瀬尾先生の第8弾

のーちょくしりーず・恋の不等辺三角形

今日のマニキュアはセフィロスの眼の色とクラウドの髪の色のせるるでした。


「あれ・・・?・・僕・・・?」
 気が付いたのは闇の中だった。ふっと手の下にシーツの感触がある。暗いのは、自分が目を閉じているせいだと解かった。でも何故・・・?クラウドは、薄く眼を開けた。
「おぉ、起きたか?大丈夫か?」
 いきなり飛び込んできたのは、ザックスの顔だった。自分を見下ろす澄んだ蒼色の眼が、クラウドの髪をくしゃくしゃにしながら嬉しそうに笑っている。
「僕・・・?」
 額の上に濡れたタオルがのっているのに気が付いた。もう、温くなっている。それを外しながらクラウドは起き上がった。
「なんか飲むか?」
 言いながら、ザックスは窓際の保冷庫のほうへと歩いていった。ここはザックスとクラウドの私室だった。だが、そこに至るまでの記憶がない。
「いやー、しかしまぁ、お前があれっくらいでぶっ倒れるとは思わなかったなぁ。」
 豪快に笑いながら、ベッドに向かって缶ジュースを一本放り投げる。クラウドは慌てて受け取った。その心地良い冷たさをそっと頬にあてながら、何故ここにこうしているのかを思い出そうとした。
「んー、まだ気分悪いか?」
 自分でも一本飲みながら、ザックスが戻ってきた。大きくベッドの一端を傾げながら、腰をおろし、クラウドの額にごつごつとした手をあてた。
「んー?よくわかんねぇや。」
 真面目くさって肩をすくめるザックスに、クラウドは思わず声を上げて笑った。ザックスは苦笑いした。
「だってよぉ、俺は貧血なんてなったことないもんなぁ・・・やっぱ、造りが違うのか?人形みたいだもんなぁ・・・」
 不思議そうにクラウドの顔に触る。冷たく硬い感触が残る。
「僕が・・貧血?」
 記憶がまだ曖昧だ。そうといわれればそうかもしれないし、そうでもないかもしれない。なんだか夢の続きを見ているみたいだった。ザックスが呆れて大きな声を出す。
「お前、覚えてないのかぁ?ったく、そんなことだから・・・ほれ。」
 言いながら、自分のシャツの下をまくりあげる。胸のあたりに大きな、まだま新しい傷があった。
「ザックス・・大丈夫・・?」
「おいおい、大丈夫なのはおまえさんだろう。お前な、今日の任務でもそーやってぼーっと立ってて、モンスターどもに襲われたんだろうが。」
 そこまで言われてやっと思い出した。今日は朝からミスリルマインでモンスター退治をしていた。退治と言っても掃討するのは主にザックス達で、クラウドは後列で援護をしていればいいはずだった。しかし、まだ息のあった手負いの獣が、クラウドに襲い掛かった。
「・・・でも、なんで?」
 クラウドは腑に落ちない顔で聞いた。自分が襲われたはずなのに怪我をしているのはザックスだ。それに、なぜか自分はこうやって運ばれている。
「お前・・ほんっとに全然覚えてなんだな・・・まったく・・・・もぉいい。」
 ザックスは嘆いた。
「ねぇ、何があったの?」
「・・・クラウド、お前な、モンスターに襲われたんだよ。ここまではいいか?」
「うん。」
 こっくりとうなずいた。
「でもな、俺が気付いてお前をかばった。で、その時つけられたのが、ここの傷だ。」
「・・・・・・・」
「そんでもって、そこまでは別に良かったんだが、お前、俺の傷見て倒れたんだよ。まー、傷の割に血が出てたから、気持ち悪くなるってのもわかるけどよぉ。」
 思い出した。あの時、目の前に真赤な紗がかかって、意識が遠退いた。
「・・・・・・・・・・・ごめん・・・」
「いいってこと。すぐにケアルかけたから、心配すんな。これっくらいしょっちゅうやってっから、な。」
 恥ずかしそうに俯くクラウドの背中を、ザックスはぽんぽんと叩く。
「ねぇ・・まだ痛い?」
 クラウドは傷を覗きこんだ。筋肉で覆われた浅黒い、厚い胸に、朱色がかった太く赤い筋が走っている。
「まだちょっと、な。」
 指先でそっと触れてみる。固まっている。
「いいか、ケアルってのは体力も回復するし、ある程度の傷も塞がる。けど、完全に治るってわけじゃないんだぞ。だから、過信しないで、自分の体をつくっとけ。」
 クラウドはこくりと頷いた。が、自分がザックスのようにソルジャーになれる日はくるのだろうか。それは不確かすぎる希望だった。
「どうすればいいのかな・・・」
「そうだな、それにはまず、好き嫌いを無くすんだな。お前、今朝また人参残したろ。んなこっちゃおっきくなれねーぞぉ。」
「もーっ!!子供扱いしないでよっ!!」
 クラウドが頬を膨らませて抗議する。が、ザックスはけたけたと笑い飛ばした。
「んなこといったって、なぁ。おこちゃまだろ・・・ぶっ・いてっ!」
 枕が、缶ジュースが、次々と飛んできた。ザックスは慌てて胸を庇う。
「おいやめろっ!!落ち着けっクーラーウードーっ!?傷まだ痛いんだぞっ、ひらいちまったらどーすんだよっ!!」
「しらないっ。ザックスなんかどーにでもなっちゃえっ!!」
「くっそうっ!よぉーし、そっちがその気なら・・・」
 飛んでくる物をかわしながらクラウドの方へにじり寄り、そのままクラウドの両腕を掴んで、仰向けにベッドに押し倒した。すぐ近くにザックスの顔がくる。
「やだやだやだっ、なにするんだよっ!!」
「だーめーだー。ふっふっふっ、これで抵抗できないよなぁ・・・さて・・いたずらする子はどーしてやろうかなぁ・・・」
 猫のように丸い、切れ上がった眼が獲物を狙う。哀れな鼠は、それでもじたばたと暴れる。
「やめてよっ!!」
「おいこらっ、暴れるなってっ・・なんにもしないってっ!!」
「嘘だ嘘だ嘘だぁぁぁぁっ!!」

 ふいに、ドアが開いた。

「クラウド、貧血だそうだが?・・・・・・・・・!?」
 言葉は途中で消えた。
 クラウドとザックスは、ドアの所にセフィロスが仁王のように立っているのを見た。この状況は、もしかしなくてもものすごくやばいのではなかろうか。
「ザックス・・・・・・・」
 ゆらりと、冷たい闘気が漂う。
「お前という奴はぁぁぁぁぁーっ!!!」
「違う、違うんだぁぁぁぁーっ!!!」

 静かな部屋に、罵声と怒号がこだました・・・・・・・・


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