02.09利尻山山行
山域名:
北海道 道北・利尻山
(利尻YH〜北麓野営場〜沓形コースの分岐〜山頂〜
〜沓形コースの分岐〜北麓野営場〜町営温泉施設〜利尻YH)
実施日:
02.09-03
お天気:
晴〜曇〜一時雨〜曇〜晴
同行者:
なし
山の上から朝日を撮ろう、と言う目的で早くに登り出したのだが、
早朝に出たとはいえ、さすがに日帰りでは日の出に間に合う筈もなく、
しかも、自分が居た時間帯だけ、ちょうど頂上が雲に包まれるという悲運を経験しながらも、
深田百名山第一番峰の雰囲気はしっかりと味わえた山だった。
※
利尻山は、現地の表記やガイドブックなどでも『利尻山』と『利尻岳』が混在して使われていますが、
当サイトでは、国土地理院の地形図の表記に従って『利尻山』で統一します。
北麓野営場まで
03:00起床。
まだ外は真っ暗である。
同室の外国人の男性、マットさん(前夜、一緒に起こしてくれ、と言われた)の枕元でも目覚し時計が鳴っている。
荷物や着替えの類いは、昨日のうちに、廊下に出しておいてあるので、まだ寝ているほかの2人を起こさないようにして、静かに外へ出る。自分でも驚くほどのスピードで準備して、すぐに歩き出す。街路灯が少ないためであろうが、かなり暗い。
おでこにつけたヘッドランプのほかに、手にもカンテラを持っていて正解であった。
昨日の夜のユースホステル(YH)の利尻山登山者ミーティングで、曲がり角まで15分くらいと言っていたが、まさしくそのとおり、エネオスのガソリンスタンドとレンタカー屋を兼ねたお店の前を右に曲がる。付近には明かりが全くないし、看板も暗めで見にくいので、明るくならないうちは、余程注意していないと、うっかり通りすぎてしまいそうな感じである。
ここまで、YHから15分あまり。予定していたとおりの道とはいえ、アスファルト道路をただひたすら歩いていくのは、結構疲れる。そして、登山基点となる北麓野営場までは、これからさらに40分近くある。そんな先行き不安感を抱えていると、後から走ってきた乗用車が、tanaの横で止まった。そして、『利尻に登るんなら、野営場まで乗っていかないか』と声をかけて下さるではないか。
一も二もなく、その男性2人連れの車にありがたく乗せていただくと、車は一気に坂道を登っていく。
野営場まで乗せていただいた時間はモノの5分ほどなのに、『俺はこの長い距離を歩く気だったのか!』と心底感じたのは、曲がりくねっていて、しかも暗くて視界が効かない山道のせいだろうか。
野営場に着くと、乗せてくださった方が、『帰りも待っていれば乗せてあげるよ』と言ってくださるのをお礼を言いながら断り、トイレに入って、いざ、本格的に出発。結果として、車に乗せていただいたお陰で、40分以上時間が短縮できた。
長官山(8合目)まで
時間は、まだ04:00過ぎである。手で持っているカンテラで足下の要所要所を照らさないと、なかなか歩先を進められない。それでも、甘露泉水までは石畳風の舗装路であるから、暗くて怖い、周りの林に耐えるだけの道である。
甘露泉水では、足下に注意しながら濡れた石の上で屈んで、水を飲む。甘いような気もするが、名前に惑わされているだけだろう。冷たくて、透き通ったきれいな水である。ところで、北海道の登山でのタブー事項と言えば『生水を飲むこと(エキノコックスと言うキツネを最終宿主とする微生物による感染の恐れがあるため)』であるが、ここ利尻島内には、キタキツネが生息していないため、水の安全性は確保されているらしい。ちなみに、利尻島にはヒグマも存在していないので、安心である。
甘露泉水(3合目)を出ると、道は本格的な山道となる。山の雰囲気は、本州・中部山域の登り始めと同じように、背の高い木が生えていて、その根が段々を造っている感じである。いくら9月の北海道の早朝とはいえ、歩き出すとさすがに暑い。一番上に着ていたセーターを脱ごうと小休止。日の出まではまだ少しありそうな雰囲気だが、少しずつ明るくなってきている。おでこから照らしていてもあまり効果がなかったヘッドランプをザックの中へ仕舞ってしまう。歩き出してすぐに、4合目を通過する。次第に周りの木の背の高さが低くなってくるのが分かる。標高は、まだ800mまで達していない筈なのに、本州の1500m位の高さの植生に見える。
04:57、5合目に到着。
ここには、『5合目』と書かれた指導標の左上方の斜面の上に排便目隠し用のツェルトが建っている。し尿持ち帰り運動を進めているこの利尻山では、登山者用のトイレは、鴛泊ルート、沓形ルートともに、登山基点にしかない。その代わり、登山基点で配られている排泄用袋を使って排泄するための目隠し施設が所々にあり、ここに入って排泄することになる。
さて、5合目の指導標の左横を上に上っていくと、この辺りから、人の背の高さ大のダケカンバが登山路の左右に生い茂ってくる。進路の左側、東の方から、少しずつ紅くなってきていて、日の出が近いことが分かる。が、ちょうど目線の高さにダケカンバが生い茂っているので、なかなかうまく写真が撮れない。05:05、大きな岩に到着。足下がやや高くなっていて、写真が撮れそう雰囲気だったので、朝食を兼ねて、中休止を取る。結果はご覧の通り。太陽が出きってしまっていて、あまり幻想的な写真は撮れなかった。昨日の夜、YHの近くのセイコーマートで買った、スティックパンを食べながら、下のほうに目をやると、鴛泊の港や遠く礼文島も見える。体のまわりを時折、ガスが上のほうに昇って行っていて、頂上付近はすでにガスの中にあった。頂上からの展望はすでに望み薄のようである。20分ほど休んで歩き出す。下方の見晴らしがいい第1展望台(6合目)を通過して、なおも登っていく。4合目〜7合目にかけては、登りながらも、15分おきくらいに指導標が出てくるので、歩いていてペースがちょうどいい具合に掴めてくる。
05:50頃、登山路の曲がり角に指導標が立つ7合目を通過。すぐに『940m』とかかれた看板の脇を通る。今までよりややキツイ登りであるが、途中、岩陵地帯を通り抜けて、再び樹林の中を登っていくと、突然、前方に大きな石(祈念碑らしい)が立っている、見晴らしのいい場所に出る。ここが長官山(8合目)。ベンチなんかも置いてあり、晴れた日には、上方の利尻山と下方のオホーツク海がとても気持ち良く見えるらしいが、なんせ、こんな天気なので、ちょっと休んだだけでそのまま素通り。この7合目から長官山(8合目)にかけてが、コース最初の難関である。登山路に沿って『小屋まで15分』と書いてある指導標が立っている。
利尻山頂上まで
この利尻山・鴛泊ルートは登り一辺倒であるが、長官山を過ぎて少ししたところから、コース唯一の下りになる。結構本格的な下りで、しかも、ルートが道の左右からの笹に埋もれていて、判然としなかったため、tanaは途中で不安になって、(後で分かったのだが)小屋まであと少しと言うところで、10分ほど歩いて引き返し、登山路が下り始めた地点で地図と睨めっこする事、更に10分。ようやくガイドブックの『8.3合目付近でいったん下りとなり』の記述に支えられて、同じ道を再び行って、07:10、無事に避難小屋到着。ちなみに今回の利尻山登山は技術的にはさほど難しくはなかったのだが、この辺りの30分ぐらいだけは、ルートを見失ったかと思って、冷や汗をかいた時間だった。
避難小屋は、かつて長官山のところにあったものを最近この場所へ新築したらしく、比較的しっかりした造り。小屋に入って右側には、二段ベッドを兼ねているのであろう荷棚もある。小屋の周囲が汚れているのが気になったが、それでも以前に比べればまだマシのようである。ここまで、ずーっとほかの登山者の人たちの先頭を歩いていたので、登山路の笹に溜まった朝露をまともに全部吸ってしまい、ズボンがぐちゃぐちゃになってしまったので、小屋の中で休憩を兼ねて拭く。歩いている時はあまり感じなかったのだが、さすがは北海道、寒さが身にしみてくる。15分ほど中にいたが、後からちらほら人が追いついてきて、かなり寒くなってきたので、出発。
歩き出して10分ぐらいでロープを頼りに滑りやすい坂を登る。もともと利尻山は火山なので、その火成岩が踏み固められて、しかも霧・朝露に濡れて滑りやすくなっている。周囲が霧で真っ白なので、景色が見えず、面白くない。でも、時折、白く可憐な花が道端に咲いていた(寒さによる手ぶれのため撮影できず)。
07:35、9合目に到着。やや広くなっており、登山路・進路の左手側には、6合目の少し上にも設置されていた、円柱形のトイレ目隠し施設が建っている。その横には『9合目』という表示とともに、『ここからが正念場』という悪魔のような文字も。『ここまでも充分にきつかったじゃないか!』という思いを抱きつつ、少し休憩を取ってから再び登り始める。霧がやや濃くなってきていて視界が悪くなっているから、ルート選びは慎重にならざるを得ない。しかもここから上は、赤土の砂や礫(レキ:粒のやや大きな砂)がザラザラとした急坂と、所々に低草が生えた荒涼とした道が続くため、滑らないように足元にも注意が必要になる。強風吹きつざむ痩せ尾根をロープ頼りに歩いたりもする。そんな、長時間歩いたわけでもないのに、神経ばかり疲れる道を1時間ほど歩くと、頂上直下の分岐に到着。かなりの急斜面で、しかも礫が厚いため、気を抜くと、礫に足をとられてズルズルと滑ってしまう。右方から沓形からの登山路が合流してきるはずなのだが、濃い霧のためとても見通すことはできない。頂上まではあと少しのはずだったので、分岐をそのまま通り過ぎて、一気に頂上を目指す。分岐までと同じような道が続く。足元が悪く、ちょっと気を緩めると、風に倒されそうであった。しかも霧のため体が冷えていく。そんな苦難の道を登りきって、08:30、利尻山山頂に到着。
山頂にて
一面に展望が広がっている、というガイドブックの記述を楽しみに上ってきた利尻山山頂は、予想通りの真っ白。高校一年の夏合宿で登った甲斐駒ケ岳山頂をほうふつとさせるものであった。まさに『天空の山』状態である。視程は20mも無いようであった。途中でtanaを抜いていった何人かの登山者の人たちが、すでにザックを下ろして、立派な祠をバックに記念撮影をしたりしている。tanaも登りの途中で脱いでいたセーターを着たり、スティックパンの残りを食べたりしながら、写真を撮ってしばらく呆けていた。深田久弥の日本百名山の第一番、利尻山。その山頂に立ったという感慨はあるのだが、この天気だから、いまいち実感として感じられない。下からの風に流されるようにして、時々、本当に時々、雲が晴れることもあったが、それは息を呑む間よりも短い一瞬のことであって、山頂にいた人たちの中でも、雲間からの海原を眺められた人は、わずか2、3人であった。
下山
雲が晴れる一瞬の風景が見たくて、頂上には都合40分位いたのだが、利尻山の山の神は、tanaには不遇であったようで、白雲に阻まれて、ひと時も下界の様子を眺めることは出来なかった。そのうちに段々と寒くなって震えてきたので、09:10、後ろ髪引かれる思いで下山を開始。登ってくる時にはあんな苦労した道も、滑りやすい足元さえ気をつければ、スイスイと降りていける。10分もかからずに、沓形コースへの分岐を通過。登っているときよりも、なんだか霧が薄くなっているような気がする。一歩一歩と踏み下ろしていく足を分厚い礫にめり込ませながら、快調に降りていく。
09:30、9合目に到着。登るときには1時間かかったのに、下りでは30分かかっていないことからも、いかに速いペースで降りてきたかが分かって頂けると思う。山肌を登っていく上昇気流に乗って雲が流れていく。時折その雲と雲の隙間から、沓形や鴛泊の港や、海を隔てて礼文島が見える。登山路には、下から上がってくる人が増えてくる。朝、車に乗せて下った2人や、YHで同じ時間に起床した外国人さん・マットさんともこの辺で行き違った。まさに走るようなペースで、09:50、避難小屋。下山を始めて、まだ1時間も経っていないので、そのまま通過。登りの時に迷って行きつ戻りつしたところを思い出しながら、15分ほどで長官山(8合目)に到着。ここで休憩。3時間前には、すでに霧で見通しが悪かったが、今は、下界の街並みと、その遠方に広がる大海原が綺麗に見える。tanaは、所々で写真を撮るために立ち止まったりするので、ほぼ同じころに頂上から降り始めた人たちと、予期せぬ抜きつ抜かれつのデッドヒートを展開していたのだが、tanaがここで小休止していると、その人たちも同じように休憩を取っていた。10分ほど休んで出発。登ってくる時には、40分ほどかかった7合目〜長官山(8合目)だったが、走るように降りた下りでは約20分。さらに、外国人の人とちょこっとだけお話した6合目、登りの時に写真を撮り忘れた5合目も通過して、頭上から太陽がさんさんと降り注いでくる気持ちの良い樹林の中をドンドン降りて行く。
11:31、4合目を通過。この辺りで頂上に向かって登って行く、やけに軽装な登山者さんと2人ほどすれ違ったが、時間的に考えて、頂上往復は無理ではないだろうか。さて、どこへ行く気だったのだろう?名前が似つかわしくない『乙女橋』や、小ポン山への分岐を通り過ぎて、11:50甘露泉水に到着。朝、水を飲んで登りだした時は暗くてよく分からなかったが、木漏れ陽が木の葉の間から燦々と照ってきていて、とてもいい雰囲気。無事下山してきた自分への証として、甘露泉水の湧き水を口にたっぷりと含む。後は舗装された石畳を歩いて行くだけ。頂上での白雲の世界がウソのような気持ちの良い北海道晴れ(?)のなかを、12:00ちょうど、朝出発した北麓野営場のトイレの前に荷物を下ろす。初めての利尻山登山、往復合わせて、8時間ちょうどでの無事下山となった。
北麓野営場からあと
野営場の管理事務所で、下山お疲れ様記念で缶ジュースを飲み、ほっと一息。YHまでの途中にあるという温泉に入っていこうと、朝は車に乗せてもらったアスファルト道路を延々下っていく。40分ほど歩くと、町営の温泉施設に到着。雲のすっかり取れた利尻山頂を恨めしい気分で眺めながら、露天風呂にゆっくり浸かって、朝ごはん兼用(結局、山行中は本格的には何も食べなかったことになる)の昼食を食べて、YHに帰った。
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