私たちの活動を知っていただくために
(2003年執筆・松居友)


カイミトの実を取るスタッフ・ジクジク。猿ではありません

「まずは、ミンダナオの現状について、お話しする必要がありそうですね。ちょっと長くなるのですが、聞いてください。」




 1,とにかく貧しいピキットのイスラム教徒の難民キャンプ。

 ミンダナオは、フィリピンの南部の大きな島で、首都マニラのある北のルソン島などに比べて経済的に遅れた地域です。アメリカ資本が大農場といった形で良い土地を所有していて、そこで働く日雇いの貧しい農民と、山あいの条件の悪いところに追いやられた山岳民族、やはり条件の悪いところに追い込められたイスラム教徒の人々が半数以上を占めていると言って良いでしょう。子どもの70パーセントは、貧しくて学校に行けないという数字もありますが出生記録すらないケースが多いのですから、正確な数字はわかりません。
 ミンダナオは、豊かで肥沃な土地なのですが、行政的にも見離された地域と言いますか・・・。そんなわけで、MILF(モロ・イスラム解放戦線)やNPA(共産党系の新人民軍)、これらの言葉はこれからも時々でてくると思いますが、こうした反政府軍組織の活動も活発です。いまでも戦闘が起こり、ミンダナオ子ども図書館のあるキダパワン市でもつい先日爆弾事件がありましたし、小一時間行ったピキットでは政府軍との戦闘で5万人の避難民が出て路上生活をしていました。
 私たちは、そんなところにも読み聞かせに行っているんですよ。

 2,とにかく本がない障害者のスタッフ・ノノイの妹・リーゼル。貧しくても心は豊か!
 
 大都市には書店もあり本もあるのですが、ちょっと地方都市に行きますと、本というものがありません。フィリピンでは本というものは、一握りのお金持ちのものなのです。値段は日本より少し安い程度ですが、こちらの値段で考えると目玉が飛び出すほど高いのです。なにしろ一冊が、貧しい人の一ヶ月の家族の食費に匹敵するのですから。これでは買えるわけがありませんね。
 しかも、そのほとんどがアメリカやイギリスで出版された英語の本です。裕福で教養のある人は、英語も堪能ですし、水洗トイレや家電製品のある生活も日常でしょうか、地方都市や田舎の子どもたちはまず絵本など見たこともありません。
 これに対して、最近マニラの児童図書出版社は、積極的にタガログ語の絵本を廉価版で出すようになりました。なにしろ芸術的な才能に満ちた国ですから、絵本も力の入った良いものが生まれつつあります。将来性に関しては、日本よりも上かもしれませんね。しかし、とにかく問題なのは貧しいこと。廉価版の絵本でさえも、庶民には高嶺の花。なにしろ、すうパーセントの金持ちと、25パーセントほどの中産階級いがいは、70パーセント弱が貧困層といわれていて、とりわけミンダナオでは、この数字が実感のあるものに感じられます。電気もガスも水道もなく竹の小屋でほぼ自給自足の生活をしているのです。
 そうそう、ミンダナオ子ども図書館のスタッフたちも、そうした家の出身です。

 3,とにかく言語がたくさんでスタッフ・エープリルリンの妹ジクジク13歳、弟ブライアン10歳。とても痩せている

 さらに出版と教育の問題を複雑化しているのが、たくさんある言語。
 ミンダナオでは、フィリピンの共通語であるタガログ語とは別に、東のキリスト教圏では、おもにビサヤ語(セブアノ語)を話しています。ところが、ビサヤ語にもさまざまな方言があるだけではなく、先住民族や西のイスラム教徒は別の言葉を話している。たとえばアポ山周辺に住むマノボ族、バゴボ族、ブラノン族、マンダヤ族などの先住民族は独自の言葉を話し、モスリム(イスラム教徒)はマギンダナオ語を話します。おたがいに理解し合うことはできません。
 それならば、読み聞かせ活動はどうするのですかって?
 そう、スタッフたちは、英語とタガログ語の絵本のストーリーを記憶してビサヤ語で語るのです。さらにイロン語方言にはイロン語の奨学生が、山岳民族にはマノボやバゴボの奨学生が、モスリムの難民キャンプにはマギンダナオ語の話せるイスラム教徒の奨学生が同行してくれる。こうして、ビサヤ語以外にそれぞれの言葉で物語るわけです。
 そんな器用なことが良くできますね・・・と聞かれるかもしれませんが、とにかく言語にかけては天才的な国民です。たとえば、マノボ族の若者なら、母語マノボ語以外に生活の場で語られているビサヤ語、学校ではタガログ語と英語、イスラム教徒ならばそれに加えてアラビア語を使い分けて話すのですから。
 学校では、タガログ語と英語以外は禁じられています。フィリピンの南半分の地域で話されているはずのビサヤ語ですら、学校では教えてはいけないことになっています。ビサヤ語の本もほとんどありません。まして、マノボ語、バゴボ語、マギンダナオ語などの本は皆無に近い。
 そんなわけで、本の無い言語の本を出すのも、将来のミンダナオ子ども図書館の夢なのです。

 4,そんな苦労までして、なぜ読み聞かせをするのですか・・・。吸いこまれるようにお話を聞く子どもたち
 
 写真を見ていただければわかるように、なにしろお話をしてあげたり、絵本に見入っている時の、貧しい地域の子どもたちの目の美しさに感動するからでしょうか。
 それから、若いスタッフやスカラーの情熱。貧しい地域で、それぞれ苦労をしてきただけに、同じ貧しい子どもたちに対する理解と情熱の度合いがちがいます。この国を本当にかえることが出来るのは、こうした若者たちだなあと思いませんか。うだうだしている日本の若者に見せてやりたい?
 ミンダナオ子ども図書館の活動目的の一つは、こうした若者たちの育ちの場になること。地域での読み聞かせ、コンピューターを使った機関誌の発行、ミンダナオのモスリム難民の声の取材や出版、あなたが見ているこのウエッブサイトの編集制作、それから将来は、ビサヤ語をはじめモスリムや先住民族の言語の本の制作、絵本の企画編集出版などもやりたいと思っています。
 多様なプロジェクト活動を通して育った若者たちが、社会に飛び出して行けば、貧困も戦争も少しは解決できるでしょうか?
 もし来られたら、つい先日まで、コンピューターにも触れたことがなかった貧しい若者、絵本など見たこともなかった若者たちが、貧しい子どもたちのために生き生きと活動する様子に、未来を感じるていただけるのではないでしょうか。

 5,これからがいよりよ正念場読み聞かせに情熱をかけるスタッフのリセル

 最初の一年は、テストケースでした。
 その結果、読み聞かせの活動は大成功。村々でも、協力してくれる人々が出て来て、 これからの課題は、本を増やしそれらを区分けしてボックスに納め、貧しい地域の家庭に置いて貸し出しをしてもらうことです。名づけてボックスライブラリー
 最初は家庭文庫をと考えたのですが、こちらの貧しい家は、とてもとても図書をおくスペースもなければ、個人で管理するのも無理。そこで、ボックス文庫を協力家庭において、月ごとにミンダナオ子ども図書館で巡回して管理することにしたのです。まあ、富山の薬売りの文庫版というところでしょうか。それが定着したところで、家庭文庫を作っていきたいと思っています。
 本の購入資金も不足し足りません。基本的に、日本の絵本を送るというより、現地の出版社を応援するためにも、フィリピンで出版された絵本や児童書の購入を優先しています。また、東ダバオ州には、ハウスオブジョイと呼ばれる孤児施設があり、ミンダナオ子ども図書館が作ったトモライブラリィーがあります。


 6,そうそう子どもの医療の事を話すのを忘れていました
 読み聞かせに貧しい村を訪ねると、ちょっとした治療が受けられなくて苦しんでいる親子がいて、どうしても知らん顔して通り過ぎることが出来なくて。私たち、ささやかな医療活動もはじめたのです。

 ミンダナオ子ども図書館ホームページへ