第10回 G-0 ヴェニゲ


「物語の終わり、人生の始まり」


 さあさあ、寄っといで!
 昔々のお話しがはじまるよ!
 苦難を乗り越えた飛行都市の未来を担う、ありとあらゆる種類の英雄、悪党、そして勇気ある女性たちの伝説が……!


 交易飛行都市ヴェニゲで初めてのララマイカ(※1)となるミランシャとクーザムの祝いの式から、最後の物語は始まる。 コミスウ(※2)やママナ(※3)の花びらがふりまかれる中、小さな祠に続く道を清楚なクタナパレ姿(※4)のミランシャがしずしずと進んでくる。
 クーザムが花嫁に見とれてぼうっとしているのを横目に、式を引き受けたククラナは笑いをこらえた。やれやれ、こうも『舞い上がって』いれば、立ち会うバサン神もさぞかし満足だろう。
「どうせなら新しい神殿ができてからにすればいいのに……」
 ぶつぶつ言いながらも、彼女はバサン神にマイカの契りを誓う儀式(※5)を厳かに進めていった。後には新しく定められたヴェニゲの儀式も控えている。のんびりするわけにはいかないのだ。
 誓いの言葉を交わしてから、生け贄のニョカを花嫁と花婿が二人して捧げ持つと、どこからか舞い降りたシラヌウ(※6)が、それをつかんで飛び去る。クーザムの鷹ナナンが、鳥たちの長に敬意を表し、鋭く短い鳴き声をあげた。
 儀式を終えたククラナは、そばに控えていたトニに目配せして場所を譲った。
 前に進み出たトニが二人をヴェニゲの民と認めることを宣言し、ごくごく形式的に飛行都市に住む心得を問答する。
 トニは新郎新婦より緊張しているようだった。本来ならクレイヴの仕事だが、彼は何かと理由をつけては、太守の仕事を少しずつ彼女に任せつつあった。
 兄のカヤンや彼の友人たちに祝福されたミランシャは夫にささやいた。
「ごめんね……ヴェニゲに住むなんて我がまま言って。でもね、私、あなたとずっと一緒に生きていきたい……」
「バサン神の近くに住むのは悪くない」
 問題は鷹匠が暮らしていけるかどうかだが……ぼそぼそとクーザムが口にすると、トニの護衛をしていたヤトロが同業のよしみで新郎の肩を叩いて言った。
「大丈夫さ、ここでも渡り鳥を捕まえたりできるって」
 新しいヴェニゲの民は、こうして少しずつ増えていった。ずっと後の世、トリュガルの地上にある所領が『下ヴェニゲ』と呼ばれる重要な母港となるころには、多くの民が移り住み、街は大いに栄えるのである。

 交易飛行都市ヴェニゲの下地を作る者たち。その幾つかの情景。ククラナの神殿にシャルハの感謝の念が加わる。ミョウナクリの提案とトニの構想。
「ほほう、なかなかの店構えだな。店主自ら修繕か」
 ガイダカが屋根を見上げて声をかける。慣れない手つきで雨漏りの修繕をしていたヒュガンは、はにかんだような笑みを浮かべた。
 もとはヴォジク商人の商館で、ヴォジク商人は街が最初に地面に降りたときに去ったため空き家になっていた。傭兵時代に貯めた金でこれを借り受けた彼は、家を酒を出す店に改装していたのだ。成功して引退した傭兵が、戦友たちが酒盛りにくるような店を持つのはそう珍しいことではない。もっとも、ヒュガンは引退するには若すぎるが。
「ここに落ち着くわけだ」
「ああ、そのつもりだ。あんたは?」
 ヒュガンが問うと、ガイダカは首を横に振った。クレイヴには残ってくれと頼まれたが、戦が収まるのなら弓兵隊長を続ける気にはなれない。
「次に街が降りたときに森へ帰る。この街があった場所の近くにな」
 未だにエレオロクの周囲を回っているヴェニゲは、シュデレイルとエレオロクから同じくらい離れた地点を飛んでいた。一番近い寄港地は王都だ。彼はそこで降りようかと考えていた。
「武人は性に合わんのだ。まあ、何かあれば力を貸しに戻ろうとは思うがな」
 ヒュガンは無言でうなずいた。気持ちはわかる。戦がなければ武人は必要ないのだから。
 この酒場は繁盛し、何代か後には旅館を兼ねるようになった。つい最近まで、当時の建物が残っていたという。

 “ワダの道ゆき”との交差を過ぎたヴェニゲは、雨季の終わりを告げる程よく湿った空気の中を、モダの森を左手に見つつ静かに飛び続けている。
 空に突き出している桟橋のたもと立った“百に一つの”ルキアは、自分の思いつきにうきうきしながら、手にした木の枝で地面に絵を描いていた。それは、いずれ彼女がここに作る建物の図面だった。
「下を見下ろせるこっちが仕事場……何人か絵師を雇えるといいわね。で、こっちには、よそから来た紙芝居屋が休める場所を作って……」
「なるほど、紙芝居の元締めか。面白いことを考えたものだ」
 ヴェニゲの降下を待ち切れず、毎日のように桟橋から下界を眺めているサーンが、彼女の描いた図面へと目を移してつぶやいた。街から街へ、ヴェニゲが飛んだ先で紙芝居をやり取りすれば、どんな大都市の元締めよりも簡単に、各地の出来事を伝えられるだろう。遠くの地で起こった事件を世界中に届けることも。
「そうよ。これでこの街が飛んでくる価値が一つ増えるの。だから、あなたたちも旅先で紙芝居に会ったら、必ずここのことを伝えてね」
「まあな」
 と、不機嫌そうに答えるイエンマルク。いまだにカヤクタナに忠誠を誓うトニに太守の位が譲られたのが、ヴェニゲを去る彼の唯一の心残りなのだ。
 サーンが苦笑して言った。
「この戦乱で、残った国家を維持したのはカヤタクナとヴラスウルだけ。我々のような漂泊の輩はともかく、民は王なくして何をよりどころとするんだ? どこにも帰属しない街が訪れては、かえって人々は警戒するだろう。クレイヴ殿はそこまで考えてトニに任せたのさ」
「そんなもんかね」
「ああ。王がいて貴人がいる……それが今の人の世に根づいた考え方だ。無論、この先どうなるかはわからんが、世の成り立ちが変わるには長い時間がかかるものだ。色々な出来事の積み重ねや、きっかけが必要だからね(※7)」
 ましてヴェニゲの場合は、パルパルとトリュガルの者が必要不可欠なのだから尚更だ……と彼は胸中でつぶやいた。
 サーンとイエンマルクの冒険は、別の伝承として存在するので、ここでは割愛する。なお、紙芝居はこの後もカナン独自の情報伝達手段として発達していくわけだが、ヴェニゲの紙芝居問屋がその発展に大きく貢献したことは言うまでもない。街に残されたルキアの石像が、それを現代にも伝えている。

 街の中心に大勢の人々が働いている一角があった。古いムングの祠が飛び出した跡地の一つだ。
 壁を塗る者、木を運ぶ者、建物を飾る者、細工物を彫る者……人間ばかりでなく、ハマンジブクリの群れの象も何頭かいて、棟上げを手伝い縄を引いていた。
 ククラナが提案した神殿は少しずつ完成へと向かっていた。サバムング(※8)の神殿……知る限り全ての神に感謝しようと、建物のいたるところにムングの姿形や名前が刻まれている。ほぼ完成した主殿の中には、特に思い入れのあるムングの像が運び込まれていた。
「やっぱり、イナ神とゾラ神を両翼に配した方がいいかしら……」
 ヴェニゲを初めから見守っていてくれたのだし、女神は嫉妬深い面もある(彼女たちなら大丈夫とは思うが)。主殿の中央で腕組みし、しばらく考えていたククラナは、やはりこの二柱の女神像を目立つ位置に据えることに決めた。
「ククラナさん、お願いがあるんだけど」 振り返ると、戸口にシャルハが立っていた。小さな木彫りの像を手にしている。
「どうしたの?」
「象たちの神様も祀ってもらえないかと思って……」
 彼は、象たちが魔を払ってくれたことに感謝し、これからは“古の獣”の神に仕えるつもりなのだと告げた。
 ククラナは優しく微笑んだ。
「もちろん構わないわ。さあどうぞ」
 少年が自分で彫った不格好なハヌの木像をそっと部屋の隅に降ろすと、彼女は、それをイナとゾラの間に置きなおした。
「こっちに置くべきだわ。あの気高い獣たちには、あなただけでなくヴェニゲのみんなが感謝しているのだから」
 現在のククラナ神殿は、幾度も改装を重ねた結果、ヴェニゲ最大の神殿となっている。今でも多くのムングに居心地のよい場所と認識されていることが最近の調査で判明した。

 街の底へ続く地下遺跡……薄暗くひんやりとした空気が、トニに初めて街の底に降りたときのことを思い出させた。
 クレイヴたちに会おうと下のパルパルのところにいく途中、オオキナクリに捕まって、少女の兄のミョウナクリと話し込んでいたのだ。兄妹とリュウインは、もうしばらくこの街に留まるらしい。
「……だから作物や鉱石を買っておいて、それを加工して売ればいいと……って、おい! 人の話を聞いてるのか?」
 ミョウナクリの口調に、太守の護衛をしているネルガハァンが彼を睨みつける。
 トニは慌てて言った。
「ごめんなさい、考え事をしていたものだから。でも、私もそう思います」
 彼女は地下遺跡の利用を考えていたのだ。今は底への通路でしかないが、そうとうな広さだし、涼しく乾燥しているから良い貯蔵庫になるだろう……と。
 ミョウナクリの言うような商売には大きな倉庫も必要になる。彼女がそう告げると、退魔師は珍しく彼女をほめた。
「まあ、うまくいく前にもう一波乱ないとは言い切れんが」と、手放しにではなかったが。
 トニは笑って答えた。
「これまでの試練を思えば、どんな苦難も災難も乗り越えられます」
「保証はないね」とミョウナクリ。
 ネルガハァンは彼のひねくれた言葉に顔をしかめながらも否定はしなかった。
「たしかにそうだ」
 護民兵随一の剛の者、“熊の化身”自らがトニの護衛をかってでたのも、ヴェニゲへの奇襲を警戒してのことだった。
「どうも、俺は嫌な予感がしてならん」
「まったく、『悪いことは良いことの最中に忍び寄る』というからね」
 と、忍び足で近づいてきたクリファが皆に声をかける。
 ネルガハァンは危うく彼女に切りかかるところだった。
「おどかすな」
「ひどいわね。お屋敷に行ったら王都からの手紙を一刻も早く太守に渡すように頼まれたのさ。ついでに災い避けの呪物を渡そうと思ってね。モダの森に帰るから、餞別がわりにね」
 クリファがレンカ(※9)と、小さな木彫りの人形をトニに手渡す。人形はどことなくトニに似ていた。
 礼を言った彼女は、ハラガドウを手紙にかざし、息を呑んだ。
「そ、そんな……!」
(トリュガルの娘よ)
 パルパルの声が暗がりに響いたのは、そのときだった。
(円台に来い。他のワダたちがお前を呼んでいる)
 現代に至るまで、倉庫として重要な役割を果たしてきた地下の遺跡跡は、近年の大規模工事で地下街に変貌している。

 エレオロクから届いた恐るべき報せ。ルマたちの機転で、その事実がパルパルによって詳しく確認される。同じ過ちを繰り返さぬため、ヴェニゲは進路を変え、最も有効な策が用いられることとなる。
「トニ様だわ」
 ルマの声がした。
 駆け込んできたトニに気づいて、円台に集まっていた面々が顔を上げる。
 彼女の後からネルガハァンが現れると、レギ・ワンが意味ありげな含み笑いをした。すると笑われた相手は困った様子でため息をつく。
「あ、やっぱり旅に出るんだ。僕も絶対ついていきますからね!」とカヤン。
 このところ彼は、レギ・ワンがこっそり街を去らないように目を光らせているのだ。ネルガハァンとのやり取りを見逃しはしなかった。
「カヤン、それどころじゃないでしょ」
「ああ、そうだった」
 ルマにたしなめられ、カヤンが首をすくめる。
「何事です?」
 トニは手にしたレンカを握りしめたまま聞いた。もしかして、この報せと関係があるのでは……。彼女は、ネルガハァンではないが何か嫌な予感がした。
 クレイヴが答える。
「パルパルたちが、地上に異変が起こっていると言うので知らせておこうと思ったまで……トニ殿、それは?」
 彼はレンカを指さした。トニの顔色が悪いのに気づき、険しい表情になる。
「王都からの報せです。ゴレガミラから、残った魔軍が攻め寄せて……」
「無茶な、まだ戦を?!」
 ようやく交易都市の地盤ができ、そろそろ旅立とうかと考えていた彼は思わず呻いた。
「魔賊を操る軍勢が……」
「それではクルグランが攻め寄せたときに逆戻りではないか」とワスィフ翁。
「いいえ、もっと深刻なのです」
 トニはレンカに記された内容を告げた。
 現在、ソヴァ将軍とジャラル将軍に率いられたカヤクタナ軍の主力はウラナングにいる。もしこのまま数千のゴレガミラ軍に攻め込まれれば、敵はかつてのクルグランの侵攻より早く王都に到達できよう。なんとか将軍たちが帰参する時を稼いで欲しい……と。
「そうか、その軍勢だ、さっきパルパルが察知したのは!」
「いや、あれが魔軍とは思えんがのう」
 カヤンの言葉にレギが異を唱えた。パルパルと問答している合間に彼らが告げたのは、地上を移動している大量の『恐怖』の感情だった。
「街を後戻りさせなくては」
 円台の溝を動く笛を見つめ、トニがつぶやく。ゴレガミラの進入路は街道沿いだろうから……。
「しかし、象も大半が降りてしまった今、我々だけでは防ぎ切れんぞ」
 ネルガハァンの言葉に、クレイブはうなずきながらもつぶやいた。
「いや、相手の様子が分かれば戦いようもあるでしょうが……」
 そのとき、じっと考え込んでいたルマが、不意にパルパルたちを見上げた。
「待って、ひょっとすると……。パルパルたち、私の質問に答えてくれる?」
 パルパルは、彼女が主張した「人は個々に違うから、他者と自分とを理解したいと思い、その気持ちが様々な感情を生み出すのだ」という意見に興味を抱き、ワダを分析し論理的解釈をくだす最初の対象として選んでいた(※10)ので、瞬時に好意的な回答をよこした。
(問うてみよ。ワダの娘)
「さっきの『恐怖』、もう少し詳しくわからないかしら。例えば、誰が何に恐怖しているのか……とか?」
(可能だ。あの地域に渦巻く感情は背後で行軍を強制する魔軍への恐怖、自らが戦わねば残った弱者を殺害するという脅迫からくる圧迫感、苦痛、怒り。彼らの後方に強い支配欲が存する。さらに抽出細分しての具体化が必要か?)
 ルマは熟語の意味をカヤンにたずねてからうなずいた。
「ええ、お願いするわ」
 とたん、パルパルのものとは思えない声がごうごうと響き始めた。
(……助けて助けて殺されるいやだ逃げたいでも人質の子供達が妻が恋人が母が父が痛い死にたくないクルグランが死んで戦は終わったのにやめろわかった歩くから喉が渇いた苦しい死ぬ死ぬ戦うしか進むしかいやだ助けて助けて……)
 感知した心の叫びを、そのまま伝えているのだ。数千人分の悲鳴はしばらく続き、唐突に止んだ。
(これ以上の細分化は不可能だ。まだ続けるか?)
「いいえ結構よ。ありがとう」
「き、聞いてみるもんだ」
 もたらされた情報に驚きながら、カヤンがつぶやいた。
 カヤクタナに迫る数千の軍勢の大半は、ゴレガミラの住民なのだ。家族を人質にとられ、クンカァンの後継者を名乗る将軍の操る魔賊に追い立てられて進軍する兵士たち……いや、ゴレガミラで数千もの兵は用意できない。女子供も老人も、歩ける者は全て狩り出されたのだ。
 緩慢な死へと向かう行軍……兵站を考えない無謀な進軍もそのせいだ。もっとも、追い立てる魔軍には、住民軍の落伍者という充分な兵糧が用意されているわけだが……。
「クルグランよりひどい輩じゃな。なんとか助けてやれんのか」
 レギ・ワンが憤慨して言った(※11)。
「惨いことを……今一度、ヴェニゲで潰せばと思うたが、とてもできぬ」
 ワスィフ翁が呻く。
「手はありますよ」
「本当、カヤン?」とルマ。
 カヤンはうなずいた。考え込んで額にしわを寄せ深呼吸した途端、通りすがりの神々が知恵を授けてくれたのだ。
 パルパルの声がした。
(やっと気づいたかワダの学者よ。陳腐な方程式なり。恐怖のみで統制されているのなら、その元を断てばよい)
「ふむ。たしかに、魔軍が乱れれば、追い立てられている住民部隊は散り散りに逃亡するか、反撃に転じるかも知れませんね」
 クレイヴがつぶやくと、トニはパッと笑顔を浮かべた。
「学者様、私にも貴方の策がわかりましたわ! 街を“ワダの道ゆき”に戻さねばなりませんね?」
「ええ。ハマンジブクリの家族だけでは心細いですからね」
 カヤンがうなずいた。
 それから数時間後、街道を進むゴレガミラ軍と真っ向からぶつかり合うべくヴェニゲは方向を変えた。“ワダの道ゆき”に戻り、自らが飛び立った跡地へと逆行を始めたのである。

 ヴェニゲを追う一行。恋情に憑かれ、思い切った行動に出たヒデノーワ。彼に従う人々が、ヴェニゲの降下と迫りくるゴレガミラ軍に気づく。
「なかなか降りませんね……」
 ノイドスが言うと、ヒデノーワは空を見上げたまま軽くうなずいた。
 雨の季節が終わろうとしている今、長い間垂れ込めていた灰色の雲は西の彼方へと去り、カヤクタナには青空が広がっていた。その青空の南にヴェニゲがある。
 長い間、彼らは空を漂う側にいたので、あの街に登るのがいかに困難かを知らなかった。街が降りてこなければ、襲撃など不可能なのである。
 ヴェニゲは新しい溝を彫ったらしく、エレオロクを中心に大きな弧を描いて進んでいた。聞くところによると最後に地上に降りたのは一月ほど前、クライの南にある北の密林の近くでだ。
 彼ら、エルナとルダルクを加えた四人に率いられたツザノハの村人たち(※12)は、カライ城を出発してからヴェニゲ跡を過ぎるまで街道を上り(※13)、そこからはヴェニゲを追って街道を離れて南へと進み、今いる場所に着いたのである。
「トニは、僕の気持ちをわかってくれるだろうか?」
「大丈夫ですよ、ツザノハ様は五年も想い焦がれていたのですから」
 彼に心酔しているルダルクは、あっさりと請け合った。何度も交わされたやりとりである。
 エルナは何も言わず、そっとヒデノーワを見つめていた。
 彼がトニをさらうと言い出したとき、村人の中には反対する者もいたが、領主様の意志が固いことを知ると、戦える者たちは彼についていくことを承知した。あのとき、反対すべきではなかったのか……しかし大好きなヒデノーワの願いをかなえてやりたいとも思う……彼女は今も迷っていた。
 と、目を細めてヴェニゲを見つめていたノイドスが、あっと声を上げた。
「どうした?」
「街が進路を変えました! ほら、こっちに戻ってくる……!」
 皆が一斉に彼にならい、まぶしそうに空を見上げた。
 すぐに目を細める必要はなくなった。街が見る見るうちに大きくなって、頭上に影を落としたのだ。
「街道だ。街道に戻ろうとしています」
「だとすれば、ヴェニゲ跡に降りるはずだ。“ワダの道ゆき”を逆にたどることになるからね」
 街を追うべく馬の向きを変えた彼らは、カライ城の方に大きな砂煙が上がっているのにも気づいた。
「あれは……?」
「まさか、クンカァン軍!?」
「では、ヴェニゲの転進はあれをくい止めるために?」
「我々には好機かも知れませんね」
 ヒデノーワは馬を走らせながら仲間にそう告げた。

 “ワダの道ゆき”で策の準備を整えるヴェニゲ。トニがユンに謝る。人々はゴレガミラ軍の残酷な進軍を目撃する。マンソイが、真にクンカァンに災いを成しているものが何であるかをヴェニゲに舞い戻ったカルネプに語る。
 街は飛び立った跡へ向かうぞ!
 跡の穴に降りかけてから飛び上がる!
 桟橋は危険なので立ち入り禁止だ!
 我らでゴレガミラ軍をくい止める!
 進路の変更を告げる護民兵の声が街中に響いていた。
 今さら慌てる住民たちではない。だが、兵士たちが街の東に集まるようにと告げたのには誰もが首を傾げた。エレオロクでの戦のときは、得物を持って戦える者以外は戸締まりして家にこもったのに……と。
「いったいどうしたんだ?」
 屋根を降りたヒュガンが聞くと、護民兵は彼とガイダカに目礼してから答えた。「トニ様が、街の民に象たちを手伝って欲しいと仰せでして」
「象たちを?」
「はい。我々も詳しくは聞いておりません。それと、魔軍が攻め寄せたときに備えて、ここはお二人にも戻って頂きたいとクレイヴ様が……」
「もちろんだ」
 二人は声をそろえて言った。
 ヴェニゲの護民兵とは、要するに隣近所の若者やおじさんたちなので、大半の住民が気軽に兵士たちを呼び止めてはヒュガンと同じことを聞いた。そして、太守やパルパル学派の者たちが、どうやってゴレガミラ軍をくい止めるのか好奇心に駆られた人々は、一人また一人と街の東端にある野原へと向かうのだった。

 街を“ワダの道ゆき”に戻すことで最初の神の笛を溝から取り出し、ハマンジブクリとサーンに事情を話し、街の人々を集める……カヤンの思いついた策に必要な準備はそれだけだった。
 もっとも、トニはそれとは別に最後の準備をしている最中だった。着陸はせずに、寸前で笛を円台に戻す予定だが、万一に備えて武器を用意しておこうというのだ。ヴェニゲの軌道から考えて、ここから石を放てば魔軍を操る将軍の部隊を攻撃できるかも知れないのだ。
「こんなことまで手伝われては、かえって申し訳ないです……」
 街の東に投石機を据え付けながら、ユンが言った。
 縄を引っ張るのを手伝っていたトニは、首を振る。
「謝るのは私の方です。それにしても戦がこうも長引くとは……」
「まったくだ。せっかく、貴方に贈ろうと料理道具を作っている最中だったのに。戦とは迷惑な話ですよ」
「まあ、本当ですか? なら私、なおのこと戦を恨みます」
 二人は顔を見合わせて笑った。
 ユンは一抹の寂しさを覚えながらも、自分が裏切りでもせぬ限り、イナを信奉するトニがこの友情を違えることはないと再確認でき、嬉しくもあった。
 彼がぼんやりそんなことを考えているうちに、トニは護衛のネルガハァンやヤトロと縁に向かっていた。下を見るなり、彼女が目を伏せる。
「どうしました?」
「あれを……」
 街は早くも高度を下げつつあり、集まった人々の目にも街道を進むゴレガミラ軍が見え始めていた。すり鉢のようなヴェニゲ跡の手前に迫っているのは、武器を手に生きた屍のように歩かされている数千人の軍勢だ。その後方には、魔軍が彼らを受ける漏斗のような陣形で薄く両翼に広がり、牙や爪や手にした得物で遅れた者や逃亡を試みた者を痛めつけ、列に戻していた。行軍の後は魔賊が食い散らかした人々の血で赤く染まっている。

「見ろよ、あの魔賊を操っている者こそが、“クンカァンに仇なすもの”なんじゃないかね……」
 そう言うと、人々の輪から外れて二人だけで縁に立ったマンソイは、一呼吸おいてから、やや皮肉な調子で『ゴレガミラの盗賊(※14)』の一節を吟じる。
 〜俺に言わせりゃ、盗賊は奴らの方さ〜
 〜街の奴らが何もかも、よってたかって奪っていった〜
「やめろっ」
 苦渋に満ちた表情でカルネプが呻いた。
 髪を短くし、入れ墨のあった頬は醜い傷跡に変わっていたが、その変装もマンソイに見破られ、それからずっとつきまとわれているのだ。
 このパルパル学派の人形遣いは、彼が旅に出ると信じ、彼を主役に芝居を作りたいと告げた。その証拠に彼の正体を皆にばらしていない。だから、仕方なく、今もつきまとわせているのだ。だが、カルネプはヴェニゲを離れるつもりはなかった。下の光景を見るにつれ、決心がぐらつき始めてはいたが……。
「俺はヴェニゲを見張り続ける。それが約束だ」
「ヴェニゲが何もしなくたって、このままじゃクンカァンは中から腐って潰れちまうが、それでもいいのかね」
 今やクンカァンは三つの勢力に分断されていた。
 一つは眼下のゴレガミラの軍勢。
 次いでセセラギ将軍とカヤクタナの交渉により王位についたオロサスの王子二人。
 そしてボログロニでクンカァン王を自称する勢力。
 泥沼の戦いになるのは目に見えていた。
 しかも、ゴレガミラの魔軍は自国の民を盾と餌にして攻め上っている。たとえ勝利したとて、何が残るというのか……たしかにカルネプは迷っていた。
 護民兵の気風は、現代の“ヴェニゲ空間騎兵隊”にも、そのまま受け継がれている。また、武具師ユンの残した魔法の道具は、幾つかが今でも使われている。彼の弟子たちは各地に散らばり、彼の意志を道具に込めて伝えたという。
 後にマンソイが残した無数の戯曲のあちこちに、“頬に傷のある男”が登場する。この人物の題材がカルネプと思われるが、詳しい伝承は残っていない。

 ゴレガミラ軍を足止めする奇策と、その経緯。ヴェニゲの降下を好機と見てヒデノーワとルダルクの部隊が奇襲をかけ、文字通り“奇”襲となる。
 トニから笛を手渡されたサーンが、魔軍を見つめる。
「街の人たちは旋律を覚えたろうに」
「あんたが一番うまいだろ。置きみやげだと思って……」とイエンマルク。
 降下したヴェニゲが間近に迫っても、彼らは住民軍を追い立てる作業をやめようとはしなかった。
「よもや里人たちの上に街を落としはすまいと思っているのじゃろう」
 ワスィフが言った。
 あの日、街が飛び立った跡に空いたすり鉢のような穴がぐんぐんと近づく。ぎりぎりまで待って、トニは集まったヴェニゲの民に告げた。
「悔しいけれど彼らの読みは正しいのです……けれど、私たちは魔軍を混乱させられます。古の獣を励まし、共に歌いましょう!」
 サーンが三度めの神の旋律を奏で、街に残った数少ない象たちも彼らの歌を歌い始める。集まった人々も、象の歌声や笛の音に合わせて、てんでに思いを声にした(※15)。と同時に、ユンの投石機からは、石弾が住民軍を飛び越えて魔軍のもとへと降り注いだ。
 すり鉢に着陸した街から流れ出た音楽に、魔賊たちは恐慌をきたした。彼らなりに整然と保たれていた陣形が崩れ始めたのである。
 苦しみ、死にものぐるいで暴れ出すもの、地に潜るもの、踵を返して逃げようとして仲間の魔賊や将軍率いる正規軍に討たれるもの……むろん、全軍を怯えさせるのは無理だが、大半を占める小物の魔賊に混乱が生じれば充分だった。ゴレガミラの住民が勇気を奮い起こすきっかけが生まれさえすれば。
 魔賊による恐怖のたがが緩むなり、爆発寸前だった住民軍の暴走が始まった。先頭の集団は散り散りに四方へ逃げ出し、反逆して魔賊に攻撃する者たちも現れた。囲みを抜けた人々の多くがクンカァンへと逃げ戻るのは、街に残った人質を取り返すためか……。
 ともかく、部隊が統制不可能なほどの大混乱に陥ったことは確かだった。散り散りになった脱走兵をかき集めて態勢を立て直すには、かなりの時間を要するだろうし、それでも兵力を元に戻すことはできないだろう。ソヴァ将軍やジャラル将軍の部隊がカヤクタナに戻る時間は充分に稼げたはずだ。
 街の縁から聞こえていた歌声は、やがて歓声へと変わった。
「笛を、おじさまのところへ!」
 トニは礼の言葉もそこそこにサーンから笛を受け取り、馬上のヒュガンへと手渡す。笛を円台に戻し、ヴェニゲを“ワダの道ゆき”から元の周回軌道へと戻すためだった。

「馬鹿な……誰も、誰もいない?」
 十数騎の騎兵を率いてヴェニゲに切り込んだヒデノーワたちは、奇妙な襲撃に戸惑っていた。気づかれることなく上陸したのは良いが……。
「東だ! ツザノハ様、トニ殿は東のはずれにいます!」
 バサン神に授けられた目で辺りを探っていたルダルクが叫んだとき、街がぐらりと揺れた。
 まさか、“ワダの道ゆき”でこれほど早く離陸するはずが……? 不安に思いながらも、ヒデノーワは部下を従えて馬を東へと走らせた。始めてしまった以上、後悔などしている暇はない。あとはトニをさらって逃げ出すだけだった。

 トニをさらうヒデノーワ。ネルガハァンの獅子奮迅の活躍。イナ神が人形の口を借りて話したこと。桟橋から身を投げた者がどうなったか。
 魔軍を追い払った快挙に酔いしれていた皆は、最初のうち何が起こったのかわからなかった。
 トニに至っては、走ってくるヒデノーワに気づいて、「ああ、彼が戻ったのか」と笑みを浮かべたほどだ。
 だが、ルドルクの一隊が護民兵に斬りつけたとたん、悲鳴と怒号が上がった。
「応戦しろ!」
 ガイダカが叫んでから護民兵が反応するまでには数秒の遅れが生じたが、ネルガハァン一人だけは、素早くヒデノーワ目がけて得物を薙ぎ払っていた。
 と、ルドルクたちがヒデノーワの突進を助けるべく二人の間に割って入る。
「貴様ら!」
「ツザノハ様の邪魔はさせん!」
「ぬうう! 邪魔はそっちだ!」
 呪具“グドゥラのツァロ”を巻いたネルガハァンは、文字通り“熊の化身”といってよい。彼がひと暴れすると、襲撃者たちはあっという間に叩き伏せられてしまった。ルドルク一人が、必死に彼の斧槍を受けとめている。
 が、「しまった」と叫んだのはネルガハァンの方だった。ルドルクたちは囮に過ぎなかったのだ。彼らの狙いがトニだと気づいたときには、ヒデノーワは彼女をさらって、縁から伸びた桟橋に逃げ込んでいた。
 護民兵たちが詰め寄りはしたものの、どうすることもできない。
「だ、誰か姫様を……!」
 ワスィフ翁が叫んだ。ヴェニゲの民の目前で、太守がさらわれようとしているのだ。
「安心しな、トニは大丈夫よ」
 ヒデノーワが駆け抜けた地面から人形を拾い上げたクリファが、妙に落ち着いた口調で言った。
「む、やるもんじゃのう、“白き影”」
「ふん、あのくらい俺にだってできる」
 ヒデノーワに抱えられたトニを見て、レギ・ワンとミョウナクリが言った。
 彼らだけが、クリファの言葉の意味を悟っていたのだ。

 ヒデノーワは桟橋から飛び降りようとした。ヴェニゲはぐんぐんと上昇を続けていたが、まだこの高さなら死にはしないだろう。
 抱きかかえられたトニは、もがいて悲鳴を上げる。
「離して、お願いです、離してください」
「トニさん、僕の気持ちをわかってください。僕にはもう、こうするしか……」
 彼がそう言うと、トニはもがくのをやめた。想いが通じたとばかりに笑みを浮かべるヒデノーワ。
 彼女が悲しそうにつぶやいたのは、そのときだった。
「つまり……私の気持ちは、どうでもよいのですね」
「あ……だ、だって、僕には貴女のいない世界は考えられないんだ!」
<それは、お前だけの都合でしょう。自分の気持ちには素直で、他者にはその理解を求めるのに、相手の都合や気持ちを理解しようとしない……そんな関係は友情でも愛情でもありませんよ>
「な、な……」
 ヒデノーワは狼狽した。
 トニの指摘した事柄にも打ちのめされはしたが、なにより、彼女の口調や声が急に変わったのに驚いたのだ。
 もしやと思った瞬間、抱えたトニの体がしぼんだかと思うと、木彫りの人形が手から落ち、乾いた音をたてた。
 それと同時にクリファの手にしていた人形がトニに変わる。
「こうも早く災難が襲うとはね」
 彼女を助け起こし、クリファが言った。
「ヒデノーワ……私はヴェニゲと……」
 トニの言葉を待たずに、ヒデノーワは桟橋から飛び降りていた。
「ツザノハ様!」
 叫ぶが早いか、ルドルクが後を追う。
 このとき既に、ヴェニゲは空の高みへと飛び上がっていた……。
 ヴェニゲから飛び降りたヒデノーワがどうなったか、この物語には書かれていない。ただ、ツザノハ村の伝承によれば、彼とルドルクはエルナの呪いによって救われたとされている。

 騒ぎが収まってから、ヴェニゲを去る何人かの旅人たち。最後の物語の最後は未完のままに終息を迎える。
 それから数ヶ月が過ぎて、ヴェニゲが王都エレオロクに降りたとき、幾人かの者がひっそりと飛行都市を後にした。
 クレイヴが旅だったのをトニが知ったのは、街が飛び立ってからのことだったし、クリファとガイダカも森へと去った。
 サーンとイエンマルクは多くの人に見送られて街を出たが、もっとも目立ったのはギャオを抱いたレギ・ワンの旅立ちだった。彼女がネルガハァンを従え、カヤンに追いかけられて街を出ていくのを、ヴェニゲの民は大笑いして見送ったのである。

「どちらへ参られるのかな?」
「ん〜まずは東かのう。師匠と母上に会いに行くのでな……って、太守殿ではないか」
 ネルガハァンに引かせた馬に乗ったレギ・ワンは、道ばたで声をかけてきた人物に驚いて言った。
「野草使いがいると便利ですよ」
「物好きが多くて困ったものじゃな」
「それって、僕のことですね」
 愛犬クリの頭を撫でながら、カヤンが楽しそうに言った。
 ネルガハァンが大きく咳払いする。
「俺は違うぞ。俺はお主の母上に……」
「まあまあ、とにかく行くとしよう。バルバルも行ったことのない土地へ。なあギャオ」
 母親に笑いかけられると、「だあだあ」と赤ん坊が笑った。
 パルパルは何も言わなかった。

 屋敷に一人残ったトニは、ウナレ王妃に送る手紙を書いていた。これからの自分とヴェニゲのことを。
 街を去った人たちも、また帰ってくる。この街は、カナン中を飛び回るのだから。
 ふと筆を置き、彼女は耳を澄ました。聞き覚えのあるムングの声が聞こえたような気がしたのだ。
<神の戦は終わったというのに、人の戦は終わりそうにない。私たちもしばらくどこかで休もうかしらね>
<いいえ、ゾラ。それでも私は人間たちを見ていることにします。彼らには借りがありますもの。最後の神のね……>

 マハ、スラー。お話はこれでおしまい。

《伊豆版『カナンの歩き方』》
※1:新婚夫婦を意味するカナン語。ララは「新鮮な」の意だが、主に果物や野菜などに対して使われ、「甘い」という意味も含まれている。
※2:雨季の最中に咲く薄紅色の花。菱形の五枚の花弁をもつ。
※3:雨季の終わりに咲く小さな白い花。独特の香気があり、魔除けにも使われる。この季節における「縁起のいい花」の一。
※4:白い一枚布の衣装。頭から足までを一つながりの布で形作っていくので、着るのに大変な時間がかかる。
※5:普通、結婚の儀式は何れかの神に夫婦になったと報告するものが多いが、中には夫婦の契りを誓わせる神もいる。つがいの鷲鷹が一生添い遂げることからもわかるように、バサンは後者の神。
※6:鷹の一種。北方のカヤクタナでは、バサン神の使いとして知られる。
※7:諸処の条件が整っていたこの時代は、封建制度こそが最も効率よく社会を形成できるシステムであった。なお、当時のカナンには共和制の国家すら存在していなかった。
※8:サバは「五万」の意。日本語の「ごまんとある」に通じるものがあり、カナンの全ての神を指すときの言葉。八百万の神。
※9:ジグザグに折り畳んだ紙を二枚の薄い板で挟み、革紐などで留めて収納する道具。書簡。
※10:それ故に、ルマはパルパル学派の中では哲学の母として知られるが、彼女は、れっきとした神人であった。
※11:普段の言動やいで立ちとは関係なく、弱者をいたわる心根の持ち主なのである。
※12:戦闘可能な人数は百人あまりだったものと推測できる。
※13:村が闇に呑まれたため、彼らはカライ城に避難していた。
※14:作者不詳。ゴレガミラ生まれの盗賊が、悪辣な手段で将軍にまで出世するものの、うち続く内乱を憎んだ街の人に裏切られ、非業の死を遂げるといった粗筋。クンカァン自体よりもむしろハンムーやウラナングなどで異国情緒を味合わせるものとしてよく演じられた。
※15:一番熱心に歌っていたのはシャルハだった。このとき彼はハマンジブクリの孫象の背に跨っていた。

《伊豆1より》
 どうも、伊豆です。
 最終回だというのに、世界全体の流れが強くて、終わりらしい終わりにできない物語でした。十年後を、と要求しておきながら、うまく活かせなかった点は済まなく思っています。
 実際のところ、物語としての構成を考えるならば最後の神が生まれる部分がラストかラスト前くらいに来るべきなのですが、『カナン/最後の神』は、「お話を見せながら進めるゲーム」なので、ゲーム性が優先されたわけです。
 人生は、あらかじめ計算された物語よりは先のわからないゲームに似ていると信じる私は、PCの人生を味わうにはこの方が面白かったはずだと思っています。
 リアクションや注釈中の、後世の視点から見た未来のヴェニゲやカナン世界に関する考察は「現代世界の過去がカナン世界であったなら」という私独自の視点からの言動です。ですから、注釈のコメントは、カナン世界に暮らす私がしたということです。今回のゲームでは、関連記事(例えば『小さな神話』とか)なども含め、一貫してこの視点で書くように試みてみました。感覚の妙を味わって頂けていたなら幸いです。
○レギさん、その後の様子を詳しく書けんで申し訳ない。同人誌の続編に期待します。おいおい。
○カヤンさん、労いの言葉ありがとうございます。ウェ・ニ・ケ……言われて始めて気づきました。濁点を取ると古語っぽいかなと思っただけなんです。もとのヴェニゲも私がつけた地名ではないし、ここが飛ぶことも後から決まったのです。「とにかく最初に攻撃される都市が飛ぶんじゃい!」と告げたら、坂マスが「ならクンカァン軍がこうくるから、ヴェニゲだね」と地図を見て言ったという……。
○ルマさん、なるほど、人間自体が神様を生み出す卵なわけですね。蒸気の神とか電気の神とか出て来ちゃう、私の「カナンな現代世界」の構想と似てます。言いたいセリフの欄も非常に共感できます。
○クレイヴさん、NPC化ですか。立場的に周囲の状況に反応しなければならないキャラになっていたので……。
○ワスィフさん、盲目の身で読み書きを教えるのは何か凄い……。きっと今後も若い者に負けずに頑張れることでしょう。
○ユンさん、最後まで漠然としていたからお解りでしょうが「○○家の某」とまで設定してはいません。ですが、「許嫁がいる」ことは逆にしっかりと決まっていました。いないとあまりに不自然だからです。「貴人(しかも地方領主)の娘であり、トリュガル家には他家に比しても血統を維持する強い理由があるから」がその主な理由です。ところで、取得おめでとうございます。調理師免許って何か憧れるなあ。
○ヒデノーワさん、後味の悪い最後は私の最も嫌うところなのですが、色々と悩んだ末、あの結果になりました。私の言いたいことはイナ神に言わせています。
○ヒュガンさん、でも貴方の変わらないアクションがヴェニゲを守ったのです。
○ルキアさん、さすがなアイデアです。紙芝居文化はもう少し深く掘り下げてみたいネタですので。
○シャルハさん、遅刻に関しては弁解の余地がありません。本当にごめん。
○ミョウナクリさん、何していいかわからなかったという割には毎回もっともな意見を進言していたように思うのですが。「真摯をもって敵を作らぬよう努める」がトリュガルの家訓でしたから、トニは嫌っている貴方に接触することが多かったのです。
○クリファさん、最初と最後をさりげなくしめるというのは凄いです(わからない人は第一回を読むように。ヴェニゲを飛ばしたのは彼女です)。

 ではでは、ACG3でお会いできることを祈りつつ。

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