瀬尾先生の第25弾
”自殺なるーちゃん”

らーまさーん、お約束の「自殺」ものです。
しかし最初のしばらく・・・書いてていやです。これ。本題に入る前に書くのやめようかと思った・・(泣・・なら書くな・・怒)
ナイツ・オブ・ラウンドダブル召還乱れうち(泣)


「ルーファウス・・おいで・・」
ベッドの中からプレジデントは手招きした。薄暗がりの中に、ルーファウスの白い体が浮かび上がる。整った顔は無表情に父親の元へいき、その中年太りした体の両脇に腕をついてそっと舌を寄せる。
「いい子だ・・ルーファウス・・」
機械的に奉仕するルーファウスの顔を太い指で撫でながら、プレジデントは満足そうに呟いた。
「今まで色々な少年を抱いてきたが・・・息子のお前が一番いいとは・・私は人間失格だな。」
低い笑い声が室内に響く。それは目を覆いたくなるような光景だった。
ルーファウスの母親は、男関係の派手な女だった。だから、ルーファウスが他の男の子供だというなら許せないことには代わりはないが、まだ理解できなくはない。だが、その特徴的な髪と眼の色は二人の遺伝的な繋がりを明らかにしていた。
ルーファウスはそんな父親の様子にも動揺することなく、ただ、静かに命令に従っていた。


「お帰りなさい。」
ルーファウスが自室に戻ると、ツォンが待っていた。プレジデントの部屋も神羅ビル内であるため護衛についてはいないが、ルーファウスが遅くなる時はいつもこうやって待っていてくれる。
「・・ただいま・・・」
いつも以上に憔悴の様子を見せるルーファウスだが、ツォンには何もできない。ただこうやって待っているのが、せめてもの慰めだと彼は考えていた。
「大丈夫ですか?お疲れの様子ですが・・・」
「・・・大丈夫だ。もう帰っていいよ・・君も、疲れただろう・・僕も・・眠い・・」
ぱさりと音を立ててソファに身をなげだす。そっとしておいた方がよいのかもしれなかった。
「そうですか・・では私はこれにて・・」
長身を翻し、立ち去ろうとしたツォンの背中に声がかかる。
「・・ツォン・・」
「はい?」
ツォンは顔だけでふりかえる。ソファの向こうからは、声だけが出てきた。
「お休み。」
「はい、おやすみなさい。又、明日お迎えに伺います。」
「・・・・・・」
そのまま、ツォンは退社した。

ミッドガル内を縦横に繋ぐ高速道路を走りながら、ツォンはさっきのルーファウスの態度が妙に気にかかった。
普段なら帰るなと駄々をこねるのが定番であるだけに、意外な言葉だった。それはルーファウスが大人になったのか、それとも・・・・
考えあぐねた末に、妙な幻聴が聞こえてきた。
(ツォン・・・助けて・・・)
泣くような、ささやくような声。
一瞬の気の迷いとかも思ったが、だんだんと大きくなるような気がする。
ツォンは力一杯ハンドルを切り、元来た道を引き返した。


「ルーファウス様!!」
暗い室内を抜けて浴室のドアを開けると、熱気と共にむせるほどに濃い血の匂いが鼻をついた。素早く浴槽にかけより、引きちぎるようにシャワーカーテンを引くと、白い陶器製のバスタブの中、染むほどに赤い湯の中に、ぐったりとしたルーファウスの体から現われた。
「ルーファウス様・・・なんてことを・・・」
苦く呟きながら、ツォンは濁った湯の中からルーファウスの体をひきあげた。途端に左手首から、湯の中に分散していたはずの鮮血がつたい流れる。それは白い肌に細い筋となり、床にちいさな血溜まりを作った。

そんな様子を見ながら、ツォンは、自分でも驚くほどの冷静さで止血し、携帯電話で医務室に緊急を知らせる間、じっとルーファウスの体を抱いていた。蒼白な肌をつたって赤い水が滑り落ちていく。辺りはあまりにも静かだった。
濡れた髪に、そっと唇を寄せる。その時ふいにルーファウスの右手から何かが外れ、タイルばりの床に金属的な音を立てて跳ねた。不審に思ってルーファウス越しに床を見ると、血に塗れた一本の細い銀細工のナイフが転がっていた。


結局、発見が早かったために多少の輸血と傷の処置のみですみ、入院には至らなかった。しかし手首は甲まである強固なギプスで固定され、止血の為にネットで吊られている。意識は一瞬たりとももどってはいない。
その横に座りながら、ツォンは手の中のナイフを複雑な面持ちで眺めていた。
これは、15の誕生日に、彼がルーファウスに与えたものだった。

「こんな細いものでなにをしろというんだ?」
見かけは万年筆ほどの大きさだが、手に乗るそれはずしりと重い。抜き差しする度に銀色の刃がきらりと光る。
「別になにができるというわけではありませんが、いざというときに相手の目くらいは突けますよ。」
「・・物騒な話だ。」
「何がおこるかわかりませんからね。護身用です。」
「じゃ、いいや。ツォンが守ってくれるんだろ。」
「責任重大ですね。」
どこからどこまでが本気か分からない会話をしながら、二人は笑った。
口とは裏腹に嬉しそうに、ルーファウスはそれをポケットに滑り込ませていた。

だがそれは、あくまでも身を守る為であって、それで命を絶つとは思いもよらなかった。淋しさからの狂言かとも思ったが、傷の深さや、血液中から検出されたアルコールと睡眠薬とがそれを否定していた。
結果的に・・自分はこの人に命を奪う手段を与えてしまった・・自責の念がツォンを襲う。彼は強くナイフを握りしめた。

ふと、見上げたルーファウスの顎に微かだが血の跡が付いているのが見えた。奇麗に拭ったはずが、残っていたらしい。ツォンは濡れたタオルを取りに洗面所に向かった。
鏡に映る自分の顔がひどく老けてみえた。

ツォンが濡れたタオルを手に部屋に戻ると、ベッドは空になっていた。
「まさか・・・・」
先ほどの医師の言葉がツォンの脳裏に蘇る。

・・・とにかく、この年代の方は精神的に不安定になりがちです。それに、一度自殺未遂を起こした方は再び繰り返す傾向があります・・しばらく、目を離さないでください・・・

体中の血が凍る音がした。
「再び」「再び」・・・
ツォンはタオルを投げ捨て、部屋を飛び出した。



続きはまた月曜・・・・笑



そして月曜日(笑)
続きです。

すいません、毎度毎度、鬼になりきれない瀬尾です。いい加減このワンパターンな作風嫌になってきた・・
おまけに前編読み直したらひどい文章でした。しかし書き加える時間はない・・(悲)
などと、いいつつ、突いたり切ったり殺したり(笑)は緒方様やパノラマ様におまかせして(おいおい・でも読むのは好き・笑)、今回もなんとかハッピーエンドです(笑)



重く暗い灰色の空の下。
ヘリポートのある屋上の、コンクリートの冷たい地面の上に白い検査着の裾が翻る。虚ろな青い目が見上げる空からは、霧のような雨が降っていた。
「ルーファウス様・・・!!」
ツォンが声をかけると、ルーファウスはゆっくりと振り返った。姿は既にヘリポート周囲を囲む金網を飛び越えている。細い体が強風に煽られ、今にも飛ばされてしまいそうだ。「そこで待っててくださいっ!」
金網をひらりと飛び越え、ツォンは駆け寄った。素早く痩せた体を掴んで、風で飛ばされないように、しっかりと抱きしめる。
「よかった・・・・」
「・・・なぜ止める・・」
ツォンの安堵を余所に、ルーファウスは静かに言った。感情を込めない声が風にのる。
「・・・ルーファウス様・・・?」
「死なせてよ・・このまま・・・もう・・嫌なんだ・・生きているのが・・・」
ルーファウスはひどく穏やかな声で呟いた。貌には笑みすら浮かべている。
そのままツォンの腕を擦り抜けて暗い空に飛び立とうとする。それを放すまいと、必死になって押え込んだ。
「駄目です!!」
「お願い。」
捕えられた蝶のように弱く抵抗するルーファウスを、ツォンは固く抱き占めた。手を離せば逃げてしまう。そんな感じがした。
「それで何になるというのですか!死は・・何も生み出さない・・死んでしまったらお終いなんですよ・・・」
血と共に吐かれる言葉。しかしルーファウスの心には届かない。閉ざされた心は、既に傷付けられすぎていた。
「おしまいに・・したい・・・もう・・嫌だ・・・何もかも・・」
静かな瞳がツォンを見上げた。水分を含んだ髪が重く額にかかる。その顔は様々な苦痛に疲れはてていた。

「・・わかりました・・」
ツォンはルーファウスの体をそっと金網の方に押しやり、空の方に向かった。コンクリートの端から暗黒の淵を覗きこめば、ビル街を駆け抜けた風が吹き上げてくる。
「ここから飛べば・・ほぼ確実に死ねるでしょう。ただし、死体は無惨なものでしょうがね・・」
黒髪が風で散らばった。冷ややかな言葉が続く。
「脳漿が飛び散り、顔は跡形もなくなるでしょうが・・・・・」
「構わないよ。どうせ・・・僕が見るわけじゃない・・」
「そうですね。しかし・・私はあなたの死体を見たくはない・・私が先に飛んでもよろしいですか・・」
「何?」
「あなたが死ぬなら、私も死にます、といっているのです。」
「なぜ君が死ぬ・・」
「当然でしょう。あなたお一人では淋しいでしょうから。」
ルーファウスの目が驚愕に見開かれる。
「駄目だ!」
悲鳴に近い声が上がった。ルーファウスはツォンの前に立ち、その体にしがみついた。
「駄目だ!死ぬことは許さないっ!!」
「私が死んでも、誰も悲しみません。私は・・タークスに入る時に全ての人間関係を捨てました・・私のために泣く人なんて・・もういないのですよ・・」
ルーファウスを見下ろしながら、ツォンは言った。蒼い瞳が自分を見ている。
「僕が、僕が泣くっ!僕は悲しい!!だから、お願い・・・死ぬなんていわないで・・・」
そこで言葉が途切れた。ルーファウスの眼が見開かれ、そのままぺたりと座り込み、子供のように泣き始める。
「同じことなんですよ・・・私も・・。あなたが死ねば、私は悲しい。私を悲しませないでください・・・」
自分の行動がツォンを苦しめていることに、彼はやっと気が付いた。止めようもない嗚咽が流れ続けた。遠くから優しい声が響いていた。


「・・・僕はこのまま生きていてもどうせ父親の都合の良い道具にしかすぎない・・未来になんの希望もない・・そう思うと・・生きていることが耐えられなかった・・」
ルーファウスの座り込んだ横に並ぶように、ツォンは腰をおろした。二人の眼下に鋼鉄の街の灯が輝く。
その場に座り込んだまま、少し落ち着いたのか、ルーファウスはぽつりと話し始めた。冷たい風で冷えた肩を抱くように、ツォンが肩に手を回す。
「なんで・・・こんな・・・・」
ルーファウスが膝に顔を埋めた。白い項が襟から覗く。その頭をそっと自分の胸に抱き、ツォンは囁いた。
「・・あなたの苦しみは、私の苦しみです・・・あなたが苦しんでいるのを見るのは辛い・・でも、生きていればそれはいつしか過ぎ去る・・・死んではいけません・・・死ぬのは・・・負けです・・・生きてさえいれば、復讐することも出来るのですよ・・」
我ながら無理がある理論だとは思ったが、ルーファウスは頷いた。検査衣の袖で涙を拭きこする。その様子がいじらしく、その泣き濡れた顔にそっとキスをした。
「お側にいます・・ずっと・・・・」
暗い空の下で、二人の影が寄り添った。風はいつしか止み、微かな光を放つ月が現われていた。

「あ、あそこにいますっ!!」
「ルーファウス様ーっ!!」
背後で、複数の人間が騒ぐ声がした。後ろを振り向くと、集団が血相を変えてこちらに向かってくる。ツォンは苦笑した。
「そろそろ捜しに来る頃かとは思っていましたが・・・」
それを見たルーファウスが、心底不機嫌そうに呟いた。
「・・・せっかくいい雰囲気だったのに・・・無粋な奴等・・・・」
さっきまで物騒なことを言っていた人間の意外な言葉に、思わず笑いが込み上げてくる。
「はは・・さ、戻りましょう。いいですね。」
「・・わかった。もう死ぬなんていわない・・」
再び念を押され、手を添えられてルーファウスは立ち上がった。さらりとしたその立ち姿には生気と共に、聡明な、強い意思が宿っていた。


[ 感想を書こう!!] [小説リユニオントップへ]