ええと、ツォンヴィンかな...

投稿者 ぱのらま 日時 1997 年 10 月 17 日 14:06:44:

まったく、勉強しろってかんじですよね。ほんと!
アメリカまで来てるっていうのにさ。
日本は良いですよ。男の肌は滑らかだし。
冬コミにあわせて帰国の予定を立てるという、まちがったぱのらまでした。
ちなみに、ツォン似の彼の彼は心ひそかにシドと呼んでいた、南部人でした。ほひー
ツォンシドかよ!(けっこういいかも)


報告書をもってプレジデントのところにいつも秘書の役目だった。ツォンは極力彼と顔を合わせたくなかった。だが、極秘の任務のときには余計な人手を解することは避けねばならない。好奇心の強い人間は意外に多いのだ。
そういった類いの気の重くなるような任務を果たし、報告のためにツォンはプレジデントのもとを訪れた。
「ごくろう。いつもながら鮮やかなものだ」
ツォンの報告をうけてプレジデントは満足げにうなづいた。
「そうだ。おまえに褒美をやろう」
口のはしだけを上げる酷薄な笑みをうかべ、プレジデントはツォンにオーク材のテーブルを指し示した。古びたカギと、ディスクがある。
「行き先はこのディスクに入っている。一回再生したら自動的に消去プログラムが働くからな。カギをもって行くがいい」
いぶかしげにカギを捻り回すツォンの耳元でプレジデントがささやいた。
「三日ほど特別休暇をやる。せいぜい羽を伸ばすがいい」
生あたたかい吐息にたえながらツォンは一刻も早く部屋を出ることを考えていた。

「またお仕事なの?昨日帰って来たばかりなのに」
ルーファウスは不満そうだったが、ツォンがさらに困ったような顔してしまったので、黙ってしまった。
「すぐに戻って来ますよ。お一人でも平気ですよね」
「・・・うん」
プレジデントのことだからただの休暇ではないことは明らかだった。ディスクの中身がニブルヘイムの神羅屋敷の見取り図だったことも気になる。以前の科学部門研究所であり、無断で人体実験が行われたといううわさのでどころでもある。地元の住民から夜中にすさまじい悲鳴が聞こえるなどというクレームもついていた。そのせいかここ何年かは全く使用していなかったはずである。
「えーと、ね」
ぼんやりと考えを巡らせていたツォンは、ルーファウスの声で現実に引き戻された。
「リーブのおじさんがね。チョコボの赤ちゃんをくれるっていうんだよ。金色なんだって。“うちとこのメジロシンザンの子やさかいよう走るはずや。強そうな名前つけたってや”っていうの。ツォンと一緒に考えようと思ったんだ」
リーブの独特の口調をなんとか再現しようと賢明なルーファウスの姿に思わずツォンは微笑を漏らしていた。
「おみやげには子チョコボの喜びそうなものをかってきましょうね」
「うん!」
だれからも愛されるルーファウスを実の両親だけが愛さないということも皮肉なものだった。

神羅屋敷の床には薄くほこりが積もっていた。とても数年来だれも足を踏み入れなかったとは思えない。ディスクには地下室の一室が指示されていた。奇妙ななまぐさい風の吹く螺旋階段を下り、扉の前に立つ。古風なカギは鍵穴にしっくりと収まった。
明かり取りの窓ひとつない小部屋だ。指先からとけてしまいそうな闇ばかり広がっている。廊下の明かりがわずかにさしこむが部屋の中の様子が分かるまでしばらくの時間が必要だった。
何もない部屋だと思った。だがすぐさま柩が横たわっていることに気づいた。これがプレジデントの見せたかったものだろうか。
蓋はやけに重かったがあけることはたやすかった。
中には黒髪の男が横たわっていた。死体にしては腐敗の様子もないし、第一手術着をきた死体というのも珍しい。
「わたしの眠りを妨げるものは誰だ」
深みのある柔らかな声が聞こえてきえたと思うと、死体がゆるやかに目を開けていた。
赤い瞳。血の色が透けているのではない。血の色よりも暗い赤。地に落ちる前の夕日の色だ。
人の子のもつ瞳ではない。
「わたしはツォン。タークスのメンバーだ」
「その年で?タークスも子供をやとうようなったのか」
彼は確かにツォンよりも多少年上のようだが、外見上はそうかわりがない。その整った顔に見覚えがあるような気がする。
「私はヴィンセント」
柩からぎこちなく身を起こした彼は、予期せぬ痛みに耐え兼ねる痛みに耐え兼ねたのか短い悲鳴を上げた。あわてて駆け寄るツォンに皮肉っぽいまなざしを向ける。
「別に気遣うことはない。さっさとおまえの目的を果たすがいい」
「目的?私はただプレジデントの指示に従ってきただけだ」
「なるほど・・・・おまえがプレジデントの現在のお気に入りというわけか」
ツォンはヴィンセントのあけすけな言葉にさっと頬を染めた。
「ヴィンセント、あなたは一体・・・」
「日は落ちたのか?」
突然の質問に戸惑いつつ、ツォンはうなづく。
「夜空が見たいのだが、良いだろうか」
「好きにすればいい」
「私は歩けないんだ。足の腱が切られている」
あまりにもさらりと言ったので、一瞬ツォンはききのがしそうになった。
「失礼」
片膝をつき、ヴィンセントの足首に触れる。腱は両足とも切り取られていた。乱雑に。切り取った者は傷痕すらかくそうとはしていない。子供が気まぐれに虫の羽をむしるような残酷さだった。
「ひどいことを・・・」
「そうか?今回はそれほどひどくはない」
「今回」
疑問を押さえきれないツォンの問いに、ヴィンセントは答えようとはしなかった。あきらめてツォンはヴィンセントを抱き上げ、ゆっくりと螺旋階段を上った。ツォンの首に回された両腕は白く、冷たかった。大きな窓のある温室の古ぼけたソファに彼を降ろす。
曇り空だった。
星も月もない。だが彼は安堵のため息をついた。ツォンはヴィンセントが口を開くのを待っている。風が吹き渡り、くすんだ窓ガラスを揺らした。
「私は、ジェノバ・プロジェクトの一部だ。不老不死の追求のためにモンスターとの融合がなされている。不死かどうかは分からないが、私の回復力が並外れているのは確かだ。だから宝条やプレジデントまでが私の体をいじりにくる」
「プレジデントが?」
「あいつはサディストだ。私で憂さを晴らしているのかもしれない。どんなことをしても私は死なない。いい玩具なんだろうな」
自嘲ぎみに顔を歪める。
「プレジデントの部下も時々来た。まあ、プレジデントに比べたらかわいいものだったが。」
ジェノバ・プロジェクトは神羅内でもトップシークレットに属することであり、その内容はツォンも知り得ない部分が多々あった。
「こんなものではまだ足りない。わたしはもっと罰を受けなくては」
足首の傷に指を走らせて、ヴィンセントはつぶやいた。
「ジェノバ・プロジェクトがあるかぎり、わたしの罪は消えることはない」
なぜヴィンセントがこれ程深い罪悪感をもっているのかツォンには分からなかった。どうすればヴィンセントの罪が許されるものかも分からない。それなのにツォンはなんとかしてヴィンセントの心の重荷を取り除いてやりたいと思った。
「もう何年もこんなことを?」
「さあ、何年だったか」
「もう十分じゃないか」
ヴィンセントは首を振るのみだった。
「あなたは十分にその罪を償った」
首を振る。つややかな髪が音もなく揺れる。
「ヴィンセント」
ヴィンセントはためらいもなくまっすぐにツォンを見つめた。ツォンは身をかがめ、彼の額にそっと唇を寄せた。彼の薄いまぶたにも。彼はひくりと身を震わせたが、抵抗もせずツォンを受け入れた。
前開きの手術着はたやすくはぎとることができた。薄赤い切開の跡や、乱雑な縫合の引きつれが全身の至る所に広がっている。ツォンは一つ一つの傷を丁寧に唇でたどった。
ほかのところより過敏になっているため吐息が触れるたびにヴィンセントはかすれた声をあげた。
見えないところにまで疵があるのか、ヴィンセントはささいな愛撫にも反応した。二人は時間をかけて静かに愛し合った。

「おまえと会うことももう二度とないだろう」
薄明かりの下で見るヴィンセントの体は痛々しいほどたよりない。
「プレジデントが部下にわたしを与えるのは、たった一度きりだ」
「そんなことはどうでもいい。わたしはタークスだ。来たいときに来る」
「タークス、ね」
そのときのヴィンセントの言葉の意味を知ったのは随分と後のことだった。


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