しほ先生の第17弾

投稿者 しほ 日時 1997 年 8 月 18 日 18:28:29:


 海野まんぼう様。
 お誕生日おめでとうございます!! これは不肖の姉からのろくでもない贈り物です。どうぞ受け取って下さいませ。
 しかし…おめでたい日にこんな話…(大汗)。
 なんだか訳わかんないセフィ×クラだけど、適当に解釈しておくんなせい。



 誰でも、気の休まる場所、唯一の憩いの場所というものを必ずひとつは持ち合わせている。クラウドも例外ではなかった。神羅の軍の中で、周りに馴染めず、一人孤立する彼にさえ、この場所は優しい。
 神羅ビルの一画、倉庫の横の細い廊下を進んだ奥、それを抜けた先には星がある。小さな円窓から見える無数の光の輝きは、彼を慰めてくれているようで。配属されてすぐに、偶然見つけたこの場所の存在は、同室のザックスにすら知らせていない。他の誰の足も踏み入れさせてはならない、ここはクラウドにとって神聖な場所だから。
 けれど今日は、ここに来た事を後悔していた。今は───今だけは、来てはいけなかったのだ。クラウドは窓脇の冷たい壁に頬を押しつけながら、きつく自分の体を抱きしめた。
 乱れた青い制服を直す気力すらない。この服に初めて袖を通した時、不安と、それ以上の期待とに胸は躍っていた。だが、今はどうだ。くたびれた汚れた布地。毎日これを身につけなければならない厭わしさ。一般兵の証、「その他大勢」の象徴。
 特別な存在になりたくて、神羅へ来た筈だった。けれど現実が、容赦なく、それは儚い夢だと告げる。
「……っ」
 突然こみ上げたものに、クラウドは口を手で覆い、体を折った。吐いてしまえれば楽だったかもしれない。けれど、吐くものなど何もないことはわかっていた。胃液が口中に広がり、涙が滲む。
 特別な存在になりたくて、なれなくて、それでも、どうしてもなりたくて……だから、体を売った。
 逆らえなかった。力強い腕と命令。反逆罪を持ち出されては、従うしかないだろう。
 いや、違う。拒むことはできた筈だ。それをしなかったのは、クラウドの心のどこかに、卑しい期待があったからだ。ほんの少しの間、上司がこの体を貪る間だけ我慢していれば、ソルジャーになれるかもしれない───
 今更ながら、男の指が這い、舌が触れた部分が、どうしようもなく汚れたもののように思われた。けれど間違いなく、クラウドは望んでそうしたのだ。
 涙が頬を伝った。先刻のような生理的な苦しさからだけではない、胸の奥に生まれた痛みがもたらした涙。目の奥が熱く、瞼を上げることができない。声を洩らさないようにときつく噛みしめた唇が白い。
 ザックスは心配しているかもしれない。彼は人一倍───特にクラウドのことになると心配性だから。だけど今夜は部屋に戻りたくない。こんな無様な自分を、彼に見せることはできない。恥ずかしくて、辛くて、苦しくて悲しくて…このまま消えてしまいたい。
 かつん、と音が響いた。クラウドはびくりと顔を上げる。長く伸びた影が、そしてその主が、光を背に、クラウドの前に立っていた。
 クラウドは反射的に視線を外した。頬に残った、幾筋もの涙の跡を、袖でごしごしと拭う。きっと見られてしまっただろうけれど、彼の前では毅然としていたかった。
「…やはりここにいたのか」
 彼は───長い銀の髪を背に垂らし、深い碧の瞳で優しくクラウドを見つめながら、ゆっくりと近づいてきた。クラウドにとっての特別な存在が、クラウドだけの場所を侵す。けれど、彼なら、彼だけなら許すことができる。
「セフィ…」
 クラウドにとっての安らぎの場所であると同時に、ここは彼らの密会の場でもあった。いつの頃からかこんな関係に陥ってしまった、憧れの対象であった彼との、約束の場所。
「時間はとうに過ぎている筈だが…ここで何をしていた?」
 クラウドははっとしてセフィロスを見上げた。そして思い出す。任務を終えて帰ってきた最強のソルジャーとの、数週間ぶりの約束を。
「私を待たせるとは…悪い子だな、クラウド…」
 セフィロスの顔が近づいてくる。きっと抱きしめられて、そのまま口づけられ、その手に身を委ねてしまう。彼との情事はそうして続いてきた。
「クラウド…?」
 自分を抱き寄せようとする男の胸を、クラウドの細い腕が、震える小さな手が押し戻す。一瞬合った視線はすぐに外され、クラウドは床を見つめる。
「ごめん…なさい。今日は…」
 この人を拒むのは、初めてのことかもしれない。最初に抱かれた時でさえ、クラウドはセフィロスに逆らう事をしなかった。セフィロスが気紛れで自分を抱くのだという事はわかっている。けれど、どんなに酷く扱われようと、どんなに乱暴な仕打ちを受けようと、拒絶したことは一度としてなかった。唐突に、彼は優しくなるから。その優しさが信じられたから。
 でも、今は。今だけは……
「何があった?」
「……」
 ゆうるりと首を振る。その仕草が却って疑いを深めるだけだと、わからない訳ではないが、今はそうする事しか思いつかないのだ。できるなら、このまま消えてしまいたい。この人の前から、消えてなくなってしまいたい。
「───やっ…!」
 有無をいわせぬ強い力が、クラウドの自由を奪った。抱きしめる腕に抗うことができない。クラウドの未だ細い身体は、難なくセフィロスの腕の中に収まり、背中を壁に感じたと同時に、冷たい唇が声を奪う。
「ん…っ……」
 咄嗟に閉じた唇を軽く噛まれ、息苦しさに開いた歯の隙間から舌が忍び込んだ。拒もうとして絡め取られた舌を強く吸われ、唾液の混じり合う湿った音が耳元で響く。自分に覆い被さる男を押し戻そうとして、セフィロスのコートを強く握りしめた手に、縋る力が込められる。
 それでも、長い口づけから逃れた時、口をついて出たのは拒絶の言葉。
「いや…こんな所で…」
 頑ななクラウドに焦れたのか、セフィロスはクラウドの体を冷たい床に乱暴に押し倒した。
 驚きで見開いたクラウドの目に、冷めた碧の瞳が映る。
「セフィロス…!」
 クラウドの声に恐怖の色が混じった。これは、どこかで見た事がある。鋭く冴えた、冷たい瞳───
 布のひきつれる音が耳を裂いた。既に衣服の形をなさない青い布の残骸が、クラウドの白い肌を無惨に彩っている。追いつめられた獲物のように怯えるクラウドを、セフィロスは無機質な表情で見下ろしていた。
「…や……嫌ぁっ…!」
 拒絶の言葉は本心からだった。
 そう、セフィロスがこんな目をするのを、確かに見た覚えがある。戦闘の中で、瀕死の敵に止めを刺す時、セフィロスの目はこんな風に美しく冴えていた。だとすれば、今の自分はセフィロスの獲物にすぎないのだろうか。
「っあ…や、いや…あぁ…っ」
 甘く掠れる自分の声が遠く聞こえる。どんな風に扱われても、この人に逆らう事などできはしない。彼の呪縛からは逃れられないことを、クラウドは身をもって知っている。
 晒された素肌の上を、セフィロスの手が、唇が、舌が、余すことなく味わってゆく。その度に、敏感なクラウドの体は震え、彼の愛撫が辿ったところから沸き上がる快感を逃すまいと、益々鋭敏になってセフィロスを求めた。
「はっ…あ、ぁ……」
 追い上げられ、責め立てられて、熱く燃え上がる肌を止められない。残酷な、拷問のような愛撫。それが、あの権力を武器にクラウドの体を貪った男の跡を正確になぞっていることすら、クラウドにはもはや感じられない。ただ一人の人が与えてくれる快楽に溺れようとする体に、既に拒む力は残されていない。
「お前はこうやって、誰にでも体を許すのだな」
 低い声に、クラウドの体がびくりと跳ねた。
「もうこんなになって…淫乱な体だな、クラウド」
「セフィロス…」
「ここで何人の男をくわえこんだ?」
「セ…フィ…」
「いやらしい奴だ」
「……!」
 見開いた瞳から、無意識の涙が溢れた。言葉が喉の奥で空回りを繰り返す。違うのだと、貴方だけだと、何故言えないのだろう。ただ一度の過ちだったのに──それでも、過去は消えない。
「ほら、こんなに…」
 長い指が、クラウドの最も敏感な部分に突き入れられる。セフィロスによって長い時間をかけて慣らされたそこは、既にその指を震えながら、悦んで受け入れるまでになっている。セフィロスが戯れに指をほんの少したわめただけで、クラウドの背がしなり、吐息が熱く放たれる。
───随分慣れてるんだな。誰とやってたんだ?それとも、お前は誰とでも寝るのか?───
 あの男の言葉が耳に蘇った。男はクラウドの体を確かめるように隅々まで舐め回し、行為の最中ずっと屈辱的な言葉を投げかけ、それでも逆らうことのできないクラウドに、下卑た笑いを向けた。
 否定はしなかった。別に、誰にそんな風に思われても構わなかったから。けれど───この人に、セフィロスに、そう思われるのだけは嫌だった。
「いや…っ!」
 突然の抵抗に、セフィロスは戸惑ったようだった。が、すぐに冷静さを取り戻し、抗うクラウドの体を押さえつける。体格ではかなわない。涙で視界が霞む。闇雲に振り回した手が、セフィロスの長い髪に絡んだ。
「つっ…」
 セフィロスの端正な顔が歪んだ。小さな手を乱暴に捻り上げたが、その指の間に、銀の糸が数本握られている。クラウドの手首に、セフィロスの指の跡が、くっきりと刻まれた。
「いけない手だな…髪が抜けてしまった」
 セフィロスの物言いは、この場に、この状況にふさわしくないくらい、酷く冷静だった。クラウドの握り込んだ手を掴んで指を一本一本引き剥がし、彼にむしり取られた己の分身を見つめる。そしてふと、唇に冷笑を乗せた。
「罰を与えなくてはな」
 白い胸元を舌が這い、まだ鍛えきれない柔らかな腹部から、淡い茂みへと移って行く。くさむらの中心に勃つ幼いものをそっと撫で上げ、返された反応を楽しむと、セフィロスは束ねた銀の糸で、震えながら解放を待つクラウドの根本をきつく縛り上げた。
「あっ…!」
 今まで感じたことのない感覚に、クラウドの目が見開かれた。何が起こっているのか、咄嗟には理解できなかった。下腹部がじんと重くなり、既に達しそうになっていた自身は限界まで張りつめ、どくんどくんと脈動している。
 苦しい。早く解放して欲しかった。既に快感よりも、痛みがクラウドを支配しつつあった。
 先端を生暖かい感触が伝った。濡れた舌が、蜜をすくうように舐めとり、クラウドに絡みつく。ゆるゆると撫で上げ、ふいにきつく吸い上げ、また柔らかく包み込む。溶けそうな位熱を帯び、潤んだ瞳からは透明な涙が溢れる。頬を伝い床に染みを広げる涙の粒は、止まることを知らなかった。
「…ぁ…もぅ……許し…て……」
 何に対する許しを乞うているのかすら、もうわからない。体内を炎が駆けめぐっているかのようだ。熱い。熱くて、苦しくて、もう何も考えられない。
「セフィ…ああっ…!!」
 愛しい人の名を呼びかけて、声は悲鳴と化す。自分の体の奥深くを犯す男の背に、クラウドは深く爪を立てた。既に腰から下は感覚がない。けれど、打ち込まれた楔が、体の内から焼け付くような熱を伝えてくる。今のクラウドにとって、彼のその存在こそが全てだった。
「はぁっ…は……セフィロス…セフィ……」
 何度も何度もその名を繰り返し呼ぶことで、辛うじて意識を保っていられた。が、それも限界が近づきつつあった。知らず、腰が淫らに揺れる。その細い腰をセフィロスが押さえつけ、一層深く突き上げたと同時に、クラウドの戒めを解いた瞬間、クラウドは瞼の裏に白い闇を感じ、ようやく訪れた解放に浸りながら、セフィロスの腕に全てを預けた。


 顔を上げることができなかった。セフィロスの顔をまともに見れなくて。涙に濡れて泣きはらした目を、セフィロスに見せたくなくて。全てを晒け出すことばかりが、愛する証ではない。知られたくないことも、知られてはいけないこともあるのに───セフィロスはクラウドの全てを、何もかもを知り尽くしている。
 卑怯だと思う。クラウドは、セフィロスの事を何も知らない。そこからして既に、この関係は対等ではありえない。
 それでも───
「クラウド」
 セフィロスの腕が、クラウドを優しく抱く。こんな風に優しいから、クラウドはセフィロスの呪縛から逃れられなくなってしまうのだ。きっと、その事も、セフィロスは知り尽くしているに違いない。
「お前は、ソルジャーになりたいのか? それとも、肩書きが欲しいだけか?」
「……」
 エメラルドの瞳。優しい、限りなく深い碧。慈しむようなその目に、吸い込まれてしまいそうだ。
「お前は何故ソルジャーになりたいんだ?」
「…あなたの…」
 掠れた声で、クラウドは呟いた。新しい涙が頬を伝う。それを、長い指がそっと拭う。それだけでクラウドは、胸の奥を温もりが満たしてゆくのを感じてしまう。
「あなたの…そばにいたい、から…」
 唇が声を吸い取った。長い口づけの間、セフィロスの手が、クラウドの背を優しく抱いていた。クラウドは夢中で口づけをねだり、力の抜けてしまった細い腕を、必死でセフィロスの背に回した。その腕を取り、セフィロスはより強くクラウドを引き寄せる。
「ならば、追って来い。お前は私を───私だけを見ていれば良い」
 囁く声を聞き漏らさないように、クラウドはセフィロスにもたれた。セフィロスはクラウドの耳元に唇を寄せる。熱い息が耳にかかり、それだけで収まりかけていた炎が再び燃え上がる。
「待っていてやる」
 クラウドは小さく頷いた。この言葉だけで、なにもかも忘れられる。あなたに近づきたい。側にいたい。片時も離れたくはない……
 溺れる事の恐ろしさを、今のクラウドは知らない。ただセフィロスを信じ、頼り切る事が、彼にとって唯一至福の時だった。
「セフィロス…愛しています…」
 クラウドは呟き、そして目を閉じた。セフィロスの優しい腕が、自分を包み込む。それだけを信じて、他のすべてのものに背を向けて───それでも確かに今、クラウドは幸福だった。


 いやー、はっはっはっ。訳わからんのぅ。(←オイ!)
 とりあえず「根本を縛る」とゆーのを一度やってみたかっただけなのよん♪
 こ、こんなプレゼントはやっぱりイヤですかまんぼうさん…


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