ミンダナオ子ども図書館日記は、松居友(文芸家協会会員)が日記風にしるす、
ミンダナオMindanao、ミンダナオ紛争と平和構築
ピキットPikit、コタバトCotabato地域のミンダナオ紛争、
ムスリムMuslim、先住民族Manoboの考察など

ミンダナオ子ども図書館:日記
ミンダナオ執筆日記:2009
(4)


制作中

12月12日(土)

 イスラム地域、ピキットのとりわけ反政府活動が盛んな山沿いの集落に、ミンダナオ子ども図書館で保育所と初等小学校を建てた。
 その開所式があり、若者たちやスタッフ、日本事務局の大渕みほ子さんたちが、読み聞かせに行っている。
 ぼくはと言えば、体調が悪くてパス・・・
 それでも、少し元気が出てきたので、今回の戒厳令について若干のぼくなりのコメントを書こうと思う。

 ミンダナオは、戒厳令というセンセイショナルな法令が布告されて、「大変な状態になっている」と思っている人も多いだろうが、きわめて平穏だ。
 今回の事件は、国軍とMILF軍と行ったような、大規模な軍事衝突に発展していない(今のところ)。
 今後の成り行き次第ではどのように展開するかはわからないが、こちらの人々を見ていると、様子見といった感じが強い。

 それにしても、「戒厳令」とは、はたまた大げさなことをしたものだ。
 マニラでは、カトリック教会などから、そこまでやる必要があったのだろうか、と言う批判の声も挙がっている。


【マニラ=共同】57人が惨殺された事件をきっかけに、アロヨ大統領は同州に戒厳令を布告。事件への関与が疑われる知事一族や、傘下の私兵組織を摘発するとしている。ただ、一部議員らからは「戒厳令を布告するほどの騒乱状態にはない」と批判の声も上がっている。
 今回の出来事は、いわゆるフィリピン政府とMILF(反政府勢力)の対立の構図では説明できないし、テロリスト掃討作戦との関係でも理解できない。
 それゆえ、記事を読んだ日本の多くの人々から、 「正直に言って、何がどうなっているのかわからない・・・」と言う反応が聞こえてくる。
 これを理解できれば、現在世界で起こっていることのモデルが理解できる?・・・

 今回の記事は、日本の新聞もかなり話題にした。
 事件の残虐性もさることながら、(被害者は切り刻まれたりレイプされた跡が見える・・・恐らくこれは、対立候補を激怒させる仕掛けだったろう)
 それに加えて、非常事態から戒厳令という、記事になりそうな法令が飛び出したからだろう。
 2000年2002年、はたまた去年の戦闘の方が避難民も多く、はるかに大変な状況だったと思うのだが。こちらの方が記事は小さい。

 今回は朝日の松井健氏の記事が概略を説明しているので、まずはそれを参考にして分析を始めよう。
 「この記事を読んで、ミンダナオ情勢の背景が、ますますわからなくなった」と言う意見も聞こえてきたが、それは記事が悪いのではない。
 記事自体は短い中で良くまとまっている。ただ、現地の事情があまりにも複雑で、日本人には縁遠い状況なのだ。


【マニラ=松井健】フィリピン南部ミンダナオ島のマギンダナオ州で女性やジャーナリストら57人が政争絡みで殺害された事件は、地元で政府機能が失われる事態に発展し、フィリピン政府は4日、戒厳令を布告した。容疑者たちは地元で絶対的な権力を握るボス政治家の一族。ここまで無法が広がった背景には、アロヨ政権が自らの権力維持やイスラム武装勢力との戦いに地元ボスを利用してきた経緯も絡んでいる。・・中略・・・

 殺害事件は、同州知事や同州を含むイスラム自治区知事など数多くの要職を独占するアンパトゥアン一族が、来年5月の州知事選での別の一族からの立候補を阻止するために実行したとされる。アンパトゥアン一族はアロヨ大統領と親密な関係を築いてきた。2004年大統領選でアロヨ氏はイスラム自治区内で不自然なほど大量に得票し、票操作が疑われた。見返りに政権から支援を受け、強大な権限は地元警察や裁判官にも及ぶ。殺害事件には警察官が関与したとされ、私兵は軍から横流しされたとみられる武器を持つ。

 ミンダナオ島では、キリスト教徒中心のフィリピン政府に対し、約40年前からイスラム武装勢力が独立や大幅な自治を求めて戦闘を続けてきた。政府はキリスト教徒の政治家や協力的なイスラム教徒の一族を支援して、私兵を組織させて反政府勢力との戦闘に利用してきた歴史がある。同島には有力氏族間の長期にわたる抗争も根付く。
 こうした歴史的背景に加え、アロヨ政権下では政府に批判的な活動家やジャーナリストが殺される「政治的殺害」と呼ばれる事件が頻発。国軍や警察の関与がささやかれるが、事件が解明されることはほとんどない。
 「有力者は罪を犯しても罰を受けない」という雰囲気が比社会に広がった。アンパトゥアン一族が白昼堂々と多数を殺害する事件を起こしたのは、こうした絶対権力の暴走と指摘されている。

 比政府は「アロヨ失政のつけ」という国内世論の高まりに加え、国際社会からも対応を迫られた結果、一族の摘発に乗り出した。私兵との戦闘の可能性や司法システムの崩壊の結果、治安維持のため戒厳令を布告せざるを得なくなった側面がある。また、アンパトゥアン一族は例外ではなく、こうした構図が比各地にあるとの指摘もある。

 上の記事の中で注目すべき部分の1つは、「ここまで無法が広がった背景には、アロヨ政権が自らの権力維持やイスラム武装勢力との戦いに地元ボスを利用してきた経緯も絡んでいる。」という部分。
 海外から見ると、ミンダナオのイスラム勢力は一体化して反政府勢力化していると思われる節もあるかもしれないが、当然そうではなく、イスラムの人々の間でも、反政府勢力派と政権派の二つに分かれている。
 一概には言えないが、前者は貧しい人々に多く、後者は、イスラムでも大地主に多いようだ。
 大地主の場合は、いくつもの村(広大な土地)を一族で持っており、そこの住人数千人は、何と皆「小作」だったりする。

 「小作」は実質的に主人(領主)に忠実であるべきであり、普段は単なる農民であっても、「領主」から武器を与えられて戦うように指示されると「私兵」に変質する。
 アンパトゥアン一族は、その様な、地域の「有力者」のなかでも、反政府組織の強いマギンダナオ州でかなり大きな力を持つ者であった。
 今回の事件は、主人=領主が、配下の者たちに命じて、政敵を、「残虐な方法で」殺させたことから発している。
 最初は、殺した一族は、MILF(反政府勢力)の仕業にしたかったようだが、問題はその中にかなり多くのジャーナリストが含まれていたことだ。

 もしも、多くのジャーナリストが殺害されて、その中の有る者が、携帯で事態をミンダナオの外部に報告していなかったならば,この事件は、法政が機能していないミンダナオ内の通常のリドーのように、裁判に提訴されることもなく、対立候補一族の復讐に発展し、アンパトゥアン一族と殺害された一族との、相当大規模な戦闘に発達していたことだろう(これは、現地の筋から聞いた話)。
 こうしたシナリオこそが、フィリピン政府軍をミンダナオに呼び込み、本格的な戒厳令をしくために。
 ひいては、アロヨ政権が全権を掌握するための最良のシナリオだったに違いない。

 アロヨ政権は、末期的状態で、ミンダナオで大規模な戦闘を起こし戒厳令をしいて全権を掌握したがっていると言う噂はすでに出ていた。
 (これも、ある筋から事前にリークされたものかもしれない。アメリカの911事件のように・・・?)
 ただし、大勢のジャーナリストが殺害され、犯人に関する報告がすぐに出たので、対立候補も復讐を決行するまでにはいたらず、海外でも、ジャーナリスト殺害に対して、アムネスティーなどが抗議した。
 そのため、まだ本格的な戦闘がミンダナオで始まる前に、アロヨ政権は(しぶしぶ)犯人であるアンパトゥアン一族を拘束せざるを得なくなったようだ。

 本来ならば、世間で話題になる前に、こうしたリドーと呼ばれる動きは、対立候補が反撃に出て、大規模な戦闘に拡大し難民が出た時点で報道される。
 今回の筋書きは、大規模な戦闘に拡大した時点で非常事態宣言を発し、国軍が参戦し、戒厳令を発令すると言う物ではなかったかと疑っている。
 これは、こちらでの一般的な認識でもある。なぜなら、戦闘の多くはこうした発端で作られるからだ・・・。

 ところが、誤算は、殺害されたジャーナリストから(そこには海外のメディアも含まれていたという)現場の報告が行ったこと。
 真相を裁判で究明されることが、アロヨ政権は消極的でも余儀なくされたこと。
 最初、殺害者一族は、MILFの仕業にしたが、あまりの残虐な方法にいたたまれなくなって、殺害者の一部が自白したことから事態が明確になった点が上げられる。
 その結果、対立候補が反撃をすることなく、裁判にゆだねられることになった。

 政敵を殺害するような事は、実はイスラム地域だけではなく、フィリピンではたびたび起こるが、この様な残虐さはまれに見る。
 前のミンダナオ子ども図書館日記でぼくは、戒厳令を引き出す可能性に触れたが、本当にそうなるとは思ってもいなかった。
 しかし数日の間に、国軍の強い要請にしたがって、アロヨ大統領が実際に戒厳令を布告したところを見ると、やはりもともと、「戒厳令を引き出すための筋書き」だったという噂は本当のことのように思える。
 その結果、マギンダナオ州は全ての行政機能が止まり、軍が掌握した。


 しかし、実態はどのようなものかというと、先日ぼくは、ピキットの山岳地域の保育所と初等小学校の開所式に行った。
 途中、戒厳令がひかれているマギンダナオ州を通ったが、多少軍が目立ったぐらいでほとんど普段と変わりなかった。
 DSWDのグレイスさんも開所式に参加したが、「マギンダナオであのような事件があったけど、普段よりも平和ですよ・・・」と言う話。

 ただ、今回のアンパトゥアン一族の背後にアメリカが関与しているのではないかという、意外な話が別の人から聞こえてきた。
 今回のアンパトゥアン一族の家宅調査の結果、異常なほどの大量の兵器が見つかっている。
 その武器の中に、何と国軍でもまれにしか見られないほどの高性能の米国製武器が見つかっているのだ。武器の種類も、ぼくは聞いている。
 おそらく米比合同演習(バリカタン)のときに、横流しされたか供与されたと見られているが・・・


世界日報
【マニラ福島純一】虐殺事件への関与が疑われる地元の有力政治家アムパトゥアン一族が、先に発令された非常事態宣言と一族出身の町長の逮捕に反発しており、私兵を使って反抗する動きが確認されたため、政府側が先手を打って強硬手段に出たとみられている。戒厳令を受け司法当局は、事件への関与が疑われる同州知事などの拘束を開始した。 同日に行われたアムパトゥアン一族の家宅捜索では、邸宅の敷地から大量の武器や弾薬が発見された。
国軍や警察が関与している可能性もあるとして、当局が入手経路を調べている。

 MILF反政府勢力もアメリカ製の武器を手にいれて戦っているし、アメリカが政府、反政府、両方に武器を供与しているのは現地では自明の理だが・・・
 (敵であろうと味方であろうと、武器商人にとっては、商売のうまみは同じだろう)
 しかも、見つかったのは、軍や警察から横流しされた武器弾薬だけれはなく、誘拐によって略奪したと思われる品物や車なども多数見つかっている。
 このことは、この一族が、軍や警察と関係を有していながら、同時に、誘拐犯、テロリストとして活動していたことを意味している。
 人によっては、アムパトゥアン一族はアルカイダ系のアブサヤフとつながっていた、という人もいるぐらいだ????

 (行政府とつながっている者が、同時に誘拐するという事などは、一般日本人には、理解しがたい事と思われるが、多くの中国人が誘拐されている。
  ミンダナオは、中国商人の経済力で持っていると言われるほど、中華系の力は強く、コタバトには中国語学校もあり、市場では中国語の「コーラン」も売られている。
  中国人誘拐は、目的は武器を購入するための資金であるかもしれないが、中華系のけん制?
  行政とつながっている一族が、同時にテロリストまがいの誘拐犯であるという事実は、ぼくには不思議ではない。これ以上は言えないが・・・・)

 この様な地元の領主や大地主(クリスチャン系も含めて)有力者は、州知事、市長、警察、村長など政治的に権力を持っている事が多い。
 アロヨ政権に限ったことではないと思うが、ミンダナオのイスラム教徒を治めていくために、中央政府や海外勢力は、こうした有力者に膨大な支援金を支給してきた。
 支援は、直接のお金だけでなく、土木建設資金や、戦闘が起こった時に来る海外の国際NGOや海外政府からの支援、
 特に2000年、2002年のテロ掃討作戦では、USAID(アメリカ)やオーストラリア、日本からの支援もこうした行政よりの地域に偏る傾向があった。
 究極の目的は、アフガニスタン同様に石油や天然ガスの資源獲得だと思われる。

 (地域政府を通して支援が行われることを考えれば仕方がないことだが、ミンダナオ子ども図書館は小さいなりに、逆に支援が行かない地域を重点的に支援しているが・・・)

 「ミンダナオ島では、キリスト教徒中心のフィリピン政府に対し、約40年前からイスラム武装勢力が独立や大幅な自治を求めて戦闘を続けてきた。政府はキリスト教徒の政治家や協力的なイスラム教徒の一族を支援して、私兵を組織させて反政府勢力との戦闘に利用してきた歴史がある。」(松井健:朝日新聞)
 つまり、権力の座にあるという事は、膨大な支援金や物資、米などの支援が懐に飛び込んでくることを意味しているし、支援を与える方も、自分の息のかかった(言うことを聞く)者に育てていく意図もあるようだ。

 「政府はキリスト教徒の政治家や協力的なイスラム教徒の一族を支援して、私兵を組織させて反政府勢力との戦闘に利用してきた歴史がある。同島には有力氏族間の長期にわたる抗争も根付く。」(松井健:朝日新聞)
 これも事実で、大きな戦闘が起こるきっかけを作るのは、もっぱらこの「私兵」であるとも言われている。去年、80万の避難民を出した戦闘も、きっかけはクリスチャン系の有力議員が農民に武器を渡してイスラムの農民を襲ったことがきっかけであると伝わってきている。

 またこうしたことを公に批判しようとしたジャーナリストが殺害されていることも事実で、アムネスティも講義するほど、ジャーナリストやNGO関係者の殺害が多く、ぼくの知っている人も数名殺害されている。ぼくも危ないかもしれない・・・?
 「こうした歴史的背景に加え、アロヨ政権下では政府に批判的な活動家やジャーナリストが殺される「政治的殺害」と呼ばれる事件が頻発。国軍や警察の関与がささやかれるが、事件が解明されることはほとんどない。」(松井健:朝日新聞)

 松井氏は最終的に、今回この様な事件が起こった原因を、こうした野放図な政治形態にあると結論づけている。
「『有力者は罪を犯しても罰を受けない』という雰囲気が比社会に広がった。アンパトゥアン一族が白昼堂々と多数を殺害する事件を起こしたのは、こうした絶対権力の暴走と指摘されている。」「比政府は「アロヨ失政のつけ」という国内世論の高まりに加え、国際社会からも対応を迫られた結果、一族の摘発に乗り出した。私兵との戦闘の可能性や司法システムの崩壊の結果、治安維持のため戒厳令を布告せざるを得なくなった側面がある。また、アンパトゥアン一族は例外ではなく、こうした構図が比各地にあるとの指摘もある。」
 これは、一面事実であって、つまり大地主が土地も(政治)権力も私兵による(軍事)や殺害を平気で行う風潮は、イスラム地域以外でもフィリピン全土に広がる根本的な問題である。

 ただ、今回の場合、アンパトゥアン一族は、アロヨ大統領とも関係があり(アロヨ大統領は、アンパトゥアンの首領をパパと呼んでいる)、軍や警察ともつながり、
 武器を供与してもらっていたのだから、戒厳令発令の理由が、フィリピン政府が説明している「公的機関は機能しておらず、武装集団があちこちにいる。既に『反乱』といえる状況だ」と言う解説はそれほど納得できない。
 アンパトゥアン一族が大量の武器を持っていることも、軍は知っていたはずであるし、そもそも武器を供与したのは軍や警察なのだから。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2009120802000066.html

 アロヨ大統領は、アンパトゥアン一族の対立候補とも良好な関係を持っていたことは、毎日新聞が書いている。ただし、対立候補とも関係を有していた。
 毎日新聞は、今回の戒厳令が、軍の強い介入で実現したとしている。 
http://mainichi.jp/select/world/news/20091208ddm007030095000c.html

【マニラ矢野純一】フィリピン南部ミンダナオ島マギンダナオ州で起きた州知事選絡みの大量殺害事件で、比政府による4日の戒厳令は、国軍主導で発案されていたことが7日、政府関係者らの証言で分かった。任期切れを半年後に控え支持基盤が揺らいでいるアロヨ大統領は、軍との関係を一層緊密にするため、軍の意向に積極的に従ったとみられる。

 関係者によると、国軍幹部ら大統領府の主要メンバーは4日、国家安全保障会議で戒厳令の是非を協議。国軍側は、州知事候補の親族らを殺害したとされる州の実質的な支配者アンパトワン一族が事件後、中央政府の介入に対し州内各地で反乱を計画していると指摘し、戒厳令の発令を強く主張。アロヨ大統領が発令を決断した。
 事件後の11月24日、政府が同州などに非常事態を宣言。野党議員やカトリック教会関係者から、政府が戒厳令を発令するのではないかと、危惧(きぐ)する声が上がっていたが、こうした声を事実上、無視した形となった。

 アロヨ大統領は04年の大統領選でアンパトワン一族に票の取りまとめを依頼する一方、見返りに膨大な政府予算を投下するなど、緊密な関係にあったとされる。ただ、殺害された対立候補の一族も大統領と良好な関係にあり、隣接州の州知事などを務めている。このため、大統領の決断について政府関係者やマギンダナオ州の有力者は「(アンパトワン一族を排除しても)失うものはないと判断したようだ」と説明する。

 国軍と国家警察は7日までに、殺人や反乱の疑いで一族のリーダーで州知事を3期務めたアンダル・アンパトワン氏のほか、息子の現州知事ら62人の身柄を拘束。一族の敷地などから自動小銃や迫撃砲など883丁の武器と、約43万発の銃弾を押収した。国軍や国家警察から横流しされた武器も確認された。

 自動小銃や迫撃砲など883丁と、43万発の銃弾というのは常套ではない。
 しかも、国軍や国家警察から横流しされた武器も確認されているし、国軍でもなかなか手に入らないアメリカ製の特殊な武器も見つかっていることから この事件が、単なる地域の有力者同士の対立から発しているとは思えない部分もある。
 矢野氏が指摘している以下の部分は興味深い。
 「政府関係者やマギンダナオ州の有力者は『(アンパトワン一族を排除しても)失うものはないと判断したようだ』と説明する。」
 アンパトゥアン一族の利用価値が無くなったという意味だろう。

 ただ、地元では今回の戒厳令は、背後で、軍も警察も(アメリカも?)武器を双方の一族に供与しつつ組み立てられた、計画されていた筋書きだったのではないかと思われている。
 かなり大きな戦闘を起こし、ミンダナオ全土的に非常事態宣言と戒厳令を発するための、5月の大統領選を意識した・・・・・????
 それが、ジャーナリストを通して、あまりにも早く暴露されてしまい、中央法廷で裁かざるを得なくなり
 本来ならば、二つの一族が熾烈に戦いあうなかで、国軍が参戦し、本格的な戒厳令を発令する筋書きが狂った?

 それでも、国軍の圧力に負けて、とりあえず首を傾げたくなるような戒厳令が発令されたが、戒厳令は、これを書き上げている翌日の13日解除された。
 日経新聞より:

http://www.nikkei.co.jp/news
/kaigai/20091212AT2M1202212122009.html


【マニラ=遠西俊洋】フィリピン大統領府は12日、アロヨ大統領が南部ミンダナオ島マギンダナオ州に布告していた戒厳令を同日付で解除すると発表した。11月に同州で57人が惨殺された事件を受け、同大統領は今月4日に治安回復のため戒厳令布告に踏み切ったが、一定の秩序を取り戻すことができたと判断した。
 惨殺事件は地元政治家の抗争を背景にしたもので、戒厳令布告後は同州に国軍が本格展開。事件の首謀者とされる知事一族の私兵約4000人の投降などを求めた。知事一族側の逮捕や武装解除が進んだことなどを踏まえ、戒厳令解除を決めた。地域限定とはいえ、マルコス長期独裁政権下の1972年以来の戒厳令には国内外から「過剰反応」との声も出ていた。(01:46)

 くすんで不発した花火?
 結局は茶番劇だった?
 それにしても、残酷さだけが残った。相手を挑発するためだったにせよ・・・
 殺された家族とジャーナリストに追悼
 殺害現場から報告して死んだジャーナリストがミンダナオを救った・・・・・
 
 しかし、これも憶測に過ぎない。背後にもっと複雑な筋書きがかくれているのかもしれない。
 とりあえずミンダナオは平穏だが、今後の展開はわからない。
 来年5月の大統領を含む総選挙までは予断を許さない状況が続くだろう。

12月11日(金)
ミンダナオの記事が、日本の新聞を賑わしたらしく、ぼくの元にも心配の電話やメールが届いた。
ご心配してくださった方々ありがとうございます。
ミンダナオは、皆さんが思っているよりもずーっと平和です。

12月2日、ミンダナオ子ども図書館に着いて、子どもたち、若者たちが大喜びで迎えてくれた。
去年より年齢がいくぶん下がって、こちらでの高校生つまり、日本での中学生から高校一年までが多いからだろうか、
ぼくがいなくてかなり寂しかったようだ。2ヶ月の留守が長くて、泣き出す子もいたと聞いた。
また、久しぶりに歓迎してくれた夜、歌をうたいながら涙ぐんでしまった子もいた。

いつも想うことだが、本当に純粋な心を持った子たちだとおもう。帰ると本当にホッとして心が暖かく癒される。
日本での滞在中のスケジュールは、限界ギリギリ(歳をとったものだ・・・)と思えるほどの強行軍だった。
それでも、声をかけてくださり、共にミンダナオや日本の若者たちの未来を考えてくださった方々、支援してくださっている方々に心から感謝します。
こちらに着いたなり、山岳のマノボの子たちの保育所候補地、視察に駆け回り、とうとう高熱を発してダウン。

こちらの若者たちも心から心配してくれた。
その心の暖かさ、日本にいる時との違いに、ようやく日本での緊張が解けて行く・・・
文明国の悲しさから抜けだすと同時に、その接点にある馬鹿げた殺害事件を考えるのも面倒になったようだ。


日本を駆けめぐったマギンダナオでの殺害事件。
予想したとおり、非常事態宣言から、戒厳令(茶番のような)発令。
かなり茶番劇めいている。
日本の人々には、あまりにもこんがらかった様相で、理解に苦しむ点もあるだろう。

これが、理解できれば、世界情勢の仕組みがわかる????
現在の情勢は様子見だが、病気が回復したら少し分析をしたいと思っています。

ミンダナオにおける、MILFと政府との平和交渉は、順調に歩み始めたようですが・・・
http://gulfnews.com/news/world/philippines/
talks-with-milf-rebels-end-on-a-positive-note-1.551837


11月26日(木)27日(金)  
ミンダナオのマギンダナオ州で57名の犠牲者が出る殺害事件があった。日本でも、この出来事は多くの新聞やTVで報道された。
http://www.google.co.jp/news/more?cf=all&ned=jp&cf
=all&ncl=dUdaTrS6-gdptnM7UB2fkwS_EUr6M

この種の政治的対立や土地問題から起こる、いわば内部抗争は、一般の戦闘と区別してリドーと呼ばれる。
大概小規模で終わるのだが、間接的に大規模な戦闘に拡大することもある。
(今回の戦闘地は、ミンダナオ子ども図書館が直接関係している地域からは外れているので、危険があるとは思えない。
とりわけキダパワンは問題ない)

ぼく自身の感想は、「やはり起こったか」という点につきる。
日本語で報道された記事をとりあげて、問題の核心を整理しよう。
今回の出来事で、とりわけ重要なポイントは

1,アロヨ大統領が非常事態を発令した。
2,国軍がマギンダナオ州に入った。
3,犠牲者の数が多く、ジャーナリストを含んでいた
4,この事件とは別だが、MILF側がアメリカの和平交渉への関与を拒否した。

まず、1の「アロヨ大統領が非常事態を発令した」件だが、常識的に考えれば、「大規模な戦闘が起こったがゆえに==非常事態を発令」、と言った流れを普通の人なら想像するだろう。
しかし、こちらの一般的な感覚では、ぼくと同じ感想を持った人も多いと思う、すなわち「やはり起こったか」という感想だ。
何故かというと、アロヨ大統領が、「非常事態宣言を発令したい」または、「しようと(企んで)いる」と言う情報が入ってきているからだ。
そうすると、論理は逆転する。
「非常事態を発令したいがために==戦闘を起こした・・・・・・?」

もちろん、アロヨ大統領が直接起こしたわけでは無かろう。
「非常事態を発令したいと、アロヨ大統領が思っている」と噂が流れる背後にある理由は、5月の総選挙だ。
率直に言って、現政権の評判は良くない。
アキノ大統領の子息が当選する可能性が高いと言われているし、もしもアロヨ大統領が落選すると、前回の選挙不正をはじめ、不利な証言が多く出てきて窮地に陥る可能性もあると言われている。

これは、噂に過ぎないのだが、「アロヨ政権は、自己延命のために、なりふり構わぬ様相をしめしており、その有力な筋書きが、ミンダナオで戦闘を起こし戒厳令を発令して全権を取得(マルコス政権と同じだ)その後、大統領制を廃止して、内閣総理大臣制に代え、初代の総理大臣として延命を計る」と言うものだ。
本当にそう思っているか、可能かはぼくにはわからないが・・・・
しかし、非常事態を発令することによって、政権党としての求心力を高めようとすることは、大いに考えられる。そのために戦闘を起こした・・・
こうしたミンダナオの人々のある種の考えが、あながち間違っていないと思われるのは、毎日新聞の矢野氏の記事だ。
全体像を理解するために、全文を引用した。

フィリピン:知事候補の妻ら46人殺害 政府が非常事態宣言−−ミンダナオ

 【マニラ矢野純一】フィリピン政府は24日、南部ミンダナオ島のマギンダナオ州と、隣接するスルタンクダラット州、コタバト市に非常事態を宣言した。

 マギンダナオ州では23日、来年5月の知事選の立候補届け出に向かっていた候補者の妻や地元記者らの車列が武装グループに襲われ、46人が殺害された。大統領府は国軍や国家警察を動員し、同地域の治安を確保するとともに、真相を解明することを明らかにした。

 国軍は、対立候補の出馬を嫌う現職知事一族が事件に関与しているとの見方を強めている。候補者と現職知事の一族は長年にわたって政治的に対立。知事一族はアロヨ大統領の有力支持者で、同州内のほとんどの首長が一族で占められており、私兵集団も抱えている。事件後、殺された候補者一族が、報復を計画しているとの情報も流れていた。

 一方、人権団体「アムネスティ・インターナショナル」は23日、事件を非難する声明を出した。


ここで着目すべきは、
「候補者と現職知事の一族は長年にわたって政治的に対立。知事一族はアロヨ大統領の有力支持者で、同州内のほとんどの首長が一族で占められており、私兵集団も抱えている。事件後、殺された候補者一族が、報復を計画しているとの情報も流れていた。」という、記事のかなのとりわけ
「知事一族はアロヨ大統領の有力支持者で、同州内のほとんどの首長が一族で占められており、私兵集団も抱えている。」という部分である。
つまり、殺害側の知事一族が、アロヨ大統領の有力支持者であるということは、今回の一連の事件が、アロヨ政権側の思惑にそって動いていた可能性を示唆している。
(この報道は、非常に重要なポイントであり、毎日新聞にしか出ていない。掲載前に、この点を調べ上げたジャーナリスト魂に敬服)

一族は、イスラム教徒であり、地域的に反政府運動の拠点であるような場所にもかかわらず、何故、アロヨ大統領を支持するのか、疑問に思われる方もいるかもしれないので、ここで若干現地の様相を説明しよう。

この項を執筆中の27日、新たに毎日新聞の矢野支局長の記事が出た。
http://mainichi.jp/select/world/europe/news
/20091127k0000m030105000c.html

以下、掲載するが、これはさらに深く問題の核心を明かしている。この記事を地元の記者やラジオが発表したら、殺害された記者同様になるかもしれない。
ぼくがここに引用するのも実はミンダナオに住んでいる者としては不安なのだが・・・・
ぼくは、12月2日にミンダナオにもどる。多くの子どもたちが待っているから。376名を学校に行かせてあげ、80名をさらに食べさせてあげなければならないし・・・
記事は時間がたつとサイトから削除される可能性もあるので、以下添付しました。

フィリピン:ミンダナオ大量殺害 私兵使い政敵排除か

 【マニラ矢野純一】フィリピン南部ミンダナオ島で23日、知事候補の親族ら多数が武装グループに殺害された事件は、26日までに57人の遺体が確認されるなど異様な展開をみせている。対立候補の出馬を嫌う現職知事一族が私兵を使って政敵を排除したとみられる事件からは、40年以上続くイスラム反政府勢力と政府軍の紛争を背景に、「自衛」名目の私兵を抱える一族が、反政府勢力に対する中央政府の「盾」として権勢を振るってきた実態が浮かび上がる。

 国家警察は、マギンダナオ州知事など州の要職を長年親族で独占してきたアンパトワン一族が、来年5月の知事選に身内から候補者を出した地元有力者マグダダト一族を襲撃したとみて、アンパトワン一族と近い関係にある州警察本部長ら4人を逮捕。襲撃を指揮した疑いで、知事選に出馬する予定だった現職知事の兄の身柄を拘束、事情聴取を始めた。

 現地情報によると、両者の争いは数十年間も続いており、「出馬を巡る話し合いが決裂した結果、今回の事件が起きた」(地元有力者)。この地域ではイスラム反政府勢力と政府の紛争が40年以上続いており、銃の所持は事実上、野放し状態。敵対する両者とも私兵を抱えていたという。

 アンパトワン一族の勢力拡大には、アロヨ政権の後押しもあったとみられている。フィリピン大学イスラム研究所のワディ代表は「イスラム反政府勢力を抑え込むため、歴代政権は同じイスラム教徒の地元有力者を懐柔し、政府の盾として使っていた」と話す。政権はその見返りに、有力者が支配する地域に膨大な政府予算を投入。結果的に有力者の影響力増大に「加担」してきたという。実際、同州の町長の大半はアンパトワン一族で、逮捕された州警察本部の幹部も一族が事実上、任命していた。04年の大統領選では、劣勢だったアロヨ大統領は同州で、対立候補の3倍以上の票を獲得した。このため、大統領はアンパトワン一族に借りがあるとみられている。

 【事件概要】 ミンダナオ島マギンダナオ州で23日午前、来年5月の州知事選の立候補届け出に向かっていた車列が100人以上の武装グループに襲われた。車列には候補者の妻ら親族のほかジャーナリストも同乗。犠牲者57人のうち、少なくとも20人以上は地元記者とみられている。頭部の損傷が激しく、身元確認に時間がかかっている。


上述の記事は、さらにミンダナオの本質を描いている。重要なポイントは、

1,「対立候補の出馬を嫌う現職知事一族が私兵を使って政敵を排除したとみられる事件からは、40年以上続くイスラム反政府勢力と政府軍の紛争を背景に、「自衛」名目の私兵を抱える一族が、反政府勢力に対する中央政府の「盾」として権勢を振るってきた実態が浮かび上がる。」
事実、外部から目的とする反政府地域内に、あるプレゼンス(例えば天然ガスや石油資源の獲得)を広げていく場合に使われる手法は、内部の有力勢力の一部を見方に引き入れ、反政府勢力と対立させる方法がある。もう一つは、反政府勢力のなかに「スパイ」を送り込み、戦闘を起こさせて、戦闘に乗じて圧倒的な戦力で攻撃を仕掛ける方法。

ミンダナオ子ども図書館の奨学生のなかにも、まさにこの「盾」となって両親が殺害された、少女がいる。その殺害の方法は、正面から顔面を撃ち抜く残虐なものであった。
現地で実際的に行政を仕切るのは、反政府側ではない(当たり前だが)。政府側か「イスラム教徒でも、あるていど政府側」であるわけで、こうした人々は、荘園のような大農場主である事が多く、今回の事件を引き起こした一族のように、知事、市長、村長などの権力を握っているケース。MILFよりも、MNLFに属している場合が多いようにも見える?その結果、現地の子たちから、MILFよりもMNLFの方が怖い、と言った言動が起こる?ときどきMNLFとMILFのイスラムどうしの内部抗争が起こる理由である。

先日の神父誘拐事件やコタバト教会の爆破事件が、必ずしもMILFの仕業と言い切れないのもこの点にある。
(ピキットのドイツ人の誘拐は、現地では、MNLFであって、MILFが解放したと言われている)
MILFは、比較的低所得の貧しい人々が中心になって構成されているように現地ではみえる。その点で、NPA(新人民軍)ともつながっているようだ。

矢野氏が述べているように「40年以上続くイスラム反政府勢力と政府軍の紛争を背景に、「自衛」名目の私兵を抱える一族が、反政府勢力に対する中央政府の「盾」として権勢を振るってきた実態」は、現実の事だ。反政府勢力に対する盾として県政をふるってきた一族の背景には、中央政府と同時に、アメリカ軍など海外の勢力も荷担していると見た方が良い。コタバトのカトリック教会の爆弾事件とともに大量の武器弾薬がコタバトに水揚げされたという話からも、「武器は野放し状態」で私兵にも渡っている?

さらに、2の「国軍がマギンダナオに入った」という項目と関わってくるが、
今回の非常事態宣言で、フィリピン政府がこの地域に送り込んだ軍は、常識ならば、「戦闘を予防する」という目的であると、解釈されるだろうが、現地の人々の受け取り方では、「あえてより大規模な戦闘を起こすために送り込まれた」とも解釈できる。今回の非常事態宣言が、さらに広範囲に広がり、リドーから本格的な戦闘に発展したあげく、戒厳令がひかれるような事態になったとするならば、後者の理論が証明されたことになろう。アロヨ政権が、どこまで今回の事態を調査し、糾弾し対応するかも見どころだろう。

さらに驚くべきは、以下の記事である。これには、コメントを挟むまい・・・
「アンパトワン一族の勢力拡大には、アロヨ政権の後押しもあったとみられている。フィリピン大学イスラム研究所のワディ代表は「イスラム反政府勢力を抑え込むため、歴代政権は同じイスラム教徒の地元有力者を懐柔し、政府の盾として使っていた」と話す。政権はその見返りに、有力者が支配する地域に膨大な政府予算を投入。結果的に有力者の影響力増大に「加担」してきたという。実際、同州の町長の大半はアンパトワン一族で、逮捕された州警察本部の幹部も一族が事実上、任命していた。04年の大統領選では、劣勢だったアロヨ大統領は同州で、対立候補の3倍以上の票を獲得した。このため、大統領はアンパトワン一族に借りがあるとみられている。」
少なくともこの記事からは、アロヨ政権が、本格的な調査をするとは思えない状況がうかがえるが???


矢野氏の記事は、いくつかの点で、ミンダナオ情勢を根本的に理解しているから書ける、重要な部分がそれとなく付加されているのは注目に値する。
非常事態宣言が、「南部ミンダナオ島のマギンダナオ州と、隣接するスルタンクダラット州、コタバト市」に対して出されていることは、朝日などの他紙にも書かれているが、これは、イスラム自治区に対して出されたことであり、この地域に国軍が入ったことは、もしも今後、大きな戦闘が起こるとすると、イスラム自治区がターゲットになっているという事を意味している。
実際、去年の8月からの戦闘は、ダトゥピアンなど、ARMMイスラム自治区がターゲットになっている。ミンダナオ紛争の根本原因のひとつである天然ガスと石油は、この地域に眠っている。


11月18日(水)
アメリカ経済というか、基軸通貨というか、基軸国としてのアメリカそのものが崩壊しつつあると言う論調や記事を良く見かけるようになった。

ソ連邦が崩壊した時、多くの論調は、「共産主義の崩壊と、資本主義、自由主義の勝利!」を謳った。
しかし、その時ぼくは、「ソ連が崩壊すれば、遅からずしてアメリカも崩壊する時が来るな・・・・」と思った。
「ソ連とアメリカは、対立する仲の悪い兄弟のようなものだった。しかし、仲の悪い兄弟は、仲の悪さを主張しながら、互いに支え合っている。だから、一方が崩壊すれば、他方もイデオロギー的な支えを失って、いずれは、崩壊する時が来る・・・」そう思ったのだ。
思ったと言うよりも、当時は「感じた」だけだったが、それが現実に今、起こり始めようとしているようにも見える。

アメリカとソ連の対立、共産主義と資本主義の対立は、心情的には善悪二元論の構造のなかで動いてきた、ように見える。
ソ連は、悪であり、アメリカは正義の騎士として、自由社会の先頭に立つ?


話は、じゃっかんそれるが、ぼくがヨーロッパ、特にオーストリーのザルツブルグの大学にいた頃、資本主義と共産主義社会の対立が煽られた時期があった。
当時、欧米や日本の若者たちが、好んで読んでいた本がトールキンの「指輪物語」。英国で生まれ、その後、映画化もされて、子どものみならず世界中で話題になった。
ぼくは、このブームに「批判的」ではないものの、さめた気持ちを持っていた。
この物語に展開されているのは、善悪二元論であったから。世界に、紛争や戦争、国家間の緊張が高められる時に、必ずこの、善悪二元論ファンタジー文学が出てくる。大概、イギリスから・・・・

「ナルニア物語り」も、キリスト教の仮面をかぶってはいるが、こうした善悪二元論が基調になっているし、こうした物語の源流は、ミルトンの「失楽園」やアーサー王伝説にも見られ、ヨーロッパの特にイギリスのアングロサクソン系に深く根を下ろしているようだ。
善悪二元論的ファンタジー(童話)が、世界を飛び回り席巻する時、世界のどこかで必ず対立が煽られ戦闘が起こる、と言う感覚をぼくは持っている。
最近気になったのが、同じ善悪二元論を貴重にしたファンタジー童話として、「ハリーポッター」が席巻。911が起こり、テロリスト掃討作戦が展開され、イラク・アフガニスタンへの宣戦布告。イスラム諸国への抑圧的政策・・・・


善悪二元論が気になり始めた原因は、ゲーテの自然科学論を修士論文として、そこからヨーロッパの根底に宿る宇宙論(宇宙発生論とも呼ばれる)コスモロジーに関心を持ち始めたからだった。ヨーロッパに宿る精神構造の根幹をなすコスモロジーはどのようなものだろうか・・・
「詩と真実」に書かれている、ルシファーの現れる宇宙発生論。宇宙の根本に、両極性と高進性(ポラリテートトとシュタイゲルンク)を伴う螺旋の動きが宿っているとされる、ゲーテの自然科学論、原型論。こうした中世錬金術的な発想に起源を持つ宇宙像は、面々と欧米思想の根底に流れていることが次第にわかってきた。
ゲーテの宇宙像の原型的概念は、両極性と高進性からメタモルフォーゼと呼べれる生成が生まれてくる。三位一体から第四の存在、ルシファー(堕天使・悪魔)が生まれる。

善悪二元論は、中世十字軍の思想にも影響を与えている。
その流れを、さらに先鋭化したようにみえるのが、ミルトンやイギリスのファンタジー童話の作品のようだ。
しかし、ユングがその著「心理学と錬金術」で現しているように、善悪二元論の根っこを掘り下げていくと、いつのまにか「善悪」の概念が消えて、単なる二元論に行き着くこともわかってきた。単なる二元論とは、陰陽二元論であって、ユングが指摘したように、心性を通して東洋の曼陀羅にもつながっていたのだ。四角形の一方向が劣勢として無意識の領域に入りはするが・・・
しかし、心のあり方は4方向と中心を交えた五行・・・曼陀羅。

東洋の陰陽五行も第四の存在はあるのだが、ヨーロッパがルシファーにしてしまったような悪ではない。
裏の世界の頂点に立ち、表の世界の頂点である女性原理に向かって昇る男性的原理ではあっても、悪ではない。
この螺旋的な上昇の動きは、南から西、北、東、そして天頂へと五行の動きを展開する。
陰と陽が結びあったところにこの世が生まれる。それは、善悪二元論のような争いの構図ではなく、愛の中での一なる調和。

これらは、西欧も含めほぼ全世界に発祥の根元を有するシャマニズムの普遍的な概念。つまり、陰陽二元論こそが、二元論の根元で、そこから後世になって善悪二元論が派生した?


これを解明理解させてくれたのが、沖縄の離島、池間島での聞き取りだった。それは、小地域にのみ由来するものではなく、中国からインドから古代ヨーロッパ、シベリアから南米のインディオまで含む、人類の基層のシャマニズムだった。拙著「沖縄の宇宙像」参照。
http://www.google.co.jp/search?sourceid=navclient&hl=ja&ie
=UTF-8&rlz=1T4GPEA_jaPH320JP323&q

陰陽二元論は、「陰」という女性原理と「陽」という男性原理の狭間にこの世界の生まれて、下の男性原理から、南から西、西から北、北から東、東から女性原理の天頂へと、螺旋状の動きが生じる。その中心には宇宙を支える一本の柱がある。
シャーマンが柱や神木の周りをまわるのは、この故だが、右回りが天頂へ、左回りが死者の世界へ向かう方向だが、これはアイヌの神窓の世界観とも、ミンダナオのマノボ族の世界観とも、ヨーロッパのメイポールや聖堂の建て方(ゼーデルマイヤーの「中心の喪失」などの著書を参考にするとよい)、ユングなどの深層心理学にもにじみ出ている。

沖縄の宇宙像では、死者の世界の天空に輝くウマノハノユーヌヌスが男性原理(陽の中心)、この世の天頂に輝く女性的な力、天頂の星ネノハンマティダが陰の中心であって、具体的には北極星である。人々を天界に導く星、北極星は、カトリックではマリアの星とも呼ばれている女性原理の象徴だ。
しかし、中世ヨーロッパでは、この女性的な陰の象徴も、男性的な陽の象徴も、ある時期になると悪であるかのように決めつけられていく。それが、中世の魔女狩りなどにも影響するが、モーッアルトの「魔笛」に現れる「夜の女王」などもこの流れをくむ。堕天使ルシファーも、ゲーテが「ファウスト」で描いたメフィストフェレスも悪の象徴!
西欧の善悪二元論と、中国などの東洋の陰陽二元論を比較すると、愛を根底にした陰陽の二元論が本来の姿で、善悪二元論は中世期あたりに変質派生したものだろう。

本来であれば女性原理(陰)と男性原理(陽)の調和は、ユニットとしての円(これは、円の中に黒と白の巡りうごいている象徴に見られる)となり、「宇宙の調和」は「愛」そのものであったはずだ。神は愛なのだ。がしかし、それがいつの間にか、片方を悪として否定し排除する「宇宙」は「悪と善との戦いの場」といった構図に変更されていった。
有る対象を、(意図的に)悪と決めつけて、自分自身を善と決めて戦いを挑む姿勢。これは、中世の十字軍もそうだったが、共産主義ソ連を悪の中枢と規定したり、はたまた現在では、テロを行うイスラム諸国を悪と決めて戦闘を挑む姿勢に通じる?


こうした、善悪二元論と陰陽二元論の宇宙観から現在の世界を見ていくと、現在世界では、中国の台頭、西欧の没落過程が見えてくる。
中国の政策は、善悪二元論ではなく、陰陽二元論であると考えると、何故その動きが、同じ共産主義、社会主義のソ連とも異なっているのかがわかる。
中国の陰陽二元論と、欧米の善悪二元論とぶつかっているのが現在の世界情勢?

日本は、大戦中に、「鬼畜米英」やアジア政策における虐殺などの時代に、すっかり善悪二元論に毒され、欧米志向に変わってしまった。
個人主義や自由主義にも毒されて、善悪二元論は理解できるが、伝統的な陰陽五行は理解できず、アフガン派兵も普天間基地問題も、原爆搭載艦の寄港問題も、独自に判断し解決する力はもはやない?


11月16日(月)
ミンダナオ情勢は、再び動きはじめたようだ。良い方向に向かえばよいのだが・・・・・

日本でも、カトリック神父の解放が記事になった。朝日新聞は、今日、以下の記事を掲載した。
「フィリピンミンダナオ島の南サンボアンガ州で武装した男らに誘拐されたアイルランド人神父(79)が12日、約一ヶ月ぶりに解放された。・・・・・一部の政府高官はイスラム武装勢力『モロ・イスラム解放戦線(MILF)』の関与を疑っていたが、解放後に会見した神父は『MILFではない』と話した。」(マニラ=松井健)

中には、神父の語った言葉を直接引用している他紙がある。たとえば、Telegraph.co.uk紙は、以下の記事でこう述べている。
http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/asia/philippines/
6554831/Freed-Irish-priest-treated-well-by-Muslim-kidnappers.html
"For long periods of time we had nothing at all to do, so we sat around in the hammocks and talked at length about religion," said Rev Sinnott, who was abducted on October 11 while taking a walk in his garden."We discussed ideology and they explained to me what they believed and I then explained what I believed. There were no problems and they treated me very well despite the difficult conditions."It soon emerged they wanted money and they also said they wanted to get their message out in the international press.""I don't know who they were but it was not the M-I-L-F. We were very sure of that," he said.

興味深いのは、神父は確信を持ってMILFではない、と語っていると同時に、誘拐の目的は「金銭と同時に、国際的な新聞やマスコミにメッセージを出すことだ」と言った件。
こうした誘拐は、有る組織なりがお金を出して誘拐犯にさせることが多い。つまり、本当の依頼者は蚊帳の外にいるケースがほとんどだ。結局身代金は払われていないから、この場合の金銭は、依頼者が払ったものと言えよう。さらに依頼者の目的は、明確に、wanted to get their message out in the international pressつまり「報道を通して国際世論をゆさぶること」にあるわけで、これは、ぼくが予想したとおりだ。

別の紙面では、誘拐犯は、こんな誘拐はもうやめて「パッキャウのボクシング戦をテレビで見たいから、解放してやる」といったそうだが、雇われ誘拐犯の気持ちが良くわかる。先住民族が雇われた様子もあるが・・・

さらに興味深い動きがある。
アメリカが、再びMILFとフィリピン政府の和平交渉に名乗りをあげてきたことだ。
http://www.manilastandardtoday.com/insideNews.htm?
f=2009/november/14/news5.isx&d=/2009/november/14
The US officials brought with them a letter from US President Barack Obama, signed for him by Assistant Secretary of State Kurt Campbell,’’ Iqbal said“ I cannot give much details of the letter because it is a classified document. But in general terms, the US leader expressed his continuing support to the peace process.”

ミンダナオ子ども図書館日記でも、今回の誘拐は、アメリカを引き出す動きと関係が有るのではないかと示唆したが、いよいよオバマ訪問とセットになって、和平交渉にアメリカも手を挙げた。
いったん決裂した和平交渉ではあるが、ここへ来てEU,日本、イスラム諸国に並んでアメリカも名乗りをあげたことになる。
現在のUNの動き、そして来年5月に実施される大統領選を含めた総選挙。

かつてブッシュの時に、アメリカはMILFをテロリスト集団と認定して、2000年、2003年にフィリピン政府軍と協調してMILF地域、具体的にはピキットを爆撃もした。
このときにぼくは、避難民キャンプの惨状、子どもたちの様子を見て、「ミンダナオ子ども図書館」を発足させた。
その後の支援も偏っていたが、現在再び、アメリカはMILFと直接話を進めようとしている。

ある人人からは、すでに2008年の戦闘の時も、アメリカ軍は政府軍もさることながら、MILF反政府組織とも接触していると言う話は聞いていた。反政府勢力の武器もほとんどが米国製だという話も聞く。日本もEUも、すでにMILF側との接触を始めているし、一部民政支援も始めている。
こうした状況を、日本の人々は、ほとんど知らないだろう・・・・

問題は、「なぜ、反政府勢力を支援するか」という点だ。平和構築がその建前なのだが・・・・
地元では、国際勢力がMILFと近づくことを望まない勢力が当然ある。地元のクリスチャン政治勢力や大土地所有者もさることながら、MNLFも自分たちを飛び越えてNILFが交渉の対処となることを望まないだろう。今回の神父誘拐は、そうした一連の動きと関係があるように思われる。そうした勢力は、神父誘拐はあくまでMILFの仕業としたいだろう。しかし、オバマもMILFとの交渉を表明した今、これ以上神父をとどめ置く理由も失せたことは確かだ。それが、解放と結びついた?

こうした一連の動きは、さらに大きな戦闘を起こすための準備とも考えられるし、本当の平和構築への意欲表明とも受け止められる。
ミンダナオ紛争は、アフガンなどの世界の動きと連動しているように思えてならない。2000年の爆撃のあとに、911が起こり、2003年の再度の爆撃のあとに、イラク侵攻が起こった流れを見ていると・・・
現場のある村長の言葉が再び思いだされる。
「世界が、ここに関心を表明し始めると、その後に必ず大きな戦争が起こる・・・・」


11月13日(金)
オバマ大統領が来日した。
アメリカに長年滞在している叔母や、その他の人々から聞こえてきた話では、オバマを支持した層は、ブッシュに飽き飽きしているという。
とりわけ、アフガニスタン派兵やパキスタンへの増派には、反対している人々が多いと言う。

政治的な駆け引きというのは、国民の大多数の意志がそのまま実現されるとは限らない?
ここのところ、クリントンがアフガンやパキスタンを巡り、そこで起こる出来事、爆弾事件やパキスタン政府軍によるタリバン制圧などの動きを見ていると、明らかに、オバマの中東派兵を促すための仕掛けのようだ。
オバマのアメリカだけではなく、日本やEU、韓国などの派兵を促し、軍事を通してアメリカの牽引力を残存させようとしている、動きに見える。
むしろ、アフガン撤退を表明しているのはEU諸国であるように見える。アメリカとしては、EUがだめならアジアしかない、と言ったところなのか・・・・

普天間基地の問題を見てもわかるが、アメリカ政府の高官は、日本の軍事貢献に対する経済支援を引き出そうとしているし、政府はすでに高額なアフガン支援を決めた。日本のマスコミは、アメリカの言いなりに見える。
その様な状態に加えて、ぼくが気になるのは、オバマを支持した多くのアメリカ国民、とりわけ戦争を望んでいない層の声や顔が見えてこない。
おそらく彼らは、可能であればアフガンからの米軍全面撤退を望んでいる層であるにもかかわらず、そうした国民の声がマスコミを通してまったく聞こえてこないことだ。

ベトナムの時のような、反戦運動が起こっていないのだろうか?
起こっていても、取り上げられていないのか?オバマを支持した米国民は、何をしている??何もしないで眠っているのか???
オバマに代わっても、何も代わらないと、半ば諦めているのだろうか。国民のなまの声や感情が、まったく伝わってこない・・・
ちょうど、沖縄の一般の人々の声が、米国民に伝わっていないように・・・?

戦争にでもならないと、世界の景気は回復しない?
日経の片隅に、イラクで米国の石油プラントが始動したと出ていた。


11月12日(木)
10月20日(火)の記事で、アイルランドの神父が誘拐されたという記事に関する、ぼくの考え方を書いた。
INFO

この事件は、最初は一斉に反政府勢力の仕業というニュースが出たが、ぼく自身はミンダナオにおける経験から、多少疑問に思うところがあって、コメントを控えていた。
その後、MILFが、操作に協力する姿勢を見せたという記事が出てきて、その時点で上記のコメントを掲載した。
そして、最近、この神父がMILFの協力によって解放されたという記事が出た。
http://sankei.jp.msn.com/world/asia
/091112/asi0911121144003-n1.htm


「フィリピン南部ミンダナオ島で10月、アイルランド人神父(79)が武装グループに拉致された事件で、フィリピン政府当局者は12日、神父を無事保護したことを明らかにした。当局者によると、反政府武装勢力モロ・イスラム解放戦線(MILF)が同日、ミンダナオ島で神父を政府側に引き渡した。事件発生後、政府の一部はMILFが拉致に関与したと主張。MILFは関与を否定し、神父捜索に協力するとしていた。MILFの関与や、身代金支払いの有無については不明。(共同)」

神父の解放は、MILFによってなされたが、記事では、MILFの関与は「不明」、と書かれている。
前の記事で、かつてMILFがドイツ人の誘拐者を救出した事件がピキットであったと、ぼくは書いた。この事件では、ぼくの耳に入って来た情報によると、誘拐犯はMNLFだという話だった。
MNLFは、より行政に近いが、ときどき誘拐をする話は小耳に挟んでいるのだが、ほとんど表には出ない。

両者とも、隣近所で入り組んでいるから、密かに情報がMILF側にも流れる。
それほど、現場は、ぐちゃぐちゃに入り組んでいるのだ。
神父が誘拐された理由は、すでに書いたように、身代金が目当てではなく、事を起こして、報道させて、「何かを動かす」ことだろう。
今回解放された理由は、おそらく「思ったよりも、大きな効果が無かったか」「効果が切れてきた」かだろう。

どのような効果かは、いくつか考えられるが、ここでは皆さんの想像におまかせしよう。

ミンダナオ和平は、日本政府も関与しながら、マレーシア、インドネシアを含んで動いてきたが、去年8月に決裂して戦闘に入った。
その後、EUやUNの車をよく見かけるようになったと思っていたが、どうやらEUが活発に新たな和平構築に関与し始めたようだ。
http://businessmirror.com.ph/home/regions/
18488-eu-supports-rp-government-milf-peace-talks.html


以前、書いたように、EUの動きは非常に深く興味深いところがある。
地元のカトリック教会からの情報などがもとになっていると考えられるが・・・・現場には、MILFに接近するEUによる、平和構築を妨げたいという動きも有ろう。今回の神父誘拐も一連の流れと関係あるのかもしれない。
日本やUSAは、どのような位置関係で今後動くのだろうか。
日本、USA、中国、イスラム諸国を含めて、今後のミンダナオ情勢は再び緩やかに動き始めた?


11月12日(木)
ベルリンの壁が崩れた記念行事が行われた。
東ドイツの人々の生活が厳しいという。それは、33年前にチェコや東ドイツを訪れた時に、予想したとおりだった。

ぼくが初めて東ドイツを訪れたのは、33年前のことだ。
ちょうど、大学を卒業した後の2ヶ月、23歳の時、生まれて初めて海外旅行をした。もちろん、一人旅だ。自分で計画して選んだのが、東ドイツ。
何と、この日が、生まれて初めて飛行機に乗る日でもあった。つまり、ぼくは22歳まで、国内でも飛行機に乗ったことはなかったわけで、
飛行機搭乗の初体験は、羽田発の国際便だったわけだ。

窓際の席から、夜の東京の夜景が遠ざかっていく風景を良く覚えている。
一人日本を離れる不安というよりも、この様な巨大なエネルギーを人間が勝手に使用して良いのだろうか・・・・と考えた。

当時は、東ドイツに入るビザを日本でとるのは難しかったから、フランクフルト航空でチェコのプラハ行きの飛行機に乗り換えて、まずはプラハに降り立った。
フランクフルトは単なる乗り換えだから、初めてぼくが降り立った海外の地は、チェコスロバキアという事になる。
それから一週間ほど、チェコの知り合い宅に泊めてもらい、
チェコの東ドイツ大使館に行きビザを申請してから、車で東ドイツに入った。

東ドイツで最初に入った街はドレスデン。美しい街だった。その後、ライプツィヒを経由してエアフルトに滞在、ワイマールに向かった。
東ドイツに行きたかった1つの理由は、大学のドイツ文学科でゲーテを学んでいたからだ。
ワイマールこそ、ゲーテの滞在した場所だったし・・・・。また、共産圏というのは、どのようなところかも多少好奇心があった。

当時の共産圏の印象は深く、まず何と言っても、街を往来する人々の姿が心に残っている。
ワイマールで、片言の日本語を話すドイツ人がやってきて、若者といっしょにいろいろと案内してくれた。
明らかに、ぼくの行動をチェックしている事はわかったが、良い人だったし、おかげでベルヒテスバーデン?で、温泉体験まで出来た。

温泉と言っても裸になるわけではなく、服の上に白衣を着て、温泉蒸気の周りを、息を吐いたり吸ったりしながら療養する。
数十名の人々が、白衣を着て、蒸気の出る室内の石の周りをグルグルと歩く姿は異様だったが、変わった温泉体験ができた。
日本のような温泉情緒があるわけではないが、しばらく滞在していると、「温泉仲間」というのが、出来るという話を聞いた。

共産圏では、いわゆる街のショーウインドウなど、商業主義的な色彩がいっさい無いだけに、人々の生活の印象が強い。
夕食を食べるために一人、レストランの前で、行列に並ぶ。その入り口には、看板が立ち。
「忍耐!!待てば必ず食べられます」と書いてあったのが、思い出深い。

街の雰囲気は西側とかなり異なっていた。
商業的な西側の街に比べて殺風景な感じはしたが、それがかえって質素で質実剛健な風情を醸し出していて良かった。
18,9世紀のドイツ文学の風景そのものが有ったと言える。
その後、エアフルトからミュンヘンに列車で出たが、ミュンヘンに降りたとたん、東京に帰ったような気がした。
街を歩いていても、互いに目を交わすことなく、人々は皆、ショーウインドーを眺めたり、せかせかと前方を凝視して歩いていて、
人間の存在感よりも、物とお金の存在感が街を覆っているのだった。


その後、3年間、オーストリーのザルツブルグ大学に籍を置いたが、ほとんど学ぶこともなく、旅を良くした。
ポンコツ車に一人乗って、チェコやスロバキアにも良く行った。
チェコに入った国境近くで迷い込んで、「どうも、赤い看板が目立つなあ・・・」と思って走っていくと、突然兵舎のような場所に出て軍隊にストップされた想い出もある。
兵士が駆け寄ってきて「車から一歩も出るな!今、取り調べをする!」と言われ、小一時間待ったあげく兵舎で取り調べ調査を受けた。

「何のために、ここに入ってきたか」
「道を間違えました。」
「なぜ、この地域に来たか」
「シュティフター(作家)の生家が見たくて・・・」
「途中で写真を撮ったか!!!」
「ええ、牛を少し・・・」
「どこへ行くのか」
街の名を言い、かろうじて釈放された。
夕刻になり、二台の軍のバイクに先導されてその地域を抜けだした。
懐かしい想い出だが・・・・

その夜、ようやく古い町にたどり着き、安ホテルの地下に身を寄せたが、食堂で食事をしていると、ドイツ語をしゃべる人が近寄ってきた。
「また、調査されているな・・・」とわかったけれでも、慣れていたので、友だちになって、翌日街の小さな美術館を案内してもらった。
休館だったがのだが、その人の口利きで入ることが出来た。もちろん党員なのだろう。でも、良い人だった。
汽車で移動する時に、窓外に櫓があり、「あそこから、ぼくを監視していたりして・・・」と冗談を言うと、目を細くして微笑んでいたのが忘れられない。

知識人や、野心のある人には、共産圏は不自由で住みにくいだろうと思った。
しかし、ごく普通の生活をしている人々には、街の小さなアパート暮らしでも、郊外に小さな別荘を持っていたりして
時間の流れも、ゆったりしていて、極端な貧富の差もなく、
また競争社会独特のトゲトゲした雰囲気もなく、人々はおっとりしていて、商業主義的な看板も街にはなくそれなりの良さを感じた。

東西の壁が取り去られて、東ドイツの人々が、西側の商業主義社会、自由主義的な資本主義社会にさらされたら、きっと当惑するだろうな
最初は良いと思っても、次第に失望や、事によったら絶望を感じるだろうな・・・・と、その時思った。
東西の壁が崩れ、今、その様な事が現実に起こっている。

当時行った、ドレスデンやライプツィヒ、エアフルトやワイマールは今はどんな姿になっているのだろうか。
あのとき会った人々は、どうしているのだろうか。
東西ドイツが1つになってから、まだヨーロッパに足を運んでいない。


11月8日(日).
日本の街と、ミンダナオの街との大きな違いは、日本ではとりわけ住宅地で子どもたちが遊んでいる姿が見えないことだ。
見えないのは、子どもたちだけではない、大人やお年寄りの姿も少ない。まったく寂しい、街の様子は、そのまま日本人の心象風景?

ミンダナオの若者たちと日本に来た時の事だ。ある方が、保育園に案内をしてくださった。
保育園で、子どもたちは、ちょうどお昼寝をしていた。
先生いわく、「日本では、子どもたちはこうして保育園で面倒をみるのですよ。ちゃんと設備が整っていて、ここでお昼を食べて、今はこうしてお昼寝をしているのです。」

それを聞いて、ミンダナオの若者たちは言った。
「なぜ、自分の家でお昼を食べて、またもどってこないのですか?」
ミンダナオでは、お昼は、我が家に帰って食べることが多い。遠距離の子たちはお弁当を持っていくこともあるのだが、それでも学校ではなく、友だちの家庭に入れてもらっていっしょに食べる。ミンダナオ子ども図書館の子たちも、お昼を食べに家に帰ってくるし、時々友だちを連れてきてはみんなで食べる。特に貧しくご飯だけで、おかずのない子は分け合って食べる。

先生は、それに答えた。
「家に帰っても、お母さんは仕事で出かけているし、誰もいないのですよ」
ミンダナオの若者たち曰く。
「でも、誰かはいるでしょう。おばあちゃんとか。お姉ちゃんとか」
「お姉ちゃんとか、学校に行っている子たちは、お昼を学校給食として食べてから、学童にいくのです」
「おばあちゃんやおじいちゃんは?」
「デイケアセンターに集まっているのですよ」

それを聞いて彼等は言った。
「ああ、日本では年齢や世代によって、人々は一カ所に集められているのですね。
保育所にも、門には鍵がかけられているし、出られないようにしているのですね!
だから、街には、誰もいないんだ!!!!」
街のなかに人がいない、生活の臭いがしない原因を、意図的な隔離と思ったようだ。
フィリピンでも、金持ちの子たちの学校やヴィレッジと呼ばれる住宅地は同様に隔離されているが・・・

ちまたの生活が無くなった寂しい日本の街。
かつては、縁台があって茶飲み話をしていったり、公園で紙芝居をしていたり、駄菓子屋があったり・・・人々の日常、交流が街にはあった。
夕暮れには、屋台も出ていた。
家の内と仕事場との間に、もう一つの生活空間、「ちまた」があった。
そこにコミュニケーションがあったのに、今はまったく消えてしまい、寂しいだけの住宅地。
一般のコミュニケーションですら、コミュニティーセンターと呼ばれる建物の中で(しか)行われなくなってしまった現状。

絵本の世界でも、母子や親子、家庭、保育所ばかりが強調される。日本の母親は可哀想。保育所の先生も可哀想。
子育てなど、母親や保育者だけで、出来るものではないだろうに・・・地域がみんなで子育てをするのが本当なのに。
家で母親が我が子に(だけ)絵本を読む。保育所で先生が、(預かっている)子たちに(だけ)絵本を読む。
閉ざされた空間に限られた、絵本や遊びと言った子どもの文化。これで子どもが育つのだろうか???

日本では屋外や自然のなかで、街のちまたで、石けりや缶蹴り、鬼ごっこやかくれんぼをしている子どもたちの姿を見なくなった。
ぼくが子どもの頃、冬休み。家でコタツにあたっていたりしようもんなら、母の怒声が聞こえたものだ・・・
「そんな、コタツになどあたっていないで、子どもは外で遊んでいらっしゃい!爺婆じゃ、ないんですからね!」
手にはシモヤケが出来ていたけれども、ジャンパーを羽織って、毛糸の手袋をはめて、木枯らしの吹く外に飛び出していったものだ。
たこ揚げ、独楽回し、石けりなど・・・

今子どもたちに、大人たちに、日本人に必要なのは、親でも、家族でも、保育所や学校でも、会社でもなく、
地域社会、コミュニティーのぬくもりではないだろうか。
親や家庭、保育所や学校や会社が重要ではないと言っているのではない。
地域社会、コミュニティーのぬくもりがもどってきて初めて
会社、学校や保育所、そして家族や親が「復活」する。息を吹き返すような気がする。


家庭で読む絵本も良いのだけれども、今日本社会で重要なのは、むしろ紙芝居文化のような気がする。
紙芝居と言っても、保育所や学校や図書館やコミュニティーセンターといった、特定の空間で語られる紙芝居ではない!
公園やお寺や神社などで、子どもだけではなく、大人や爺婆、母親たちも交えた、「不特定多数」に語られる、街頭紙芝居ではないだろうか。
不特定多数とは、望めば誰でも参加できるコミュニティーの理論だろう。
絵本なら、街頭絵本?が良い。ミンダナオ子ども図書館の活動のように・・・・
知らない人、お年寄りや大人、近所の多くの子どもたちを集めて語る、コミュニティーの場。
加えて、道ばたに縁台や屋台が復活すれば、日本人の心も次第に復活するような気がするのだが・・・



11月7日(土)
フィリピンは、女性の力が強いと言われている。母系社会であるという説もある。
ミンダナオ以外のフィリピンはあまり知らないが、確かに女性の社会進出は著しく、学校の先生は校長も含めてほとんど女性、商売も女性が多く、銀行、役所も女性が多い。それがまた、しっかりしているのだ・・・・
市長、議員、司法書士なども女性の進出が大きく、大統領も女性だ。(アメリカや日本で、女性の大統領や首相はまだ見たことがない)

キダパワンの大学に行くと、約7割が女性だし、ミンダナオ子ども図書館に応募に来る若者たちも、圧倒的に女性が多い。
ミンダナオ子ども図書館のスカラシップの子たちの男女比を、正確に調べたことはないが、恐らく7:3の割合で女性が多いと思われる。
とりわけ、貧しいクリスチャンやマノボ族の子たちの場合、女の子を学校に行かせようとするケースが多い。
子沢山で、一家族に平均して7名の子どもたちがいる。その中で何故、女の子を学校に行かせようとするのか・・・・?
次第にわかってきた理由は、

1,男の子は、体力もあるので、小学校の途中か、卒業した時点で、日雇いなどの肉体労働にはいり、家族の収入を助ける役目を持つ。
特に、長男や次男は、子どもの時から、ゴムの木の汁集め、サトウキビ刈り、薪集め、バナナ農園の日雇いなどの肉体労働に参加して、家族をささえる。そして、姉妹のなかで、勉強の好きな成績の比較的よい子を一人か二人選択し、学校に行かせ、可能であれば高校を卒業して良い職に就かせようとする。

そのせいであろう、ミンダナオ子ども図書館に応募してくる子たちのほとんどが、学校へいきたい目的を、「将来、少しでも良い職について、家族を助けるため」と答えている。将来、良い職について、次に続く弟や妹を引っ張り上げるのだ・・・

2,ミンダナオでの良い職とは、学校の先生や役所や銀行の事務員、看護士やデパートの店員を想定していることが多い。
こうした会社、オフィス、役所の事務職や先生は、「女性の職」と思われている節がある。
女性はオフィス、男は黙って肉体労働・・・・
男性でオフィスや先生になる若者は、肉体労働に不向きな体の子たちが多いようだ。本人もそれを自覚しているのか、オカマを演じている子も多い。

3,極貧で3食たべられないマノボの家族も、女の子を出そうとする。
これは、はっきり言って、「口減らし」だと思うことも多い。
つまり、ティーンエイジャーになってくると、それなりによく食べる年頃になるし、下には小さな弟や妹がたくさんいるし、男の子なら、日雇いに父親と出稼ぎに行けるが、女の子の場合は稼ぎが低い。
(もちろんサトウキビ刈りなどの激しい労働につれられていくが、どうしても、収穫量が男性に比べると減る。賃金は、束ねた収穫量で決められるから・・・)

学歴の無い女子の就業は厳しい。
子守、洗濯女、田の草取り、女中。給料は有ってないようなものだし、売春や子守先、奉公先でのレイプも多い。
仕事がなければ、あとは、とにかく口減らしで結婚させること・・・・マノボの子たちの結婚は、一三歳ぐらいから始まる。
そんなわけで、ミンダナオ子ども図書館に住みこみで学校に行かせてもらえれば、本人も救われるし、親にとっても口減らし?になるのだが・・・
悲しい現実だが、この辺の事は、僕たちもある程度心得ていて、「親の責任放棄」にならないようにスタッフと突っ込んで話し、両親のミィーティングで親の責任を促しながら明確にすると共に、それなりの書類にサインをしていただくことにしている。自分の名前を書けない親の場合は、×印をサイン代わりにするが・・・

ただ、イスラム教徒の場合は、女の子よりも、男の子を学校に送ろうとする傾向がある。
イスラムの宗教では、男の役割と女の役割が明確になっているようだし、オスタージュなど宗教で重要な役割を持つのは男性だ。
だからといって、男性優位とも言えない。
第二婦人は、第一婦人の同意が無いと結婚できないし、イスラムの男性は、奥さんの後ろを一歩下がって歩いている人が多い。
料理は男もするが、力のいる料理、山羊を殺したり、男の仕事と女の仕事がわけられているようだ。
倫理も以外としっかりしていて、クリスチャンやマノボ系の若者よりも、安心して預かれる。

ミンダナオ子ども図書館に住みこんでいる若者たちは、最初は男女比が3:7ぐらいだったが、今は女性の方が多い。
理由は、やはり年頃の男女がいっしょに生活すると、恋愛上の問題が出てきて、なかには妊娠するケースがあるからだ。
基本的には、高校卒業までは恋愛禁止になっているのだが・・・

規定で大学からは恋愛はOKとしているが、妊娠した、または妊娠させた場合はスカラシップはストップ。
ミンダナオ子ども図書館内に住んでいる子の面倒は、スタッフで見るが、外部で親元や下宿をしている奨学生は、親の責任としている。
それでも、毎年、数名の子が、結婚や妊娠、親の病気や、仕事を手伝うといった理由でスカラシップを断念する。
残念だが、しょうがない。支援者としても、僕らとしても、本当にがっかりなのだが、受け入れるしか方法はない。

ただし、レイプなどで妊娠させられた子は、受け入れている。
ミンダナオ子ども図書館内の子たちは、プロジェクトに積極的に参加する機会が多い。住んでいる子の大半は高校生と小学生で(中学はフィリピンにはないから、高校生と言っても日本の中学生にあたる)、大学生は指導者として数名おいているだけ。大学になると、だいたいの子が、町で下宿生活を望むようになるから・・・また、大学生が図書館内にいて恋愛されると、年下の子たちへの影響も強く、そうしたことも考慮して、大学生のために町に一軒家を借りて集団下宿をすることにしている。ミンダナオ子ども図書館の家からは離れて、自立の一歩をはじめるためだ・・・

それ故に、現在ミンダナオ子ども図書館に住んでいる子たちは、小学生と高校生が多い
以前は男の子も多かったのだが、年齢の高い子の場合はどうしても恋愛問題が起こるので、今は問題を起こさないだろうと思われる子たちを「厳選」?している。「元気のいい」?男の子たちは、別にマキララ農場に男の子専用の家を造り、男子寮のような形で高校に通えるようにもしている。

就職は、男性の方が難しい。
オフィス職は、圧倒的に女性に有利だし、男性の職は、農業、乗り合いバイクのドライバー、車修理工。あとは日雇いの肉体労働。
男性にとっては厳しい社会だ。
それゆえか、逆玉の輿に乗ろうとする男性も多い。
つまり、良い職を持った女性を見つけて結婚し、養ってもらいながら、本人は昼間から酒飲んでブラブラしている。

男にとっては、厳しい社会だが、
貧しいながらも、妻子をやしなうために、必死に乗り合い自転車をこいでいる、お父ちゃんなどを見ると、
がんばっているなー、と感動する。


11月3日(火)
講演会、報告会の感想を一部、匿名でご報告します。
ミンダナオは、避難民の累計では世界一と言われています。30年以上、毎年のように続く戦闘・・・
避難民の悲惨な状況はパレスチナ以上との報告もあります。
しかし、その現状は、「危険地帯」ゆえにジャーナリズムが入る余地もなく、ほとんど知られていないことがわかってきました。
知られていない、ミンダナオの現状をお知らせする場としてばかりではなく、そこで生きている子どもたち、そして、救済支援に向かう、ミンダナオ子ども図書館の若者たちの姿を見て、皆さん感動し、彼らの姿を通して、逆に生きる勇気や希望を持っていただけたと思います。

*ミンダナオ子ども図書館の団体生活のなかに、絶望ではなく、希望が見えました。
 食糧をはじめ物質的には恵まれなくても、彼らの豊かな心が、
 イスラム教徒、キリスト教徒、先住民族の文化・宗教を互いに認め合っている姿勢に感動。
 宗教間の戦争を名目にし、本質的には資本主義を貫くことを目的としている大国の政治家たちこそ、恥を知るべきだ。
 子どもたちに”コスモロジー”の芽生えを見ました。  
 ありがとう!!

*日本に生活していると、毎日の慌ただしさに心が狭くなっていたと感じました。
 本日の講演会をきいたきっかけで、視野を広くし、心にゆとりを持ち、
 自分のまわりの平和からでも何かできる事をしていきたいと思いました。

*ニュースで耳にしていたミンダナオの悲しい出来事は、遠く他人事のように思っていましたが、
 その戦いの裏には、日本経済の私たちの食生活、住生活の豊かさがもたらしていると知り、
 あまりの認識不足、知識のなさに自身唖然としてしまった。
 また、報道されていない、多くのこのような活動が現地の子どもたちの心を明るく前向きにしていることに開眼しました。
 今後、新聞の裏を読み、もっと別の見方をしていこうと思います。

*松居友さんのお名前をあまり耳にしなくなっていましたが、何とミンダナオ島で
 このような素晴らしい活動をして居られることに、本当に感動しています。
 アジア学院にも、若い頃はボランティアに参加、アジア・アフリカの農業指導者育成の素晴らしさを体験しました。
 ミンダナオ子ども図書館の活動は、まさに人権運動の見本のような印象です。
 都会で教育活動に携わる者の限界を覚える昨今、目の覚めるような気持ちをいただきました。有難うございます。

*今年3月にミンダナオ子ども図書館にうかがい、お世話になりました。
 改めてMCLの活動や松居さんの熱い思いに心を打たれました。
 いつも、ホームページで見せていただいて現地の子どもたちの様子を教えてもらっています。
 とっても彼らに癒されました。
 想いをはせることで、少しでもつながっていたいと思います。
 心のつながり・・・本当に大切ですね。
 言葉が通じないのに心が通じる・・・本当に実感しました。

*今日の講演を聴いて、私は本当に幸せなんだと思った。
 私は以前から、海外ボランティアにとても興味があった。今回、ぜひ、ミンダナオ子ども図書館を訪問したいと思いました。
 私は、まだ、20歳になったばかりで、この先どうなるかわからないのですが、もっと、働くようになったら、
 保育園などの寄付に必ず協力したいと思っています。
 私の周囲に、このミンダナオ子ども図書館について知っている人は、ほとんどいないと思います。
 私たち大学生などが、もっと外に目を向ける事が少しでも出来たら、もっと協力する人が多くなると思います。
 先進国に住む、私たちだからこそ、この様なことをもっと知っていかなければならないと思いました。
 とても勉強になりました。ありがとうございました。

*予備知識が全くないまま、お話をお聞きしました。
 初めての話、映像に驚きました。
 新聞やニュースで難民のことは、何となく知っている感じでした。
 けれど、今日、現場で生きる人、子どもの表情をみて、聞き流しては行けない現実だなと感じました。


10月30日(金)
28日号で、ちょっと皮肉った文章を掲載したけれども、実際に世界情勢を見渡していると、本当に大きな戦争が西アジアあたりで起こるのではないかと、とっても不安だ。杞憂であれば良いのだけれど・・・
たぶん、ミンダナオで戦闘のなかの子どもたちを見ているからだろう、アフガニスタンやパキスタンの事が、遠い国の出来事には思えず、そこにいる子どもたちの事を考えると、前頭葉から後頭部に向かって血の気の引くような緊張が走る。
文字通り、背筋が寒くなり、頭痛が襲ってくる。

それにしても、パキスタン側が、アルカイダはパキスタンにいないと主張しているのは面白い。
パキスタンに訪問中のクリントン米国務長官は、これに強く反論している。
CNNは、アルカイダはパキスタンにいると結論つけるニュースを流している。
http://www.cnn.co.jp/usa/CNN200910300016.html
興味深いのは、AFPの記事だ。
http://www.afpbb.com/article/politics/2657911/4827329

AFPの記事で興味深いのは、パキスタン側がアルカイダはパキスタンにいないと言っているのと同時に、クリントンが
「75億ドル(約6900億円)に上る米国の対パキスタン非軍事援助にパキスタンの軍や野党からパキスタンの主権侵害だとの批判があがっていることにもいらだちを示し」ていると言う記事だ。

つまりこの二つは、パキスタン政府は軍も含めて
1,アルカイダはパキスタンにいない
2,非軍事援助もいらない。
これは米国はパキスタンに必要以上に干渉してくれるな、と言っているに等しい。
この気持ちは、ミンダナオのイスラム教徒の人々にかなり共通している気持ちで、そのことから推測するに
パキスタン、アフガニスタン、イランやイラクの一般の人々に広範囲に流布している心情ではないだろうか。
もちろん、アメリカの派兵や戦争反対派も同様に・・・

さらに市場での爆弾事件は、ミンダナオ同様に、マスコミは総じてタリバンとアルカイダのせいにしているが、こうした爆弾事件は、どこが仕掛けたかを結論づけるには注意が必要だ。ミンダナオでは、「反政府勢力のしわざとおもわれる」といった表現の記事は、しばしば体制側が仕掛け、マスコミにリークすると言われている。
今回は、犯行声明は出ておらず、唯一共同通信が、タリバン側が犯行を否定していると言う記事を出しているが、
http://www.47news.jp/CN/200910/
CN2009102901000805.html

ほとんどのマスコミは一斉に、タリバンまたはアルカイダの犯行と示唆している。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/
world/news/CK2009102902000074.html


911事件の真相は、かなり闇の中に包まれていると言われている。米国でも、真相を究明する動きが出ているが、
実行犯に関しての疑問も多い。
今回も、実行犯のパスポートが見つかったという記事が掲載されたが、朝日は、決定的な証拠のように述べているが、
http://www.asahi.com/international/
update/1031/TKY200910310177.html
CNNは、「ただ、パスポートは使い古された形跡がなく、本物かどうかは確認されていない。 」
「軍報道官は、記者らが指摘するまでパスポートの存在には気づかなかったと話している。」と報告しており。
記者か誰かが、紛れ込ませた可能性も否定できず、いかにも嘘くさい。
http://www.cnn.co.jp/usa/CNN200910300006.html

タリバンが、一般市民をどこまで巻き添えにするテロをしたがるかは、ぼくにはわからないが、(政府や軍や国連の施設は考えられるとしても)この事件は、911同様に一般市民を巻きこんだ残酷な虐殺事件で、体制側が仕組んだにしろ、反体制側が仕組んだにしろ、かなり大規模な戦争を作りたい勢力がいて、アメリカが軍事介入することを望んでいることだ・・・
ちょうどクリントンの訪問と、オバマの参戦決定を促すタイムリーな筋書き。加えて、日本とEUの参戦?普天間基地問題?

アメリカが軍事介入をすることを望んでいるとしたならば、
それは、タリバン?パキスタン政府?パキスタン軍?それともアメリカ自身?
背後で動く国際利権?(戦争には、必ず意外な目的を持った、隠れた第三者が外にいる?)
パキスタンにもミンダナオ同様、膨大な石油資源があるという。


日本で報告会をしていると、総じて皆さん、世界で、ミンダナオで起こっていることに驚かれる。
そして、一見平穏な日本が、かなり深く関係を持ち、激動している世界情勢の荒波のなかを泳いでいることに気づかれる。
先日の日の出町「覚正寺」での講演でも、浄土真宗の門徒の方々が、時には涙をためながら熱心に聞いてくださったし、湯布院の小学校の子どもたちも、自分自身の事のように、ミンダナオの子どもたちの事を感じてくれて、本当にうれしかった。
ぼくは、子どもたちに話をする時が一番楽しい。心から理解してくれるから・・・・

これから、アフガニスタンやパキスタンの戦闘のニュースを聞いても、そこで避難民となり、苦労している一般の人々、とりわけ子どもたちの事を想像して、心から同情し、戦争、あらゆる戦闘が無くなることを願う人々、何らかの行動を始める人々が現れれば良いと思う。
ピキットでイスラムの避難民を助け続けている、カトリック(OMI)のライソン神父が言った言葉が忘れならない。
「戦争における、最大の敵は・・・・・戦争そのものである」
武器を持つことから争いは始まる。
「武器よさらば・・・」「核の傘などいらない・・・」と、今こそ言いたい。

憲法九条の会の日野詢城 住職ありがとうございました。
久しぶりに電話口で、小学校の担任、無着成恭先生の声も聞きました。
無着和尚もぼくの父も「九条の会」には入っているようですね。ぼくはまだ入っていませんが・・・・
湯布院の紅葉、美しかった。
日本の自然は美しい。


10月28日(水)
パキスタンとアフガニスタン、そしてイラクで戦闘やテロが発生している。
テロの目的は挑発だろう。
挑発には、二つの形態があることが、ミンダナオにいると良くわかる。

1つは、反政府組織が、政府にたいして起こすもの。民衆の反政府的な心情を煽るためにと、自らの英雄的な行為を宣伝することによって、民衆の共感と蜂起を求めるため。
もう一つは、自国や海外の軍隊を呼び込むための仕掛け。
つまり、政府側なり体制側が、反体制側のなかに紛れ込み、または反体制になりすました組織を作って、実際の反体制不満分子をあおって戦闘を起こし、それをきっかけに軍の攻撃を引き起こすため謀略。

戦闘を開始する方法は、昔、機動隊と学生が睨み合っているとき、機動隊側が学生の中に、学生の姿をしたスパイを潜り込ませて、彼が最初に石を投げて、それをきっかけに襲いかかる、と言った、狡猾な形態を持っていた(聞いた話だが)ように。
仮に、アルカイダがCIAの影武者であり、パキスタンとアフガンに裏から火をつけたとしたならば、今回の戦闘の目的は、オバマのアメリカを無理矢理、戦闘のなかに引きずり込み、アメリカや日本やEUを参戦させることだろう。

何のために?
この不景気な時代、戦闘で景気を回復させる戦略を行使したいと思っている、どこかの国の政府高官や企業や金融の上層部が、マスコミなども利用してバクチを打つ可能性は大いにある?????

沖縄普天間基地の問題で、この時期に何故、アメリカの防衛省は、高飛車に日本国政府と国民に「通告」(変な言葉だが、新聞で使われていた)を出したのか。その通告を聞いて、ワンコのように、身を寄せて吠えているマスコミもけったいだが、日本政府がホイホイと公約を曲げて従う姿勢も滑稽で、アメリカはオバマの来日で、その辺の日本の姿勢を試そうとしている?

世界は日本を見つめている。
中国の高官が、原宿の若者たちを見て、「ああ、日本はもうだめだね」と言ったとか・・・


10月26日(月)

日本の貧困率が問題になっている。
貧困と言っても、先進国における貧困の基準のようだから、フィリピンのミンダナオとは全然違うレベルだとは思うのだが、それでも深刻な問題だ。
貧困は、失業(とりわけ若年層の就職難)と母子家庭といった弱者に広がっていて、勝ち組と負け組を生みだす格差社会の結果、医療や福祉も受けられず、学校に行けない子たちも出ていると言う。
見ていると、政治の貧困からくるビジョン無しの行政と国造りが、ここに来て経済危機と共に、膿を一挙に吹き出して、弱者を襲ったという感じだ。

政治に責任を付与して、解決を求めるのも大切だが、国民も一人一人、人としてのあり方を考えて、社会に門戸(心)を開く時期なのかもしれない。
つまり、一般の人々も、勝ち組に入っているという意識はないにしても、例えば日本の家屋は、一家屋に一家族といった構成が多いようだから、こうした若者や母子を家族として受け入れても良いのではないだろうか。

ミンダナオにいて、こちらに帰ってきて、個人のお宅に入っていつも思うことは、「ああ、これだけのスペースがあったら、数世帯は住めるだろう」、と言いう気持ちだ。
つまり、1つの部屋に一家族が住んでも良いわけで、ミンダナオの家は小さいが、小さなスペースの竹の小屋に、数家族が住んでいたりもする。

また、多少なりとも余裕がある家族は、夫が死んだ寡婦や、仕事が見つからない若い女性を、ベビーシッターや家政婦として雇ったりもする。これは、贅沢というよりも、一種の分かち合い、互助の考え方から生まれている。
つまり一軒家で部屋の空いている人は、母子家庭の親子や若者などを招き入れて、家事や育児を手伝いながら、いっしょに住んで生活しても良いのだ。いや、慣れるとその方が楽しいこともある。

ミンダナオ子ども図書館では、6畳ほどのスペースに二段ベッドが二つあり、ファミリーサイズの竹ベッド(シングルとダブルの中間)一人分に二人寝ている。つまり、6畳に8人が寝ていることになる。
それでも、家で竹の床に身を寄せ合って寝ているよりはゆったりしているわけで・・・・逆に一人一部屋だと、彼等は寂しくて寝られない。

ミンダナオの大人も同じで、日本に来てシングルのホテルを頼むと、そこに4人がいっしょに寝て(床やソファーにも寝る)、自分の部屋にはもどらない。
ぼくは、最初こうしたプライベートが一見無いような生活にとまどいを覚えたけれども、
いったん心の垣根をとってしまうと、以外と快適な事が多い。
とりわけ、子育ては快適で、みんなで子育てをしてくれるので、本当に楽だ。

日本には、一軒家やマンションで孤独に生活している、シングルマザーや孤独なお年寄りも多いだろう、
もう少し、家を開放して、心を解放して、共同生活をすると良いのにといつも思う。
必死に孤独に耐えながら、大きな家に夫婦や寡婦で住む必要なんてまったく無いのだ・・・


10月20日(火)

オバマはノーベル平和賞を受賞したが、アメリカはますます軍事的影響力を世界に伸ばそうとしているようにも、見える。
当人は、かなり混乱しているのではないだろうか。
第一に、パキスタンのタリバン掃討作戦。
何故この時期に、パキスタン軍は、アフガニスタン国境にちかい、タリバン掃討作戦を開始したのか・・・

ミンダナオで、現地の戦闘を見ていてすぐに想像できるのは、
この戦闘の中心目的は、タリバン制圧と言うよりも、パキスタンとアフガニスタン国境の情勢不安定化を作り上げることによって
米軍のアフガンまたはパキスタン派兵を容易にするための仕掛けだと、思えること。
加えてNATOや日本の派兵に関わる支援の継続を引き出すこと。

戦闘開始の背後には、アメリカの派兵推進派勢力が関わっているのではないだろうか?
派兵の目的は、親米政権の樹立?または、一定の影響力を保持できる政権を作ること?
さらなるその背後には、資源などの利権獲得競争があるように思える。
パキスタンには、中国も触手を伸ばしているから・・・

日本では、沖縄普天間基地の米軍移設が問題になっているが、フィリピンでは、1992年に米軍基地撤退が行われている。
しかし、ミンダナオに石油および天然ガス資源が確認され、さらに中国が南沙諸島に(資源を求めて?)
プレゼンスを広げてくる様相を「受けて」、2000年には、バリカタンと呼ばれる米比合同演習が行われた。

この合同演習は、演習という名の実戦で大量の避難民が発生。
2003年にも爆撃が続き、日本の新聞には小さな記事で「国軍兵士が30人ほど死亡」と言った報道しかなされなかったが、
はっきり言って、悲惨な状況だった。
その悲惨さは、去年の80万の避難民という戦闘の比ではなかった。

当時、フィリピン海軍が、プランギ川を遡り、一斉射撃を開始し、死体を埋葬する暇もなく川に流した。
その時からぼくらは、避難民キャンプに通い始めたが、ある人が、
「松居さん、ピキットの食堂でナマズ料理、召し上がりますか?」と聞かれて、
「ええ、魚は好きですよ」と答えると
「ここのナマズは、人の味がするんですよ。」「エッ!」
「何しろ、たくさん川に流した死人を食べていますからね」、と言われたことを思いだす。

ぼく自身、2001年、この難民キャンプの悲惨さ、地平まで続く避難民たちのテントもない暮らしを目の前にして、
とりわけ、表情を失った子どもたちの姿にショックを受けて、ミンダナオ子ども図書館を始めたのだが・・・
しかし、その直後に911が起こり、さらにアフガンやイラク戦争が中東で勃発すると
当時、NGOの見本市と言われていたミンダナオのピキットから、
まだ、大勢の避難民がいるというのに、あっという間にNGOが引いて行き
2005年には、ミンダナオ子ども図書館だけが、救済活動を続けていた。

当時、イラクやアフガン戦争が起こると
「もう、ミンダナオじゃないですよ。イラクやアフガンですよ」と言って去っていったNGO職員たちを思いだす。
「話題が無いと、寄付が集まらないからだろうか?
NGOというのは、死肉に群がるハゲタカみたいな奴らだなあ・・・」と思ったのを覚えている。

もちろん、ミンダナオ子ども図書館のイスラムの奨学生たちはみな、この悲惨な避難民生活を経験している。
こうした生活は、ほぼ3年近く続いたのだから。
アメリカの軍事的介入はこのときから始まったが、
国際NGOを通したEUの介入と日本の介入もこのときからだ。
sinppu

ミンダナオで神父が誘拐された事件があった。新聞に出された記事はほぼ同じで、
イスラム反政府勢力アブサヤフではないか、と言う。以下、朝日と共同を参照。
http://www.asahi.com/international/
update/1013/TKY200910130300.html

http://www.47news.jp/CN/200910/CN2009101201000094.html
10月12日の記事だから、一週間以上前になる。
その後の展開を見なければ、この事件の背後はわからないな・・・と思ったのでそのままにしておいたが。
二つの動きが出てきた。

1,捕虜解放に際して、米軍の支援を仰ぐ動き
http://www.philstar.com/Article.aspx?
articleId=515231&publicationSubCategoryId=63

2、モロイスラム解放戦線MILFが、誘拐された神父の解放に協力すると言う姿勢
http://newsinfo.inquirer.net/inquirerheadlines/nation/view/
20091020-231119/MILF-joins-search-for-Catholic-priest


MILFが神父の解放に協力するという視点は、日本人にはわかりにくいだろう。
反政府組織であり、まさに誘拐する側だと考えるのが普通だろうから。
しかし、ピキットでのドイツ人誘拐事件で、誘拐されたドイツ人を救出したのはMILFだったことは、ご存じだろうか。
今回も、MILFは、犯行そのものを否定している。

何故神父を誘拐したのだろうか・・・・・?
身代金が目的であれば、中国人の商人を誘拐する方が良いし、たびたび起こる。
神父誘拐は、明らかに、身代金が目的ではなく、
コタバトの教会近くの爆弾事件同様に、世間を騒がせることによって、何らかの対価を引き出すことだろう。

今回の犯行は、アブサヤフの仕業だと思われているが、アルカイダ系の行動は奇妙だ。
戦闘には、隠れた第三者がいることは、自明の理で、戦争を起こすことによってプレゼンスを高めるとすると????
資源などの利権を獲得しようとする動きがあるとするならば?????

ミンダナオの小さな事件。
タリバン掃討作戦をめぐって、世界の動きが悲しいほど、興味深い?
アブサヤフは、アルカイダ系だっていう話だけど、アルカイダって、CIAの戦闘を作るための裏部隊???


10月18日(日)

忙しい日々が始まった。
東京の聖蹟桜ヶ丘、コミュニティーセンターでの講演記事が毎日新聞で掲載されたので紹介します。
http://mainichi.jp/area/tokyo/news/
20091018ddlk13040153000c.html


ミンダナオのすぐ下は、ボルネオとインドネシア諸島だ。
ミンダナオは、現代地図では、ルソン島のマニラを中心としたフィリピン諸島群にはいるが、
本来は、ルソン島やセブ島の方が辺境で、インドネシアやマレーシアを経由して、東南アジアと近い区域だった。

実は、ミンダナオ子ども図書館の構想の基盤に、東アジア子ども文庫というもう一つの構想があった。
East Asia Children’s Library Foudation
構想としては、ミンダナオ子ども図書館と同様に、大きな図書館ではなく、小さな子ども図書館を
困難な地域、戦闘や貧困や先住民族の問題を抱えた地域に作り、スカラシップの貧しい子たちが中心となって、
読み語り、医療、難民救済などの活動をしていく。

場所的には、日本も含め、フィリピンの他に、インドネシア、マレーシア、タイに拠点を持つという構想。
これによって、仏教国、イスラム教国、キリスト教国が網羅される。
さらに、スカラシップの若者たちの相互の交流を進める。
大きな都市に作る気はない、
その点、ボルネオ島は、ミンダナオから近く、マレーシアとインドネシアを含んでいるので、良いかなと思っていた。

日本が、中国や韓国と手を結んで、東アジア諸国とEUのような共同体を作るのは、
次の世代の若者たちの成長を考える上でも重要だと思う。
まずは、隣人を大切にし、共に手を取り合って世界の平和や貧困撲滅に貢献していくのは重要な事だ。
米軍を手助けして、インド洋上で、パキスタンやアフガニスタンを撃つための軍艦の給油補助をするよりは・・・

イスラム教徒をテロリスト呼ばわりして追いつめるのはもう止めて
いかにしたら、イスラム教徒も仏教徒も、先住民族もクリスチャンも共存互恵できるかのアジア的モデルを東アジアで実現し、
その成果を、中国や韓国と共に、うまく発展させる事が出来たら素晴らしい。
そのあたりに、日本の役割があるのではないだろうか。

ミンダナオは、面白い。
ここ数年、韓国の人々の進出も精力的で、ダバオにはずいぶん、韓国料理のお店が出来た。
日本人の場合は、リタイヤメントのお年寄りや、女の子を追いかけてくる中年が多いが、
韓国人は、若者たちで、しかもカップルが多いのが特徴だ。
英語を学びに来る人々が多いからだろう。なかなか新鮮で良い。

中国に関して言えば、すでにフィリピン経済は、根本的に中国圏だ。
日本の存在感と言えば、ドールやデルモンテなどのアメリカのプランテーションや
バナナ農園と共通した高原バナナ(住友商事のAJMR)などが主体。

韓国や中国も、土地の買いあさりをしているが、
それに追われる先住民族が哀れで
現地のNPAにも受けが良くjない。

ここで日本が、国連を通して、平和構築に貢献し、
平和開発を主導できれば、ミンダナオを通して、東アジア全域に重要なプレゼンス(役割)を持てるだろう。
すでに、国際停戦監視団を中心として、インドネシアやマレーシアと協調していく試みは動いているし
EUや中東イスラム諸国、中国や韓国とも協調しながら平和構築を実現して欲しいものだと、思う。
金儲けや資源獲得はそこそこにして・・・


10月13日(火)
体らの調子を整えるために、八ヶ岳に登ってきた。どうも、去年からの戦闘避難民の救済など、激しい活動で心身共にトラウマ状態になっているようで体の不調が気になっていた。

フィリピンにいると、とにかく歩かなくなる。
山の子どもたちや人々は、毎日往復15キロの道を歩いて学校に通ったり、山仕事をしたりするのだが、
フィリピンの町の人々は本当に歩かない!
すぐ近距離でも、トライシクルという、バイクや自転車に補助席がついた乗り物に乗ろうとするし、ぼくらの活動も車になる。
好きな山歩きも、一人ではなかなかさせてもらえない。一人歩きは御法度で、「一人では寂しいだろう」という、こちら独特の気遣いもあるのだが、
友さん、誘拐でもされたら・・・という恐れもスタッフや奨学生たちは持っていて、心配してくれる。
そんなわけで、本当に歩く機会が無く、体がなまってくる。

青年小屋に泊まり、編笠山から赤岳まで逆縦走をしたが、正直きつかった。

日本に帰ってきて、常に気になるのは、日本の人々、とりわけ子どもたちの精神的、心理的、はたまた今では、経済的?状況だ。
このことは、滞在中、折りに触れて、ここで論じていきたいが・・・・
とにかく良くない。
去年は、このサイトで、青少年の自殺についての考察をしたが、状況は、さらに悪くなっているようだ。
フィリピン(少なくともミンダナオ)では、考えられない、精神的な原因による、引きこもり、不登校、自殺。

かつてぼくは絵本の編集者だった。
(福武書店のちベネッセで、当時編集した絵本は現在、リブリオから手島圭三郎、
http://www.liblio.com/teshima/index.html
吉田遠志の絵本として出ておりご覧になれると思います。
http://www.liblio.com/yoshida/index.html
それ以外の本は、そのごベネッセが出版部を解体してから絶版。図書館で見てください。)
編集部の絵本部門を創設から担当し、3年後に黒字化した事業経験は
ミンダナオ子ども図書館設立でも役立っている。
NGOまたはNPOの運営は、非営利であるだけに、営利事業より気を遣うし難しい。

絵本も書いている
(現在手にはいるのは、「ふたりだけのキャンプ」童心社
http://www.doshinsha.co.jp/search/
info.php?isbn=9784494008896

「おひさまのくにをめざして」リブリオ出版といったところ)
http://www.amazon.co.jp/%E3%81%8A%E3

そのころから、全国各地で講演をして、引きこもり、不登校(登校拒否といったほうが良い)、
自殺の問題を取り上げてきたし、子どもたちにも会ってきた。
こうした子どもたちの事を考えるきっかけは、大学時代に学んだユングの心理学の影響もあるが、
絵本の読み聞かせで育った子どもに、何故、自殺や不登校、引きこもりが多いのかと言う、素朴な疑問があったからだ。
ぼく自身も、、その様な究極の体験をしてきているので、黙ってみていられなかったこともあるのだが、
それにしても皮肉なことに、常に、崖っぷちの状況から、ぼくを救ってくれたのは、絵本でも、本でもなかった。

それは、子どもの頃、ミンダナオの子どもたちのように、自然の中で思う存分夕暮れまで、遊んだ体験だった。
北海道時代、アイヌの人々とであい、共に山に登ったり、
沖縄の島の人々と海で泳いだりするような事と共通する、肌と体と心で感じる、自然と人との出会い!!
中年の危機を乗りこえさせてくれたのも、ミンダナオの子どもや若者たちとの出会いだ。
ぼくが、絵本や本の世界だけで生きていたなら、とうに命は無かっただろう。

文芸家協会に所属して、本も書いていながら、この様な事を率直に述べるのもなんだが・・・
ドストエフスキーなどは、確かにミンダナオの光の中で読んでも面白いし、聖書は読めるのだが(これは本では無いだろう)
ミンダナオの自然や人々と出会っていると、本当に本を読みたいとは思わなくなった。
久々に、日本に帰って、電車の中で、心を閉ざした人々を見ていると、せめて本を読みたいという気持ちを起こってくるが・・・
単なる現実からの逃避願望にすぎないとも思う。

本は二次的な役割しか持たず、現在は、絵本の講演会よりも、ミンダナオの真実や昔話を語る機会が多いので、
絵本至上主義や芸術至上主義のような仮面を被らずにすむのであえて言うが、
本来、絵本や本と言った、人間の二次的生産物に、人の命を救うなどと言うスゴイちからが、「確実にある」とは思えない。

出版社と関係を持っていた頃は、(父が福音館書店に今も関わっている手前もあり)
絵本にその力があるかのように講演などで語ろうとしていたが、
嘘とは言わないまでも、こじつけがましいところがあったと、今ははっきり思っている。

絵本だけでは、子どもは育たない、(あたりまえだ!)
保育園や学校だけで、子どもが育つわけがないのと同じ理由で、
ミンダナオの子どもとたちを見ていればわかるように、絵本はなくても、遊びと昔話と、ちまたの人々の生活があれば、子どもは育つわけで
むしろ大事なのは、子ども同士の外遊びとちまたの生活、そして家庭で語る昔話であることは、
「昔話と心の自立]洋泉社でも論じたのだが
http://www.google.co.jp/search?sourceid
=navclient&hl=ja&ie=UT


久しぶりに日本に帰って思うことは、それにしても、日本の絵本は面白くなくなってしまった、と言う印象。
それに比するかのように、外で遊んでいる子どもたちの姿が無く、ちまたの生活にいたってはほとんど皆無だ。
まだしも、フィリピンの絵本の方が面白い。生きる力にあふれている。

人間の成長の過程において、本はあくまでも、二次的なものであって、
本の世界に閉じこもったり、安住するのではなく、また頼るのではさらさらなく、
優れた本は、「本を通して、さらに一歩、現実の活動に心が向かう」
「人間に対して、より深く、考察出来るようになる」
つまり、本の世界をさまようのではなく、本の外に広がる世界に心を向かわせてくれる本、が良いなと思うが、非常に少ない。
寒々とした、日本の絵本状況は、そのまま日本人の今の心をあらわしている?

野生のニシキヘビは、時には家畜や人も襲うが、蒲焼きにして食べるとうまい!少なくとも、ミンダナオでは。
ニシキヘビが、お家に入って毛布をかぶってお昼寝したり、お散歩したりする絵本も良いが、
お部屋や保育室に閉じこもり、そんなものばかり読んで育って・・・・可哀想。

子どもたちよ、若者たちよ、文章ではなく、そこから抜けだすところから、あなたの真実が始まるのだから。