うり先生の第1弾
”透先生の平和な妄想・純文作家編続き”

 それに…。
 ふすま一枚へだてた所に居る夫を見るように、気遣わしげな視線を投げかけている奥方の桜の小紋の襟元を見つめる。透けるような色白の胸元をたどる。
 今年十六になったばかりだという幼妻の美貌は、禁欲的なセフィロスを血迷わせたといって評判になっていた。
「ザックスさん。」
「!」
 不意に潤んだようなクラウドの瞳が振り向く。
 あわてて目をそらし、素知らぬ振りを装った。
「楽にされててくださいね。…あ、どうぞ。」
 訪ねたばかりである。ザックスは正座したまm、出された茶を前に未だ手をつけていなかった。
「は、はぁ。」
 じっと見詰められていてはどうも食いにくいのだがと思いつつ、堅焼きに歯を立てる。
…ばりん。
 半分は右手に残り、あとの半分が弾みで口からこぼれて飛んだ。危ないところでそれを胸の前ではっしと掴む。砕けた欠片が落ち、綺麗に磨き上げられた黒い漆塗りの机にぱらぱらと散らばった。
 しまったと思いながらこっそりと指で茶托の下へ粉を掃き込んだが、それもちゃんと見られていた。
「くすくす。」
 手の甲を口許へもっていき小さく笑う。無邪気な笑み。さすがに指摘しては悪いと思ったのか背を向けて笑いをかみ殺しクラウドは何も言わずに立ち上がった。着物の裾に起こされた微風がほのかな花の香をはこぶ。
 そのすんなりとした小さな体にあらぬ妄想が浮かんだ。



なんちゃってぇ。お目汚しでごめんです。ごめんです。ごめんです さあ、にげよっと。

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