瀬尾先生の第30弾

「なんで私が社長の警護なのよ・・・」
ぶちぶちと愚痴をこぼしながらイリーナは鼻息も荒く社長室へ向かっていた。ただならぬ様子に廊下を歩いていた社員たちが恐る恐る道を開けていく。いくら可愛い顔をしていても仮にもタークス。下手に逆らって死にたくはない。
「いっつもツォンさん独り占めだしぃ?ったくあいつ、一体何様のつもりなのよっ!」
ちなみに社長様、である(笑)その大事な大事な社長様には通常、彼女の憧れの君であるツォンが四六時中の半分以上べったりとくっついている。それが気にくわなかった(あたりまえか。)そのツォンが今日は別の任務で出かけていたる。抜目ない彼はその間をイリーナに頼んでいったというわけだった。しかし、レノでもルードでもなくイリーナに頼んでいく辺り、ツォンもなかなか気が回るというかなんというか。まぁ、妥当な線ですか。
それはともかく、あるいはだからともかく、恋敵の警護をするのは正直言って気が進まなかったが、愛する人の頼みでは無下に断わるわけにもいかなかった辛い立場のイリーナはどすどすと出エジプト記状態(知らない人は旧約聖書を読もう)の廊下をつき進んでいった。
・・・こわー・・・・

(まったく子供じゃないんだからほっといても平気でしょうに・・・)
まだまだ続くぶちぶちを山程背に抱えながら、イリーナは社長室の隣にある仮眠室へひょっこり顔を覗かせた。
「社長ー、いらっしゃいますかぁ・・っと?」
昼寝でもしているものかと思っていたが、そこにはベッドに座って一心不乱にゲームに興じるルーファウスの姿があった。
「・・・社長?」
白い顔に大画面スクリーンの光がちらちらと反射する。イリーナには気が付いていないらしい。イリーナは思い切り大きく息を吸うと、横隔膜が震えるほどの声で叫んだ。
「しゃーちょーうーっ!!」
「ん?もう時間か?」
ぽけっとした返事が返ってきた。眼はまだ画面上で、指は動き続ける。完全にゲームの世界に浸りきっている。
「いいえ、まだですけど警護してろって言われてまして。・・・あ、ストファイβ(笑)じゃないですか。」
ぴくりとルーファウスの耳が動いた(ように見えた)。ストップボタンを押して眼線が上がる。同じゲームを知っていると聞けば全然知らない人同士でもたとえ電車に乗り遅れそうになっていても話し込んでしまうのがゲーマーの悲しい性(時としてそれはものすごいリユニオンをしたりもするのだが・・)。
「知ってるのか?」
「持ってます。強いんですよ、私。」
イリーナは腰に手をあててそっくりかえった。仕事帰りにそこいらのゲーセンに立ち寄ってはかたっぱしから挑戦者を退け、ついた仇名が「黒服の女王」。最近は忙しくていってないが、今なお伝説として君臨している程の腕前である。
ルーファウスの片眉が上がった。
「へー、じゃあ相手してよ。ツォンなんかじゃ難度落としても全然相手にならなくて退屈していたんだ。」
「えっ?でも・・・」
「仕事中?」
「いえ・・そういうわけでは・・・」
「ならいいだろ。そうだ、僕に勝ったらなんでも好きなものをプレゼントしよう。」
「・・いいんですか、そんな事言って?」
思わず欲が出てしまった。冗談かとも思ったが、ルーファウスの気前の良さには定評がある。なんでも、ということは、欲しかったバニエ(エルメス程度のブランド物と思ってください)のバッグが・・・イリーナの眼前にバッグがちらつく。
「いいよ。服でも車でも、なんなら別荘でも(笑)」
「ほんとですね・・・?」
「当り前。」
「よーし、忘れないでくださいよ。」
念を押し、やるき満々のイリーナちゃんであった。かくして結果は・・?

「で・・・なんであそこでコンボが炸裂するんですか・・・・(泣)」
イリーナはコントローラーを投げ出した。画面の中ではルーファウスの使ったキャラがぺけぺけと踊っている。ルーファウスは満足そうに笑った。
「でも君は強かったよ。実際、別荘を買わされるかと冷や冷やした(笑)」
「もうっ・・」
女王の貫禄形無しである。こんな在宅ゲーマーに負けてしまったとあっては面子が立たない。こうなったらどうしてても負かしてやると固くコントローラーを握りしめなおそうとした時・・・・
「ま、そういうわけで、君が負けたわけなんだけど・・・」
ぽん、とベッドに押し倒された。ルーファウスの顔が近付いてくる。イリーナは慌てまくった。
「ちょ、ちょっとまってくださいっ!そんなの聞いてませんっ!!」
「ふふふ。そんな甘い取り引きがあるわけないだろう。」
「でーもーっ!!」
じたばたと暴れようとするがこちらは上半身なのを全体重で押えられては無駄である。だからといってさすがに社長を思いっきりけっとばす訳にもいかず、イリーナは困惑した。
「負けたんだからおとなしくいうことを聞きなさい。」
耳元で甘く囁かれた。はっきりいってこういう展開になるとは予想してなかった。イリーナの背を冷汗が流れる。確かにルーファウスの場合、恋人は男性ではあるが極めてバイに近い。が、だからといって自分の想を寄せている人の恋人に抱かれるなど、あまり聞いたことがない。
歪んだ不等辺三角関係・・そんなお昼のメロドラマのような言葉が脳裏をぐるぐる回る。ついでに点滅・色替えタグもつけてあげよう。はははは。
そしてついにネクタイとシャツのボタンが外され、ルーファウスがイリーナの胸に顔を埋めた。形のよい鼻が谷間をくすぐる。
(うそーーーーーーっ?!)
イリーナの身は硬直した。
「・・気持ち良い・・」
「え?」
意外な言葉が漏れた。冷たく滑らかな感触と温かい鼓動。ルーファウスはその感覚を楽しむように再度頬擦りをし、嬉しそうに呟いた。
「・・このまましばらくこうしていたい・・・」
「はい?」
見下ろすと、奇麗に切れ上がった眼の長い睫毛が伏せられていた。肌を通して規則的な軽い寝息が感じられる。イリーナは溜め息を吐くと、金色の頭を抱きしめた。
「って・・・・ったくしょうのない人・・・子供みたい・・・」
愛しげにくすくすと笑う。
「・・・・ルウから全然進歩していないんだから。」
(ルウを知らない人は瀬尾の小説を読もう・・笑)いや、まだ聞き分けがある分ルウの方がましだった。
今ここに寝ているのはただの手の付けられない万年我儘王子様。
(でも・・・可愛いかも・・ってことは?!汗)
自分の胸中に既に愛情と呼べるものが出来上がりつつある状況にイリーナは驚愕した。
(・・こ・・この状況、まずい・・・・汗汗)
下手をすれば歪んだ不等辺から虚数空間である。しかし、愛する人の子供だと思えばまぁ、幸せといえば幸せであるかもしれない。(たとえ自分より年上だとしても・・笑)
イリーナはすやすやと眠るルーファウスを胸に、複雑な気分を抱いていた。
(誰か・・・助けて・・・・・)

            だからなにって感じですけどー(笑)


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