しほ先生の第11弾

 今までさんざん不幸なことばかりさせてきたから、ザックスに幸せになってほしかったの。
 その割には強×や●いシーン(しかもザックスじゃないし)から入ってみたりする。言ってることとやってることが違いすぎるぞ私……


 闇の中、密やかな息遣いが冷えた空気を震わせている。複数の乱れた吐息と、時折あがる小さな悲鳴。薄闇に、白い小さな肢体が浮かび上がり、震えながら弱々しくもがく様は、ひどく淫猥だった。
「おい、そっち押さえとけよ」
「わかってるって…それより、早く代われよ。俺、もう…」
 陵辱者達は、自分たちが押さえつけている少年をいいように弄んでいた。金の髪を乱した、痩せた小さな少年を、屈強な3人の男達が、抵抗を許さない強い力で跪かせ、乱暴に組み敷いている。
 少年の瞳はうつろで、潤んだその目から、意志とは関係なくひとすじの涙がこぼれ落ちた。
「…っ……!」
 その表情が不意に歪む。
 順番を待ちきれず、上半身を押さえつけていた男が、少年の幼い唇に、自らを押し込んだのだ。喉の奥深くを突かれ、少年の眉が苦しげに寄る。その表情さえ、男達の欲情をそそるだけの効果しか持ち得なかった。
「こいつ…いいぜ、絶品だ…」
 後ろから貫き、腰を揺らしながら、男が恍惚と呟いた。
 絡みつく熱い襞は、女のそれよりもきつく男を締めつける。しかし、それだけではない。少年の華奢な四肢、それらが徒労に終わると解りきっていながら無駄な小さな抵抗を繰り返す様が、どうしようもなく征服欲を駆り立てるのだ。少年が抗う程に、それを押さえつけ、めちゃくちゃにしてやりたいという男の本能を刺激してしまう。
「…くぅっ……ん…ァ……」
 くぐもった喘ぎが、男根を含んだままの唇から洩れる。その声に導かれるように、まず後ろの男が達し、続いて前の男が果てた。
「まだだぜ、坊や…俺も楽しませてくれよ」
 激しく咳き込む少年を、太い腕が抱き起こした。何度も擦られて傷ついたその部分に、怒張したものを押し当てられ、少年は息を呑んだ。
「あ…あああっ!!」
 圧倒的な質量が、少年の体の奥深くに侵入した。男の動きに合わせ、淡い金の髪が揺れる様が、少年の朱に染まった表情が、たった今果てたばかりの男達の体に再び火をつける。そして男達の無慈悲な腕は、もはや抵抗すらできない少年の細い躰を、思うさまに蹂躙するのだった。


「よー、クラウド! どうした? 元気ねぇぞ」
 ばちん、と背中を叩かれて、クラウドはよろけながら振り返った。声の主はわかっている。ここのところ、毎朝の日課のようになってしまった挨拶だ。
「おはよ、ザックス…」
 小さく笑うクラウドに、ザックスはずいと顔を寄せた。
「…マジで顔色悪いぞ、お前。大丈夫か?」
 これは、はじめての問いかけだ。いつもなら笑って済ませられるやりとりなのに、今日ばかりはザックスは真剣な顔でクラウドの前の席に腰掛けた。
 神羅兵士用の食堂の一角である。クラウドの前には、コーヒーと申し訳程度の野菜サラダ、パンが一かけ。成長期の少年の食事としては、あまりにも粗末だ。
「またこれだけか。そんなだからでかくなんねーんだぞ、お前は」
「…朝はあまり食べたくないんだ」
「朝だけか?」
 予想外の突っ込みに、クラウドはたじろいだ。ザックスは、怖いくらいまっすぐにクラウドを見つめている。普段は明るく冗談ばかり言っている彼だが、戦闘中はこんな顔をしているんだろうな、とクラウドはぼんやり思った。
「ちゃんと寝てんのか? せっかくの美人が台無しだぜ」
 口調はおどけているが、目は笑っていない。真剣に自分のことを心配してくれているのだと、クラウドにも感じ取れた。
「…なんか、あったのか?」
「………」
 訊きにくそうに切り出したザックスをまともに見れず、クラウドは唇を噛んだ。視線はテーブルの上を落ち着かなく彷徨う。
「ま、言いたくないんなら無理には聞かねーけど」
 肩をすくめ、ザックスはいつもの表情に戻った。深い藍色の瞳に、優しい笑みが浮かぶ。その瞳で見つめられると、クラウドは不思議と落ち着いた気分になれるのだ。
 ザックスは、いつも優しい。出会った頃既に、階級こそ低いものの、ソルジャーの地位にザックスはいた。それなのに何の屈託も分け隔てもなく、一般兵である自分に接してくれ、兄のように何かと面倒をみてくれた。少し生意気でひねくれていたクラウドを、今の彼に導いたのはザックスであると言っていい。だから、彼に心配をかけたり、隠し事はするべきではないとわかっていたし、したくもなかった。けれど−−−
「…な、200ギルは安いだろ?」
 ぴく、とクラウドの肩が揺れる。その声は、クラウドのすぐ後ろの席から発せられ、彼の耳に否応なしに飛び込んできた。
「最高だぜ、あいつ……今晩もお願いしたいくらいだ」
「だめだよ。今夜の客はもう決まってるんだ」
「便乗しちまおうかな。どうせ、何人でも値段は一緒だろ?」
 がくがくとクラウドの体が震え出す。そのあからさまな震えは、ザックスでなくても不振に思う程だ。
「…クラウド?」
 ザックスの眉がひそめられた。
 男達の、下卑た笑い声が、クラウドを打ちのめした。クラウドは体の内からこみ上げるものを押さえきれず、口を手で覆う。
「…ぐぅ…っ…」
 椅子の倒れる音が、兵士の行き交う食堂に響き渡った。ざわめきが一瞬、水を打ったように消えた。次いで、華奢な体が、ゆっくりと倒れ込んで行く。
「−−−クラウドっ!!」
 ザックスの声は、クラウドには届かなかった。咄嗟に伸ばした彼の腕の中に、クラウドは身を預けたまま意識を失っていた。


 クラウドが一人でこの部屋を使うようになって、2ヶ月が過ぎていた。
 最初は二人部屋だった。ルームメイトは、クラウドよりも更に小柄で、優しい面もちの少年だった。彼は、ソルジャーに憧れてここへ来たのだと言った。志を同じくした二人は、すぐに打ち解けた。かれらはいい意味でのライバルであり、心を許せる友人だった。
 その彼が、2ヶ月前、何の前触れもなく姿を消した。
 任務で赴いた先で、モンスターに襲われ、命を落としたのだと聞いた。すぐに帰ってくると笑顔で旅立った彼が、もうこの世にいないのだと、クラウドはにわかには信じられず、ふさぎ込む日々が続いた。
 そのクラウドを、現実に引き戻し、勇気づけたのもまたザックスだった。ザックスの明るさと心遣いに、次第にクラウドも元気を取り戻し、全て元に戻りつつあると思われた。
 だが−−−
 ここ数日、クラウドはまた陰鬱な影を引きずるようになった。その原因が何であるのか、ザックスには思い当たる節もなく、クラウド本人も決して表に出さない。だからこそ、今日こそはクラウドの口から聞きたかったのだ。
 しかし、今彼は、その原因のために戸惑っている。
 知らなければ良かったかもしれない。けれど、今となってはどうしようもないことだ。
 クラウドの寝顔を見つめながら、ザックスは深く長い息を吐いた。


 うすく開いた瞳が、深い色をたたえた藍の瞳を捉えた。まだぼんやりと靄のかかった頭が、それでもその瞳の持ち主を判別して、クラウドは二、三度瞬いた。
「…ザックス…?」
 名を呼ばれ、ザックスは安堵したように、柔らかな笑みをクラウドに向けた。「なんで…」
「愛しのクラウドちゃんの看病のため、今日は非番」
 かぁっとクラウドの頬に血が上る。真っ赤になって毛布をかぶるクラウドに、ザックスは極上の笑顔を見せた。
「訓練担当の教官には俺から言っといたから、今日はゆっくり休んでいいぜ」
 ふわりと髪を撫でる指。ザックスはこうしてクラウドの髪を梳くのが好きだった。クラウドにしてみれば、子供扱いされているようで気に喰わないのだが、それでもザックスの手は心地よいものだったから、ザックスがそうしたい時は好きにさせていた。
「…ごめんな、クラウド」
 不意の意外な言葉に、クラウドは思わずザックスを見つめていた。
 ザックスは、思い詰めたような表情をしていた。彼がこんな顔をするのは珍しい。そしてそんな時の彼は、普段のザックスとはまるで別人のように、クラウドが面食らう位に、真剣そのものだ。
 ザックスは、ポケットから取り出したなにか小さな四角いものを、ベッドサイドのテーブルに放った。
「もっと早く気づいてなきゃいけなかった…」
 それは、カードキーだった。兵士一人一人に配給される、自室のキー。クラウドが今いるこの部屋の番号を振られたキーは、しかしクラウドのものではない。元ルームメイトのカードキー−−−それが、死者の手を離れ、兵士の間を渡り歩いていたのだ。少しばかりの金と、快楽と引き替えに。
 それを目にして、クラウドの顔が歪むのがわかり、ザックスはいたたまれない思いに囚われた。
 こんな時は、どんな言葉をかければいいのだろう。下手な慰めも同情も、クラウドを益々傷つけるだけだとわかっていた。視線を外したまま、クラウドは唇をきつく噛みしめ、泣きそうに瞳をうるませている。
 ザックスは柔らかくクラウドの髪を撫でながら、辛抱強く彼が落ち着くのを待った。やがてクラウドの体の震えが小さくなり、おずおずといった様子で見上げる瞳を、ザックスはめいっぱいの優しい笑みで受け止めた。
「なんで、言ってくれなかったんだ?」
 ザックスの問いに、クラウドは再び頬を染めて俯いた。
「…こんなこと…言える訳ない……」
「そう…だな。悪かった」
 ため息とともに、くしゃくしゃとクラウドの金髪を掻き乱す。いつもなら、ここまでするとさすがに怒り出すクラウドだったが、今は怒る気力すらないのか、ただ黙ってザックスの大きな手のなすがままに任せている。それが却って辛くて、ザックスはまたため息をつく。
「…見て、いいか?」
「え?」
 聞き返す間もなく、ザックスの手がクラウドの衣服にかかっていた。
「やっ…ザックス…っ!」
 抵抗しようにも、力が入らない。ザックスはクラウドの細い腕を難なく纏め上げると、服のボタンを器用に全て外し、クラウドの肌を露にした。と、ザックスの眉がひそめられる。
 悲惨なものだった。北部出身のクラウドは、透けるように白く、きめ細やかな肌を持っている。その肌に、くっきりと残された鬱血の痕、小さな傷と痣。消えかけた痕の上に、意図的にまた重ねるようにつけられた跡。嗜虐の証は、クラウドの体だけでなく、心までもを深く抉っている。
 ザックスはその肌に、そっと手をかざした。
 ふわりと温かい光がクラウドを包み込んだ。その温もりは心地よく、癒すようにクラウドの内を満たす。驚いて顔を上げるクラウドに、ザックスは照れたように笑いかけた。
「俺さぁ、かいふくマテリアってほとんど使わないから、ぜんぜん成長してないんだよな。だけど…これくらいの傷なら治せるから…」
 傷だけなら。ザックスは胸に残るしこりを表に出さないようにクラウドに語りかける。クラウドはふと頬をゆるめた。
「ザックスは猪突猛進タイプだもんね…」
「そ。男は黙って突っ走る」
「黙って、じゃないだろ、ザックスの場合」
 くすくすとクラウドが笑う。やっと見ることができた笑顔が、ひどくまぶしくザックスの目に映った。
「ありがと…」
 ひとしきり治療を終えた後、クラウドがぽつりと呟いた。
「ばーか、礼なんて言うなよ。…それより、俺の方こそ、ごめんな」
「ザックスが謝ることじゃないよ」
「そうだけど、さ。…おい、無理するなよ」
 クラウドは辛そうに上体を起こした。手をさしのべようとするザックスを制し、クラウドはサイドテーブルからカードキーを手に取ると、ザックスの手の中に握らせた。
「クラウド…?」
「ザックスに持っていてほしいんだ」
「…それって…」
 照れかくしなのか、クラウドはベッドに潜り込むと、ザックスに背を向けて毛布を頭からかぶった。
「べ、別に変な意味じゃないよ! ザックスなら安心だから…!」
「…んなムキにならなくたって、わかってるって」
 ザックスはクラウドの子供のような仕草にひとしきり笑い、それからクラウドの耳元に唇を寄せた。
「サンキュな、クラウド。…好きだぜ」
「−−−ばかっ!」
 飛んでくる枕を避け、ザックスは声を上げて笑いながら、クラウドの部屋を後にした。



 このままザックラや●いに突入すべきか(もしくはちゅーだけでも!)と悩んだんですが…この状況じゃザックスやらないだろーなーと思ってやめました。今後の進展次第ってとこですかね(笑)。
 しかし、甘い。不二家のスポンジケーキ並の甘さだ(汗)。でもいいや、ザックスが幸せなら。−−本当に幸せなんだろうか、と一抹の不安(なら最後まで幸せにしてやれよ、私!)を残したままカフェより去る。さよーならー!


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