瀬尾先生の第26弾
「若奥様は16歳(笑)」

「阿波ランチのり」というものをみつけた・・笑
そのせいというわけではないのですが・・・笑
透お姉様、とり頭様、もうしわけございません。



「えーと、今日は新しいかさごがあったからあれを煮付けて・・・後はお大根のふろふきと・・そうだ、大根葉と柚子を即席づけに・・」(すいません、関西人の瀬尾には関東の御飯がどういうものかよく分かりません。)
冬の声の聞こえる夕暮れどきの忙しい街を、さらりと擦り抜けてゆく後ろ姿があった。相変わらず地味な色柄の袷を着てはいるが、その背からは隠しようのない色気がただよっていた。
「・・・奥さん・・・」
買物に夢中でぼんやりとしていた時、ふと後ろから声がかけられているのに気がついた。
ゆっくりと振りかえると、そこには神羅出版社の若社長、ルーファウスが立っていた。
「お買物ですか。」
舶来製だろうか、きちりと着込んだ洋装のよく似合う青年である。歳は夫よりも大分若いようだった。
「あら・・若社長さん・・・いつも主人がお世話になっております・・」
クラウドはたおやかにお辞儀をした。その様子に、若社長は涼しげな目許を細めながら軽く中折れ帽を持ち上げる。
「いえ、こちらこそどういたしまして。」
世間の無責任な噂によれば、今度の社長は切れものではあるが、なかなか侮れない性格だという。それがどういう意味を持つものかは世情に疎いクラウドにはよくわからなかったが、とりあえず何かにつけて背筋がじっとりと汗ばむような眼で自分を見つめていた前社長よりは好感がもてた。
「ところで・・・・・重そうですね。お買物はもうお済みなんですか。」
「はい、とりあえず・・・」
クラウドは頷いた。後は帰りに米屋に寄って、そろそろ配達してくれるように頼んでくるつもりだった。
「そうですか。よろしければ、お宅まで車でお送りさせて頂きたいのですが・・」
言いながら、上等そうな薄皮の手袋をした手で、クラウドの白い手から買物籠をそっと取り上げる。クラウドは慌ててそれを奪い返そうとした。
「あの・・大丈夫です、それに、お魚とかはいってますから臭いが・・」
「気にしませんよ。それより、女性にこんな重いものを持たせているほうが気掛かりです。さぁ、あちらに車が止めてありますから・・」
そうクラウドを促しつつ、若社長は歩き出した。何気なく柳腰に回されたもう片方の腕を気にしつつも、クラウドは抵抗できなかった。
「でも・・・まだ米屋に配達を・・・」
「後で寄ってあげますよ。米屋、でいいんですね。」
半ば押し込まれるように、クラウドは黒光りのする自動車にのせられた。

「ところで奥さん・・」
車の狭い後部座席で、隣に座ったルーファウスの顔が近付いてきた。微笑みの中に裏打ちされた残酷さがちらりと垣間見える。
「・・僕と、一つ、取り引きをしませんか・・・・」
「・・何を・・・」
クラウドは息を飲んだ。すぐ目の前に、肉食獣の瞳が迫る。
「僕は、美しいものが大好きなんですよ。奥さん。だから僕は、あなたが欲しい・・」
若社長はクラウドの喉元に唇を寄せた。その感触に、クラウドはぴくりと肩を震わせる。
「・・・私は・・既に・・」
「わかっています。でも・・小説家なんて所詮は人気商売・・売れる売れないは出版社次第だということを・・ご存じですよね?」
舌先がちろりと肌に触れた。熱い感触に、クラウドの体が強ばる。
「私に・・どうせよと・・おっしゃるのですか・・どちらにしても夫を裏切ることに・・・」
声に涙が混じった。その様子に、ルーファウスは満足げに笑う。
「僕はあなたのご主人の小説を出来る限り売れるように仕向けます。その代償として・・あなたは時々、僕の言いなりになってくれさえすればよろしいんです・・不都合な取り引きでは・・ないでしょう・・・?」
クラウドには、否定という選択肢は与えられてはいなかった。返事の代わりにそっと眼を伏せると、若き社長にその身を任せた。


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