開戦当日、基地内は異様な緊張感と興奮に包まれていた。
 OMG以降はここまで大掛かりなミッションはなく、まして限定戦争というのを体験するのが初めてという隊員も多かった。
 朝からTV中継が入り、世界は今回の「Operation Alice」一色といっても過言ではない。

 1週間前の宣戦布告以降、世界情勢はめまぐるしく変わり始めた。
 まず、世界中のブックメーカーが動いた。今回のミッションでどちらが勝利するかという単純明快な物をはじめ、さらに高配当を狙う対戦カードや勝敗など、様々なオッズが氾濫している。
 次に出てきたのはCRAZE隊のメンバーのキャラクターグッズだった。ロゴ入りグッズから生写真、ポスターなど、世間のアイドル歌手やアイドルPパイロット並にグッズが登場した。だが、ここで問題が発生する。生写真やポスターの大半がBlau Stellarの認可を受けていない海賊商品で、出所は恐らく内部であろう物が大量に出回った。これはさすがにリリンも業を煮やし、業者の一斉摘発と写真を売った隊員には減俸などの処罰が下った。
 TVでは連日特集が組まれ、OMG以前やOMG中の貴重なVTRが放送された。中にはトップシークレット並の内容の番組もあり、これにもリリンは特別に対処しなければならなかった。
 とにかく加熱し過ぎの感もあるぐらい、世界が動いた。

 夕刻の出撃を控え、瀧川空戦隊、菊地重戦隊のメンバーのVRがドッグにつけられた。
 2機のサイファーと、バイパーU、ライデン、グリスボック、ドルドレイの計6機。
 まだ午前中だというのに、まるで出撃前のような熱気である。これでは出撃時にはどうなってしまうのだろう?と思うほどだ。
 朝から既に3本のインタビューをこなし、雑誌のグラビア撮影まで来た。下手な芸能人よりもハードなスケジュールで、戦う前にへばってしまうような感じさえあった。
「ったく、なんやねんな! この騒ぎは!!」
 最初に切れたのは一郎である。基本的に一郎はこういったことが嫌いなので、仕事とはいえ、我慢できないのが本音なのだろう。
「まぁまぁ、戦う前に入れこむといい事ないぜ」
 哲は比較的余裕だ。哲自身もあまりこういう扱いは好きではないのだが、一郎ほど頑なではないので、結構その場の状況を楽しんでいたりもする。
 一番リラックスしているのはアリッサではないだろうか。彼女はいつもそうなのだが、暇な時は寝ているか端末をいじっているかなのだ。ちなみに、現在は前者の状況で、ミーティングルームの椅子に座ってすやすやと寝息を立てている。
 他のメンバーも比較的落ち着いた面持ちだった。重戦隊のグリスボック使い水無月淳は、OMGの英雄の一人DOI−2こと土居二郎から戦術に関する様々なレクチャーを受けていたし、空戦隊の一人目のサイファー、染谷洋和は相変わらずのほほんとした感じで神宮寺美夜と話をしている。
 二人目のサイファー高森尚貴は、飯田陸戦隊のフェイ=イェン使い竜崎千羽矢、専属オペレーターの赤木香織里と日向友紀、そして他の隊に配属された同期に囲まれていた。真新しいパイロットスーツをまとい、どこか自分の存在にぎこちなさを感じていながらも、その表情に硬さは見えない。
 少し離れた所から、その様子を飯田陸戦隊のスペシネフ使い蒼我恭一郎が煙草をくわえて伺っていた。元死神隊の彼は、こういった華やかな場は苦手であり、どちらかというと誰かの裏で暗躍するような役目を今まで担っていた。それが突然表舞台に立たされて、どうも戸惑いを感じざるを得ないらしい。
 同じ小隊に属する最年少のバル=バス=バウ使いの泉水優輝、藤崎激戦隊のストライカー使い、クレイス・アドルーバは、新型機が導入された以降の戦術について早くも話し合っている。特に優輝に与えられるバルシリーズは未知の可能性を秘めたVRであり、それが早くも相手側に導入されたことに、最も関心を持っている。
 そして、今回残念ながら初陣を飾ることが出来なかった藤崎激戦隊隊長藤崎賢一、飯田陸戦隊隊長飯田成一は、次回出撃のポイントを司令の緒方豊和と共に絞り込み作業に入っていた。また、テムジン使いである藤崎は、新たに導入される新型テムジンについて、食い入るように緒方から情報を聞き出しているところだ。
「で、グランディングラムはどのぐらい強くなる訳?」
「強いだけじゃないぜ。見た目もいい感じだったな」
「ほんまに!? よっしゃ、狙うぞ」
 戦闘においては最低1回はラムを狙う藤崎にとって、今回のテムジンの強化は大変喜ばしいことであり、全体的な能力の向上もまた、彼の期待をさらに高めていった。
「ねぇおがっち。新しいOSって、今までと何が違う訳?」
「クイックステップとクイックステップ近接、それとターボ近接かな」
「何それ!?」
「読んで字のごとくさ。例えば……」
 端末に2つのウィンドウが現れた。一つはテムジンとバトラーの対戦画面、もう一つはスティックが表示されている。
「相手が近接を仕掛けてきたら……」
 スティック画面のターボボタンが白くなり、レバーが右に倒された。トンファーを振り上げたバトラーを中心に、テムジンが円運動をする。
「そして……」
 テムジンのバスターライフルが振り回され、バトラーのボディにヒットした。
「「!!!」」
「これがクイックステップとクイックステップ近接ね」
 ウィンドウの対戦画面が切り替わった。今度はバトラーとドルドレイ。バトラーのダブルロックオン圏内だ。
 レバー画面の右ターボボタンが白くなる。トリガーが引かれた瞬間……
「まじで……?」
 ドルドレイのシールドゲージがトンファー1発であっという間に削られていった。
「これがターボ近接。硬直は大きいけど、最後の1発にはもってこいかな」
 呆けた表情で見つめる二人。これがMSBS5.2の能力なのか。恐ろしくもあり、早く使ってみたいとも思う。
「まんざら、限定戦争も悪いもんやないな」
「不謹慎だけどね」
 藤崎と成一は、ただただ笑うしかなかった。


 表の世界の、ずっと、ずっと、ずっと奥。
 限りなく電脳虚数空間に近い世界。
 今回の限定戦争において、ウォーターフロントでの初陣を飾る隊員が発表された。スペシネフ使いのライム・マイスナー、フェイ=イェン使いの真理子・Kと弓月司の3人だ。彼ら3人を大将各とし、多数の無人VRが配備される。
 ダミーの無人VRを全滅させるか、一部が囮となって引きつけない限り、Blau Stellarは彼らと戦うことは出来ない。
 しかし、ダミーとはいえ標準レベル以上の操縦技術を持つプログラムがOSに組みこまれている。数も数体のレベルではないだろう。
 久々に姿を見せたMeister Oが、これまで不在だった間のことを、Doktor Tから報告を受けている。その間も、今日の出撃に向けての準備は進められていた。
「今回はマシンチャイルドは使用しないんだな?」
「はい。相手の力関係を考えると、恐らくダミーはその大半を撃破されることが考えられます。マシンチャイルドではあまりに被害が大きすぎますので、Klosterfrauが開発した新しい無人操縦プログラムを採用しました。使用に際し、特に問題は発生していません。通常のオフライン戦闘を採用した場合と同レベルの結果が出ています」
 Meisterはその回答に満足そうにうなづいた。
「恐らく彼らは初戦から全力で我々に向かってくるだろう。こちらが手を抜いては彼らに失礼だ。
 結果的に我々が勝利することになっても、それでは面白くなかろう。
 一般聴衆も、均衡した力のぶつかり合いを期待している」
「その通りです」
Meister O、今回選出された3名が到着致しましたが」
「通せ」
 薄暗がりの空間に薄日が差し込み、3つの人影が現れた。小柄な少女と、2つの中背のそれは、Oの前まで歩み寄ると、深々と頭を下げた。
「この度は、初陣という名誉を授けていただき、誠にありがとうございます」
 中背のロングヘアーの影−弓月司が代表してMeisterに礼を述べた。
「相手の力はほとんど未知数だ。先兵という事で、いろいろと不便をかけると思うがよろしく頼むよ」
 3人が同時に頭を下げる。
「特に真理子准尉は外部との戦闘は今回が初めてだろう。二人に付いて、これからの実践に生かせるよう、頑張ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
「マイスナー少尉は女王陛下からの推薦だ。彼女の期待を裏切ることないよう、積極的な戦闘を期待している」
「お任せ下さい」
「出撃準備完了しました。いつでも出立可能です」
「判った。それでは、頼んだよ」
「「「はい!」」」

「諸君! 時は来た!!
 今こそ我らが地球に君臨する時だ!!」
 拍手と怒号がこだまする。
「地球は嘆いている。諸君にはその声が聞こえるだろう!?
 一刻も早くAliceを目覚めさせ、この地球圏に安楽の時をもたらすのだ!!」
 スクリーンにはドッグの様子が映し出され、3機のスケルトンシステムが姿を現した。
「今回戦う相手は以前とは比べ物にならない力を持っているだろう。しかし! 我らは勝利し、必ずや悲願を達成するのだ!!」
 人の声なのか、それとも何かの唸り声なのか。地の底から這い上がるような音と地響きのような拍手が空間を包む。
「世界を革命する我らが戦士達に、大いなる力を!!
 Aliceは眠りの底から、我らに力を貸してくれるだろう!!」
 3人がVコンバータにスタンバイし、リバースコンバートが始まった。剥き出しの骨格が色とりどりの鎧をまとう。
 抜けるように白いマイスナーのスペシネフ。弓月、真理子のフェイ=イェンは、現在Blau Stellarに配備されている物よりも、外見的にもっと幼く感じる。スカート部分に当たるフリルが多く、色もカラフルだ。
 真紅に塗られたヤガランデ・アイが、異常に目を引く。
 虚数空間へと続く滑走路のランプが点灯した。次々に発進するダミー達。それを全て見送るかのように、3機が発進した。まず真理子のフェイ=イェン、続いてマイスナーのスペシネフ、最後に弓月のフェイ=イェンが飛び立った。
 その様子を見ていたMeisterは、傍らにいたDoktorを呼びつける。
「例の回収プログラムはどうした?」
「既に全機にインストールしてあります」
「そうか。こうでもしなければ、我々の悲願は達成されないのだな」
「致し方ありません。何かを達成する為には、犠牲はつきものなのです。我々も含めて……」
 先程の輝かしい表情とは一転して、Meisterは少し浮かない気分になり、姿をノイズへと化していった。



 いよいよBlau StellarTKY本部からフローティングキャリアーが発進した。発進ポイントはのウォーターフロントである。
 今回出撃する6人は既にVRでのスタンバイに入っていた。インカムから緒方の指令が届く。
「夜間だけに不意打ちは十分考えられます。まず尚貴が出て、様子を確認して下さい。そのあとに哲、水無月、アリッサ、一郎、最後に染谷。
 異常を確認したら、些細なことでも報告すること。フォーメーションはさっき言った通り。ただ、臨機応変に対応して下さい。
 それじゃ、頑張って」
 目の前の射出口の重い扉が開き、真っ黒な夜の海と空が目の前に広がった。
「大丈夫? 最初だからあまり無理しないでね」
「大丈夫だよ。夜間飛行は得意だから」
 千羽矢のインカムに答える尚貴。だが、操縦桿を握る手には、うっすらと汗をかいている。
「哲、ここでカッコ悪いとこ見せたらただじゃおかへんで」
「なーに言ってんの。しくじるはずもないでしょうが」
「一郎さん、ピンチになったら救援呼んでね」
「その心配には及ばへんと思うけど」
 出撃時のいつものやり取りが繰り広げられる。これから戦争が始まるとは思えない空気だが、このリラックス感を常に保てることが、彼らの強さにもつながるのだ。
 滑走路のランプがともる。直接感じることはないが、中に吹き込む風圧が、機体全身を通して感じられるようだ。
「高森尚貴、CYPHER・LA VIE EN ROSE、出ます!!」
 バーチャロイドからモータースラッシャーへと変形し、射出口めがけて一直線に飛び立った。
「菊地哲、DORDRAY・GreddyV、行きます!」
「水無月淳、GRYS=VOK・Midnight Sun、出ます」
「……あの…い……行きます」
「瀧川一郎、VIPER−U・LA VIE EN ROSE、行きまーす!!」
「染谷、出ます」
 次々に発進するVR達。世界中が注目する瞬間だ。全世界の人間の視線を一心に集めていると言っても過言ではない。
「始まったのね」
 管制室から見ていた友紀は、見えなくなった機体の行き先をずっと見つめていた。
「出来れば、行かせたくなかったわね」
 香織里の言葉は恐らく本音だろう。
「ここでやられるようなヤツらじゃないよ。俺達はいくつもの修羅場を切り抜けてきた。不可能と言われたミッションだって、何だかんだで成功させてきた。
 俺は負ける気はしない。絶対勝てる」
「おがっちがそう言うんならね」
 香織里と友紀が顔を見合わせて笑った。
 スクリーンには真っ黒な海と、それをバックに飛行を続ける黒紫のサイファーが1機だけだった。


 フローティングキャリアーを発進してから、しばらくはセンサーには何も映らなかった。
 異変が起きたのは、5分ほど飛行を続けた頃だろうか。センサーが大量の敵機を確認し、目の前に無数の光が見えた。
「敵機確認! 総数は……128!」
「戦闘エリアはどこや!?」
「すぐ真下です!!」
「いよ〜っしゃ… 哲!」
「おうよ!!」
「全員戦闘態勢用意! 雑魚は引きつけてまとめて始末しろ! 親玉はじっくりその後や!!」
「「了解!!」」
「散開じゃぁ! 派手に打ち上げろ!!」
 全機が速度を上げて敵機の集団に突っ込んでいく。モータースラッシャーのまま、尚貴のサイファーがまず火を吹いた。
「おらおらおら!! とっととどかんと痛い目見るぜ!!」
 バルカンが空中にいる敵機に次々に命中する。バランスを崩して落下する機体に、先に地上に降り立った仲間の攻撃がヒット。立て直しを図る前に撃破されていく。
 だが彼らが1機1機を撃破しても、相手は数で攻めてくる。減ってはいるのだが、目に見えて数が少なくなっている訳ではない。
「これじゃぁ埒があかんわ。染谷!」
「はい」
「俺らが地上で雑魚を1か所にまとめる。上空からホーミングボムで一撃しろ」
「了解」
 上空に高く飛び上がる洋和のサイファー。それを数機が後を追う。
「やめとけっちゅーねん」
 その敵機に向かって一郎が7WAYミサイルを放つ。何発かがダイレクトに命中し、僅かにそれた弾は地上に着弾、その爆風に巻き込まれた機体が数体炎上した。
「上空に行ったぞ! おびき寄せて地上に叩きつけろや!!」
「……んなこと言ったって、こっちだって手一杯…… ひゃぁっっ!!!」
 モータースラッシャーのままで戦闘を続ける尚貴のサイファーがきりもみ下降した。地上から上空へアリッサのライデンがスパイラルレーザーを発射したのだ。間一髪尚貴は回避したものの、それを追いかけていた敵機が止まり切れず、レーザーに焼かれる結果となった。
「いいぞ! そのまま地上に突っ込んでこい!!」
「好き勝手言わないで下さい!!」
 追いかけてくる敵機を引きつけながら、高度を確実に落としていく。その間に敵と味方の弾幕を回避し、ドッグファイトぎりぎりの攻防を続けた。
 数の多い敵に対し、弾幕を張って有利な戦いを進めている淳のグリス=ボック。ショルダーミサイルが無限とも思えるぐらい発射される。敵にもグリス=ボックはいたものの、ここまで厚い弾幕は張られていない。
「グリス=ボックは決して弱い機体ではない。その性能を生かすのも殺すのもパイロットの腕次第だ。グリスは俺の分身のような存在。お前ならきっとこいつを乗りこなす事が出来るはずだ」
 シミュレーションで対戦する度、何度もDOI−2に言われてきた言葉。時に厳しいことも沢山言われてきたが、今はその厳しい言葉すらも、今日の日を迎える為に言われつづけていたような気がする。
「ボックは弱くなんかない。それは俺が一番判っている。
 舐めてると後悔するぜ! お前ら!!」
 ナパームの爆風から無数のミサイルが飛んでくる。着弾点からは次々にVRが炎を上げて崩れ落ちていった。
 そして、先程きわどいレーザーを発射したアリッサは、決して無理をしているわけでもなく、追い詰められているわけでもなく、彼女のペースで仕事を進めていた。
 確実な回避、無理をしない攻撃が、却って相手には焦りを感じさせるようだ。特にグランドナパームで相手を追い詰めてからの戦闘は、見事としか言いようがなかった。ネットレーザーに引っかかった相手に、あえてダッシュ近接を当てに行ったり、オーソドックスにしゃがみや前ダッシュのバズーカを確実に当てている。実践経験はほとんどないものの、そのセンスは隊内でも屈指と言っていいだろう。
 上空に飛んだ洋和のサイファー。そのジャンプ高度とスピードに追いつける者は敵にはなく、どれも途中で諦めるか途中で地上からの攻撃に屈している。一瞬のチャンスに相手を確実に撃破する為には、ここで無理をする訳には行かない。確実に相手の追っ手を逃れ、安全圏内を確保しなければならない。遊撃タイプの洋和のサイファーは、上空でのホバリングが可能であり、特殊なカスタマイズを施していなければ、このジャンプ力に追いつけるVRはまずいないだろう。
 一郎からホーミングボムの着弾ポイントが指示された。モニターのアップ映像では確実に敵が集められつつある。
 全てのエネルギーを胸部のジェネレーターに集中させる。
 自分のすぐ横を、1機のモータースラッシャーと、それを追う敵のモータースラッシャーとVRが通りすぎた。敵はそれの追撃に気を取られ、洋和のサイファーには気づかない。さすがに洋和もこれにはひやりとした。もし、1機でも自分の存在に気がつけば、作戦は全て水の泡だ。
 だが、洋和の心配を他所に、尚貴のモータースラッシャーはその高度をどんどん下げている。尚貴にも既にポイント地点は伝わっており、急降下急上昇という旧世紀に存在した戦闘機のパイロット並のテクニックを必要とされている。幸い、情報管制官は一般の偵察機体の操縦の講習も受けている為、多少なりとも航空機の操縦は可能だが、それでも航空機とサイファーの操縦は勝手が違う。
 カウントダウンされる高度。敵機はその追撃を緩めようとはしない。
 地上では、混戦模様が繰り広げられている。もし、自分が追突すればその被害は計り知れないだろう。
 しかし、今回必要なのは特攻ではなく、あくまでも敵を引きつけることだ。
 地上の味方もフォーメーションを変え、少しずつホーミングボムの爆心地から離れ、かつ敵を着弾点に追い込んでいく。
 上空を見上げた一郎の視界に、地上に突き刺さらんばかりの1機のモータースラッシャーが飛び込んできた。
 モニターの高度がついに1桁になる。
「3…
 2…
 1……」
「今だぁぁぁっっっ!!」
 一郎の声と同時に尚貴のモータースラッシャーが急上昇した。それの動きに負いつけず、追いすがっていた敵のモータースラッシャーが次々に地上に叩きつけられ炎上する。
 その炎上とほぼ同時に、洋和が放ったホーミングボムが着弾した。炎上のあおりを受けていつもよりも大きな爆発を見せた。
 Blau Stellar側はあらかじめ爆風に巻き込まれない安全圏に下がっていた為、特に被害はなかった。
 この一撃で、O.D.A.のVRはほぼ壊滅状態に陥った。炎上が爆発を広げ、さらに炎上させる。密集していただけにその被害は甚大な物だ。
 上空に対比していたバイパーの横には、モータースラッシャー状態を解除した尚貴のサイファーが浮かんでいた。敵とのドッグファイトの結果か、所々に小さなVアーマーの破損が見える。
「大丈夫か?」
「お陰様で」
 息も絶え絶え。ここまで長時間モータースラッシャーで戦闘したことはない。普通の戦闘で発生する以上のGが発生しているのだ。ヘルメットとショックアブソーバーがなければ恐らく頭は柘榴だろう。
「……にしても、派手にやらかしたなぁ」
 先程の爆発で、エリアの1区画が半分水没してしまった。炎上したVRはそのまま海へと沈んでいく。かろうじて残された物はクリスタル板から一瞬輝きを見せて、その姿を消して行く。
「一郎! 後ろ!!」
 インカムから哲が叫ぶ。背後から三日月状のエネルギー弾が迫ってきた。一郎は回避したもののバランスを崩し、態勢を大きく崩しながら地上に降りた。
 それは地上からの攻撃だった。3機のVRが姿を見せる。
「やっぱダミーの無人機じゃ話にならないって?」
 モノトーンのフェイ=イェンがインカムで話しかける。
「やっと出なすったか」
 哲が一瞬だけドリルを回転させた。
「この人数でよく125機の無人機を全滅出来たな。それは誉めてやる。
 だが俺たち相手にはそう簡単に行くと思うなよ」
 3対6。数の上ではBlau Stellarが有利だが、相手は数で勝るBlau Stellarの駐屯部隊を僅かな兵でほぼ壊滅状態にさせたほどの力の持ち主だ。
「あんなはりぼてで、俺たちを楽しませることが出来るとでも思っとんのか?」
 ヴン……と一郎のバイパーがビームソードを形成する。
「だからと言って、僕達も負ける訳には行かないんですよ」
 相手のスペシネフもビームサイズを構えた。


『Operation Alice』Round 1
 Get Ready?


To be continued.