志摩子の嬉しかったこと
とある昼下がり。
薔薇の館には、テーブルを囲んで書類の束と格闘している白薔薇姉妹の姿だけが在った。
黄薔薇姉妹は仲良く部活へ。
祥子さまは家のご用事で欠席、祐巳さんはクラスの用事で遅れているらしい。
そんな、『逆隠れキリシタン』を自認する白薔薇姉妹の、薔薇の館でのちょっとしたひとコマ。
乃梨子「ねえねえ、お姉さま。お姉さまって、中学からリリアンに入ってきたんだよねぇ。」
『お姉さま』と呼んでいるのに、言葉はタメ口。
その微妙さが乃梨子による、志摩子との距離のとり方なのだろう。
志摩子「ええ、そうよ。それがどうしたの。」
乃梨子「うん、わたしは、リリアンに入学してから、カルチャーショックって言うのかなぁ、
いまだに毎日が驚きの連続だけど、お姉さまはそういうのなかったのかな、と思って。」
そう、乃梨子は大雪に人生を狂わされて、高等部からリリアンに入ってきたクチだが、
そのお姉さまである志摩子もまた、父に勘当を願い出た末の、中等部からのリリアン入学生であった。
志摩子「えっ?、そうねぇ、そんなに驚くようなことはなかったわね。
姉妹制度とかロザリオとかは高等部だけの制度で、中等部にはなかったから、
それほど普通の中学校と違いはないんじゃないかしら。」
乃梨子「ふーん、そうなんだ。」
志摩子「あ、でもね、乃梨子。わたしはリリアンの高等部に上がって、嬉しかったことが3つあるの。」
乃梨子「え?、なになに、聞きたい!」
普段あまり自分のことを喋らないお姉さまの嬉しかった事とは何か、乃梨子には当然興味があった。
志摩子「ひとつはね、お姉さまに出会えたこと。」
志摩子は前白薔薇さまこと、佐藤聖さまに出会えたからこそ、今、この薔薇の館にいるのである。
乃梨子「うんうん。」
志摩子「ふたつめはね、乃梨子に出会えたこと。」
乃梨子「そんな風に言われると照れちゃうなぁ(笑)。
この春、目の前の仏像好きの少女、乃梨子に出会えたことが、志摩子を大きく変えたのである。
乃梨子「で、もう一個は?」
志摩子「もうひとつはね……。」
乃梨子「もうひとつは……?」
固唾を呑んで、次の言葉を待つ乃梨子の耳に、
マリア様のような微笑を浮かべ、ちょこんと小首をかしげた愛しのお姉さまが紡いだ、次の言葉が飛び込んでくる。
志摩子「学校内で銀杏が拾えるようになったことよ。」
乃梨子「……(汗)。
(げっ、私って、銀杏とおんなじレベルだったんだ……)」
その場で固まってしまった乃梨子の耳には
『中等部の方にはイチョウの木が植えられてなかったのよねぇ』と
嬉しそうに話す志摩子の言葉は、もうすでに届いていなかった。
あとがき
すいません、ごめんなさい、すいません、ごめんなさい!
ということで、これまた、とっさに浮かんで、打ち込み合計30分、推敲合計1時間という超お気軽SSSです。
なんか、志摩子さんのイメージがどんどん崩れていく!
tanaの中で志摩子さんは、本当はもっとおしとやかで世間知らずの天然少女なのに(←十分ひどいコト言ってる)、
これじゃあ、単なる大ボケ少女だ。
なんか、志摩子さんのイメージが雪崩のように崩れていっている自分が怖い。
なお、このお話、きわめてありがちなネタなんで、
どこかで、すでにどなたか発表されているかもしれませんが、
もしそういった、他の方の先行作品をご存知でしたら、是非お知らせください。
批評、お叱り、叱咤のお便り等頂ければ、大変光栄です。
さて、次のお話のことを。
現在、以前からのを含めて2つほどお話を考えている最中なのですが、
それらがうまいことまとまらなくて、仕事中だというのに唸ってしまう日々が続いています。
願わくば、次回は、皆様にもっとマシな作品をお目にかけられる事を祈って。
駄文をお読みいただきましてありがとうございました。
公開:03.04-05
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