開戦前日。
 この日は何年か振りに春の嵐が発生した。
 それはまるで、次の戦いの激しさを表しているかのようにも思えた。


 雨の上がった夕暮れ時、蒼我恭一郎は行くあてもなく、ぶらりと街へ出た。
 地球の危機が迫っているかもしれないというのに、街はそれ以前と変わらない表情を見せている。学校帰りの女生徒がジューススタンドでお喋りを楽しみ、ゲームセンターでは相変わらずバーチャロンが流行っている。
 ただひとつ違うのは、街頭テレビから流れるニュースだろうか。
 已然として正体の掴めないO.D.A.に関する立証と、それに対抗するBlau Stellarメンバーの特集が、毎日のように報じられている。
 その中には、蒼我自身も含まれている。
 街を歩けば、必ずBlau Stellarの隊員のグッズを扱う店に当たり、そこにはガーゴイルのサングラスをかけた自分の写真もある。
 やはり、彼はそういう扱いを受ける自分に、違和感を覚えてしまう。
 街中を歩いていても、特に誰かに気づかれると言うことはないが(本人は気づいていないだけで、本当は気づかれているのかもしれないけれど)、どうしても今までと違う自分の立場に、いまいち慣れない。
 このことを緒方に相談した時「一時的なものですぐになくなるよ」とは言われていたが。
「きゃぁっ!! ちょっとなにすんのよ!!」
 ヒステリックな少女の叫び声が蒼我の耳に飛び込んだ。
 目の前でピンク色の髪のおだんご(?)頭の少女が、お世辞にも柄がいいとは言えない集団に絡まれていたのだ。
「あんたたちなんかにかまってるひまなんかないのよ!!」
「だ〜か〜ら〜、俺達も一緒に人探ししてあげるって言ってんじゃん」
「うるっさいわね! あんたたちなんかにてつだってもらわなくてもけっこうよ!!」
 少女が自分の腕に触れようとした男の足を思いきり踏みつけた。
「ちっくしょ… このクソガキ!!」
 仲間と思われる一人が、少女に手をあげる……
 が、その一撃は、蒼我によって未然に防がれた。男の背後から、振り上げた腕を容赦なく掴み、そのままねじ伏せる。
「手前ェ! 何しやがる!!」
 腕を掴まれた男は何とかして振りほどき、今度は蒼我に殴りかかった。
 しかし、彼とてVRを使えどプロの軍人である。男の攻撃を難なくかわし、今度は腹部に強烈な蹴りをお見舞いした。
「ぐぁ……」
 カエルがつぶれたような声を発し、男は気絶する。仲間が駆け寄って、蒼我を睨み付けた。が、その表情は一瞬にして怯えたような顔になった。
 蒼我が前身黒ずくめでサングラスをかけた、お世辞にも「いい人」には見えない容貌だったからではない。
 その黒い服は軍で支給された専用の制服で、その胸にはいくつかの勲章がつけられている。腕章と襟章には彼の所属する「9012」の印。
 そして一番目を引いたのは、彼がかつて所属していた第42危険分子駆除部隊通称死神隊の所属の証であった。いぶし銀の骸骨のバッジ。目には血の様に赤い石がはめられている(当然イミテーションであるが)。
「「死神遣い」だ……」
 死神隊の隊員は、一部の人間の間では、畏怖の意味を込めて「死神遣い」と呼ばれている。それは特に裏社会に生きる者、それに憧れる不良少年の間で語られ、VR使い以上に恐れられている。
 それは死神隊がVRを頼った戦闘だけでなく、己の肉体をも極限まで高め、暗殺などの暗躍行為も行っているからだ。
 もちろん、それは蒼我にも当てはまる。特に彼は趣味と実益を兼ねたナイフ戦闘を得意とし、多くの裏社会の要人やテロリストの指導者を闇に葬ってきた経歴もある。相手の懐に飛び込み、一撃で相手を仕留めるには、彼自身もそれ相応の訓練を積んでいるはずである。
「相手が悪いぜ。やっちゃん」
「に…逃げろー!!」
 不良少年達は、脱兎の如くその場を逃げ出した。
 やれやれ…… と思いつつ、蒼我はその場を立ち去ろうとする。
「ちょっとまちなさいよ!」
 絡まれた少女に呼びとめられた。
「まったく、よけいなことしてくれたわね。あんなのあたしがほんきになれば、いちげきだったんだから!!」
 少女は頬を高潮させ、興奮気味に蒼我に噛み付く。だが蒼我は相手にせず、その場を立ち去ろうとした。
「まちなさいっていってんでしょ!?」
 蒼我の歩いていく方向にわざわざ飛び出した少女は、彼を通せんぼするかのように、仁王立ちで立ちはだかった。
「……!?」
 少女は一瞬顔を歪めると、鼻をくんくんさせる。まるで匂いを嗅いでいる犬のようだ。
「あなた、スペシネフにのってるわね!? あいつのにおいがぷんぷんするわ!!」
 蒼我はその少女を不思議そうに見た。なんとなく普通じゃない気はしていたが、よく見れば見るほど、その少女の存在が人間のものとは違うように感じ始めたのだ。
 そういった類の物はあまり信じたりしない蒼我だったが、どうもこの少女は普通と違うのだ。
 幽霊、などではない。もしそうだとしたら、その場に居る全員の目で認識出来るはずがない。
 そして、この少女は自分がスペシネフに乗っていることを一目で見破った。確かに、死神隊はスペシネフのみで構成された部隊だが、そんなことが匂いを嗅いだだけで判るはずもない。
「いい!? あたしはぜったいつかまったりしないわよ!? おとうさまやおねえさまをみつけるまではぜったいだれにもつかまったりしないんだからね!!」
 蒼我に向かってぴしっと指先を付きつけると、少女はかつかつとその場を立ち去った。妖精の粉(ピクシーダスト)の様な残像を振りまいて。
 なんだかなぁと思いつつも、蒼我もその場を立ち去ろうとした。
 そして、あることを思い出し、後ろを振り返ったが、少女の姿はもう見えなくなっていた。



 決戦当日、午前0900。
 昨夜のうちにVRはキャリアーに積み込まれ、隊員が出撃に向けて集まった。
 今回は藤崎、成一の部隊が出撃するが、万が一のことを考え、常に後方の2部隊も待機している。
 最後のミーティングということで、二人で練りに練ったプランを、藤崎と成一が指示している所である。
「ダミーに関してはなるべく1ヶ所に集めて1度に叩く。これを基本にして下さい。主に実弾系のDOI−2とクレイスがメインで、あとは俺とROD君で援護します」
「真打が出てきたら、なるべく2:1のフォーメーションを崩さへんように。俺と優輝、神宮寺と蒼我、千羽矢とクレイス、成ちゃんとDOI−2。公正な話し合いとくじ引きで決めたので、文句は受け付けへんからな」
「始まったら臨機応変に、というのはいつも通りです。あまり無理しないで」
「そうそう、いざとなったら俺達が行くからなー!」
 哲が口を挟んだ。が、
「その心配はご無用や!!」
 のRODの活によって無用のものとなる。
 緒方はその様子を司令席の端っこで笑って見ていた。
「OK、ありがとう。この間も言ったけど、あまり気負わないで行って下さい。もし本当にやばくなったら必ず言うこと。それだけは守ってくれ。
 じゃぁ、とりあえずこれで解散です。出撃は1140なので、5分前には集合して下さい」
 緒方は一人キャリアーに向かい、他の隊員もそれぞれ準備に入っている。
 千羽矢は辺りを見まわすと、いつも見慣れている顔が居ないことに気づいた。
「そっか、3人はもうキャリアーに居るんだっけ」
 既にパイロットスーツに身を包んだ千羽矢は、テーブルに置かれたヘルメットを手に取り、足早にキャリアーの発着地点へと足を進めた。
『ちーの旦那、この間は結構良かったよな』
「そうだね、変なミスもなかったし」
『ただあそこでターボ鎌に当たったのがなぁ。アレはサイファーなら確定で避けられると思ったけど』
「多分ダッシュ攻撃の硬直狙いだったんでしょ」
 人に気づかれないように「デュオ」と会話する千羽矢。カムフラージュで携帯で話をしているように見せかけている。
「……にしても、こんなにデュオが口出すのって珍しくない?」
 言われた本人も、いまいち判らないといった表情である(と千羽矢には思えた)。
「それって、デュオの昔に何か関係あるの?」
『判んねぇなぁ…… あのピンクのスペには見覚えあるようなないような……』
 ピンクのスペとは、聖域の映像に映っていたあのスペシネフのことだ。自分の過去のことは全くと言っていいほど覚えていないデュオだったが、あのスペシネフのことだけは、心に引っかかるものがあるという。
「あれが親玉だったりすると、実際に会うことになるかもね」
『ん〜、俺的にはあまり会いたいとは思わねぇけどな……』
「どうして?」
『なんか、いい感じがしない』
「ふ〜ん……」
 千羽矢は交信が途絶えたことを確認すると、携帯を耳から離した。そして、携帯を持ってきてしまったことを、しまったと思いつつも、キャリアーの中の管制室へ寄ることにした。

 そして、フローティングキャリアー5505内の管制室では、衛星回線から繋がっているフラッテッドシティの映像が既に映されていた。
 ウォーターフロントと並び、ここも旧世紀時代には巨大なベイエリアとして発展した場所だった。しかし、南極の氷の大量融解により、大半は水没してしまった。CHBエリアの一部はその水没を免れたものの、TKYエリアはあらかた水に飲まれてしまった。今でも、海底の深くにエリアの象徴だった観覧車が沈んでいるらしい。
 今回の戦いは、前回とは違い昼間を指定してきたと言うことで、半径50km以内において、不審なVRなどが居ないか、徹底的にチェックされている。
「何か見つかった?」
「いや、特にこれといってありませんよ。この間もそうだったけど、あいつら突然わいたように出てくるんですよ。だからこんなことしても無駄かもしれないですね」
 前回、初めて前線に立った尚貴は、その時のことを克明に覚えている。今まで何も映していなかったセンサーに、突然ぽつぽつと反応があり、やがてそれが埋め尽くされてしまうほどのVRが出現したのだ。
「得体の知れないヤツらだから、変な話突然キャリアーの発着場に現れてもおかしくないですよ」
 モニタースクリーンに映し出された巨大なセンサーには、鳥の影すらの反応もない。不気味なくらいに静寂を保っている。
「やっほ〜」
「あ、千羽矢ちゃん」
 椅子を回転させて振りかえった尚貴に向かって、携帯電話を放り投げる。一瞬驚いた尚貴だったが、何とかこれをキャッチした。
「電話したまま来ちゃったからさ、持ってて」
「あ、うん」
 尚貴は受け取った電話を念の為電源を切り、上着の内ポケットにしまいこんだ。
「今日ってフロントだっけ?」
「そ。クレイスとだからやりにくくはないと思う」
 利き手ではない左手で、それなりに器用にマウスを動かし、ポイントのチェックを続ける尚貴は、今回の戦闘ポイントの地形状態と、各VRの相性を大雑把に叩き出す。
「基本的に平坦だから、特に不利を受ける機体もいないと思う。広い所だしね。俺はこういう所の方がやりやすい」
「ふ〜ん……」
『ちー、そろそろ行くぞ』
「じゃぁ、そろそろ行くね」
「あ、うん。気をつけて」
「電話お願いね」
「終わったら渡すよ」
 何気ない会話だが、彼女達が赴くのはあくまでも「戦争」だ。生きて帰って来れる保証はどこにもない。
 だからこそ、さりげない言葉の中に、相手の無事を願っている。
 置いていたヘルメットを抱え、ばいばいと手を振って千羽矢は管制室を出ていった。
『ちー、きつかったらいつでも変わるぞ』
「デュオって、フェイ操縦出来たっけ?」
『少なくとも、俺は一通り使えるってばよ』
「そっか。なら本当危なくなったらお願いするね」
 デュオはそれから何も言わなくなった。千羽矢だって、これでもプロのVRパイロットなのだ。彼女にだってそれなりのプライドがある。それを思うと、デュオはここから先、自分が口出しするのは止めようと思わざるを得なかった。



 開戦15分前。
 既にキャリアーは本部を飛び立ち、戦闘ポイントのフラッデッドシティから約50キロ離れた地点にて浮上待機している。
 固定された8機のVR。そのうちの2機、DOI−2のベルグドルと藤崎のテムジンには、全てのVR遣いがうらやむ印、OMG帰りの勲章が刻まれている。
 特にDOI−2のベルグドルにはそれ以外にも多くの撃墜マークがペイントされており、やはり全てのVR遣いの憧れでもあった。
 今回指名を受けた隊員達は既にVRにスタンバイしており、出撃の時を待っている。前回出撃した一郎、哲らもVRには乗っていないものの、いつでも出撃出来る体勢を取っている。
「何か変わった様子は?」
「これといってなし。不審な機体も見つかっていません」
「判った。何かあったら報告してくれ」
「了解」
 尚貴は相変わらず戦闘ポイントの時空のひずみを頻繁にチェックしていた。友紀にも香織里にも判らない、尚貴にしか感知出来ないこの時空のひずみは、VRが出現するわずかな時間に電脳虚数空間と直結しているのではないか、というのが尚貴本人の考えである。
 先の奇襲を受けた際も、彼女だけがこのひずみを感知していた。その直後、大量のVRが出現し、Blau Stellarは未だかつてないダメージを受けた。
 それだけに、今回の戦いにはこのことに関しては皆が敏感になっている。
 管制室のメインモニターは16分割され、上空から、地上から、ありとあらゆるポイントからこのエリアを監視している。画面の両サイドには、今回出撃する隊員のコックピット内の様子、機体状況が一目で把握出来る様になっている。緒方はこの画面を見ながら、指示を出すことになる。
 ピーピーピーピーピーピーピーピー
 突然、警報にも似た音が鳴る。場に居合わせた全員に緊張の色が走った。
「どうした!?」
「来ました…… ヤツらですよ。地上ポイント42−136、45−140、上空ポイントZ42、Z66。マイナス10ほどのひずみを確認」
 尚貴の傍らにある端末は、座標のポイントと合わせて僅かに変化する時空の座標も表示されている。Blau Stellarのメインコンピューターでも、ここまで精密に感知することは出来ない。
「虚数空間反応確認、カウント20でお出ましです」
「来なすったか……
 射出口解放、出撃用意」
 緒方の指示で硬く閉ざされたいた射出口がゆっくりと開く。その先には雲ひとつない青空。
「敵機感知確認、サイファー、アファームドザストライカー、フェイイェン、テムジンの4機」
「違う! テムジンじゃない。出力とVコンバーターの波状形状がよく似てるけど」
「まさか! そんなはず……」
「サイファーだ。よくここまで出力上げられるな。スケルトンシステムとVコンバーター持つのかよ……」
 友紀の感知と尚貴の感知が微妙に違った。どっちだ…… 流石の緒方も判断に迷う。
「おがっち、その1機は俺らが貰う。後は適当に振り分けてくれや」
「ROD……」
「尚貴!」
「あ、はい……」
「友紀には悪いが俺はお前を信じる。
 泉水、最適化システムをサイファーに合わせろ。空中戦はお前に任すがなるべく飛ばすな」
「え? どうして?」
「ラムが当たらへんやろ」
「……(ぷっ)了解で〜す」
「(このクソガキ、俺のロマンを笑いおったな)
 で、そいつのポイントは?」
「上空Z60〜70。でも明らかに空中戦はサイファー有利だよ」
「ま、何とかなるやろ。
 つー訳で、藤崎賢一、TEMJIN行っきま〜す!!」
「あ! ずるいよ先行くなんて〜!
 泉水優輝、BAL=BAS=BOW・Twilightも行きま〜す!」
 急発進した2機は、近くに居た整備兵を半ばなぎ倒すようにしてキャリアーを後にした。
「緒方! こんなことでいいのか!?」
 さすがにDOI−2が抗議する。普通では考えられない。彼はそう思っているのだ。そんなDOI−2の訴えに、緒方もやれやれ、と苦笑いする。
「まぁ、RODはいつものことだから。
 成ちゃんとDOI−2はストライカー、神宮時と蒼我はフェイ=イェン、千羽矢とクレイスは残りのサイファーで。
 それじゃ、派手によろしく!!」
 ここでようやく今まで近くにいた整備兵が離れ、イントレを登っていく。
「皆、ROD君に遅れを取ったけど、俺達も行くよ!」
「「「「「了解」」」」」
 成一のバトラーのクリスタルアイが光る。
「飯田成一、行きます!」
「DOI−2、出る」
「神宮寺美夜、ANGELAN・Sword Feather行きます!」
「蒼我、出ます」
「竜崎千羽矢、行きま〜す!」
「クレイス、出ます!」
 青い空に色とりどりのVRが放たれる。それはさしずめ、大空に舞い上がった花火の色にも似ていた。

 その様子を、リリン・プラジナーは、指令本部からモニターしていた。
「お父様が姿を消してから、もう10年近くになるのね……」
 リリンの目は、彼女の父であるプラジナー博士が作ったオリジナルVRが母体となるフェイ=イェン、エンジェランを映していた。
 己の存在までをも否定せざるを得なかった、博士の生み出したVR。
 現在ではオリジナルの持つ一部の力しか発揮されていない量産型の2機が稼動している。
 リリンにとって、心を通わせたタングラムに等しい存在。フェイ=イェンと、エンジェランのオリジナル機体である「アイスドール」。
 オリジナルのフェイ=イェンはその姿を少女のものへと変え、地上で博士を探しつづけているという。
 エンジェランは自らも虚数空間に身を沈めている。己の存在を抹消しようとしているのか。
 いずれにせよ、リリン自身は「二人」の所在を知らない。
 この戦いが、もし「二人」を巻き込んだなら……
 人の「エゴ」によってこの世に生まれたVR。それの無事を祈ることも、また「エゴ」だとでも言うのか。
 それでも、リリンは彼女たちの無事を祈るしかなかった。リリンにとって「二人」は血を分けた姉妹にも等しい存在なのだから。
 モニターは戦闘エリアに現れた、4機のVRを映し出した。それを瞳に移した瞬間、リリンの表情はすぐさまD.N.A.総統のそれに変わった。
「キャリアー5505は現ポイントで待機。オンラインシステムをポイント半径50kmまで有効に。万一のことを考えて待機中の全機リバースコンバート状態で出撃用意!」
 今は感傷に浸っている時ではない。失踪した父を、姉妹を探す為には、この戦いを勝ち抜かねばならないのだから。


 真っ先にキャリアーを飛び出した藤崎のテムジンと、優輝のバル=バス=バウ。
 半戦闘モードで飛行を続けていたが、やがて2機のモニターにサイファーの姿が飛び込んできた。
「ROD君! そいつがさっきのサイファーだ!」
 インカムを通して尚貴の荒げた声が耳に届いた。
 確かに、目の前に向かってくるサイファーは、通常のサイファーより大きめのバインダーブレードを装着している。
 明らかに早い。どういう出力だ!? 藤崎はさっき尚貴が言った事をようやく理解した。
 しかし、そんな事を考えている暇はない。敵はもう目の前まで接近しているのだから!!
「来るぞ!!」
 藤崎はサイファーとすれ違うようにして高度を下げた。優輝もそれに続いていく。
 サイファーはしばらくやり過ごすかのように高度を上げたが、一度上昇を止めると、今度は2機の後を追うように高度を下げた。
「隊長! 来てるよ!」
「判っとるわ!!」
 藤崎は自分とサイファーの距離を測り、優輝にもう少し速度を上げるように指示する。
 このまま高度を下げ、地上戦に持ち込むべきだが、不用意に着地すれば、ストライカーとフェイ=イェンが待ち構えている可能性もある。それだけは避けなくてはならない。
「隊長! 来た!!」
 自分たちの背後からサイファーのバルカンが襲いかかる。バル=バス=バウはわずかに上昇し、テムジンは更に高度を下げ、攻撃を避ける。
 このままでは埒があかない。藤崎は軌道を大きく右に旋回させると、着地地点をマーカーで優輝に指示した。
「余計な事すんじゃねぇぞ。マイン1発で己の寿命が1秒縮むと思え!」
「何それ! そんなこと言っても…うわぁ!!」
 再度サイファーのバルカンがバル=バス=バウを襲う。優輝はそれを紙一重で避け、何とか藤崎についていく。
 攻撃を受けながらも、藤崎がテムジンを目標のポイントに着陸させた。ががっ、とかかとでアスファルトを削り、上空を見やる。
「そりゃぁっ!!」
 ソードを一閃させ、ソードカッターを放った。その先には優輝が!
「ちょっと待って!!」
 まさか自分が攻撃されるとは! どういうことだと思いつつも、反射的に機体を左に切ってカッターを避ける。
 その視界の隅に見えたものは……
「何!?」
 バル=バス=バウの真後ろにいたサイファーは、ソードカッターが放たれたのに気づく事が出来なかった。
 正面から藤崎の攻撃を受け、サイファーはバランスを崩す。地上に叩きつけられるのだけは免れたが、すぐに反撃出来る態勢ではない。
 そこを藤崎がすかさず、前ダッシュからライフル攻撃で仕掛ける。
 しかし、サイファーもそう簡単に被弾するはずがなく、すぐに態勢を整えるとダッシュでその場を離れる。
「よぉかわしたな。そうでなけりゃおもろないわ」
 再度藤崎がランチャーを構える。その後ろに優輝のバル=バス=バウがついた。
「お前達のその魂、俺の手で陛下に捧げてやる!!」
「よく吠えた!!」


『Operation Alice』Round 2
Get Ready?


To be continued.