瀬尾先生の第7弾

のーちょくシリーズ・レノ・ルーって?

 レノ・ルーって、レノ・ルーファウスだと理解したのですけれど、もしかして、レノ・ルードだったら・・・・・(笑)ごめんなさい。でも、どっちもかかってます。
 副題は、リクエストの、「舌ピーの男(笑)」です。
 だから、ポルノは苦手なんですってばっ(泣)この状況で説得力ないけれど。でも、そういうとこ書いてる時に限って、恐いほど冷静なんです。理系人間なんですね。「はい、そこで足あげる。」「あ、これは前使ったから・・・」「えーっと・・その辺にあるのは・・三角筋で・・」と・・・(笑)
 なかなかできなくて、最長(五時間)です。そこで力尽きました。勿論カットして載せるので、お暇な方はメール下さい。


「・・・・・ふぅ、と・・・」
 仕事を終え、レノとルードは軽いつまみを前に、グラスを傾けていた。それはいつもの光景だが、プライベートに仕事をもちこまないはずのレノが、妙な溜め息を連発している。
「・・・レノ?」
 見兼ねたルードが心配そうに覗き込んだ。その顔に気付き、レノが苦笑する。
「・・何だ、その顔は。お前、すごく情けない顔をしてるぞ、っと。」
 けらけらと笑いながら、グラスに口をつける。が、目は完全に笑ってはいない。
「・・・・・レノ、心配事ある・・?俺に、相談、できない?」
 サングラスの下に、食い入るように真剣な目が見える。その真摯な姿は、レノのささくれた心に、いつも和やかな温かさを提供する。
「そうだな・・・しないよりましかな・・と・・」
 ふっと笑ってから、レノは例の独特の口調で軽く、しかし真面目に喋り始めた。
「新社長の・・ことだぞ、と・・・」
「新社長、・・・・ルーファウス様?」
「そうだ。今日、食糧課のおばちゃんからどうも様子が変だって聞いちゃったんだな・・と・・・・」

 食糧課というのは、神羅ビル内で作られる食事の、一切の栄養管理、調理、提供などをうけもつ部署である。当然、ビル内で出されるルーファウス用の食事も、そこで作られる。レノはその奇抜な容貌にもかかわらず、食糧課の、主に調理担当の「おばちゃん」と呼ばれる人々に妙な人気があった。
「あ、レノちゃん、ちょっといいかい?あんたタークスだったよねぇ?ルーファウス坊ちゃんのことなんだけどねぇ。」
 昼下がり、からんとした食堂で、珍しく一人で遅い昼食を取っていたレノに、おばちゃんの一人が声をかけた。
「・・・新社長がどうかしたのかな・・・っと?」
 白い調理服を着たおばちゃんは、レノの隣の椅子をひき、よっこいしょと腰を下ろした。
「ルーファウス坊ちゃん、ここしばらくきちんと食べてないみたいなんだよ・・・好きなもんばっかりにしても申し訳程度にしか口つけてないしねぇ・・・。外ではちゃんと食べてるのかい・・?」
 おばちゃんはためいき混じりに言った。子供の頃から偏食癖の強いルーファウスに悩まさせ泣かされ続けながら、それでも我が子を見るような思いで食事を作ってきた。結果、「可愛いルーファウス坊ちゃん」の変化にいち早く気付いたらしい。
「って・・・そーいうのの監視はツォンさんの仕事だったから、俺達はそこまで・・」
 そのツォンが死んで、早二週間になりつつある。その間、ルーファウスは別段休むこともなく、淡々と予定を片付けていたはずである。
(あれ・・何かおかしい、ぞ・・と?)
 レノは首を傾げた。何かが引っ掛かる。あれほどツォンツォンと慕っていたにしては、その死に際しての、冷静過ぎるルーファウスの様子。つじつまがあわないのではなかろうか。
(悲しくないわけ・・・はないよな・・・・)
 もう少しで何かが解けそうな気がしたが、それが何なのかはわからなかった。
「そうかねぇ・・やっぱりツォンさんじゃないとわからないんかねぇ・・・・ま、もう少し様子を見てみるかね。ごめんよ、食事中に。あ、おかわりどうだい?」
 考え込むレノに気付かず、おばちゃんが立ち上がった。にこにこしながら顔を覗き込む。
「あ、いや、なんだかお腹一杯だぞ、と・・・」
「おや珍しい。痩せの大食いのレノちゃんがおかわりしないなんて。それ以上痩せたら骸骨になっちまうよ。今でも赤い頭でひょろひょろで、マッチ棒みたいなのにさっ。」
 おばちゃんはわっはっはと豪快に笑った。そこに、レノが質問する。
「なぁおばちゃん、社長が食べなくなったのって、いつからかな、と?」
「そうだねぇ・・・・」
 腕を組んで暫く考えていたが、ようやく口を開いた。
「そうだ、ちょうど二週間くらい・・だね。」


「・・・ツォンさん死んでから、と、ぴったり・・・」
 ルードが呟いた。ものすごく早く、日が経ってしまったような気がする。が、その間のルーファウスには特別な変化はなかったはずだ。
「あぁ・・・イリーナはしばらく泣きっぱなしだったが・・・社長はそんなことなかったよな・・・と・・・・」
 水割りのグラスの中で、氷がからりと回る。酒場の喧騒が大きく聞こえる。
「あ、先輩たちじゃないですか。」
 ふいに若い女の声がした。二人が顔をそっちに向けると、イリーナが立っていた。
「今、仕事の帰りなんですが、席空いてないみたいですし。一緒していいですか?」
 けろりと明るい声でレノの隣を指差す。
「ああ・・・かまわないぞ、と。な、ルード?」
「あ・・・あぁ。」
 ルードが慌てて頷く。それを聞いて、イリーナは嬉々として空席に座り込んだ。
「じゃ、ご遠慮なく。あ、ウェイターさぁん、こっち。ビールと・・後、チーズのオムレツと、野菜のサンドイッチと、それから・・あ、鳥のハーブ焼きお願いねっ。」
 ものすごい勢いである。レノ達はあっけにとられて、思わず顔を見合わせた。すぐにビールが来て、イリーナはおいしそうに二口ほど飲んだ。
「あー、お腹すいたぁ。今日、ものすごく忙しかったんですよ。あ、これどうぞ。席代。」
 続いて来たオムレツとサンドイッチをぱくつき、鳥の皿をレノ達のほうにおしやる。その異様なまでの明るさに、レノは思わず聞いてみた。
「なぁ、イリーナ・・・・」
「はい?」
「ツォンさんが死んで二週間たつが・・もう悲しくないのかな、と・・・?」
 イリーナはかたり、とフォークを置き、一口、ゆっくりとビールを飲んだ。
「・・もう、吹っ切れましたから。」
 穏やかに微笑みながら、白い泡をみつめている。
「・・・ものすごく悲しかったんです。あの時。死のうかと思って・・でも・・・おもいっきり泣いたら・・泣いてても帰ってこないってわかって・・・・」
 そこで言葉を切り、顔を上げてレノとルードを見た。その顔は、やさしかった。
「それにね、死んだっていっても、死体見たわけじゃないんですから・・もしかしたらどこかで生きてるかも、っておもうし、そうじゃなくてもまた何度も生まれ変わって・・いつかどこかで会えると思うんです。だから・・・だから、精一杯生きることにしたんです。」
 それだけ一気にいって、またサンドイッチをぱくついた。
「おいしいですよ、これ?」
 その元気さに、ルードはあきれかえり、レノは苦笑した。
「まったく・・・元気な奴だ、と・・・・」
「あ、ひどい。こうでもなきゃやってられないんですよねぇ。今だから言うけれど、自分の愛した人に、自分よりもっと大切な人がいて、それがおまけに男だった恋なんて。」
 それを聞き、げほっとルードがむせた。酒が気管に入ったのか、真赤になってせきこむ。
「ルード?!」
 レノが慌ててルードの傍にいく。
「ルード先輩、大丈夫です?はい、お水。」
 イリーナの差し出した水を一気に飲み、ルードはようやく落ち着いた。ぼそっと、言う。
「・・イリーナ、知ってた?ツォンさんと・・」
「ルーファウス新社長、のことでしょ?あれだけルーファウス様ルーファウス様じゃ、嫌でもわかりますっ。」
 イリーナは軽く溜め息を吐いた。
「そりゃ、当初は恨みましたけれど・・社長我儘だし・・・ツォンさんけなげだし・・でもね・・私はそんなツォンさんの優しさとか、全部ひっくるめて好きになっちゃったんですよね・・・」
 女は強い。
 それがキーワードだった。レノの頭の中で、パズルが解けた。かたりと立ち上がる。
「レノ?」
「レノ先輩?」
「用事を思い出したんだ、すまないぞ、と・・」


 最上階の廊下を、レノは足早に歩いていた。
 足音はたたない。厚い絨毯が敷かれている。
 人は泣くことによってストレス、つまり心理的圧迫を軽減する。イリーナはそれを実証してみせた。では、泣くことを知らない、いや、ツォンがいなければ泣くことも笑うこともできないルーファウスはどうなるのか。
(二週間・・もっと早く気付いていれば・・・)
 思わず舌を噛む。
 イリーナは、「女」だ。生命を造り出す性は、限りなく強い。いかなる苦境もきちんと消化し、己に取り込む。たとえ、愛するものが死んだとて、自分の生む子供にその片鱗や面影を見ることもできる。その子がいつしか、未来を作ってくれる。
 それは、あくまでも都合のいい解釈でしかないかもしれない。しかし、己を維持し、心の安定を図るための、生物としての自己防衛本能なのかもしれない。
 レノは、社長室の前に来ていた。黒いドアが眼前を遮る。プレジデント神羅の葬儀で、ルーファウスがふと呟いた言葉をレノは聞いていた。
 「あの世なんてない・・・・魂なんてものも存在しない・・・生まれ変わるなんてこともない・・人は、死んだらおしまいなんだ・・・」

「社長・・いるか、と?」
 鍵はかかっていなかった。故意か、偶然か。室内は暗かった。ダウンライトの微かな明かりだけがぽう、と弱い陰を作っている。その陰に、ルーファウスの鈍い金色に輝く髪が見えた。動きはない。
(遅かった、か?)
 レノはそれに駆け寄った。独り掛けの大きなソファに、ぐったりとしたルーファウスの体があった。そっと触れてみると、温かかった。よく見れば浅い呼吸もしている。
「眠ってるのか・・・人騒がせだ・・・ぞ、と。」
 サイドテーブルを見れば、ブランデーの瓶が置いてある。飲みすぎ、というところだろうか。最悪の事態ではない。レノが一応胸をなで下ろした時、ルーファウスの眼がゆっくりと開いた。
「・・・ツォン?」
「?」
 ルーファウスの眼の、焦点が合っていない。腕がのび、レノの服の端を掴んだ。異様に赤く見える唇が、やっと聞き取れるくらいのささやきを発する。
「待っていた・・やっと・・きてくれた・・・ツォン・・僕を・・・置いて行かないで・・」
 どうやらレノをツォンの亡霊と思い込んでいるらしい。酒に強いルーファウスが泥酔するわけでもない。不審に思って再びテーブルを見ると、酒と共に、小さなカプセル剤のケースがあった。
 すがるルーファウスの手を取り敢えずそっと戻し、カプセルを取り上げてみた。一ダース一組のカプセルの、既に十一個までがなくなっている。最後の一つのカプセルを取り出し、手の上で開けてみた。
 青と白の、一般的な色のカプセルの中から出てきたのは、毒々しい緑色の粉末だった。夜目にもわかるその蛍光色は、スラムの、それも特に危険な地域でのみ流通するはずの、強力な合成ドラッグだった。アルコールと共に服用すれば、効果は倍増する。
「これは・・・・・」
 背筋に悪寒を覚えながら、改めてルーファウスを見た。ぼんやりとした目は確かに麻薬によるものらしい。これは、どんなセックスにも勝る、非常な幸福感を与えてくれる。ただし、許容量以上飲めば間違いなく死に至る。
「社長っ、これ、一体幾つ飲んだぞっ?!」
 必死の形相でルーファウスの肩を揺さ振る。ルーファウスはうっとおしそうにその手を払い退けると、一つ、と呟いた。
 レノは大きく息をついた。これくらいならとりあえずは大丈夫だ。これで死のうという気ではないようだ。
「社長・・」
 そっと覆い被さって、顔を叩く。虚ろな目が、改めてレノを見つめた。
「・・・レノ?!」
 気付いたルーファウスが悲痛な叫びを上げた。
「レノ・・・出ていけ・・・見るな・・・・」
 手を振り上げようとしたが、レノの細腕に簡単に制されてしまった。言葉だけはしっかりとしているが、まだ体の自由は利かないらしい。レノはテーブル上のカプセルを指した。
「社長、あれが何だか知ってるのか、と?」
 ルーファウスは顔を背けた。すかさずレノが引き戻す。レノの緑色の目に、きつい光が宿っている。
「社長っ・・答えない、と・・」
「・・宝条が・・・処方してくれた・・安定剤だと・・・」
 レノは舌打ちした。一体どこで手に入れたものか。だからあいつは好かない。
「社長・・あれは、ドラッグだぞ、と・・・俺は、あれで狂っちまった奴を何人も見たんだぞ・・と・・・」
「・・放っておいてくれ・・」
 搾り出すような声でルーファウスは答えた。
「目を閉じると・・ツォンの顔が浮かぶ・・どんなに疲れていても・・ツォンの顔が、声が、体温が僕を縛っている・・・」
 恋の呪縛。精神的なすべての不安定要素が、ツォンに依存する。ツォンの死を知らされた時、同時にルーファウスの心も死んでしまった。心がなくては泣くこともできない。泣くことができなければ感情の精算もできない。
「だからって、死ぬつもり、か・・・?」
 苦くレノは呟いた。
「死は何にもならない。死はおしまい、そう言っていたのは社長だぞ、と・・・・」
 言いながら、ルーファウスの首に片手をかける。
「このまま力を入れれば、社長は・・おしまいなんだ、と、言ってるんだぞ、と?!」
「いいよ。殺してくれ・・ツォンがいなくなった時点で・・・僕は死んでいる・・・」
 自嘲気味にルーファウスは笑った。そっと眼を閉じる。
 レノはぎっと唇を噛むと、そのままルーファウスのそれに、噛み付いた。
「!?」
 反射的に逃れようとするルーファウスを押え込み、荒々しく唇をむさぼる。それは唇から歯へ、歯から舌へと、どんどんと進んでゆく。レノの舌にはめられたピアスが、ころころと妙に冷たい感触を残す。それがルーファウスをより一層乱れさせた。
 このままではレノに、いいように弄ばれてしまう。他人に自分の弱みを見せてしまう。なんとしてもそれだけは嫌だった。それから開放されようと、暴れるルーファウスの体は、その針金のような細さからは想像もできないほどの力によって封じられている。その姿は肉食獣に蹂躙される、若い鹿を思い起こさせた。
「抵抗しても・・無駄だぞ、と・・・」
 レノはやっと唇を離し、荒く息を整えているルーファウスの耳元で囁いた。ぴくっと動いた体から、衣服を剥ぎにかかる。
「ただでは死なせてやらないぞ・・と・・・どうせ死ぬつもりなら・・かまわないぞ・・と・・・・」
「嫌だ・・やめろ・・・」
 薬のせいでまだ弱い抵抗を易々とおさえ、細く長くそして力強い、鳥の爪のような指が次々とボタンを外していく。
「眼を・・閉じてろ・・と・・・」
 露になった胸の突起に舌を這わせる。ピアスが微妙な刺激を与える。その経験したことのない感覚にルーファウスは悶えた。
「さて・・どうやって愛してほしいのかな、と?ツォンさんはどうやってあんたを抱いていたんだ・・と?」
 完全に衣服を剥ぎとりながら、自分もネクタイを抜き、上着を脱ぎながら、それでも手か口の何れかで愛撫を加えることを止めない。ルーファウスの息が既に荒い。感じまいとする頭とは別に、しばらくぶりの愛撫に体中に電流が走る。
「随分と感度のいい体だな・・と・・・・ツォンさんは・・そんなにあんたを可愛がった、のかな・・・と?」
 言いながら、ルーファウスの足を曲げ、その間に体を滑り込ませる。熱い舌が絡んで、執拗にルーファウスを翻弄する。
「れ・・・の・・・い・や・・・・・」
 目許がほんのりと赤い。時々、大腿筋がひくりと痙攣する。白い指が、レノのシャツの肩を、力なく握り締めた。
(なるほど・・・想像以上に・・だな・・と・・・)
 ルーファウスの妖艶な姿態を見て自身も興奮しながら、レノはどこか何かが冷めていた。こうやって自分自身の体を持て余し、時には武器にしながらこの人は生きてきたのだろう。その結果、泣くことすらできなくなった。
(ツォンさん・・・あんたは残酷だ・・・・)
 それに優しく手を差し伸べておきながら、死という決定的な事実によって突き放した。それは生まれたばかりの赤ん坊を、一度拾って捨ててしまうような行為だった。
 自分の膝の上へ抱き上げ、腰から下へ、背骨添いにそっと指を這わせると自分から腕を回し、しがみついてきた。指が谷間から窪みへと到達すると、きゅっと、より強く力がこめられた。
(慣らされた体の割には・・・・きつい・・かな・・と・・・)
 レノの眉が寄った。このままでは傷付けてしまうかもしれない。この様子では今までにも幾回か、酷いめにあっているみたいだ。レノは体をずらし、そっとルーファウスをソファにうつ伏せておいてから、サイドテーブルのグラスを取った。中に入っていたままのブランデーを口にすると、生のままの、きつい香りと刺激が口腔に広がる。
 一口をそのまま飲みくだし、もう一口を口に含んだままレノはルーファウスの元に戻った。秘奥に舌を差し入れ、少しずつ、堅い蕾をほぐすように潤してやると、ルーファウスの体がうごめいた。
「や・・・・・・・・いた・・・・い・・・」
 アルコールは表皮に付着すれば刺激性を伴う。それは柔らかな粘膜に対してはより強くなる。
「やめ・・て・・・も・・・う・・・」
 身を撚じるルーファウスを押えながら、それは続けられた。少量が、肌を伝って滑り落ちた。ブランデーがすっかりなくなり、ある程度は体内に入ってしまってから、レノは服を脱いだ。未だ残るドラッグの余韻と、微妙な感覚で、ルーファウスの意識は散逸していた。そっと抱き上げ、体を重ねる。
「あ・・・ん・・」
 甘い喘ぎが漏れた。苦痛はないようだ。温かな体内が、レノを締め付ける。軽い、鳥の啄むようなキスを交しながら、二つの陰はのぼりつめていった。


「あ・・」
 数刻の後、お互いに最後の精を解き放ち、そっと体を離した。レノが、からかうように言った。
「これで今晩はよく眠れるんじゃないかな、と?」
 ルーファウスは汗に濡れた髪をかきあげながら、まだ少し気怠げに笑った。正気になった瞳が心持ち潤んでいる。
「殺すんじゃ・・なかったのか?」
「うーん・・・十分死ぬのなんのと聞いたから、もういいぞ、と・・・」
「いいのか、ルードが嫉妬くぞ・・・・・」
 レノがはっとするのが傍目にもわかった。
「・・忘れてた・・が、あいつは俺にぞっこんだから、別にいいぞ、っと・・・っと・・」
 と口ではいいながらも、慌てて服を身に付け始める。ルーファウスが苦笑する。
「・・亭主関白だな・・・」
「社長んとこはかかあ殿下だぞ、ツォンさんいつも尻に敷かれて大変だ・・・・っと。ん?社長、なんで俺とルードの事・・・・」
 ふと首を傾げた。
「やっぱりな・・・」
 冗談で言って、反応をみていたらしい。今度はレノが苦笑した。
「・・食えないお人・・つくづくいい政治家になれるぞ、っと・・もう社長だっけ・・」
「そうだな・・」
 くだらない事を言いながら、浅黒く細い体に、手早く衣服を付けていく。
「えーっと、ネクタイはどこだっと?あ、こんなとこ・・・・」
 ソファの下に潜り込み、ひらひらと取り出してくる。その様子を肘を付いてじっと観察しながら、ルーファウスは言った。
「・・・また、度々会えるか?勿論、飲むだけだが。」
「んー・・・と、ルード誘ってもいいかな、と?あいつ、あんな奴だから結構心配してたぞ。と。」
「お熱いことで・・まぁ、いいだろう・・だったらイリーナも誘ってくれ。」
「ん?今度の狙いはイリーナかな、っと?」
「いや、皆でツォンの悪口でも言って盛り上がろうかと思ってな。イリーナあたりなら星の数ほどの恨みを持っていそうだ。」
 確かに、である。二人は声をあげて笑った。ルーファウスにとっては、数日ぶりの笑いだった。
「そんなことしてると、ツォンさん化けてでてくるぞ、っと。」
 レノが茶化す。
「だったら好都合だ。」
「どこかの誰かさん、非科学的なものは信じないんじゃなかったかな、っと?」
「実際出てくれば別だ。まぁ、できれば実体付きのほうがいいが・・・・」
「なるほど幽霊も大変だ・・じゃ、俺、そろそろいくぞ・・と。」
 きちんと身仕度したレノが、立ち上がった。ルーファウスは軽く手をふった。
「あぁ。心配かけて悪かったな。」
 レノがドアに向かい、その姿が消えると、ルーファウスはテーブル上のグラスに少量の酒を注いで、ふっと息をついた。
「僕は・・まだ一人じゃなかったみたいだ・・だから・・安心してくれ・・ツォン・・・」


「ルード・・・・」
 社長室を出たところで、ルードが待っていた。両腕を広げて、レノを迎える。
「・・・・俺・・・社長・・・抱いちまったんだ・・ぞ、と・・・」
 ぽつりとレノが呟く。ルードはおそらく、レノが誰とどこで寝ようと微笑んで許してくれるだろう。だが、だからといって黙っていることは裏切りだとレノは思う。
「・・・うん・・」
 頷きながら、ルードはそっとレノの額にキスをした。それから、ぎゅっと抱き締める。
「・・・社長心配・・・だから・・・」
 言葉は少ないが、何も言わなくてもわかってくれる。くすりと笑ってから、レノは細い腕をルードの首に回した。
「そんなこといってると・・・浮気するぞ、と?」
「・・・・・レノがしたいならかまわない・・・」
「・・あんたのそんなとこが大好きなんだ、ぞ、と・・」
 呟かれた言葉に、ルードの顔が真赤になる。レノが笑う。
「・・・・タコみたいだぞ、と。さてと・・帰って飲み直すぞ、と。」
 言われて、大きな手でぱたぱたと顔を触るルードをほうっておいて、レノは晴れ晴れと笑いながらエレベーターに向かった。


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