しほ先生の第8弾

 最後の日だってのに、まだ載せる(汗)。
 獣●カオス編、ヴィン×クラ完結です。って言っても、ガリアンビーストの時とシチュエーション同じじゃねーかよ、しほ。うう…才無し。反省しろーー!
 今回はちょっと読みづらい文体かも(何せ本人がいちばん混乱してる)…和●かもしんないし(笑)。



 ふくらみすぎた希望は絶望の裏返し。
 あの時、何故こんな言葉が口から出たのか、彼自身にもわからなかった。
 何故、希望を持たせる事すらできなかったのか。あれ程彼を慕う彼女を前に、何故こんな言葉でしか応えられなかったのか。
 風が、頬を撫でては通り過ぎていく。心地よいと素直に思い、こんな風に感じる事すら久しぶりである事を思い出した。
 色々な事がありすぎた。エアリスとの永遠の別れ、クラウドの失踪と復活、そして−−愛しい女性との再会。混乱する頭を押さえつけ、努めて冷静にふるまおうとして、けれどそれすら限界に達し、彼は今、独りになる事を望んだ。
「ヴィンセント…こんな所にいたんだ」
 背後からの声に、ぴくりと肩が震える。今は…今だけは、彼の声を聞きたくなかった。けれど彼−−クラウドは、そんなヴィンセントの思いを知る由もなく、当然のようにヴィンセントの隣に腰を下ろした。
 金の髪がさらりと揺れる。絹の毛先が頬に触れるのではと思うほど、クラウドの顔が近くにあった。
 気まずい沈黙が流れた。もともとヴィンセントは口数の多い方ではない。故にクラウドが黙り込んでしまうと、彼らの間には会話は成立しない。
「あの、さ……」
 意を決したように顔を上げたが、何から話せばいいのかと迷っているらしい。すぐにその視線は足下の草へと落ちた。
「その…ごめん、ヴィンセント…」
 クラウドの言葉に、ヴィンセントは眉をひそめた。
「何を謝ることがあるのだ」
「いろんな事…ここのとこ忙しくて、こうやってゆっくり話せる機会がなかったから…」
 クラウドの手が、草をむしっては放る。子供のようなしぐさ。
「ずっと、謝らなくちゃいけないって思ってたんだ……ヴィンセントが約束してくれたのに、俺…裏切るようなことしたから……」
 泣き出しそうな顔で、じっと草をむしり続ける手元を見つめながら、クラウドは沈んだ声で続ける。
「セフィロスに逆らえなかった。エアリスが死んだのも、メテオが落ちてきてるのも、全部俺のせいだ。俺は、自分をコントロールできなかった。自分を信じることができなかった…」
 弱音とも取れる言葉は、初めて聞くものではなかった。幾度か体を重ねる関係になってから、クラウドは他のメンバーには出すことのできない思いを、ヴィンセントにだけはぶつけてきた。それを、彼は否定するでも肯定するでもなく、ただ静かに受け止めていた。
 決めるのは、クラウド自身。ヴィンセントはただ、クラウドが壊れてしまわないよう、彼の全てを受け入れ、包み込むだけだった。
 そうして訪れた結果は−−彼の言葉通り、エアリスの死とメテオの到来。ヴィンセントは、果たして自分の行動が正しかったのかどうか、疑問を捨てきれずにいた。もっと強引にクラウドを引き留めるべきだったのではないだろうか。それこそ、セフィロスを忘れさせる位に……
「だから…ごめん……」
 うなだれるクラウドを、抱き寄せられればいいと思った。けれど、今はそれはできない。ヴィンセントは伸ばしかけた手を引き、拳を握りしめた。
 沈黙が訪れた。風の音すら耳に痛い。ほんの数分の沈黙が、彼らにとっては数時間にも感じられた。
「約束のこと…だけど」
「わかっている」
 耐えきれず声に出したクラウドの言葉を、ヴィンセントは即答で遮った。
「お前はセフィロスを倒さなければならない。−−それまでは、私に殺されることなどできない。そうだろう?」
「…何でもお見通しなんだな」
 クラウドは、弱々しく微笑った。今にも崩れてしまいそうな、脆い表情だった。こんな顔をさせたくないからこそ、あの約束を交わしたというのに。やりきれない思いに、ヴィンセントは視線を外す。
「頭の中で声がするんだ。”オレを殺せ”って…。誰なんだろうって、ずっと思ってた。でも、やっとわかったんだ」
 聞きたくないと思った。けれど、ヴィンセントは動けない。逃げ場はなく、彼はただじっと、クラウドの言葉に耳を傾けた。
「だから俺は…セフィロスの所に行かなくちゃならない」
 静かな言葉の中に、確かな決心が感じ取れる。彼にはもう迷いはなかった。しかし、それがかえってヴィンセントには辛い。
 押し黙るヴィンセントに、クラウドはすがるような視線を向けた。
 クラウドが何を自分に求めているのか、解らないヴィンセントではなかったが、それでも彼は言葉を紡ぐことができなかった。
「ごめん、自分勝手な事言って…ヴィンセントだって、大変な時なのに」
 ふ、とヴィンセントの表情が曇る。クラウドが言おうとしていることを−−今は聞きたくない。
「あの女性(ひと)のことで…」
「違う」
 びく、とクラウドは身を竦ませた。ヴィンセントの鋭い声に、何か逆らってはいけないような響きを感じ取ったのだ。
「彼女は…ルクレツィアの事は、もはや過ぎたことだ…」
クラウドは困惑していた。いつものヴィンセントではないことは明白だった。かと言って、どう違うというのか、クラウドには説明がつかない。初めて見る彼の変化だ。
「ごめん…」
 反射的に謝ったクラウドを、ヴィンセントは鋭く睨んだ。
「謝罪の言葉など、欲しくはない」
「ヴィンセント…?」
「クラウド…私は……」
 ぐいと腕を引かれ、クラウドは逆らう暇も与えられず、ヴィンセントの体の下へと引き込まれていた。
背中に土の感触。見上げた青い瞳に、ひどく対照的なヴィンセントの赤い瞳が映った。
「…ごめん…」
「謝るな」
「でも…」
「−−言うな…っ!」
 ヴィンセントの中で、未知のものが目覚める気配がした。
 これを、表に出してはいけない。わかっている。わかっていて、彼自身にも止める事はできない。自分以外の、もう一人の自分が、仮面を破って顔をのぞかせる。
 クラウドが息を呑む気配。それを最後に、ヴィンセントの意識は途切れた。
 代わりに彼を支配したものは−−
「ヴィンセント…」
 絶望の呟きが、クラウドの唇から洩れた。
 黒い悪魔がそこにいた。太く逞しい腕に、クラウドは捉えられている。巨大な翼を持つ、異形の魔物の姿。
 これは、あの時と同じ……
 にわかにはこれがヴィンセントだとは信じられない。けれど、彼が彼である証が、クラウドをまっすぐに見つめている。血の色の、深紅の瞳で。
 魔物が吼える。咆哮が長く尾を引き、風さえも震わせた。びくりとクラウドが体を強張らせる。記憶が蘇り、彼の肢体を竦ませた。
 クラウドは、この悪魔がこれから何をしようとしているのかを知っている。この怪物の欲望を、知っている。
 布の引きつれる音が響き、クラウドの衣服が裂けた。魔物の長い爪が彼の薄い皮膚を破り、彼の血とともに、彼の肌を守る布を取り去って行く。痛みに歪む彼の顔を見下ろす魔物の大きく割れた口が、笑ったように思えた。
「……っ…く…」
 噛みしめた唇から、こらえきれずに声が漏れる。それは魔物の動きを止めるどころか、益々その欲望をそそるだけの効果しかなかった。
 クラウドは一度懇願するようにヴィンセントを−−ヴィンセントだったものを見上げ、そして、諦めたように目を閉じた。
 これは、罰だから。罪は償わなくてはならない。
「ぅあ…っ!!」
 クラウドの喉が仰け反った。大きく広げられた白い内腿の間に、黒い肌の悪魔が侵入する。限界を超えるものを無理矢理に受け入れさせられ、クラウドの体はがくがくと震えた。
 全身から血の気が引いてゆく。けれど、気を失うことは許されなかった。魔物の爪が肩に食い込み、彼が手放そうとする意識をしっかりと繋ぎ止めている。
 涙がこめかみを伝った。何の為の涙なのか、クラウド自身にもわからなかった。
 痛みと苦痛は、確かに感じている。けれど、決してそれだけではない。
「ヴィン…セント……」
 届かないと知っていて、それでもクラウドはヴィンセントを呼んだ。
 許して欲しかった。許すと言って欲しかった。たとえそれが甘えだとわかっていても、クラウドにはもうそれ以外に頼れるものはなかった。
 あの時、ライフストリームの激流の中で、あのまま全てを捨ててセフィロスの元へ赴くこともできた。
けれど、クラウドは戻ってきた。ヴィンセントとの約束があったから−−ヴィンセントの腕の中へ、戻らなければならないと思ったから。ライフストリームの流れに身を任せ、クラウドはセフィロスではなく、ヴィンセントを想ったのだ。
 だから、この罰は甘んじて受けなければならない。ヴィンセントがそう望むなら。
「あ……ああっ…!!」
 魔物の動きが激しくなり、クラウドはより一層の苦痛に喘いだ。自分を支える黒い腕にすがりつき、クラウドは乱れ、声を上げ続けた。
 頭の中が白くなる。光の洪水がクラウドを襲う。彼はその濁流に自ら身を投げ、うねりの中へ沈んでいった。


 胸の中で疼くような痛みを抑えながら、ヴィンセントはクラウドを抱き寄せた。二度とこんなことはするまいと思っていたのに。後悔の念がヴィンセントにのしかかる。
 後悔するくらいなら、最初から関わらなければいい。ルクレツィアの時はそうだった。そして今も−−ついこの間まで、そう思っていた。だから、ティファにあんな風にしか言えなかったのだ。
 ふくらみすぎた希望は絶望の裏返し。
 それは、ヴィンセント自身の想いだった。
 このままクラウドが帰ってこなければ、いつかは忘れられる。クラウドはセフィロスを選んだのだと思える。それなのに、クラウドは還ってきた。還ってきてしまった。
「私は…お前を離さない」
 希望を持ってしまったから。もう、見ているだけの自分は捨てる。
 ヴィンセントはクラウドにそっと唇を重ねた。意識のない筈の唇が開き、ヴィンセントを迎え入れる。
力無い細い腕が、すがるようにヴィンセントの背に回された。
「殺されるかと思った…」
 ぽつりと呟くクラウドの髪を、ヴィンセントの指が優しく梳く。クラウドは頬をヴィンセントの胸に寄せた。
「でも…それでもいい。俺を殺せるのはあんただけだ…」
 ふと、クラウドが笑う。この微笑みを、愛している。
 ふわりと肌を撫でて通り過ぎる風を、ヴィンセントは優しいと思った。



 結局両想いだったのね、クラウドとヴィンセント。でもちょっちすれ違い。結局ハッピーエンドというにはしこりが残る2人だった…
 会長、こんな終わり方で勘弁してもらえます?
 さあて……逃げるか……

?:に、が、さ、ん・・・・


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