しほ先生の第10弾

 先に言っておきますが、これはひどい話です。特にセフィロスファンは読まないように(命令口調)。ううっ…久しぶりにアップするのがこんなんか、私… あんまり「びくびく」でもないけど、遅ればせながら緒方さちさんへのお誕生日プレゼントとして捧げます。…え、受け取り拒否? 理由は「Hが少ない?」…ガーン…



 獣の咆哮が、辺りの空気をびりびりと震わせた。
 毒々しい緑の皮膚の、見上げるほど巨大な、遥か昔に滅んでしまった種族の形を借りたモンスター。一頭ならまだしも、彼らは運の悪いことに、その群に遭遇してしまったのだ。
 しかし、一行のリーダーである銀の髪の長身の男は、ひるむ様子もなく、愛用の長い細身の刀を静かに構えた。その落ち着き払った様子に、供の兵士もパニックからようやく解放され、状況を把握する余裕が生まれた。
 二人の兵士は、左右に分かれた。彼らのリーダーを援護するためだ。
 だが、そのうちの一人は、モンスターに近づきすぎた。気づく間も、もう一人が止める間もなく−−−巨大な化け物の尾が彼に襲いかかり、彼は自分の体の2倍もの太さの尾に、軽々とはじき飛ばされていた。
 声のない叫びが響く。残された一人が、銀の髪のソルジャーの前に立ちはだかり、モンスターの群を睨み付けた。銃を構える手が、小刻みに震えている。
「どけ。足手まといだ」
 鋭い声に、彼はびくりと体を震わせた。振り向いた目が、ソルジャーの怒りを湛えた碧の目が映った。
 ソルジャーは彼の体を押しやり、すっと前に出た。そして、剣を一閃−−−獣の群は、銀の刃の閃きとともに、どろどろとした青い血を吹き出し、次々と地面に倒れ伏した。
「…余計なことを…」
 美貌のソルジャーの唇から洩れた小さな呟きを、彼は拾ってしまった。振り返った冷たい瞳が、自分を責めているような気がして、彼はその目をまともに見ることができなかった。


 ゴンガガの魔晄炉の調査。これが今回の任務だった。派遣されたのは、銀髪の、神羅最強といわれるソルジャーと、一般兵士が二人。さほど危険な任務ではないと判断された結果の人選だった。
 が、コスタ・デル・ソルから数歩進んだ時、この騒ぎは起こった。街の外をうろつくモンスターの数は、神羅が思うよりもずっと多く、世界は世紀末の様相をたたえているかのようだった。
 二人の一般兵のうち、運の悪かった一人は命を落とした。そして生き残ったもう一人の兵士とソルジャーは、南の海辺の街へ戻ることを余儀なくされた。


 がくがくと震える体を未だに押さえきれず、彼は椅子から立ち上がることすらできなかった。それは、神羅に報告を終えたソルジャーが部屋に姿を見せた時も同様だった。兵士としての礼儀を重んずる前に、人間としての感情が彼を打ちのめしていた。
「明日、もう一人ソルジャーが来る。それまで任務はない。ゆっくり休む事だ」
 淡々と告げる声は事務的だった。けれど彼は、その声に頷くこともかなわず、ただ震える体を抱きしめるだけだった。
「なにを怯えている」
「…あ…」
 傍らに立つソルジャーを、追いつめられた獲物のような心許ない瞳で、彼は見上げた。その小動物のような瞳にため息をつき、ソルジャーは告げた。
「遺体は明日、ミッドガルに引き取る」
 びくりと兵士の肩が反応する。
「その様子では、お前に任務遂行は無理だな。遺体と一緒にミッドガルに帰るか?」
 嘲笑を含んだ言い方に、兵士はキッと顔を上げた。
「セフィロス……あなたは…目の前で人が死んだのに、何とも思わないんですか……?」
 声が震えている。セフィロスは益々嘲笑の色を濃くして、兵士の視線を受け止めた。
「名前は?」
 唐突な問いに、兵士は愕然とする。セフィロスが今まで名も知らぬ者とともに行動していたことと、出発前に確かに口にした彼の名を、きれいに忘れ去られている事実とに。恐らくセフィロスは、命を落とした兵士の名も、記憶の中からは既に排除しているのだろう。
「…クラウド・ストライフです」
「クラウド、か。お前は、ソルジャーになりたいのか?」
 力無く頷くクラウドを、セフィロスは唇の端に冷たい笑いを張り付かせたまま見下ろしている。
「ソルジャーになりたければ、そのような甘い感情は捨てることだ。他人の死にいちいち反応していては、自分の身がもたない」
「でも…!」
 反論しようとしたクラウドは、しかしセフィロスの不思議な光をたたえた碧の瞳に捕らえられ、言葉を飲み込んだ。
 確かにそうだ。ソルジャーになるには、身体的な強さだけでなく、精神的な強硬さも必要とされる。けれど…近しい人の死をすべて忘れてしまえるほど、クラウドは強くない。そんな強さなら、いらない。
 黙り込んだクラウドの顎を、不意に長い指が引き起こした。
「お前は、あの時私をかばおうとしたな。何故だ?」
「…理由なんて、ありません。ただ、体が勝手に動いて…」
「何故?」
「あなたを…守らなくちゃって、思ったから…」
 ふ、とセフィロスの表情が緩む。
「私を守ろうとした兵士ははじめてだ。…おもしろい奴だな」
 喉の奥で微かに笑い、セフィロスはクラウドの幼さの残る唇に、自らの唇を重ねた。触れるだけのキス、けれどもそれは、クラウドから思考を奪うのに充分だった。
「セフィ…ロス…」
「いい子だ、褒美をやろう。おいで」
 セフィロスの腕に抱かれ、ふわりとクラウドの体が浮いた。抱き上げられた細い身体は、ぴんと張ったシーツの上に降ろされる。二人分の重みに、ベッドがぎしりと軋んだ。
「あ…っ!」
 素肌を直接撫でさすられ、クラウドは思わず声を上げていた。巧みな指が、器用にクラウドの衣服を剥いでいく。突然の展開に混乱しつつも、抵抗できない自分に、クラウドは更に驚いていた。
 誰もが尊敬し、畏れる、伝説のソルジャー・セフィロスが、他の誰でもない自分に今、確かに触れている。その事実だけで、クラウドの意識は拡散し、何も考えられなくなる。
「いや…セフィ…っ……!」
 抗議の声は、難なくセフィロスに封じ込められた。セフィロスの手がクラウドの白い肌を確かめるように辿り、はじめての感触に、クラウドは徐々に追い上げられていく。
「…ふ…ぁ……んんっ…」
 自分の口から漏れる甘い喘ぎが信じられなくて、クラウドは目を伏せた。羞恥に、頬が染まるのがわかる。その頬に、セフィロスの冷たい手が触れた。
「恥ずかしがることはない。初めてでもないだろう?」
 セフィロスの何気ない風の言葉に、クラウドは目を見開いた。
「私を楽しませてみろ。いつもザックスとしているように、な」
 セフィロスは、今回の故郷への凱旋任務を頑なに拒絶した友人の名を、さらりと口にした。
「ザッ…クス…」
「そうだ。お前は、ザックスのものなのだろう?」
 クラウドは力なく首を横に振る。この人に、そんな風に思われていなどと認めたくなかった。
 確かに、そんな噂があるにはあった。しかし、それはザックスが吹聴しているだけで−−−どうしてそんな噂を自ら広めるような事をするのか、クラウドにはわからなかったけれど。
「ちがう…ザックスは……関係な…」
 言葉は途切れ、悲鳴に変わった。まだ充分には慣らされていない未踏のその場所に、セフィロスが容赦なく押し入ったのだ。そこには快楽などなく、ただ激痛に耐えるだけのクラウドがいる。無意識の涙が、頬に幾筋もの跡を残して行く。
 強く揺すり上げられ、クラウドの意識が弾ける。力を失った身体はがくりとくずおれ、セフィロスの腕を離れて白いシーツに沈み込んだ。


『最近、お前が一般兵と付き合っているという噂を聞いたが…』
『ああ、クラウドのことか。ま、そんなとこ。可愛いーんだぜ、あいつ……あ、俺のもんだからな、手ぇ出すなよ!』
 ザックスは笑ってそう言っていた。しかし、いざ抱いてみると、クラウドは誰の手にも汚されてはいなかった。
 ザックスはどういうつもりであんな噂を広めていたのだろう。当のクラウドさえ知らない彼の本心を考えると、セフィロスは笑い出したくなる。何も知らない無垢なクラウドに悪い虫が寄りつかないように−−−ザックスはそんな風に思ったに違いない。
 どうして誰も彼も、他人の為に自分を犠牲にできるのか。
 他人の為に。考えたこともない行為だった。信頼できるのは自分だけ。他のソルジャーと組む時すら、彼らを信じてなどいなかった。
 人の死も、彼の感情を動かすことはできなかった。誰が死のうが、何人死のうが、何も変わりはしない。自分自身は、セフィロスは生きている。それだけが、確かな事実。
 セフィロスがクラウドを抱いたと知ったら、ザックスはどんな顔をするだろうか。今までは考えつきもしなかった悪戯心が芽生え、セフィロスはまた己の変化にほくそ笑んだ。
 自分以外の誰かの為に。−−−くだらない感情だ。ばかばかしくて、哀れにさえ思えてくる。
 セフィロスが、一般兵にすぎないクラウドを抱こうなどと考えたのも、この痩せた小さな少年が、ザックスの所有物だったからかもしれない。誰かのものを滅茶苦茶に壊す快感。他人のものを、己の腕に奪う快楽。
「…ん…」
 小さな呻きとともに、少年の瞳がうっすらと開く。魔晄の洗礼を未だ受けない、うすい茶の瞳は、光の加減でその髪と同じ美しい金色に見えた。
 クラウドは、セフィロスの姿を認めると、顔を真っ赤に染めて俯いた。自分の裸体を自覚して、ますます縮こまる少年を、セフィロスはできるだけ優しい笑みで見下ろした。
「痛むか?」
「え?…あ……いえ……」
 しどろもどろの少年の細い身体を、セフィロスは気まぐれに抱き寄せる。クラウドはびくりと一瞬震えたが、すぐに力を抜いて彼にもたれた。
「クラウド…私のものにならないか」
 耳元で囁く声に、信じられないといった風に、クラウドは目を上げる。
「愛している」
「セフィロス…」
 陳腐な台詞に、仮面の下でセフィロスが嘲笑う。愛などという言葉を、生まれて初めて口にした気がする。けれど彼はまた、この意味のない言葉で、簡単にクラウドが陥落する事も知っているのだ。
 クラウドは、略奪者の腕の中で、安心したように彼に身を任せた。
 哀れな子羊。奪われたことも知らないで。優しい温もりに包まれた場所から、冷たい悪魔の手に、自ら望んで少年は堕ちた。
「お前は、私のものだ。私だけの、大事な人形だよ…」
 偽りの腕に抱かれ、虚無の言葉だけを信じて、クラウドはセフィロスに全てを預けて目を閉じた。



 セフィ×クラのお初の話で、甘めにいこうかな〜、ってゆーのが当初の予定だったんですが…見事に玉砕。なんじゃこりゃ。結局セフィってひどい人、で終わっちゃいましたね。人のものを欲しがるなんて、全く子供なんだから(笑)。
 処女のクラウドが書けて幸せでした。そしてまたもやザックス一人不幸。許せザックス…あなたってそういうキャラクター(汗)。
 さて、退散するか。居座ってゴメンよ、インターネットカフェの従業員さん。何だか睨まれてるような気がするのは気のせいかなぁ…


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