しほ先生の第12弾

 なつこさんに捧げるクラウド×ユフィ。リミットレベルは0でし。待たせてごめんよ、なつこ…(←馴れ馴れしい)
 久しぶりにほのぼのを書くと疲れるのは何故っ!? やはり既に躰が強●801作家になってしまっているのだらうか…人生終わってるな、私…(汗)



「わぁっ、雪だぁ!」
 若々しい声が弾けた。その声の持ち主にふさわしい少女は、足下に広がる白い絨毯の上で、うれしくてしかたがないという様に飛び跳ね、足跡を残している。初めて見る銀世界が、彼女を興奮の絶頂に導いているようだ。
「ねえねえティファ、見て! 雪だよ!!」
 少女はくるりと振り向く。その瞳は、子供というよりは、小動物のようで。
 彼女の後ろを静かに歩いていた、彼女より少し年上らしい女性が、ふと苦笑を漏らす。
「私、雪は見慣れてるの。ニブル山には毎年すごい雪が降ったから」
 冷たい、とも取れる声に、少女は怪訝そうにティファを省みる。ティファは、はっとしたように青ざめた顔に笑みを浮かべた。
「ユフィは、雪は初めて?」
「うん! ウータイには雪なんて降らなかったもん。こんなに積もってるの見るの、生まれて初めて!」
 北を目指したセフィロスを追って、珊瑚の谷を抜けた一行を待ち受けていたものは、一面の銀世界だった。
 北部生まれのクラウドとティファには、珍しくもない風景だったが、ユフィにとっては歓喜の世界だったらしい。そのはしゃぎようは異常な程だった。それを、仕方がない、というようにクラウドとティファは見つめていた。
 何せ、若いのだから。ユフィはまだ16才。普通なら、まだ親元で様々な事を学びながら、社会に出る準備をしている年代だ。それが、命を懸けた戦いの為に、彼らと行動を共にしている。不思議なものだと、クラウドは改めて思う。
「ね、あっちに村が見えるよ。行ってみよう!」
 彼らの思いを知ってか知らずか、ユフィは彼らの先頭に立つと、しなやかな身のこなしで一気に駆け出した。


 雪原にひっそりと佇む村に、彼らは足を踏み入れた。雪国の生活が珍しくて仕方がないユフィは、あちこちをのぞき回り、人々に気さくに声をかけては、何か目新しい話を聞き出そうと動き回っていた。
「…なんか、やだな」
「ティファ?」
 ぽつりと呟いた声を聞きとがめて、クラウドはティファを振り返った。
「なんであんなに元気なのかな、あの子…」
 意外な言葉に、クラウドは耳を疑う。
 ティファの言いたい事は、わかる。こんな時に、何故あんなにはしゃいでいられるのか───エアリスが命を落としたというのに。彼女はもう、帰ってこないのに。
 それは、衝撃だった。どうしていいのかわからなかった。何故こんなことになったのか、どうして彼女でなければならなかったのか……
「ごめんね、クラウド」
 ふと小さくに笑って、ティファはクラウドを呼ぶ。その声は、いつもの彼女からは考えられない程暗く、淋しげだった。
「クラウドが一番辛いのに、私…」
 クラウドは言葉を返すことができなかった。
 胸の中の、刺すような痛み。それは、エアリスの死を目の当たりにした時から、ずっとクラウドの中に根付いてしまっていた。棘は、多分、一生抜けはしない。けれど、その棘のもたらす痛みにただ耐えているだけなら、何も変わりはしないのだ。
 どうすれば、エアリスが悲しまないですむだろうか。そう考えると、ティファのように沈んでばかりも、ユフィのように無理にはしゃぐ気にもなれない。
「私、先に宿に戻ってるわ。後で来てね」
 止める間もなく、ティファは走り出していた。その背中がやけに小さく見えて、クラウドはため息をつく。息は白く凍って、ふわりと冷えた空気に乗り、霧散した。


 眠ることのできない者のもとにも、夜は無情にも平等にやってくる。クラウドは窓辺にもたれ、眼下の白い景色をぼんやりと見つめていた。音もなく雪は降り続けている。しんしんと積もる白い雪――─その無垢な純粋さに、彼はエアリスを想う。
 どうしたらいい。残された自分たちは、何をすればいい。……答えは、彼らが自ら見つけださなければならない。
 クラウドは、いつの間にか、エアリスに頼り切っていた自分に気がついた。取り残されてはじめてわかった。彼女は、まるで全てを悟りきっているかのように、彼を導いてくれていた。その彼女のおかげで、随分と救われていた気がする。
 もっと早く気づくべきだった。もう、遅いのだろうか。彼女の想いを受け継ぐには、どうすればいい?
 かたん、と小さな音がした。はっとして目を上げるが、室内には何も変わった様子は見られない。クラウドは息を殺して気配を探った。
 雪国特有のモンスターか、あるいは神羅の手先か。無意識に、壁に立て掛けてあったソードに手が伸びる。
「…ありゃ、起きてる」
「───?」
 見上げた目が、見開かれた。
 天井の板を外し、そこから黒髪の少女が、ばつの悪そうな顔をして逆さ吊りになっていたのだ。
「ユ、ユフィっ!?」
「あ、なんでもないの、なんでも。じゃーねっ!」
 素早く引っ込もうとしたらしいが、バランスを崩し、ユフィは慌てて天井にしがみついた。が、もともと人を支えるような作りにはなっていない代物だ。手が滑り、ついでに足まで支えを失って、ユフィはじたばたと手足を動かしながら、木の床めがけて落ちてきた。
「ユフィ! 危ない!」
 咄嗟に受け止めるべく伸ばした腕の中に、すっぽりと収まって、ユフィは照れくさそうに笑った。
「エヘヘ…サンキュ」
 クラウドはユフィを抱きかかえたまま、深い息を一つ吐いた。
「…なにやってるんだ、こんな所で…」
「なーんでもないって。……ねェ、いーかげん降ろしてよっ」
 ユフィはひらりとクラウドの腕を離れた。この身軽さが、どうして肝心な時に役に立たないのか…クラウドは頭を抱える。
「…で?」
「で、って?」
「何か用があったんじゃないのか?」
 ユフィはちょっと肩をすくめると、むくれたようにクラウドを見上げた。
「だから…何でもないって…」
「何でもないって事はないだろ? こんな時間に忍んで来て…」
 夜這い、などと考えない所が、クラウドのクラウドたる所以であろう。
「……PHS」
 消え入りそうな声で、ユフィが呟く。それを聞きとがめて、クラウドは怪訝そうな顔をユフィに向けた。
「だから、PHS使わせてもらおうと思って…!」
 そこまで言うと、突然ユフィはクラウドに背を向けた。
「ユフィ…?」
 小さな細い肩が、小刻みに震えている。クラウドは困惑しながらユフィの後ろに立った。自分の方を向かせようとして、ふと手が止まる。何故か、今彼女に触れてはいけないような気がした。
「アタシがいると、ティファを怒らせるから…昔っからそうなんだ、アタシ…なんつーか、デリカシーっての? それがないって…」
 泣いているのだろうかと思ったけれど、それを口に出すのは憚られた。クラウドは黙って、ユフィの言葉を静かに聞いていた。
「だから、他のメンバーに代わった方がいいかなー、なんて思ってさ。クラウドもその方がいいでしょ? アタシなんかより、他の…」
 クラウドはぽん、とユフィの頭に手を置いた。そのまま、子供でもあやすように、ユフィの少し固い髪を撫でてやる。
「俺は、ユフィがいてくれてうれしいよ」
 頭の上から降ってくる優しい声に、ユフィはぴくんと肩を揺らした。
「あの時、ユフィは誰よりも泣いてくれただろ? 俺やティファの代わりに……」
 水の祭壇のほとりで、自分の腕の中に崩れ落ちるユフィを抱き留めて、クラウドは戸惑いを隠せなかった。ユフィがこれ程に泣くとは、思ってもみなかったのだ。その涙は、泣けない自分やティファの分まで流されたように思えた。
「だから今はユフィにいてほしいんだ。…ダメかな?」
「クラウドぉ…」
 情けない声で振り返ったユフィの大きな目には、涙が盛り上がり、今にもこぼれんばかりだった。クラウドは、精一杯の優しい微笑みを彼女に向けた。
 ぽんぽんと頭を軽く叩いてやる。ユフィは、耐えきれず流れ出した涙を必死で拭い、しゃくり上げる声を呑み込んでいる。抱きしめるには大人で、抱き寄せるには子供だから───クラウドはユフィの高ぶりが収まるのを、辛抱強く待った。
「クラウド、いる!?」
 どんどんとドアを叩く音がした。今夜は千客万来だ。慌ててドアに背を向けるユフィを窓辺に残し、クラウドはドアに向かった。
「クラウド、大変なの! ユフィが……?」
 顔をのぞかせたのはティファだ。彼女は部屋を覗き込み、窓辺に佇むユフィの姿を見つけて絶句した。
ユフィは、赤くなった瞳を伏せて、恥ずかしそうに俯く。
「───どこ行ってたのよ、もう!! 心配したんだから…!」
 ティファはクラウドを押しのけて中に入ると、一目散にユフィに駆け寄った。力一杯抱きしめる。ティファの目にも、涙がうすく浮かんでいた。
「ごめん…ごめんねユフィ…私……」
「ティファ…」
 大きく見開いた黒い瞳に、ティファの肩越しのクラウドが映る。クラウドは笑っていた。それを見るうち、ユフィの胸に安堵が広がってゆく。
「もう、PHSは必要ないだろ?」
 クラウドの問いに、ユフィはめいっぱいの笑みを投げて、ティファと連れだって隣室へ戻っていった。
 それにしても騒がしい夜だった。起こった出来事を思い出すだけで、自然に笑いがこみあげてくる。誰一人、パーティーの中で不必要な人間などいないのだ。
 クラウドはふと、胸の痛みが和らいでいることに気づく。
 棘の先は、こうして丸くなってゆくのだろう。けれど、彼女はきっと許してくれる。これは、決して、彼女を忘れることではないのだから。



 なんだかお約束の展開になってしまいましたね。青春ドラマ…(汗)
 クラ×ユフィというよりは、クラ+ティファ×ユフィって気もしないでもないのですが(笑)。すんません、なつこさん。
 ところで、ユフィが破った天井の板は、やっぱりクラウドが直すのでしょうか?浸ってないで気づけよクラウド…


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