透先生の第3弾
”平和な妄想・推理小説家(スランプ中)編”

 重いカーテンを開く盛大な音がして、一気に書斎は明るくなった。光の中にちらちらと埃が舞うのが見え、ヴィンセントは眉をひそめた。そんな部屋の主の不機嫌な様子に気付いているのかいないのか、ユフィは窓も全開にして、徹底的に部屋の空気を入れ換える。
「こんな埃っぽい部屋でよく眠れるよね、全く」
「・・・何の用だ。」
「面白い話を仕入れてきたからさ、教えてあげようと思って、来てあげたんだっ」
 どうせろくな話ではないだろう。そう思ったが口に出すのも面倒だったので、態度で示した。ヴィンセントが毛布を頭まで引き上げて寝直そうとするのを、ユフィはその端を掴むことでどうにか阻止できた。
「ちゃんと人の話を聞けってば!新羅書店が不穏な動きをしてるんだって!」
「・・・関係ない。」
「叩けばもしかするともしかして新羅には致命傷かもよって言っても?」
「だったら、お前がそれを調べて記事にすればいいだけの話だろうが。」
「それはそうなんだけど」
「そういうことだ。早く行け。」
 今度こそ寝直してやろうとするヴィンセントの毛布をユフィはまだ掴んでいる。ふと、一瞬のためをおいて、ユフィはその毛布を思いきり引っ張って取り上げた。
「どーせヴィンセント、まあたスランプなんだろ?だったらさ、一緒に行こう?うん、それが良いよ、気分転換にもなるし、ね?」
「・・・お前な・・・」
 虚を突かれて毛布を奪われたヴィンセントは、どうやらついでに主導権も奪われつつあるのに気付いた。
「ま、スランプじゃなくたってかび臭い文章しか書けてないと思うけどね、あたしは。それはおいといて、そうと決まったら、出かける準備!」
「決まってない!」
「担当さん、来るの何時?」
「・・・・・・。」
「取材ってことにしてあげても良いけど?」
「・・・・・・・・・。」
「じゃ、行こうか!」



 ・・・・・・・・・・・・・・・透逃亡。

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