投稿者 いそら@おばか×2 日時 1997 年 10 月 14 日 03:09:47:
すみませんっ! 下の『めっきり不幸なツォン×ルー小説 第5回』、途中で切れちゃってます(泣)
送ってる最中にフリーズされてしまった……。はなから分けて送れば良かった〜〜!(泣)
というわけで、続き、です。
長い出張から、ツォンが帰ってきた。
副社長室に現れたツォンは帰社を報告すると、いつもと同じようにルーファウスに向かって微笑む。
いつもと同じように笑顔を返せないルーファウスは、俯いたまま退室を促す。
「どうした。用が済んだら、もう下がっていいぞ。」
「…はい。」
ツォンの声に、いぶかし気な響きがこもる。縋りつき、泣きたい衝動に駆られて、己が腕を握りしめる。
タークスの仕事が無い間は、ツォンは勤務中いつでもルーファウスの声の届く範囲に控えている。あれほどツォンの帰りを待ちわびていたというのに、今はツォンの気配に息苦しさを覚える。
いっそすべて、打ち明けてしまおうかとも思う。けれど言葉に換える前にそれはヒステリックな笑いにすり替わり、徒にツォンを困惑させるばかりだった。
夜毎、父親の目の前で部下に犯されていると、しかもその間中ずっと、君に抱かれることを思って感じてしまっていると、一体どうして告げられようか。
助けを求めるにはあまりに事態は複雑で、縋りつく先を持たないまま、身の内の激情ばかりが嵩を増してゆく。狂気が身体からあふれ出す前に、出口を見つけなくてはならない。しかしどこにも、見つからない。
その日呼び出されたプレジデントの私室には、父親以外誰の姿もなかった。
「今日は、誰も来ない。」
父の言葉に、詰めていた息を少し吐き出す。
「ご用が無いのでしたら、僕はこれで。」
「まぁ、掛けなさい。」
と、ソファーに促される。背後でカチャカチャとグラスの触れ合う音。すっと肩ごしに、琥珀色の液体が注がれたグラスが差し出された。受け取らずにいると、そのまま目の前のテーブルにことりと置かれる。
「別に何も、入ってはいない。ただのブランデーだよ。」
後ろに立ったままの父が、ルーファウスの柔らかい金髪をさらさらと撫でる。と、不意に乱暴に掴まれ、仰のかされた上から激しく口づけられた。
「んん…っ!」
火のような液体が舌の上に注ぎ込まれ、堪え切れず、むせた。飲み切れない幾筋かが喉を伝い、白いガウンに染みを作る。
今まで決して直接には手を触れてこなかった父の、突然の行為。驚愕に言葉を失う。後ろからソファーに押えつけるようにして覆い被さる父の手が、ガウンの胸元を割り、這い回る。
「なっ……やっ、いやだっっ!」
一度快楽を知ってしまった身体は、簡単に愛撫を受け入れてしまう。たとえその相手が、誰であっても。
「何を嫌がることがある?」
耳元で響く、父の声。
「あっ、あなたは、僕の、父親だっ!」
「そうだ。だから愛しているんだ。他の誰よりもね。」
(ちがう、ちがうっ! こんなのは愛じゃない! あんたが愛してるのは、僕じゃないっ!!)
炎のように逆巻くその思いを口にすることはできなかった。“ルーファウス”と呼ばれるひとりの人間としての存在価値まで打ち砕かれたら、もう自分は立ち上がることすらできないだろう。父が自分を愛していると言う以上、まだそこに縋る瀬があるのだからと、ルーファウスは歯を食いしばって父の愛撫を受け入れる。
わき上がる快楽を鈍らせるために、テーブルに置かれた酒をあおる。喉を灼く強い酒を飲み干し、まだ足りないとばかりに傍に置かれたボトルに手を伸ばし、直接口を付ける。間断ない愛撫と、多量のアルコールが身体に火をともす。早く、酔ってしまいたい。意識を飛ばしてしまうほどに。
もう何も知りたくはない、聞きたくはない。
父が何を思って自分を抱かせ、抱くのかも。何故ツォンに抱かれたくて、抱かれたくないのかも、もう、どうでもいい。
正気でいたくなかった。この身を狂気で埋め尽くせば、今は救われる気がした。
けれど、狂気が彼を支配するその前に、ルーファウスは聞いてしまったのだ。
貫き、果てるその瞬間に、父の唇が、母の名を呟くのを。
後は、どうなったのか、どうしていたのか、分からない。
優しい手が、祈るように身体中をさすっているのを感じて、意識を取り戻した。目を開けなくても、その手の持ち主が誰かはすぐに判る。胸郭を満たす、ツォンの匂い。
この有り様を見て、彼はどう思っているのだろう。
(欲情してくれればいいのに)と思っている自分に気付いて笑いの発作に襲われたが、身体の表にはなんの変化も表れなかった。意識ははっきりしているくせに、身体は泥のように重い。
ツォンの手が止まり、ふと頬に触れるのを感じた。触れられた部分に、血が集まってゆく。
ツォンが欲しいと思う気持ちは、もう、抑えようがなかった。心は砂塵に帰し、からっぽの躯に残された自我だけが、この空虚さを埋めてくれるたった一つのものを求めて蠢いている。
ツォンが、欲しい。
これが愛かは、わからない。
求める気持ちの命ずるままに、ツォンの身体に縋り付く。
「ルーファウス様!?」
ツォンに名を呼ばれるのが好きだった。ツォンの声で聞かされるそれだけが、自分の魂の名前だから。もっと呼んで、呼ばれて、からっぽの躯をツォンの存在でいっぱいにしたい。そうでなければ、キスを。最後に残った自我の欠片までもが、この口から抜け出してしまわぬように。
もぎ離された唇から、名残りの唾液が糸を引く。
恐る恐る目を開くと、目の前にツォンの黒い瞳があった。驚きに見開いた、少し哀し気な色を宿した瞳が。
「……そんな眼で、僕を見るな。」
取り返しのつかないことをしてしまったことに気付く。きっとツォンは、もう自分に微笑んではくれないだろう。
重い身体を引き摺って、ツォンの傍から身を遠ざける。彼の体温を感じるのが辛い。
「君は、僕を抱くためにここにいるんじゃないのか。」
当たり前だ。ツォンにはそんなこと、一生かかっても為し得ないだろう。
「そんなこと、するわけが無いでしょう。」
ルーファウスの思考をなぞるようなツォンの返答に笑い出す。笑いが引き金となって、膿んだ狂気が流れ出すのを止められない。
不意に、背中から抱きしめられた。ツォンの体温に、匂いに、身体中が反応する。
「何もしません。大丈夫ですから。」
優しい、ツォン。ルーファウスが全く逆のことを望んでいると知っても、彼の瞳は優しいままだろうか、その声は、優しくルーファウスの名を呼ぶだろうか。
向き直り、引き返せない思いを唇に乗せ、伝える。
ツォンの眼が、戸惑いに揺れている。やがて拒絶の色がそこに宿るのを見たくなくて、眼を伏せた。言葉にならないメッセージを伝え続ける手を、そっと、だが強く掴まれる。
「だめです。きっと、後悔します。」
もう既に、充分すぎるほど後悔している。だから、
「それでもいい!」
と、叫んだのだ。この思いすら拒絶されたら、今の自分は粉々に砕け散ってしまうだろう。
「いいえ、いけません。」
静かな、でも、揺るぎない拒絶。
最後の城壁が胸の中で崩れ去る音がした。
狂気が堰を切ってあふれ出す感覚に、身を抱えうずくまる。
「……出ていけ。」
この身からあふれ出た狂気は、この世で一番大切なこの男を、やがて傷付け、殺すだろう。そうなる前に、早くここから去って欲しい。そして、
「二度と僕に近寄るな!!!」
その後ろ姿までも、優しいツォン。自分は永遠にその優しさを、ツォンという存在そのものを失うのだ。
行くな、と叫びたい衝動をこらえ、唇を噛む。砂になってしまった心と共に涸れたと思っていた涙が、ぱたぱたと腕に落ちた。
ドアが静かに閉じられた。
ツォンの匂いが残る部屋の中で、ルーファウスは声もなく独り、心のかけらを零し続けていた。
……ふへぇ〜〜〜っ、ばったり(←死んでいる(^^;))
因みにMy設定ではルーファウスの誕生日は6月24日前後となっております。
それにしても、ちょっと、不幸すぎ……というか、感情過多ですねぇ。
ツォン視点とメリハリつけようと思って、やり過ぎました。反省っ。
でも書いてて楽しかったりして(←変態…(汗))
しかしここまで不幸だと、ここから一気に幸せモードってのは無理かも……。
一日も早くルーちゃんを幸せにしてっ、と皆様から言われているというのに
こんなんなっちゃってご免なさぁぁい(泣)
でもでも、こんなんだけど、いそらはハッピーエンド至上主義ですっ!
本当ですっ! 信じてくださぁぁい!!(←と、鉄格子の向こうから叫んでいるらしい)
だからどうか、見捨てないで〜〜(泣)