瀬尾先生の第11弾

「よし、上出来だ。」
ポーズが決まった後、拍手をしながらルーファウスは言った。
とりあえずはばれなかったことにほっとして、クラウドは溜め息をついた。が、それが運悪くハイデッガーの眼に止まってしまったらしい。すぐに雷と拳が飛んできた。
「こらぁぁぁっ!!なんだ、その態度わぁぁぁっ!!」
軽く数メートルは吹き飛ばされた。受け身はとったが、咄嗟には起き上がれない。そこにまたハイデッガーが走り寄った。
「お前という奴はぁぁぁっ!!根性がたりんっ!!たるんどるっ!!!」
「・・やめておけ。」
胸倉をつかまれ、今にも殴られようとしたとき、静かな声が制止した。
「緊張してたんだろう。僕は別にかまわない。離してやれ。」
声の主はルーファウスだった。冷めた眼で、きっとハイデッガーをにらんでいる。
「そ・・そうですが・・・・しかし・・・」
「いいといったらいいんだ。僕の命令が聞けないのか。」
ハイデッガーは歯がみした。この場でルーファウスに逆らうことはできない。言葉と共に固いものを飲み下しながら、渋々頷いた。
「わ・・わかりました・・・・」
「いくぞ。君のせいで時間を浪費した。」
言い捨てて、さっさと船に乗り込む。ハイデッガーはクラウドを離し、慌てて後を追った。

「災難だったな。」
「ハイデッガーの奴、気がたってんだよなぁ。」
寄ってきた兵士達がそんな会話をしながらクラウドを取り囲む。
「大丈夫か?怪我は・・・」
「あぁ、なんとかな・・」
「ったく・・社長には頭が上がらないからって・・なぁ。」
やれやれといった風情で、頭を振る。
「さてと・・・ほっとくとまたどやされるぞ。とっとと船にのろうぜ。」
「そうだな。」
ぞろぞろと桟橋を渡って行く。クラウドもそれについてゆこうとしたが、タラップ前の一人の兵士に呼び止められた。
「あ、お前だろ、さっき殴られた奴。」
「そうだが・・・」
「さっきな、新社長が通ってく時に、後で私室にこいってお前に伝えてくれって。」
「どうしてだ?」
正体がばれたのだろうか。ルーファウスとは神羅ビルで一度対岻していて面識がある。ばれたらただではすまない。が、そんなことをしらない兵士は首を捻った。
「さぁ・・・・怒られるんじゃないか?社長、キレモンだからさ、人前では叱らないだろうし。」
「・・わかった・・・」
「あ、場所は特別階な。知ってるんだろうけど・・・ご愁傷様。」
「・・・・・・・・」
嫌な予感がクラウドを襲った。


「やぁ。やっときたか。」
予想に反して、ルーファウスはにこやかに迎えた。手には二つのワイングラスを持っている。
「あのハイデッガーの前でいかにもやれやれとやったのは君が初めてだ。いや、ハイデッガーの悔しがる顔は見物だった。」
くっくっくっと喉の奥で愉快そうに笑う。とりあえず、気が付いているわけではなさそうだ。気が気ではなかったが、ほっと胸をなでおろした。
「さて・・・そこで、君に一献付き合ってほしい。」
かちん、と澄んだ音をたてながら赤いワインをグラスに注いだ。甘い香りが立ち上る。
「うん、いい香りだ。どうぞ。」
自分の分に少し口をつけて、確認してからもう一つのグラスをクラウドによこした。
「乾杯。」
軽くグラス同士を振れさせてから、ルーファウスはじっとこちらを見ている。
まずいことになった・・・クラウドはヘルメットの中で舌打ちした。フルフェイスのヘルメットのままでは当然飲めない。しかし、取れば正体はばれてしまう、
「ん?ワインは嫌いかな?」
案の定聞かれた。クラウドは苦しい言い分けを考えた。
「その・・・まだ勤務中ですし・・・・」
「いいじゃないか。僕が勧めたんだから。それとも・・僕の酒では安心して飲めないのかな?反乱分子アバランチの傭兵、君?」
「・・・・・知ってたんだな。」
「そう。忘れようったって忘れられないさ。僕の友人を殺した奴・・・・」
そこまで言い捨ててから、ルーファウスは口にワインを含み、そのままクラウドに口づけした。体温で少し温かくなった液体がクラウドの口中に流し込まれる。突然の行為に、抵抗する暇もなく、素直に嚥下させられてしまった。
「・・・んんっ」
飲み込んでからも暫く舌を貪られた。一見小柄そうなルーファウスだが、こうやって立つとまだクラウドよりも背が高い。顎に手を添えられ、再度液体が流し込まれた。
それからようやく体を開放されたが、足元がふらついてうまく立てない。酒によったというのではない。愛撫に我を忘れたのでもない。体の中でなにか、おかしなことがおこっているらしかった。
「もう効いてきたみたいだね・・なるほど、超即効弛緩薬と言われるわけだ・・・・」
抵抗できないクラウドの体をソファに横たえる。その空ろな眼を覗き込みながら、ルーファウスは楽しそうに笑った。
「さっきのワインには宝条がくれた怪しげな薬の中から、役に立ちそうなものをありったけ入れてあってね。あいつ自身もたまには役に立つんだな、見直したよ。」
「な・・・・・んで・・・・・」
「言っただろ。僕の友人を殺した・・・」
ふと、陰りが見えた。
「友人・・・?」
「ダークネィション・・黒い民・・・君が倒した黒豹の名前だよ。」
確かに、神羅ビルで対岻した時、ルーファウスはお供に黒い豹を連れていた。バリア・マバリアを使うそいつは、最後までルーファウスを守り、クラウドをてこずらせた。
「ダーネィはね、僕の友人だったんだ。いつも一緒に遊んで、悲しい時は慰めてくれた・・・大切な友で、家族だった・・・・そんな友人を君は・・・」
ルーファウスの眼に残酷な光が宿る。クラウドの頭の脇に片腕を突き、もう片手で懐から細いナイフを取り出して、そっと獲物の首にあてがった。
「だから僕は君が憎い・・・僕が今これを引けば・・君は死ぬ・・・」
冷たいナイフそのものよりも冷ややかな言葉がクラウドを切り裂く。表情は穏やかだが、その眼には明確な殺意があった。
「それとも・・・ここにハイデッガーを呼んで君を犯させてからにでもしようかな・・それくらいで僕の気がすむとは思えないが・・・・」
「・・・・・」
絶望的な死を感じ、クラウドは固く目を閉じた。頭の中には、なぜかセフィロスの顔が浮かぶ。感情に欠けたセフィロス。無表情に敵を切り裂くその神々しい姿が、ふと翻った。
(・・・・?)
くるはずの衝撃が、ない。その代わりに、ルーファウスの重みが消え失せた。ゆっくりと目を開けると、ルーファウスはソファの側に、静かに立ち尽くしていた。
(泣いて・・いる?)
一瞬、そう見えた。この人も、心に大きな空洞を持っている。クラウドは直観的に理解した。
その姿は親に逸れた子供のようで、儚く、脆かった。
「・・・・・・・・」
ルーファウスは手にしたナイフを捨て、何も言わずに再びクラウドに覆い被さった。舌はクラウドの唇を探り、黒い手袋をはめた手は、衣類と体の間隙をぬってうごめく。次第に衣服は体から剥がされてゆく。
「ん・・・・・っ!!」
手が、白日の元に晒された最も敏感な部分に到達した。握り潰すような強引な愛撫が、しかし確実にクラウドをのぼりつめさせていく。クラウドの目に、薄く涙が浮かんだ。
「ん・・・ぁ・・・・・・あぁっ!」
開放された口から叫びが漏れる。それを聞きながら、感情に欠けた声でルーファウスは呟いた。
「こういうことを知らないからだと言うのでは・・なさそうだな・・・」
クラウド自身の蜜に濡れた指で、そのまま抱かえこむように後庭を探る。指は次第に増やされ、クラウドを悶えさせた。

そうして何度か絶頂を極めさせながら、ルーファウス自身は乱れることもなく、冷めた目で哀れな犠を見つめていた。
「もう・・いい・・・・・」
クラウドが意識を失いかけた頃、ルーファウスが離れた。すっかり汚れてしまった黒皮の手袋を剥ぐようにして脱ぎ、屑籠に放り込む。
朦朧としたクラウドがぼんやりと見ているとルーファウスはそのまま隣室に入っていき、熱い濡れタオルを持って戻ってきた。
横たわるクラウドの横に膝をつき、涙に濡れた顔から精液に汚れた下半身までを手早く拭っていった。その意外な行動の陰に、クラウドは彼の内面に隠された淋しさと優しさを感じた。
全てを拭ってしまうと、ルーファウスは再び立ち上がり、手近にあった膝掛け用の毛布をクラウドにかけ、ドアの方へ向かった。
「・・・しばらくすればしびれは取れるだろう・・・ここには誰も入ってこない・・休んだら、持ち場に戻れ。僕のことは・・忘れるんだ。」
それだけを言い残し、ルーファウスは出ていった。偽りの自分という仮面を付けて。


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