瀬尾先生の第1弾

トラックの薄汚れた、重いビニールの幕の隙間からちらりと覗いた外は、真っ黒に曇っていた。
「・・・うぎゃぁ、こりゃふってくるかなぁ・・・」
 ふいに頭上を楽天的な声が駆け抜けた。クラウドがぎょっとして後ろを振り返るすぐ後ろにザックスがたっていた。
  (ここらへんにザックスについてのなんか書いてください。せるるはザックス についてはあーんまし妄想がひらかないので)

 「あーあ、せっかくのまともそーな仕事だってのによー。俺ってここぞってとこで運が悪いんだよなぁ・・」
 そう言いながらクラウドの頭越しに空を覗き込む。深刻そうな顔をしようとしながらも、声は笑いを含んでいる。とことん、真剣に物事を考えない質らしい。
 あんたはいいさ・・・運が悪くてもなんでも、取り敢えずソルジャーになれたんだから・・クラウドの心の中でささやく声が聞こえる。
 数年前、ソルジャーになると大見栄を切って故郷を出てきた手前、なれませんでしたでは格好悪くて帰れやしない。昇級試験ではいつもいいところまではいくのだが、なぜか途中で不合格になる。そんなぶつけようのない不満が、自分への憎悪とザックスへの妬みに変化していることにつながっていることに、クラウドはまだ気付いていなかった。
 (いったい、なにが悪いんだろう・・・)
 クラウドはそっと溜め息を吐いた。
 「悪いのは、お前の頭だろう。」
 きんと、冷たい風が吹いてきた。突如、そう思った。ザックスと共に声の流れてきたほうを向くと、セフィロスが立っていた。
 (英雄、セフィロス?!)
 他人と見間違えるはずもない。腰までとどく白銀色の髪。冷笑にも見える表情をたたえた、整いすぎるほどの美貌。なのに、その繊細な容姿に似合わない、「マサムネ」という長刀を軽がると扱ってしまう。それは世界中の少年の憧れだった。
 「セフィロスが・・なんで・・」
 しかし、こんなに間近にセフィロスを見るとは思っていなかった。クラウドは思わずつぶやいた。
 「なんでって・・お前、俺とセフィロスが組んでたって知らなかったか??俺がいるってことは、もれなくセフィロスがついてくるんだよ。」
 自分の冗談にうけて、ザックスがげらげらと笑っている。
 たしかにソルジャーは通常2−3人の小単位でコンビを組んでいる。しかし、英雄セフィロスの相方はなぜかほとんど決まっていないはずだった。
 「ところでさ、セフィロス、おまえさっき俺のこと「頭が悪い」っていわなかったか?」
 「言ったが。」
 しれっと言いながら、手近にある武器入れの長箱に優雅に腰を下ろす。
 「ひっでぇー。どーせ俺はお前みたいにいらん知識だらけじゃないですよっ。」
 子供のように突っ掛かるザックスと、軽く受け流すセフィロス。案外、悪い仲というのでもなさそうだ。単純すぎるくらいのザックスはセフィロスにとっては珍獣を見るような気分で楽しいものなのかも知れない。


 (いきなり濡れ場(笑))

 ただでさえ酔いやすいのに、行き先が故郷のニブルヘイムだと聞いて、クラウドは吐きそうになった。今更どの顔を下げて帰れと言うのか。気分は最悪だった。
 「おい、おまえ。」
 セフィロスが何か言った。クラウドは、咄嗟に自分のことだとは思わなかったが、真っ青な顔をあげた。
 「クラウド・・だったか。気分が悪いなら、ちょっとこい。」
 「??」
 本人も周囲もわけがわからなかったが、とりあえずセフィロスの前にたった。
 「座れ。」
 セフィロスは自分の座っていた位置をずらし、隣を指差した。クラウドが訳も分からずただ気分が悪いために崩れるように座ると、セフィロスの手が肩にかかり、いきなりひきたおされた。
 「横になっていたほうが楽だろう。そのまま着くまで寝ていろ。」
 セフィロスの膝枕・・。そんなことを考える暇もなく、冷たいセフィロスの手の感触を額に感じながら、クラウドは眠りに落ちた。



〜続き〜
(ここの前に「クラウド君・実家での心の葛藤」編をいれるつもりですが取り敢えず皆様の一番の興味のありそうなところから・・・笑。)


 一通り町を回り、重い足取りで帰ってきたクラウドが宿屋のぎしぎしと鳴く階段を上がると、セフィロスが一人で窓の外を眺めていた。
 「セフィロス・・さん・・?」
 「・・・クラウドか・・」
 セフィロスはちらりとこちらを見、また窓の外に眼を写した。
 「・・・私は・・この景色を知っているような気がする・・・」
 つられてクラウドもセフィロスの見ている景色を見てみたが、天を衝くように並び立つニブルの山脈が、今の自分の心を代弁しているような気がして、すぐに目を逸らしてしまった。
 「・・・・・」
 セフィロスはどんな気持ちであの景色を見ているのだろう。そんなことを考えながらクラウドはベッドの置いてある部屋へ入った。
 「ベッドが・・一つ足りない・・・」
 なんてことだ。一人は見張りに立てということだろうか。クラウドは大きい溜め息を吐いた。トラック移動の疲れが溜まって(もっとも、半分は寝ていたが。)節々が痛い。覚悟はしていたが、ゆっくりと眠れないと言うのはつらいものだ。
 「何が、足りないと言うのだ。」
 張りのある、低い声が背後で聞こえた。
 「あ・・・」
 溜め息と共に、独言も漏れていたらしい。すぐ後ろにセフィロスが立っていた。
 「なるほど・・・・連絡がうまくいってなかったのだな・・・と、なれば、誰か二人が一緒に・・・」
 「あ、俺、じゃなくて僕たち、見張りに立ちますから・・」
 慌てて進言したクラウドに、セフィロスは首を振った。
 「いや、明日にそなえて休んだほうがよかろう。足手まといは御免だからな。・・・が、さて、どうしたものか・・・」
 腕を組んで部屋を眺めるセフィロス。入りゆく陽を反射して、透き通った蒼い瞳に銀色の輝きが宿る。
 肩越しに見上げれば、今迄は遠くで、それもチラリとしか見ることのでき無かったセフィロスが、触れてしまえそうな位近くにいる。
 (奇麗な眼だな・・・・でも・・・・)

 「おい、クラウド、お前、寝相は良いか。」
 「はいっ?」
 不思議な問いが、突然、クラウドを現実に引き戻した。
 「質問に答えろ。寝相はいいほうか。」
 「は・・はい、まぁ・・・」
 クラウドは首を傾げた。
 「そうか・・・・ならば、今夜は私と一緒に寝ろ。」
 「はいっ?!、えっ、でも・・・・あの・・・その・・・・・」
 「一緒に寝る」とはどういうことか。クラウドの顔が一瞬に朱に染まった。昼間のトラックの中での失態が思い出されて、顔から火が出そうになり、そっと俯いた。
 しかしセフィロスはそんなクラウドにかまわず、どたどたと賑やかな音をさせながら上がってきたザックスを振り返って、冷ややかに言った。
 「・・・あいつの寝相の悪さといびきは他に類を見ないからな・・・」
 「だぁれの寝相がなんだってぇっ?」
 異様に明るい声が室内に響き渡った。

 「ふうん?セフィロスとクラウドが一緒に寝るってのかー?いいけどね、俺は。自分で言うのも何だけど、どーせ俺の隣なんかじゃ熟睡できねーしぃ。」
 ザックスが豪胆に笑う。その横で、もう一人の兵士も頭をかきながら相槌を打つ
。 「実はその、僕もあんまり寝相のいいほうじゃなくて・・・・すみません、セフィロスさん。悪いな、クラウド。」
 と、口では言いながら、顔はなんだか嬉しそうだ。確かにセフィロスと共に寝るよりは一人で寝たほうがどんなにか気楽かも知れない。こんなことなら見張りのほうがまだましかも・・と、クラウドは肩を落とした。
 
 「よかったなぁ、クラウド。セフィロスならけっ飛ばされる心配もないぜ。セフィロス、寝た時とそのまんまの姿勢で朝起きてきやがんの。あれ、すっげえ不思議でさぁ。」
 けらけらと笑っているザックス。憮然とした面持ちのセフィロスが応酬する。
 「お前の寝相が悪すぎる。同じテントで寝るのはもうこりごりだ。お前は一体眠っているのか、それとも運動をしているのか。」
 「ひっでぇーっ。相棒にそこまで言う??冷たいわ、セフィロスさんったらっ。」
 ザックスがたくましい腕を胸の前で交差させてしなをつくる。怒っているのか怒っていないのか。いつでもこの調子で、どんなに緊迫していも結局その場を和ませてしまうのは彼独特の持味なのかもしれない。
 「あの・・やっぱり俺、実家に帰って寝てきます・・・」
 ぼそりとクラウドは言った。
 「んー、それもいいかもな。親御さん、嬉しがるぞ。」
 ザックスが微笑んだ。案外親孝行な息子なのかも知れない。が、そんなザックスを、セフィロスが制止した。
 「それはやめたほうがいい。明日の朝は早い。遅れればおいてゆくぞ。」
 「・・・はい。」
 セフィロスの言葉は命令に近い。これで最後の希望はなくなり、クラウドはうなだれた。
 「おいおい、それくらいいいじゃないのか?せっかくの故郷なんだしさぁ・・」  ザックスがとりもとうとしてくれたが、セフィロスは冷たくつっぱねた。
 「駄目だ。任務で来ている以上、それが最優先だ。大体、朝無理矢理ベッドから引き出すのはお前だけで十分だ。」
 「なんだよぉ、それじゃ俺が悪いみたいじゃん。あーん、セフィロスさんのいぢわるぅっ。」
 おどけてポーズをとるザックス。案の定、その場の空気が一気に和んでしまった。  「やめんか。気持ちが悪い。」
 「ひっどぉい。ざっくすちゃんブロークンハァトォ。」
 「・・馬鹿なことをしている暇があったらとっとと寝て明日に備えろ。」
 笑い転げるザックスを無視してセフィロスはさっさと服を脱ぎ始めた。皮製のホルダーやベルトなども次々と外して椅子の上にばさりとほうり投げる。がちゃり、という鈍い音が外の闇に重く響く。
 ついに上半身裸になり、ベッドに腰を下ろしてブーツを脱ぎ始めた。足を固定していたバックルを一つずつ外し、ごとりという音を立てて靴を置く。着痩せする質なのだろう、見事に付いた、しかし無駄のない筋肉が、骨格を美しく覆っているのがわかる。
 それを、同じく服を脱いでいたザックスが見て、不思議そうな顔をした。
 「おい、セフィロス、お前、いっつも靴履いたまま寝てたよな。「いつ敵が来るかわからん」って。」
 「それは野戦の時の話だ。流石に町の中までは奴等も入ってこない。必要がなければ私でも靴くらい脱ぐ。」
 「ふーん・・・俺はまたクラウドに気ぃでもつかってんじゃないかと思った。とにかくおやすみっ。」
 肩をすくめ、さっさと自分のベッドに潜ってしまった。もう一人の兵士もとっくにベッドに入り、すでに寝息をたてはじめている。
 ザックスのその言葉に赤面しながら、クラウドはまだ一人、もじもじと立っていた。  「どうした。クラウド。」
 セフィロスに促され、覚悟を決めて装備と上着と靴を外し、隣に滑り込んだ。が、いくらクラウドが細身とは言え、所詮シングルベッドは男二人には狭すぎる。自分はタンクトップを着ているからまだ良いものの、すぐ側にセフィロスの厚い、なめらかな胸がある。 思わず、そっとセフィロスから一番遠い場所へと体を動かしかけた時、大きな手がクラウドの背に回った。
 (!!!っ・・)
 そのまま引き寄せられ、セフィロスにぴったりとくっついてしまった。
 「・・あまり端にいくと・・落ちるぞ。」
 低く、こころなしか甘い響きの声が耳をくすぐる。次いで、もう一方の腕がクラウドの首の下に滑り込んできた。少しずつずらしながら、寝心地のいいように調整してくれているらしい。クラウドは体の強ばりを徐々に緩めながら、自分をセフィロスにあずけていった。
 初めて触れたセフィロスの肌は、考えていたよりもひんやりとなめらかで、かすかに深い森に生える、古い松の木のような匂いがした。
 「体温・・低いんですね・・」
 セフィロスが今迄以上に身近に思え、そっと呟いてみた。
 「・・寒いか?」
 「・・・いいえ・・・冷たくて・・・気持ち良い・・・」
 「そうか・・・・」
 案外優しい答えが返ってきた。密やかな会話が繰り返される。
 「セフィロスは・・もっと・・冷たい人だと思ってた・・」
 「・・他人と付き合うのは疲れる。・・お前は別だが・・クラウド・・お前には、私と通じるものが感じられる・・・」
 「・・・・・・・・ザックスは?」
 「・・あいつはいい奴だ。珍しい。だが・・・他人なんだ・・・」
 「・・・・・・・」
 「お話はおしまいだ。お休み、クラウド・・・」
 眼を閉じたクラウドの額に、微かにキスの感触が残った。
 「おやすみなさい・・セフィ・・・・・ロ・・ス・・」
 セフィロスの腕に抱かれ、クラウドはこの時がいつ迄も続けばいいと思いながら甘い夢の中に落ち込んでいった。


(蛇足・そして次の朝ー(笑))
 「うわぁぁぁぁっ、セフィロスの奴、本当に起こさなかったなぁああっ。」
 ザックスがもう日の登りかけた、皆が出かけた部屋で慌てて身仕度をしながら、それでも腹が減ってはなんとやらと大量の朝御飯を胃に収納している時、集合場所にいたクラウドはマスクに隠された目蓋を、その上からそっと触ってみていた。それは今朝方、セフィロスに起こされた時に、彼の唇が優しく触れていた場所だった・・・

 てなところでどーでしょー(煩悩魔神だわだわ)

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