても美しい。
まさに『カムイミンタラ(アイヌの言葉で『神々のあぞぶ庭』)』である。
同行の外人さんと写真を撮ったり、美しい景色に寝転がってただ呆然と過ごしたり、気持ちのよい時間を過ごした。
黒岳からずっとそうだが、やはり北鎮岳山頂でも風が強く、だんだんと寒くなってきたので、10:10、下山を開始。
ものの10分で、再び北鎮岳分岐に到着。
ここまで同行してきた外人さんは、昼過ぎのバスで次の目的地に行くそうなので、ここからもと来た道を戻ることになる。
メールアドレスや住所の交換をして、写真を送る旨約束して分かれる。
10:25北鎮岳分岐を間宮岳方面に向けて出発。

間宮岳分岐到着まで
ところで、この大雪山系には『トイレ』がほとんど存在しない。
今回登った表大雪で、トイレがあるのは黒岳石室だけである。
一方で、ほぼ全域が国立公園であり、中心部は特別保護地域にも指定されている、
氷河期の痕跡を色濃く残す大雪山系で、登山路脇で堂々と用を足すわけにもいかない。
北鎮岳分岐直下の雪渓を登っていた頃から、尿意を感じていたのだが、
間宮岳分岐に向けて歩き出した頃から、とても我慢できなくなってきた。
そこでやむなく、北鎮岳分岐と中岳分岐との間にある露岩の高み(後にそこが中岳と判明した)で、
持っていたビニール袋に用を足し、そこへトイレットペーパーを大量に放り込んで水分を吸収させ、
袋を三重にして、持って帰ることにした。
そんなわけで、予期せぬ『トイレ休憩』をしながら、10:48、裾合平・姿見駅方面への道を分ける中岳分岐を通過。
時折ふく、体が持っていかれそうになるくらいの強風に耐えながら、
中岳分岐まで下りだった道を間宮岳に向けて登り返して行く。

中岳から振り返って北鎮岳を望む中岳過ぎの稜線上からお鉢平(旧火口)
↑中岳から振り返って、
北鎮岳と北鎮岳分岐からの道。
↑所々の残雪が美しいお鉢平(旧火口)。

↓同じような景色をパノラマ写真で見るとこうなる。
お鉢平のパノラマ写真

11:08、登りきった所で、一本の木製の棒(何も書かれていない)と、看板の跡らしきものに出くわす。
坂を登っている時は、その棒の所が間宮岳山頂の分岐なのだろうと思っていたのだが、
いざその棒のところまでたどり着いてみても、道が分かれている様子は無い。
山頂というほど際立って高いわけでもない。
前方遥か先に、大きな標柱のようなものが建った、道が分岐しているようなところが別に見える。
結局、その時は、この木製の棒と看板の跡は、間宮岳の山頂標ではなく、
眺望案内か何かの看板だったのだろうと思って、前方に見える分岐のところまでほぼ平坦な歩いていった。
11:14、立派な標柱の建った間宮岳分岐に到着。
間宮岳分岐
↑間宮岳分岐。


旭岳山頂到着まで
間宮岳分岐で、昨夜、Y.H.で受け取ってきた朝食用のおにぎりを昼食代わりに食べる。
天気はいいし、ちょっと風は強いが、いい気分である。
ベンチに座ってボーっとしていると、旭岳の方から歩いてきた人がいたので、登山路の様子を聞くと、
旭岳山頂直下の雪渓の上部が滑りやすいという。
だが、その人自身も特別な装備を着けていた訳ではないので、何とかなる程度のものなのだろう。
挨拶を交わして、標柱を何気なく見ていると『間宮岳→』とサインペンで書かれているのを見つけた。
やはりさっきの木製の棒が間宮岳の山頂だったようである。
10分ほど休憩して、旭岳のほうへ歩き出す。小さなコブを超えて、いったん下って行くと、
水の流れた跡(流路)のような窪みの下方に道が見えたので、それを歩いていた。
しばらくすると、下方に見えていたのが道ではなく、やはり同じ流路であり、
上のほうを見上げると、別に正規の道があるのが分かった。
要は、道でないところを下って来てしまったのだ。
また、今降りて来た道を間違えたところまで上がるのは大変そうだったので、
道でない、小さな雪渓の際を回り込むようにショートカットして、正規のルートへ戻った。
この間、約15分。霧が出ていた訳でも、さほど難しい訳でなくとも、
漫然と歩いているとルートというのは簡単に間違えるものなんだ、といういい教訓になった。
裏旭テント場の横を通過し、大きな雪渓に到達。
『見えているあの山頂の直下の雪渓終点まで、延々歩くのか』と思うと気が遠くなるくらいの距離であったが、
止まっているだけではいつまで経っても山頂には着かないので、一歩一歩、歩き出すことにする。
雪渓の途中に雪のない岩場があったので、ちょっと立ち止まってストレッチ。
ここまで歩いてきて、足に大分疲労が溜まっている上に、慣れないキックステップのお陰で、
攣り癖のついているふくらはぎが、そろそろ悲鳴を上げ始めていたからだ。
一度、攣ってしまうと、なかなか治らないので、アキレス腱や腿、ふくらはぎを入念に伸ばす。
再び歩き出し、後ろから来た小父さんに抜かれながら、雪渓を無事通過。
雪渓上端から裏旭テント場・間宮岳方面を望む
↑雪渓上端部(旭岳山頂直下)から裏旭テント場・間宮岳方面。

雪のない急坂を最後のラストスパート。上の方から賑やかな声が聞こえてきたかと思うと、すぐに旭岳山頂に到着。

旭岳山頂にて
山頂には20人位はいたであろうか。
もうちょっと静かな山頂をイメージしていたので、ちょっと拍子抜けだった。
(後から聞いたところによると、この日は、旭岳ロープウェー側からの旭岳の山開きの日だったらしい。)
旭岳山頂
↑結構たくさんの人がいた旭岳山頂。

山スキーを担いでいる人がたくさんいるのに驚いたが、
一方で、スニーカーで歩いている人もいるので、旭岳ロープウェーから旭岳へと登ってくる登山路は、
ところどころ雪が残っているという程度なのだろう。
北海岳、北鎮岳方面の表大雪お鉢平の景色もすばらしいが、
南のほうの十勝の山々も、森林の濃緑色に、点々と残る雪の白さが映えて、なんとも言い表しようもないくらい美しい。
朝に比べて大分多くなってきた雲が、陽の光を選り分けているかのように地上に映し、
明るい所と陽の当たっていない所の対比がまた、美しさを倍加させている。
本当は、この旭岳の山頂で、お昼ご飯の続きを食べようと思っていたのだが、
ちょっと人が多いので、水分補給だけに止めて、山頂についてから30分で下山を開始する。

北海岳山頂到着まで
時間が経つにつれて、雲が確実に多くなってきているが、まだ、天気を崩しそうなグレーの雲ではないから安心できる。
登ってくる時はあれほど苦しかった道も、下りはあっという間である。
雪渓もスイスイ降りて、結局、登りで35分かかった部分を10分あまりで降りてしまった。
登りでの雪渓は、滑らないように注意しながら登らなければならないので、とても気を使ってしまい疲れるが、
下りだと、仮に滑っても、その時にはすでに反対の足が地面に着地していて、
『ずるっ』といく前に体勢を整えられるので、気を使うことなく、ダイナミックに走り下っていける。
tanaは雪渓登りは嫌いだが、雪渓駆け下りは好きなのである。
裏旭テント場の横を通り、来る時に、間違って入っていってしまった流路を今度は正しい道で通過し、再び間宮岳分岐に到着。
まだ、旭岳を下り出して40分ぐらいしか経っておらず、
しかも大半が下り道であまり疲れてもいないので、休憩は取らずそのまま北海岳に向けて歩き出す。
荒井岳付近からお鉢平(旧火口)
↑荒井岳付近からお鉢平(旧火口)。白と黒のコントラストが美しい。

すぐに荒井岳の横を通過し、写真撮影の為一度立ち止まり、
時折、左下のお鉢平(旧火口)から漂ってくる硫黄の匂いを感じながら松田岳の横を通過し
(どうでもいいが、この松田岳もその前の荒井岳も間宮岳も、木製の棒が建っていただけだった。
北海道最高峰を抱える国立公園なのだから、標柱くらい整備すればいいと思うのだが。)、
右手に見える白雲岳の正に名前どおりの、白い色の美しい姿に惚れ惚れしながら、
緩やかな、しかしダラダラと続く坂道を登り切ると、14:18、北海岳山頂に到着。

黒岳石室到着まで
朝から強かった風が、ここへ来て余計強く吹いている様に感じられ、雲の色がだんだんと白から灰色に変わってきている。
たまに、フッと風がやんだ瞬間が暖かく感じられるほどである。
本当は景色でも見ながらゆっくりと休憩をしたいところであるが、またトイレに行きたくなってきたのと、
風が強くて耐えられなくなってきたのとで、10分で出発する。
北海岳の山頂を出ると、すぐに岩場の急な下り道である。
旭岳のへの往復を除いて、ここまでずーっと緩やかな稜線沿いの道だったのに、一転して八ヶ岳のようなガレ場の下りである。
それまで姿を見なかったハイマツも時々現れ、本当に本州の中部山岳そっくりである
(余談であるが、この下りの途中に、『この付近落石多発・すばやく通過のこと』という標識が立っていたが、
こういう標識は、落石多発地帯より手前に置いておかなければ、意味がないような気がするのだが…。)。
北海岳付近の下り北海岳の下り途中、振り返って北海岳を望む
↑北海岳付近の下り。↑(白くとんでいるが)振り返って北海岳方面。
と思って下っていたら、下りきったところで、谷を埋める大きな雪渓に出る。
しばらく雪渓の際を歩いていると、いったん雪のない道になったのだが、
次第にグチャグチャのわだち道になり、再び、大きな雪渓の上を歩くことになった。
振り返って大きな雪渓
↑緩やかな谷を埋める雪渓。

ところで、今回の山歩きのうち、お鉢巡りの部分では、まだ時期が若干早いせいか、
大雪山系で一番のメジャーなルートにもかかわらず、あまりほかの登山者に会わなかった。
稜線上のルートは分かりやすいので迷う心配は少ないが、
目印も何もない雪渓で、しかも前に歩いた人の踏み跡がない場所では、時折とても不安になってしまい、
行きつ戻りつしたり、立ち止まって、周囲の地形と地図を対照することが多かった。
北海岳から降りてきた、もうまもなく黒岳石室であろう、という赤石川付近の雪渓上は、
正にそんな、何の目印もない一面の雪渓であった。
しかも、すぐ右側を見ると、50mほど先で雪渓の下の赤石川が顔をのぞかせている事から、
どうやら雪渓が赤石川の上に蓋のようにのっかっているらしかった
(もしかすると沢そのものが、伏流水になって地面の下に潜っているのかもしれないが)。
ここまでの雪渓で辿って来ていた足跡もよく分からなくなり、
しかし、沢の上に蓋状になった崩れやすい雪渓上かもしれないから長居したい場所でもない。
地面の足跡を丹念に探して、地図と地形を見比べながらウロウロする事、20分余り。
やっとこさ雪渓を歩ききり、ハイマツとハイマツの間の道を抜けて、
15:25、今朝通った黒岳石室の分岐標柱のところに飛び出した。
黒岳石室の分岐
↑黒岳石室の分岐。撮影者側が石室。
左が黒岳。中央が北海岳。右手が北鎮岳。



黒岳山頂出発まで
実に8時間ぶりの到着であった。
北海岳の手前から我慢していたトイレに駆け込んだ後、小屋の前のベンチで、
結局今日一日持ち歩いてしまった、本来は朝食用であったはずのおにぎりとチーズを食べ、『ふぅ』と一息。
まだまだ明るいが、しかし確実に太陽が斜めに傾き始めている、風もないなだらかな稜線上の小屋の前で、
マッタリとした優雅な時間を過ごす。小屋の奥では、テントが一張り張られていた。
15:43、黒岳石室を出発して、黒岳山頂に向けて歩き出す。
ここからは、今朝歩いたルートの逆さたどりなので、今までに比べて幾分気分は楽である。
大分疲労が溜まってきて、言う事を聞かない体を引きずるように、16:07、黒岳山頂に到着。
黒岳山頂からお鉢平方面のパノラマ写真
↑黒岳山頂からお鉢平方面のパノラマ写真。写真右側の標柱が黒岳山頂指導標。
中央のなだらかな稜線を下っていくと黒岳石室。


歩いているうちはいいが、休憩をしていると寒くなってくる。
山頂標識につけられた温度計は摂氏8度を指しているからそれも当然である。
山頂から今まで歩いてきたお鉢平・旭岳方面を見ると、
西に傾き始めた太陽からの紅い光が山々に当たって、なんとも言い表せないくらい美しさを見せていた。
一時は大分灰色で分厚くなっていた雲も、今は細かくちぎれている。
雲間から差し込んでくる赤みを帯びた夕方の光が『神々の遊ぶ庭』を美しく照らす様を写真に撮りつつ、
岩に腰掛けて堪能していると、あっという間に15分が経ってしまった。
休憩で冷え切った体をブルブルと震わせながら、16:22、下山を開始。

7合目リフト乗り場到着まで
下り始めは、それほど雪もなく、結構いいペースで下れていた。
が、すぐに残雪が現れ、スピードを殺しながらゆっくりと下る。
しかし、かなりの急坂で、しかも、昼間の気温でいったん解けた雪が、登山者・下山者の足跡を明瞭に残したまま、
再び凍り始めたシャーベット状態になっているものだから、すぐにスッテンコロリン。
一度など、残雪の上にルート表示用の赤粉が撒かれている所で滑ってしまい、
足から、尻、背中、両手に至るまで、まるで大出血でもしたかのように、真っ赤か。
その上、あと1m滑っていたら、林の中のがけ下へ一直線という、きわどいものであった。
ここで滑って、さながら大出血のようになった
↑この写真を撮った直後にここで滑った。
雪上に、大出血(笑)の原因となった紅い表示がうっすらと見える。


黒岳山頂を下りだして直下のところでは、チラチラと背中の見えていた前の中高年のご夫婦は、
両手に持っていたストックの威力か、徐々に姿が遠くなっていってしまうし、
一方、自分は予想もしないようなところで何度も滑って肝を冷やすし、
『もうイヤッ!』と叫びたい気分であった。
旭岳の下りの様に、下に何もない雪渓の下り坂は、足場を気にすることなく、ズカズカ降りていけるから気持ちいいが、
谷側が急斜面になった樹林の中の残雪下山路は、足場に気を使う上に、
道を踏み外すとあっという間に三途の川が近づいてきてしまうので、まったくもって心臓に良くない。
こんな残雪斜面が長々続いた
↑写真ではよく分からないが、結構な急勾配の残雪斜面。

『臆病過ぎやしないか』と自分でも思うくらい、慎重な上にも慎重を重ねて下ること30分余り、
途中5回程残雪で滑りながらも、17:10、なんとか7合目リフト前に到着。

下山まで
『やっとたどり着いた!』
というのが、山なんて全然関係ない大勢の観光客の皆さんに奇異の目で見られながら、リフト前に着いた時の感想。
リフト乗り場の前の斜面を流れる湧き水で、まるで大出血の様相を呈している赤粉に染まった両手を洗い
(が、完全には落ち切れなかった。地元山岳会の方が撒いたのであろうと思うが、
もうちょっと落ちやすい粉を使っていただけるとありがたいのだが。)、
午前中、北鎮岳分岐で別れた外人さんが無事下山したかどうか、事務所のところに置かれた入山者ノートを確認し
(12:31に下山していたようであった。しかし、彼はフツーのスニーカーを履いていたのだが、
黒岳山頂からリフトまでの間の、最後の間の残雪斜面はどうやって下りたのだろう。)、
『ハァァ』と、悪魔のような残雪斜面を無事に下りきった事への安堵の深い溜息をつきながらリフトの下り線に乗り、
リフトの上からリフト下の斜面に咲くエゾノキンバイやチングルマの写真を撮ったりしながら、5合目へ。
ロープウェーの駅舎で、午前中、中岳の稜線上で袋の中に溜めた小水をトイレに流してから、
丸一日歩ききった心地よい疲労に浸りながら、夕闇迫る大雪山系を背後にしてロープウェーで下山した。
ロープウェー黒岳駅
↑ロープウェー黒岳駅。





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