瀬尾先生の第15弾

「あれ、イリーナじゃないか・・・と?」
仕事の帰り、行き付けの居酒屋でレノはイリーナの姿を見つけた。
「が・・・なんか様子が変だな、と?」
見れば、ちょっかいを出してくる男達を払いのけるように、一人でぐびぐびと水割りをあおっている。
かなり目付きが恐い。レノはそっと近付いた。
「イリーナ・・?」
「うるさいわねっ!一人にしてよっ!!まったく男なんてのはっ!!」
「イリーナ・・・・荒れてるな、と・・」
「・・ん?・・レノ先輩じゃないですか・・どうしたんです?いつものお相手は・・」
ルードの事を指しているらしい。レノは肩をすくめた。
「あいつは今出張中なんだな、と・・いいか、一緒に飲んでも?」
「どうぞ。でも、ちょうどむしゃくしゃしてたとこですから愚痴聞いてくださいね。」
言いながら、隣の席に置いてあったバッグを退ける。レノはするりと座った。カウンター越しに酒とつまみをオーダーして、イリーナの方を向く。
「で・・どうしたんだな、と?」
「・・ツォンさんの事です・・・」
頬杖をつきながら、イリーナは答えた。グラスの中の氷がからりと動く。
「あの人・・私のことなんか全然気付いていないんですよ、もう・・。いつもいーつもいーっつも社長社長って・・・」
そこまで喋って、くすんと一つ、溜め息を吐いた。
「そりゃね、確かに美人ですよ。でもね、恋敵が男だったなんて、立つ瀬ないじゃないですかっ。どーしろっていうんですかっ。私は、私は・・」
かなりアルコールが回っているらしい。頬から首までが薄い桃色に染まっている。
「そうか・・・イリーナも大変だな、と・・・」
無責任な返答だとは思ったが、それ以外に言う言葉が見当たらなかった。下手に希望を持たせるのはかえって辛い。人の心には、触れてはいけない一線がある。
「でもな・・飲みたくなるのも解かるけど、程々にしとけよ、体壊すぞ、と・・」
またオーダーを出そうとしたイリーナの手をレノがそっと止めた。レノの手と比べれば格段に小さい、白い、柔らかい手。爪には奇麗に薄い色のマニキュアを塗っている。そのさっぱりした性格のせいもあって普段は女だという事を意識させないイリーナだったが、その手だけが妙に生々しかった。イリーナは俯いて、首を振った。
「解かってます・・こんなんじゃなんの解決にもならないって・・・でも・・」
気丈なイリーナの眼に薄く涙が浮かんでいる。レノはそっと目を逸らした。その様子に気付いたイリーナは慌てて涙を拭き、笑顔を作った。
「あーあ、こんなのって私らしくないなぁ。ねぇ、レノ先輩、今夜空いてます?」
「あ・ああ・・」
「じゃ、私と今夜・・・いいでしょ?」
イリーナの笑顔がレノの眼前に迫った。

「ほんとに、俺なんかでいいのかな、と?」
結局、レノはイリーナに引き摺られるようにミッドガル内の高級ラブホテル街に来てしまった。けばけばしいネオンはあまりないが、それとわかる看板があちこちに立っている。
「で、どこにしますう?」
「どこって・・・・おいおい・・・」
唖然としているレノを後目に、イリーナはご機嫌でそれらを適当に指差して選んでいる。
本気で入るつもりらしい。
「あ、ここでいいかなぁ。」
その破滅的なほどの明るさに、レノは思わず頭を抱えた。

結局、手近なホテルに入ってしまい、ずるずると部屋まで来てしまった。ボルテージがマックス状態のイリーナは、早速レノのスーツの上着に手をかけている。アルコールでとろりと蕩けた眼が、レノを見上げる。が、その眼の中にはやはり、ためらいの色があった。
「イリーナ・・・・」
「はい?」
「やっぱり・・駄目だな、と・・・」
レノは首を振った。途端にイリーナの表情が陰る。
「私、そんなに魅力ないですか・・?」
イリーナは唇を噛み、意を決したようにシャツの胸のボタンを外した。丸みのある、凝脂でしっかりと裏打ちされた、肌理の細かい白い肌が垣間見える。それはレノに、どこかで読んだ、詩のような文章を思い出させた。
・・女性の歯や骨は、男性のそれよりもずっと小さくできています。しかし、しっかりと奇麗な曲線を描いているのです。・・
柔らかな丸みを帯びた胸がシャツから覗いている。レノはそっと、シャツのボタンを閉じ、再び首を振った。
「とても魅力的だけどな・・・・あんたは・・でも、あんたが見てるのは俺じゃないんだな・・と・・・。」
俯いたイリーナの肩が小刻みに震える。その小さな肩を、レノは優しく抱き締めた。
「だから、俺はあんたを抱けない・・・あんたを傷つけたくない・・・ごめんな・・」
「・・わかってます・・わかってるんです・・でも・・」
胸に埋めた顔から、微かに嗚咽が聞こえる。素直なブロンドの髪を撫でてやりながら、レノは、イリーナの悲しみが涙と共に流れてしまうのをじっと待っていた。

おしまい

あー・・・かきにげ・・(笑)
でも、レノいい奴ですから・・・ここで抱いたら男じゃないですよね。
あははははっ(笑)


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