すずりか先生の第2弾

アップルパイはやはりマクドナルドに限る。
宝条は、その時あつあつの紙袋を片手に上機嫌で研究室のドアを開けた。
ツンと鼻につく薬品の臭い、ひんやりした室内、窓の外は薄暗い雲がかかり、季節の終わりを告げている。
宝条はなによりも、この静寂を愛していた。
「バレンタイン」
紙袋をそばのデスクに置きナフキンを取り出しながら、そこにいるはずの人に背を向けたまま声をかけた。
「君は甘いモノは駄目だったかな?私は目がなくてね」
ガサガサと紙袋の音だけが響き渡った。返事もないのに宝条は続ける。もとい返事など期待していない。
「ここのパイは最高さ。君もそう言わず口に入れてみるといい。んー、いい匂いだ」
他の研究員達は皆ミッドガルに帰ってしまった。
新しいプロジェクトの舞台はすでに新羅本部に移り、研究員の一人である宝条もあまり長居はできない。
それでも無理を言ってニブルヘイムに残ったのにはもちろん訳があった。
ここにも、彼だけのプロジェクトが密かに進行しているのだ。
「・・・ヴィンセント?」
どうも気配がしない。
気づいた宝条は、ろくに明かりもついていない部屋の奥のくすんだベッドをのぞき込んだ。
そこに眠っているはずの人はいなかった。
宝条は口をポカンと開けて、端から見ればなんとも間の抜けた顔をしていただろうことたっぷり10秒。
(・・・どこに行った・・?)
どこにも行くはずはない。彼にはあれから毎日朝昼晩ちゃんと薬を投与している。
大事な手術はまだ途中だ。安静にしてもらうために筋力は極端に低下させ、今では自慢の銃を抜くこともできないだろう。
ここから抜け出すような力は残ってないはず。
そう、いつものようにそこのベッドに横たわって健やかな(?)寝息をたてて・・・。
そこまで考えて、ふいに背筋が寒くなった。

薄暗い雲の下、風にあおられ、その人はそこに立っていた。
宝条はホッと胸をなで下ろす。
そんなことはありえないことだとわかっていたが、何故か、彼がどこか遠くへ行ってしまったようなそんな気がしてならなかった。
「それにしても、よくあんな所まで・・・」
まさか屋敷の外まで出ていたとは正直思わなかった。窓から抜け出したのだろう。(おまけにその後彼はちゃんと窓を閉めている)
とにかく迎えに行かねばならない。
宝条は不本意ながら、足を窓枠にかけてスルリと外に滑り降りた。
ガサガサと草をかき分ける音が風に乗る。薬の量が足りなかったかと考えながら、宝条は一歩、二歩と彼に近づきヴィンセントと、声をかけようとしたところで固まってしまった。
彼は絶壁の縁に立っていた。
その目はまるで足下を見ていない。心さえも遠くへ飛んでいってしまったかのように、ただそこにぼんやり立っているのだ。
「・・・ヴィンセント」
重い声だった。
「それは駄目だよ。それはいけない」
それでも宝条は、一歩も彼に近づくことができない自分を自覚している。
そしてそれは決して悟られてはいけない。
「さあ・・・、部屋で一緒にアップルパイを食べよう」
そう言って右手を差し出す。彼はゆっくりと宝条の方へ振り返り微笑を浮かべて、小さく呟いた。
「・・・馬鹿め」
その言葉は自分に向けられたものか、彼自身のものか。
宝条の腕が彼に伸ばされるのと、ヴィンセントの足が地面から離れたのは同時だった。
宝条の手は彼に届くことなく、彼は自殺してしまった。

ヴィンセント・ヴァレンタイン 27歳、死亡



変なの書いてごめんなさい・・・。


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