臨床心理士資格試験とソンディ
臨床心理士 浜野 聡

 最近、臨床心理士資格試験を受験する方から東京ソンディ研究会に質問のメールをいただくことが増えた。実際「臨床心理士資格試験問題集」見てみるとほぼ毎年ソンディ心理学に関する問題が出題されていることがわかる。ここでは過去問の中からソンディに関する設問を取り上げ解説してみたいと思う。


質問を受けるたびに解説を増やしていきたいと思っている。
また現在、「臨床心理士資格試験トライアル」も随時更新中である。

平成15年度 問題55

ソンディ・テストに関する次の記述のうち、適切なものに○、適切でないものに×をつけた場合、下のa〜eの組み合わせの中から最も適切なものを一つ選びなさい。

A.テストは10回法を正規の方法として定位されているが、臨床的には1回でも2回でも適宜に実施してもよい。




[解説]これは○である。10回法を施行するには、10回以上の面接回数や、病院や施設の場合、隔日で10回としても20日程度の入院・入所期間が日数的に必要だ。面接は1回で終結することもある。1回のみでも有用な結果が得られるテストであるので、10回できない限りやらないというのは現実にそぐわない。


B.衝動の前景像(VGP)は、被験者の現状をもっともよく反映していると考えられるが、背景像の、ThKPやEKPの所見は心理援助の在り方に示唆を与えるものである。


[解説]○であろう。間違っているところはどこにも無いからである。

もう少し細かく解説する。VGP、ThKP、EKPについては、佐竹隆三著「運命心理学入門」131頁と、大塚義孝著「衝動病理学」326-327頁に以下のようにまとめられている。

(佐竹)
VGPは相対的に最も強い穿徹力を持つ家族的な衝動欲求、および自我実存を表現するものである。
ThKPは実際の背景人格を可視的にする。
EKPはただVGPとThKPとの一致度についての関係においてのみ評価される。EKPの診断的役割は、一方では前景欲求と背景欲求との間の力の関係の確証において、他方では背景像人格の種々の運命可能性を可視的なものにすることにおいて実現される。

(大塚)
VGPは相対的に最も強い浸透的な影響力を持った家族的衝動欲求傾向と自我の特徴を反映する。
ThKPは実際の背景人格を明らかにするものである。
EKPはただVGPとThKPとの一致関係でのみ評価される。EKPの診断的役割は一方で前景欲求と背景欲求との間の力関係の確証によって、他方では、背景人格のさまざまの運命可能性を可視的にすることにおいて実現される。

両者はほぼ同内容を述べている。簡略に言えば、VGPは被験者の現状の衝動欲求や自我の特徴を表しており、ThKPは実際の背景人格(ユングのシャドウ)を可視的にし、EKPは背景人格の運命可能性(将来的な変化可能性)を表していると言える。
また、これら補償法(ThKP・EKP)の検討を通して、予後、治療効果の予測、治療法の選択(精神分析療法か運命分析療法か)などについての知見が得られると考えられている。
しかし、このような細かいところまで試験に出るとはちょっと考えにくい。


C.テスト技法として、前景像も背景像もすべて+、−、±、0の4種の記号で示されている。


[解説]これは×と考える方が妥当か。
以下の6種類が基本的な記号と考えられる。
「+」「−」「±」「0」「!」「Φ」
前景(VGP)・理論背景(ThKP)で使用するのは最初の5種類のみ。Φ(ギリシア文字のファイ・数学の空集合のマーク)は強制的ゼロ反応(ツヴァングス・ヌル)といい実験背景(EKP)のみで使用する。前景(VGP)を決定する最初の好き嫌いのカードを選ぶ際に、あるファクター(h・s・e・hy・k・p・d・mがファクターである)において5枚または6枚のカードを選択してしまうと、残りは1枚または0枚になってしまう(カードは6組あるので、同ファクターのカードは6枚ずつのため)。残りが1枚または0枚しかないので実験背景(EKP)にはゼロ反応しか出なくなってしまう。そのため残った1枚または0枚のカードから得られた実験背景(EKP)のゼロ反応(好1嫌0/好0嫌1/好0嫌0の3通り)を通常のゼロ反応と区別し、強制的ゼロ反応と名付けΦの記号を与えているのである。


しかし、ここからが問題なのであるが、過去問(平成9年度・問題51)から「!」は記号として扱われていることが判明している。ところが「Φ」については過去出題されたことが無いためこれを記号と考えてよいのかどうか確信が持ちにくい。

平成9年度・問題51Aは次のような文章である。



A.「ソンディ・テストの心理臨床上重要な情報を提供する根幹は、+、−、±、0および!の5種を用いて記号化する因子反応特徴である」


この文章の答えは○(正しい)なのである。困ったことにソンディ学習者は、この文章に×をつけたくなる。Φが抜けているからである。Φは0反応の変形であると考えればいいのだが、混乱しやすい部分である。この問題51Aの文章は、偶然にも他の文章からの類推で○だということが確定する仕組みになっていたために問題は起こらないのであるが、適切な出題とは言えないであろう。

また、平成8年度・問題45Dは次のような文章である。


D.「顔写真で選択特徴を記号化するのがソンディ・テストの基本的作業の第一歩で、それは+、−、±、0の4種で示される」


この文章の答えも○(正しい)なのである。この文章もかなり×をつけたくなる。「!」と「Φ」が無いからである。この問題45Dの文章も他の文章からの類推で○だということが確定している。だから問題は起こらない。

今のところ「記号が何種類あるのか」という問題は大変正答が見分けにくい状態が続いている。この分かりにくさを出題ミスと言っていいかどうかは微妙であるが、なるべく他の文章から正答を類推するしかないであろう。

もう少し解説を付け足してみたい。上記の記号の組みあわせにより、衝動プロフィール表(1回法シートの真中やや下にある表)に記入する記号は以下の13種類になる。
「+」「+!」「+!!」「+!!!」「−」「−!」「−!!」「−!!!」「±」「±!(上の+の右横に!がついている)」「±!(下の−の右横に!がついている)」「0」「Φ」
ただし、まだこの13種類の記号が出題されたことはないようである。
さきほどと同様、前景(VGP)・理論背景(ThKP)で使用するのは最初の12種類のみ。Φは実験背景(EKP)のみで使用する。しかしおそらくここまでは試験に出ないであろう。


9-51-D
D.ベクター反応の時間系からみた弁証法的理解が鏡像反応と いわれるものである。心理的に安定している場合には,あまり 認められない。



[解説]○である。鏡像反応とは、一人の被験者に10回法を施行するなど、複数回の テスト施行の際、あるベクターで「+-」が得られ、 別な施行回に同じベクターで「-+」が得られるように、鏡に映したような 逆の反応記号がが同じ系列の中で得られることを言う。

大塚義孝著「衝動病理学」331ページには、

「鏡像反応とは、Deri.S.が分裂病患者の系列所見(9回法)でそのVGPに認められるSch-+ 反応が、引き続いて行われた第2回目の所見で、Sch+-を与えた事実から、 このような反応継起特徴をとして注目したところに 始まる。そしてこの見解はその後補償法や衝動の弁証法的な運動に ついてのSzondiの豊かな理論的、テスト学的発展により、継起における 鏡像的な回転として注目されるようになったものである」

と解説させている。鏡像反応が出現するということは、その衝動領域における 不安定性の表れと解釈され、マニフェストな分裂病では、SchやPベクター で頻回に鏡像反応が認められ、SやCベクターでは生じにくいとされて いる。 鏡像反応は「+-と-+」「-0と0-」「+0と0+」「±-と-±」「+±と±+」 「±0と0±」などがあり、心理的な不安定性の表れなので、 このDの文章は○ということになる。

強引な例えだが、エゴグラムでCP=5,NP=15を出した人が、翌日、 CP=15,NP=5を出したとしたら、心理的に不安定だと解釈することが できるかもしれない。イメージ的にはこれと多少似ているところがある。


0反応と±反応について
B.心理面接の効果が期待される人は,そうでない人より0反応が ±反応より優位な傾向にあるといわれている。



[解説]×である。これは0反応と±反応の意味を考えればいいと思う。

イライラが強まると誰かを殴りたくなるが、殴ろうか 我慢しようか、葛藤状態になっている時に示されるのが ±反応である。火山にマグマが貯まり噴火しようかどうしようか緊張 しているわけである。このアンビバレントなジレンマ状態は 本人にとっては大変つらい状態であるが、周囲からはそのつらさは分からない。 心の中の葛藤までは見えないからである。 そのため±反応は、本人にだけ分かるという意味で「主観的症状反応」とも呼ばれる。 余談だが「±」を「プラスマイナス」と言わずに「アンビ」と 呼ぶ場合もある。アンビバレントの省略である。

その後、とうとう殴ってしまったら衝動は解放される。 火山が噴火してしまえばマグマの緊張は弛緩するのと同じである。その状態の時に示され るのが0反応となる。0反応は客観的な第三者からも認められる状態なので 「客観的症状反応」と呼ばれる。もちろん衝動の解放は、 症状という社会的に認めがたい形で示されることもあるが、 昇華のように社会的に容認される形で示されることもあるだろう。

0反応を数多く示している人は、衝動の緊張状態を持続できずに 解放してしまう場合が多いと考えられる。 イライラしたときに切れやすい非行少年にたとえられようか。 ±反応は嫌がらせを受けても耐えてグッと我慢しているような状態である。 本人は大変だが、周囲は困らない。この両者を比較すると 心理面接の効果が期待できるのは0反応より±反応を優位に 示す人ということになるわけである。

ある被験者の0反応の数と±反応の数を比較してみた場合、 ±反応の多い人の方が内省的で考えることが多いとも言えよう。


D.緊張病や破瓜病の患者の顔写真を好み、躁病の患者の顔写真を嫌悪する傾向の被験者は、一般に個性の強い又は孤立した傾向があるといわれている。


[解説]○である。顔写真の病名についてはかなり難しい問題が含まれている。大塚義孝著「衝動病理学」の78-81頁に一覧が出ている。それによると、h=ホモセクシャル、s=サディスト(殺人者)、e=エピレプシー(てんかん)、hy=ヒステリー、d=デプレッション(うつ病)、m=マニー(躁病)の顔写真については問題ない。しかし、kについては、カタトニー(緊張病)の患者の写真以外にヘベフレニ(破瓜病)の患者の写真が含まれていたり、pについては基本的にパラノイヤ(偏執病)患者の写真なのだが、病名不明の患者の写真が含まれているとのこと。

いずれにしても、この問題はk+とm−について述べられたもので、k+を個性的、m−を孤立した傾向と表現してあり○である。臨床心理士試験で初めて記号の解釈に踏み込んだ問題であり、正確に答えられるようになるためにはある程度、記号の解釈についての学習を要する。ソンディに興味のない人々にとってやっかいきわまりない問題である。それぞれの記号の+(好き)と−(嫌い)はおおよそ次のような意味を有する(ごく一部のみ)。

h+個人愛・情愛
h−人類愛
s+攻撃性・積極性・サディズム
s−受動性・マゾヒズム
e+良心・アベル
e−激怒・カイン
hy+自己顕示
hy−自己隠蔽・空想虚言
k+個性的・自閉的
k−抑制・抑圧・適応・否定
p+自我拡大・誇大妄想
p−自我収縮・被害妄想
d+新しい対象を探求・好奇心
d−固執・肛門愛・新しい対象を探求しない
m+成熟接触・口唇愛・古い対象を求める
m−孤独・放浪・古い対象から離れる

アベルとカインは旧約聖書中の人物で、それぞれ善と悪の代表である。

ソンディとロールシャッハの両方を使いこなしている臨床心理士のほとんどは、ロールよりソンディの方が優れていると経験上感じている。ソンディ・テストを最も「使える」心理テストだと考える人も少なくない。ソンディテストを臨床で利用している人も増えつつある。皆さんも是非この機会にソンディテストを学んでいただきたい。

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東京ソンディ研究会では臨床心理士試験を受験する方を対象に、「ソンディ・テスト体験会」を随時開催しています(主に埼玉県南部地域)。ソンディテストは臨床現場で使われていないとの誤解もあるようですが、実際には多くの臨床心理士が使用しています。ロールシャッハも同様ですが、一度体験しておくと理解も早いものです。特にソンディ・テストの1回法の施行・採点と解説には1人20分ほどしかかかりません。また、これほど興味深いテストもあまりありませんので、この機会に是非どうぞ。体験会は1回約2時間、料金は試験問題の解説資料込み1人2000円程度を予定しています(5人程度のグループの場合)。埼玉県外で開催を希望される方はご相談ください。興味のある方はメールでお問い合わせください。

<注意>この体験会は基本的に専門家向けのものです。解説も臨床心理士資格試験対策が中心となります。


<続く>


[東京ソンディ研究会]


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E-Mail:ham@edit.ne.jp 浜野 聡