ファー・ローズ・トゥ・ロード用シナリオ


「父の誇り、子の生命」   (植田清吉)


初出:1996年9月26日 RPG専門ネットEXCEL


改訂:1997年12月5日 Web Re-Lax



●背景
 十数年前に終結した「大旗戦争」の傷跡がまだ生々しく残るローダニゾン北部、ナルシオン山脈の東、ヒュラー湖南岸にほど近い開拓民の寒村イメイム。首都ロードンまでは徒歩で片道2日を要する。人口は120人。うち髭小人8人、山小人6人、丘小人2人。派遣されているローダニゾン正規軍は隊長を含め5人。農場では主に寒さに強いライ麦とヤブブドウが栽培されている。
 PCたちはすでに開墾の済んだ地域から一ヶ月前にこの村へと移住させられて来た農奴で、人間族の年齢で20歳前後にあたる。作業服と靴を身につけ、着替え1着と革の小袋1つを所持しているのみである。

●村内施設の概略
■公会堂
 灰色の石造りの建物。週の真中の日に、村の公事を処理するための会合が開かれている。会合に参加できるのは村の長老連(4人)と正規軍の警備隊長(1人)。ただし緊急に持ち上がった事件等については臨時にこの5人を集めて会議が催されることがある。

■兵舎・馬小屋
 木造。この村に派遣されている正規軍のための兵舎。3間あり、そのうち1間は隊長の個室、1間は隊員の共用、もう1間は食堂として使われている。現状では、隊員のベッドに3つ余分があり、上官などの視察が有った場合などには隊長がそちらに移り、隊長本来の部屋が上官のために供されることになっている。
 馬小屋には7頭の軍用馬が繋がれている。

■広場
 木の柵で囲われた広場。週に1度(公会堂での会合の翌日)、ロードンからの行商人がやってきてバザーを開く。なお、長老たちの会合で決まった事柄などはこの広場に立て札として公示される。

■農場
 PCたちが農奴として収容されている農場。季節にもよるが、主に開墾作業に従事させられている。作業中は常に警備隊員の一人が監督として現場を見回っている。
 その日の作業の内容は1D6して以下の表で決定する。
1 家畜の放牧。光の地縁カードを使用。
2 森の伐採。森の地縁カードを使用。
3 村内の下水の掘削。石の地縁カードを使用。
4 荒れ地の開墾。氷の地縁カードを使用。
5 悪天候のため休息日。村内で自由行動が許される。
6 悪天候のため休息日。村内で自由行動が許される。
 また週の最後の日は休息日にあてられている。
 家畜小屋には30羽の鶏、12頭の山羊と3頭の乳牛、2頭の農耕馬が飼われている。
■農奴小屋
 2棟の木造の小屋が並んでいる。1棟は農作業用具を入れる物置として使われ、PCたち農奴はもう1棟の小屋に寝泊まりしている。シナリオ開始時点ではPCたち以外に3人の農奴が収容されている。

●登場人物(記載されていない能力値等はマスター側で自由に決定のこと)
■ストラディウムの退役軍人 「城屠り」エスィン・ビウクス 人間族 初老 男性
 ユル・ストラディウムの郷士の家に生まれ、騎兵として軍に入った。幾たびかナーハン、ギュノロン地方の紛争鎮圧に派遣され、特に築城と攻城戦に才能をあらわし、本島に招かれて軍中枢に関与する参謀の席を与えられた。
 大旗戦争開戦時にはローダニゾン北部の長城修築工事の顧問として派遣されており、そのままデュラ軍の大侵攻に巻き込まれ、捕虜となった。収容所で女鬼と掛け合わされてイジュをもうけ、当人はこのことを非常な恥辱と感じている。
 戦後、軍籍を離れ息子である半鬼を殺すために旅をしており、行商人アルシェの案内でこの村にやって来た。なお、イジュと直接言葉を交わすようなことは極力避けようとする。
武術:波斬剣
主な技能:兵学15 馬術14 統率11 地理学8
主な装備:大刀 刺子 革鎧
喪失した感情:「慈しみ」
信仰:グンド

■警備隊隊長 ザウム・ハイナライ 人間族 中年 男性
 ロードンの世襲軍人の生まれ。大旗戦争には一騎兵として参戦し、そこそこの軍功をあげた。戦後も真面目に軍役を務め、この村の警備隊長を任されるに至った。ハイナライ家の代々の当主の中には鬼族との戦いの中で命を落とした者も少なくないため、半鬼であるイジュのことも快くは思っていないが、村内に余計な騒動を起こしたくないために自分を押さえている部分がある。
 エスィンの名は耳にしたことがあり、捕虜となっても節を曲げなかったことで、大旗戦争の勇者の一人として尊敬している。
武術:雷槍術
主な技能:馬術11 統率9 兵学8
主な装備:長槍 小刀 刺子 革鎧 革兜
信仰:ガルパニ

■警備隊隊員(副長) リウフェ 人間族 中年 男性
 ローダニゾン南部の農家の生まれ。大旗戦争開戦にあたって徴兵され、故郷の村は鬼族の蹂躙に遭って滅んだため以後そのまま軍隊に籍を置いている。隊長のザウムよりも農民臭い思考をし、村内に波風に起こすことついてはより慎重である。イジュのことは戦争の不幸な置き土産であると考え、彼が生まれてしまったことはもはやどうしようもない事実なのだから、無理にどうこうすることはないと思っている。
主な技能:馬術7 植物学4
主な装備:長剣 刺子 革鎧 革兜
信仰:なし

■警備隊隊員 バネク 人間族 壮年 男性
 ロードンの職人の生まれ。大旗戦争には少年志願兵として従軍した。鬼族に対して異常なほどに敵意を持っており、ややもすれば隊長や副長の制止を無視して半鬼のイジュに理不尽な暴行を加えたりすることがある。
主な技能:彫刻6
主な装備:長剣 短弓 鉄矢12 刺子 革鎧
信仰:なし

■警備隊隊員 ナハイ 鰐人 青年 男性
 エーン人の血を引き、やや浅黒い肌をしたアウロン生まれの若者。少し大ぶりな顎を持ち、茫洋とした顔つきをしている。自分が鰐人であるということには気がついていない。イジュが半鬼であるということに興味を持っていないが、それが理由で彼が迫害を受けそうな状況になると、消極的ではあるがイジュを弁護するような発言をする。
 ナハイはエーン人の血を引いているために肌の色が故郷の他の者と違い、そのことでひどい差別を受けたことがあり、今でもトラウマになっている。
武術:波斬剣
主な技能:漁7 水泳5
主な装備:長剣 短弓 鉄矢12 刺子 革鎧
信仰:アウル

■警備隊隊員 アウリリク 人間族 少年 男性
 ロードンの兵士の家の生まれ。正規軍に入隊して訓練を受けた後、初めてこの村の警備兵として配備された。先輩のバネクが意味もなくイジュを虐げるのに義憤を感じており、たしなめたいのだがなかなか勇気を出すことができずにいる。エスィンのことは偉い人だとは思っているが、いくらなんでも血を分けた息子を殺すことはないじゃないかと単純に考えている。
主な技能:馬術5
主な装備:長剣 短弓 鉄矢12 刺子 革鎧
信仰:イーヴォ

■長老 「天窓の光」ボウナル 人間族 男性 老人
 この地にあった集落の大庄屋の家に生まれた。4人の長老のうちでは最も年長で、家柄も良いため実質的に村長の役を務めている。家族のうち長男夫婦は鬼族の襲撃に遭って殺され、徴兵された次男も戦死している。表向きは、とりあえずエスィンとイジュの問題はできるだけ刺激しないよう、穏便にすませたいという意見を出すが、内心では半鬼とはいえど息子たちの仇の同族だと思うと腸が煮えくり返る思いでいる。
 かつて(といっても大昔のことになるが)マイセルメとは恋仲であったことがあり、彼女に対しては複雑な思いを抱いている。今でも会合で出される彼女の意見にはやや甘い。
主な技能:植物学8 ロルダ古語8 民俗学6 物語 6
信仰:イーヴォ

■長老 「雪割り」マイセルメ 人間族 女性 老人
 この地の集落で代々まじないを生業とする、古ロードン人の血を引く家に生まれた。幼い頃から祖母と母にまじないの技を教え込まれ、薬草医として近隣ではなかなかの評判を取っていた。若い頃ボウナルと恋仲だったが、古ロードン人の血を引く家系同士での婚姻が慣例となっていたため、結局彼女は別の村の医者の許に嫁いだ。
 大旗戦争中、夫ともに後方の軍事拠点で軍医として働いていたが、鬼族の奇襲によって夫を失い、嫁ぎ先の村も襲撃に遭って滅んだため生家のあるこの村に戻ってきた。
 半鬼のイジュには夫の死のいきさつなども有って必ずしも好感を持っていないが、真面目に働く彼を失うのは村として損失ではないかと考えている。
魔術:まじない
主な技能:ロルダ古語21 医術・薬学15 植物学7
主な装備:杖(紫の魔力源入り)
信仰:ザリ

■長老 「大矢羽根」リンシュ 人間族 女性 老人
 長老4人のうち、唯一大旗戦争での実戦経験を有する女傑。夢想弓の達人であったローダニゾン正規軍兵士を夫に持ち、自身も夫について夢想弓を修めた。彼女の夫と息子はデュラ軍の侵攻によって戦死し、その仇討ちにと40余歳で山岳ゲリラに身を投じ、後に義勇兵団に参加した経歴を持つ。彼女の二つ名「大矢羽根」は、女だてらに兵団一の強弓を引いた事に由来する。また大旗戦争末期にはデュラ軍の収容所から解放した捕虜を後方へ護送する役目に就いたことがあり、エスィンとはその時に面識がある。
 夫と息子の因縁から鬼族を毛嫌いし、以前から村内に住む農奴イジュを目の仇にしている。エスィンが実子イジュを殺そうとしているのを知ると、一も二も無く賛同し鬼族に恨みを持つ村人たちを扇動しにかかる。
武術:夢想弓
主な技能:馬術6 統率5
主な装備:長槍 長弓 鉄矢20 樹鎧
喪失した感情:「恐れ」
信仰:ガルパニ

■長老 「都帰り」タナルフ 人間族 男性 老人
 もともとこの地にあった集落の出身。近隣では神童として知られており、ある金持ちの援助を得て若い頃からファラノウムに遊学して多少は名の知られた学者となり、大旗戦争の終結後に帰郷した。そのため近辺の戦乱を体験しておらず、他の長老たちが寄り集まると戦争中の苦労話をすることに対して疎外感を感じている。学問としては「古代学」と「想医への道」に通じている。
 性格はやや多弁であるが穏和で、長老の中では唯一表立ってエスィンからイジュを守るべく弁護しようとする。
魔術:想医への道
主な技能:古代学18 詩歌12 史学11 物語8
主な装備:精霊想樹の杖(白の魔力源入り)
信仰:エスティリオ

■行商人 「霜枯れ」アルシェ 丘小人 男性 中年
 ストラディウム生まれでローダニゾンに本拠を置く行商人。極端な寒がりで、冬季には本人でなく使用人がこの村にやってくるので「霜枯れ」と呼ばれている。週の中頃、定例の会合の日に3頭立ての馬車に雑貨を積み込んでこの村に到着し、翌日にバザーで品物をさばき、翌々日にこの村を後にする。
 エスィンとは古くからの知り合いであり、容貌の良く似た半鬼がこの村にいることを伝えたのも彼である。イジュのことも哀れとは思っているが、同じストラディウム生まれの者としてエスィンが受けた屈辱も充分すぎるほどに感じている。
主な技能:商法14 民俗学10 歌唱6
主な装備:銀短刀 刺子
信仰:なし

■農奴頭 エダイン 人間族 男性 壮年
 ロードン生まれの元行商人。デュラ軍大侵攻の際に捕虜となり、道案内役を務めたことから下級戦犯扱いとなった。当時、病死した姉の息子フパラを養っており、彼を人質に取られていたためやむをえずした事であったが、弁明は容れられず農奴の身分に落とされた。なお、この経緯は甥フパラには語っていない。
 あれだけの大戦争を経て命があるだけでも儲けものだと考えている。イジュを特に蔑んだり、辛くあたったりするようなことはない。またフパラの反抗も聞き流すことが多く、強い調子で叱るようなことはまずない。総じて穏和で無口である。
主な技能:商法5
信仰:なし

■農奴 フパラ 人間族 男性 青年
 エダインの甥。裏切りを働いた叔父のおかげで自分まで農奴に落とされたと思い込んでいる。そのため叔父にはことごとく反抗的にふるまう。やや粗暴な性格で、「自分は裏切り者ではない」ということを主張するかのように半鬼であるイジュを蔑み、暴力をふるうこともある。当然ながら、人質に取られた自分の命を救うために叔父エダインがデュラ軍の道案内となったことは知らない。
信仰:なし

■農奴 イジュ 半鬼 男性 青年
 エスィン・ビウクスの実子。大柄な体躯と切れ長の目が父親にそっくりである。生まれ落ちてすぐにデュラ軍が撤退し、この近辺に置き去りになっていたところを拾われたという経緯でこの村に住んでいる。非常に朴訥で、嘘の言えない性格をしており、別の村から移ってきた新入りであるPCたちには親切にしてくれる。
 自分が鬼族の血を引いていることを多少引け目には感じているが、それを口に出したりはしない。エスィンが実父であることを知っても、さして動揺した気配はみせないが、内心では「名誉あるストラディウムの武人が父親であって良かった」と感銘を受ける。が、その父親が自分に殺意を持っていることを知ったときには深く悲しむ(激情)。
 自分の命が奪われるような状況が避けられないと知れば、イジュは最後の願いとして父親の手で直々に殺されたいと申し出、「できることなら父の敵として自分にも武器を与えてくれるように。堂々と一騎打ちの立ち会いをした上で死にたい」と付け加える。
信仰:オザン

●時間経過
 PCたちから一切干渉が無かった場合、事件は以下のように進展する。
■1日目
 午前、長老とザウムが会合。夕刻、エスィンとアルシェが村に到着。エスィンはザウムの申し出により警備隊の宿舎に投宿。
■2日目
 午前、アルシェは広場でバザー。午後、エスィンはザウムとともに農場にあらわれ、イジュを確認する。
■3日目
 午前、アルシェはロードンに帰る。夕刻、長老とザウムが公会堂で臨時会合を開きイジュを引き渡すかどうかが話し合われるが、結果どうするかは決定されない。
■4日目・休息日
 午前中、村人たちを広場に集めて扇動しているリンシュの姿が見られる。午後、リンシュが村人たちを引き連れてボウナルの家を取り囲み、イジュをエスィンに引き渡すべく要求する。ボウナルは承知せず、家の一部(垣根、窓など)が村人たちによって壊される。
■5日目
 午前、ザウムからボウナルの家を警備するよう命じられたバネクが命令を拒否する。午後、リンシュと数人の村人が農場にあらわれ、イジュを力づくで奪おうとする。エダインは拒否。この時イジュは村に滞在しているエスィンが父親であることを知る。
■6日目
 午前、マイセルメとタナルフが農場にあらわれ、イジュをどこかに匿う算段をする。午後、フパラの密告により広場でタナルフとリンシュの間に口論が起こり、腹を立てたリンシュがタナルフを殴る。エスィンは再びイジュの引き渡しを長老たちに要求。
■7日目
 午前、フパラがイジュを殴り、エスィンに引き渡そうとするが、エダインに止められる。午後、エスィン、ボウナルとリンシュが農場にあらわれ、エダインとともにイジュの扱いについて話し合うが、結果はまた先送りになる。
■8日目
 午前、長老とザウム、エスィンを加えた6人で会合が開かれ、イジュをエスィンに引き渡すことが決定する。午後、アルシェが再び村に到着。夜、イジュを逃がすべくタナルフが農場にやって来るが、夜警をしていた警備兵(ザウム以外・1D5で決定)に見つかる。
■9日目
 午前、アルシェは広場でバザー。夕刻、ザウムの手によってイジュがエスィンに引き渡される。
■10日目
 午前、イジュはエスィンに殺される。午後、エスィンとアルシェは村を出る。

●結末について−−−作者よりマスターへ
 単純に、また無機的にいうならば、エスィンの「喜び」「怒り」「憎しみ」「無名の感情」以外の感情を激情させ、それを10日目まで継続させられれば彼にイジュを殺すことを断念させられる。
 ナハイ、アウリリク、マイセルメ、タナルフ、エダインらの協力を得ることができれば、彼らとともにエスィンを説得できることにしてもよい。ただしエスィンは既に「慈しみ」の感情を喪失しており、親子の情に訴えかけても心を動かすことはない。むしろイジュが決してエスィンの名を汚す振る舞いをしていないことを主張したほうが効果的である。また、「エスィンが失ったと言う『名誉』は、イジュを斬ったところで回復しない。村人たちの多くが失った『肉親』が、鬼族を皆殺しにしたところで帰ってこないように」という論法も有効である。
 しかし、このシナリオの目的はイジュを救うことそのものではないことに注意して欲しい。あくまで、イジュとエスィンの関係や周辺の人々の振る舞いを見て、そのPCならどう動くかを考え、どのようにロールプレイするか、それを目的にしたいのである。
 例えば、そのPCがストラディウムを裏切ったとされる戦犯の子女で、それまでの身分を剥奪されて農奴に落とされたものとする。PCには、イジュを弁護する理由がない。むしろストラディウム連邦への忠誠心を見せ、不名誉を雪ぐために積極的にイジュに敵対し、エスィンに荷担するような態度を取っても良いであろう。
 マスターとしては、そういうロールプレイを許して欲しい。カタルシスが欲しいのならばイジュがエスィンに殺される時に、彼に武器を与え、かなわぬまでも実父と立ち会わせてみてはどうであろうか。エスィンはやや頑迷なほどに誇り高いストラディウムの武人気質の持ち主である。イジュがそう申し出たとしても決してそれを拒むことはない。イジュとエスィンの立ち会いは、そのままだとおそらく勝負にならないであろう。そこでイジュがある程度傷を負ったときに、父子の絆を断ち切るという意味で「慈しみ」または「愛しさ」の感情を喪失させてやって欲しい。感情を失ったイジュとエスィンとの立ち会いがどうなるかは、ダイスの目に任せよう。この場面は、できるならばオープンダイスで振って貰いたい。
 またこの立ち会いによって死者が出た場合、その転生についてもフォローして欲しい。エスィンはグンドの信奉者で、イジュはオザンを篤く信仰している。この二人のいずれが命を落としても直接反応が得られるであろう。


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