天空の山百合

白薔薇さま〜ロサ・ギガンティア〜



白薔薇さま
聞き慣れた言葉、かつて私のお姉さまの呼び名

白薔薇さま
聞き慣れない言葉、今の私の呼び名

4月、桜の季節になり私はこのように呼ばれるようになった。
志摩子という言葉は一部の人しか呼んでくれなくなった。

私は祐巳さんや由乃さんと共に二年生に進級した。
それと同時に祐巳さんと由乃さんは蕾になった。
しかし、私は白薔薇さまになってしまった。

ついこの間上級生のお姉さまに言われた。
「祐巳さんや由乃さんと肩を並べることが出来る」
私はその申し出を断り、選挙に出た。

後悔はしていないと言うと、嘘になる。
しかし、私にはこれが正解だと思いたい。



「ねえ、聞いて志摩子さん。祐巳さんったら教室でいっつも志摩子さんの姿を探すんだよ」
「だって・・・」
祐巳さんも由乃さんも楽しそうにお話をしていた。
薔薇の館には私たち二年生しかいなかった。
三年生の祥子様と令様はまだ来ていないようだった。

「志摩子さん、白薔薇さまなんだよね。」
突然由乃さんが私をジッと見つめた。
「どうしたの?」
「ううん、同じ学年なのにこんなにも落ち着いていて、さすが白薔薇さまだなと思って」
由乃さんは少し照れ笑いをしているようだった。
私も由乃さんにつられて笑った。

「ねえ、志摩子さん」
今度は祐巳さんが私をジッと見つめた。
どうしたのかしら?今日の二人は。
「何かしら?」
私の問いかけに祐巳さんは何も話さなかった。

ただ、ジッと私を見つめていた。
「私、紅茶持ってくるね」
由乃さんはサッと立ち上がり、給湯室に向かった。
由乃さんがいなくなるのを確認すると祐巳さんが話し始めた。
「志摩子さん、私が教室で志摩子さんの姿を確認するのはもしかして志摩子さんがいるんじゃないかな?と思って」
「どういうこと?」
「志摩子さんが、白薔薇さまじゃなくて・・・・私たちと一緒にいてくれないかな?と考えちゃうの。」

「えっ?」
「もちろん自分勝手な考えだとは十分分かっている。でも、志摩子さんは志摩子さんで・・・・私にとって白薔薇さまはたった一人で・・・だから志摩子さんのことを白薔薇さまと呼べない」
私は祐巳さんの言葉に衝撃を受けたように感じた。
祐巳さんはこれ以上何も言わないようで、ずっとうつむいていた。

祐巳さんにとって白薔薇さまは私のお姉さま、佐藤聖様ただお一人。
だから私のことを白薔薇さまとは呼べないと言った。
その気持ち・・・凄く嬉しい。
祐巳さんが、私を見ていてくれている。
薔薇さまとしてじゃなく、藤堂志摩子として。

私は思わず祐巳さんを抱きしめてしまった。
「えっ?何?」
祐巳さんはかなり慌てていた。
こんな事私がするはずないと思っているから。
だけど私は更に強く祐巳さんを抱きしめた。
「祐巳さん・・・ありがとう」



「へえ、祐巳様って実は凄い方なんですね」
乃梨子が感心したように呟いた。
私の家に遊びに来た乃梨子に、今日祐巳さんに言われたことを全て話した。
乃梨子も祐巳さんのことを感心していた。
「志摩子さんを大事に思っていてくれるんだ。祐巳様っていい人。瞳子が言うように間抜けじゃないんだね」
そう言って乃梨子は笑った。
もう、私の親友をバカにしないでよ。
乃梨子は私のベットの上に仰向けになった。
私は乃梨子の横に座った。
乃梨子は私の手を握ってきた。
「ねえ志摩子さん。私も志摩子さんのことは絶対に白薔薇さまだなんて言わないよ。志摩子さんは志摩子さんであって、それ以外の何ものでもないから・・・」
そう言った乃梨子の頬は少し紅くなっていた。
私は乃梨子の横に寝ころんだ。

「あなたは、私のことをお姉さまって言いなさい」
私がそっと乃梨子の耳元で囁くと乃梨子は慌てて私の反対側を向いた。
乃梨子の方は見る見る紅くなっていっていた。
「ま、また・・・今度・・・ね」
乃梨子は口ごもりながら言った。
私はそんな乃梨子を見て、何処か優しい気持ちになっていくように思えた。
私は乃梨子の上に覆い被さった。
「な、何?志摩子さん!」
乃梨子はかなり戸惑っているみたい。
こう見えても私はあの佐藤聖様の妹、ただでは済まさないわ。
「乃梨子、お姉さまって呼んでくれたら退いてあげる」
「えっ・・・・」
「さあ、早く」
私はうきうきしながら乃梨子の言葉を待った。
乃梨子はしばらく唸っていたが観念したように目をギュッと瞑った。

「お姉さま!お姉さま!・・・これでいい?」
こんな乃梨子が可愛くて私は思わず乃梨子をギュウッと抱きしめた。


私は藤堂志摩子、白薔薇さまです。
よろしくね。

当サイト公開:01.11-03




カオリさまからのおことば(いただいたメールより無断抜粋)

今回このお話を書いたのは、志摩子さんは祐巳ちゃん達になんて呼ばれるのかな?と不思議に思ったからです。
聖様、蓉子様、江利子様はお互い薔薇さまと呼んでいたので、
志摩子様も祐巳ちゃんに白薔薇さまとよばれちゃうのかな?と思ってしまったのです。
さすがにそれは嫌だなと思いこのお話を書いてみました。
いかがでしょう。
以下略


tanaからの謝辞

カオリさま、ありがとうございます。
後半、性格が変貌したかのような志摩子さんですが、
ちょっと小悪魔チックなところが、個人的にはツボにはまりました(笑)。

そうですね。
先代の3薔薇の皆さまは、どうも完成した薔薇さま(?)のイメージがあって
お互いを『〜薔薇さま』と呼んでいても違和感がなかったのですが、
(祥子や令も含めて)新しい薔薇さま達は、どうもそういうイメージにはならないですね。
名前で呼び合う方がしっくりくる、というか。

さてこの作品は、tana個人宛に頂いたものを、
カオリさまのご好意と、tanaの無遠慮さで当サイトに掲載させていただいたものです。
どうもありがとうございました!!




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