実在アトラクター日記Special

アトラクター旅日記'99


2日目(8月23日 月曜日)


新宿駅を出発した《ムーンライトえちご》は、池袋・赤羽を経由して北へと向かう。
大宮を過ぎた辺りで検札があり、まだ0時は過ぎていないが2つ目の日付印がきっぷに入った。予定通りなら、この日付印が私を約900km彼方の函館まで連れて行ってくれることになる。

検札が終わると車内放送も朝まで一旦休止になり、照明が半分の明るさになった。早速、この日のために用意したアイマスクといびき防止テープ(唇の上から貼って、口を開けずに鼻で呼吸させることでいびきを防ぐ)を使って寝る準備をするが、慣れない列車の中という状況せいなのか、気持ちが高ぶって緊張しているためかは判らないが、ちっとも眠くならない。

結局、うとうとしながらも眠れないまま高崎に到着。後から来る急行《能登》の通過待ちをするために30分停車になったので、少し外に出て気分転換。再び列車が動きだし、新前橋を過ぎていよいよ乗ったことのない路線へと入る。が、外は真っ暗なので何も判らない。できることなら昼間乗ってみたかったなぁ。


いつの間にか眠っていたようで、再開した車内放送で目が覚めた。どうやら長岡にいるらしい。時計を見ると、まだ午前4時。外を見ても辺りはまだ暗い。今から起きていても仕方ないのでもう一眠り。
新津に着く頃には、東の空が明るくなってきた。雲間から洩れる朝日が、西の空に浮かんでいる雲を鮮やかな朱鷺色に染めている。そして、綺麗に色づいた雲の向こう、日本海の方にはどんよりとした暗い色の雲が垂れこめているのが見えた。まさかあの雲があんな事件を引き起こすとは、この時乗っていた誰もが思わなかっただろう…

午前5時過ぎに新潟に到着。半分くらいの人が降りて行った。ここで列車の進行方向が変わって、今までとは反対向きに走り出す。 隣の席に座っていた人は、坂町で米坂線に乗り換えて行った。終点の村上が近づくにつれ、車内が徐々に慌ただしくなってくる。私も村上に着く前に朝食を済ませて、乗り換えに備えることにした。


村上に到着。酒田行きは既に隣のホームで待っている。
乗り換えのタイムリミットは3分間。ドアが開き、ほぼ全員が1ヶ所しかない連絡階段を目指す。階段に近い場所から順番に席が埋まっているので、最後尾の車両まで行って海側の席に座った。

村上駅

酒田までは、4人が向かい合わせになってリクライニングできない、俗に言うボックスシートのディーゼル車。定員には余裕があったので、靴を脱いで反対側の席に足を乗せる。窓を開けると、ひんやりとした風がとても気持ちいい。特急とはまた違った快適さだ。
村上を出発して最初のトンネルをくぐると、日本海が見えた。沖のほうには粟島が見える。

佐渡島ではなくて粟島

そして、新潟県と山形県の県境にほど近い越後寒川駅で事件は起こった。
やけに停車時間が長いな、と思っていると、「信号が青にならないので発車できない」という旨の車内放送があった。この先が単線で反対側から来る列車が遅れているのかと、その時は軽く考えていた。多少遅れても、酒田では待ち時間が約1時間あるから特に影響はない。
しばらく待っていると、今度は別のアナウンスがあった。そしてその内容は、

というものだった。つまり、復旧するまではここを一歩も動くことができない、ということだ。おいおい…
村上行きのホームには、何人もの制服を着た中学生や高校生が、いつ来るとも分からない列車を待っている。ああ、この辺りはきっと今日から新学期が始まるのだろう。初日だから本格的な授業は始まらないんだろうけど、学校に着いたら今日はもう終わり、なんてことになるかもしれない。

越後寒川駅 越後寒川駅にて

経験上、こういう時は現地のNHKを聞くのが一番なので、車内放送以外の情報を得るためラジオ(SONY ICF-SW1)を取り出す。今から9年前に鈴鹿にF1観戦へ行く前に買って以来、短波を含めて大抵の放送を捉まえられるこのラジオを、遠出する時には必ず持ち歩いている。スイッチを入れるとちょうど7時のニュースをやっている途中で、この先の酒田や秋田方面で局地的な大雨になっているとのことだった。

しばらくすると、「原因の解明に8時半頃までかかる」という具体的な時間を示したアナウンスがあった。8時半…本来なら酒田に着いている時間だ。アナウンスがあった時点で、接続待ち分の1時間はとっくに過ぎている。この調子では、函館どころか酒田にすら何時に着けるのか見当もつかない。
約束(?)の8時半になっても状況は何も変わらず、時間だけが過ぎていく。乗務員に事情を聞きに行く人、時刻表を見て予定を修正しようとする人、諦めて寝てしまう人…。その時、遠くの線路上でライトが光ったように見えた。やがてその光はゆっくりと動きだし、こちらに向かって近づいて来た。しかし見えるのは光だけで、列車の姿はどこにも見えない。 一体、あの光はなんだろう?

10数分後、その謎は解けた。
小さな動力付きトロッコに乗った2人の保線区員が線路を点検しながらやって来たのだ。なるほど、「係の者が現地へ確認に行っている」というのはこういうことだったのか。
そして午前9時、約2時間遅れの列車はようやく酒田に向けて再び走り始めた。

駅に止まるたび、この列車を待っていた人達を乗せて、今までの鬱憤を晴らすかのように列車は走る。しかし、線路が日本海に別れを告げて庄内平野にさしかかった時、鶴岡駅で再び信号が変わらずに立ち往生…ついにはこの列車の次に村上を出た列車が追いついて、ここでも30分あまり停車するはめになった。

鶴岡駅 鶴岡駅


手前の駅で豪雨に巻込まれたが、何とか酒田に到着。時計の針は既に正午を回っている。
できれば昼食をとりたいところだが、隣のホームから秋田行きがすぐに発車するというので慌てて移動。時刻表を持っていないので、この秋田行きが定刻なのか遅れているのか判らないまま、とにかく北を目指す。
待っていた列車は、山手線のような横に長いイスの、俗に言うロングシートの小さな電車。乗り換えの間にトイレへ行っていたので、ホームに着いた頃には2両編成の狭い車内は東京のラッシュ時のような混雑。結局、割と空いていた先頭車両の1番前に立って、秋田まで移動する。

701系(青森駅にて)

天気もまぁまぁ回復していて、列車は猛スピード(時速90kmくらい)で秋田を目指す(もしかしたらこれが普通かもしれないけど)。
進行方向右手には鳥海山、左手の海岸線沿いには、日本海から吹く風で一定方向に曲がってしまった防風林の松林。これが予定通りの列車だったら見とれる余裕もあるけれど、今は列車の運行状況が気がかりでそれどころではない。

鳥海山


やっとのことで秋田に到着。ホームに停まっている新幹線の姿も見える。
ここからさらに乗り換えて北を目指すわけだが、この時点で青森発15:22発の快速《海峡9号》への接続は絶望的になり、18:09の《海峡11号》すら危うい。これを逃がすとその次は20:26発の《海峡13号》になって、函館到着は22:58…まさか青森から急行《はまなす》(23:08発)を使うことにはならないだろうが、何としてもできるだけ早いうちに函館までは行きたかったので、秋田から特急《いなほ1号》に乗り込んだ。

秋田駅

《いなほ1号》はすぐにやって来た。本来ならば弘前から乗る予定の列車だが、前が詰っているのではいくら特急でも進むことはできない。しかし、特急は2時間遅れると特急料金が全額払戻になってしまうので、他の各駅停車を押しのけてやって来たのだろう。さっきまで乗っていた列車も途中で遅れるようなことがあったら、あっさり抜かされていたに違いない。
車掌さんから青森までの乗車券と特急券(¥4940-)を購入して席に座る。買物をするヒマもなくあわてて飛び乗ったので喫煙車だったが、席は半分も埋まっていなかったので気にしないことにした。しばらく窓の外の景色を眺めていたが、八郎潟を過ぎた辺りで眠ってしまった。


青森駅に着く直前で目が覚めた。車内放送によると1時間20分あまり遅れているらしい。そのまま案内放送を聞いていると、「《海峡9号》を利用する予定だった方は駅係員まで申し出て下さい」というのが聞こえた。多分、一部払戻しなどの救済措置が取られるのだろう。しかしこれは普通の乗車券を持っている人達の話で、私が持っているのは最も立場の弱い青春18きっぷ。もし何かあるとしても、別に買った秋田〜青森間の乗車券と特急券がどうにかなるだけの話だろう。

青森駅

あまり期待せずに改札へ向かおうとすると、連絡通路への階段を上りきった所で何人かの駅員さんが待っていた。手には、何か印刷されたハガキ大の紙を持っている。他の人が話をしているので様子を見に行くと、《海峡9号》に乗れなかった代わりに、17:15発の函館行き特急《はつかり13号》に乗せてくれるということらしい。
しかし(ごく一部の例外を除いて)、たとえ特急券を持っていても特急には乗れないのが青春18きっぷの掟。次の《海峡11号》の出発まで待つしかないな…と思ったその時、駅員さんが向こうから声をかけてきた。求められるままに持っている切符を提示するが、青森から先が普通の乗車券ではなく青春18きっぷだということを知ると、駅員さんの表情が曇る。やはり青春18きっぷではダメなのか。半ば諦めて『やっぱり次の《海峡11号》を待たなければダメですよね?』と言おうとした次の瞬間、手にしていた紙を私に手渡して「これで《はつかり13号》へ乗って下さい」と言った。

便宜乗車の指示書
業務連絡書
関係各長殿           青森駅営業助役
11年8月23日
便宜乗車お願い致します

羽越本線集中豪雨のため、2001M(いなほ1号)
大幅遅れのため津軽海峡線3129(海峡9号)
に不接になりましたので、1013M(はつかり13号)
自由席に便宜乗車お願いします。
記事:(原券払い戻ししない条件)

出発前に青春18きっぷに詳しいページを見て【救済措置は無いものと考えたほうがいい】と思っていたので、嬉しいというより驚きのほうが大きい。普通に《はつかり13号》で函館まで行くと¥4830-。これは《いなほ1号》で使ったお金が帳消しになったと考えるべきだろう。

出発までまだ30分近くあったので、一旦改札の外に出て銀行のATMで現金を補充。函館に着く頃には銀行は閉っているので、ここを逃すと翌朝札幌に着くまでに何かあったら困ったことになってしまう。
駅に戻ると、ちょうどホームに列車がやって来た。席を確保してホッと一息つくと、途端に空腹感が襲ってきた。そりゃそうだ、今日は村上に着く前に食べたおにぎり2個と500mlペットボトルのお茶2本以外口にしていないから無理もない。ホームの売店で駅弁とお茶を買って遅い昼食。食べきった直後に列車はホームを離れた。


青森駅を出て、《はつかり13号》は割とゆっくりとした速度で青函トンネルへと向かう。車掌さんが検札にやって来たので、恐る恐る18きっぷと青森駅で貰った業務連絡書を見せると、怪訝そうな顔でひとしきり眺めた後、「はい、いいですよ」と言って行ってしまった。これで一安心だ。途中で下ろされたり全額払うことになったりしなくてよかった(苦笑)。
途中から津軽海峡線専用に作られた立派な線路に入ると、列車はスピードを上げはじめた。ほとんど真っ直ぐでトンネルが多いあたり、新幹線を彷彿とさせる。いつか新幹線を通すことを意識して作ったのだろう。車内放送で「地上のトンネルを9つくぐった後、青函トンネルに入ります」と言っていたので、トンネルの数を数えてみた。1つ、2つ、3つ…そして9つ目のトンネルを抜けた後、《はつかり13号》は短い警笛を5回続けて鳴らし、青函トンネルに入った。青函トンネルだからといって特別に入口が派手なわけでもなく(青いスポットライトで照らされているらしいが)、あの警笛がなければ多分分からなかっただろう。

トンネルの中は暗く(当たり前)、一定間隔で設置された照明が後方へ流れていくだけなので、お世辞にも眺望がいいとは言えない。そのうちだんだん退屈になって来て、ここまでの疲れも出たのか、北海道側の出口へ着く前に眠ってしまった。

またしても函館に着く直前の車内放送で目が覚めた。外はもう真っ暗だが、天気は悪くないらしい。
予定より1時間遅れで函館に到着。あれだけのことがあって1時間遅れなら上出来だ。

函館駅


早速、夜景を見に函館山へ。
ロープウェイの駅までは結構距離があるようなので、駅前から出ている市営バスに乗って出発。路線バスなのに車掌(添乗員)が乗っているのも珍しい。車掌さんのアナウンスを聞きながら曲がりくねった細い道を登っていくと、5合目の辺りから大型バスやタクシーで渋滞になっている。観光シーズンだから仕方がないけど、これじゃいつになったら頂上まで行けるのやら…
すると、バスは何食わぬ顔で(?)対向車線に出て走り出した。すかさず車掌さんがアナウンスでフォローを入れる。山頂の駐車場にも限りがあるので、観光バスやタクシーには交通規制がかかる(一般車は夜間通行禁止)が、市営バスはどんなに混んでいてもフリーパスなのだそうだ。途端に車内からは拍手が沸き上がる(笑)。
微塵も動かない、長い長い車の列を尻目にバスは山頂へと向かう。7合目辺りになると、諦めて徒歩で山頂を目指す観光客の姿も見える。ツアーには年配の方も多いだろうになぁ。

函館駅から30分余りで山頂に到着。バスを降りると、見渡す限り人、人、人…

人ひとヒト バスだらけ

人波をかき分けて、夜景が見える場所まで移動する。
おー、さすがに『100万ドルの夜景』と言われるだけのことはあるなぁ。

山頂からの夜景
100万ドルの夜景。DS-20だとやっぱりつらいか

少し場所を変えると、海に浮かんだイカ釣り船の集魚灯が見えてこれまた綺麗。市街地の奥にある湯の川温泉の辺りからは花火が上がっている。確かにこの眺めなら、あれだけ人が集まるのもうなずける。
ロープウェイの山頂駅へ行ってみると、ここでも長蛇の列。やっぱり市営バスを使って正解だったようだ。

続いてこちらも有名(?)な市営谷地頭温泉へ行くために、市営バスに再び乗り込んで山を下る。途中でバスから市電に乗り換えて、終点の谷地頭停留所から歩くことしばし。さっそく中に入って入浴券を買おうとしたら、今日はもう営業終了とのこと。あと5分早ければ間に合ったらしいが…せっかく楽しみにしてきたのになぁ。

温泉の代わりに、市電に乗っている間に見つけた銭湯に入ってから函館駅へ。次に乗る急行《はまなす》が来るまでまだ2時間以上あるが、とりあえず何もすることがないので駅の近くをウロウロして時間を潰す。23時近くに《海峡13号》が到着すると、大きな荷物を持った人達が改札から出て来た。多分、秋田から《いなほ1号》に乗らずに各駅停車を乗り継いで来た人達だろう。そして降りて来た人のほとんどが、30分後の《ミッドナイト》に乗って札幌へ向かって行った。

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