瀬尾先生の第18弾
「痴漢列車でルーファウス前編」

当初はもっと長かったのですが、カットしました。
その相手の女性についての描写と、かわいこぶって仕事してるルーファウスってのもあったんですけど・・


「まったく親父の策略ときたら・・・・」
ツォンの運転する車の中で、ルーファウスは苦く呟いた。先程婚約者候補の一人と言われている女性と昼食を共にしてきたばかりだった。
「あんなに面白くない人間は初めてだ・・・・」
「・・・おとなしいかたでしたよ。今時珍しい、つくしてくれるタイプですね。」
愚痴を軽く受け流して、ツォンは何気なく相槌を打った。それがルーファウスの神経に触った。
「だったら君は、僕があんなのと結婚すればいいと思っているのか?!」
蒼の濃いきつい眼がツォンの横顔をにらむ。
「いずれ、そうなるのでしょう・・?」
どんなにルーファウスが嫌がっても、結局はプレジデントの思うままに事は運ばれる。それが通例だった。その後、ルーファウスの精神が自殺未遂というところまで追い込まれることが何度かあっても、プレジデントは一向にその姿勢を崩そうとはしなかった。
下手な慰めではかえってルーファウスを傷付けることになる。ツォンはあえて、冷たく言い放った。
「・・・・本当に、そう考えているのか?」
「はい。」
「わかった。君とは意見があわない。」
ルーファウスは眉を顰め、ぴしゃりと言った。
「え・・・?」
ちょうど交差点で止まった車から、するりとルーファウスが抜け出した。
「ちょ、ちょっとまってください・・・」
すぐに追おうとしたが、こんなところで車を乗り捨てるわけにはいかない。ツォンがあたふたしているうちにルーファウスの白い姿は高層街の中へ消えていった。

「あいつは僕のことなんかちっとも考えてないんだ・・」
地下を走る、人気の少ない列車の中で、ルーファウスはぽつりと呟いた。窓の外には黄色い信号灯が規則正しく一筋の線を描く。
車を飛び出してから、取り敢えず近くにあった駅に走り込み、そこにあった列車に乗った。そこから何本かを乗り継いで、いま、ここにいる。
(これが・・・電車というものか・・・)
普段車やヘリばかりで移動する為、公共交通機関にはほとんど乗ったことがない。それはいつもリーブの出す報告書のなかだけの存在だった。
(結構面白いものだな・・・)
子供のように無邪気な好奇心が頭をもたげて辺りを見渡す。
「お、かわいこちゃーん、俺達と遊ばないー?」
ふいに、どこかから声がした。ルーファウスは無視して窓の外を見ている。
「なんだ、お高くとまっちゃってよ。」
振り返ると、人相の悪い男達が二三人、傍に立っていた。
「な、デートしよーぜ。デート。さみしそーな顔してないでさ。」
何かをくちゃくちゃと噛みながら、爆発したような緑色の頭の男が言う。
「僕は女じゃない。他をあたれ。」
溜め息をついて再度窓の外に眼を移す。全く意に関しないその様子を見て、男達が険悪な雰囲気を漂わせる。
「つれねぇなぁ・・・せっかくやさしく言ってやってるってのによぉ。」
じりじりと近付いてくる。さすがのルーファウスも身の危険を感じ始めた。
「いい加減に・・・」
スーツの下から護身用の銃を出そうとしたところを、素早く後に回った男の一人から羽交い締めにされた。
「何をする・・・!?」
「・・ちょっとくらいいいじゃん。」
「そーそー。」
「だから僕は女じゃないと言っているっ!」
「んなこたとっくにわかってるさぁ。な。」
にやにやと笑いながら近寄ってきた男を、ルーファウスは思いきり蹴飛ばした。痩せた小男は軽く車両の端まで飛ばされた。
「ってめぇーっ!!やさしくしてやってればっ!!」
「くっそうっ、ここでやっちまえっ!!」
逆上した男達が掴み掛かる。
ルーファウスの上着に手がかかった。

「そこまででやめとくんだ、な・・と。」
ルーファウスの耳に、聞き馴染みのある声がした。
赤い髪に、全身黒い皮づくめの細身の男。体中に付けた銀色のアクセサリーが鈍く光る
。手には見慣れた改造電磁ロッドを持っていた。
「てめぇ、邪魔すると・・・・」
「レ・・ノ?」
ルーファウスの呟きを、男達が聞いたらしい。途端にざわめきがおこった。 「レノ?レノってあのレノさんか?」
「げっ・・・」
「でも確かタークスに入って上にいったとか・・・」
「なにごちゃごちゃいってるんだ、とっととその人を離してやるんだな、と。」
ブーツが重い音を呈しながら、レノがルーファウスに近寄る。慌てた男が、ルーファウスの体を開放した。それをしなやかな腕で絡め取り、自分の胸に抱き寄せる。
その様子を見た男達があとじさる。
「あ・・あの・・・じゃ、こいつ・・じゃなくてこの人はまさか・・」
「そ、俺のカノジョなんだな、と。」
「レノっ!!」
いつどこでそんなものになったんだと言いたかったが、手袋をはめた手で口を押えられた。皮の匂いが鼻孔に流れ、思わず息を詰めた。
「し・・失礼しましたっ!!」
「おしあわせにっ!!」
訳の解からない言葉を残しながら情けない暴漢達は隣の車両に去っていってしまった。同じ車両に乗っていた人々も、騒ぎの前後に皆どこかに逃げてしまっていた。たった二人になった車内で、ルーファウスはようやくレノの腕をふりほどいた。
「いつまで抱いているっ!?」
「あ・・危なかったんだな、と・・・」
レノが苦笑する。この世間知らずのプリンスは、自分がどんな状況にいたかを把握してはいないらしい。
「まったくおぼっちゃんてなぁ・・・・」
「うるさいっ!そーいえば、僕がいつ君の彼女になったんだっ!?」
「まぁまぁまぁ・・・・」
怒りまくるルーファウスと、軽くかわすレノをそっと覗き見ながら、暴漢達はぼそぼそと話あっていた。
「ふぅ・・・まさかあのレノさんの彼女だったなんてなぁ・・・」
「ちっ、惜しいことしたぜ。」
「しかし・・・いくら美人でもあんな気の強いのはやだな・・」
「賛成・・・」
「くわばらくわばら・・・」
「おい、何見てんだ、とっととずらかるぜ。命あっての物だねだ・・・」
「へいへい・・・・」


「ところで・・・なんだ、その格好は・・?」
ひととおり怒り散らして気が済んだのか、ルーファウスはぽすりとシートに腰掛けた。前にレノが立つ。
「今日は非番なんだぞ、と・・・」
「ふうん・・ところで、これはどこに向かっているんだ?」
「って・・あんた、知らなかったのか・・?」
「・・・・・」
適当に乗ってしまったルーファウスには答えはだせない。無言が一番雄弁にその事態を説明していた。
「だから・・・どこに向かっているんだと聞いている・・」
「はぁ・・・・・これ、スラムと上とを繋いでるんだな・と・・・」
「?この下はスラムなのか?」
きょとんと首を傾げるルーファウスは、スラムがどういうところなのかさえ知らなかった。


今日、珍しく非番だったレノは、別に何をするでもなく街にでるつもりだった。
ルードを誘ってどこかに行くもよし、馴染みのライブスタジオに顔を出すもよし、どうしようかと取り敢えず駅に来たところに、ルーファウスの姿を見つけた。
只でさえ目立つその容姿を人込みから捜し出すのは簡単だった。が、いつも傍に付いているはずの護衛の姿がない。しかもふらふらと、妙にたよりない足取りで、スラムへの列車の止まるホームに下りてゆく。
公私混同するのは気が進まないレノだったが、その特異な様子に慌てて後を追った。


(そしたら案の定これなんだなぁ、と・・・・)
つくづくツォンの苦労が解かるような気がした。
「あのな、あのまま俺が来なかったらあんた、どーなってたか解かるかな、と?」
「?」
「多分、あのままヤられて、そのままら致されて、薬づけにされてどっかのエロい金持ちにでも売り飛ばされてたんだな、と・・・」
「ふぅん?」
これだけストレートに説明されても実感が沸かないらしい。レノは肩をすくめた。
「まぁ・・・そりゃいいとして・・・今日は護衛のツォンさんはいないんだな・・・まさか喧嘩したのかな、と?」
途端にルーファウスの機嫌が悪くなった。俯いて、唇を尖らせた。
「・・・・・・・あんな奴、嫌いだ・・・」
「んん?・・・さては図星かな・・・と・・」
いい年をした大人同士で喧嘩して、その挙げ句飛び出してくるとはなかなかの傑作である。笑い転げるレノを、ルーファウスは仏頂面で睨んだ。
「・・なんで笑う・・・」
「いやいや、本気で痴話喧嘩してるんが可笑しくて・・ひゃひゃひゃ・・」
「・・・もういい。君なんかに話した僕が悪かった。さよなら。」
立ち上がったルーファウスの腕を、レノが掴む。
「ひやひゃひや・・・も、もう笑わないからちょっと俺とデートしてくんないかな、と・・・・どーせ社長、帰り方も知らないんだろ?」
「・・・・・わかった。」
渋々頷いたルーファウスを、レノは路線図の前に引っ張っていった。
「んじゃ、これ、みて欲しいんだな、と。」
「なんだ、これは?」
「列車路線図。この列車は神羅ビル、つまり零番外の下の支柱にこーやって蛇みたいに巻き付いてプレートとスラムを繋いでるんだな、と。」
「ふーん・・・・」
緑色に光る電光掲示板を興味深そうに見上げているルーファウスの後ろに、レノがはりついた。骨張った指で、螺旋の中ほどを指す。
「んで、俺達がいるのがここらへん・・・もすこしいくと、ID探査があるんだな、と・・・」
「・・・ID?」
首をねじってレノを見上げた拍子に、車内が暗くなった。赤色灯がつき、女性の声でアナウンスが流れる。
「当列車はただいまID感知エリアに入っております。ご乗客の皆様にはしばらくご迷惑をおかけいたしますが、どうぞご協力をお願いいたします。」
そのアナウンスが流れ終わるより早く、ルーファウスは自分の体に異変を感じた。
「何・・あっ・・?」
何かが自分の体をまさぐっている。身をよじってそれから逃れようとしたが、動きはあっさりと封じられてしまった。
眼は突然の闇に慣れてはいない。薄く赤い光の中で、後からレノの声が聞こえた。
「おとなしく・・してるんだ、な、と・・・・」
「レ・・ノ・・・?一体・・なんの、つもり・・・・で・・・っ!」
「声出してもいいんだぞ、と・・・この車両には他の客はいないんだな・・・」
「ふ・・ざけ・・・あぁぁっ!」
胸の突起を強く摘まれ、思わず身を守るように前屈みになったのを、細い腕に引き起こされる。
「かがんでちゃやりにくんだな、と・・・しかし相変わらず厚着だ・・と・・・」
レノの手が、それでも厚い隔たりをかきわけて肌をまさぐる。
その手をうっとおしそうに払いのけながらも、次第に息は乱れていく。
「・・・うるさ・・い・・他人に肌を見せるのは嫌い・・・だ・・」
これは、ルーファウスが周囲の人間の欲望から自分を守る為の唯一の策だったのかもしれない。しかし、人間は見えないものによりいっそう想像をかきたてられる節がある。それが逆効果に働くことがあるという事実には、彼はまだ気付いていないらしかった。
「ほう・・・まぁ、それでもこーんなにえっちな体なんだからなぁ、まったく・・・・・もっと薄着だったらツォンさん大変だ、と・・・」
レノは苦笑しながら、露になった、内から輝く白い肌に唇を這わせる。
「だれが・・・・えっち・・だ・・・」
すでに立っていられなくなったルーファウスは、天を仰ぐような姿勢でレノによりかかっている。その無防備さに、レノの手はより容赦なくルーファウスを責め立てた。
「あ・・・ぁ・・・」
赤い光の中で、妖艶な喘ぎが響いた。


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