ハッピーバースデー、ヴィンセント(3)

投稿者 あぐり 日時 1997 年 10 月 13 日 23:53:25:

 今日は、ヴィンセント・ヴァレンタインの28回目(もしかしたら57回目かも知れぬが)の誕生日・・・である。本来ならヴィンセントには、愛する者たちに囲まれた、ささやかでも幸福なバースデーが用意されているはずであった。
 それは、おそらくヴィンセントが生まれて初めて迎える、「幸せなバースデー」であったはずだが・・・。
「・・・どういうことだ、シド。何でこんなことを!」
 電話口に向かって・・・ヴィンセントは、自分でもみっともないほどおろおろしていた。彼の人生では、ルクレツィアに振り飛ばされた時とこのときと、これだけうろたえたのはたった2度だけである。
「しょうがねえだろ、帰りたくたって帰れねえんだから!」
 シドは、受話器の向こうで怒っていた。
 きょう、ヴィンセントがくたくたに疲れて帰宅したら・・・待っていてくれているはずのシドがいなくて、かわりに、ヴィンセントの好きなシングルモルトと、置き手紙がダイニングキッチンにあった。
 いかにも技術者らしい、下手くそなりにキッチリしっかりしたシドの書体で、「誕生日おめでとう。いきなりで悪いが、当分ホテルで寝起きするから」と書いてあった。
 ヴィンセントは珍しくも逆上して、シドの携帯に電話を入れた・・・というなりゆきである。
「入り口、フォーカス野郎やらパパラッチの連中がぎっしりといて・・・こんな中で二人でイチャついててみやがれ、何書かれるかわかりゃしねえぞ!」
「だからって、ひとことの相談もなく・・・」
相談なしにテレビに出たの、お前のほうだろ!」
「何度言えばわかってくれるんだ、それは私が好きでやったことじゃない・・・」
 言いつつも、ヴィンセントは後ろめたかった。
 あれからたった数週間・・・ヴィンセントはミッドガル一の人気者、大スター、ヒーローになってしまっていた。
 テレビ出演、雑誌のインタビューを皮切りに、気がつくと「ミッドガル・エクスプレス・カード」のCMに出されているわ、床に手形を押さされているわ・・・。
 今夜もスタジオにカンヅメで、シャンプー&コンディショナーのCM撮影をやらされて、くたくたになって帰宅したところなのであった。
「・・・とにかく、騒ぎがおさまるまで、俺あ帰らねえからな」
「シド!私を・・・私を棄てるのか」
「す・・・棄てやしねえけど」
 お人好しのシドは、ヴィンセントのいつにない哀れっぽさに、やや動じたが・・・
「・・・もし、お前とデキてるなんてバレたら、俺あ一巻のおしまいだ」
「私は・・・あんたと破滅するなら・・・」
「俺だって・・・俺ひとりなら・・・」
 シドはやや弱々しい声になった。
「・・・愛してる、ヴィンセント。俺ひとりなら・・・な」
「だったら、ああシド、帰ってきてくれ」
「・・・ダメだ、やっぱり!イナカの親きょうだいが、こんなこと知ったら、俺あ何言われるか・・・」
「う・・・」
「・・・悪く思うなよ、ヴィンセント」
 電話はそれっきり切れてしまった。ヴィンセントは呆然とした。
 頭を振って落ち着くと、留守電がチカチカ点滅している。ヴィンセントがボタンを押すと、ユフィの可愛い声が流れてきた。
『はーいヴィンセント、ユフィちゃんですよ〜ん。誕生日、おめでと・・・ほんとはあんたのためにサ、ケーキ、焼いたんだけど・・・なんかカメラマンがいっぱいいるから入れないんだ。だから悪いけど、一人で食べちゃうよ。悪く思わないでね・・・じゃあね☆』
 ヴィンセントは、そばにほうりっぱなしにしてあった雑誌をつかんで、壁に叩きつけた。
 どうしてこういうことになってしまったのだろうか・・・ヴィンセントはため息をついた。
 窓の外を見おろすと・・・まだいる、カメラマン達。
 ヴィンセントは頭の中で、彼らの頭のひとつひとつに、デスペナルティの照準を合わせちゃったりなんかして・・・。
 ピンポーン☆
 その時、ドアホンが鳴った。ヴィンセントは飛び立つようにインターホンに駆け寄った。
「・・・シド?」
『あ〜、すいません』
 ・・・声は、ぜんぜんシドのそれと似てない・・・がらがら声の男であった。
「?」
『マツムラと申しますが、お誕生日、おめでとうございます〜』
 ・・・ヴィンセントは頭痛を押さえた・・・


「・・・てやんでえ、何がヒーローだい、何が・・・スターだい」
 シドは、荒れに荒れて、「かめ道楽」でオダを上げていた。
「・・・まあまあ、そんなに荒れないで。こんな騒ぎ、どうせ、一時だけですよ」
 隣りの席で、ここぞと酌をしているのは、かのジョン・バトルブリッジである。
 ああシド・・・一度手ひどく裏切られながら、まだ彼を信ずるのか。「あ」はもう知らん。
「俺、このまんまヤツに棄てられるんだ・・・どうせ。・・・だよな、ヤツはあんなに美人だしよ、俺はこんなオヤジだし・・・てやんでえ!」
 シドは目を据えてくだを巻く。
 ジョンはチャーンス!とばかりに、
「なに言ってるんです、艇長、いえ大佐!・・・僕は今まであなたほど熱いハートを持った、素晴らしい人を知りません」
「ジョン・・・信じて、いいのかよ?」
 シドはすでに酔いが回りに回って、クラクラであった。
「僕は、たとえどんなスターになったとしても、あなたを棄てたりはしません。・・・愛してます、艇長!」
 ジョンは居ずまいを正して、一世一代の告白をしたが・・・
「・・・うんうん、だよな〜、愛してる、とくらぁ・・・俺もアイシテルぜ、ジョンちゃんよう」
 シド・・・完璧に前後不覚、であった。
 ジョンは絶望で目の前がまっくらになったが・・・すぐ、気を取り直した。
 いや、これだけ酔ってくれた方が、却って好都合だな・・・と。




 ・・・やの字ギャル多しと言えども、これだけ不幸なバースデーを、愛するキャラクターに迎えさせたヤツ・・・珍しいでしょうね。
 くくく・・・ごめんねヴィンセント。この埋め合わせはきっとするカラ・・・
 ・・・というわけで、今回も、よんでくだすった貴女に感謝☆
 そしてヴィン(そしていつもチャットでご迷惑をおかけしてるかくやちゃん☆)誕生日、おのめでと☆


All copyrights are owned by its' authors/companies.