しほ先生の第6弾

獣○ヴィン×クラの続き。でもリミット変身はナシです。コンセプトは、やさしいヴィンセントと甘えるクラウド。今回は強○じゃないぞー!!(安藤様、ご期待に添えず申し訳ありません…)



 夕食を終え、各自が部屋に戻ろうとした時、ティファがおずおずと近づいてきた。
「あの…ヴィンセント。さっきは、ありがとう」
 ヴィンセントは、意味がわからない、という顔でティファを振り返った。
「クラウドを、庇ってくれて。私のケアルが間に合わなかったから…」
「…マテリアの効果だ。礼を言われる程のことではない」
「うん、わかってる。でも…ありがと」
 エアリスが姿を消した古代種の都へと続く"眠りの森"を求めて、ボーンビレッジへ向かう途中、クラウドは戦闘中に瀕死状態に陥った。いつもの彼なら、難なく倒せる筈の敵だったのたが、クラウドは戦闘時にも関わらず魂が抜けたように茫洋としており、反撃すらままならなかったのだ。
「クラウド…やっぱり、まだ振り切れてないのかしら。まだ、黒マテリアの事、気にしてる……」
 気にするなって言う方が無理よね、とティファは弱々しく笑った。それに対し、ヴィンセントは返す言葉を持たなかった。
 ヴィンセントは、古代種の神殿であった一部始終を見ていた。セフィロスの狂気と黒マテリア、そして…クラウドの矛盾だらけの言動。セフィロスに黒マテリアを渡した後、倒れ込んだクラウドを、抱き上げてタイニーブロンコまで運んだのもヴィンセントだった。そして直後、エアリスは姿を消した。
「たぶん、時間が必要なんだよね。今は…無理なんだ」
 ティファは微かに疲労の影を頬に落とし、それでも気丈に微笑むと、ヴィンセントに「おやすみ」と言い残して去っていった。
 ヴィンセントは彼女の揺れる長い黒髪をしばし見送り、小さく吐息をつくと、踵を返して割り当てられた部屋へと向かった。
 ドアを開けると、クラウドは一度振り返り、またすぐに興味を失ったように、窓の外に視線を戻した。ガラスの向こうには、ボーンビレッジの果てしない闇が広がるばかりだが、クラウドはその黒い闇に目を据えたまま、じっと動かなかった。
「食事を取らなかったようだが…」
 低い問いかけに、反応はない。
「体力は大丈夫か? 明日もまた戦いになるだろう。今日のようでは困る」
 クラウドは、ヴィンセントに背を向けたままだった。が、その背中が、不機嫌な空気を伝えている。
眉をひそめている表情が、目に見えるようだった。
「…なんで、庇った?」
 今度は、ヴィンセントが反応を拒否した。クラウドが、鋭くヴィンセントを振り返る。
「余計な事をしなくていい! 俺は一人でできる−−庇ってくれなくても…!」
 ヴィンセントは、静かにクラウドの言葉を受け止めた。その彼の様子に、クラウドは我に帰り、はっと息を呑んだ。
「ごめん、言い過ぎた…」
「いい。気にしてはいない」
 再び視線を外したクラウドに、ヴィンセントはゆっくりと歩み寄った。震える小さな細い肩。その華奢な肩に、どれほどの重い罪を、記憶を、負っているのだろうか。
 ヴィンセントは、クラウドを背後からふわりと抱きしめた。突然の事に戸惑いを隠せないクラウドの体を、優しく包み込み、その腕に柔らかく力を込める。
「ヴィンセント…?」
「泣きたいのでは、ないのか?」
「……っ!」
 クラウドの顔色が、一瞬にして青ざめる。どれほど言葉で拒絶しようとも、心は素直に反応を返してしまう。
「なに…言ってるんだ…」
「怖いのだろう? 自分が自分でなくなることが」
「そんなことっ…」
 ない、とは言い切れない。あの時、自らの言葉で語ったではないか。古代種の神殿で気を失い、再び意識を取り戻した時、ティファとバレットに、半ば告白のように、恐れを口にした。
 自分が怖い。−−セフィロスが近くに来ると、自分が自分でなくなってしまう。それが、何より怖い。自分の行動を自分で制御できず、自分が誰なのかすらわからない。こわい、怖い、コワイ……。
「自分以外の者に支配されるというのは…気分の良いものではないな。私にも、経験がある」
 リミット技のことを言っているのだ、とクラウドは理解した。ヴィンセントがリミット技を用い、異形のものに変身を遂げている間、ヴィンセントの意志は完全に封じられ、記憶もないのだと聞いた。
「怖くない、といえば嘘になる。…しかし、自分の知らない自分がいるという事実を、否定することはできないのだ」
「……」
「認めてしまえば、少しは楽になる」
 クラウドは、自分の体に回されたヴィンセントの腕に、そっと触れた。そして、彼の暖かい手を強く握りしめる。支えを求めるほど弱くはないと思っていた。けれど、すがるものが欲しいと思う心もまた否めない。
「今日は…ずいぶん口数が多いんだな」
 ヴィンセントはふと微笑った。
「お前に教えられた。思ったことを素直に口にすることも、大切なのだと」
 言葉を否定し、静かに成り行きを見守ることを常としてきたヴィンセントにとって、クラウドのあからさまな素直さは、衝撃だった。クラウドは思いをまっすぐにぶつけ、行動に移す。その純粋な心に、ヴィンセントは救われた。だからこそ、クラウドを救いたいと思ったのだ。
 クラウドは、誰かが支えてやらなければ、すぐにでも壊れてしまいそうな脆さを持っている。今まで、それを守るのは、エアリスの役目だった。エアリスは、クラウドを寛大に包み込み、彼の全てを認めることで、クラウドを支えていた。けれど今…エアリスは眠りの森の奥深くへ、一人旅立ってしまった。
 支えるものを失ったクラウドは、どこへ墜ちて行くのか。
 自分がクラウドの全てを守れるなどという、驕った気持ちは持ち合わせていない。ただ、破滅に向かうクラウドを、少しでも救ってやれるならば、たとえ誰かの代わりでも構わないと思った。
「泣きたいなら、泣けばいい。誰もお前を傷つけたりしない」
 クラウドは、ヴィンセントの腕の中で彼と向かい合った。その青い瞳が潤み、今まで耐えてきた涙が、堰を切ったように溢れ出す。唇をかみしめ、声を殺し、クラウドはヴィンセントの胸に顔を埋めて泣き続けた。時折しゃくりあげる声は幼くて、強くしがみつく小さな体の震えが、ヴィンセントの胸の奥に痛みをもたらした。
「ヴィンセント…」
 涙に濡れた顔を上げたクラウドに、求められるままそっと口づけた。
 あの日、ニブル山の高台で強引に抱いて以来、ヴィンセントはクラウドに触れていなかった。触れる必要もなかった。体の繋がりは、重要なものではなかったからだ。けれど今、クラウドはそれを欲している。そして、それは今の彼にとって必要な事なのだ。
 ヴィンセントはクラウドを軽々と抱き上げ、ベッドまで運ぶと、その上に優しく覆い被さった。クラウドの手が、ヴィンセントを強く引き寄せる。唇を合わせて吐息を盗み、肌をなぞると、クラウドの喉がなめらかにのけぞった。
 クラウドが、以前にもこうした経験を経ていることは、初めて抱いた時に既にわかっていた。その相手が誰であろうと、ヴィンセントが詮索すべきことではないことも知っていた。けれど今ならば理解できる。クラウドは、恐らくセフィロスと……
「っ…あぁ…」
 甘い声が響き、ヴィンセントは現実に引き戻された。上気した肌が、官能的にヴィンセントを誘う。
虚ろな瞳から、新たな涙が溢れて頬を伝った。
 クラウドは、未だにセフィロスの影を引きずっている。かつて愛した者を憎み、自らの手にかけようとするクラウドを、ヴィンセントは哀れに思った。これは…罪、なのだろうか。だとしたら、自分が犯した罪と、どちらが大きいのだろう。
 限界が近いのか、クラウドが辛そうに眉をひそめ、ヴィンセントを求める。震える体を抱き、細い腰を支えて、ヴィンセントはクラウドの中に己を打ち込んだ。ひときわ高い声が上がり、クラウドはヴィンセントにしがみついた。
「…セフィ…ロス……」
 消え入りそうな掠れた声で、確かにそう呟き、クラウドはヴィンセントの腕の中で果てた。


 枯れることを知らないかのように、クラウドの涙は果てがない。ヴィンセントの裸の胸に額を押し当て、淡い金の髪の下、透明な液体は流れ続けている。ヴィンセントはただ無言で、その涙を指先で拭った。
「怖いんだ…俺は、自分が怖い…」
 夜の闇に潜む、形ないものを恐れる子供のように、クラウドはヴィンセントにすがる。ヴィンセントは彼を抱きとめ、少し固めの髪を梳いた。
「俺じゃない俺がいる。自分が何をしてしまうのか、わからない…」
 クラウドは、濡れた青い瞳で、弱々しくヴィンセントを見上げた。
「俺を…止めてくれるか?」
「お前は、お前であればいい」
 ヴィンセントの短い言葉に、クラウドは弾かれたように彼を見つめる。幼い少年の表情。守ってやりたいと思わせるその表情を、果たして目にした者は何人いただろう。
「お前が思うように行動すれば良い。お前自身は、お前のものだ。だが、お前がそう望むのならば…」
 ヴィンセントは、クラウドの体に回した腕に力をこめ、彼を強く抱き寄せた。
「私が、お前を殺すと、約束しよう」
 −−私を殺せ、クラウド…−−
 遥か彼方から、声がする。懐かしい、心を満たす声。
 これは、約束。いつ、誰と交わしたのか、クラウドには思い出せない。たが、この密約は、形を変えて、ヴィンセントとの契約となった。
 クラウドは目を閉じ、自分を包む温もりの心地よさにゆったりと身を任せた。



 いつの間にこんなに大甘に……ヴィンセント、お前はひよこの色気にだまされてるぞ!
 「俺がお前を殺す」とか「俺を殺してくれ」とかいうのって、究極の愛の台詞だと思うんですよ。しかし、ヴィンがこんなこと言うとは思わんかった。もうこのヴィン、私の手を離れちゃってます(汗)。
 獣○カオス編へと続く(続くんかーーいっ!!)。どうしよう…収拾つかなくなってきた……。


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