しほ先生の第13弾

 何をとち狂ったか、レノ×クラです。連日の熱帯夜に脳が溶けたらしい…。
 冒頭、どこかで見たようなシチュエーションですが、気にしないように。やはりこういう状況は、一度はみんなが考えるということで(汗)。
 あ、あとルーファウスファンに刺されそうなこと書いてますので、ルーファンは読まない方がいいかも…毎回誰かを敵に回してるような気がする私(大汗)。



 別に、珍しい事ではない。そう判断した彼は、一度は何も見なかったふりをして、その場を立ち去ろうとした。その彼の足を引き留めたのは、乱れた金の髪と生気を失った青い瞳。見過ごすふりをするには、あまりにも目を引いた。
 元々彼は、仕事以外の事には無関心だった。今、視界の端で行われている出来事を止めるのは、本来の彼の仕事ではない。が、寄ってたかってというのと、卑怯な手を使って、というのは、彼の美学に反した。
 声をかけただけで、たった一人に群がっていた数人の屈強な男供は、慌てふためいて走り去って行った。その呆気なさに、彼は毒気を抜かれる。どうせやるなら、邪魔者を殺すくらいのつもりで臨んで欲しいものだ。そうでなければ最初からやらなければ良いのだ。集団でしか行動できない奴等の背中に、彼は軽蔑の一瞥をくれる。けれど、この神羅の底辺に蠢く兵士のほとんどが、その部類に属することも、彼は承知していた。
 彼は、床に倒れた細い身体を、傷つけないようにそっと抱き起こした。金髪碧眼の、年端もいかない少年。おそらく入隊したばかりの一般兵だろう。新米兵士に対して、ただ長い年月いるだけの先輩兵士が、こうして洗礼を行うのは、確かに珍しい事ではない。だが、今回のこれは、明らかにやりすぎだ。
 目を開けている筈なのに、少年は何の反応も示さない。心は既に別の所にあるのだ。それが、薬物の作用であることは明白だった。
「…大丈夫かな、と」
 覗き込む赤毛の男を、少年は緩慢な動作で振り返った。汚れた頬に、涙の跡。乱れた髪の下の青い瞳が濁っている。この状態で男達を振り払ってしまったのは、却ってこの少年にとって辛かったかもしれない。未だ薬物は、少年の躰を蝕んでいるらしいから。
 とはいえ、拾ってしまったものをここで放り出す訳にもいかず、彼は諦めて肩をすくめると、痩せた躰を腕に抱いたまま、今来た道を戻るべく歩き出した。


 薄く開いた瞳に、光の洪水が飛び込んできた。思わず目を閉じ、再び恐る恐る瞼を上げて行くと、白色灯の光が、しらじらと室内を照らし出しているのがわかった。
 だが、室内の装飾に見覚えはなかった。自分の部屋ではない事だけは確かだが、ここはどこなのだろう。
 何気なく上体を起こすと、みしりと関節が軋んだ。痛みに顔を歪め、そして自分が全裸で、黒い豪奢なソファーに寝かされていたことに気づく。身体の上には、仮眠用なのか、薄手の毛布がかけられていた。
「目が覚めたかな、と」
 聞き慣れない声に、びくりと身体が跳ねた。そしてその瞳が、これ以上ないくらいに見開かれる。
「レノ…タークスの…?」
 少年の声は、か細く震えていた。こんな声だっただろうか、と彼は自分を疑う。そういえば、体がまるで他人のもののように心許ない。下肢には全く力が入らず、眠気を誘う怠さも抜けきってはいない。
 何故だろう。…思い出せない。
「ご名答だな、と。ところで俺は、あんたをなんて呼べばいいのかな?」
 燃えるような赤い髪の男は、ソファーの側のスツールに腰を下ろした。着くずしたタークスの制服が、まるでそれが正装だとでもいうように、彼にはぴったりと似合っている。
「クラウド…ストライフ、です。…あの、ここは…」
「タークスの仮眠室なんだな、と」
 細身の男は、笑った。その笑顔にクラウドは目を見張る。
 タークスといえば、神羅の裏部隊である。現社長であるプレジデントの影で、様々な汚れ役を一手に引き受けている、いわば闇のエキスパート。そのタークスの中で、特にこのレノという男は、闇にふさわしくない飄々とした外見や口調のまま、淡々と仕事をこなすという。
 その彼が、笑顔を見せたのだ。この笑顔のまま、逆らう者を葬るのだろうか。クラウドが緊張を隠せずにいると、レノは益々面白そうに笑う。何がそんなにおかしいのかと、クラウドは戸惑った表情でレノを見上げた。
「…なかなか、良かったぞ、と」
「え…?」
 言われた意味がわからない。が、レノの目線を追ううち、唐突にクラウドは理解した。肌に残された赤い跡と、この倦怠感は、その為だったのだ。
 カッと頬を染めたクラウドに、レノはまたにやにやと笑いかける。
「気にすることはないぞ、と。薬のせいだからな、と」
 レノの、舐めるような視線から逃れるように、クラウドは目を伏せた。
 記憶は、数人の男達に囲まれて、何かを無理矢理飲まされた所で途切れていた。だが、体は確かに覚えている。胸元を辿った手が下肢に伸び、大きく広げられた双丘の間に、熱いものが押し当てられ───
 夢ではなかった。それは、目の前のこの男によってもたらされたものだ。
 レノの手が、クラウドのむき出しの肩をするりと撫で降ろした。クラウドはびくりと反応を返す。たったそれだけのことが、忘れかけていた体の内の火を呼び覚ますかのようだった。
「…まだ、足りないな、と」
 媚薬が、クラウドを追いつめていた。体内に残った薬は、貪欲にクラウドを蝕み、燻っていた炎を一気に燃え上がらせる。
 レノは、クラウドの反応を面白そうに見ていたが、不意にその顔を彼に近づけて、にっと笑った。
「最近どうも気に入らない奴がいるんだが…困ったことに、そいつはあんたに似てるんだな、と」
 震え始める自分の体を持て余し、ただ自らを抱きしめることしかできないクラウドに、レノはおどけた口調で───けれど冷たく言い放った。
「いつもそいつを滅茶苦茶にしたいと思ってる」
 レノの手が、クラウドの顎を捕らえる。
「あんたもそのままじゃ辛いだろ? 悪くない取引だと思うがな、と」
 名前を訊いたくせに、一度もその名を呼ぼうとしないレノを精一杯睨み付けて、クラウドは抵抗を示した。けれど、強がったつもりの青い瞳に、力はない。ただ、体の内を駆けめぐる熱に、呑み込まれまいと耐えている。それは、多分徒労に終わるだろうが。
 レノは、答えを待たずにクラウドの唇に口づけた。小さく呻く声がわずかに抵抗を示すが、それを無視して舌の侵入を果たす。縮こまり、喉の奥に逃げようとするクラウドの小さな舌を誘い出して絡めると、諦めたように腕の中の体から力が抜けた。
 きっとあいつは、こんな風に素直に応じたりはしない。何しろプライドの固まりのような奴だから。
 本音を言ってしまえば、さほど似ているという訳でもない。共通点といえば、絹のような金の髪と、生意気な蒼の瞳だけ。ただそれだけの理由で、一般兵を代わりに抱こうなどと考えた位だから、彼のことを余程腹に据えかねているらしい。レノは、行為を進めながら苦笑する。
「…はっ…あ……」
 漏れる吐息は、甘い。
 彼なら、こんな時どうするだろう。やはりあの生意気な瞳で睨みつけてくるのだろうか。世界は自分の為にあるとでもいうような顔をして。全ては自分の思い通りになるなどと、勘違いも甚だしい。子供のくせに……
 神羅の若き次期社長の暴君ぶりは、彼らタークスでさえ持て余していると言って良い。綺麗な顔をした幼い王は、既に神羅内でも、血の通わない───人間の感情を持たないと噂されていた。神羅の長であるプレジデントですら、息子を止められないと。
 そんなことは、レノにとってはどうでも良い事だった。…そう思っていた。けれど、細かい事にはこだわらない彼ですら、神羅の将来に不安を抱かざるを得ない程、あの少年の言動はレノの理解を越えていた。
 しかし、彼を変えるのは、自分の役目ではない。
(ツォンさんが、何とかするさ)
 それまで、こんな事でしか、彼に対するストレスは解消できない。それに付き合わされたこの一般兵には迷惑な話だろうが。
「うっ…あぁ……!」
 金の髪を振り乱してクラウドが悶える。その歪んだ表情に、あの少年の面影が重なり、それがレノの欲望を更に煽った。熱い体を、細い、しかし力強い指が滑る。ほんのりと桜色に染まった肌は、そそることこの上ない。
 どうしてか、このクラウドという少年は、欲望とは別の意味で、嗜虐性を呼び起こす。滅茶苦茶にしてやりたい、ねじ伏せて征服したいと思わせてしまうのだ。───もしかしたら、そんな所が似ているのかもしれない。
「ひっ…!!」
 レノは、びくりと跳ね上がる体を無理矢理押さえつけた。血管が透けて見えそうな位白い華奢な足を持ち上げ、開かれたその足の間に、レノが侵入する。決して慣れているとはいえないが、一度交合を交わしているためか、クラウドの秘所は、震えながらもレノを抵抗なく受け入れた。
「…いい顔をするな、と」
 苦痛と快楽が入り交じった、男をそそる顔だ。最も、クラウド本人は、そんな表情をしているなどとは思いもしないだろう。
「あ…ふっ……あ、ぁっ…」
 仰け反った喉元をきつく吸う。震える細い腕が、レノの背に回された。応えるように抱きしめて、レノは一気に貫いた。高く細い悲鳴が、レノの耳と、明るい光に晒された少年の体とを震わせた。
 自らの欲望を放ち、がくりと力を失ったクラウドは、既に意識を手放していた。一瞬遅れて、レノが達する。そして体を離し、レノは、哀れな位に細い少年の乱れた姿を見下ろした。
 ちくりと胸の奥に痛みが走る。───らしくない。自嘲が唇を彩った。
 この少年も、あの暴君も、まだ子供に過ぎないのだ。この先、彼らの前には何が待ち受けているのだろう。絶望か、希望か。
 唇に乗せた微笑をそのままに、レノは、気を失った少年の金の髪の感触を、しばし指で味わった。


 かつかつと固い足音が響く。冷たい廊下を、白い上品なスーツに身を包んだ少年が進む。その後ろには、影のように付き添う黒い服の長身の男の姿があった。
「レノ」
 すれ違い様、少年が鋭い声で呼ぶ。レノは足を止め、怪訝な顔で、少年を振り返った。
「これから会議があるんだけど、お前も来てよ。僕を護衛して」
「…ルーファウス様、それは私が…」
「ツォンは黙ってて」
 挑むような青い瞳で、少年はレノを見る。一目で挑発しているのだと知れた。レノが何よりも嫌いなつまらない仕事だと知っていて、少年はそれを強要しているのだ。
「…了解、と」
 レノの言葉に、意外そうに目を見開き、ルーファウスは言葉を重ねた。
「本当にいいの? ドアの前で、立ってるだけだよ。それでも…」
「それでも、仕事だぞ、と」
 言い捨てて、レノはツォンの隣に立つ。気がつけば、驚いているのはルーファウスだけではなかった。ツォンまで呆気にとられた顔をしている。
「やけに素直じゃない。何があったのさ、レノ?」
 レノは応えず、肩をすくめただけだった。ルーファウスはその仕草にむっとしたように、ぷいと前を向いた。そして、再び早足で歩き出す。必死でついてこいと言わんばかりに。
 レノは、若き君主の小さな背を、守るようなまなざしで見つめた。
 これから、彼に何が待ち受け、どう変わっていくのだろう。───まだまだ、先は長そうだ。



 なんか…レノ、父親の心境…?
 ルーが思ったより子供になってしまいました。ごめんなさい(汗)。
 やはりレノの口調は難しいですねー。疲れた…もう二度とレノは書けないかもしれないです。好きなんですが…
 レノ×クラである必要性が全くない、という突っ込みは却下。一度やってみたかったんだも〜ん。念願のソファーでえっちもできたし(はぁと)。
 ……壊れてるぞ、しほ。


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