瀬尾先生の第66弾

投稿者 せのおさん 日時 1997 年 8 月 20 日 03:53:06:

神羅秘書課の秘密♪。

またしてもまじめにしょうもないものを書いてしまいました・・(涙)
これはきっと、書いても書いても進まないシリアスからの逃避行動なのでしょう・・(いいわけだな・・これは)
ルーファウス・ツォンファンから投石くらいそうです(苦笑)それにしても部下に恵まれない人ですね、ルーファウス・・あなたって人は・・(同情)



「あーあ・・ったく・・もー嫌だーーーーーっ!!」
目の前にででーんと積まれた書類の山に片っ端から目を通しながらルーファウスは地団駄を踏んだ。その巨大な山は見れども見れども減る気配がない。このペーパーレスの時代に、何故このようなアナログな情報伝達方法が採用されているのかはしらないが、半分は自分に対する嫌味ではないかとルーファウスが思ってしまうのも当然ではあった。
「こーいう時は甘いものが食べたいんだけどなー・・話題の店は食べ尽くしたし、なんか趣向の違うものが・・」
「失礼しまーす♪」
ぶつぶつと呟いているところへ、女性秘書がまた書類を持ってやってきた。ルーファウスの周りの山がまた一つ増える。
「これは今度の道路整備のプロジェクト案です。なるべく早くお返事を頂きたいと、リーブ部長から・・」
「もういい・・」
つらつらと説明を述べる秘書の言葉をルーファウスはうんざりとした様子で遮った。正直、仮病でも使いたい心境なのだが、生憎と手の平をあてた額に熱はない。せめてもの気分転換にと、話題を変えてみる。
「ところで・・どこか美味しいケーキ屋はないか?」
「またですかぁ。ダイエット中の私達の身にもなってくださいよぉ。といいつつ・・おいしいスフレを食べさせるとこがあるらしいんですけどー。」
途端に秘書の顔から「1OL」の顔になる社長秘書。秘書という固い職業に就きながらそれでもちゃんと流行は抑えているあたり、彼女らの情報網はタークスをも凌駕するのかもしれない。
「スフレか・・じゃあ買ってきてもらうわけにはいかないか・・食べに行く暇はなし・・」
ため息交じりに答えながらも片目で端末の画面をちらちらと見ながらキーボードを叩いている。無機質な文字が流れては消えていく。
そんなルーファウスの様子を見た秘書はしばらく何かを躊躇するような仕種をみせた挙げ句、意を決したようにある提案を持ち掛けてきた。
「あのぉー・・じゃ、食べに行きます?」
「?・・冗談だろ?こんなに仕事が詰まっているのに・・」
「だからナイショで♪」
「・・あのツォンが行かせてくれると思うのかい?」
「うふ♪ご心配なく。いいプランがあるんです♪」
人差し指を立ててるんるん♪と笑う秘書に、おもいっきり不審そうな目を向けるルーファウス。神羅秘密部隊とかいうのならまだしも、ただの秘書如きにどうやって彼を連れ出す方法があるのだろうというのは、彼でなくても疑問に思うところである。
「・・成功率は?」
「ほぼ100%♪」
それでも秘書は自信満々に言う。その自信の出所がどこにあるのかはこの際無視して、ルーファウスはようやく肯いた。
「・・わかった。君に賭けてみよう。」
「はい♪んじゃ、準備にしばらくかかりますから・・ところで先ほどのお仕事終わりました?」
「・・これが再考察でこれが受諾・・でもって、そこのが没!」
ぱちぱちぱち・・ばさばさと書類をさばく有能なる若社長に惜しみない拍手が送られる。
「さすが社長ですね。ところで、その間にこれもお願いしますね♪」
にっこりと笑いながら渡された書類の束のずしりとした重みに、笑顔も思わずひきつるルーファウスであった。

「お待たせしましたー♪」ややあって、社長室に秘書が戻ってきた。しかしその背後からわらわらと十人ばかりの女性がついてくる。いずれも秘書課の面々で、ルーファウスとは少なからず面識があった。
「・・なんだ、その人数は・・(汗)」
「♪ちょっと人数増えちゃいましたけどー♪みんなの協力が必要なんです♪」
「そ・・そう・・別にいいけど・・(汗)」
ルーファウスの胸に不安が去来する。後程思えば彼の不安は正しかったわけだが・・
「さてとー、ルーファウス様ちょっとこれ来て見て下さいなー。」
秘書課のグレーの制服が突き出された。続いてブラウスやストッキングが出される。
「それ私の予備なんですけどまぁいけると思います・・それからこれ。足隠しのストッキング。サポートタイプですから上手に履いて下さいね。」
「わかった・・」
それらを抱えて仮眠室に入っていくルーファウス。ややあってドアが開き、しっかりと制服に身を包んだ彼の姿が現れた。
「わぁ、ぴったり♪あ、喉元はそのブラウスのボウタイ大き目にちょうちょ結びにして隠して下さいね。」
「うん・・これでいいのか?」
「ぴったりですよぉ♪ウエストとか、きつくないですか?」
「うん。全然。」
言いながら上着をひらりと脱いでみせる。確かに若干の余裕すら感じられる。
「・・体型補正下着なしで・・それって・・かえってちょっとショックですね・・」
人間じゃないよあんたという言葉を飲み込み、黒いストッキングを履いている細い足をじーっと見る。
「しかし・・足、全然剃る必要ないんですね・・お肌も奇麗だし・・」
「もともと金髪だから目立たないんですねぇ。うらやましいような・・」
「そうそう、その金髪さすがに目立ちますよね。かつらでも被ります?」
「それより私いいものもってるー。ほら、ブラックのカラームース。」
一人のバッグからじゃじゃじゃじゃーんと取り出されたそれは、汗には強いが洗えば落ちるという非常に矛盾した性質を持つヘアマニキュアだった。
「・・用意いいわね。」
「うん。入社試験の時に使ったの。そんときバンドやってて髪の毛ばりばりオレンジでやっぱやばいかなーなんてー。」
言いながらかしゃかしゃ振って手のひらに黒いムースをたっぷりと取り、ルーファウスの髪に絡めるように丁寧に伸ばした。程なく黒髪の美女が出来上がる。
「うわぁ、奇麗♪」
「ところで・・目の色どうします?」
「そこまで見てる人いないでしょ。」
「じゃ、コンタクトはいりませんねー。」
「じゃ、お化粧しましょうか。」
「そうね、んじゃちょっとこっち向いてくださいね。」
「ぐ・」
ぐきっという音がした。後日、二三日首が痛かったと彼は語った・・。
「やっぱお化粧はブラウン系でマットでー。口紅はローズかしらー。」
「だったらそれにあわせてマニキュアはブラウンピンクですよねー。わぁ奇麗な爪。」
当たり前のように手を取られて、ルーファウスは慌てまくる。
「・・そこまでするのか?」
「だって、完璧な女装を目指さなければ・・」
「ち、ちょっと待て。君たち、なんか履き違えてないか?(汗)」
「いいじゃないですかー。ねー。」
「ねー♪」
「次は縦ロールのかつらとかウエディングドレスとか着てみませんか?♪」
もはや当初の目的は完全に忘れ去られ、お人形さん遊びの様相を呈してきた。神羅秘書課・・そこは総務課と並ぶ二大同人女の隠れ里であった・・

「あ、履き違えといえば・・履くものを忘れてた。パンプスはどうします?」
「・・クローゼットにCIの時に作ったのが転がっていると思うが?」
「あー、駄目ですよぉ、あんなに踵の高いの。甲が引きつるほどじゃないですか。」
「・・どうしてだ?」
「それはそれで色っぽいんですけどね、ルーファウス様身長いくつです?」
「178・・」
「でしょ?それでヒール履いたら180超えますよ。それは目立ちすぎます。ヒールのないほうがいいですよ。色は白でしたしねー・・やっぱり一つ調達しましょうか・・うーん・・」
「誰かのを借りてくる?サイズはお幾つですか?」
「いつもオーダーだから良く分からないが・・25.5くらいじゃないか?」
「・やっぱり・・男性としては小さいほうでしょうけど、そんなサイズのパンプス、持ってる人いないですよねぇ・・」
うーんと悩んでいる秘書集団。そこに先ほどまで遠巻きに眺めていた長身の女性が意を決したようにヒールなしの黒いパンプスを差し出した。
「あの・・これ・・履いて見て下さい・・」
「ってサイズが・・」
そういいつつもストッキングを履いた足をするりと入れると、それは見事に足に収まった。
「嘘・・」
「ぴったり・・」
「ってあなた・・」
皆の視線が集中する。その時にいた持ち主は、顔を真っ赤に染めてうつむいた。
「・・だから言いたくなかったのよ・・あ、それ、ロッカーに入れていた代えのですからどうぞご遠慮なく・・」
「あ・・あぁ・・ありがとう・・」
なんだかいけないことを暴いてしまった気分のルーファウス。彼は女性心理の深淵を覗いてまったのかもしれない(笑)
「と・・とりあえずそれで靴問題は解決と・・。」
「仕上げは・・これかけて見て下さい。」
細い銀縁の眼鏡を渡されたのを素直にかけてみる。そこにはCIイベントの時とはまた違ったキャリアウーマン風の美女が出来上がっていた。

「きゃー、大成功っ!!」
途端にはしゃぎまくる秘書課の面々。素晴らしい出来栄えに狂喜し、肝心の本人はどこかに置き去られている。
「さぁこれで準備万端!IDは非番の友人のを借りるとして、社長のはしばらくばれない様に部屋に置いといて下さいね♪」
「それ・・犯罪すれすれじゃないの?」
「っていうか、犯罪そのものよね・・まぁいいか♪」
「君たち・・やっぱり当初の目的忘れているだろう・・?」
当然、ルーファウスが小声で呟いた言葉を耳にするものなど誰もいなかった・・

かくして彼女たちはしっかり美人になったルーファウスを連れ出した。その周りを取り巻く様にして、わいわいと廊下を歩いていく。しかしその途中、運悪く社長室に向かうツォンに出くわしてしまった。慌てて、しかし何食わぬ顔で挨拶する秘書集団。その自分以上のしたたかさにルーファウスは心の中で人知れず冷や汗をかいた。
「あ、ツォンさんこんにちは♪」
「やあ。」
「今から食事にいってきまーす。」
あくまでもにこやかに軽やかに。板についた営業用スマイルを振りまきながら通り過ぎていこうとした彼女たちだが、ふとツォンの目がある一点で止まった。
「おや、見た事のない人が混じっているね?」
一瞬、空気が凍り付いた音がした。しかし男を操るのはお手の物、それ以上を悟らせることもなく、一人の秘書が何食わぬ顔でさらりと上手い嘘をつく。
「あ、彼女は今度配属された新人で、今研修期間中なんですよー。」
「ほう・・?」
「私達で色々教えてあげてっていわれてるんですけどー(何をだ。)こんな美人ですし、悪い虫が付かないようにとも言われてますから手を出さないでくださいねー♪」
「虫・・(苦笑)」
「あ、ツォンさんのことではないですよー♪では、いってきまーす。」
「あ、あぁ・・(汗)」
ここぞとばかりにそそくさっと流れて行くOL集団。その中心で一人の秘書がルーファウスにひそひそと喋りかけた。
「・・うまくいきましたね・・所詮、タークスも人の子、ということですか・・?(苦笑)」
「・・この場合、僕は喜んでもいいのか?(汗)」
「・・さぁ・・(苦笑)」

後に残されたツォンはしばらく、遠ざかっていく集団の後ろ姿を見ながらぼーっとしていたがふと我に返り、首をぶんぶんと振る。
(・・いかん・・私にはルーファウス様が・・いやしかし・・(汗))
それでも頭の中に浮かぶのは先ほどの黒髪の美女。近づけば消える蜃気楼のように儚く、しかしその姿は彼の脳裏に焼き付いてしまっていた。

思いっきり逡巡しながら、それでも誰かさんに似た黒髪の美女にちょっとどきどきしていたりしちゃうタークス主任ツォン34才。彼女(笑)いない歴30年。彼の春はまだまだ遠かったのかもしれない・・
(完)


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