Tylm先生の第1弾

 前々から口端にのぼらせていましたヴィン×シドを敢行してみました。
 恐らく12禁・レベル2です
(もう既にずっと前にヴィン×シドの18禁本は発行されているらしいのですが、マイナーな事には変わりありませんね…汗)。
 舞台背景としては、「コレル戦が終わったばかりで、コンドルフォートに向かう途中でクラウドの見舞いにミディールに 立ち寄ったシド、ケット・シー、ヴィンセントのパーティ」を使用しました。



「魔晄中毒は…やっぱり、どないしようもあらしまへんのや。もちろんティファさんの前ではこんな 事言われやしまへんけどな」
 力なくうな垂れるケット・シーに、シドもヴィンセントも沈黙をもってのみ答える。
「沢山のソルジャー志願者がああなるのをボクはリアルタイムで見てきてますのや。元に戻った例は …知ってる限り一例もあらへん」
 ヴィンセントの冷たい視線とシドの睨み付けに半テンポ遅れて気がついたケット・シーは、慌ててこう言い添える。
「もも、もちろん僕の知ってるんはほんの一例やで。科学部門のモンではない、とは前に言いましたやろ?それに、まだこれからコンドルフォートがありますのや。時間置いてまた来たらえ…って、ちょっと、ヴィンセントはん!!何して…!!」
 無駄にぺらぺらと喋りつづけるケット・シーの尻尾をヴィンセントはいきなり捻り上げた。
「あかん!緊急停止モードに入ってま…ピピ、ピー……」
「おいおい、いくら五月蝿いからってそこまでするこたねぇだろ?こんなもん持って運ぶのは俺様は嫌だぜ」
 二人(?)の様子に呆れた様子のはしばみ色の髪のパイロットが抗議の声を上げた。
「…シド」
 いつもの淡々とした口調に加わったいつにない真剣味に、いぶかしげに答が返ってきた。
「どうしたんでぇ、ヴィンセントよぉ?そんな怖ぇ声出して、何か?」
 それを全く無視して緋色の瞳の男は独白を続ける。
「たった先刻、私は他人を労う言葉を知らぬ、と言ったが……」
 次の瞬間、ヴィンセントは目の前の男の手首をすっと掴んだ。まさしく電光石火の速さで。
「……他の方法でお前を慰めてやる事はできる」
 彼がそう言い終わるか終わらぬかのうちに、シドの右手にかすかに鋭い痛みが走った。
「セーフティ、ビットでは麻痺を防ぐ事はできない。知っているだろう?」
 …しまった、と思ったときにはすでに。シドの体は指先を毛筋ほど動かす事も不可能になっていた。
「何…なん…だよ……!」
 黙殺されたのは、ほんのわずか動かす事を許された口許での抗議。動かない体を手近な木の幹に縛りつけられる。
「ずっと…誰かにこうして欲しいと思っていたのだろう?」
 美の女神手ずからの彫刻を思わせる完璧な容貌に不敵な笑みを浮かべ、ヴィンセントはそう呟いた。
 ……左手の鋭い特殊合金の小手でシャツを引き破り、そのまま首筋に冷たい感触を与える。それと同調して下半身を包む焦茶色の分厚い衣服も取り去り、そのまま全身を自分の方に抱き寄せる。
 鍛え上げられた…全身の骨格をバネで包み込んだかのような体躯を大気に曝され、シドは焦点の合わない視線を虚空に踊らせた。
「ど…して……止め…ろ!……!!」
 蔓草で縛り上げられた薬で動かせない手首を僅かによじらせ、シドは必死に抵抗の一語一語を紡ぎ出す。全身を恐怖に細かく震わせて。……普段のいかにも意志の強そうな鋭い顔付きは仮面だったのかと思われるほどに。
「止めない。ここまできて止めろと言う方がどうかしている。……楽しませてやるよ」
相手に残された下帯に手を掛け、自らのズボンの留め金を外す所まで進んで、ヴィンセントは相手に目を留め…そして両の手をふと止めた。
 見てしまったからである。……あのふてぶてしいまでの自信に満ちた鋭い氷青色の目がぎゅっと閉じられ、誇りも何もあればこそとばかりにぼろぼろと涙をこぼしているのを。
(……やはりな)
「……わかった。止めよう。ここまで怯えている相手を抱くのは趣味ではない。前々から知りたいと思っていた事も分かったしな……」

 そこまで言って、ヴィンセントはシドに服を着せ直してやり、万能薬の瓶を開けその香気を嗅がせ麻痺を鎮めてやった。
「……何でぇ…その、知りたい事ってのは……」
 手首は縛りつけられたままだとは言え体が自由に動かせる分余裕を取り戻した彼は、彼自身に言い聞かせるかのような調子で目の前の元タークスの狙撃手に問うた。
「クラウドに肩入れしている理由が、な。お前が好んで荒っぽい口調を使う訳も。それは…やはり、私が今お前に対して行おうとしていたような事を…強要されていたからだ。そうだろう?」
 シドはその問いに対する解答を見つけるべく再び虚空に視線を投げ出し…そして、ゆっくりと話し始めた。
「……俺は……俺様は……俺は、あの時……判ったような気がした……アイツの……悲しみを、……苦しみを」
「……クラウド、か……今となってはどんな過去だったのかは知る由もないが」
 それは極寒の絶壁。体温を下げぬために服用した興奮剤に狂ったクラウドを見かねて求められるままに彼と躯を重ねたヴィンセント。……そして、二人を嫌悪と憐憫の入り交じった視線でじっと見ていたシド。
「その態度も、無精髭も……」
「ああー、そうさ。こっちが言う前に良く台詞を盗めるな、こんちくしょうめ」
 長い黒髪をかき上げ、シニカルな笑みを口許に浮かべヴィンセントは返した。
「大学の専攻は行動心理学だったのでな。もう三十年も前の話だが」
「ふん。……そうでぇ。この口調も、このヒゲも…身を守る為に始めた物だからな。とんでもねぇ下司野郎達相手に毎日毎日……うぅ、思い出しただけで吐き気がするぜぇ。だから…俺様は自分をこう変える事で『それ』から逃げる事にしたんだ」
 目を伏せて聞き入るヴィンセントに、シドは戒めを解くべく両手を動かしながらさらに独りごちた。
「それが、相手が、何であっても逃げちゃいけなかったのか?…戦わなくちゃなんなかったのか?その時解決しなかったから必要の無くなった今でも演じ続けなきゃいられねぇようになっちまったのか?……俺は間違ってたのか?」
 顔を伏せたまま瞬きの音がしかねない長い睫毛をゆっくりと動かし、紅の双眸で黒く湿った土壌を見つめながらヴィンセントは柔らかい声で慎重に言葉を紡ぎ出す。
「……いいや。それは違う…。闘っても歯が立たない相手に打ち負かされつづけ、精神を砕かれるよりは…逃げた方がいい事も多い。世の中で言われているほど逃げる事は悪い事ではない」
 其処まで言って、すっと仇敵からの唯一の贈り物である決して光をはね返さない両目を上げて。
「もちろん闘って如何にかなる時には…もしもどうにもならない相手の時でも最後の譲れぬ一線を守る為には…そして自分自身とは、戦わねばならないが…な」
 そう言い終わったヴィンセントに、ようやく両手も自由になったシドが、取り戻したいつもの老獪な笑みに少しばかりの侮蔑を浮かべた表情で切り返す。
「手前ぇは…どうなんだよ?闘ったのか?誰とでも戦える力持ってたくせに寝続けてた奴が、偉っそうに」
 そう言って目の前の相手をじっと見詰める。ある程度の時間が流れていく。
 『実際には短いが感覚としては長い時間』の後、ヴィンセントは額の赤いバンダナを直し、再び口を開いた。
「そうだな。確かに私は逃げていた。でも人に何を言う資格もない私が敢えてこうしたのは…」
 ……人ならざる者に変えられた自らを恥じる事なく。ヴィンセントは真っ直ぐにシドを見返した。
「お前が羨ましいからだ。だから…壊したかった。のと同時に…私のようになって欲しくなかったからだ」
 そこここから湧き出ている魔晄の匂いが、強い潮の香りと土や木の葉の香りと混ざって流れていく。
…ヴィンセントは言葉を続けるためにその空気を深く吸い込んだ。
「私のようにただ我が身を呪い逃げ続けていては…誰にも言わずにいては、私のようなただ弱いだけの人間では悲しみや憎しみに心ごと食い荒らされてしまうし…そうでなければ、辛い感情が更に悪い物に変質してしまうからな」
「だからこんな事したってのか…」
 パイロットの言葉に、狙撃手、静かに頷く。
「つまるところあんたのその強さも、『何かを隠した上の強さ』ではないかと思ったからだ……クラウドと同じ」
 シドの表情がふと柔らかくなり、相手に向いていた視線が再び明後日の方を向く。
「ああー、わかったぜ、ヴィンセントさんよ。…でも俺様をあんな目に合わせたつけは大きいぜ」
「何をすれば代償になる?」
「…一発殴らせろぃ!」
 正直な所もっと無茶な要求を叩き付けられるかと踏んでいたヴィンセントは、彼には珍しい卵白菓子のような笑みを僅かに口許に浮かべた。
「いいだろう。だができれば明日の戦いに支障が出ない程度に頼む」
「おう。目ぇつぶって、舌かまねぇようにしっかり歯を食いしばんだぜ」
 彼は目の前の男が自分の言う通りにしたのを確認すると大きく振りかぶり…そして。
「……へっ、ヴィンセントよぉ。これでおあいこだな!」
 ぱちん、と軽い音を立ててその整いきった鼻筋を人差し指で弾いた。
「…ありがとよ」

 その言葉にヴィンセントは顔面の微かな砂糖の甘みをいつもの香辛料の皮肉さに戻し、小声で返答した。
「礼を言う相手を間違えてはいないか。…今度辞書で『共依存』という項目をひいてみるんだな」
 シドはそれを完璧に無視してさっきから身動き一つしなかったケット・シーの方に向き直った。内容が不服なのか照れているのか、理由がどちらなのかはわからなかったけれども。
「…尻尾の所にメインスイッチがあんだな?このおもちゃ」
(薄氷のような技術者としての矜持にすがる事をやめればもっと強くなれるはずだ、彼は)
 今は黙殺されるであろう事を予期しつつ、さらに言葉を継ぐ。
「お前が本当に望んでるのは何かを考えてみる事だ。そうすればきっと失われた物全てが手に入る」
 かちゃかちゃと何かの機械をいじる音がする…それとほぼ同時に猫型の自動人形がぴくりと跳ねた。
「ほら、行くぞ。ケット・シー」
「……すんまへん、思慮が浅かったですわ〜……ヴィンセントはん、シドさん、堪忍してや〜……」
 シドの手によって取り戻された動きでケット・シーは、すっかりしょげた様子で謝意を表した。
(馬鹿な奴ではあるが芯からの愚か者ではないのだから…自分で気付く時もくるだろう。私に出来るのはそれが手後れにならない事を願う事のみ、か)
「気にするな。少し込み入った話がしたかっただけだからな」
「そうでっか。ほならハイウィンドに戻りましょか。…ほんま、さっきはすんません…」
 とりあえず三人(?)は何事もなかったように森からほどない所に止めてある飛空挺に戻るために道無き道を歩く。
 そこは仲間が待っている場所。クラウドの容態を話す事、ティファの様子を伝える事、そしてコンドルフォートで起こるであろう戦い…。本来なら立ち止まっている時間など無いのだ。
「とりあえず、する事があるってのはよろしおますな、ご両人」
 沈み込んでいたケット・シーもすっかりいつもの調子に戻る。
 その横に並んで歩くシドの二、三歩後ろをいつものように従って歩くヴィンセントは、小さくその言葉に頷いてみせた…。



さて、今日はこんなところでしょうか。
ただ過去を聞き出す為にここまでするか、ヴィンセント〜!って感じですが…(汗)
「楽しませてやるよ」の所でシドが素直に従えば18禁にも出来ますが…、さすがにそれは厭だったので…。
後半の台詞が空しい物になっちゃいますから、まぁこの位でお許しを。
こんなもんでよけりゃ、ご感想お願いいたします♪
(レスが来ないと読んで下さってるかどうかわかりませんもん、ね)


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