Big Hatch Backの憂鬱


「だから例えば」
 美香の口癖。家が社宅の隣同士だった頃から十何年間、ずっと聴かされ続けてきた気がする。
「ペットか何かみたいに、自分の後ろに私がくっついて来るのが当然って感じでいるの。馬鹿にされてたって言うか、なめられてたのかも」
 こうして具体例を持ち出さないと自分も納得できないし、他人を納得させられないと考えている。そういう美香の性格。
「聞いてる?」
「もちろん」
「いつだってさ、私を従えてるつもり。ふざけないでって思った」
 美香の、必要以上の我の強さ。それがいつも災いしている。本人もさすがに自覚しているだろうに、一向に改める気配がみられない。多分、それこそが自分の個性とでも考えているのだろう。
「別にいいじゃない。私が自分で自分の欲しいもの買ったのに。何でそんなことでつべこべ言われなくちゃならないの? 男ってそんなことまで管理下に置いときたいわけ?」
 そう言って、美香が僕を睨みつける。僕がその男であるかのように。ちょっと気圧されながら答える。
「いや。それはその男のほうが間違ってるような気がする」
「でしょ? あんなやつ、顔も思い出したくない。判る? 私がどんなに悔しいか」
 吹き荒れる美香という名の暴風を受け止めてやるのが、ずっと僕の役割になっていた。他に吹きつけ先が無いのか、美香はいつも極限まで風力を強めてから、電話で呼び出した僕に襲いかかる。
「判るよ。あくまで、fifty-fiftyでいるべきなんだと思う」
「そうよね。安心した」
 ピッツァの最後の一切れが、美香の唇の中に消える。
「あー! でももう腹立つ! もうちょっとつきあってよ、気晴らし」
 まだ足りないのかと呆れつつも、うなずいてやる。
「割り勘ね、ここ。fifty-fiftyってやつ」
「OK」
 美香は、僕には絶対に奢らせない。男たちに対してはどうか知らないが、その点だけはかたくなだった。いくら荒れている時でも、だ。美香にとって、それが僕との間に引かれている一線のつもりだったのかも知れない。
「乗ってよ」
 駐車場に、ガンメタルのアコード・エアロデッキ。問題の車だ。
「ずっと欲しかったのに。ちょっと古い型だけどさ、今、こんな車って無いじゃない。性能なんてどうでもよくって、デザインだけで買いだと思ったの。それをあいつは」
 歩きつつ、バッグを開けてキーホルダーを取り出し、僕に向かって言う。
「『どうするんだ? こんなポンコツ』って言ったの。工業デザインなんか何も判らないくせに。あー、腹立つ!」
 それはさすがにその男に酷だろう。高校・大学とデザイン科に進んで、ひたすらそれを専攻していた美香が相手では、たとえ仮に少しぐらい車好きだったとしても、大概の男は勝負になるわけがない。
「ね、どう思う? この車」
 急に、美香が僕に問いかける。
「まぁ、好みは別れるんじゃないかな。やっぱり。でも、美香の言う通り、独創性っていうのかな。それは判る。確かに他に無い車なんだと思う。今風の軟体動物っぽいデザインとは一線を画すって言うか」
「でしょ? やっぱりね、凄いと思う。このパッケージングって、下手するともろ商用車なのに。全然バンに見えないんだもん、これ。ワゴンってこうやって作るんだって教えてもらった感じ」
「嫌いじゃないよ。似合うと思う。美香には」
 途端、晴れかけた美香の表情が曇る。
「余分なことまで言わなくていいの」
「はいはい」
 美香が、ロックを外して運転席に滑り込むと、イグニッションキーを捻る。
「何してるの」
 突っ立ってる僕に向かって、ちょっと苛立ったような声。
「パワードアロック! 音がしたでしょ。もうそっちも開いてるの」
「ごめん」
 助手席の大きなドア。ノブに手を掛けて開いた途端、美香が大きな空吹かしをする。
「早く!」
「はいはい」
 乗り込んだ僕の足元に、なにかが触る。
「?」
 ダッシュボードの下を覗き込もうとした僕に構いもせず、美香が突然アコードを発進させる。
「こら」
「なに」
「危ない」
「悪かったわね」
 ちっとも悪いなんて感じてなさそうな美香の口調。
「何してるの。そっちこそ」
「何か当たった。足に」
「ゴミ箱」
「ああ」
 小さな、車載用のゴミ箱。転ばないように、底に重りが入れてあるのだろう。大きさの割に重量のあるそれを引き寄せてみる。
「変わったもの飲んでるなぁ」
 折り畳むように潰された、ノンアルコールビールのアルミ缶。五、六本は入っている。
「別にそんなに美味しいとも思わないんだけどさ、ハマっちゃって。何だか」
「ふーん」
 美香がさっと手を伸ばす。スロットから四分の一ほど突き出ていたカセットテープをデッキに押し込む。前の車に乗っていた頃からずっと聴いていた、美香好みにセレクトしたスペインのピアノ曲集。
「そう! あいつ『そんなもの飲むな』って言った。私の勝手でしょ? 何飲もうと」
「そりゃ、そうだけど」

「お前さ」
 僕と美香との関係を比較的早くから把握している友人の一人が、僕に訊ねたことがある。
「どうしたいんだ? 美香と」
「別に」
「別にって」
「だから、別にどうとも」
「絶対お前に構って欲しいんだって。美香は」
「そうかな」
「間違いない」
「構ってやってるけど」
「そういう構いかたじゃなくてな、お前、判んないのかよ」
『ソンナコトハ、トウノ昔ニ判ッテイル』
 僕は大声で叫んでやりたくなった。
 僕の家と美香の家が前後して社宅から引っ越したのは、中学二年の時だった。互いの家は電車で二駅も離れてしまい、「隣同士」という位置関係は断ち切れたはずだったのに、僕と美香との関係は全く変化しなかった。姉弟、場合によっては兄妹のように、いつも連れ立っていた。
 そして、美香が別の男とつきあうようになり、僕が別の女の子を連れるようになる。それでも、美香と僕とは一緒に遊んでいた。そして美香は、それが決して不自然であるかのようには振る舞わなかった。少なくとも、僕に向かっては。
「だいたい、嫉妬とか無いのか?」
「嫉妬?」
 彼の言葉に、僕が聞き返す。
「そうだよ。美香、ずいぶん遊んでるだろ?」
「そうらしいけど」
「こう言っちゃ何だけど、ひどい捨てられかたもしたとかってな、聞いたぞ」
「聞かされたよ。本人から、何度か」
「何とも思わないのか」
「かわいそうだとは思う。でも僕がどうこうできる問題でもないし」
「嘘つくなよ」
 彼が、語気を強める。
「嘘ついてる。絶対に」
「何でそうやって決めつける?」
「嘘だからだよ」
 そうだ。大嘘だ。言われるまでもない。嘘に決まってる。僕は、嘘をつき続けている。自分に。それから、美香に。
『美香ガ男トツキアッテイル』
 高校一年の頃だ。初めてそう聞かされた時の手痛い衝撃。人目が無ければその場にへたり込んでしまいたいぐらいだった。その瞬間、突然に背負わされた「美香に裏切られた」という思いは、あまりに重く、苦しかった。
『ナゼ僕デナクテ他ノ男ト』
 美香にそう問い糾したかった。
 けれども。僕は必死で自分に言い聞かせた。美香と僕は、ずっと昔からの幼馴染み。言ってみれば家族みたいなものだ。もしも美香と僕とが家族ならば、それ以上の関係に変化するわけがない。だから僕は、あくまでその立場を守る。そしてどんなことがあっても美香を裏切らない。僕はそういう嘘を構築して、崩れかけようとする自分を、何とか支えてきた。
 それから。美香が荒っぽく男を取り替えるのを、僕はすぐそばでずっと見守っている。自分の作った嘘を忠実に守り続けている。それに少しでも疑いを持たなかったかというと、必ずしもそういうわけではない。僕の言葉が耳に入らないぐらい美香が腹を立てている時。どうしようもないほど美香が落ち込んでいる時。自分の嘘をかなぐり捨てて、美香を抱きしめてやりたくなったこともある。そうすれば、その瞬間、僕は楽になる。おそらく美香も、だ。美香は決して僕を拒みはしない。いつの間にか僕はそれを確信するようになっていた。それはうぬぼれや勘違いなんかではないと言い切れる。美香の両親を除けば、僕が最も長い期間、彼女と過ごしている。長いことすぐそばにいたからこそ判ることだった。理由など必要の無い、言わば触覚や視覚といった五感に近い感覚のようなものだ。
 その確信が僕を煽動する声は、日増しに大きくなっていった。だから僕には、それを抑え込むためにもう一つ新しい嘘をつく必要があった。
 僕が嘘をつくのを止める。そうすれば当然それまでの僕はいなくなる。そのことが、果たして美香にとって本当に良いことなのか。例えば、あまり考えたくないことだったが「美香と僕が別れなくてはならなくなった時」のことだ。美香という暴風は、「それまでの僕」という吹くべき場所を失う。その内圧に美香が耐え得るかどうか。たとえ耐え得たとしても、美香にその負担をかけることに僕自身が耐えられない。なぜならこれを考えている時点での僕は、まだ第一の嘘を捨てていないからだ。
 そうして僕は、僕の内部からの悲痛なまでの叫び声に耳を貸すのを止めた。止めようとした。二つ目の嘘を耳に詰めて。そうすれば聞こえなくなると思って。
 しかしそれは僕の楽観でしかなかった。ひどい誤りだった。いくら耳栓をしたところで、内側から聞こえて来るものを塞ぎ止めることなどできるわけがない。
 だから叫ばなくてはならなかった。内側から聞こえるアジテーションに負けない音量で、新たな嘘を叫び続けなくてはならなかった。もしかすると僕は、いい加減それに疲れていたのかも知れない。

「どうして私が私らしくしてちゃいけないわけ? 飲み物だって車だって、好きにさせてくれればいいじゃない。それを」
 美香がハンドルを左に切る。有料道路の料金所。パワーウィンドゥを巻き下ろして腕を伸ばし、無人発券機からひったくるようにチケットを抜き取ると、僕に向かって「持っていろ」とばかりに放り投げる。
「例えば、庭か何かみたいにさ、好きなように造り替えられるとでも思ってるの? いいじゃない。私が砂漠だろうとジャングルだろうと。こっちは相手がどうだろうと認めてやってるのに!」
 ループになった乗り入れ道路を加速しながら、彼女が吐き捨てるように言う。
 そう。美香は相手の男を縛らない。彼女の恋をいくつか見て来たが、それは確かだった。男にわがままを言って困らせたりしたような様子は一度もなかった。そのかわり、美香のほうも男から必要以上(といってもあくまで彼女の主観で、だが)に干渉されるのを極端に嫌がった。
「美香」
「気が散る。話しかけないでよ。合流するまで」
 本線上を、製紙会社のトレーラーが二台続けて走り抜けた。美香がミラーを覗き込みながらステアリングを切って、その後ろのスペースにアコードを滑り込ませる。
「いいよ、話しても」
 ウィンカーレバーを元に戻して、大きな息を吐いて、彼女が言う。
「ごめん、私ちょっとムキになっちゃった」
「いいよ。いつものことだし」
「いつものこと、か」
 美香が苦笑する。
 一つ、深呼吸。僕が口を開く。
「美香」
「なに? あ、説教?」
「違う」
 美香のこういうリズムの外しかたの巧妙さは、天性のものだろう。美香にこの特技があればこそ、僕は今まで嘘を投げ捨てる寸前で思い止まっていられたのかも知れない。
 でも。
「もし僕が」
 たった一言口にしただけなのに、ひどく喉が乾く。
「いなくなったら、どうする?」
「え?」
 フロントグラスの向こうを睨みつけていた美香が、一瞬僕のほうに目を向ける。聞き間違いを確かめるような表情。
「僕がいなくなったら、美香はどうするんだろう。僕が、こうやって愚痴を聞いてやれなくなったら」
「何それ? どういう意味?」
 ああ。美香は、やっぱり美香だ。大昔、隠れんぼをした時もこんなだった。あの時は美香が鬼で、いつまでたっても僕を見つけられず、とうとう泣き出してしまった。僕を見つけられなかった悔しさで泣いたわけじゃない。
『どっか行っちゃったと思った』
 驚いて、隠れていた場所から駆け出て来た僕にしがみついて、美香は涙声でそう言った。そして、そのまましばらく泣き続けた。僕はどうしていいか判らず、ただ戸惑っているだけだったが、伝わって来る美香の体温が、子供ながらなぜかひどく大事に感じられたのを覚えている。
 その時と同じ、不安そうな美香の横顔。今までありえなかったことが起こる前兆のようなものを、感じ取ったのかも知れない。
「答えてよ」
 美香が促す。
「たぶん」
 いつから、美香に向かってこの言葉を口にしたいと思っていたんだろう。いつから我慢していたんだろう。
「僕は美香が好きなんだと思う」
 美香も僕も、フロントウィンドゥのその先に目をやったまま。美香がこちらを向こうとする前にと思って、そのまま続ける。美香に見据えられながらでは、とてもこんなことを言い続けられないだろう。
「自信がある。美香のことを、愛してるって言いきれる。他の誰よりも。だから」
「待ってよ」
「だから」
「待ってって言ってる!」
 ヒステリックな美香の声が、僕の言葉を遮る。僕の前で美香がこんなに取り乱すのは、それこそあの時以来だったろう。
「美香!」
「黙っててよ! そんなこと聞いたんじゃないんだから!」
 僕が口にしかけた言葉が、行き場を失って立ち消える。
「いなくなるってどういう意味って聞いたの! 余分なこと言わなくていい!」
 美香が、一度ちらっと僕のほうを見て、また睨みつけるように前を向く。
「でもね」
 深呼吸するようにため息を吐いた美香が、口調を元に戻して言う。
「いつか、言われるかなって思ってた。でもいざってなると動揺するよね。やっぱり」
 今、何を口にしてもみじめになるような、そんな気がした僕は、黙っているしかなかった。
「告白っていうの? したこともあるし、されたこともあるけど、今までで一番緊張したかな」
 さっきの強い調子が嘘のような、穏やかな美香の横顔。
「そうか」
「そう」
 左右の防音フェンスが途切れ、視線を遮るものが無くなる。右側。ずっと遠くに、海。美香がアクセルを踏み込んだのだろう。風切り音が少し大きくなった。
「実はね」
 このエアロデッキも、もう充分古い車の部類に入るということなんだろう。ノイズが邪魔をして美香の言葉がちょっと聞き取りにくい。
「私も、いつだったか考えてみたんだけど、例えば空気とか水みたいなもの。絶対無くならないし、もし無くなったら生きて行けなくなっちゃう。そんなものだと思ってる。今でも」
 一度言葉を区切った美香が、左手を伸ばしてカセットデッキのヴォリュームを上げる。
「何て言うかさ、確かに自分にとっては大事なんだろうけど、だからって空気だけ吸ってれば人間生きてられるってわけでもないでしょ? そんな感じ」
 美香が、美香にとっての僕というものを明快に直喩する。必要ではあるけれども充分ではない。つまりそういうことだ。
「だから、今はってだけじゃなくて、これからもオトコとしては見ないと思う」
 決定的と言えばあまりに決定的な、美香の言葉だった。
「気落ちした?」
 相変わらず前を見続けたままの美香が、僕に尋ねてくる。
「少しはね。でも、まさか」
「まさか?」
 物心ついてからずっとそばにいて、見慣れたはずの横顔。美香の変わった部分、変わってない部分。全部含めて「愛している」、そう言えるはずだったのに。その相手からこうまで言われて、自信が揺るがない人間なんかいるわけがない。
「まさかね、男として見られてないとは思わなかった。ショック大きい」
「言い出したのはそっちなんだから」
 いつも通りの美香の声。
「そういう返事も覚悟してなくちゃ。謝らないからね、私」
「謝ってくれなんて思ってないけど」
「だよね。だと思った。でも」
 美香が、相変わらず前を見つめたまま言う。
「迷ってる。さっきの聞いちゃったから、余計に」
「どういうこと?」
「知ってると思うけど」
 あまり気の無い声で尋ねた僕に、美香がようやく視線を向ける。
「誰かを拘束するとか、嫌いだから。私」
「うん」
「私たちって一方的な関係かなって、さっき気が付いちゃって。もうちょっと早く気付けばよかった。もしかしたら」
「え?」
「わざと気が付かないようにしてたのかも。今までの関係、崩したくなかったから」
「気にしなくていい」
「気にするの。私だけわがまま言ってるようなのって、耐えられない」
「いいってば」
「何度も言わせないで」
 しばらく、沈黙する。左側にサービスエリアからの合流路。エアロデッキが制限速度の二割増しぐらいまで加速して、追い越し車線に移る。
「現状、維持したい。でもそれじゃ私が納得できないから」
「どうするんだ」
「今、考えてる」
 また、沈黙。台地の上を走り抜けた高速道路は、緩くカーブした下り坂に差し掛かる。目の前の景色が急に開ける。
「判らないなぁ。簡単には」
 坂を下りきって、美香が溜め息混じりに言った。
「じっくり考えればいい」
「そんなに気長じゃないの。なんかさ、今凄く自分が悪人になった気がしてて」
「言わなきゃよかったよ。こんなことなら」
 つい、そんな言葉が出た。
「美香がそういうことで困るって思わなかったから」
「やめてよ」
 美香が僕の言葉を遮った。
「自分勝手は私のほうなんだから。あんまり甘えさせないで」
「そう言われても」
 ずっと昔からこんな感じだったじゃないか。そう言いかけたけど、口にするのはやめておく。言えば、美香がさらに遡って自分を責める破目になる。
「ね」
「なに?」
「やっぱり、時間が欲しい」
「考える時間?」
「そう。私が納得できる答えが見つかるまで」
「待つよ」
「いいの?」
「いいって」
「本当に?」
「しつこい」
「もしかしたら、二度と会わないとか、そういう答えになるかも知れないんだけど。今の段階だとそれが有力候補」
 僕が、一つ大きな溜め息。
「だとしても、仕方ない。それで美香が満足するなら」
 エアロデッキの車内を、風切り音とアルベニスの組曲が満たしてゆく。美香も僕も、しばらく口を開かなかった。
「前言撤回」
 美香が不意に言った。
「誰かに相談しようとか考えてたんだけど、誰も思い浮かばなくて」
「それで?」
「こんな時っていうか、困った時、どうしてたかなって思い出してたら、一つだけ思い出せた」
 美香が、わざと表情を殺したような顔で僕のほうを一度見て、言う。
「電話番号」

 ああ。
 僕はそれはそれで幸せな立場なんだろう。とりあえず、美香の唯一の相談相手であることに甘んじよう。美香が僕を諦めるか、僕が美香を諦めるか。そのどちらが先に来るのか、もしかしたらそういう時は来ないのか、僕には判らないけど、とりあえずの調和を維持することが、僕にとっても美香にとっても幸福なんだろう。美香と幸福を共有すること。それが僕の望みだったんじゃなかっただろうか。
「どうぞ、遠慮無く」
 僕が言う。とりあえずの幸福に感謝しつつ。
「相談に乗る」

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