瀬尾先生の第61弾

投稿者 せのおさん 日時 1997 年 8 月 01 日 11:52:33:

足音

えーと・・宝×ヴィン・・サブタイトルは一人称でしたい放題・・ですか(汗)固有名詞ほとんど出てこないし・・読み返す気力すらないし・・(涙)
リミット自体はそんなに高くないとおもうんですけどねー・・(苦笑)



かつかつという足音と共に、その悪魔はやってくる。
私は暗闇の中でなす術もなくその悪魔を待ち続けるしかない。

「やあ私の眠り姫・・いい子でいたかな?」
喉の奥を鳴らすような気味の悪い笑いを含む声が私の精神を麻痺させる。私の目は何らかの操作を施されたのか、厚い包帯状のもので覆われていてそいつを睨むことすらできない。
そんな状態がここ数日も続いている・・いや、今の私にとって既に時間という概念は無意味なのかもしれない。今の私は全ての感覚を奪われ、全ての人格を奪われ、ただこの残酷な男の欲望の処理だけに生かされているのだから。
「ふむ・・まだ痛むかね?」
意味のない問い掛け。これは私に意見を求めているのではない。この男にはそのような情はない。ただ少年が草木や小動物に気まぐれに問い掛けるように、自分の意見を整理するために口から言葉が漏れる、それだけだ。
「・・これを外すのはもう少し先になりそうだ・・」
厚い包帯の上から軽い圧迫感が与えられた。同時に薄い検査衣を捲り上げ、骨張った指の感触が肌を這いずり回り始める。
(やめろ!)
そう叫びたいのに、舌を噛まぬようにしっかりと口枷をかまされている。助けを求めて伸ばした腕は黒い虚空を掻くのみ。その手に男の手が重ねられる。
「・・ほう・・暴れられるということは、回復は順調なようだが・・いけないな・・傷口が開いてしまうよ・・」
体に力が入らない。細い体に軽く押え込まれ、様々な傷跡の走る胸を露にされる。
「そんなに抵抗するんじゃない。私には君をひどく扱おうという気はさらさらないのだからね。」
寄せられる唇から必死で逃れようともがく私をあっさりと制しながら愛撫は続けられる。胸から腹へ、そうして足へ。
身を捩る度に腰から浮き出る骨盤の窪みに、悪魔が嬉しそうに口付けをする。熱い吐息がより私に嫌悪の情を抱かせる。
「奇麗だよ・・私の眠り姫・・本来ならばずっとこうしていたいところだが、今日は生憎と他の用が出来てしまったのでね。君を十分満足させてあげるだけの時間がないのだが、我慢してくれ・・」
そうして私の体は軽々とうつ伏せにされ、熱心な異教の信徒が神に拝祈する時のような形に固定される。悪魔は私の背後に回り、ぴたりと体を寄せるとその腕でその唇で私を蹂躪し始める。
(嫌だ・・嫌だ・・こんな・・)
衣服越しに伝わってくる男の体温。浅ましい姿態。獣のように犯されながら私は抗うことも叫ぶこともできない。ただ暗闇の中で下肢からの痺れるような感覚が脊髄を駆け上り、私の精神をも侵してゆく。
「あ・・う・・」
噛み締めた口枷から漏れる喘ぎは一体誰のものなのだろう。私は何故こんなことを・・
脳裏をめぐる様々な想いが融合し、分離し、新たなる想いを作り出す。背中の上では男が荒い息を吐き、その動きはより激しさを増してゆく。
それに耐え切れなくなったのだろう、私の胸や頭に巻かれていた包帯が緩く解け始めた。赤黒く醜い傷痕が露になるにも関らず、男の動きは止まることがない。
「愛しているよ・・私の・・ヴィンセント・・」
男が何かを呟いている。悪魔・・そう、これは悪魔の囁き。いっそ、甘い毒を帯びたそれに、身も心も任せてしまいたくなることもある。
私はどこまで落ちてゆくのだろう。罪、罰、そして贖罪。言葉だけが空しく通り過ぎて行く。
解けた包帯の隙間から、涸れ果てていたはずの涙が一筋零れた。




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