瀬尾先生の第20弾

とり頭さんへ。無茶苦茶面白かったので、ささやかながらお礼です。
で・・・・ネタは・・・ロデムの話(笑)


宵闇に沈む社長室で、ルーファウスは一人、ダークネィションを相手に酒を呑んでいた。「ダーネィ・・・・」
足元に影のように沈むダークネィションに、やさしい声をかける。ダークネィションは声を聞き、頭をもたげた。ルーファウスが喉元をなでてやると、くぐもったうなり声をあげて喜ぶ。
「・・・・君はいい子だ・・・なのにツォンときたら・・・」
今日はルーファウスの誕生日だった。24回目の、誕生日。ツォンは生憎出ていたが、仕事を終えればすぐに帰ってくると言っていたはずだった。だが時計の針は既に垂直に近付き、日付は変わろうとしている。
「ツォンがああいったから・・僕はつまらないバースデーイベントにも出たのに・・・」
形だけの、祝福。本当に祝ってくれる人間はいない。そんなものには今までついぞ、であったことがなかった。ツォンを除いては。
そんな気持ちを察して、ダークネィションがルーファウスの手に頭をすりつけてくる。ひんやりとした、獣の皮独特の肌触り。その深い奥から温かさと気遣いが伝わってくる。
ルーファウスは微笑んだ。少し、気持ちが楽になる。でも、ダークネィションは言葉をもたぬ獣に過ぎない。
「ねぇダーネィ・・君が人間だったら・・・こんな時はなんて言ってくれるんだろうか・・・君が話せたらいいのにと、何度も思ったことがある・・へんだろう?」
言いながら、ルーファウスは窓の外を見た。銀色に輝く丸い月が、夜空の中央に登りつめる。
「・・・・・満月、か・・・」
昔、誕生日の満月の夜、月に願いをすればなんでもかなうと教えてくれたのは誰だったろう。そんなものは毛頭信じてはいなかったが、あまりのタイミングの良さに試してみる気になった。
では何を願おうか。ツォンが早く来るようにと願ってみようかとも思ったが、側にうずくまるダークネィションを見ているうちに、いたずら心がでてきた。
「もしも月の魔力が本物ならば・・・ダーネィを人間にしてくれ・・」
声に出して言ってみる。ついでにツォンが早く帰ってくればもっといい、と、心の中で付け足しておいた。
「さて・・・」
ダークネィションを見ると、やはり獣の姿のまま、不思議そうにこちらを見ている。一瞬何かを期待してしまったルーファウスは、苦笑した。
「やはり冗談だったんだな・・・」
椅子の背にもたれ、目を閉じる。わかっていたはずだが、失望した。ふぅと息を吐いた時、銀色の光が目蓋を通して差し込んできた。
「?」
慌てて目を開けると、そこには黒く長い髪と、黒い、いや、漆黒の目をした男が立っていた。
「一体どこから?!・・・ダーネィ、かかれっ!!」
ダークネィションに指示を出したが、飛び掛からない。それどころか、足元にいたはずが、奇麗に消えている。代わりに男がそっとルーファウスに近付いてきた。
「る・・・ふぁす・・・さ・ま・・?」
「?」
どうも、自分の姿にとまどっているらしい。匂いをかぎ、触れてみて、助けを求めるような仕種でルーファウスの膝に抱きついた。
「お前・・・まさか・・ダーネィか?」
男は顔を上げ、嬉しそうに何度も頷いた。光彩の無い真っ黒な眼。
「本当に効くとは・・・」
呆然としながら、ルーファウスは呟いた。一体何がおこったのか・・
「るー・・・」
人型になったダークネィションは必死に何かを喋ろうとしているが、まだ声の出し方がよく解からないらしい。吃りつつ、単語を搾り出している。
「るー・・さま・・さみし・・・・い・・だーねぃ・・いる・・」
「ん?・・心配してくれているのか?・・大丈夫だよ。そういえば、君が話せたらと言ったのは僕だったな・・・」
長い、さらさらとした髪を撫でてやると、顔を近付けてきた。ざらりとした舌が、ルーファウスの顔を舐める。
「こらこら・・・人はそんなことをしない・・・」
苦笑するルーファウスに、ダークネィションは首を傾げた。舐めるのを止めて、質問を声にする。
「つぉ・・ん・・と・・るー・さま・・・なめて・・る・・・」
ツォンとルーファウスがキスをしていたことを指しているらしい。ルーファウスの顔が赤らんだ。
「あ、あれは・・・・・」
慌てて弁解しようとするルーファウスの眼前に、ダークネィションが迫った。真摯な瞳が、ルーファウスを絡め取る。
「だーねぃ・・・るーさま・・すき・・だーねぃ・・・るー・・・なぐさめ・・たい・・・」
「ダーネィ・・・」
ダークネィションの背にルーファウスの腕が回った刹那、ドアが開いた。
「ルーファウス様っ?!いらっしゃいますかっ?!遅く・・・?」
駆け込んできたツォンが、椅子の上で抱きあっているルーファウスとダークネィションを見た。一瞬、時が凍る。
「ルーファウス様・・・・?」
ツォンの口から異常に静かな言葉が出た。ひくひくとこめかみが動いている。
「あ・・・あの・・・・ツォン・・・・これはダーネィ・・」
「なんだそうなんですか、って、その男がダークネィションなわけないでしょう!?どう見ても人間ですっ。あなたが誰と寝ようと構いませんが、嘘はいけません、嘘はっ!」
ツォンの怒りが爆発した。せっかく必死になって約束を守るために仕事を片付けてきたのに、これではただの間の悪い乱入者である。叩き付けるように言葉が出るのを、ダークネィションは別の意味に理解したようだ。
「つぉんが・・・るー・さま・・いじめる・・・・だーねぃ・・ゆるさ・ない・・・」
ダークネィションがツォンに飛び掛かった。ツォンも相手がダークネィションだとは信じていないために本気で応戦する。
「やめろっ!!ツォンっ!ダーネィっ!!」
ルーファウスが二人をとめようとしたが、手加減無しで戦っている為、入り込む隙がない。二人が二人ともルーファウスを守りたい為という矛盾した争いは、原因の思惑をよそに、二人が疲れはてるまで当分続くのであった。

おしまい(笑)


[ 感想を書こう!!] [小説リユニオントップへ]