「うそだ……」
優輝は相手のバル=バロスを見て、絶句した。
一瞬強い光に包まれ、それが消えた時、相手の機体の異変を感じた。
確信はない。だが、それは手が震える程の「恐怖」。情けないが、涙が出てきた。気勢を張って、単独出撃したザマがこれか。今まで、殆どの任務が単独行動であったし、全てをパーフェクトにこなしてきたのだ。自分の腕に自信があったから、それだけの事を実力と、足りない部分は根性で補ってきた。
だが、その自信が今揺らぎ始めている。格下相手に非道く苦戦して、プライドもズタズタだ。
それでも、まだ相手がいる以上、戦わなければならない。ずずっと鼻をすすり、ツインスティックを握り直す。大丈夫。僕とバルがいれば、全て解決する。僕は強い。誰にも負けない。
根拠がないにも等しい自信で自分にハッパをかけ、今一度相手と対峙する。
「バル、行くよ!!」
シールドの残量を確認し、前ダッシュする。相手の攻撃を全部避け、相手に倍攻撃を当てればよいだけの事だ。頭が痛いのは、集中していれば、その内気にならなくなるだろう。
橋立もVフィールドを回復させ、優位に立ったものの、先程二葉が残した「早く倒さないとやっかいな事になる」という言葉が気になっている。確かに、相手は若くしてBlau Stellarに入隊、最速で少佐にまで上り詰めた。この実力は誰もが認めるものである。
だが、自分も少しだけ運が悪かっただけで、実力が劣っているとは思っていない。
「行くぞ!!」
向かってくる優輝のバル=バロスを迎え撃つ。狭まった距離が急激に離れ、リングレーザーが飛び交う。それを盾にマインが飛び、ハウスレーザーが互いを捕らえようとする。
気持ちを立て直し、優輝の動きは随分と良くなった。しかし、本調子と比べると、やはり動きが劣っているのは素人目から見ても判る。「BBBシステムの申し子」と言われたVポジティブ値の高さが仇となった。ノイズの発信源から離れているとは言え、彼もかなりのダメージを受けている。尋常でない程の汗が、より一層の不快感を与えた。
まさか、バルシリーズの初陣が、こんな苦戦でみっともないものになろうとは。全く持って思ってもみなかった。本来サイファーの専属パイロットである、瀧川隊の高森尚貴がバル=バドスをロールアウトさせ、相手方のトップクラスのパイロットと対等に渡り合い(相手はかなり加減をしていたのは事実だが)、その戦い振りの評価は高かった。ならば、バル=バス=バウを愛機としていた自分が、無様な戦いをする事は出来ないのだ。幼い頃からVRに慣れ親しみ、「神童」「天才」と呼ばれてきた優輝にとって、今彼を支えているのは本当に「プライド」以外の何物でもない。
「悪いけど、あのお姉さんにばっかりいいカッコされたくないんだよね!!」
「ふぇっくしっ!!」
「どうしたの急に?」
「誰だ! こんな時に人の悪口言う馬鹿は!」
仕掛けた脚部ERLから、大量のランドマインが飛び出した。餌に群がるアリの様に、マインは橋立のバル=バロスめがけて突進する。
橋立はそれに当たるまいと、障害物に隠れる様に移動し、そこから高々とジャンプした。
「そんな真似したって…何!?」
ジャンプしたバル=バロスを追うように、ランドマインも大きくバウンドし、スクリュー付近にヒットした。水中補正も手伝って、想像以上に大きく爆発する。
「やったぁ!」
思わず笑顔が零れる優輝。右脚ERLから発射されるランドマインは、大量に射出する上に、誘導性に優れている。ジャンプした敵機を追随し、高くバウンドするのも、バル=シリーズらしい、トリッキーな戦い方を主体とする優輝にマッチした。
「シミュレーションで散々練習したもんね」
決して充分な時間は取れなかったが、バル=バドスがロールアウトした特別任務以降、日夜シミュレーションを繰り返し、特性、武装など、バル=シリーズに関するほぼ全ての事を頭に叩き込んだ。元々、ランダムバトルで世界一の座を手にした少年だ。全てのVRの特性を身につけている優輝にとって、バル=シリーズの武装を新たに覚える事は、本当に造作もない事だった。
窮地に追いつめられて、逆に吹っ切れた。そして、陸戦隊A班隊長の藤崎賢一の言葉を思い出す。
『負けないと思えば絶対負けない。最低でも相打ちだ』
「僕は負けるのも、バルに傷を付けるのも、どっちもゴメンだよ!!」
気分は正直まだ悪い。が、気をしっかり持てば、我慢出来なくはない。自分はまだ大丈夫。戦える。
前スライディングスプリングレーザーを盾に攻撃を展開する。自分が劣勢なのは変わらない。普段は派手な大技を滅多に使わない優輝だが、今はそんな事も言っていられない。何とか隙を見て、素早く連携に持ち込みたい。今はこれまで以上に集中し、相手にリングレーザーがヒットした時のノックバックを見極めたり、打開策を見つけなくては。
橋立も、比較的大技よりも小技を確実に当てていくタイプだ。そのスタイルから、同じような戦い方をする優輝に対し、一方的なライバル心を抱いてきた。この対戦でもし、橋立が勝利する事があれば、彼の評価は嫌が王にも上がるだろう。そして、バル=シリーズもともに評価されるに違いない。
「俺の為にも、バルの為にも、この戦い絶対に負けられない!!」
大マインが水中を浮遊し、優輝のバル=バロスを追う。爆発に次ぐ爆発で、あっという間に爆炎が互いの視界を塞いだ。これは好都合とばかりに、橋立も優輝も、ERLを設置しようとする。
「!!!」
優輝の脳に、痛みのようなショックが走った。目眩がして、目の前がホワイトアウトする。
「うぇっ……ちょっと何これ……」
既にグロッキーな状態なのに、更にまたか?と優輝は思った。せっかく完全ではないながらも、調子を取り戻したというのに。
だが、その目眩は長くは続かなかった。目眩が消えたと同時に、これまでの不快感が嘘のようになくなった。むしろ、開戦前よりも冴え渡った気分だ。
「友紀さん、何かした?」
『うん、ちょっとね。いいものが見つかったから』
「えぇっ!? それならなんで初めから使ってくれなかったの!?」
それならこんな目に遭わずに済んだのに、と思わずぼやく優輝。
『まさかこんなことになるなんて思わないわよ。
それとお礼なら私じゃなくて……』
「?」
『上に言ってちょうだい』
上に礼を言う、という事がいまいちよく判らなかったが、とにかくこれまで自分を苦しめてきた不快感は全く感じない。深く息を吸い込み、思い切り吐き出す。
「うん、これなら行ける!」
相手との距離を確認すると、障害物を挟んで左手ERLを設置し、属性を変える。右手はリングレーザーで攻撃を相殺する為、ぎりぎりまで設置せず、通常に攻撃する事にした。
その動きは、先程とは雲泥の差。まるで別人のよう。
「くそっ、本来の力を出してきたか……」
相手が精神ノイズに対して、何らかの策を打ってきたのは、橋立もさすがに判った。自機の幻影を映し出しているような優輝の動きに、やや翻弄されつつある。水と光の揺らめきに、機体が溶けて見えるのだ。
だが、ゲージ残量ではまだ橋立優位である。空中に左手ERLを設置し、属性を変更すると、飛んでくるリングレーザーを器用に避け、安全圏まで下がる。
「このまま一気に!!」
ハウスレーザーから、ジャンプしてのラピッドレーザーを繰り出す。ダメージはリフレクト系の攻撃では弱めの部類だが、ヒット率に長ける。多段ヒットすれば、かなりのダメージが望めるが……
「そうはいかないんだよね!!」
優輝は空中の腕、地上の足、それぞれのERLの位置を見極め、その間を縫うように一気に突き抜ける。その動きは本当に「水を得た魚」のようで、先程のおぼつかない動きは微塵も感じない。
「くそっ…早い!」
橋立が狼狽する。立て直しを図る間に、優輝は右腕ERLを設置、すぐに属性を変えた。
「んじゃ、そろそろ反撃開始?」
橋立が優輝を補足する前に、優輝のバル=バロスがジャンプ、そのまま横ダッシュに移行する。
「くらえっ!!」
マイン属性の右腕ERLから、フローティングマインが五発射出された。マインは射出後、一瞬動きを止め、橋立のバル=バロスの視界を避けるように高速で移動する。
「マイン程度なら相殺してやる!!」
戻ってきたERLを構えるも、既にマインの姿はない。
「どこだ!?」
前方の視界を確かめる。が……
「ぐぁぁっっ!!」
背後から衝撃が襲った。マインはフィールドを漂い、橋立の視界から消えた後、死角に回ってヒットした。多段ヒットの衝撃に耐えられず、機体が転倒する。
「……一体どうしたというんだ……」
ふと、先程の通信を受けた二葉の言葉を思い出す。
『早くケリを付けないと、お前が死ぬぞ』
もう遅いというのか? 今までが逆に、自分が舐められていた、とでも言うのか? まだ自分に分があるとは言え、それも無駄な事だというのか? 自分が覚悟する番なのか?
「負けるもんか…… 負けるもんか……!!」
ヴィィィン……とレーザーブレードを繰り出す。バル=シリーズの近接能力は、バル=バス=バウに比べ格段に向上した。OSのバグにより発生していたフレイムキャノンこそなくなったが、これまでの武装であるビームクロウに加え、リーチの長いレーザーブレードで幅広い攻撃が出来るようになった。
左右のERLから、白く光るブレードが伸びる。
優輝もそれを判っているのか、あえて橋立のバル=バロスに接近する。ブレードは出していない。まるで水の精霊のように、水中を移動する。
双方のロックオンマーカーが近接距離に入った。未だ勇気はブレードを出す気配もない。
バル=シリーズになって、ダブルロックオンが長くなった。レーザーブレードの有効範囲の広さから、近接の取り入れ方がバル=シリーズの今後の運用を大きく左右するだろう。
橋立は優輝のバル=バロスを正面に見据えた。そのままレーザーブレードを左右に振りかぶる。
「二葉、どうするのぉ? こうなったらもうおしまいじゃない?」
O.D.A.本部のとある一角。八部衆の二葉、四門、六道、八重がモニターを覗いている。
「相手は世界トップのパイロット。精神ノイズのハンデだって、そう長くは続かなかったじゃないの」
テーブルに置かれたお菓子を頬張りながら、二葉にもたれかかるのは、橋立や優輝と同じバル=シリーズのパイロットである八重。普段は口数も少なく、誰かの陰に隠れている程内気な性格だが、気の置けない仲間といる時だけ、年相応の少女の様子を見せる。
「そう言うな、八重。これでも良くやっている方だ」
「そうね。でも、本当に怖いのはこれからですわ。
ダメージを乗り越えて強くなる。窮地にいる程真価を発揮する。彼らの一番の特徴よ」
手元の端末でデータを分析する四門。対照的に、六道は隣のソファでいびきを掻いている。
「私もこれだけ抵抗出来れば、充分だと思いますの。あとは……」
端末を叩く手を休め、少し冷めた紅茶に口を付ける。白磁のティーカップとは対照的な、赤い唇。
「相手がどれだけ『魅せて』来るかですわ」
その言葉に、二葉は黙ってモニターを見つめた。
決して近接が苦手な訳ではない。ランダムバトルではバトラーを引き当てた事もあるし、テムジンでメガスピンソードを当てて会場を沸かせた事もあった。ただ、自分としてはリスクの高い行動をしたくないだけで、誰かのように苦手な訳ではない。
小技でも、きっちり当てていけば、大技に頼らなくてもその内勝てる。ちりも積もれば何とやら。それが優輝の信条だ。
だが、今はそんな事を言ってもいられない。このカードを見ている視聴者が一番期待しているのは、窮地から「一発逆転」だ。
相手の裏をかき、かつ見た目にも派手な技と言えば……
橋立のバル=バロスが急接近してくる。白と黒を基調とした機体が、揺らめく蒼い水に溶け、蜃気楼のようにも見える。白いレーザーブレードの光が水に分散した。
「死ねぇぇぇっっっ!!」
バル=バロスがレーザーブレードを広げ、斬りかかってくる。白いレーザーブレードが迫った。
だが、優輝に焦りの色は全くない。自分の目の前で起きている全ての事が、まるでスローモーションの様に目に映った。気持ちが悪いくらい冷静に動きを見切り、それをクイックステップで回避する。
完全に背後を取った状態で、右手のERLを構えた。
「いただき!」
ERLが急速に回転し、ウィングブレードから火花が飛び散る。
「行っけ〜!!」
爆発音と共に、ERLが至近距離で発射。派手に爆炎を上げ、橋立のバル=バロスにヒットする。
「がぁぁぁっっっ!!」
何が起きたのか、一瞬理解出来なかった。しかし、残りのフィールドゲージが既に半分を切っている。僅かな時間で、相手はほぼ互角になるだけのダメージを入れてきたというのか。橋立に動揺が走る。
『しっかりしろ。たかがERLの近接攻撃だ』
インカムから聞こえるのは二葉の声。
『敵ながら流石だな。ランダムバトル世界大会優勝者は、実力だけならOMG帰還者に匹敵するそうじゃないか。
それに渡り合ってるんだ。お前の力、こんなもんじゃないだろう?』
暗示にも似た二葉です。その声が、橋立の「何か」を刺激する。
『勝て。我らの為に。陛下の為に。
お前の勝利が、明日の世界を変えるのだ』
それが自分の存在証明。勝利の為に。自分はその為にここにいる。
『敗者は不要だ。負けるくらいなら、いっそここで……』
二葉の声は、脅迫じみた、重圧を感じる。まるで自分の『心』を握りつぶされてしまう様な。
いやだ!
「ここ」は俺の居場所だ!
やっと見つけたんだ!
俺は……
俺は……!!
橋立の心を、どす黒い『何か』が包もうとしている。
孤独への不安、恐怖。冷たい汗が背中を伝う。
『ここで……』
橋立にとって「VRに載る事」だけが全てだった。それまで、何の楽しみもなく、心の高揚すら感じた事のない彼にとって、VRとの出会いは正に衝撃だった。
VRに乗る事は、即ち生きる事。己の存在そのもの。戦いの場所こそ、彼にとっての居場所だ。
兄の様に慕っていたライム=マイスナーを初めとする、腕利きのパイロットが、既に「敗北」を期している。
その「存在」は、今はない。
『ここで……』
勝利がなければ、存在は認められない。
勝利こそが、絶対条件。生きていく為には。
『死ね』
「うぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
全てのERLが展開し、バルカンやリングレーザーの雨あられが優輝に襲いかかる。
「もう、全くやっかいな人だな!!」
だが、これを冷静に回避し、自らもバルカンで相手を牽制する。暴走しているとも言える橋立の動きは、バル=シリーズらしからぬ、むしろスペシネフを彷彿とさせる。
「こういう暴走している人は……」
相手を捕らえつつ、バックダッシュから再度両腕のERLを展開した。強烈な閃光弾が橋立の目を眩ませる。
「ぐあぁぁっっ!!」
至近距離で閃光弾が大きく弾け、橋立の目を焼いた。痛みすら感じる眩しさに、思わず両手で目を覆う。とっさの事で、防護シールドを張る暇すらなかった。
「んじゃ、久々の大技行くよ!!」
既に両脚のERLは切り離してある。優輝の閃光弾は通常のバル=シリーズに比べ、相手を攪乱する能力に長ける。この隙をついて、更に両腕のERLを切り離した。
最強の一撃に全てを賭ける為。
「くそ…… 目眩ましなんか使いやがって!!」
橋立の視覚が回復したのと、優輝のセンターウェポンゲージが100%になったのは、ほぼ同時。
「逃げ切れるならやってごらん!!」
相手に姿を見せつける様に、高々とジャンプした優輝のバル=バロスが、まるで踊る様なモーションを見せた。それに呼応する様にERLのウィングブレードからビームシールドが展開する。
ギィィィンッッ!!
起点となったERLから、レーザービームが発射される。橋立のバル=バロスを挟む様に、海底に設置されたERLに反射し、そのレーザーが更に海中に飛び立つ。
水中でのレーザー攻撃は、ダメージとしては効果的ではない。それは優輝も十分承知している。
だが、ここでリフレクトレーザーを使う事により、相手に心理的ダメージを与える事が一番重要なのだ。バル=シリーズには、バトラーの近接や、ライデンのレーザーの様に一発逆転を狙える攻撃に乏しい。リフレクトレーザーやラピッドレーザーは、当たればダメージを望めるものの、回避されやすく、今の様に水中という特殊な環境下では、有効打を与えるのも難しい。
だからこそ、相手の心理を揺さぶる為、あえてこの手に出た。相手の心理を読み、テクニカルな技術が要求されるのが、バル=バス=バウであり、バル=シリーズなのだ。
しかもラピッドレーザーに比べ、リフレクトレーザーは発射時のモーションが大きく、完全に無防備状態になる為、反撃不能に等しい。
故にパイロットには「度胸」が試される。
「こんな所でリフレかよ!!」
自分がフィールドゲージを全回復させた所で、何のアドバンテージにもならなかった。
相手は本当に強い。まだ十七歳そこそこの少年が、OMGを経験した手練れのパイロットにも等しいのだ。
苦し紛れに前スライディングからビームクロウを発射させるも、何の対策にもならない。何事もなかった様に回避され、逆に自分がつまらない所でダメージを受けた。
もはや、為す術はない。自分がやれると思った事は、全部やり尽くしてしまったから。
「ちくしょう!! ちくしょぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!」
慟哭に反応したのか、橋立のバル=バロスから再度爆発にも似たエネルギーが放出された。
先程と違うのは、今の彼の様は「暴走」しているにも近い。
「うぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」
無意識に全ERLが展開する。その銃口は優輝のバル=バロスを捕らえ、ERLの許容量を遙かに超えたレーザーが一斉射撃される。パイロットの意識は既にない。あるのは「生」にしがみつく、生物の本能のみだ。
高出力のレーザーが向かってくる。しかし、優輝には全く焦りの色はない。確実に、冷静に、レーザーの軌道を読み切る。
マインを爆発させ、爆風で壁を作ると、再度高々度にジャンプした。その光景が、自分の目で主観的に見えるのではなく、俯瞰から、客観的に見ている様な気持ちにすらなる。
優輝のバル=バロスが、ジャンプの最高点で両手を広げた。その姿は、ゴルゴダの丘で十字架に架けられたジーザス=クライストにも似て。
胸部から発射されたレーザーは、確実に橋立のVコンバーターを貫いた。
動きを止めたバル=バロスは、爆炎を上げることなく姿を消した。いつもの様に、目も眩む程の強い光を発しながら。光が消えた時には、もう機体すらも消滅していた。
『大丈夫か?』
緒方が労うも、反応はない。
『結構やられたな。回収艇を回したから、すぐ戻って……』
「緒方さん」
『?』
「僕、理解出来ないんだ。
このままで、今のままでいいじゃん。僕は何の不満もないよ。この世界が本当はどうなのか、よく判んないけど、僕は何の不満もないよ。
なんで? あの人達はどうして地球を攻撃するの? 何が不満なの? 僕は不満なんかないよ。この世界が好きだよ。皆が生きている、この世界が好きだよ。
こんなこと…… こんなに大きなことしなければ……」
『こんなにならずに済んだのに……か?』
「……うん……」
『仕方ない、の一言ですますのは簡単だ。それが戦争だから、ってな。
でもよ、考えてもみろ。どこの馬の骨とも判らんヤツを、この地球にのさばらす事なんか出来ないぜ。
確かに、向こうには向こうの事情があるんだろう。表の世界で戦う事の出来ない、深い理由がな。
だからって、それを許す訳にも行かないだろ。俺達はたくさんの仲間を失った。神宮寺なんか、前いた部隊を殆ど丸ごとなくしてるんだ』
そうだった。前年度まで天使隊に所属していた神宮寺深夜は、先の大襲撃で部隊がTSCドランメンに駐屯していたが為に、仲間の七割を失った。部隊としても存続出来ない状態だった。残っているのは数名の幹部隊員と、その時後方にいた後輩隊員ぐらいしかいない。
それでも、神宮寺はその事をおくびにも出さず、今もフローティングキャリアーで気丈に戦っている。
『お前もよくやったな。一時はどうなるかと思ったぜ。
そこで、しばらく大人しくしてろな』
緒方からの通信が途切れたと同時に、視界がぼやけた。この戦いに、本当は何の意味があるのか。それが判らないと理解したら、涙が出てきた。自分が何の為に戦っているのか。相手がどうして戦いを仕向けてきたのか。自分がこの戦いで何をやっているのか。急に判らなくなった。
そう思ったら、自分が死ぬ程情けなくなって、涙が勝手に溢れてきた。
でも、『判らない』ことを『理解』した時、それまで感じた事のなかった気持ちが沸いてきた。今まで判らなかった『何か』が、判った様な気がした。
僕は負けない。僕の為に、僕は負けない。誰の為でもなく、僕自身の為に。
アンダーシープラント 勝利者 泉水優輝
To be continued.