瀬尾先生の第50弾

レポート作成記念・・笑
しかし・・またすぐに次のレポートと発表とテストが待っている・・笑
ということで、これはせのおの遺作です。ちなみにネタはいつぞやのチャット。胸焼けするほど甘いあまーいお話です。



ルーファウス様・・起きてください・・
朝日にけぶる金色の髪をそっと撫でる。いまだに覚めやらぬ夢に名残を告げるのが惜しいのか、ルーファウスはしっかりと抱えた枕に顔を埋め、再び白いシーツの中に潜り込んだ。

駄目ですよっ。そろそろ起きてくれないと。今日は九時からお仕事があるんでしょうっ!
ツォンの声が段々と厳しくなる。その声から逃れるようにルーファウスの頭が潜り込んで行く。
んー・・もーちょっと寝かせてくれ・・
本気で、怒りますよ。
・・怒ってもいい。僕は眠い。
枕の間からくぐもった声で抗議するルーファウス。遂に強制的に上掛けが剥がされた。
「おはようございます。」
「意地悪」
恨めしそうにツォンを睨む。が、これっくらいで怯むような相手ではない。ツォンはルーファウスが抱えている枕を取り上げると澄まして微笑んだ。
「朝食がきていますよ。早く顔を洗っていらっしゃい。」
「もう少し寝かせてくれてもいいだろう・・」
唇を尖らせながら、それでもおとなしく顔だけは洗ってきたルーファウスが憮然としてテーブルに付くと、眼前に湯気の立つ濃い紅茶が置かれた。その熱く薄いカップの感触を確かめるようにそっと口をつけるのを微笑みと共に見守り、ツォンはその向かいの椅子に腰を下ろした。
そう言って朝食を摂られないとお体に障りますよ。
自分はコーヒーを口に運びながら朝食と共に配達される新聞に目を通している。こうやって朝食を共にするようになったのは一体いつのことだったか。誰が提案したことでもなかったが、今ではツォンが自宅に帰った朝も、なんとなく自然にここで朝食を摂る習慣が出来てしまっていた。
「子供扱いするな。」
それでも薄くさっくりと焼いたトーストに、一口ごとにジャムをぽってりとのせて嬉しそうに食べ始めるルーファウスを新聞の影からちらりと見ながら、ツォンはぼそりとつぶやいた。
「味覚は子供でしょう・・あなたは胃の中に蟻でも飼っているんですか?」
どちらかといえば甘いものが苦手なツォンとしては、いくら甘さを抑えてあるとしても、トーストを食べているのかジャムを食べているのかといったルーファウスの食事風景は見ているだけで胸焼けがしてくる。そんな食事をしているといつかパルマーみたいになりますよと言ってはいるのだが、一向に改まる気配がない。まぁ、そのおかげでにこにこと機嫌の良い恋人の姿が見られるのだから、ある程度までは黙認してはいるのだが。
「蟻?何故だ?」
「別に深い意味はありません・・・・それよりきちんと卵や野菜も食べてくださいね・・」
再び新聞に目を落としながらツォンはため息を吐いた。その時、ふとある記事に目が留まった。
「ルーファウス様・・興味深い記事がありますよ・・」
「ん?」
既に数枚目のトーストに手を伸ばしながらルーファウスは顔を上げた。所々、肉の薄い部分から透けた血管が赤く色を添えて見えるほどの真珠色の肌。奇麗に切れ上がったきつい目が人を引き付け、捕らえてしまうような錯覚を起こさせる。その美しさに見惚れながら、ツォンはその記事をルーファウスに示した。
「これなんですが・・」

共働きのご家族に朗報。女性だけが出産リスクを背負うのは不公平だと思いませんか?人工子宮を埋め込むことでこの度男性にも子供が産めるようになりました。これであなたも生みのパパ。父親と子供とのより深い絆を求めるためにもお勧めです。なお手術跡は一切残りません。なお当研究所では卵子同士、精子同士による二倍体作成も行なっております。

「で・・?」
ルーファウスは興味なさそうに新聞を返した。冷めかけたスクランブルドエッグを銀色に輝くフォークですくう。
「わかりませんか?これに遺伝子操作を加えれば、男同士のカップル間にでも子供が出来る、ということなんですよ。」
珍しく、浮かれた口調で喋るツォン。彼の頭の中には「あ、ツォン、今子供が動いたよ」「あなたに似て元気の良い子供なんですね」なーんていう彼らしくない甘い甘い世界が展開していた。
「ふぅん。」
しかし当のルーファウスは興味なさそうにフォークを口へ移動させている。鋭いフォークの切先が紅色の唇に消えては現れる。
「ふぅんって・・私とでは嫌ですか?」
思わずすがるような口調になるツォン。そんならしくないツォンをちらりと見ながら、ルーファウスはあっさりと言った。
「別に構わないけどね。でも、誰が産むの?僕は忙しいから嫌だよ。」
「う・・」
確かに正論である。現在でもかなり過密なスケジュールを持つルーファウスにこれ以上重荷を架すのは罪悪感が先行する。しかしその場合・・汗
「では・・まさか・・?」
「誰かが産んでくれると助かるんだけどね。そうだ、産休あげるから君が産んでよ。」
「え?(汗)」
「決まりだね。じゃ。ご馳走様。僕は身支度してくる。」
白いシルクのパジャマ姿がシャワールームに消える。その後ろ姿を呆然と見詰めながらツォンは自分の陥ってしまった状況を把握しようと必死になっていた。ついうっかりと薮を突ついてみたはいいが、どうもとんでもない蛇を呼び出してしまったようである。
自分が子供を孕んでいる姿をふと想像してみて、ツォンは背筋に冷たいものが走るのを感じた。


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