透先生の第6弾 |
「いつまでここにいるつもりだ?」
声をかけられて少年は顔を上げた。薄暗い中で少年の白い肌と銀色の髪がぼんやりと輝いて見える。
声をかけた人物は、膝を抱えて座り込んでいる少年の視線に合わせるように屈み込んだ。それでも顔はフードの中に隠れていて見えない。わずかに覗いた口元や顎の線は綺麗に整っている。いつの間にその人物が現われたのか、どうやって「ここ」に来たのか、少年には分からなかった。だが、別にそんなことは気にならない。少年自身、自分がいつからどうして「ここ」にいるのか、知らなかった。
「ずっとこうしている訳にはいかないことは、分かっているんだろう?」
それは確かに分かっていた。いつまでも「ここ」にいれば、「ここ」が苦しむということは十分に分かっていた。その苦しみは「ここ」とつながっている自分にも伝わってくるし、このままではいつかは「ここ」も自分も、死んでしまうことは明らかだった。
「でも、これも一緒に外に出ることになる」
少年の頭上に白い女の顔が浮かぶ。うっすらと微笑んではいるが無表情な顔から、白い胴体が伸びている。そのトルソーからは無数の管が伸びて、その先は少年と床とに融合していた。
「外に出れば、ぼくはこれに食われてしまう。」
「…ああ…」
「それなら、ここで一緒に朽ちていった方がいい。…たぶんそれが一番いい。」
「そうかな。これに、負けないくらい強くなれれば、いいんじゃないか?」
『強くなれ』
「おまえが、強くなれれば」
『古代種の知識と力を手に入れて』
「おまえは人でいられる。」
『おまえは神になれる』
「…大丈夫。許されない命はないから。」
「…もしも、ほんとうにそうなら」
少年は立ち上がった。屈み込んでいる人物の黒いフードを下ろし、現われた端正な顔を見下ろして言った。
「もし、ぼくがこれに食われたときには、おまえが始末をつけなくちゃならないな。」
まっすぐに視線が見交わされる。
「…約束しよう。」
柔らかく笑いかけると、金髪の人物はかき消えてしまった。
少年は、外に向かって歩き始めた。