天空の山百合

志摩子の憂鬱


志摩子は悩んでいた。
「由乃さんはあんなこといってたけど・・・。」
三年生を送る会の準備で、連日、夕方遅く帰宅していた西洋的な美少女の、
その外見に似つかわしくない純和風の部屋に響いていた、鍵盤ハーモニカによる『オリーブの首飾り』が止み、
その代りに美しい独り言が静かな部屋に響いた。
「即興で踊るなんて・・・。一体どんな曲なのかしら。」


一昨日の夜、3年生の薔薇さま方にお別れ会の出席確認をとっていた祐巳さんが、慌てふためいて電話をしてきた。
祐巳さんが言うには、
私のお姉さまが『1年生は何か隠し芸を披露して、3年生のお姉さま方を笑わせなければいけない』
と言ったのだという。
そこで翌朝、急遽、由乃さんと3人で図書室に集合して作戦会議。
私は、いつもお姉さまがなさっている、祐巳さんへの戯れだろうな、と思っていた。
祐巳さんや由乃さんも、同じように考えているみたいだった。
でも、お姉さまのいたずらにしては、祥子さまが一人で4羽の白鳥を踊ったり、
令さまがリンゴを片手で握りつぶしたりしたというのは、
例えが具体的過ぎるような気もする。 私がバレエの本をめくりながらそう言うと、
由乃さんも、祥子さまや令さまの性格を考えると、
即席で宴会芸は披露したが、恥ずかしくて、
祐巳さんや自分には言わなかったのかも、と、 同感よ、というような表情をしながら言った。
結局、お姉さまのお話は本当なのかもしれない、という方向に話は流れ、
一応、一人一つずつ出し物の分担を決めておく事になった。
テキパキと話を進める由乃さんが私に割り当てたのが、習っている日舞を生かしてみんなの前で踊るというもの。
しかも何の曲で踊れば良いのか、由乃さんは当日まで教えてくれないという。
私はかなり不安ながらも、承諾した。


そんなきのうの朝の出来事を思い出し、一人想いにふける志摩子。
「由乃さんのことだから、なにか時代劇のテーマ曲かしら?。えーとなんだっけ?由乃さんがいつも読んでる・・・
ああ、半七捕り物帖とか、必殺仕置き人とか・・・。」
志摩子は、ふと自分が独り言を呟いているのに気が付いて苦笑した。
「きっと独り言を言いながら、一人百面相もしていたのでしょうね。」
小さく笑いながら、よく百面相を演じているクラスメイトの顔を思い浮かべているうちに、
ふと、志摩子の父親が、たまに時代劇を見ているのを思い出した。
「ああ、そう言えば、お父さまが、録画したテープが残ってるかもしれないわね。」
思いつくと、志摩子は、鍵盤ハーモニカを鏡台の上におき、襖を開けて縁側に出ると、
父親の部屋の方へと歩いていった。


そして、3日後の放課後。
薔薇の館にて、薔薇さま方のお別れ会。
芸達者な由乃のマジックショーが終わり、入れ替わり舞台に立った志摩子の横で
由乃がテープを入れ替え、カセットデッキのスイッチを押した。
流れてきた曲は・・・
『マリアさまのこころ〜 それはあおぞら〜』
志摩子は、ガクッ、っと崩れてしまった。
(由乃さんのことだから時代劇のテーマ曲かと思ったけど、深く考え過ぎだったかしら?)
そう思いながらも、優雅に踊りつづける、志摩子であった。



あとがき

初めて書いた小説です。
net小説を探しているうちに、某サイトで『マリア様がみてる』に出会い、
そこから、沢山の素晴らしい2次SSを拝見する事ができました。
そして、皆様方の才気溢れるSSを読んでいるうちに、
自分も書いてみたい、と思うようになり、手始めに書きだしたのがこの文章でした。
はじめはもっと短くて、本当に、『Super ShortなStory(略してSSS)』だったのですが、
次第に増えて、こんな文量になってしまいました。
いまでも、『こんなもん公開して皆様方のお目汚しにならないだろうか』という不安感と
初めて自分が書いたものを人様にお見せするという気恥ずかしさで、一杯です。

さて、では、ここでちょこっと解説を。
tanaのイメージの中では、志摩子さんって
『普段は落ち着いているが、中身はちょっと天然ボケ気味』
という感じです。
志摩子さん本人は、気付いていないのですが、周りから見ていると、時々行動が面白い。
どれくらい面白いか、というと、周囲の人がふふっ、っと静かな笑みをこぼしてしまうくらい。
そんな微妙な、志摩子さんの『お茶目さ』を表現したかったのですが、お感じ頂けたでしょうか。

批評、お叱り、叱咤のお便り等頂ければ、大変光栄です。

さて、次回作ですが。
全く決まっておりません。
そもそも、SSSやSSを継続して作り続けていくかどうかも未定な状態で、
この作品を書き出してしまいましたから。
個人的には、志摩子さんと乃梨子がお気に入りなので、そっち方面の話でしょうか。
或いは全く別の話でしょうか。それともこの作品だけで終了?
願わくば、今後、皆様にもっとマシな作品をお目にかけられる事を祈って。
駄文をお読みいただきましてありがとうございました。


公開:01.08-27
修正:01.11-28



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